題名  公開日   人数(男: 女)  時間  こんな話  作者
 轟閃のシュラート 2014/02/09   4(2:1:1) 25分 そして、これは最後の一年の物語  ニコ

登場人物
(年齢)
性別 その他
シュラート・ストロガード
(17)

不問
本編の主人公。金髪碧眼・ふわ毛という絵に描いた様な美少年。黒スーツ。
性格は糞まじめだが心を許した人間には齢相応の笑顔を見せる。
『殺し屋組織  フェアリーナイフ』の裏切り者で属性は闇。
質量を持った影を自在に操り相手を串刺しにする。
ストレーグ・ディスティア
(31)
 通称『夜霧のストレーグ』。殺し屋界隈が一目置く熟練者でホスト風の男。
シュラ(シュラート)の拾い主であり、彼に人間『らしさ』と能力を教えた。
性格は常に軽薄としているが本性は残虐無慈悲な殺人鬼。
属性は虚(うつろ)。透明なベールで自他を完璧に覆い隠すことが出来る
コリン・ロセット
(32)
+N(兼任)
 ストレーグの相棒。芸術家肌の男で常に落ち着いた物腰で話す。結構派手。
組織内では参謀格の為戦闘に参加することは無い。
が、その掴めない性格は仲間内でさえ恐れられている。
属性は空間。左右の手で触れた物を空気を含め瞬時に入れ替える。
難解だが非常に『えげつない』能力らしい。Nと兼任で。
エミカ
(22)
 滅びの日が決まってから女手一つで孤児院を創り上げた、いわゆる『悟り組』の一人。
そのまま穏やかに日々が過ぎるのを望んでいたが、彼女には隠された過去があり……。
元『政府の公務員』ですネタバレ!

◆あらすじ◆
舞台は三年後に全てが滅びると約束された世界……。
絶望と怠惰が蔓延していく中、一部の人間は己の『誇り』と『絆』を支えに自我を保っていた。
最後の一瞬まで気高く生きようとする人間は美しい……。
例えそれが『殺し屋』であっても…。例えそれが国を裏切り、自分の信念を貫こうとする『エゴ』であっても…。

『そして、これは最後の一年の物語』




「轟閃のシュラート」



N    これは1年後、総てが滅びると決定された世界で起こった物語。
     活気も未来も無くなってしまった世界で、それでも自分の誇りを全うしようと足掻いた人間たちの物語。
     花がそよぐ。子供たちの絵が一面に広がる寝室で、カーテンの木漏れ日と共に一人の少年が目を覚ました。


シュラ  ……ここは。一体何処だ。

エミカ  あら、もう目が覚めたの?

シュラ  もう……?

エミカ  だって貴方、私たちの孤児院の前でこれ見よがしに倒れていたのよ?
      全身滅多刺し。…こんなご時世だし、ほって置いても良かったんだけど。
      …私もお人好しよね。

シュラ  そうか…俺は…。ありがとうございました。相応の金銭をお支払しましょう。
      ただし、僕と出会ったことは誰にも言わないでください。

エミカ  おカネなんて私の退職金で十分よ。どうせあと一年の命だもの。
     私は子供たちと楽しく静かに生きて、死ねるだけのおカネがあればいい。

シュラ  『悟り組』ですか。世界が滅びると解っても『正義』を貫く事を決意した人々…
      貴女の様な人間が世界中にあふれればこんなことにはならなかったのに…
      殆どの人間が自分の理性を捨てて欲望のままに生きる事を選んでしまいました。
      ……僕はそんな人たちに尽くすのが心底嫌になったんです。



エミカ  だから『逃げてきた』って所かしら?

シュラ   ……!?

エミカ  その傷の治り方も異常だし。

シュラ   …やめてください。

エミカ  むしろ狙われてるのは『私の方』なんでしょう?

シュラ   ……。

エミカ  気にすることないわ。私は『悟り組』だもの。
      世界がどうなろうと、これからは誰かの為に生きるって決めたんだから。

シュラ  僕も同じです…。

エミカ  え?

シュラ  僕も誰かの為に生きたくて…だから2年前に『仕事』を辞めたんです。

エミカ  そう…ま、お互い気楽に生きましょうよ。私エミカ。よろしくね。

シュラ  僕の名は…シュラート。シュラート・ストロガードです。

エミカ   ……。





N     夜。さびれ果てた歓楽街を2人の男が歩いていく。
     一人は気だるげに着こなしたスーツから煙草を取り出し、三日月へ煙を吹きかけた。
     もう一人の男は場違いなほど華やかな出で立ちでその行為をたしなめる。


スト    うるせーぞコリン…今更この俺がヤニの臭いなんかで遅れを取るかよ。

コリン  『夜霧のストレーグ』の2つ名に異論は無い。あくまでこれは健康上の問題だ。
      私のかたわらで喫煙はやめろ。…バラバラにするぞ。

スト   はあああ!世知辛いね全くよぉ。
      …あいつだったら俺の健康を必死で気遣ってくれたのによぉ…。2年前が懐かしいや。

コリン   ……そうだったか?

スト    そうさ!俺があいつを育ててやったんだ!
      悪魔のガキだってゴミ山に捨てられて、人生に絶望してたあいつを拾って一端(いっぱし)の暗殺者にしてやったんだ!
      いわば、親も同然だぜ!?

コリン  中々に使える能力だったな。おまけに見た目も良い……。

スト   それがおめえ、『絶望の日』を迎えた途端俺たちを裏切りやがってよぉ…。

スト   (ヒック)『親』の気持ちも知らねえで…馬鹿な野郎だ。

コリン  (苦笑)だが、その親に再会がてらに滅多刺しにされたとあっては、親の苦労子知らず、という言葉は通用しないと思うがね。

スト   だっておめぇ、二年ぶりの再会だぜ? 嬉しくて、つい身体が動いちまって(笑)
      それにまだ殺したりねえ、あれじゃあいつは『懲りねえよ』…
      あの綺麗な顔面を八つ裂きにした後、喉から噴き出る血で体を洗い流して
      初めてあいつは俺たちの元へ帰ってくるんだ!! そうだろコリン!!

コリン  それは我々が決める。あの子の四肢をバラバラにして脳みそを家畜と交換する。
      その時に見せる表情次第では赦してやらないこともない。

スト   フ…フハハハハハ!!

コリン  クッ…クフフフ!

スト   …なあ、帰ってくるよな…あいつ

コリン  ふっ、そのまえに… 一仕事だな…。






N     時を同じくして。シュラートは孤児院の一室でエミカと話し込んでいた。
      子供たちの寝息と虫のさざめきが耳に心地いい。
      絶望の中で誰かの為に生きること決意した『悟り組』。
      自分には決して手に入れる資格が無い称号。
      その夢を手にした女性を憧れの目で見つめる。


シュラ  ははは!きっとエミカさんはこうなることを神様に決められてたんですよ!

エミカ  ふうむ…そうかしら?

シュラ  だって皆条件は同じなんですよ!? あと一年後には皆死ぬんだ!
      それなのにどいつもこいつも諦める事ばかり考えて、国も人も腐りきって!
      …その中でエミカさんは、誰よりも大人で優しくて、正しい事をしてるんです!
      僕も誰かの為に生きたいってずっと思ってたんだぁ…それが僕の『誇り』だって!

エミカ  シュラちゃんも今から目指したら?

シュラ  えっ?

エミカ  私に憧れたなら今からでも孤児院を開けばいいじゃない。
      誰も止めないわ。君が目指す道は君が決めればいい。

シュラ  僕は……僕はもう遅すぎますよ。

エミカ  そうかしら…?

シュラ  僕はたくさんの人を傷つけてしまったから。せいぜい皆さんを『護る』ことしか出来ません。
      でもそれが、僕にとってはこれ以上ない幸せなんです。

エミカ  私は許すよ

シュラ   …え?

エミカ  良い人になろうと思った。シュラちゃんはそれだけで生きてる価値があるのよ?

シュラ  ……悟り組の貴女なら、そういうんでしょうね。

エミカ  ふふ… 『君が何処の誰かだなんて私にはどうでもいい』。
      君は私の子供たちに優しくしてくれた。
      世界中があなたの罪を許してくれなかったとしても、私はあなたを許します。

シュラ  …ありがとうエミカさん。だけど…俺は……!?
      ―――――こ…れ…は


N     突然シュラートの肩にナイフが突き立った。いや、それは突き立ったというより、
      初めからそこに存在していたものが現れたとでもいうべきか。
      即座にシュラートから無数の影が伸び、質量を持った黒い刃が
      部屋中をズタズタにする。


シュラ  ウオアアアアアアア!!


エミカ  やっぱり…シュラート・ストロガード。暗殺組織フェアリーナイフの裏切り者。
      史上最年少の『闇』使い。そして、透明にしたナイフをわざわざ急所を外して彼に突き立てたそのお相手…
      『夜霧のストレーグ』さん…と言ったところかしら?

スト    おお!?さすがに詳しいな姉ちゃん。
      自分以外も透明に出来るって情報は、意外と知られて無いんだがぁ…成程、政府からかっぱらったな?
      そのしたたかさと諜報力で逃げ回ってきたわけだ…。
      そりゃあ、俺たちフェアリーナイフに御鉢(おはち)が回ってくるまで時間もかかるわな」


N     窓の向こうから声が聞こえる。
      しかし、そこには確かに漆黒の闇しか存在しなかった。
      即座にシュラートの影が虚ろな闇を切り裂く。


スト   ハハハハ!馬鹿じゃねーの!? 俺の恐ろしさを忘れちまったのかよシュラ!

シュラ  スト…レーグ…!!

スト   俺は透明になるだけが取り柄じゃねえ…お前のへなちょこの影なんぞに捕まるかよ

シュラ  ストレーグ!!

スト   …でな、姉ちゃん。
      政府の要人だったあんたが、何故全てを裏切り、ガキどもを庇いながら逃げまくってるのかは知らねえが…
      ひとつ取引しねえか?

エミカ   …子供たちの命と引き換えに、私に死ねって条件かしら?

スト   …話がわかるじゃねえか。俺たちだって鬼じゃねえ。
      カタギを殺すことはしたくねえんだ。でも姉ちゃんがこれ以上逃げ回ると…
      上がうるさくてよぉ。紋切り型の条件で済まねえが、料簡してくれねえか?

エミカ  本当に…子供に手は出さないのね?

スト   俺『たち』はプロだぜ?ターゲット以外の人間を巻き込むなんて荒仕事は、俺の『誇り』に反するんでな。

エミカ  その言葉……信じるわよ

シュラ  駄目だ!そんな話聞くなエミカさん!俺が皆を守る!必ず守って見せる!

スト   おいシュラート、なんだってそんなに裏切り者を庇うんだ?
      お前も昔は喜んで殺してたくせによぉ。
      女も子供も、爺も婆も、裏切り者は皆その影で八つ裂きにしまくったじゃねえか。

シュラ  黙れ……黙れよ!俺にそんなことしか教えてくれなかったくせに!
      俺を救ってくれた人が…どうしようもない屑だって知った時の俺の気持ちがあんたにわかるか!?
      …どうして俺が出会った人間が…なんであんただったんだよ!?

スト   …さてなぁ。ま、裏切りついでにお前『も』殺すことに変わりは無いけどよ。
      言っといたはずだよな?…能力を使える時点でお前は人間じゃねえ。


N     文字通り漆黒のベールがはぎ取られ、ゆっくりと長身痩躯の男が姿を現す。
      『夜霧のストレーグ』。闇の住人ならば誰もがその正体と能力を知っている。
      にも関わらず今日まで生き抜いてきた歴戦の猛者。普段の軽薄な態度とは違い、
      男の目には野獣のように冷たくギラギラとした殺意がみなぎっていた。


スト   お前は初めからこっち側の『化物』だったんだよ
      俺はそれにちょいとばかり人間らしさを加えてやっただけだ

シュラ  違う…俺は人間だ。自分の意思で組織を抜け、自分の意思で誰かを護りたかった・・・
      そうじゃないと…自分の誇りが持てなかったんだ
      俺は自分に価値が欲しかったんだ!!

スト   確かに俺たちフェアリーナイフは汚れ役だ。標的も悪党だけってわけじゃねえ。
      『絶望の日』を迎えてからは、どういう訳か『悟り組』も始末してるけどよ。

シュラ  意味も解らないまま…ただ確実に標的を殺すことを誇りとする人生…。
      あんたは最後まで変わらなかったな。
    
スト    まあ、政府の為だしな。俺だって一介の『公務員』だ。
      俺もお前も、高い倍率掻い潜って危ない橋を渡って、ようやく生きる資格を手に入れたんだ。
      …だのにお前は逃げ出しやがった。

シュラ   …あんたに謝るつもりは無い。

スト    それでいいさ。ドサクサまぎれに、あのアマ逃げ出しやがったし。
      シュラ!早いとこ殺し合おうぜ。

シュラ  あんたを…心のどこかで尊敬してた…俺みたいなムシケラを救ってくれた…
      神様みたいな人だって


N     シュラートの影が収束し、どす黒い塊になる。
     やがてそれは畸形の胎児を連想させる形をとり、増長し、周囲の物質を侵食していく。
      突如塊から巨大な腕が飛び出し、ストレーグを吹き飛ばした。
      地面に降り立つ寸前にその存在が夜と同化する。


スト    悪かったなぁ死神で!聞き捨てならねえ事言うから喰らっちまったぜ畜生!

シュラ  殺し合う事に異存はない。だけど俺は機械じゃない…
      今の気持ちを正直に伝えたかったんだ。


N      家屋を倒壊させながら暗闇の魔人が姿を現す。
      その?き出しの口腔から冒涜と呪詛の言葉をまき散らし、魔人は光や希望を貪欲に吸い込んでいく。


スト    (嬉しそうに)いいねえ、二年ぶりだ!!轟閃の本領を見せてくれよ!!

シュラ  (笑いながら)本当に変わってないなぁ。
      あの時…俺にたくさんの事を教えてくれてありがとう。
      あんたのこと、恨んでるけど嫌いじゃないぜ…。さよなら。…ストレーグ


N      その瞬間孤児院から巨大な閃光が煌めき、この世の終わりの様な轟音が鳴り響いた。


エミカ  何!?あの光…私の家が!?…子供たちは無事なの!?

コリン  …案ずることは無い

エミカ   ……誰!?

コリン  あの子は、ああ見えて誰よりもスマートな仕事を心掛けていた。

エミカ  あんたは!? …あんたは確かにあの時…ビルの上から私達を監視していた筈…
      瞬間移動……そうか。貴方がコリン・ロセットさんね?

コリン  (苦笑)さすがだな。
      もっともこの言葉は、あの瀬戸際に私を見つけ出し、あの2人を相手に隙を見出し、
      あまつさえ子供たちを放置して逃げだした行為に対してだが。

エミカ  ふん!あんた達、自分の『誇り』にかけてカタギには手を出さないんでしょ?
      …子供たちには可哀そうだけど、私が死んだら終わりだもの。

コリン  正しいものの考え方だ。

エミカ  腐った正義よ…あんた達と同じ。…あーあ!結局私、女神にはなれなかったなぁ。

コリン   …さて、覚悟は出来ているかね?

エミカ   最後に一つ質問よ。

コリン  (苦笑)なんなりと。

エミカ  私たちは…誰が一番正しいの?

コリン   ……。

エミカ  本当に貴方達には『誇り』があるの?…政府に飼いならされて、
      人々の秩序を守って緩やかに世界を衰退させていく…
      私はそんな生き方に耐えられなかった…
コリン  我々は機械だ。政府という巨大な建造物の先端に隠されている
      『誇り』あるナイフであればいい。

エミカ  ……。

コリン  ふっ…そしてどうやら、そのナイフが開く時は今ではないらしい。

エミカ  なっ、私は確かに『悟り組』だった筈よ!?
     誰もしないような綺麗ごとをして、周りから変な目で見られて馬鹿にされて!!
     正義の為に子供を見捨てて逃げ出しッ……まさか!?

コリン  先ほどの君の行動で閾値(いきち)が変わってしまったようだ。
     今回我々は、君を裏切り者としてではなく、行き過ぎた『悟り組』として処分することになっていたのでな。

エミカ  貴方達に…そんな心があるの?

コリン  勘違いするな。…これが我々の『誇り』だよ。
      君やシュラートと同じように、思いは違えど守るべき誇りがある。
      ほとぼりが冷めたら君も子供たちの元へ帰ればいい。

エミカ  あの子はどうなるの?

コリン  (心底嬉しそうに)クフフフフ!!久方ぶりの親子水入らずの大ゲンカだ!
      邪魔するだけ野暮というものだろう!?

エミカ  おやこ…げんか…

コリン  私は一足先に観覧させて貰うが、中々どうして、良い音を奏でている
      親子とは素晴らしいものだ…殺し合いにも相性がある…ククク(瞬間移動)



エミカ  ハァ……。なぁんだ、結局はそんなオチか。
      どこの家庭も…組織も一緒!!
     物心ついた子供は、大人になる為に家を飛び出したくなるものね


 
 
 
 
     
 
           
inserted by FC2 system