題名 |
公開日 |
人数(男: 女) |
時間 |
こんな話 |
作者 |
桃太郎異伝 |
2014/03/11 |
4(2:1:1) |
25分 |
畜生なりに正義を貫けばいい。 |
ニコ |
登場人物 |
性別 |
その他 |
桃太郎 |
不問 |
主人公。涼やかな美少年。 |
犬
|
♂ |
乱雑な青年
|
猿
|
♂ |
狡猾な老人
|
雉
|
♀ |
気高い女剣士 |
「桃太郎異伝」
最初は明るめに、後半はしっとりと演技して頂けるとしっくりくるかもしれません。
舞台は夜の家・林道・村・海岸、そして朝の海岸へと移り変わっていきます。
基本は女子(おなご)男子(おのこ)です。
桃:かくなる私、桃太郎は、桃から産まれた妖怪にも関わらず、
お爺様お婆様に格別の面倒を見て頂きすくすくと育ち申した。
犬:その優しい人柄と器のデカさは、
大男児(だいだんじ)ならば惚れぬ者は無く!!
猿:体からほとばしる香気(こうき)は女子たちを惑わせ、
桃の様な肌は男も青ざめる程に色白く!!
雉:わたくし雉めは、桃太郎様の耽美(たんび)な面持ち、
内に秘めたる世の憂いに、
何と畜生の身でありながら懸想をしてしまったので御座います。
桃:私は猿殿にこの世の理(ことわり)を、雉殿に類稀なる剣術を教わり申した。
犬:元よりイヌめは学も情けも持たぬ大罪人(だいざいにん)。
逃げに逃げて逃げ惑い、
野垂れる所を救って頂いた御恩に報いたく!!
猿:拙者猿めは桃太郎様の将器、犬の強力(ごうりき)、雉の剣術などを鑑みて、
十分な勝算を見出した為にもちかけたので御座います。
……鬼退治を。
雉:嗚呼、猿めの狡猾(こうかつ)な心胆を見抜いていながら、
あの方の無垢(むく)なる正義にほだされて……。
わたくしはなんと愚かなのでしょう?
桃:逞しき仲間達と共に浮世を巡り、数多(あまた)の人々と交わり、己が器を磨く。
猿殿の御言葉は私にとって、この上無き転機だと悟り申した。
犬:桃太郎様がそう仰るのであれば、
イヌは何者をも噛み砕く獣と成り果てましょう!!
道中の露払いは御任せ願いたい!!
桃:おお、そう言ってくれるか、犬。
犬:故にイヌを無用と見做されませぬよう。
只一人残される無念、孤独。二度とは味わいたくありませぬ。
猿:桃太郎様が描きなすった大義の夢、
拙者の謀略を以てすれば必ずや現(うつつ)となりましょう!!
万事の所用は御任せあれ!!
桃:おお、かたじけない、猿殿。
猿:故に決して御志を曲げになりませぬよう。
世の嘆きそしりに挫けませぬよう。
拙者がそこもとに求める心得はそれのみに候。
雉:桃太郎様がお望みになるのであれば、
此の雉めは例え悪鬼羅刹(あっきらせつ)と蔑まれようと、
御身を護る刃と成りましょう、決して御傍を離れませぬ。
桃:雉殿……。
御心遣い痛み入る。
雉:その代わり、此の畜生共の中で最も寵愛すべきは、わたくしと御定め下さい。
……わたくしが御身に求めるは、只それのみに御座います。
桃:ふっ……。
孤独に耐えられぬ犬。利己の為に仕える猿。尽くすことに懸命な雉。
そして人外の桃太郎。夢追いかけて三魔を集い、鬼ヶ島へといざ参る!!
――――――間――――――
犬:( 何かを噛み砕き続けている )――。
ウマイ…ウマイ……。
桃太郎様と一緒に居る…肉喰える…ウマい…。
猿:ふむ、この袢纏(はんてん)は藍染め神楽か。
この柄杓(ひしゃく)は…弱法師(よろぼし)とでも名付ければ、
馬鹿な殿様に売れそうじゃなぁ…キキッ!!
犬:( 何かをすすっている )――。
猿: ……んッ!?
これッ、犬!!髪は喰うな、髪は!!
犬:ガルルル……!!
黙れ!!小賢しいだけの猿風情が!!
猿:何じゃと!?
犬:( 舌舐めずり )――グフゥ…。
イヌに命令出来るの…桃太郎様だけ。
猿:ク…キイィィ……!?
(小声で)野蛮なだけの駄犬めがぁ、
誰の御蔭で人が喰えると思うて居るのじゃ……!?
雉:悔しい……。
わたくしが畜生なばかりに、あの御方に手を付けて貰えない事が。
犬:( 何かを噛み砕き続けている )――。
雉:けれど、毎夜(まいよ)桃太郎様に言い寄る娘共を斬り殺し、
その血潮を浴び続ければ人間に成れると猿は言った……。
そう言ったから……。
ウフッ…ウフフフッ……!!
桃:嗚呼……。
血の匂いがする。肉を貪る音がする。
そうだとも、足りる筈が無い。
あのちっぽけな団子一つで、あの三魔が満足する訳が無い。
人の成りはしていてもあれ等は畜生、人を喰わずには居られないのだ。
―――――-間―――――
猿:殿。
桃:うん?
猿:水無月(みなづき)の路銀に御座る。
桃:おお、済まんな猿。
拵(こしら)え方に不都合は無いか?
猿:いえいえ、この世は弱き者こそ毟(むし)り取られて然るべきもの。
我らは常に、殿の御(おん)為に働いて居る次第にて。
桃:済まぬなぁ。
雉:殿。
桃:うん?
雉:私は綺麗に成りましたか?
桃:私の面(つら)を面と向かって見よ。
さすれば己の心が応えを出そう。
雉:嗚呼……!!
まだ、まだ足りないと仰るのですね!?
貴方様は全てを解っていながら、それでも尚、足りないと、
この醜い面を色変えるには…やはり数が足りないと!!
桃:ふっ…何をか問わぬぞ?
気の済むまで励むが良い。
犬:おい。
桃:うん?
犬:腹が減った。
桃:さすればもっと喰らえ。欲の赴くままに食らい続けよ。
元より貴様は赦されぬ身だ。
ならば…何を躊躇う?
犬:そう…イヌは人喰い。噛んだ時にあふれ出る血と叫び声が大好き。
死んでも赦されない。
でもどれだけ喰おうとこいつは俺の味方。もっと喰う。喰う。
桃:さて、この私に何の罪過があろうか?
善良であるならば、端から悪事を行わぬ筈。
犬の様な咎人(とがびと)を看過(かんか)せず、
猿や雉の悪行を声高らかに非難するに相違ない。
……されど、我は人では無いのだ。
犬:独りになるのは嫌だ。アイツがイヌより他の相手、選ぶの嫌だ。
イヌみたいな悪党を、アイツは受け入れた。イヌは死ぬ迄アイツの傍に居る。
猿:利を産み出してこそ人は生きる価値が在る。
それが髪であれ肝であれ価値は在るのだ。
しかし、桃太郎以外ワシを理解してくれるものは居らなんだ。
……無常なることよ。
雉:犬はとうの昔に傀儡(くぐつ)に成り果て、猿とあの方の言い成り……。
次に壊れるのは私か?
……いや、罪無き娘を斬り殺した時に、私は既に壊れていたのだ。
( 悲しそうに )……何故私はあの人を愛したのだろう?
――――――間――――――
雉:猿よ。
猿:これは雉御前(きじごぜん)。
ますます美しくなられた。夜毎(よごと)生血をすすった功名ですな?
雉:下らぬ世事より誠(まこと)を語れ。
返答によっては斬り捨てる故、心するが良い。
猿:な、なんと剣呑な!?
雉:黙れぃ!!
猿:(呆れたように嘆息する)――。
まあ良かろう、手酌の月見も飽きてきた所じゃ。
畜生とはいえ女は女、か、フッ。
雉:答えよ、猿。鬼ヶ島は本当にあるのか?
猿:ほぉう?
雉:金欲しさに我らを騙し、鬼退治等という下らぬ絵図に桃太郎様を巻き込んだ。
……違うか!?
猿:ウッ…キャキャキャッ!!
( 嗤い続ける )――!!!
雉:な、何が可笑しい!?
猿:我が身命に誓うて鬼は存在致しまする!!
……現にほれ、拙者も御主もあの駄犬も、
巷(ちまた)では『 鬼 』と呼ばれておろうがぃ?
雉:(ひるむ)――!?
そ、それでもあの方は穢れておらぬ!!
悪女にたばかられることも無く、血に塗れることも無く、
我等を受け入れる度量を持った……あの御方は。
猿:んん~~?
我が信望に値する君、か?
雉:そうだ!!
猿:愚かな女よ……。
我が殿は古今稀(ここんまれ)なる美丈夫(びじょうぶ)。
己より醜い端女(はしため)を心から愛すると思うのか!?
雉:(泣く)――嗚呼……!!
私は…私はまだ醜いのか……!?
猿:ああッ、いやいや、ほれッ!?
生血(いきち)を浴び続ければ、
何時か必ずお主の悲願も成就しようて、なっ!?
雉:( 泣き続ける )――。
猿:( 途中から被せる )良ぉし、良し良し泣くで無い!!
まっこと無垢なるおなごよな!?
今宵は酒でも汲み交わし、存分に肚の内を打ち明けようぞ!?
雉: ……あの人の為に死にたいと思っていた。
猿:ああん?
何とな?
雉:剣の腕など詮無きことよ。
天狗に手習い、数多の戦に明け暮れ培った宿業(しゅくごう)じゃ。
総ては武家の為、兄の為。
喜んで女赤子も皆殺し、畜生へと成り果てたのに。
猿:御前…御主はよもや!?
雉:兄に裏切られ、遠く陸奥(むつ)の国迄落ち延び、其処でもまた裏切られ、
最後は一族郎党皆殺しさ。
猿:あー…。
雉:ん?
猿:いや、聞きしに勝る武士(もののふ)が、
存外に真面(まとも)な形(なり)をしていたのでな?
どうすればそこまで捻じ曲がるのか、理解が出来無んだ。
雉:私の首級(しゅきゅう)は兄自らの手によって、
東西一の醜面(しこづら)に細工されたのだ。
文も然り、行いも然り。ハッ!!
……では歪(ゆが)みもするだろう?
猿:成程ぉ、ケケッ……むごい!!
それで、転生した後は女として生きようともがいた訳じゃな!?
雉:あの人の様に、愛する者の為に気高く命を捧げようと思ってなぁ。
されど所詮は畜生の浅はかさよ。
見れば見る程、あの御方はあの人に似ても似つかぬ。
御老(ごろう)の言いつけを守ったところで、心は醜くなるばかりであったわ。
猿:キキャキャッ!!
惚れた女子(おなご)等は相手の真実次第で幾らでも変容するもの。
願掛けもまた然り!!
……ワシの進言もやぶさかでは無かったではないか?
雉:ふっ…そうよなぁ……。
元より私は人殺しの大罪人。
これから先は、真の自由に生きるとするかなぁ。
――――間――――
犬:( 何かを噛み砕き続けている )――。
桃:人の肉は美味いか?犬。
犬:(食べながら)お前も、食うか、女の頭、
見ているだけでは、詰まらんだろう?
桃:私は十分満ちて足りている。お前が幸せそうで何よりだよ。
犬:ふん、変わった奴だ。お前みたいな綺麗な物の怪、俺は見た事が無い。
何故お前程の男が猿の言い成りになっている?
桃:猿か…あれはあれで、
思い通りに動いてやらねば癇癪(かんしゃく)を起こすしな。困ったものだ。
犬:フハハッ!!
それであの爺様の言う通り、あてどもなく旅をするのか?
桃:元より団子三つで俗世に放り出された命だ。好きに使おうと思っている。
犬:あの糞ドケチなジジババ共か。
不味かったなぁ…あいつ等は。
桃:やはりあの後で喰ったのか。貴様も虐げられていたからな。
犬:清々しただろう?今まで散々嬲(なぶ)り者にされてきたんだろう?
村の連中にたらい回しにされたこともあったんだろう?
桃:それでも恩義は感じていた。故に文句も言わなんだが、
放逐(ほうちく)された今となっては詮無きことだな。
犬:あっはっは!!
詮無い、ねえ……本当にどうしようもねぇな。
桃:どうした?無双の強力者(ごうりきもの)よ。
犬:俺も昔は世の為に働こうと思うておったが、
今じゃ人喰いの出来損ないの、犬ともつかぬ化物だ。
桃:村一番の暴れ者が一念発起(ほっき)し仲間を集い、
鬼を相手に大立ち回りを演じたは良いが。
犬:いかんせん生まれが悪い。
俺は風呂にすら碌(ろく)に入らぬ不浄で貧しい親に育てられた。
……鬼を退治すれば何かが変わると思っていたが、
御堂(みどう)の奴も大石の奴も、俺より身なりも頭も良かったからなぁ。
力仕事は全部あいつ等に取られた。
桃:もっと早くお前に逢いたかったものだな。
学を授けてやれれば、何かが変わっていたやも知れぬ。
犬:何、詮無きことさ。
詰まらぬ意地で奴等を頼れず村を逃げ出し、
餓えに餓えて遂に人を喰らい、
山中夢中で逃げ惑っていたら犬になっていた。ハッ、何もかも遅い。
桃:なあ、イヌよ。
犬:止せやい。俺はもう何も変わらん!!
……暴れ者の怠け者の末路だ。
桃:私は…お前達に逢えて良かったと思っている。
犬:(振り向く)あぁ?
桃:私は生来人の気持ち等理解が出来なんだ。
与えられた仕事をこなし、村の連中に愛想をつき、
望まれるがままに親・仲間と呼ぶ筈の人々とまぐわり、
意味もなく貶(けな)され、愛され、辱められ…必要とされる。
……何とも判らぬ生ではないか?
犬:そりゃそうだろうよ。良い玩具(おもちゃ)だったんだからな。
桃:ところが、お前達は人では無い。平気で犯し、殺し、奪う。
そして疎まれることに慣れている。
(嬉しそうに)その実、私が何を言ったとて悩み、苦しみ、悲しそうな顔を見せる。
犬: ……あんたに何か言われると弱いんだよ。どうもな。
桃:私はな、そんなお前達と旅を続けられる事が本当に嬉しいぞ?
犬:へいへい、せいぜい尻尾を振っときますよ。
桃:ふふっ、愛い奴等よ。
犬: ……なあ。
桃:( 優しく )どうした?
犬:本当に…俺達これからどこへ行くんだよ?
桃:そうさなぁ。
我らの様な虐げられし者共を束ねて、
何処ぞの島で鬼でも名乗ってみようか?
犬:なっ!?
俺達が鬼ヶ島の鬼になり、お前が鬼の首魁(しゅかい)になるのか!!
へっ、そいつぁいいや!!
お前はついでに妖怪の王になれよ!!
桃:ふむ、悪くない。人の世ですら殺し合いを続けている。
妖怪同士で殺し合い、あやかしの天下を目指す者が居ても良いのやも知れぬな。
犬:そして、今度は俺たちが鬼として退治されるのか。
桃:ふっ…その豪傑には桃太郎と名乗らせよう。
犬桃:(笑う)――。
犬: ……んん?
( 鼻を効かせる )――。
ああ、匂いがする、あいつ等そういう仲になったか。
桃:悪党同士、傷を慰め合うのも悪くは無いさ。
犬:抱いてやれば良かったのによぉ。減るもんじゃねえし。
桃:私は私だ。人間にも畜生にも成れん。
……おい、血を拭うのを忘れるなよ。
――――間――――
猿:これは我が殿、昨夜はゆるりと御休みになられましたかな?
桃:うむ。お主はともかく雉よ、
そなた迄私の傍を離れるとは、らしく無かったな?
雉:( 焦って早口で )は、はいッ!?
その、桃太郎様は既に立派な殿方!!
わたくしが居らずとも己の身は己で処遇する、
それこそが真の主従の在り方なのだと理解致しましたッ!!
桃:おお、ははっ、まるで見違える成長ぶりではないか。
これからも頼りにしているぞ?
雉:は、はいッ!!
犬:(小声で)うるせえ雌雉(めすきじ)、
一晩中猿に股がってよがってただけだろうが。
雉: ……殿ぉ。そこな駄犬を両断する裁可を仰ぎたく。
犬:なっ!?
桃:( 愉快そうに )うむ!!
許す!!存分に戯れてこい!!
犬:お、おいッてめえッ!?
やっ、やだなぁ雉様ぁ?
男女何て、所詮そんなもんなんじゃないの~?
雉:詮無きことです。
御覚悟、てやぁっ!!
犬:キャイン!!!
雉:なっ、ま、待ちなさい!?
桃:ハハハハッ!!!
猿:( 溜息 )――。
殿、犬めにこれ以上の知恵を授けるのはお止め下さい。和が乱れ申す。
桃:良いではないか。乱れたのならば綻(ほころ)びを直せばよいのだ。
他ならぬ我らの手でな。
猿:我らは畜生。人には成れませぬ。
桃:ならば畜生なりの正義を貫けばいい。
御老体、今からでも遅くは無いのではないか?
猿:まあ、拙者も彼奴(きゃつ)らを見ていると昔を思い出し申す。
まだ体も若く、他人を信じていたあの時代の事を。
桃:ふっ…お主は何処で違(たが)えたのだ?
猿:はぁ、助けた亀に連れられて、竜宮城なる雅(みやび)な城で、
乙姫なるアバズレに――。
犬:( 途中から被せる )おい助けろよ桃太郎!?
こいつ本気で殺しに来てるんだって!!
マジやべえよ!!
雉:桃太郎『 様 』だろうが!!
この畜生め、待てぇ!!
猿:やれやれ……。
( 小声で )あたた…腰が痛い。
桃:なあ、猿よ。
猿:( 途中から被せて )――ィィッ!?
……は、はあ、なんですかな?
桃:私はな、本当に叶えたい夢が出来たぞ。
――――終わり――――
2015/06/23改訂
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