題名  公開日  人数(男:女:不問)  時間  こんな話  作者
風のシルヴィア(2)~夢見る少年の(ひとみ) 2014/06/06  4(2:1:1) 30分

自由に生きればいいさ。素敵な名前に恥じない生き方をな。

 ニコ

登場人物
(年齢)
性別 その他

シルヴィア
(26)

記憶を失った女性。

大人な女性役です。演技力に期待。
ロミオ
(19)
不問

シルヴィアの元同僚で現在は盗賊をしている。
どこか大人びた雰囲気の黒髪少年です。

澄んだ声の男性(若しくは女性)に適した役です。

盗賊・団長
兼ね役です。出番は控えめ。
盗賊はヘビ族という亜人です。

団長はダンディーな成人男性です。
出来れば声を変えてください。
頭目
 ♂ 盗賊団のリーダーです。
初老のヘビ族です。

クズですのでノリノリで演じてください。


風のシルヴィア(2)~夢見る少年の(ひとみ)~」



記憶を失った少女はかつての仲間と出会う。

前話を知らなくても大丈夫な様に作りました。

100%ファンタジーです。

台詞の改変などはご自由に行ってください。




( 回想 )( 星空の草原 )

 

シル:なあ、ロミオ。

お前は誰のために生きているんだ?

 

ロミ:そりゃあシルヴィア(ねえ)さん。

   自分の為じゃないっすかね。

 

シル:自分…か。

 

ロミ:と言うよりも、今は生き抜くだけで精一杯っすよ。

   俺は(ねえ)さんみたいに強くないんでね。

 

シル:どうして傭兵なんて生き方を選んだ?

 

ロミ:そりゃあ戦場で名を上げてぇ、

チヤホヤされてぇ、

凱旋(がいせん)美酒(びしゅ)に酔う為っす。

ガキの俺ですら解る最高の幸せっすよ。

 

シル:ふうん。

確かにこうやって野原に寝そべって、

夜風(よかぜ)(さかな)に二人で飲む酒も悪くは無いな。

 

ロミ:傭兵稼業はこれだから辞められないっす。

   星空も(ねえ)さんも綺麗だし、俺はそれだけで満足っすよ。

 

シル:ふふ…。

   若いねロミオは。

 

ロミ:まだ17っすからねぇ。

   早く大人になりたい年頃っすよ。

( 酒を飲む )…姐さんは誰の為に生きてるんすか?

 

シル:殺し合うのが嫌いだ…とは言わないさ。

   己の限界を試し、仲間と共に敵を討ち倒すのはとても楽しい。

 

ロミ:???

   答えになってねーっす。

 

シル:私はな、例え自分が傭兵という使い捨ての駒だとしても、

誰かの為に剣を振るうという幸福(こうふく)を得たいんだよ。

 

ロミ:要は誰かと幸せになりたいって事っすか?

 

シル:そう聴こえたのなら、

   それはそれで構わないよ。

 

ロミ:エルツィ傭兵団の一番隊隊長、

シルヴィア・シルフィードともあろう御方(おかた)が…。

酒が入るとロマンチックになるんすねぇ。

 

シル:ふふ…。

お前も名に恥じぬ生き方を選べよ。

   ロミオ・ジュピトリア君。

 

ロミ:勿論っす!!

 

シル:相変わらず大層な名前だな。

   口にする度に頬がこそばゆくなる。

 

ロミ:それでも俺にとっちゃ最高の宝物っす。

親がつけてくれた自慢の名前なんすからね!

 

 

( 間 )( 現在:野盗の巣窟 )

 

 

盗賊:ミズチの親分!!

あの女ここに来てから何も食ってねえみたいでシャア!!

 

頭目:ジャハハ…もう三日になるか。

   まあ、死にそうになるまでは放っといても良いだろ、

   あいつを捕まえる為に手下が何人斬られたと思ってやがる。

 

盗賊:しかし良い拾い物をしたもんでシャア!

記憶を失っているにせよ、あれだけの上玉(じょうだま)だ。

お客に困りもしねえでシャア!

   

頭目:応よ、薄汚れた髪から覗く金の糸、

   (ほこり)まみれの服から覗く真っ白な肌、

   暗闇の中に誇りを讃えた青い瞳、

   ありゃあ磨けば光る!とんでもねえ宝石だ!

 

盗賊:シャハハ!

馬車隊を皆殺しにした甲斐があったでシャア!

 

頭目:野盗(やとう)巣穴(すあな)の前を素通りしようって方が悪いのよ!!

   それにあんな上玉(じょうだま)の匂いを、

俺が見過ごす(はず)がねえんだ!!

   

盗賊:シャハハ!

親分の鼻の良さには本当に驚くでシャア。  

   伊達(だて)に二十年も野盗をやってないでシャアな!

 

頭目:ジャハハハ! 応よ!!

   ……だがなぁ?

   俺達ヘビ族にとって一番大事なのは『 () 』だ。

 

盗賊:()でシャアか?

 

頭目:俺はこの眼のおかげで今まで生き抜いてこれたんだ!

   目利きに関しちゃあ人間如きに遅れを取る訳がねえよ。

 

盗賊:カックイィィ!!

   一生ついていくでシャア!

 

頭目:ジャハハハ!

   可愛い奴等(やつら)じゃねえか!!

   よし、お前等(まえら)!!

   あの女をちょっと噛んで来い!!

 

盗賊:ひょえええ!?

   良いんでシャアか!?

 

頭目:味見だって大事なお仕事だ!!  

   ただでさえ薄暗くてジメジメした洞窟の中なんだ、

   ヘビらしく生きなきゃナメクジか蝙蝠(こうもり)になっちまう。

 

盗賊:お……親分……!!

聞いてたでシャアか新入り!?

   親分にちゃんと御礼(おれい)を言うでシャアよ!?

 

ロミ: ……。

 

頭目:ジャハハハ!!

   ああロミオ、おめぇもおめぇなりに楽しんできたらいいさ。

   俺は人間の、そう言うのもちゃぁんと理解しているからな!!

 

ロミ:はは。

俺が…俺なりに楽しめる事…っすか。

 

頭目: ……なんでぇ。

オークならともかく、人間相手なら不満はねえだろうが。

   小汚いのが嫌だってんなら、それこそ贅沢(ぜいたく)だぜ。

 

ロミ:はは、ミズチの親分は本当に賢いっすね。

   でもそういうのは勘弁してほしいっす。

 

頭目:ジャハハハ!!

   お堅いねえ人間ってのは!!

   今まで俺達と一緒に、散々悪事(あくじ)を働いてきた癖によ!!

 

ロミ: ……。

 

盗賊:やい新入り、まさか今更堅気(かたぎ)に戻りたいとか抜かすでシャアな!?

   ちょいとばかり女にもてそうな顔してるからって生意気シャア!

   

ロミ:ふふ…この顔は親譲りなもんでね。

   その代わりあんた達ヘビ族には、

立派なウロコや(たくま)しい尻尾があるじゃないっすか。

 

盗賊:えっ。

   いや…まあ…。

   シャ、シャハハハ!!

 

ロミ:それより、あの女は大事な商品なんすよね?

   だったら壊される前に、

栄養をつけさせなきゃ嘘になる。

 

盗賊:だーかーらー!!

   あの怪物がそう簡単に死ぬ訳無いでシャアよ!!

 

ロミ:万が一ってこともあるっす。

   ミズチの親分、

俺に任せてくれないっすか?

 

頭目:ジャハハ…勝手にしな!!

 

ロミ:それじゃ、行ってくるっす。

 

頭目: ……あの野郎、剣の腕を見込んで仲間に入れてやったが、

   どうにも眼がいけねえな。

 

盗賊:眼…でシャアか?

 

頭目:夢を諦めちゃいねえ眼だ。

   俺達の稼業(かぎょう)にそんなものは必要ねえってのによ。

 

盗賊: ……。

   ひょっとしてあっし等って、

下衆(げす)でシャアか?

 

頭目: ……ジャハハ!!

   ジャハハハハハ!!

 

 

( 間 )( 野盗の巣窟:牢獄 )

 

 

ロミ:まだ生きてるっすか?

 

シル:お前…人間か?

 

ロミ:見ての通りっす。

   それより身体、

動かせるっすか?

 

シル: ……放っておけ。

   トカゲ共の麻痺毒のせいで(しゃべ)りたくも無い。

 

ロミ:無茶してでも飯を食わないと、

   身体、良くならないっすよ?

 

シル:ふ……食って何になる。

   お前たちが満足するだけだろうが。

 

ロミ:ご明察。

   その後あんたはヘビ族共の餌食(えじき)って訳っす。

 

シル:無様(ぶざま)なものだ。

   記憶を失っているにせよ、

   貴様らの様な屑に捕えられるとはな。

 

ロミ:俺の事も覚えてないっすか?

 

シル:何……?

   私はお前に以前逢ったことがあるのか?

 

ロミ:いや……いいっす。

   つまらない話っすよ。

   所詮俺は負け犬っすからね。

 

シル:ははは。

今となっては私も負け犬だ。

昔何があったにせよ、

今じゃ何があっても思い出せないのだからな。

 

ロミ:人生、(あきら)めてるんすか?

 

シル:どうだろうな。

   今でこそ(とら)われの身だが…。

   いずれ機会を作って脱出してみるかな。

 

ロミ:三日も飲まず食わずで、

   ヘビ族の巣窟(そうくつ)で、

   そんな機会が来ると思ってるんすか?

 

シル:諦めてはいないさ。

   自分を信じることが出来ないことが一番の苦痛だと、

   私のかすかな記憶の欠片が教えてくれているんでな。

 

ロミ:甘いっすよ。

   以前のあんたならこんな(けが)れた場所に来ることも無かったんだ。

   ガキなんか(かば)うからこんな目にあったんすよ。

    

シル:そうだな。

記憶を失って…丸くなれたのかもな。

 

ロミ:きっとそうっす。

 

シル:結構色んな人間に出会うが、

(うら)まれている方が多い。

   昔の私は良い人間では無かったんだろうな。

 

ロミ: ……。

   一つだけ教えてほしいっす。

 

シル:一つ(くらい)ならな。

 

ロミ:もしも俺があんたを助けたら、

   俺の事、少しは好きになってもらえるっすか?

 

シル: ……うん?

 

ロミ:いいや…違うな。

   そうだ!!

俺の名前を覚えてくれるっすか?

 

シル:ハッ……!!

ハハハハ!!

 

ロミ: ……。

 

シル:何、言ってみたらいいさ!

   助ける助けない以前に興味がある、

余程自信がある名前なのだろうなぁ?

 

ロミ:俺の……。

   俺の名前は……。

 

 

( 間 )( 回想 )( エルツィ傭兵団:野営地 )

 

 

団長:ロミオ・ジュピトリア君か?

 

ロミ:はいっ!!

 

団長:ふふっ、

大層(たいそう)な名前だな。

 

ロミ:親がつけてくれた大事な名前っす!!

   俺の素性(すじょう)は明かせませんがこれだけは本当の本当っす!

   俺の宝物っす!!

 

団長:だ、そうだ。

   シルヴィア隊長。

 

シル:貴方(あなた)がそれを言うのですか、団長。

   我々は似た者同士でしょうに。

 

団長:確かに。

   だからこそ俺達は(つど)うのかも知れないな。

   エルツィ傭兵団は宝探しの連中で一杯だ。

 

シル:おや、そういう人事なのですか?

 

団長:おお、そうだな。

   まあ目がキラキラしている連中と仕事をした方が楽しいしな。

   そういう連中には、

()てして運もついてまわるもんだ。

 

ロミ:あのっ、

 

シル&団長:うん?

 

ロミ:エルツィ傭兵団は素性(すじょう)や名前が(わか)らなくてもきっと仲間に入れて貰えるって、

   俺はそう聞いて村から飛び出してきたんっす。

 

団長:家出か。

 

ロミ:違うッす!!

   親はどっちも病気で死んでるっすよ!!

 

シル:成程…。

   捨て身の覚悟を強みにしてここまで来たわけか。

 

ロミ:そうっす!

もう失うものは何もないっす!

後はここから()い上がるだけだってね!!

 

団長:(よわい)は16か。

   自分の頭で将来を考えるには、

   そう悪くない歳だ。

 

シル:人を殺す覚悟はあるか?

 

ロミ:えっ?

 

シル:傭兵と名乗るからには国の出資の元、

戦場へ(おもむ)き『 (もと) 』を取ってこなければならない。

並みの仕事ではないよ?

 

ロミ:い、いえ。

   そうじゃなくて、

 

シル:うん?

 

ロミ:(ねえ)さんみたいな綺麗な人がいきなり人を殺す殺さない何ていうから。

   ……びっくりしたっす。

 

シル: ……。

 

団長:ハハハ!!

   元気が良いなぁロミオは。

 

ロミ:えっ!?

   だ、だって本当の事じゃないっすか!?

   村は勿論(もちろん)、アイゼフィールの王都でも逢えませんでしたよ!?

   こんな綺麗な人!!

 

シル:お前みたいなオマセなルーキーに出逢ったのも、

私は初めてだよ。

 

団長:気に入ったぞロミオ!!

   もしも本気でエルツィ傭兵団に入りたいなら、

シルヴィアの隊に入れて(もら)うといい。

 

シル:なっ!?

 

団長:この件はお前に任せる。

   俺はこの後、王都の御偉方(おえらいがた)に呼ばれてるもんでな。

   (いとま)が無いんだ。

 

シル: ……。

 

ロミ:よろしくっす!!

   (ねえ)さん!!

 

シル:シルヴィア・シルフィードだ。

   ……(ねえ)さんじゃない。

 

 

( 間 )( 野盗の巣窟:通路 )

 

 

シル:( 荒い息 )おい、待て。

   何故私を逃がすんだ!?

 

ロミ:( 荒い息 )俺の名前、

   覚えたでしょ?

 

シル: ……ロミオ・ジュピトリア。

 

ロミ:それだけで……!!

充分っすよ…!!

 

シル:解らんな。

   お前は私の恋人か?

 

ロミ:はははっ……!!

   そうだったらどれだけ良かったか。

   ……結局俺は、

夢を諦めた負け犬っすよ。

 

シル: ……夢?

   どんな夢だ。

 

ロミ:どうして嫌になっちまったんだか。

   自分じゃあもう少しお役に立てるつもりだったんすけどねぇ。

 

シル:答えになっていないぞ。

 

ロミ:人殺しなんて苦じゃ無かった。

   ただ、自分の限界が見えてくるのが痛かったんだ。

   心がその痛みに耐えられなかったんすよ。

 

シル: ……。

   それでも耐えて、

歯を食いしばるから人は綺麗でいられるんだろう?

 

ロミ: ……やれやれ、

   そう言う所は変わってないっすね。

   ―――――ッ!?

 

頭目:ジャハハハ!!

 

シル: ……どうやら筒抜けだったようだな。

 

頭目:おう、糞餓鬼(くそがき)

 

ロミ: ……なんすか?

親分。

 

頭目:そりゃあこっちの台詞だぜ。

   こりゃあ一体どういう料簡(りょうけん)なんでぇ?

 

ロミ:見りゃあ解るでしょうよ。

 

盗賊:ロ、ロミオッ!?

   俺達を裏切るでシャアか!?

 

ロミ:だぁってなぁ。

こっちの方が俺には大事なんですもの。

 

盗賊:てっ、てめえ!?

 

頭目:ジャハハハ!!

これだから人間は信用できねえんだ!!

どれだけ小奇麗(こぎれい)だろうと心の中は相手の裏をかくことだけ考えていやがる!!

俺もとんだ焼きが回ったもんだぜ!!

 

ロミ: ……お世話になったッす、親分。

 

頭目:おぅ、おめぇ等!!

   脱走者に裏切りもんだ!!

   思う存分食って良いぞ!!

 

盗賊:シャアアア!!

 

ロミ:ちぃっ!?

(ねえ)さんは下がってて下さい!!

 

シル:そういう訳にはいかん。

   何せこっちも立っているのがやっとでな。

 

ロミ:だったら俺が二人分戦うっすから!!

 

シル:それは違うな。

味方が多いうちに精一杯足掻(あが)きたいんだ。

   ……それが生き残るってことだろう?

 

ロミ: ……。

 

盗賊:シャアアアアア!!

 

頭目:ジャアアアアア!!

 

シル:ふっ……。

今となっては何をか問わんが、

助けてくれてありがとう。

   ロミオ。

 

ロミ:ああぁ……もう!!

 

 

( 間 )( 回想 )( 夢を諦めた丘 )

 

 

シル:エルツィ傭兵団を出ていくのか?

 

ロミ: ……(ねえ)さ…隊長。

 

シル:脱走するのか?

 

ロミ: ……。

   見ての通りっすよ。

 

シル:どうしてそこで冗談にしないかなぁ。

   そう言う所がお前の良い所であり、

()しき所だぞ。

 

ロミ:見つけて欲しかったのかも知れないっす。

   他ならぬ隊長に。

 

シル:死にたいのか?

 

ロミ:いいえ。

   けど何も見えないんすよ。

   今この状態で戦場へ出たら、俺は確実に死ぬッす。

 

シル:( 溜息 )――。

だろうな。

 

ロミ:だったら俺の好きな人に全部打ち明けて、

   後はその人の思うがままにされようって、

   そう思ったんすよ。

 

シル:甘えるな。

 

ロミ: ……。

 

シル:自分の意思でお前はここまで来たのだろう?

   だったら最後も自分で決めろ。

 

ロミ:俺は……。

   どうしたらいいんすか?

 

シル:出ていくというのなら止めはしないさ。

   脱走兵を殺すのが隊長たる私の(つと)めだが、

   お前は兵士ですら無いのだからな。

 

ロミ: …違うっすか。

 

シル:兵士とは己自身と戦い、

   己の身を(まも)り、

   誇りと信念を曲げない者の事を言う。

 

ロミ: ……成程。

   我が身恋しさだけじゃ、

   辿(たど)りつけない夢だったんすねぇ。

 

シル:お前がここで手に入れたものは全て置いていけ。

   そして新しい人生を歩けばいいさ。

   ……何でもなかったんだ。

 

ロミ: …そうかなぁ。

 

シル:夢から()めただけだよ。

 

ロミ: ……良かったのかなぁ。

   これで。

 

シル:( 溜息 )自由に生きればいいさ。

   素敵な名前に恥じない生き方をな。

 

ロミ:最後に一つだけ良いっすか?

 

シル: ……。

一つくらいならな。

 

ロミ:別に自分の為だけに戦ってきた訳じゃないっす。

   確かに自分の名前も大事だったけど―――。

   俺は…俺は本当は。

 

シル:ふふっ……どうしたんだ?

   ロミオ・ジュピトリア。

 

ロミ:( 諦める )いや、何でもないっす。

   あーあ……!!

   俺もとうとう18になっちまったなぁ。

 

シル:元気でな。

 

ロミ:(ねえ)さんもね。

 

 

( 間 )( 野盗の巣窟:血糊塗れの活路 )

 

 

頭目:( 荒い息 )……ジャハハハ。

   やっぱり俺の眼に狂いは無かった。

   何処で(つちか)ったものかは知らねえが、

   やっぱり良い腕だぜ…ロミオ。

 

ロミ:( 荒い息 )そりゃあ…どうも。

   ただで死ぬ訳には…いかなくなったんでね。

 

頭目:あーあ、守る者が居るってのはそんなに良いものかねぇ。

   ジャハハ……そんなもん聞くまでもねえか。

   俺も誰かが、何かが居れば…野盗なんざやってねえわな。

 

シル:ふんっ!!

 

盗賊:ギャアアアッ!?

   グッ…グフッ……。

 

シル:( 荒い息 )(まく)だぞ……!!

   トカゲの親玉……!!

 

頭目:ジャハハハ!!

   トカゲじゃねえ『ヘビ』だ!!

   ……全く何て奴らだ!!

俺の仲間を皆殺しにしやがって。

   

シル:今まで貴様等の餌食(えじき)になってきた人間の(うら)みだ。

   生かしては置けないな。

 

頭目:食うだけじゃねえよ!!

   身なりの良い女は金持ちに売り飛ばしてるさ!!

   お前が身を(てい)して(かば)ったあのガキは食い殺しちまったがな!!

   ジャハハハ!!

 

シル:貴様ッ!!

 

頭目:グヒャアッ!?

   ハッ、ヒィッ、痛ででで!!

 

シル:待てっ!!

 

頭目:た、たすげでぐれぇぇ!!

   たすげでぐれえぇぇぇロミオォォ!!

 

ロミ:なっ!?

 

頭目:おめぇを拾ってやった俺を見殺しにする気か!?

   あの怪力女から俺を守ってくれよぉぉ!?

   助けてくれよぉぉ!?

 

ロミ:あんた…!!

   何をッ…くっ…!?

 

頭目:守るべき者が欲しかったんだろぉぉ!?

   恩を(あだ)で返すのかよぉぉぉ!?

   見逃してくれよぉォォ!!

 

シル:( 被せる )――――ッ!?

   そいつから離れろ!!

   ロミオ!!

 

ロミ:えっ!?

   ……ぐっ…あぁ…!!

 

頭目:ジャハハ…ヘビ族自慢の石化毒だ。

   自分だけ幸せになろうなんざ虫が良過ぎるぜ……!!

   てめえはここで…死んでいきな……!!

 

ロミ:ひっ…ひぃぃぃ……!!

 

シル:きさまぁぁぁ!!

 

頭目:ギャアアアッ!?

   ジャ…ハハッ…これが…悪党の死に様よ…!!

 

シル:こいつ…!!

   心臓を貫いたのにッ!?

 

頭目:( 虫の息 )せいぜい泣き叫びな…ロミオ。

……お前は英雄でも…悪党でもねえ。

 

ロミ:ゆ、指が…取れっ…。

   嫌だ嫌だ嫌だッ!!

   死にたくないよ(ねえ)さん!!

 

シル:ロミオッ!!

 

頭目:血飛沫(ちしぶき)なんざあげさせるもんかよ。

……中途半端なガキは中途半端なまま……死んでいきな。

 

ロミ:死にたくない死にたくない!!

   嫌だよォォ(ねえ)さん!!

 

シル: ……ッ。

 

頭目:ジャハハ…ハハッ…ッ……。

 

 

( 間 )( 満月の街道 )

 

 

シル:( 荒い息 )―――。

 

ロミ:星空が綺麗っすね。

   ……(ねえ)さん。

 

シル:( 荒い息 )―――。

 

ロミ:( 被せる )もう…ここいらで良いっすよ。

   置いてって下さい。

 

シル:黙れ。

   医者に連れて行く。

 

ロミ:三日も飲まず食わずの身体で俺なんか背負って。

   ……無茶し過ぎっすよ。

 

シル:お前が言うな。

 

ロミ:俺はもう手遅れっすよ。

   ……脚も取れちゃったし。

 

シル: ……。

 

ロミ:あのヘビが言ってた通りっすよ。

   俺が何か持ってたら、

きっと(ねえ)さんにこのまま助けて貰えたんでしょうけど。

所詮俺は英雄にも悪党にもなれない…。

只のガキだったんすよ。

 

シル:それ以上何も言うな。

 

ロミ:じゃあ…。

一つだけいいっすか?

 

シル: ……言えよ。

幾つでも聞いてやる。

 

ロミ:愛してるっす。

 

シル: ……。

 

ロミ:もしも俺があの時…勇気を持ってたら、

   あんたを命懸(いのちが)けで支えることが出来たんだ。

   ……あんたが記憶を失う事も無かった。

 

シル: ……そうか。

 

ロミ:あれからずっと後悔してたんだ。

   ……そしてやっと気づけた。

   俺はあんたの為に生きたかったんだって。

   ……名前なんてどうでも良かったんだ。

 

シル: ……そうか。

 

ロミ:(ねえ)さんの言葉っすよ?

   『誰かの為に振るえる刃がある人間は幸せだ』って。

 

シル: ……私は何も思い出せないんだよ。

 

ロミ:そう…すか…。

へへっ…最後に惚れた女の背中で死ぬってのも変だけど、

   少しだけでも(ねえ)さんを守れた御褒美(ごほうび)だと思えば、

   これはこれで満足なラストっすよ。

 

シル: ……ありがとう。

お前のおかげで助かったよ。

 

ロミ:温かいっす。

 

シル: ……。

 

ロミ:あんたの名前はシルヴィアだ。

 

シル:シル…ヴィア。

 

ロミ:俺の名前なんかどうでもいいっす。

   けど自分の名前だけは(おぼ)えていてください。

   (ねえ)さんはずっと…その名前を信じていたんですから。

 

シル:解ったよ。

これから私の名前は…シルヴィアだ。

 

ロミ:それじゃあ……さよならっす。

   シルヴィア(ねえ)さん。

 

シル:ああ、ゆっくりおやすみ。

   ロミオ・ジュピトリア。

 

ロミ: …………。

 

シル:大丈夫だよ。

   きっと忘れはしないさ。




 
 
 
     
 
           
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