題名  公開日  人数(男:女:不問)  時間  こんな話  作者
風のシルヴィア 2014/05/13  4(2:1:1) 30分 空(から)の心を満たしてくれる、宝物を探して。  ニコ

登場人物
(年齢)
性別 その他

シルヴィア
(26)

記憶を失った女性。ほのかに血の匂いがする金髪碧眼の美女。

大人の雰囲気をもった女性に演じて頂ければ幸いです。
アーウィン
(30)

黒髪に紫の瞳を持つ謎の商人。

台本を精読されれば解ると思いますが最も演技力が必要な役です。

ポタ
(11)
不問 『クロウリの村』で暮らす亜人の少年。青い子猫。

元気いっぱいのムードメーカーです。
ジェミ
(28) 
+山賊
 ♂  灰銀の猫。ポタの兄。
心優しい村のリーダー。

山賊と兼ね役で声を変えて頂けると幸いです。


風のシルヴィア」


記憶を失った女性の周りで起こった不条理で切ない物語です。

誰が正しくて誰が幸せになれたのか。


中世の幻想的な曲が似合うと思います。



シル:私は誰なのだろう。ここは一体…?

   なにも解らない……。

 

(間)(出来れば足音のSE)

 

シル:そうだ…この迷雑(めいざつ)とした森は私の心に似ている…。

   紐解いてしまえばきっと後悔することになるのに…。

   私は出口を求める歩みを止めることが出来ない…。

 

(間)(出来れば風のSE)

 

山賊:おい、女。

 

シル: ……誰だ?

 

山賊:金目のものを出せばここを通してやる。

   金が無い奴は皆殺しにしてるんだ。

 

シル:ああ…お前はそう言う人間か。

 

山賊:成りを見りゃあどんな奴かはすぐ解る。

   俺はみての通りどうしようもない『人間』だ。

 

シル:そして私は行くあてもない放浪者…か。

 

山賊:成りはともかく、あんた別品だな。

   一晩俺に付き合ってくれたら見逃してやっても良い。

   どうだい?

 

シル:結構。

 

山賊:あぁ?

 

シル:貴様の様な屑に売る身体は持ち合わせてはいない。

   ……と、私の心が言っている。

 

山賊:あーあ。言っちまったなぁ。

   いいよ別に。

   そう答えたら殺すって最初から決めてたんだ。

 

シル:一つだけ聞かせてくれ。

 

山賊:なんだよ?

  

シル:お前はそんな人生で満足だったのか?

 

山賊: ……何?

 

シル:お前の人生に誇りはあったのか?

 

(間)

 

ポタ:おい!

姉ちゃん! 姉ちゃんってば!!

 

シル: ……う。

 

ポタ:起きろ!姉ちゃん!

 

シル:う…うん?

お前は誰だい。

 

ポタ:おいらポタっていうんだ!

   森で倒れていた姉ちゃんをここまで担いできたんだぜ!

   偉いだろ!

 

シル:倒れていた…この私が…

   いや…何故…。

この私が……?

 

ポタ:な、なんだよ姉ちゃん!

   もしかしておいらが亜人だから嫌いなのかい!?

 

シル:違う、そうじゃない!

   あ…いや、助けてくれてありがとう。

   …ポタ。

 

ポタ:どういたしまして!

   ここは『クロウリ』の村!

   姉ちゃんみたいな訳ありの奴等の集う村さ!

 

シル:クロウリ……その名前は。

 

ポタ:そうだよ!

おいら達亜人の国さ!

一年前に獣王様が殺されてバラバラになっちゃったけどね

 

シル:クロウリ…獣王…。

ぐっ…!?

ぅ……。

そうだ…私の傍で誰かが倒れていなかったか?

 

ポタ:いいや?そもそも森に人間が近づくなんて滅多に無いんだ。

   人間を退(しりぞ)けるおまじないがしてあるんだって!

おいらの兄ちゃんは偉い呪術師なんだ!

 

シル:だったら…私はどうして…。

 

(間)(出来ればノックのSE)

 

ジェミ:やあ、娘さん。

 

ポタ:兄ちゃん!!

 

ジェミ:お加減(うるわ)しそうで何よりですね。

 

シル:貴方は?

 

ジェミ:僕は『クロウリの村』の(おさ)を務めているジェミと言います。

    ポタが貴女を連れてきたときはどうしようかと迷いましたが、

    まずは貴女の素性(すじょう)を知ってから方策(ほうさく)を練ろうと思いまして。

 

ポタ:そうだよ!

   姉ちゃんの名前は!?

   そんなボロボロになってどうしたんだよ!?

 

シル:私は……シル。だ。

 

ジェミ:シルさんですか。

    生まれは?どういった経緯で

我々の領域に侵入されたのですか?

 

シル:解らないんだ…私は何もかもを忘れてしまった。

   残っているのは…心のかすかな思い出だけ…。

 

ポタ: …兄ちゃん。

   この人…記憶を。

 

ジェミ:成程…だからこそ貴女は森の迷宮を越えて、

ここまで来れたのかもしれません。

無垢(むく)な心こそが迷宮を解き明かす鍵なのですからね。

 

ポタ:なあ姉ちゃん、だったらここで暮らせばいいんじゃないか?

 

シル:え?


ジェミ:ポタ…。

    何を言っているんだ。

 

ポタ:だって兄ちゃんが言ったんだろ!?

   クロウリの村を国を追われた者達の(いこ)いの場にするって!!

   種族や身分の垣根の無い平等な村を創るって!!

 

ジェミ:それはそうだけど…。

    彼女は人間なんだよ?

    僕たちの獣王様を殺し、国をバラバラにしたあの人間なんだよ?

 

ポタ:平気だよ!

   だって何も覚えて無いんだもん!

   それにこの村にはもう一人、人間がいるじゃないか!

 

ジェミ:アーウィンの事か。

    彼は特別だよ。

    人間の中には彼の様な良い人もいる。

 

ポタ:ほら見ろ!

 

ジェミ:ふむ……。

    おや?

    シルさん?

 

シル: ……。

 

ポタ:ん?どこを見てるんだ?

 

(間)

 

アー: ……これは驚いた。

   俺以外の人間がこの村に辿り着くとはな。

 

ジェミ:やあアーウィン。

    丁度いい、この娘さんに見覚えはありませんか?

    彼女記憶を失っているようなんです。

 

アー:記憶を……。

さあ、知らんね。

   人間の領土は広い。

   こんな薄汚い小娘とは縁が無いよ。

 

ポタ:なんだい!

   誰だって落ちぶれる時はあるさ!

   そんな時こそ助け合って生きなきゃ駄目なんだよ!

 

ジェミ:ポタ。アーウィンはこの村に物資を送り届けてくれているんだ。

    少なくとも彼は悪人じゃないよ。

 

ポタ:そりゃあ、感謝はしてるけどさぁ。

 

アー:まあ俺はどっちでもいいがね。

お代が手に入ればそれでいい。

 

ジェミ:そういう解りやすいところも含めて僕は貴方を信じています。

 

アー:ふん…俺にはどうでもいいことだ。

   記憶を失っていればこの村に入れるようになるって?

 

ジェミ:はい。我々を害そうとする人間をとことん拒絶する呪いですから。

    例え万の軍勢(ぐんぜい)であろうと村へ立ち入ることは出来ません。

 

アー:成程な。さすがは灰銀(はいぎん)のジェミ様だ。

   獣王の(そば)に仕えていただけの事はある。

 

ジェミ: …昔の事です。

    今の僕を見たらあの御方はなんと(ののし)ることか。

 

ポタ:やめなよ兄ちゃん!

 

アー:自分を責めるのは悪い癖だな。

   あの時お前が獣王の(そば)にいなかったのは

獣王にわざわざ(いとま)を与えられたからだろう。

 

ポタ:そうだよ…。

   兄ちゃんはあの時、獣王様に人間の国を見て来いって言われて…。

   悪いのは兄ちゃんじゃないよ。

   

ジェミ:…あの御方も僕も、人間を信じ過ぎたのです。

    そして人間の統べる鉄の国、

    アイゼフィールにクロウリは滅ぼされた。

 

アー:どうでも良い事だ。

   俺みたいなしがない行商人にとってはな。

 

ジェミ:ふっ…そうですね

    君にはどうでも良いことです。

 

アー:俺は金の話以外興味が無い。

   積荷は確かに降ろしたぞ?

   お前もさっさと金を用意しな。

 

ポタ:ふん!

   やっぱりお前は悪い方の人間だ!!

 

アー:だからどっちでも良いって。

それじゃあな、子猫ちゃん。

 

(間)(出来れば足音のSE)

 

シル:待て!!

 

ポタ:姉ちゃん!?

 

アー: ……何かな?

   御嬢さん。

 

シル:私は…お前に逢ったことがあるのか?

 

ジェミ: ……ほう。

 

シル:いや、忘れてくれ。

   だけど、何故だろうな。

   お前に逢えて…私は嬉しいのか?

 

ジェミ:どうなんですか?

    アーウィン。

 

アー:そりゃあ、獣臭い亜人だらけの村で人間に逢えたんだ。

   安心もするだろうよ。

 

ポタ:なんだとぉ!?

   

アー:子猫ちゃん、今度は頼まれてた飴も持ってきたぜ?

 

ポタ:ふん!! 人間の考えそうな汚い作戦だな!!

そうやっておいら達の牙を抜こうと…ぬこっ…

うっそ…本当?

 

アー:俺になついてくれるならただでやるよ。

   友達になろうぜ?

 

ポタ:ニャン♪

 

シル: ……確かに私はあの男に逢ったことがある。

   私の心がそう言っている。

   私は…。

 

(間)(回想)(出来れば喧騒のSE)

 

アー:うん?君は女性だな。

 

シル:はい。それが何か問題ですか?

 

アー:いや、入隊試験を合格した時点で君は立派な仲間だよ。

   歓迎しよう。

……例えそれがどんな手段であってもな。

 

シル:さすがはアイゼフィールの中で最も規律が緩く

門戸(もんこ)の開けたエルツィ傭兵団ですね。

団長にも品が無い。

 

アー:悪いな。お偉方の前ではもう少しまともに振る舞うんだが。

 

シル:人を見て態度を変えると仰るのですか?

 

アー:こう見えて男爵(だんしゃく)(くらい)を授かっている身でね。

   少なくとも気分で人に当たり散らす真似はしないさ。

 

シル:立派な心がけです。

 

アー:シルヴィア君と言ったか。

 

シル:はい。

 

アー:シルヴィア・シルフィード君か。

シルヴィア…。

我々の国で第三位の宝石、龍輝石(りゅうきせき)を名乗るとはな。

 

シル:団長こそ。第一位の宝石を名乗っているではないですか。

 

アー:ふっ、まあせっかく一念発起(いちねんほっき)して傭兵になったんだ。

   名前も素性も騙(かた)った者勝ちだろ?

   そう思ったら、目標は高い方が良いと思ってな。

 

シル:私だって同じです。

   おとぎ話の中の竜騎士シルヴィア。

   彼女の様に自由に豊かに生きてみたいと思ったんです。

 

アー:ああ、そっちの『シルヴィア』か。

   なんにせよここは傭兵団だ。

   戦場が仕事場、いつまでも綺麗な顔のままでいれると思うなよ。

 

シル:そこまで私が女であることを馬鹿にするというのであれば試してみますか?

   貴方達、エルツィ傭兵団の流儀で。

 

アー:やれやれ…猪武者だったか。

気遣ったつもりだったんだけどな。

 

シル:騎士の誇りを(もっ)て貴方に決闘を申し込みます。

 

アー:誇りねえ…。

 

シル:受けるのか!?受けないのか!?

 

アー:はいはい受けますよ。

   誇り高い騎士様の申し出だ。

 

(間)

 

ジェミ:ぐっ…うぅ…。

 

ポタ:(手当をしながら)よしっ!終わり!!

…なあ、どうしてこんな酷い怪我今まで隠してたんだ?

 

ジェミ:この傷は……認めたくなくてね。

 

ポタ:恥ずかしい傷なのか?

 

ジェミ:ふふふ。 そうだよ。

慣れないことをして、手元が狂ってしまったんだ。

 

ポタ:もしかして誰かにやられたのかい?

兄ちゃんに傷をつけられる相手なんて、

獣王様かドラゴンくらいなのに。

 

ジェミ:ポタにもいずれ解るさ。

    どれだけ力があっても、それを活かすには何かが必要だって事に。

    僕はそれに気づいたから、こうやって生き延びることが出来たんだ。

 

ポタ:それって…宝物かい?

 

ジェミ:ああ。

    命を()して守りたいものだよ。

 

(間)(回想2)

 

シル:はぁ…はぁ…てやぁ!!

 

アー: ……ぐっ!?

 

シル:はぁ…はぁ…ありがとうございました。

 

アー:はぁ…はぁ…。

なんだお前、(しばら)く見ない間にこんなに強くなったのか。

 

シル:団長のおかげです。

貴方が私に戦の手ほどきをしてくれなければ、

   こうやって正式な騎士になることも出来ずに、

とっくに野垂れ死んでいましたよ。

 

アー:大したことは教えて無いよ。

 

シル:いえ、貴方は私にとって、

他の誰よりも優しくて尊敬できる御方でした。

 

アー:そりゃあどうも。 あの時の小娘がここまで立派になるとはねぇ。

   今じゃ国王陛下の覚えもめでたいって話じゃないか。

  

シル:そうですね…確かに昔の私は誇りを振りかざすだけの。

……嫌な女だったのかもしれません。

 

アー:心配するな、誰だって初めはそんなもんさ。

   余裕もないまま、他人と競争する事だけを考える。

   そこから這い上がれるかどうかは、心の在り方次第だ。

 

シル:今ならそれが良く解ります。

   やっと私にも本当に守りたいものが出来ました。

 

アー:ほう、どんな宝物かな?

 

シル:総てはアイゼフィール国の繁栄の為に。

 

アー: ……何?

 

シル:アイゼフィールは流れ者の私を受け入れ、爵位(しゃくい)を与え、

こうやって貴方に打ち克つまでに育んでくれた。

   ……この国は私の総てです。

 

アー: ……シルヴィア。

 

シル:ええ。

団長が仰りたい事は解ります。

   私を愚かだと(ののし)るのでしょう?

 

アー: ……。

 

シル:でもね、いいじゃないですか。

   ここが私の終わる場所でも。

   総てを信じる相手がこの国でも。

 

アー:俺には出来ない生き方だ、祖国の為に生きるなんて。

   俺は仲間の命を守るだけで精一杯だよ。

 

シル:ふふっ。だったらどうして私を何度も避けたんですか?

   こんな小娘一人くらい幸せにしてくれれば良かったのに。

   ……私を背負うのが怖かったんですか?

 

アー:いいや、違うね。

   部下と恋仲になる訳には行かないからさ。

   なにせ俺は、男爵(だんしゃく)(くらい)を持つ紳士だからな。

 

シル: ……先ほども、わざと負けてくれたくらいですからね。

 

アー:はっ、どうでもいいことだ。

 

シル:そうですね…。

   今となってはどうでもいいことです。

 

アー:……それで?

   何だかんだで苦手な俺に逢いに来たんだ。

   それ相応の理由があるんだろ?

 

(間)(夜。出来れば虫の鳴き音)

 

ポタ:姉ちゃん。

 

シル:ああ…ポタ…だったか。

 

ポタ:眠れないのかい?

 

シル:逆さ。ここに来てから眠り過ぎてな。

   これ以上眠ると駄目な気がしたんだ。

 

ポタ:おいらも同じだよ。

   寝ると嫌な夢ばかり見るんだ。

 

シル: ……どんな夢なんだい?

 

ポタ:おいら達の国。

   クロウリの夢さ。

 

シル: クロウリは…どんな国だった?

 

ポタ:国って言うか、家族の集まりって感じだったな。

   普段は種族同士でのんびり暮らして、必要な時は皆で助け合うんだ。

   お祭りを開いたり、キャラバンを創ったりしたなぁ。

 

シル:獣王は…どんな人物だった?

 

ポタ:獣王様かい?

   おいら達のまとめ役さ。

   とっても優しくて賢くて、それでいて強かった。

 

シル: ……()御仁(ごじん)だったのだな。

 

ポタ:うん…。

   ……ねえ、止めようよ。この話。

 

シル:どうして?

 

ポタ:だって姉ちゃんは記憶を失ってるんだろ?

 

シル: ……。

 

ポタ:もしもこの先ずっと人間を許せなかったら…。

   本当においら達は『人間みたいに』なってしまうから…。

 

シル:そうだね。

 

ポタ:だからおいらは我慢することにしてるんだ。

 

シル:偉いね。ポタ。

 

ポタ:兄ちゃんが姉ちゃんに伝えてくれって。

   『もしも貴女が獣王様を殺した人間に心当たりがあるのなら、

その時、僕は憎しみを込めて貴女を殺すことを止められないだろう』って。

 

シル: ……優しい人なんだなぁ。

ポタのお兄さんは。

 

ポタ:うん!

   おいら達の誇りさ!

   兄ちゃんがいるからおいら達は諦めないで頑張れるんだ!

 

シル: ……ポタも凄く優しいね。

 

ポタ:獣王様はもっと優しかったんだ!!

   いつか人間とも家族になってみせるって何時も言って―――――あっ。

   ……だからクロウリは滅びちゃったのかな。

 

シル:ごめんね。   

 

ポタ:なんでこんな目に会わなきゃいけなかったのかなぁ。

   おいら達って何か悪い事したのかなぁ。

 

シル:ごめんね。

 

ポタ: ……(泣く)。

 

シル:ごめんね。

 

(間)(回想3)

 

アー:本気でこの命令を遂行するつもりなのか?

 

シル:国王陛下の勅命(ちょくめい)です。

   私に断る理由はありません。

 

アー:獣王を暗殺するまでは良いとしよう。

   俺達はそういうのも仕事だからな。

   けどな、その後に全ての記憶を消すってのはどう考えても―――。

 

シル:それがアイゼフィールの為になるのであれば。

 

アー:裏で処分されても良いって訳だ。

 

シル:私は祖国を信じます。

 

アー:怪物だな。お前は。

   いにしえの英雄シルヴィアには似ても似つかない。

 

シル:ふふ、そうですね。

   あーあ。本当に、どうしてこうなっちゃったのか。

 

アー:お前を止めるにはどうすればいいんだ?

 

シル:そんなの解りませんよ。

   だから貴方を訪ねてきたんですから。

 

アー:無理だな。

   今更勅命(ちょくめい)を断ったら死罪だ。

 

シル: ……。

 

アー:仕方ない。

   ……俺なりにお前を助けてやるよ。

 

シル:え?

 

アー:その時お前は全部忘れているだろうけどな。

   せいぜい幸せに生き抜いて見せろよ?

馬鹿女。

 

(間)

 

ジェミ:ここにいたのですか。

 

アー:おや、灰銀の。

 

ジェミ:まさか、貴方が悪名高いシルヴィアの知り合いだとは…。

思いも寄りませんでしたよ。

    アーウィンさん。

 

アー:ふふ…まあね。

   俺もあいつに再会出来るとは思わなかったさ。

 

ジェミ:やはり人間を信頼すべきでは無かった。

    うかつにも貴方に森の迷宮を抜ける(すべ)を口走ってしまいましたよ。

 

アー:ふふっ、今の俺は只の行商人だって言っても信じちゃくれない、か。

 

ジェミ:信じたくとも、彼女は私にこれ程の手傷を負わせました。

 

アー:本当に強くなったよなあ…あいつ。

 

ジェミ:見た目の特徴も手配書に酷似(こくじ)している。

    間違いなく彼女は獣王様を殺めた『人間』だ。

    そのシルヴィアの知人というだけで…

私は殺意を抑えることが出来ない。

 

アー:我慢することは無いさ。

   俺達はそれだけの事をした。

   そうさ、負け犬同士で殺し合うのも悪くない。

 

ジェミ:ここから出て行ってください。

    お二人で。

 

アー: ……そう来たか。

   どうしてだ?

 

ジェミ:呪いの構成を変えます。

    もう二度と会う事もないでしょう。

 

アー:お前さんも、宝物って奴の為か?

 

ジェミ: ……僕は、死ぬわけにはいきません。

    この村で生きる亜人の為に。

    他の地で苦しむ亜人の為に。

    まだまだ生きなければいけないんです。

    彼女と刺し違える前に、それに気づきました。

 

アー:ついでに、シルヴィアの頭の中を覗いたわけだ。

   あんた程の呪術師ならそれも出来るだろうからな。

   …良い女だろう?  あいつ。

   

ジェミ: ……条件を呑んでください。

    さもなければ。

 

アー:あいつの命が助かるなら俺に断る理由は無い。

 

ジェミ: ……貴方も僕も、彼女も同じだったんですね。

    ……どうしてこうなってしまったのでしょうか?

 

アー:どうでもいいさ。

俺はあいつを守れなかった。

   多分、まぶし過ぎたんだろうな。

 

ジェミ:ふふ…解りますよ。

    彼女は良い他人(ヒト)ですからね。

 

アー:すまなかった。ジェミ。

 

ジェミ:お元気で。

    ……アーウィンさん。

 

(間)(回想4)

ポタ:兄ちゃん!人間の国ってでっかいんだね!!

   うわぁぁ!!うっわぁぁ!!

 

ジェミ:こら、余りはしゃぐんじゃないよ。

    折角僕がこしらえた人間の擬態がばれてしまうじゃないか。

 

ポタ:大丈夫だって!

   兄ちゃんの呪術は完璧だもん!

   それにさ!

 

ジェミ:うん?

 

ポタ:今頃クロウリじゃ、獣王様と人間の使者が和睦(わぼく)の交渉をしてるはずだよ!

 

ジェミ:もしそれが成立したら……。

    そうしたらこの景観を気兼ねなく楽しめる日が来るんだろうね。

 

ポタ:だから何の心配も要らないって!

   もっと楽しんでよ!

折角とれたお休みじゃないか!!

 

ジェミ:ふふ…案外アイゼフィールの御使者殿(おししゃどの)も、

    ポタと同じように異国の地を楽しんでいるのかもしれないね。

 

ポタ:あったりまえだろ!!

これで皆幸せになれるんだもん!!

 

ジェミ:シルヴィアかぁ…一体どんなお人なんだろうね。

    きっと名前の通り、風の様に爽やかな女性なんだろうね。

 

(間)(草原。出来れば風のSE)

 

シル: ……良い風だ。

 

アー:本当にな。

 

シル:ここは何処だ?

   ええと……アー…ウィン?

 

アー:さあなぁ、

   何処へ通じる道なんだろうな。

 

シル:ん……?

お前…名前…本当に…アーウィンだった…っけ?

 

アー:忘れたよ。昔の名前なんて。

   お前もそうだろ?

   シルヴィア。

 

シル:誰だ?それは?

 

アー:ふふっ…いや、何でもないよ。

   どうでもいいことだ。

   また初めからやり直せばいいだけさ。

 

シル:初めから……。

 

アー:もう何も思い出すなって。

   お前は綺麗な顔のまま、

夢を追い続けていればいいんだよ。

 

シル:そうだ…私は前にもこうやって、見果てぬ草原を歩き続けた事がある。

   (から)の心を満たしてくれる、宝物を探して。

 

アー:お前ならきっとまた見つけられるさ。

   ……絶対幸せになれる。

 

シル:ありがとう。

   お前の事はきっと忘れないよ。

   …約束する。

 

アー: ……(ひと)りで行けそうか?   

 

シル:大丈夫。

   風の(おもむ)くままに探してみるさ。

   私の夢を。

 




 
 
 
     
 
           
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