題名 |
公開日 |
人数(男:女) |
時間 |
こんな話 |
作者 |
不器用な二人 |
2013/08/31 |
2(2:0) |
10分 |
亡くした者を想い、野郎二人が再会する |
いー |
不器用な二人
(墓地。水くみ場にて男二人が顔を合わせる。)
仁 よう
瑛太 来たのか
仁 なんだよ?
瑛太 いや、なんでもない
間
瑛太 俺は桶に水汲んで行くから、お前は墓の周りを掃除してろ
仁 命令すんじゃねえ
瑛太 手ぶらで来ておいて、そのくらいしかやることもないだろう
仁 あ?
瑛太 さっさと行け
仁 ……ちっ
間
仁 おーおー、みっともねえツラになったもんだな。周りも随分と手入れのないご様子で。
綺麗好きなお前には耐えらんねえだろ? しょうがねえから俺が綺麗にしてやるか
(墓に乗る落ち葉をはらう。周囲の草をはらい、削れた土を踏み固めて一息)
仁 ほら、これでいいんじゃねえの?
綺麗になったろ。……ったく、お前には言いたいことが山ほどあったんだけどよ…
…その、今日はあいつが来てるからよ、また今度話して──
瑛太 今度何を話すんだ?
仁 テメッ、いきなり出てくんじゃねえよ!
瑛太 さっき会っただろ
仁 そういうことじゃねえっつーの!
瑛太 ハァ、いちいちうるさいな。それで何を話すんだって?
仁 テメェには関係ねえだろうが
瑛太 ……まあいいか
間
(墓に水をかける。焼香に火を点ける。焼香から昇る煙を二人はじっと見つめる)
間
瑛太 もう三年になるのか、早いもんだな
仁 ……
瑛太 変わらないな。俺も、お前も
仁 そんな簡単に変われるかよ
瑛太 違いない。変われるもんなら、こうしてお前といがみ合うこともなくなるんだろうけどな。そう簡単なことじゃない
仁 なんだよ、俺と仲良くなりてえのか?
間
瑛太 俺はお前が嫌いだ
仁 奇遇だな。俺もテメェが嫌いだ
瑛太 恨んでもいる
仁 今すぐぶん殴りてえくらいにな
瑛太 できれば一生関わり合いたくはなかった
仁 ああ、同感だ
瑛太 ……あいつが余計なお節介をしなければ、こうして会うこともなかったのにな
仁 あいつは変わり者だったからな。そもそも俺やテメェに関わろうとする奴なんてあいつくらいなもんだ
瑛太 かもな
(瑛太、煙草を取り出して口にくわえる。火は点けない)
仁 煙草、止めたんじゃなかったのか?
瑛太 なんだ、心配してくれるのか?
仁 うるせえバカ
瑛太 ……初めて会ったとき、あいつがさ、吸い方がかっこいいって褒めだしたんだ。
顔も名前も知らない赤の他人なのにな。変な女だって心底思った。
別にかっこよくないって突っぱねたら、そうかもねって今度は笑い飛ばしやがった
仁 あいつらしいな
瑛太 ああ……。変な女だが、どこか憎めない。気まぐれな女だった
仁 ……そうだな
瑛太 あいつが死ぬことなんてなかったんだ。
まだまだやりたいことが沢山ありすぎて、今日はこれがしたい、明日はあれがしたいって……。
ホント俺なんかよりもよっぽど生き続ける価値があったのによ
仁 ……生き続ける価値か
瑛太 ああ。この先、夢も希望もない空っぽの俺なんかよりも、ずっと価値があった。
元々何も持たなかった俺なのに、あいつが死んでからは更に空っぽになったさ。
知らない間に、あいつが俺に大事なものを与えてくれてたんだ。……好きだった。お前もそうだろ?
仁 ああ、そうだな
瑛太 それなのになんで、なんで死んぢまったのかな? 他に死ぬべき人間なんて沢山いるだろ?
それなのに、どうしてあいつが……うっ……くそっ……なんで、どうして、あいつが……
俺なんかが…………俺が、代わりに死ぬべきだったんだよ
仁 だったら死ねよ
瑛太 え
仁 くだらねえ、くだらねえ、くっだらねえ! 女々しい奴。
あいつの墓の前でこれ以上くだらねえこと言うってんなら、その顔ぶん殴り続けて望み通り死なせてやろうか?
つっても、テメェみてえな死にたがり野郎なんかにゃ、あいつも会いたくねえだろうけどな
瑛太 ……
(仁 、瑛太の胸ぐらを掴み、立ちあがらせる)
仁 生きてる奴が死んだ奴にできることはな……そいつの分まで生き続けることだろ。
テメェがあいつにできることはなんだ? 後を追って死ぬことか?
瑛太 ……ちがう
仁 だったら、二度とあいつにそんなしけたツラ見せんじゃねえ
瑛太 あ……ああ
仁 好きな女の為なら、そいつの望んだことくらいお前が代わりに叶えてみせろ!
瑛太 ……! ああ!
仁 ……帰る
(突然、背中を向ける)
瑛太 あ……ちょっとまて!
仁 あ?
瑛太 ……ありがとな
仁 テメェに礼を言われるなんて気色わりいっつーの
瑛太 それでも、ありがとな
仁 ちっ……
(背中を向けたまま歩き出す)
仁 ……くそっ……こっちこそ、ありがとよ
瑛太 泣くんなら、あいつの前で泣いてやれ
仁 バーカ、そいつはお前の役目だろ
(墓地から消える背中を見つめ、墓地に残るライバルを思い、二人は心のなかでつぶやく)
瑛太N やっぱり
仁N テメェには
瑛太N・仁N 敵わない(ねえ)な
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