題名  公開日  人数(男:女:不問)  時間  こんな話  作者

風のシルヴィア(6)~仇花(あだばな)の願いは~

2014/08/29  5(3:1:1) 25分

正解は人の数だけ存在し、私はその人達に酒を注いだだけです。

 ニコ

登場人物
(年齢)
性別 その他

シルヴィア
(26)

主人公です。
中盤に選択肢がありますがお任せします。
何にでも興味を持つ大人な女性です。

オーサン
(38)
ムキムキの親父です。
豪快に演技してください。
ちょっと陰を残すと魅力的かも。
ジジ
(59)
溢れ出るベテラン臭が素敵な狩人です。
頑固親父な感じでお願いします。
影猫(かげねこ)のミア
(17)
不問 黒猫の亜人(自称)です。
可愛らしさと真面目さを演じ分けてください。
マスター(不詳)
かまいたちの獣
一人二役でお願いします。
彼だけは前の話を知っているとひとしおかも知れません。
出番少なくてごめんね。


風のシルヴィア(6)~仇花(あだばな)の願いは~」



選択肢…そうか、そういうのもあるのか。

うん…これは良いぞ、

どれを選んでも結末は変わらないって所が気取らなくて良い。

 

と言う台本です。

自分が選んでもらえるように頑張ってください。



※ちなみに分岐する箇所は( A:オーサン B:ジジ C:ミア )です。




( ベルホスト近郊:夜の酒場 )

 

マス:皆様…本日は良くぞ『狩人(かりゅうど)の酒場』へお越しくださいました。

   もちろん皆様がお求めの獲物は『かまいたちの(けもの)』でございましょう?

 

オー:( 酔っ払い )おうマスター!!

   良いから酒だ!!

   酒を持ってこい!!

 

マス:かまいたちの獣はベルホストの先代国王を殺害した魔獣です。

   先王がアイゼフィールとの和睦(わぼく)の交渉に向かった矢先の事でした。

   その後和睦(わぼく)反故(ほご)となり、

   多くの無駄な血が流れる事となりました。

 

ジジ:そしてその魔獣は(いま)だにベルホストに居座ってる訳か。

 

ミア:おお騎士の国ベルホスト!!

外様(とざま)のハンターを頼るとは情けない!!

 

マス:私は皆様の武運をお祈りするだけです。

   貴方達ならきっと勝利を(つか)めるでしょう。

 

シル:え…?

   私達が誰と戦うんだ?

 

ジジ&ミア:は?(えっ?)

 

オー:あー…娘よ。

何をどうしたのだ?

 

シル:ここは酒場だろう?

   闘技場ならこの国おあつらえの立派なものがあるはずだが?

 

マス:貴女は特別枠で招待させていただきました。

   風の便(たよ)りでお越しになると聞きましたもので。

 

シル:何が何やら解らん。

   誰か説明してくれ。

 

ジジ:お嬢ちゃんには招待される程の腕前が有るって事だろ。

 

ミア:(ある)いは個人的な嗜好(しこう)も入ってたりしてね。

   キャハハ!!

 

マス:ここはハンター御用達(ごようたし)の依頼斡旋所(あっせんじょ)です。

   依頼されたターゲットを仕留めれば報酬を得ることが出来ます。

 

ミア:しかも今度の獲物はS級ターゲット!!

依頼主は国家そのもの!!

   報酬だって桁違(けたちが)いなのさ!!

 

シル:(かね)か…。

まあいい。

旅に路銀(ろぎん)は尽きものだしな。

 

オー:腕が鳴るわい……!!

   騎士の誇りにかけて祖国の怨敵(おんてき)を討ち果たしてくれるわ!!

 

マス:では皆様どうでしょう?

   明日には『かまいたちの(けもの)』と戦うのです。

   自己紹介(など)なされてみては。

 

シル:私の名前はシルヴィアだ。

よろしく頼むよ。

 

オー:おお口上(こうじょう)か!?

   良かろうッ!!

我こそはベルホストにその人ありと(うた)われた――。

 

ミア:( 被せる )マスター!!

   お酒頂戴(ちょうだい)うんと甘い奴!!

   キャハハ!!

 

ジジ:やれやれ…。

面倒な奴らが(つど)ったもんだな。

 

 

( 間 )( 狩人の酒場 )

 

 

オー:我が名はオーサン・ゴッツィ!!

   誇り高きベルホストの騎士である!!

   まずは祖国の危機に()(さん)じてくれた勇者達に謝意(しゃい)を示したい!!

 

ジジ:別にお前さんに感謝される()われはねーよ。

   獲物が居ると聞きつけただけさ。

 

シル:オーサンとやら、

   見たところ隻腕(せきわん)の様だが何処(いずこ)の戦場に置いてきたのだ?

 

オー:おうこれか!?

   うむ、そうさな……。

   鉄の国の戦乙女(いくさおとめ)にくれてやったわ。

 

ミア:ああ知ってるよ!

   アイゼフィールの戦場には常に(うるわ)しき女の傭兵がいたってね!!

 

オー:実に見事な武人であった……。

   彼奴(きゃつ)と再び(やいば)を交える事が出来るのであれば、

   腕のもう一本くらい(けん)じてやるのだがなぁ。

 

マス:そういう経緯がおありだったのですか。

   ゴッツィ()といえば屈強な戦士を輩出するベルホストの名家(めいけ)です。

   決して(くじ)けぬ(はがね)の闘志をお持ちの様だ。

 

ジジ:俺の名はジジ・シーヴス。

   お前達と違って正真正銘の狩人(かりゅうど)だ。

 

ミア:界隈(かいわい)じゃ知らない奴は居ないよね。

   盲人(もうじん)のジジって。

 

オー:なんと!?

   お主眼が見えぬのか!!

 

ジジ:ああ……。

だがその眼も捨てたもんじゃねえ。

俺は代わりに相手の(はら)の内を見抜けるのさ。

 

シル:面白い。

   是非とも私の心を見て貰いたいものだ。

 

ジジ:ふむ。

 

シル:どうかな?

 

ジジ:仕方がないと『 心 』は知らんぷりを決め込んでいるが、

   『 体 』って奴は案外正直なもんなのさ。

 

シル: ――ッ!?

 

ジジ:お前さんはそれに気づいていながら、

気づいていない振りをしていやがる。

 

シル:私は…記憶を探す旅を続けているんだ。

    (すべ)てを受け入れていくしかないじゃないか。

 

マス:なんと記憶を…成程。

 

ジジ:別に心を偽ってるのはお前さんだけじゃない。

   この中にも何人か判り易いのがいるな。

 

ミア:む―!!

   どういう意味だよ!?

 

マス:皆さん。

穏やかにお願いします。

 

ジジ:ケッ!

……シルヴィア、

あんたの旅路に(さち)が在ることを願ってるよ。

 

シル: ……。

 

ミア:俺っちは影猫(かげねこ)のミアってんだ。

   おっと、亜人だからって偏見は無しな?

 

オー:ガハハ!!

   なんとも可愛らしい亜人じゃわい!!

   そんな華奢(きゃしゃ)な身体でハンターが(つと)まりおろうか?

 

ミア:めくらの(じじ)ぃに片腕親父(かたうでおやじ)

記憶喪失の女だってハンターになれるんだ。

俺っちが一番まともじゃないの?

 

オー:成程……言われてみれば!!

   してそんなお主の獲物は何ぞや?

 

ミア:ふふん…それを言っちゃあつまらないだろ♪

 

オー:ヤヤヤッ!?

 

シル:ジジ、お前も秘密か?

 

ジジ:俺の獲物は『 こいつ 』さ。

 

シル:銃…?

   そんな威力の低いものが役に立つのか?

 

ジジ:こう見えて手先は器用なんでな。

俺なりに改良を加えてある。

 

シル:精々(せいぜい)期待してるよ。

 

ジジ:お前さんもな。

 

 

( 間 )( 狩人の酒場:作戦会議? )

 

 

マス:では皆様が挑まれる『かまいたちの(けもの)』についての情報をお伝えします。

 

ジジ:頼むぜ。

 

マス:先の話にも上がりましたが、

奴は先代のベルホスト王を(あや)めた後もこの国に居座り、

罪もない村人たちを虐殺し続けています。

   当然見過ごせる(はず)も無く討伐隊が何度か編成されたのですが…。

 

ミア:それで済んでれば俺達は呼ばれてないよね。

 

マス:はい。

   そのことごとくが全滅の()()にあいました。

 

ジジ:この国自慢の重装騎兵隊が、

ナマスの様にバラバラにされたって噂じゃねえか。

 

オー:ぬぅ…!!

   (それがし)の腕が万全(ばんぜん)であればあんな犬ころ風情(ふぜい)に……!!

 

シル:オーサンはその(けもの)を見たことがあるのか?

 

オー:う…うむ。

   かつて討伐隊の一員としてな。

 

ミア:全滅じゃないじゃん!

 

マス:私が言うのも何ですが…。

良くぞ生き延びたものですね。

 

オー:あれはまさしく魔獣の(たぐい)よ。

   霧とともに現われては姿を(くら)ませるのだ。

   そして獲物をかまいたちで…切り刻むッ!!

 

シル:かまいたちの射程はどれくらいだ?

   一度に何発程撃ってくる?

 

オー:オゥ!?

 

シル:奴の体躯(たいく)と足の速さも教えろ。

   他に攻撃方法はあるのか?

 

ジジ&ミア:ほう(へぇ)…。

 

シル:(にお)いは何に近い?

   痕跡(こんせき)は残していくのか?

   それとも前兆があるのか?

   鳥が逃げ出したり木々が揺らめいたり―――。

 

オー:( 被せる )ええい解った解った解った!!

   斯様(かよう)質問責(しつもんぜ)めをされては(かな)わん!!

   おおい、マスター!!

 

マス:はあ…なんでしょうか?

 

オー:酒を所望(しょもう)する!!

   合戦前夜(がっせんぜんや)だ、大いに飲もう!!

 

シル:おいオーサン!!

 

オー:飲みながらだ!!

   おお行き当たりばったりの勇者達よ!!

   今宵(こよい)は大いに飲み万全(ばんぜん)の体調で明日へ(おもむ)こう!!

 

ジジ:まあここは酒場だし別にいいけどよ。

   普通逆じゃねえか?

 

ミア:良い酒も良い女もいる。

   俺っちは一理(いちり)あると思うね。

 

シル:だらしないぞお前達!!

   酒や女に溺れて前後不覚になる奴は大抵早死(はやじ)にする!!

   私の眼の黒いうちは勝手な真似はさせないからな!!

   おいマスター、何を()いでいる!?

   ( フェードアウトしながら )こらっ何を乾杯してる――()めろ、

   ()めんかお前等―――。

 

 

( 間 )( 出来れば時計の音のSE )

 

 

シル: ―――ハッ!?

 

マス:お目覚めですか?

 

シル:ここは酒場のカウンター…か?

 

マス:どこまで覚えてます?

 

シル:馬鹿共(ばかども)酒盛(さかも)りを始めたところまでは…。

 

マス:貴女(あなた)

ノリノリでしたよ?

 

シル: ……。

 

マス:御三方(ごさんかた)はそれぞれ酔い()ましに出掛けられました。

   夜も長い事ですし、

貴女(あなた)も誰かと談話なされてみては?

 

シル:お前はどうして酒を()いだんだ?

   後ろめたさは無いのか?

 

マス:さてねぇ…。

   世の中の正しい事が実は()しき事であったり、

   美しいものが(みにく)(うつ)ったりすることがあるじゃないですか。

 

シル:あ…あぁ…。

 

マス:正解は人の数だけ存在し、

   私はその人達に酒を()いだだけです。

   誇り高くも無ければやましくも無い仕事ですよ。

 

シル:真言(しんごん)か?

 

マス:世迷言(よまいごと)(たぐい)です。

   正しいかどうかは貴女(あなた)が後で決めてください。

 

シル:私は…ずっと自分が主役だと思い続けたい。

   だからこうして無様(ぶざま)足掻(あが)いているのかもしれないな。

 

マス:ふふ…貴女(あなた)は昔と変わらず美しい。

   貴女にお会い出来て良かった。

 

シル:誰も彼もが私の過去をはぐらかすんだ。

   もう慣れちゃったよ。

 

マス:誰にだって言いたくない事はありますよ。

   もう行ってください。

 

シル: ……誰と話そうか?

 

 

 

( 間 )( シルヴィア役の人が誰と話すか決めてください )

A:オーサン B:ジジ C:ミア )

 

 

 

( A:オーサンを選んだ場合 )( 星見の丘 )

 

シル:オーサン・ゴッツィ。

 

オー:おお、誰かと思えばシルヴィアではないか。

 

シル:中途半端に起きてしまってな。

少し話そうじゃないか。

 

オー:(それがし)の様な武人(ぶじん)を選ぶとは、

お主も妙な奴よのう。

 

シル:否定して欲しいのか?

 

オー:まあ良い座れ。

   (それがし)もお主と話がしたかった。

……お主記憶を失っていると言ったな?

 

シル:ああ…その事か。

 

オー:今の方が幸福か?

 

シル:さあ?

『 昔 』って奴には段々近づいている感じはするけどな、

今が幸福じゃ無きゃ生きてる価値なんて無いと思う。

 

オー:らしい事を言う。

   (それがし)はな、

かつて戦場でお主と斬り結んだことがあるのよ。

 

シル:そうなのか。

 

オー:どこまで話せばいいか解らんが…そうだな。

   お主は味方のみならず敵すらも()きつける良い女であったよ。

   真っ直ぐで豪快で…(うるわ)しかった。

 

シル:ふふん、

今と何が違うっていうんだい?

 

オー:ぬあっ…ガハハハハ!!

   ああそうだな、

   腕がもう一本生えていれば抱き締めたくなるような良い女だ!!

 

シル:ひょっとして…。

お前の腕は私が斬り落としたのか?

 

オー:いやさ…実はこの腕はかまいたちの(けもの)にやられたのよ。

   仲間を(かば)って負った手傷(てきず)だが…。

   (かば)いきれなんだ上に、

(それがし)だけが生き延びてしまった。

 

シル:お前が悪い訳じゃない。

 

オー:どうだかのう。

散々卑怯者(ひきょうもの)呼ばわりされても(なお)

騎士の未練を(はら)いきれん。

 

シル:誇りを持てない人間にだけはなるな。

   ただ人を傷つけるだけの人間にはな。

 

オー:うむ。

   心掛(こころが)けてみよう。

 

シル:前を向いて歩こう!!

   そうだ、私と一緒に旅でもするか?

   旅ってのは思いの他、

   心を豊かにしてくれるぞ?

 

オー: ……お主は(そこ)ない続けて(なお)美しい。

   出会えて良かったと心から思える。

 

シル:ふふっ…。

   酒飲みの戯言(たわごと)ではなぁ。

 

オー:( 微笑 )どっこらせっ!!

(それがし)はもう寝る。

お主も風邪なんぞ引くなよ?

 

シル:ああ。

   おやすみ。

 

( Dまで飛ばしてください )

 

 

 

( B:ジジを選んだ場合 )( 大樹の切り株 )

 

シル:ジジ・シーヴス。

 

ジジ:これはこれはお嬢ちゃん。

   俺みたいな老いぼれに何の用だい?

 

シル:少し話がしたくてな。

   迷惑だったか?

 

ジジ:お喋りなら嫌いじゃないぜ?

   必要の無い場所で話すのが嫌いなだけさ。

 

シル:器用に煙草(たばこ)を吸っているが……。

本当に見えないのか?

 

ジジ:こんなのは手が覚えてる記憶に過ぎねえよ。

   経験ってのは口程に物を言うもんだ。

 

シル:経験か。

   私も(いくさ)のやりかたが身体に染みついていてな。

   記憶を失ってもこれのおかげで助かってる。

 

ジジ:得手不得手(えてふえて)ってのは誰にでもあるもんだ。

   向かない事に向かい続ける馬鹿も世の中には大勢いるが、

   俺達は幸い天職に辿りつけたって訳だ。

 

シル:ジジは昔、

何をやってたんだ?

 

ジジ:しがない時計屋さ。

   村に一件だけのな。

 

シル:眼が見えないのに?

 

ジジ:その頃はまだ見えてたんだ。

   今でも村の景色は俺の眼に焼き付いている

   風のそよぐ緑豊かで辺鄙(へんぴ)な村だった。

 

シル:村ってのは大抵辺鄙(へんぴ)なものだろう?

   だけどそれぞれに染みついた色があって、

   だからこそ人は故郷を懐かしむんだ。

 

ジジ:ああ…。

確かに今となっちゃ悪くなかったな。

 

シル:もっと聞かせてくれよ。

   私もジジと同じ景色が見たい。

 

ジジ:( 思い出すように )川の上の桟橋(さんばし)、レンガ造りの家、

風車(ふうしゃ)、意味の解らねえ墓標(ぼひょう)蜂蜜酒(はちみつしゅ)(とが)った山―――。

 

シル:( 苦い表情 )ひょっとしてそこに…お前の眼の中に…。

私はいたのか?

 

ジジ:いんや、居なかったよ?

   偶然を信じ過ぎるのは()した方が良い

 

シル:本当に…そうだろうか?

 

ジジ:ああそうだとも。

 

シル:私を気遣っているんじゃないか?

 

ジジ:じゃあ人の親切は受け取っとくもんだ。

 

シル:む…。

 

ジジ:それと親切ついでに言っとくが、

俺達をあまり信じねえこったな。

   …きっと痛い目に逢うぜ?

 

シル:皆良い奴さ。

   ジジも入れてな。

 

ジジ:なんだそりゃ?

お前さんなりの『心眼(しんがん)』って奴か?

 

シル:『(にお)い』だよ。

   一緒に居たいと思える人は、

決まって良い(にお)いがする。

 

ジジ:( 自分の服を嗅ぐ )ヤニ(くせ)ぇだけだぞ?

 

シル:( 笑い )。

 

( Dまで飛ばしてください )

 

 

 

( C:ミアを選んだ場合 )( 屋根の上 )

 

シル:影猫(かげねこ)のミア。

 

ミア: ――っと!!

   良く俺っちを見つけたねえ?

 

シル:私も屋根で(すず)みたかったんでな。

 

ミア:まあ寄ってきなさい、うん。

   二人の仲をお月様に見せつけてやろう。

 

シル:邪魔するよ。

 

ミア: ……亜人ってさ。

 

シル:うん?

 

ミア:人間と大して変わらないと思わない?

 

シル:ああ…何処(どこ)でだったかは忘れたが、

   お前と同じ猫族(ねこぞく)と知り合ったことがあるよ。

 

ミア:猫族(ねこぞく)は当たりだね。

   人懐っこくて頭が良い。

 

シル:彼等(かれら)はミアの様に強欲じゃ無かったぞ?

 

ミア:お金は大事さ。

   価値に気づかないのは英雄か馬鹿のどっちかだよ。

 

シル:命知らずも同じだな。

 

ミア:実は用事があってね。

久々に(まと)まった休みが取れたから友達に会いに来たんだ。

 

シル:何を言ってる?

 

ミア:ミシェル・フォン・フィーバストルテ。

 

シル: ……初めて聞く名だ。

     誰だそれは?

 

ミア:優しくて恥ずかしがり屋の美少年さ。

   気高(きだか)さは父親似であり、

薄幸(はっこう)さは母親似であった所が運の尽きだったけどね。

 

シル: ……もう亡くなっているのか。

 

ミア:彼と君は一時期非常に近い所に居た。

   僕は彼から君の話を毎日聞かされたよ。

 

シル:ミアは私の過去を全部知っているのか?

 

ミア:それについては何も言えないな。

 

シル: ……。

 

ミア:僕はただ伝えたかっただけさ。

 

シル:何を?

 

ミア:彼が君を愛していたことを。

 

シル:そうか…。

   ありがとう。

 

ミア:さてと…これで友人として半分は役に立ったかな?

   後は乗るか…()るか…。

 

シル:お前……。

亜人じゃないな?

 

ミア:天晴(あっぱ)れ!!

   ご褒美(ほうび)一番槍(いちばんやり)(ゆず)ってやろう!!

 

シル:喜んで拝命(はいめい)(たまわ)る。

   素敵な友情に(むく)いたいのでな。

 

ミア:貴女(あなた)には(はか)らずも余計な事を聞かせてしまったね。

   御容赦(ごようしゃ)願いたい。

 

シル:何を言われたとて気にするものか。

   何もかもが私の生きる(かて)だよ。

 

ミア:成程…あいつが()れそうな女性だ。

 

シル:是非その子と会ってみたかったなぁ。

   今でも良い友人になれたと思う。

 

ミア:まあ一つ屋根の『 上 』って事で、

   ここは酒でも飲んであいつの死を(いた)みませんか?

 

シル:( 微笑 )見せつけてやるんだったな。

 

ミア:ミシェルの好きだった酒です。

 

シル: ……蜂蜜酒(はちみつしゅ)か。

   夢から()めれるといいがな。

 

( Dまで飛ばしてください )

 

 

 

( D )( 黒い森 )( 出来れば雀の鳴き声のSE )

 

ミア:いや~良い朝だね。

   辛気臭(しんきくさ)い森の中だけど、

なんだか力がみなぎって来るよ。

 

オー:確かに!!

   我が戦斧(せんぷ)も強敵を前に武者震(むしゃぶる)いしておるわ!!

 

ジジ:臆病風(おくびょうかぜ)にでも吹かれたんじゃねえのか?

 

オー:ぬぁんだと貴様!?

 

シル:静かにした方が良い。

   これじゃあまるで、

獲物に獲物にされるのを怖がっているようだぞ?

 

ジジ:気にしなさんな。

   超常(ちょうじょう)の相手に常識が通用(つうよう)する(はず)もねえ。

 

ミア:大気(たいき)が止まったね。

 

シル:ああ、代わりに霧が濃くなった。

 

ジジ:お出ましって訳だ。

 

かま:グルル…!!

 

シル:これが『 かまいたちの(けもの) 』か。

   思っていたより小さいな。

 

オー:いや…殺気で脂汗(あぶらあせ)が止まらぬ。

   こやつこそ(まぎ)れも無くベルホストに仇成(あだな)すものよ!!

 

かま:ウオオォォォン!!

 

ミア:へ?

 

シル:おいっ!?

   ミア!!

 

ミア: ……ゴボッ。

 

ジジ:確かにとんでもねえな。

   一瞬で八つ裂きかよ。

 

オー:ぬう!?

   やはり迂闊(うかつ)には近寄れぬわ!!

 

かま:グルルル…!!

 

オー:何を嘆いておるシルヴィア!?

   我等は使命を()びてここへ(おもむ)いたのだ!!

   ならば仲間の死に―――。

 

シル:( 被せる )たあぁぁぁ!!

 

かま:ギャウゥ!?

 

オー:オ…オウ?

 

ジジ:( 笑い )(たい)した肝っ玉だぜあの嬢ちゃん!!

   かまいたちの射程と間隔をその身で測ろうってんだからな!!

 

オー:お主の自慢の銃は何をしておるか!?

 

ジジ:物事には好機(こうき)って奴があらぁな。

   シルヴィアが見切った奴の動きを、

俺も使わせてもらう。

 

かま:グアァァァァ!!

 

シル:ぐぁっ…。

 

オー:シルヴィアッ!?

 

シル:なんのまだまだ!!

   一度に(はな)てる風の(やいば)は五枚前後、

   五人の敵を同時に相手してると思えばいいんだ!!

 

かま:グルル…!!

 

ジジ:お前さんはどうなんだ?

   女に手柄(てがら)を奪われて恥の上塗りをするか?

 

オー:ぬ…!!

 

シル:このかまいたちには覚えがある!!

   私はこの(やいば)を打ち破りたくて仕方が無かった!!

   私の身体がそう教えてくれている!!

 

ジジ:それとも失った片腕(かたうで)を、

『誇り』ってやつで取り戻すか。

   選べオーサン!!

 

オー:グフフ…!!

   ああ…そうだとも!!

   忠勇(ちゅうゆう)こそが我が矜持(きょうじ)!!

   ウォォァア!!

 

かま:ギャアアッ!?

 

シル:オーサン!?

 

オー:これぞ我がゴッツィ家に代々受け継がれし戦斧術(せんぷじゅつ)!!

   とくと知らしめてくれるわ!!

 

シル:はっ…良い男だなオーサン!!

行くぞ!!

 

オー:ガハハハ!!

 

 

( 間 )( 黒き森:かまいたちで拓けた広間 )

 

 

シル:( 荒い息 )全く…何て奴だ。

   速い上に隙が無い。

 

かま:グルル……!!

 

オー:( 荒い息 )いや…隙ならば見出せた。

奴はかまいたちを放った後に一瞬だけ硬直する。

 

シル: ……ならば私が行こう。

   ようやくあの刃に慣れてきたところだ。

 

オー:今こそ我が雪辱(せつじょく)を晴らす時!!

 

シル:ああ?

 

オー:お前は良い女だシルヴィア!!

   共に戦えた幸甚(こうじん)を神に感謝する!!

 

シル:おい待てっ!?

   何をする気だオーサン!?

 

ジジ:あの野郎。

かまいたちを一身(いっしん)に引き受ける気か?

 

オー:ヌゥウオオオオォォォォ!!

 

かま:ウォォオン!!

 

オー:( 独白 )そうさのう…。

   もしも生き延びたなら…。

   諸国を(めぐ)って……美味(うま)いものでも食いに行くかのう…。

こやつに食われた…あやつ()の分まで…。

―――ゴファッ…!!

 

シル:オーサン!?

 

ジジ:良くやった!!( 出来れば銃声のSE )

 

かま:ギャアアァァァァァ……!!

 

ジジ:確かに心臓を撃ち抜いたッ!!

   お前の勝ちだぜオーサン!!

 

オー: …グ…フフッ…!!

 

シル: ――!?

こいつは……。

 

かま:グ…グルル…ジル…ヴィア。

   ジルヴィア…ジルヴィア…。

 

シル:( 被せる )ふんっ!!

 

ジジ: ……首まで()ねる必要は無ぇだろう?

   名前を呼ばれてビビったのは解るがよ。

 

シル: ……霧が晴れてきたな。

 

オー:なんと…!?

『もや』が取れたと思えば生首(なまくび)面相(めんそう)変化(へんげ)しておる…!!

   こやつの顔は……昨夜の酒場のマスターではないか?

 

ジジ:ああ……。

つまりあいつは、

   死にたがりの幽霊だったって事さ。

 

オー:ななっ、なんと幽霊とな!?

   珍妙な事もあるもんじゃのう…。

   

シル:お前は自分の命の心配をしろ。

 

オー:う…うむ…そうであった。

悪いがジジよ、

肩を貸してはくれぬか?

 

ジジ:( 呆 )あ~?

お前さんその傷で生き延びる気なのか?

   図々しいこったな。

 

オー:たわけぃ…!!

   やっと騎士の誇りを(まっと)うし自由になったのだ。

   後は精々(せいぜい)足掻(あが)くだけよ。

 

シル:そうか…お前はやっと自由になれたのか。

 

ジジ:とんだくたびれ(もう)けだったな。

   なにせ仲介屋(ちゅうかいや)が獲物ときたもんだ。

 

シル: ……ジジは何のために戦ったんだ?

   最初から(かね)にはなら無いと気付いていたのだろう?

 

ジジ:俺は冒険するのが好きなだけさ。

   せめて(こと)顛末(てんまつ)を見届けたかったが、

   相棒がこれじゃあ長居をする訳にもいかねぇ。

 

オー:ぬぅ…この恩は決して忘れぬぞ、ジジ。

   生き延びて必ず払う。

 

シル:礼を言う。

   また何処(どこ)かで出逢えたらきっと返すよ。

 

ジジ:全く…騎士って奴はこれだからよ。

 

シル:貴方の旅路(たびじ)(さち)()らんことを。

 

ジジ:そうそう、

   影猫(かげねこ)の奴がそこの()(みき)から(のぞ)いてるぜ?

 

シル:ああ。

気づいてるよ。

 

ジジ:あばよシルヴィア。

 

 

( 間 )( 怪しげな根元 )

 

 

ミア:あーあ!!

   ひっどいネタバレ!!

   台無しだよねあの(じじ)ぃ!!

 

シル:それがお前の正体か?

 

ミア:残念!!

   これも偽物です。

   そう簡単に尻尾は(つか)めない。

 

シル:どうして共に戦わなかった?

   それとも戦う訳には行かない立場の人間なのか?

 

ミア:僕の詮索(せんさく)をこれ以上するっていうなら、

   僕は君を殺さなくてはならないね。

 

シル: ……。

 

ミア:ふふっ♪

 

シル:この子の首に用があるなら、

もう少しこのままで居させてくれ。

 

ミア:おや。

まさか記憶を?

 

シル:半分くらいな。

   この子のこんなにも安らかな顔を私は知らなかった。

 

ミア:良かったねぇ、

ミシェルが化け物になってて。

彼がまともに生きていたら君達じゃ勝てなかった。

 

シル:何を(もっ)て『まとも』と言うのだろうな。

 

ミア: …ふむ。

 

シル:この子はようやく自由になれた。

   足掻(あが)いて足掻(あが)いて、

   やっと自由になれたんだ。

 

ミア:そうかもね。

 

シル:この子を丁重(ていちょう)(とむら)ってくれ。

 

ミア:僕はその為にここに来たんだ。

 

シル:ありがとう。

 

ミア:さよならシルヴィア。

   君達と飲んだ酒は美味(おい)しかったよ。

 

シル:ああ……。

 

シル:( 独白 )出来ればあの子にも飲ませたかった。

   人形みたいに綺麗で、

少女の様に夢を見ていたあの子に。

   誰よりも誇り高かったあの子に。




 
 
 
     
 
           
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