題名  公開日   人数(男:女)  時間  こんな話 テキスト   作者
モノクロジャンクヤード  2013/08/08  2(1:1) 15分 このセカイで、ぼくと少女はひとりぼっちだった   いー


登場人物 性別 その他
ぼく
不問 人工知能搭載の育児用補助ロボット。
精神面では人間と変わりなく成長する。
少女
 ♀ ジャンクヤードに捨てられた住人。
帰る場所もなく、ずっとひとりで暮らしている。
 

「モノクロジャンクヤード」


ぼく 「このセカイで、ぼくと少女はひとりぼっちだった」
   
  第1場 夜
   
  (雨が降っている。腐敗した臭い。錆の臭い)
   
ぼく 「右腕部関節一部損壊。左脚部一部損壊。電脳回路一部損壊。復旧活動エラー、エラー、
エラー、エラ・・・・・・エ・・・・・・ラ・・・・・・ラ・・・・・・。────そっか、ぼくの役目は終わったんだね。
あとはただ、終わりが来るのをじっと待つだけ、か」
   
  (ゆっくりと眠りにつく)
   
少女 「ねえ」
ぼく 「・・・・・・」
少女 「ねえってば」
ぼく 「・・・・・・ん・・・・・・だれ?」
少女 「あ・・・・・・その、気が付いた?」
ぼく 「・・・・・・だれなの?」
少女 「え、あの、わたしは──」
ぼく 「ぼくを処分しに来てくれたの?」
少女 「え? わたしは、そんなことしないよ?」
ぼく 「そう」
少女 「えっと、あなたは、その・・・・・・」
ぼく 「ぼくは育児用補助ロボット。製品コードはPT03・・・・・・いや、違った。ぼくは、ただのがらくた」
少女 「・・・・・・」
ぼく 「君はここでなにをしているの?」
少女 「わたしは、なにもしていないの。なにもすることがないの」
ぼく 「・・・・・・」
少女 「あなたは?」
ぼく 「ぼくは、なにもする必要がなくなった。これからぼくは、待つことにするんだ。終わりを迎える日まで」
少女 「壊れちゃうまでってこと?」
ぼく 「少し違う。ぼくは既に壊れているから」
少女 「わたしとお話ができるのに?」
ぼく 「ぼくの役目はもう終わったんだ。だから、機能が停止するまで、眠っていたの」
少女 「えっと、つまり、いまはなにもしなくていいんだよね? それじゃあ、一緒に遊ぼう?」
ぼく 「ぼくのパーツは断片的に破損している。だからぼくは君を満足させることができない」
少女 「そんなのわかんないよ! ねえ、遊ぼう!」
ぼく 「でも、ぼくは──」
少女 「ほら、立って!」
ぼく 「あ・・・・・・」
  (腕を引かれ、ロボット、その場に崩れ落ちる)
少女 「あ、ごめんね・・・・・・」
ぼく 「ぼくはこんな身体だから、君と遊ぶこともできないんだ。ごめんね」
少女 「・・・・・・それじゃあ、お話しよう! なんでもいいから! えっと、そうだなあ・・・・・・」
ぼく 「いいよ。ぼくは、このまま眠っていたいんだ」
少女 「・・・・・・そんなこと・・・・・・言わないでよ」
ぼく 「?」
少女 「わたし、ひとりなの」
ぼく 「それがどうかしたの?」
少女 「不安なの! さみしいの! ここには話し相手なんてひとりもいないの。もう、ずっと。だから・・・・・・」
ぼく 「どうして泣いているの?」
少女 「どうしてか、わからないの?」
ぼく 「ぼくにはそういった感情がインプットされていないから、よくわからないな。
言葉で説明されれば覚えることはできるよ」
少女 「そう、なんだ。なんだか、かわいそうだね」
ぼく 「かわいそう?」
少女 「だって・・・・・・ううん、その方が幸せなのかもしれないね。
悲しいとか、怖いとか、不安だとか、そんなこと思えない方が、幸せに生きられるのかもしれないなあ・・・・・・」
ぼく 「人間の感情についての葛藤というものだね。
ヒトはよく感情について考えたりするらしいけど、
その『葛藤』ってものが、ヒトがヒトとして在る証明だって、ぼくは認識しているよ」
少女 「あなたが言っていること、難しくてよくわかんないよ。ねえ、あなたはなにかしたいこととかないの?」
ぼく 「ぼくにはその権利がない。ぼくは人に尽くすためだけに生まれた。
だからそれができなくなったいま、ぼくはもう生きる価値がないんだ。
機能が停止するまで、待つしかないんだ」
少女 「なんで・・・・・・? どうしてそんなに悲しいことが言えるの? 死んじゃうってことでしょ?」
ぼく 「それがぼくの役目だからだよ」
少女 「それでもだよ・・・・・・。死んじゃうってことは終わっちゃうってことなんだよ?
 終わっちゃったら、もうなにもできなくなっちゃうんだよ?」
ぼく 「だけど、なにもできないから」
少女 「できるよ! いまだって私とこうしてお話してくれてるよ! 
私はもっと・・・・・・あなたといたいよ・・・・・・」
ぼく 「ぼくが必要なの?」
少女 「うん」
ぼく 「満足に歩くこともできないよ?」
少女 「急ぐ必要なんてないよ」
ぼく 「視界もなんだかハッキリしないし」
少女 「余計なものを見なくていいじゃない」
ぼく 「頭だって少しへこんで、ぶさいくだ」
少女 「ユニークな形だよ」
ぼく 「君は変わってるね」
少女 「変わっててもいいもん。ねえ、一緒にいてくれる?」
ぼく 「そうだね。君がぼくを必要としているなら、ぼくはそれに応えなければいけない。
でも、さっきも言ったけど、ぼくは君を満足させられないかもしれないよ?」
少女 「いいの! ・・・・・・そばにいてくれるだけでいいの」
ぼく 「そう。なら、これからよろしくね」
少女 「うん、よろしく!」
  (少女、あくびを漏らす)
ぼく 「眠いの?」
少女 「久しぶりにはしゃいだから、疲れちゃったのかな?」
ぼく 「今日は眠るといいよ」
少女 「そうするね」
  (少女、ぼくの隣に腰を降ろしてよりかかる)
少女 「ねえ、起きたらいなくなってたりしないよね?」
ぼく 「しないよ」
少女 「よかった・・・・・・」
  (少女、ゆっくりと目を閉じ、ぼくにもたれ掛かる)
少女 「冷たい」
   
  第2場 朝
   
少女 「・・・・・・うぅ・・・・・・ん・・・・・・」
ぼく 「おはよう」
少女 「ん・・・・・・おはよう。・・・・・・・・・・・・!」
  (少女、突然立ち上がり辺りを見渡す。緊迫した表情。一通り見渡すと、表情を戻し、息をついて再び座り込む)
ぼく 「どうしたの?」
   
少女 「・・・・・・」
ぼく 「?」
少女 「・・・・・・ねえ。どこか遠くへ行かない?」
ぼく 「遠くってどこへ?」
少女 「どこでもいいの。ここでないどこか」
ぼく 「行ってどうするの?」
少女 「わからないけど、行ってみたいの」
ぼく 「・・・・・・君がそうしたいなら、ぼくはそれに従うよ」
少女 「・・・・・・あのね、従うなんて・・・・・・言わないでほしいな。対等でいたいの。・・・・・・友達になりたいの」
ぼく 「友達?」
少女 「うん。わたし、友達いないから」
ぼく 「ぼくもだよ」
少女 「一緒だね、ふふ」
ぼく 「なにかおかしかった?」
少女 「なんでもない」
ぼく 「?」
少女 「ねえ、友達になってくれる?」
ぼく 「ぼくでよかったら」
少女 「ありがとう」
ぼく 「どうしてお礼を言うの?」
少女 「うれしいから、かな?」
ぼく 「うれしい・・・・・・。うれしい、か。ふふふ」
少女 「あなたも、うれしいの?」
ぼく 「そうかもしれない」
少女 「ロボットも、うれしくなるんだ」
ぼく 「そうみたいだね」
   
  (車のブレーキ音がふたつ。次いで車のドアが閉まる音)
   
少女 「ひっ・・・・・・」
ぼく 「誰か来たみたいだね」
少女 「隠れて!」
  (少女、腰に垂れ下げていた大きな古布をふたりでかぶる)
ぼく 「どうしたの?」
少女 「ジャンクヤードの住人を捕まえに来たの。ここは人が住んじゃいけない場所なんだって。
毎朝ここに来ては、何人か連れていくの」
ぼく 「捕まったらどうなるの?」
少女 「わからない。でも、きっと、自由にはなれない」
ぼく 「・・・・・・でも、いまよりも良い暮らしができるかもしれないよ」
少女 「それでも、行きたくない」
ぼく 「どうして?」
少女 「わたしは捨てられた子どもだもの。また捨てられるに決まってる」
ぼく 「・・・・・・」
少女 「だからね、一緒にどこか遠くへ行こう?」
ぼく 「・・・・・・うん。ぼくも君と離れたくない」
少女 「やった! 約束だよ!」
  (近くで人の走る音が聞こえる)
少女 「あ・・・・・・!」
  (少女、とっさに口を手で覆う。足音は段々と近づいてくる)
少女 「まずい・・・・・・!」
ぼく 「見つかったみたいだね」
少女 「逃げなきゃ! あなたはここにいて。ロボットなら捕まることはないから!」
ぼく 「・・・・・・」
  (少女、布の下から飛び出して走り出す。荒い息。瓦礫を崩しながら逃げる)
少女 「嫌、嫌、嫌! 隠れなきゃ、どこか、どこか・・・・・・きゃっ!」
  (少女、足を踏み外し倒れる。瓦礫が少女の上に崩れる)
少女 「あ・・・・・・」
   
  (しばらくして、人の気配がなくなる)
   
ぼく 「うんしょ、うんしょっと」
  (瓦礫をひとつずつどかす。少女を取り出す)
ぼく 「見つけた」
少女 「・・・・・・う・・・・・・っ!」
  (少女の腹部から大量の血が流れている。次いで、吐血。ぼく、少女を抱き上げて壁にもたれ掛けさせる)
少女 「あはは・・・・・・っ! わたしも、壊れちゃった」
ぼく 「大丈夫?」
少女 「ちょっと、ダメかも」
ぼく 「・・・・・・」
少女 「うぅ・・・・・・」
ぼく 「動かないで!」
少女 「・・・・・・!」
ぼく 「あれ?」
少女 「・・・・・・ごめんね」
ぼく 「え?」
少女 「一緒に、いろんなところ、行ってみたかったなあ・・・・・・」
ぼく 「・・・・・・い、一緒に行こうよ!」
少女 「うん」
  (ぼく、少女から少し離れて壁にもたれ掛かる)
ぼく 「・・・・・・まずはどこへ行く? 海? 山? 街? それとも、もっと違う場所がいいかな?」
少女 「わたし、お祭りに行ってみたいな」
ぼく 「行こうよ。サーカスとか見てさ、ライオンが火の輪をくぐったり、ピエロがジャグリングしたりして、
初めて見るものばかりで、ぼくらは驚きっぱなしだよ」
少女 「ふふ、楽しそう。あ、わたし、綿菓子っていうの食べてみたいな。
あと、焼きそばと、たこ焼きと、リンゴ飴と、それから──」
ぼく 「食べてばっかりだね」
少女 「えへへ・・・・・・。お祭りが終わったら?」
ぼく 「そうだなあ、またお祭り!」
少女 「終わったのに?」
ぼく 「ぼくらでもう一度お祭りを計画すればいいよ!」
少女 「あはは、忙しそうだね。でも、楽しそう」
ぼく 「きっと楽しいよ」
少女 「うまくできるかなあ?」
ぼく 「最初はうまくいかないかも。でも、きっと成功するよ!」
少女 「そうだね」
ぼく 「それが終わったら、ええっと──」
少女 「いろいろ、やってみたかったなあ」
ぼく 「・・・・・・そうだね」
少女 「隣に座ってもいい?」
ぼく 「うん」
  (少女、体を引きずらせながらぼくにより掛かる。それにつられてぼくも少女により掛かる)
少女 「・・・・・・ありがとう」
ぼく 「うん」
少女 「ふふ、やっぱり冷たいな。でも、あったかい・・・・・・」
  (ふたり、ゆっくりと目を閉じる)
ぼく 「これから、どこへ行こう」
少女 「どこへでも」


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あとがき
てまこんのテーマ「色」で応募した作品です。
 
 
 
     
 
           
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