題名  公開日   人数(男:女)  時間  こんな話  作者

風のシルヴィア(7)~Tang(タング) Stew(シチュー)

2014/08/29  5(3:2) 25分 俺はこんな小さな世界で生きてます。だけどとても幸せなんです。  ニコ

登場人物
(年齢)
性別 その他
シルヴィア
(26)

主人公。
女騎士ですが堅物という訳でもありません。
近くに居ると涼しくなれそうな女性です。

オーサン
(38)
暑苦しさが自慢のオッサンです。
気持ち良い人です。
 カヴァロ
(38)
超善い人です。
そしてフラグへし折り魔。
プーデット
(21)
マスコットキャラだプー。
子豚系不思議男児だプー。
レベッカ
(18)
お転婆ウエイトレス。
台詞少なくてごめんね。
客A~D(不詳) 不問 皆で兼ね役にしてください。
性別・台詞変更自由にやってください。


風のシルヴィア(7)~ Tang(タング)Stew(シチュー)~」



魔獣を討伐し失った記憶の幾ばくかを取り戻したシルヴィア。

しかし彼女は当ての無い旅の中、自分自身を掴み損ねていた。

まあ要するに癒し回が書きたかったんです。



( ベルホスト:朝日へ抜けるあぜ道 )

 

 

シル:おい…!!

   おい降ろせオーサン!!

 

オー:ガハハッ!!

   遠慮するなシルヴィア!!

   女の足でこの難所(なんしょ)を駆け抜けるのは辛かろう!?

 

シル:何故駆ける必要がある!?

 

オー:こんな堅苦しい国からはさっさとオサラバするに限る!!

   その前に港町(みなとまち)美味(うま)い料理をたらふく食っていくのだ!!

 

シル:港町(みなとまち)

 

オー:うむ!!

港町(みなとまち)ポションだ。

(それがし)の旧友がそこで店を切り盛りしておるのだ。

 

シル:まあ何にせよ、

   傷が大したこと無くて良かったよ。

 

オー:父祖伝来(ふそでんらい)(よろい)は失ってしまったがな。

   あれこそはゴッツィ家400年の汗と涙の結晶、

   ベルホストの名工(めいこう)カジーノに金貨777枚で作らせた―――。

 

シル:( 被せる )家が恋しいなら戻れば良いだろう?

 

オー:ぬっ?

 

シル:確かにお前は国王殺しの魔獣を討伐したんだ。

   気兼ねが無いならまた元通りになれるさ。

 

オー:そういうお主こそ記憶探しの旅なんぞ辞めてしまえ。

   どうせ凄惨(せいさん)(いびつ)なものに決まっておる。

 

シル&オー:( 気まずい )。

 

シル:かっ、駆けろオーサン!!

   我々は朝日を追いかけていくのだ!!

 

オー:グ…グハハ…!!

良し心得た!!

   全く腹が減って死にそうじゃわい!!

 

 

( 間 )( 港町ポション:果て無き岸壁 )

 

 

レベ:あっつぅ……。

   朝から元気なお天道様(てんとうさま)だこと。

 

プー:プゥ…お店の掃除は大変だプゥ…。

   暑いし…魚臭いし…プゥ…。

 

カヴ:ははは。

今から()をあげてたら夜までもたないぞ?

プーデット。

 

レベ:あーあ、幸せに成りたい……。

   誰か良い男があたしを迎えに来てくれないかしら?

 

カヴ:おーい!!

堂々と店の前でサボるな、レベッカ。

   たった一人のウエイトレスで辛いのは解るけど。

 

レベ:あら違うわよカヴァロさん?

   そこの子豚ちゃんが私の仕事まで取っちゃうからすることが無いの。

 

プー:子豚じゃないプー!!

   僕の名はプーデット!!

   夢に向けて邁進(まいしん)中だプー!!

 

カヴ:おいおいプー。

   店は皆が役割を分担(ぶんたん)して初めて機能するんだ。

   お前が頑張ったあげく、

途中でへこたれたらどうなる?

 

プー:プッ?

 

カヴ:レベッカがお前の分まで働くことになるんだぞ?

 

レベ:だいじょぶ!

   そしたらバックれるから!

 

プー:僕はへこたれないプー!!

   根性有るプー!!

 

カヴ:こりゃあ前途多難だな……。

 

オー:おおおおぉぉぉい!!

カヴァロ!!

   カヴァロ・サンではないか!?

 

カヴ:オーサン……?

   お前オーサン・ゴッツィか!?

 

オー:おおそうだとも!!

   お互い良い歳になったのう!!

   何せ10年振りくらいか!?

 

カヴ:お前が生きてたことに驚きだよ。

   とっくにゴッツィ家の誇りとやらに押しつぶされて、

   死んじまってると思ってた。

 

シル:プー?

   お前プーデットじゃないか!?

 

プー:あーっ。

シルヴィアさんプー。

   お久しぶりプー。

 

シル:プー!!

   お前っ…、

お前あの後どうしたんだよ!?

   海賊島(かいぞくじま)に着いたと思ったら急に居なくなってさぁ!!

 

プー:プ?

   親切そうな海賊に(だま)されて何時(いつ)()にか手下になってたプー。

   でも役に立たないってこの港に置き去りにされたプー。

 

シル:そうか…そうだったんだな。

 

レベ: ……ちょっと何?

   説明してくれない?

 

オー:ややっ!?

   これは失敬した!

   我が名はオーサン・ゴッツィ!!

   誇り高き…誇り高き……!!

 

カヴ:誇りついでに風呂に入ってけ。

   ひでえ(にお)いだぞ?

 

オー:ぬ…?

   グハハ…!!

 

シル:プーの友達のシルヴィアだ。

   よろしくな。

 

レベ: ……レベッカよ。

   綺麗なお姉さん。

 

プー:そういえばヴェイン船長はどうしたプー?

   一緒じゃないプー?

 

シル:あの人は(みんな)と一緒に海原(うなはら)へ出かけたよ。

 

プー:じゃあ幸せそうだプー。

 

オー:おうカヴァロ!!

   (それがし)は腹が減ったぞ!!

   貴様の飯を喰わせろ!!

 

カヴ:あいあい、

   腕によりをかけてやるよ。

 

 

( 間 )( 御食事処:『タングシチュー』 )

 

 

オー:( 食事中 )ハフッ…ムホッ…ホフッ…!!

    グァハハハ!!

    美味いッ!!

 

シル:むぅ……美味いな。

   この店の名は『タングシチュー』だったか?

 

カヴ:ありがとよ。

   オーサン、

シルヴィア。

 

シル:皆貴方が作ったのですか?

 

カヴ:ああそうだよ?

   自慢じゃないが仕事の早さだけが()()でね。

 

シル:そんな事は無い。

   下ごしらえも丁寧にされている。

 

カヴ:嬉しいねえ。

   ま、別に気づいてくれなくても良いけどな。

   腹一杯になってくれるだけで俺は幸せさ。

 

オー:こやつはなぁシルヴィア!

ベルホストの宮廷料理人(きゅうていりょうりにん)にと招かれたがそれを反故(ほこ)にしたのよ!

   自分の料理は大衆(たいしゅう)の為にこそ在りとな!!

 

シル:そうか…だからタラ料理なのか。

 

カヴ:タラは良いもんだ…。

   ちょいと船を出せばごまんと獲れる。

   おまけに安くて重くて美味(うま)いときた。

 

シル:他の料理を作ろうとは思わないのですか?

 

カヴ:()れた食材に身を(ささ)げてこそ浮かぶ瀬も在り、さ。

   浮気はしないってカミさんにも誓ってるしな。

 

シル:なんだか勿体無いなぁ。

 

カヴ:ウヒヒ。

楽しく生きてます。

 

レベ:( 遠くから大声 )カヴァロさぁん!!

   お客さんもう並んでるわよ!?

   中に入れちゃう!?

 

カヴ:ああ頼む!!

   じゃあな2人とも。

   レストランにシェフが居なきゃ話にならねえ。

 

オー:うむ、馳走になった。

   いくらだ?

 

カヴ:おいおい()してくれ、

   友達から金を取ったら男が(すた)る。

   あんた()の旅路が無事ならそれで良いさ。

 

オー:( 台を叩く )ならぁぁぬ!!

   騎士には騎士の礼節(れいせつ)と言うものがあーる!!

 

シル:(おう)とも!!

   心のこもったもてなしをタダで享受(きょうじゅ)したとあっては名が(すた)る!!

   私はシルヴィアなのだから!!

 

カヴ:あんた()……。

   良いけど金持ってるのか?

 

シル&オー:無い!!

 

カヴ:ちょ―――。

 

シル:身体で支払おう!!

 

カヴ:おふっ…!!

   ゴホッ、ゴホッ!!

 

シル:見たところ盛況ぶりに反して従業員はたったの3人、

   我等騎士としてこの窮状(きゅうじょう)を見過ごせん。

 

オー:肉体労働なら任せて貰おう!!

 

プー:プー!?

   流行(はや)り過ぎだプー!!

   早くも満席だプー!!

 

レベ:ちょっと何時(いつ)まで無駄話(むだばなし)してんのよ!?

   とっくにピークなんだけど!?

 

シル:行こうオーサン。

   ここはまさに戦場だ。

 

オー:ガハハッ!!

腕が鳴るわい!!

 

カヴ:すげぇなあいつ()…。

何時(いつ)もこうやって旅してんのか…。

 

 

( 間 )( タングシチュー:昼真っ盛り )

 

 

プー:プー!!

   もう疲れたプー!!

 

客A:こらぁああ小さいの!!

   ソースが届いてねえじゃねえか!!

 

プー:プー!?

 

レベ:ちょっと!!

   あんたドコ触ってんのよ!?

 

客B:おひょひょ。

   良き尻かな良き尻かな。

   (せがれ)への良い土産話(みやげばなし)になったわ。

 

レベ:うるせーじじぃ!!

   とっととくたばりやがれってんだ!!

 

オー:遠慮するでないガリガリ小僧!!

   ほれっ、大男児(だいだんじ)ならばこの、

『山盛りガーリックのタラステーキ』を頼め!!

 

客C:あ…あの…僕お金が無いんで、

   スープだけで結構ですから。

 

オー:金の事なら心配するな!!

   (それがし)がお主の代わりに稼いでやるからッ!!

 

客C:うう……。

   僕これから彼女とデートだったのに。

 

シル:ええと、『タングシチュー』に『すり身の団子スープ』、

   『タラのカルパッチョ』がBの15テーブルか。

   ………お待たせしましたーっ♪

 

客D:お姉さん綺麗だねぇ。

   新入りかい?

 

シル:はは…そんな所です。

   カヴァロさんに恩返しがしたくて。

 

客D:カヴァロは良い奴だよ。

   浮浪者も金持ちもみぃんな店にぶちこんでたらふく食わせるんだ。

   それが生き甲斐なんだってさ。

 

シル:そういえば奥さんが居るって…。

 

客D:『居た』んだよ。

   あいつのカミさんは1年前に『かまいたちの(けもの)』って魔獣に殺されてる。

 

シル: ……そうなんですか。

 

カヴ:おいプーー!!

   早く料理を取りに来い!!

   冷めちまうだろうがッ!!

 

プー:プゥ…プゥ…!!

   プヒィィィ…!?

   ( ドンガラガッシャーン )

 

レベ:邪魔だよ豚!!

   そこどきな!!

 

プー:プゥ…世知辛(せちがら)いプゥ…。

 

オー:ガハハ!!

   おうもっと喰え、

   もっと喰わんかほれ!!

 

シル:はーい♪

   ただ今お伺いしまーーす♪

 

プー:プー……。

   シルさんが一番まともだプー。

 

 

( 間 )( タングシチュー:深夜閉店 )

 

 

カヴ:閉店( 手を叩く )!!

お疲れ皆!!

   これ飲んでくれ。

 

シル:酒か。

   良いんですか?

 

レベ:良いのよ。

   どうせ疲れなんて取れないんだから。

 

プー:美味しいプー。

   カヴァロさんのお酒は最高だプー。

 

オー:おうカヴァロ!!

   後始末は(それがし)に任せろ!!

 

カヴ:良い良い、俺がやるよ。

   お前に任せたら皿が何枚あっても足りやしねえ。

 

オー:ガハハ!!

   なら明日も働いてやる!!

   その代わり泊めてくれ!!

 

カヴ:あいあい。

 

レベ:お疲れプーちゃん。

   良く頑張ったじゃない。

 

プー:レベッカさん性格違うプー?

 

レベ:仕事くらい真面目にやれなきゃ生きてる価値なんて無いじゃない。

   あんた頑張ってたよ?

 

プー:プププッ。

   ツンデレプー。

 

レベ:うるせぇ!!

 

プー:プギャッ!?

 

レベ:お言葉に甘えて私は寝るわよ?

   明日の準備も早いし。

 

プー:僕も寝るプー。

   疲れたプー。

 

カヴ:ああ、お休み。

 

オー:良き一日であった。

   カヴァロよ、

   貴様も身体を壊さぬようにな。

 

カヴ:お前も自分の命を大事にしろよ?

 

オー:ガハハ……。

 

シル:私は手伝います。

 

カヴ:()してくれ。

   どうしたってあんた等はお客さんだ、

   気を使って仕事にならないよ。

 

シル:これが終わったら少しだけ話がしたいので。

   お金なら要りませんから。

 

カヴ:一体なんの話だか……。

   じゃあシルヴィアにはテーブル磨きから頼もうか。

   終わったらランプの油を取り除いてくれ。

 

シル:了解です。

店長殿。

 

 

( 間 )( タングシチュー:二人だけの時間 )

 

 

カヴ:いよしッ!!

   全部終わりッ!!

 

シル:良い時間になりましたね。

 

カヴ:あんたも物好きだねえ。

   疲れただろう?

 

シル:他人の笑顔を見るのって楽しいじゃないですか。

   明日も気持ちよく来店してもらえると思えば苦でもありません。

 

カヴ:大事にしたらいい。

   その気持ちさえあれば何処(どこ)へ行っても幸せになれる。

 

シル:私は記憶を探す旅を続けてるんです。

   楽しい事ばかりじゃないけど、

   皆を愛してるんです。

 

カヴ:愛してる?

 

シル:私は壊れているのかもしれない。

   それでも出逢いは大事なんです。

   オーサンもミシェルも貴方も、

   全部抱きしめたいくらい好きなんです。

 

カヴ:俺も君に出逢えて良かったよ。

   オーサンの奴、

   とんだ美人を連れてきてくれたもんだ。

   御蔭(おかげ)で助かった。

 

シル:もう少しここで働かせてくれませんか?

 

カヴ:何故だい?

   ここに居たら夢とか未来とかどんどん減っていくぜ?

   何せ他人に御奉仕する仕事なんだからな。

 

シル: ……そうかもしれませんね。

 

カヴ:プーもレベッカも色々あったが、

   ギリギリで働いてくれている。

   本当に感謝してる。

 

シル:皆楽しそうです。

 

カヴ:ああ楽しいよ?

   でも(はた)から見れば、

君に憧れる人間の方が多い(はず)さ。

 

シル: ……。

 

カヴ:俺の夢は初めからどうしようもなく小さくて、

   自分でそれに気づいたときは随分と落ち込んだもんさ。

 

シル:貴方は幸福です。

 

カヴ:知ってるよん。

 

シル:( 笑い )。

 

カヴ:ふふっ、

俺はこんな小さな世界で生きてます。

   だけどとても幸せなんです。

 

シル:貴方に寄りかかるには、

   私はまだ青すぎますね。

 

カヴ:貴女も幸せに成ってください。

   その為ならなんでもします。

 

シル:ならもう一日だけここで働かせてください。

   他人の為に奉仕する喜びをもう一日だけ―――。

 

オー:( イビキ )グゴォォォォ!!

   ゴォォアアァァァァ!!

 

レベ:うるせぇんだよ筋肉ダルマ!!

   怪獣かてめぇ!?

 

プー:プー。

   カヴァロさんお腹減ったプー。

 

カヴ: ……食った分だけ明日は()せてもらうからな?

 

プー:プッ!?

 

シル:( 笑い )。

 

 

( 間 )( タングシチュー:2日目 )

 

 

客A:おらぁぁ小さいの!!

   サラダにドレッシングがかかってねえじゃねえか!!

 

プー:プヒィ!?

   ゴ、ゴメンプー!!

 

客A:『すみません』だ馬鹿垂れ。

   ほら、チップやるからもっと頑張れ。

 

プー:プ?

   良い事してないプ。

 

客A:貸し一つだ。

   貰ったからには人に感謝される接客をしろ、

   その次は感謝させて欲しい人間になれ。

 

プー:おじさん誰プー?

 

客A:只の常連だよ。

   美味い飯が生き甲斐のな。

 

レベ:珍しいねぇエロジジィ、

   あんたが触ってこないなんてさ。

 

客B: ……そういうのは(つつし)もうと思ったんじゃ。

   (せがれ)が遠征に行くことになってな。

 

レベ:あーらら。

   何だか拍子抜けだけど、

可愛い所もあるのねぇ。

 

客B:(せがれ)にもこの店の料理を喰わせてやりたかったのう。

   また行きたいと思う事が生きたいと願う事なのじゃ。

 

レベ:今度は家族そろって食べに来なさいよ。

   お尻くらい触らせてあげるからさ。

 

オー:おうガリガリの!!

   貴様また(それがし)(おご)られに来おったな!?

 

客C:いっ、いえっ!!

   今日は最初からステーキを頼んでますから!!

 

オー:何とその身なりでか!?

   歌舞(かぶ)いたものだのう!!

 

客C:自分のお金で御馳走(ごちそう)を食べないと駄目ですから。

   それが自分の自信に繋がるって気づいたんです。

 

オー:うむ…そうだのう。

   そうに違いないなぁ!!

 

客C:へへっ…。

 

オー:ならばガリガリの!!

   (それがし)がオマケをたくさんもらって来てやる!!

   ( フェードアウトしながら )うぉぉぉい!!

カヴァロヤァァァァィィィ!!

 

客C: ……よーしッ!!

   たらふく食べてあの子を幸せにするんだ!!

 

シル:ふう…。

 

客D:やあお姉さん。

   まだ居たのかい?

 

シル:今日までなんです。

   そうしなきゃいけない気がして。

 

客D:俺も明日から戦争に行くんだ。

   アイゼフィール相手に泥沼の戦さ。

 

シル:そうなんですか……。

   御武運を。

 

客D:お姉さんも元は騎士か何かだろ?

   肌の古傷(ふるきず)までは隠しきれないからな。

 

シル:( 笑い )別に隠してませんよ。

   ひょっとしたら戦場でお逢いしたことがあるかもしれませんね。

 

客D:女騎士か……。

   エルツィ傭兵団に居たシルヴィア・シルフィードって騎士が有名だな。

   実に厄介な相手だったよ。

 

シル:シルヴィア……シルフィード…?

   それが私の……?

 

客D:オーサン殿は騎士を辞めれて羨ましい。

   俺は訳も解らず剣を振り続ける毎日だ。

 

シル: ……。

 

カヴ:おおいオーサン!!

   シルヴィア!!

   船が出るってよ!!

 

オー:おう心得た!!

   じゃあなガリガリ!!

   成りあがれよ!?

 

シル: ……理由ならあるじゃないですか。

 

客D:えっ?

 

シル:生きて帰って来て、

またこの店で食事をする為。

   それだけで良いじゃないですか。

 

客D:あんたの居なくなったこの店で、か。

   安心と言っちゃ安心だが、

   色気が無くなっちまうなぁ。

 

シル: ……くすっ。

 

レベ:ちょっと、さっさとしなさいよ!!

忘れ物は無いでしょうね!?

   

プー:二人とも行っちゃうプー?

   寂しいプー。

 

カヴ:良いんだよ、

こういう御別れの方が。

   何時(いつ)()にか消えてるってのが良い。

 

シル&オーサン:皆さんお世話になりました。(じゃあな皆の衆!!)

 

カヴ:( 被せる )おおい!!

   誰か料理を取りに来てくれーー!!

 

レベ:今行くわよぉ!!

   ……全く、人が減ったのに料理のスピード上げてどうすんのよ。

   判り易いんだから。

 

プー:プー。

   お皿をお下げしますプー。

   全部食べてくれてありがとプー。

 

レベ:はぁいお待たせしました♪

   当店名物、

   『タングシチュー』でございまぁす♪

 

 

( 間 )( 果て無き岸壁 )( 出来れば波音のSE )

 

 

オー:別れだのうシルヴィア。

 

シル:お前は何処へ行くんだ?

 

オー:美味いもの探しの旅だ。

   一通り味わったら、

いずれは自分の店でも開くとするか。

 

シル: ……そうか。

 

オー:お主は何処(どこ)へ行く?

 

シル:何処(どこ)が良いと思う?

 

オー:ならば聖都グランシルヴァニアへ行くと良い。

   エルジュ教の総本山(そうほんざん)だ。

 

シル:せいなるみやこ……か。

 

オー:そこに偉大なる七賢人(しちけんじん)の一人がおられる!!

   きっと力になってくれるはずだ!!

 

シル:ありがとうオーサン。

   また逢えるといいな。

 

オー:うむ。

   さらばだ!!

 

 

( 間 )( 後日:小さき者の旅立ち )

 

 

プー:カヴァロさん。

 

カヴ:なんだいプー?

 

プー:僕も旅に出て良いプー?

 

カヴ: ……おいおい、

   唐突だな。

 

プー:ここで働くのは楽しいけど、

   僕の夢は多分もっと大きいプー。

 

カヴ:そうかい。

   それはまぁ、

人それぞれだからな。

 

プー:行っても良いプ?

 

カヴ:止めやしないさ。

   元々二人でやってたんだ、

   何とかなるって。

 

プー:そうプー?

 

カヴ:(たま)には遊びに来いよ。

   タダ飯くらい喰わせてやるから。

 

プー:プー。

   また逢いに来るプー。

 

 

( 間 )( 想い届かぬ癒し人へ )

 

 

カヴ: ……ふぅ。

 

レベ:気前良過ぎじゃない?

 

カヴ:レベッカ。

明日からもよろしくな。

 

レベ:二人でやってたって、

   奥さんと、

   ってことでしょ?

 

カヴ:楽しかった思い出があるから今日も頑張れる。

   俺は死ぬまでこの店を護り続けるんだ。

 

レベ:あたしに言わせればカヴァロさんも十分英雄よ。

   何人の人が救われたか判ったもんじゃないわ。

 

カヴ:数えてる内はまだまだ。

   あと10年もすれば何も解らなくなるさ。

 

レベ:それって…あと10年は一緒に居て良いって事?

 

カヴ:居てくれるならな。

 

レベ:あたしはさ、

   身体を売って稼ぐよりも、

心を売って人を幸せにする今の仕事、

   好きだよ?

 

カヴ:嬉しい事を言ってくれるじゃないの。

   今月も黒字だったら、

給料上げてやるからな?

 

レベ:でもさ、

   それにしたってこの店が良いのは、

   あたしを救ってくれた人が他でもない、

カヴァロさんだからだよ。

 

カヴ: ……なんだか疲れちまったなぁ。

   もう寝ようぜ?

 

レベ:良し、

   うんとサービスしたげる。

   全部忘れちゃうくらい激しいやつ。

 

カヴ:馬鹿言ってんな。

   お前みたいな小娘は趣味じゃないよ。

 

レベ: ……。

 

カヴ:ふぁ~~~。

おやすみぃ…レベッカ…。

 

レベ: ……本当、

   きっと死ぬまで子供なんだろうな。

   この人は。




 
 
 
     
 
           
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