題名  公開日   人数(男:女)  時間  こんな話  作者
Under the sea 2014/03/28  3(1:1:1) 40分 俺達は死にたくなったり絶望したりすると魚になるようになったんだ。  ニコ

登場人物
(年齢)
性別 その他
月島エミカ
(26)

黒髪長髪の美人。天真爛漫で頭も良い。
性格が良い大人のお姉さんって感じです。
終盤アドリブを入れてもらいたいので期待です。

星野カケル
(16)
不問

どこか人間離れした美少年。
バンドマン風の不気味な服を着ている。
中性的であればあるほどいい味が出ます。

日番谷ヤマト
(26)
+N(兼任)

イケメンお兄ちゃん。ナレーションも兼ねてください。
乾いた笑い方が特徴。
結構大変な役です。



Under the sea」


20代の胸にどこか響くような話を目指しました。

恋愛でもホラーでも無い文字通り不思議な話です。

この話には水系の静かなBGMや深夜の時間帯が良く似合うと思います。




N:ここは深海。得体のしれない魚達が優雅に泳ぐ海の墓場。

そしてその海に浮かぶ巨大なガラスの試験管を一人の少女が歩いていた。

  

月:変わった魚達にガラス張りの通路…まるで水族館ね。

 

N:確かにそれは水族館に似ていたが実際はホラーハウスに近かった。

誰かによって清潔に整えられている筈のガラスは所々不思議なコケに覆われ、

血糊の様にねっとりと壁面を侵食していた。

  たまにすれ違う住人はどこかいびつな形相をして話すらままならない。

  中には完全な半魚人の様な者もいた。

 

月:空調の機械音がずっと鳴り響いている……。

おかげで確かに空気は清浄だけど……ここにいたら頭がおかしくなりそう。

  

N:住人は少女に危害を加える事も無かったが、少女の話を聞くことも無かった。

  少女が近寄ると魚の様に接触を避け、試験管の闇に消えていく。

 

月: ……ひっ!?

 

N:やがて少女の前に巨大な魚の怪物が現れた。半分腐りかけた体から悪臭をかもしだし、
口からはカニの様にぶくぶくと泡を吐き続けている。
怪物は生気を失った目で少女の顔をじっと見つめた。

 

月:何…これ…なんでこんな化物達が海の世界にいるの!?

 

星:よう。

 

月:―――――ッ!?

 

星:あんた見かけない顔だな。

 

月:あなた誰…? いいえ…ここに来て初めてまともな人に逢えた。

 

星:はは。俺もここまで完璧な人間に逢えたのは久しぶりだよ。

 

月: ……。

 

N:目の前にいる少年は、まるでホルマリンの瓶に保存されている希少生物の様に思えた。

  少年は少女のいる空の世界から見ても、まるでそん色の無い美しさを備えていた。

  いや、きっとこの幽鬼の様な艶(なま)めかしさは空の世界には存在しないだろう。

  海の青色に良く映える、完璧な美しさだった。

……ただ一つ、服装がグロテスクであることを除けば。

 

月: ……気持ち悪い恰好。

 

星:ああ、知らないのか? 海の世界じゃこれが流行ってるんだぜ。

  魚の鱗だの人間の臓物をふんだんに使ったシームーンってブランドさ。

 

月:10年前はそんな恰好を見られたら速攻で逮捕されてた筈よね。

 

星:いやいや、人間って不思議なものでさ、逆境にさらされると、暴露っていうの?

  本性剥き出しにしてた方が却って女にモテるようになったんだよね。

 

月:成程ねえ…。それが貴方達の文明って訳か。

 

星:ん…? ってことはやっぱりあんた空の世界から来たのか!?

  やっぱそうなのか!?

 

月:あのさあ、そんなことよりも目の前の魚の化物をどうにかしようって思わないの? 

 

星:ああ、そいつはほっとけよ。自分から進んで魚になったんだ。

  何の意味もない落ちこぼれさ。

 

月:ほっとくって…こんな怪物がガラスの内側にいて、もし他の人間が襲われたりしたらどうするのよ!?

 

星:ああ、そうかい。余りにも当然過ぎてめんどくさくてさ。

お姉さんがそこまで言うなら仕方ないなぁ。どぉれ―――。

 

N:少年は魚の怪物に近づいた。蒼い瞳が腐った魚の瞳を見据える。
グロテスクな服装と魚の悪臭で少女の感性は麻痺し、無理矢理その儀式にくぎ付けにさせられた。

 

星:――――死ねよ。負け犬。

消えれば楽になれるぜ?な?

 

月:ちょ……!?

 

N:少年はなおも腐った魚にささやき続けた。その言葉の度に魚の身体はどんどん腐り、

  その肉片は泡に変化して試験管の通気口から海へと吸い込まれていく。

 

星:(小声で)あんたはよくやったよ。だけどもう遅いんだ。もう取り返しはつかない。

       解ってんだろ? だから楽になれって。な?

 

月:怪物が…水の泡になっていく。

 

星:(小声で)次に生まれ変わったら良い事があるといいなぁ。

      応援してるぜ。大丈夫。来世はきっとうまくいくって。

 

N:魚の怪物はその言葉を最後に大きく崩れ落ち、完全に海の藻屑となった。

  後に残ったのは無邪気な笑顔をたたえた少年と愕然とする少女のみだった。

 

星:よっし終わりぃ! ふうっ! らしくないことすると疲れるぜぇ!!

 

月:らしくないじゃないわよ!! どういうことなの!?

  なんで魚にささやいたら泡になって消えるのよ!?

 

星:ああ?

 

月:どうして魚が泡になったのか訊いてるの!!

 

星:さあねえ。お魚さんだって自分の人生を恥じて泡になりたくなる時もあるさ。

 

月:あなた…死神なの?

 

星:はは。良く言われるなあそれ。

  でもまあ、死にたいって人間を助ける仕事だってこの世にはあるんだぜ?

  俺だけが異常って訳でもないだろ。

 

月: …(ため息)。何で初めて出会った人間がこんな奴なんだろう。

 

星:それよりもさ、どうしてわざわざこんな海の世界まで来たんだ?

  それ相応の理由があるんだろう?

 

月:そ、それは。

 

星:理由いかんによっては相談に乗ってやってもいいぜ?

 

月:うう。

 

星:はーやーくー。このまま通り過ぎちゃうぞー?

 

月:本当に力になってくれるのね?

 

星:内容によってだけどね。

  

月: ……10年前の恋人に逢うためよ。

 

星:へ?

 

月:10年前…大地が津波で全てを飲まれてしまう前。

  私が高校生だった時代の恋人に逢うために来たの。

 

星:あー…。俺が6歳の時か。お姉さん見た目の割に歳いってんだね。

 

月:その人は私と一緒に空の世界へ行けるはずだったの。

  だけど夢を追いかけて海の世界へ行ってしまった。

 

星: 馬鹿な事したなぁ。

夢も希望もない世界へようこそ。

 

月:それはあの人だって解ってた筈よ。

  解ってて困難な道を選んだ。そう―――――――――。

 

N:10年前。天変地異により世界の殆どが海に沈み、多くの人々が死んだ。

  政府はその震災に対応するため2つの世界を作った。

  裕福な人間、才能ある人間、見た目の美しい人間は空の世界へ。

  無作為に選ばれた貧民達と一部の技術者は海の世界へと疎開した。

  何故そうしたのかは解らない。だがその選別で生まれた格差は深い溝となり、

  空と海の世界はお互いを忌み嫌い、干渉することを避けていた。

 

月:誰が正しいのかなんてその時が来るまでは解らないものなのよ。

  だからこうして私が来ることになっちゃったけど。

  後悔はしてないわ。

 

星:あのさあ、お姉さん知ってる?

  お空から海の底に堕ちるのは簡単だよ。

  でもさ、未だかつてその逆を成し遂げた人間はいないんだよね。

 

月:知ってるわよ。おカネがかかるんでしょう?

 

星:莫大な。ね。

こっちの技術者ですら10年間外に出られなかったんだ。

  要は技術者の中でも仲間外れにされた奴等だったんだよ。

  ここにいる奴らはみぃんな嫌われ者でゆがんだ性格の持ち主なんだ。

  残念だけどお姉さん、あんたはここから一生―――――――。

 

月:いいのよ出られなくても。

私はあの人を探し出して死ぬまでここで暮らすんだから。

 

星: ……え。

 

月:これね、10年前にあの人が私に作ってくれたの。

  どんなに離れていても二人だけは連絡を取り合おうって。

 

N:少女が取り出したのは前時代的な携帯電話だった。2つ折りになった表面に海面をあしらった鮮やかな水色の携帯。
10年来の物にしては状態も良く、ある種の宝石のような偉容を備えていた。

 

星: ……嘘、使えるのこれ。

 

月:3日前に彼がこの携帯で連絡をよこしてきたの。

  『もう限界だから助けてくれ』って

  

星: ……恋人。あんたの恋人って。

 

月:嗚呼、もうそんな時になっちゃったんだ。って思ったら、

  残念が半分、何だか安心したってのが半分。そんな不思議な気分になっちゃってね。

 

星: ……そう、なんだ。

 

月:退職手続きも済ませて満を持して押しかけに来ちゃったのよ。

  これからは私がそばにいて彼を支えてあげるんだから!!

 

星:3日前……か。そうだよなぁ。

 

月:なあに?

 

星:えっ。

 

月:私の事は全部話したわよ。

  ねえ、ここまで女に語らせといて『はいさよなら』は無いわよねぇ?

 

星:ああ。その彼氏なら多分、近いうちにお姉さんは逢えると思うよ。

 

月:なんでそんな事が解るの?

 

星:死神の勘さ。それより行く所もないんだろ?

  俺の家に来いよ。

 

月: ……ふうむ。

 

星:半魚人の不細工と死神の美少年。誰を信じてもお姉さんの自由だ。

  そもそも俺は、お姉さんが何処で野垂れ死のうが知った事じゃないんだぜ?

 

月:…いいわ。どうせ賭けみたいな人生選んだんだもの。

  自分の意思で君を選ぶことにするよ。

 

星:いいねえ、その意気だ。お姉さんの名前は?

 

月:月島エミカ。

 

星:はは。偶然だねえ。俺は星野カケル。よろしくなエミカ。

 

N:カケルの無邪気な笑顔を信じて、エミカは更なる海底の深みへと進んでいった。

  10年前の震災の影響なのだろうか。それとも深海だからなのだろうか。

  見たこともないおぞましい生物群が試験管の周りをうごめいている。

  中には人間に良く似た行動を取るクリーチャーの姿もあった。

 

星:あいつ等は魚だった者が俺達を真似するようになったんだ。

 

月:変なの。人間なんか真似して何になるのかしら?

 

星:さあね、向こうからみれば俺達はさぞや幸せそうに映っているのかもしれない。

  

月:ふふっ、言われてみればそんな気もしてきた。本当はそんなことないのにね。

 

星:やっぱりお空も大変な訳か。

 

月:社交辞令に礼儀作法に年功序列!! 少しでもルールを間違えたら社会人として~

  だもん。バカバカしいよ。本当に。

 

星:それでも食うに困ることも無ければ太陽の光を浴びる事も出来るんだろ?

 

月:確かにここに比べればマシなのかもしれない。ここは人も少ないし、狭いし。

  半魚人もいるし。

 

星:ここじゃ皆が貧乏なんだ。毎日気色悪い深海魚を眺めながら長い時間働いて、

  安い給料でボロボロになって。誰も幸せになんか成れないんだ。

 

月:カケルには夢は無いの?

 

星:あるよ。

 

月:なあに?

 

星:いつか空の世界へ行くんだ。どんなに気難しくて生きづらい世の中だったとしても。

  太陽の光を浴びながら人間らしく働いて、皆に見守られて死にたいんだ。

 

月: ……。

 

星:別にエミカを責めてる訳じゃないよ。世の中にはいろんな人間がいて、

いろんな生き方がある。ただ、ここじゃどっちが水族館の

見世物なのか、俺には解らなくなっただけさ。

 

N:カケルの家は試験管の先、まるでフラスコのような巨大な球体の底にあった。

  ヘドロの様な大地の上にそそり立つスラム街。

そこかしこで巨大な魚の怪物がひん死の状態で倒れている。

エミカはカケルの古びれた和風の家に案内される。

  部屋の中には巨大な洋服箪笥と立派な仏壇があり、

遺影には6歳のカケルと両親の姿があった。

クリスマスをレジャー施設の屋外で祝う三人の写真。とても幸せそうだった。

 

星:俺一人暮らしなんだ。親はこっちに来れずに震災の時に津波に飲まれて死んじゃった。

 

月:そうなんだ。辛かったね。

 

星:元々たいして裕福な家じゃなかったし、思い出も余りないんだけどさ。

  それでもこの時は楽しかった記憶があるんだ。

  まさか、死ぬ前のたった一度の贅沢だったなんて思いもしなかった。

 

月:皆死んじゃったものね。今でも空の世界からだと浮き輪にしがみついた白骨死体とか見えるんだよ。
軟骨とか関節板を損なわずに人型として残ってるの。

  

星:きっと生きたかったんだろうなぁ。

 

月:その人たちの分まで精一杯生きようって私は誓ったんだ。

  あの時あの人を信じた自分も、今こうしてあの人を信じた自分も、

例え後悔したとしても自分の選択を疑わないって決めたの。

 

星:俺だって同じだよ。

  政府はこんなちっぽけな家に俺一人放り込んで、一仕事終わったって感じだったけど、

  だからこそ意地でも生き抜いてやろうってここまで来たんだ。

 

月:ふふっ。似てるかもねえ私達。

 

星:だから家に来いなんて言ったのかもなぁ。

 

月:君は一日をどうやって暮らしてるの?

 

星:んー、昼間は寝るか資格の勉強。夕方から清掃屋のバイト。

  そんで夜は半魚人相手に恥ずかしいお仕事。

 

月: ……夜の仕事か、大変だね。

 

星:ははっ。もっと驚くと思ってた。

  それともエミカはそういうの想像出来ないのかな。

 

月:あのねぇ、これでも10年前は普通に女子高生やってたんですけど。

  あぁぁいや、別に援助交際とかそういう意味じゃなくて、

テレビとかでって意味だからね!?

 

星:俺は学校すら通ってないんですけど。

 

月:あっ……。

 

星:だからさ、俺みたいな負け犬はお金がかかるんだよね。

  誇りなんか糞喰らえって感じで何でもやらなきゃダメなんだ。

  資格を取るにも金、金、金だからさ。

 

月:わ、私だって勉強なら教えてあげられるよ!?

  こう見えて結構頭はいいんだから。

 

星:ああ、ありがとな。そうだ、

俺が帰ってきたらもっと海の世界を案内してやるよ。

  エミカも折角来たんだし楽しんだ方が良い。

 

月:あ…もうお仕事の時間なんだ。

  ……偉いね、何で笑ってそんな仕事に行けるの?

 

星:楽しくは無いけど、笑わないと食っていけないからさ。

 

N:寂しげな笑顔を見せた後、カケルは外に出かけて行った。

独りになった部屋でエミカはこれからの事を考える。

あの人に逢えるのかどうか。その姿はどんな風になっているのか。

  相変わらず窓の外は得体のしれない魚達がうごめいていた。

  

月:半魚人…泡になる魚の怪物…人の真似をする深海魚…

 

(間)

 

N:まどろみの中、エミカは10年前の自分を思い出していた。

大地と木々と学校があった時代。

満開の桜並木の下で、自分の最愛の人間。

日番谷ヤマトとエミカが最後の会話をしていた。

 

月:やっぱり…どうしても海の世界に行くんだね?

 

日:ああ、長い別れになるだろうけど…。

  まあ、気が向いたら待っていてくれよ。

 

月:ずっと待ってるよ。

 

日:はは。サンキュ。

 

月:何よ。私達幼馴染じゃないの。

  今更忘れてくれって方が無理あるよ。

 

日:どうかな、きっとお互い忙しくなるよ。

  そうやって傷や痛みを忘れていくんだ。

  人間って奴はさ。

 

月:ヤマトが格差や差別を無くするために、

敢えて海の世界を選んだって事は凄いと思うよ?

  自分の力を信じて辛い生き方を選んだんだもの。

  ……でも私は、きっとそんな生き方は――――。

 

日:馬鹿な道を選んだって事は解っているよ。

きっと数年後には後悔して野たれ死んでいるかもしれない。

だけど、やってみたいんだ。

 

月:ヤマト…。

 

日:才能や経済力で人間が振るいにかけられるなんて間違ってるよ。

  だから俺は、何年かかっても空と海の世界を繋げて見せる。

  一介の技術者として、海の底から世界を変えるんだ。

 

月:それがヤマトの夢なんだね。

  素敵だけどとっても複雑で、困難な道だね。

 

日:はは。違う違う、簡単な事さ。

俺はね、自分の力で月島エミカに逢いに行きたいんだ。

 

月:なっ!?

 

日:だからエミカは空の世界で待ってろよ。

  俺が海の世界から這いあがってやる。

  空を見上げればお前がいるって…

そう思えればどんな困難にも負ける気はしないからさ。

 

月: ……ずるいよヤマト。

 

日:はは。これ、俺が作った携帯なんだ。

  きっと世界が二つに分かれても、この二つだけは何時までも繋がってると思う。

 

月:海色に…空色の携帯かぁ。

 

日:好きな方を選べよ。

 

月:ふふ…それじゃあ私は――――。

 

( 間 )

 

星:おい、エミカ。

 

月: ……うぅ。

 

星:はは。寝てたのか。

  風邪引いちゃうぜ?

 

月: ……その乾いた笑い方。

  あの人にそっくり。

 

星:ああ?

 

月:ううん、何でもないよ。

  ただの寝言。

  本当に久しぶりにあの人の夢を見たの。

 

N:ヤマトの言ったことは本当だった。激しく移り変わる環境の忙しさで、

  頻繁に連絡を取り合っていた2人はどんどん疎遠になって行った。

 エミカは孤独の余り他の男と付き合ったこともあった。

  長い年月の中で、もうヤマトを信じるどころか

顔を思い出すことすら困難になっていた。

 

星:あの人って…。

  別れた恋人のことか。

 

月:あら、別れたなんて一言でも言ったかしら。

 

星:いや? でも、さ。

  だって……。あんた。

 

月:なあに?

 

星: ……なんでも無い、かな。

 

月:ふふっ、変なの。

 

星: ……なあ。

 

月:お腹減ってるでしょ?

  何か作ろうか。

 

星:ずっとこの家に住んで良いよ。

  エミカの気が向くまで好きなだけいれば良いよ。

 

月:カケル君。そーいう台詞は、本当に好きな人の為に取っておくべきだと思うなぁ。

 

星:エミカの真っ直ぐな性格が好きなんだ。

  なんていうか、穢れて無い生き方って言うのかな。

  一回もミスしたことのない、あんたの幸せな人生が好きなんだ。

 

月:無い無い!!確かに頭は良いなんて言ったけどさ、私って本当はミスしまくりよ!?

  君みたいな頑張っている人間に好かれる様な人間じゃないって!!

 

星:何を失敗したんだよ。

 

月:んー?

  …あの人を一人で行かせてしまった事かな。

  そのトラウマは、後悔っていうか呪いみたいで、

ずっと私を苦しめてきたから。

 

星:ほら…やっぱり綺麗な人だった。

 

月:君の言う好きって言うのはさ、

  きっと私の事を高級なお人形さんか何かだと思ってる、そういうのだよ。

 

星:はは。その通り。

  穢れきった俺には勿体無いし、理解できない感情なんだよ。

  好きってのはさ。

 

月:カケル…。

 

N:エミカは心をこぼし始めたカケルを眺めていた。

  自嘲ぎみに笑う少年の頬を一筋の涙が流れ星の様につたっていった。

  一人ぼっちで貧困に喘ぐ世界を生き続けてきたのだろうか。

  まるで闇の中に火の無い蝋燭が一本だけ立っているようだった。

 

月:それじゃあ、君が幸せになるまで傍にいてあげようか。

 

星:え?

 

月:誰だって弱ってる時は傍に誰かが居てほしいものだから。

  こんな私で良かったら一緒にいてあげるよ。

  あの人を探すまで拠点も欲しいしね。

 

星: ……エミカを信じても良いの?

 

月:ふふ、どーんと来い!

私ね、誰かのために生きるってのが座右の銘なんだ。

  おかげで随分寄り道をしたけど、その事で後悔はしてないもん。

 

星: ……はは。本当だ。

  エミカの心は嘘をついてないや。

 

月:当然!社交辞令なんか糞喰らえ!!って感じよ!!

 

星:違うよ。本当に心が読めるんだ。

 

月:え?

 

星:海の世界の人間は人の心が読めるんだよ。

 

月:う、うっそだぁ!!またまた――――。

 

星:何の取り柄もない自分たちが、空の世界の人間に見捨てられて、

広い海の中で孤独に生きていくうちに、

  臆病になりすぎて人の心が解るようになったんだよ。

 

月:お、大人をからかうもんじゃないわよ!?

  やだなあもう、私って怖い話は苦手―――――。

 

星:3日前だったかな、俺の家の近くに居座った一匹の魚の怪物が

  ずっとエミカの事を事細かに思い続けていたんだ。

 

月: ……それって。

 

星:日番谷ヤマトさんだっけ。

 

月:―――――ッ!?

 

星:最初はただの妄想だと思ってた。良くあることなんだ。

  だけど俺、気になったからヤマトさんの言葉を信じて迎えに行ったんだよ。

  少しでも空の世界に近づきたかったから。

  

月: ……。

 

星:そうしたら本当にエミカがいた。

  初めてまともな人間に会えて、俺すっごく嬉しかった。

 

月:そんな…私、カケルの服の事気持ち悪いとか、

夜のお仕事とか言われた時とかも…。

  結構ひどい事を思ってたよ。

 

星:ああ、そんなの。

  海の世界の人間に比べたらゴミみたいなものだよ。

  もっとエグイ奴等の掃き溜めなんだ。ここはさ。

 

月:あの人は…どこにいるの?

 

星: ……本当に逢いたいのか?

 

月:その為にここにきたの。

 

星:外にいる魚の怪物のどれかだよ。

 

月: ……ひっ!?

 

星:心が読めるついでにさ、

俺達は死にたくなったり絶望したりすると魚になるようになったんだ。

大海を自由気ままに泳ぐ魚に憧れ始めたからだって、偉い学者さんは言ってたけど。

 

月: ……だから、最後は泡になったり奇妙な深海魚になったりする訳ね。

 

星:そういうこと。生き方も人それぞれなら死に方も人それぞれってことだね。

 

月:まだ…ヤマトは言葉が解るよね?

 

星:大分腐ってきてるけどな。3日前に連絡した時点ではもう少し人型だったけど。

  今は脳みそまで――――。

 

月:止めて!!

 

星:今、少し心の中で日番谷さんと話してみたけど。

  もうすぐ死ぬってさ。

  それでも許されるなら、エミカと最後に話してみたいそうだ。

 

月:うん…良いよ。ずっと一人で頑張ってきたんだもん。

  最後くらい私もいてあげたいから。

 

星:本当にあんたは―――(ため息)。

こっちだよ。ついてきな。

 

N:エミカはカケルに案内されるままフラスコの底を歩き続けた。

  顔も思い出せないヤマトの事を無理矢理思い出して、

  そこかしこでうごめく魚の怪物の顔と照らし合わせる。

  しかし、カケルに目の前の肉塊を指差されるまで

エミカは全く気付くことが出来なかった。

  泡を吐きながら悪臭を発する怪物。

既にヤマトは人間ですらなかった。

 

星:こうなった以上、誰もこの人を助けることは出来ない。

  だからエミカ。せめて君が救ってあげなよ。

 

月:……うん。ありがとう、カケル。

  大丈夫だよ。私はその為に来たんだから。

  しばらく二人にしてくれる?

 

星:どうぞぉ。

  (去りながら)もっとも、心が読めるから意味は無いんだけどねぇ。

 

月:ふふ、ありがとう。

 

(間)

 

日:う……うぅ……。

 

月:久しぶりだね、ヤマト。

 

日: ……(うめき声)。(ここからは普通の状態ではない演技をしてください。)

 

月:全く、どうしてこんなになるまで私を呼ばなかったの?

 

日: ……合わせる顔が無かった。

 

月:ごめんね。私、貴方はもっと強い人だって勝手に思ってた。

 

日: ……俺だってそうさ。まさか自分がこうなるなんて思わなかった。

 

月:一緒について行ってあげればよかったね。

  そうしたら一緒に泡になってあげられたのに。

 

日: ……俺を恨んでないのか? ……勝手な理由でお前を地獄に呼び込んだ。

   ……お前を愛していたなら、黙って泡になって死ぬべきだったのに、

   俺は……俺は……。

 

月:(ご自由に台詞を言ってください。)

 

日:はは……。俺さ、10年前は何でも出来ると思っていたんだ。

  周りの奴らを皆バカだって見下してた。

 

月:正直ねえ。

 

日:夢を諦めた奴は努力が足りなかった屑だって思っていた。

  でも……本当に屑だったのは……本当に屑だったのは……。

 

月:(ご自由に台詞を言ってください。)

 

日:だけど今でも思うんだ。

 

月:なあに?

 

日:俺……あの時にもっと…もっと頑張っていれば……。

  お前に逢いに行けたのかなぁ……。

 

月:(ご自由に台詞を言ってください。)

  (答えが出ない方用 つ『ううん……もう頑張らなくてもいいんだよ?』)

 

日:はは。……サンキュ……エミカ。

  迷惑かけちまったけど……やっぱり……。

  最後にお前を信じて……俺は……よ…かっ………。

 

月:(ご自由に台詞を言ってください。)

(答えが出ない方用 つ『さよなら…ヤマト…。』)

 

(間)

 

月:おまたせカケル。

 

星:…ヤマトさん、心の中でずっと謝ってたよ。

  それからこの3日間、エミカに連絡した自分をずっと責めてた。

 

月:誰だって甘えたくなる時はあるわよ。

  そんな時に自分が頼られる人間になれたって事はさ、

  私も成長したってことだ!

 

星: ……すげえ、本当にポジティブババアだ。

 

月:あらあらー?意地悪言うとこのまま何処かへ消えちゃおうかなー?

 

星:行くなよ。っていうか傍にいてくれって。

  約束したじゃねえかぁ。

 

月:はいはい。じゃあ、しばらくお世話になりますかね。

  君の気が済むまでね。

 

星:じゃあ死ぬまでずっと一緒だな!

 

月:ふふっ、はいはい。

 

N:何故なのかは解らない。ただなんとなく二人は家とは違う方向に歩き始めた。

  普段は忌み嫌う筈の不気味な深海魚も二人で眺めるとどこか可愛げがあった。

  試験管の闇に2人が消えていく。その手はつながれていた。

 

星:良いカップルになれたと思うなぁ。

 

月:そんなの結果論よ。未来なんて誰にも解らないって。

 

星:確かにそうだよなぁ…。俺も魚にならない様に頑張ろうっと。

 

月:カケルならきっと大丈夫だよ。

 

星: ……その心は?

 

月:貴方には私がついてるもの。




 
 
 
     
 
           
inserted by FC2 system