題名  公開日   人数(男:女)  時間  こんな話  作者

風のシルヴィア(9)~(しん)の記憶~

2014/09/11  4(3:1) 25分

お父さんは優しいだけだもの。

 ニコ

登場人物
(年齢)
性別 その他

サラ
(13)

落ち着いた美少女です。
この御年頃なので複雑です。
ホラー要素も含んでます。

アレス
(43)

サラの父親です。優しいけど若干駄目人間です。
まぁ可哀そうな人です。

ジジ
(46)

アレスの幼馴染です。
適度に善い人です。
アレスの事を弟の様に想っています。

老人
(不詳)

面妖な老人です。
研究が大好きで人に興味が在りません。
出番少なめです。



風のシルヴィア(9)~(しん)の記憶~」



閉鎖的な村で起こった出来事です。

 

回想&鬱回です。

滅茶苦茶重いんで覚悟してください。





( 記憶の村:風の草原 )

 

 

ジジ:おおい、アレス。

   蜂蜜を売ってくれ。

 

アレ:やあ、

   ジジじゃないか。

 

ジジ:孫が風邪引いちまってな。

   甘い物でも食わせてやらにゃあ。

 

アレ:お安い御用さ。

   ちょっと待っててくれ。

 

ジジ:ふぅ…俺も歳かな?

歩き疲れて腰が痛ぇや―――。

……ん?

 

サラ:綺麗な空。

 

ジジ:ようサラ。

   またこんな所でお昼寝か?

 

サラ:うん、

   風が気持ちいいの。

 

ジジ:風吹く草原かぁ。

   今日はとがり山も良く見えるじゃないか。

 

サラ:あそこには『風のしんじゅー』様がいるんでしょ?

 

ジジ:ああ居るよ?

でっかい龍がな。

 

サラ:逢ってみたいなぁ。

ドラゴン。

 

ジジ:サラは冒険が好きなのか?

 

サラ:だってこの村、

退屈だもん。

 

ジジ:そうかい。

   そりゃそうだな。

 

アレ: ……サラ。

   余り人前でそういう事は言っちゃだめだよ?

 

サラ:お父さんも村が嫌だから此処(ここ)で暮らしてるんでしょ?

 

アレ:違うよ。

   蜂が村の人を刺すのを避ける為さ。

 

ジジ:村まで降りて友達と遊んでご覧?

   きっと楽しいぞ?

 

サラ:お父さんと一緒が良い。

   どうせ魅力的な人も居ないし。

 

アレ:ほら、

   牧童(ぼくどう)のハンスはどうだい?

   お洒落(しゃれ)で優しい子じゃないか。

 

サラ:好きだけどそこまでじゃないの。

   それより蜂蜜は一杯採れそう?

 

アレ:えっ…ああ。

僕のせいで不便をかけるね、

ごめん。

 

サラ:じゃあとがり山に行っても良い?

 

アレ:アハハ、

   あれは見た目よりずっと遠くにあるんだ。

   サラにはまだ早いよ。

 

サラ: ……。

 

ジジ:だったら龍封樹(りゅうふうじゅ)はどうだ?

 

アレ:何を言い出すんだ、

   ジジ。

 

サラ:りゅーふーじゅ?

 

ジジ:村の真ん中にある御神体(ごしんたい)だ。

   その樹の(ほら)には、

竜騎士シルヴィアの死体が眠ってるって話だぞ?

 

アレ:あそこは立ち入り禁止になっているじゃないか。

   僕の娘を罪人(ざいにん)にするつもりか?

 

ジジ:別に立ち入ろうが見ようが減るもんじゃないさ。

   罪に問われないように、

夜中にこっそり(もぐ)()めばいい。

 

サラ:お父さん行っても良い?

 

アレ:駄目だよ、

   危険過ぎる。

 

ジジ:村の真ん中が?

 

アレ: ……。

 

ジジ:可愛い子には旅をさせるもんだぞアレス。

   何もさせなきゃ何も出来ない子供になっちまう。

 

アレ:いや…でも…。

(おきて)があるし…。

 

サラ:解りました。

   これからずっと、

お父さんの邪魔をしないように生きていきます。

 

アレ:( 溜息 )。

   君と母さんはそっくりだね。

   ずるいけど賢くて優しくて。

 

ジジ:村一番の美人だった。

   それが何でこんな男と。

 

アレ:蜂蜜、

売ってやらないよ?

 

ジジ:おぉ悪い悪い。

   そうだったな、

   俺も油を売ってる場合じゃ無かった。

   じゃあなアレス、サラ。

 

サラ: ……お母さんって綺麗だったの?

 

アレ:そうだよ?

   僕には勿体無(もったいな)かったんだ。

   だからあれで良かったんだよ。

 

サラ:お母さんの思い出、

   ()()なシチューみたいな顔してたことしか覚えて無い。

 

アレ:そうだね、

   サラはまだ子供だったからね。

 

サラ:行っても良い?

   りゅーふーじゅ。

 

アレ:良いよ。

   ついでに蜂蜜を売りに行ってくれるかい?

 

サラ:うん。

   解った。

 

 

( 間 )( 記憶の村:夜更けの集落 )

 

 

サラ:蜂蜜は要りませんかー?

   アレス・シルフィードのおいしい蜂蜜ですよー?

 

サラ:もう帰っちゃいますよー?

   甘くて切ない蜜の味ですよー?

 

サラ: ……こそっ。

   こそこそっ。

 

 

( 間 )( 龍封樹:洞 )

 

 

老人:おお…そうか。

   霊脈(れいみゃく)をなぞって神獣巡りに…ほう。

 

サラ:よいしょっと。

   中は結構広いのね、

   りゅーふーじゅ。

 

老人:何故だ?

   …ふむ、そうか。

   …ふむ、成程。

 

サラ:うわぁ…何これ?

   魔物の死体…?

   樹の中がダンジョンになってるなんて…。

 

老人:ふふ…良いぞ?

   素直になって来たではないか。

   そう、所詮我等は同じ者よ。

 

サラ:血の跡を辿れば誰が殺したのか解るかな?

   でも竜騎士の死体しかないってジジさんは言ってたのに。

 

老人:火の神獣フォルカムド。

   風の神獣リューシオン。

   闇の神獣―――。

 

サラ: ……お爺さん誰?

 

老人:……珍客とはいえこのワシが気付かぬとはな。

ちとお喋りが過ぎたわい。

 

サラ:誰なの?

 

老人:お主と同じ悪戯者(いたずらもの)よ。

   (きん)(おか)して遊びに来ておる。

 

サラ:お爺さんがモンスターを殺したの?

 

老人:所詮は龍の残滓(ざんし)から産まれ落ちた出来損ない、

   由縁(ゆえん)さえ判れば羽虫を潰す程の手間も無い。

 

サラ:誰と話してたの?

 

老人:誰とも話してはおらん。

 

サラ:嘘吐(うそつ)き!!

 

老人:ここには誰も居らん。

あるのは竜騎士シルヴィアの鎧と剣と、

   ほれぃ、骨よ。

 

サラ: ―――!?

見せて!!

 

老人:ふはは…。

 

サラ:うわぁ…綺麗…。

 

老人:変わった娘よのう。

   名は何と言う?

 

サラ:私の名前?

 

老人:そうかサラか。

   サラ・シルフィードと申すのか。

 

サラ: ……何で解ったの?

 

老人:やれやれ……。

老いを知ると寸刻(すんこく)すら惜しくなってのう。

 

サラ:ねえ何で!?

 

老人:ワシに隠し事は通じん。

   それよりほれ、

   もうすぐ朝日が昇る頃相(ころあい)じゃが?

 

サラ:嘘…まだほんの少ししか経ってないよ?

 

老人:ここは時の歩みがいささか遅いでな。

   信じられぬならそれでも良いが、

   村の連中に見つかる前に出て行った方が身のためだと思うがのう?

 

サラ:お爺さんともっと話したいの。

 

老人:まだ(しばら)くはここに居る。

   逢いたくなったら何時(いつ)でも来るが良い。

 

 

( 間 )( 記憶の村:サラの家 )

 

 

アレ:( 溜息 )。

 

サラ:どうしたの?

   お父さん。

 

アレ:あまり良い蜂蜜が採れなくてね。

   慣れない事をするのって大変だよ。

 

サラ:私、

また(ふもと)まで降りて売ってこようか?

 

アレ:何時(いつ)も…すまないね。

 

サラ:遊びに行きたいの。

   ただそれだけだから心配しないで?

 

 

( 間 )( 記憶の村:川の上の桟橋 )

 

 

ジジ:おうサラ、

   蜂蜜売ってくれ。

 

サラ:良いわよ。

   でもこんなので良いの?

 

ジジ:ああ良いよ。

   あいつの作った物なら何でもいいや。

 

サラ:うん。

 

ジジ:お前のお母さんが流行病(はやりやまい)で苦しんだ時に、

   アレスは家族を連れて村の外まで引っ越したんだ。

   病気が皆にうつらないようにってな。

 

サラ:慣れない事をするから貧乏になっちゃったの。

   お金も一杯借りちゃったし。

 

ジジ:だからってお前がこんな事をする必要なんて無いんだぞ?

   俺の家に来いよ。

   家族が一人増えたってどうってこと無いさ。

 

サラ:お父さんは私が居ないと何も出来ないから、

私は(そば)に居てあげるの。

   もう行くねジジさん。

   私仕事があるから。

 

 

( 間 )( 龍封樹:深奥 )

 

 

サラ:お(じい)さん。

 

老人:おお……。

サラか。

   何の用じゃ?

 

サラ:りゅーふーじゅの中に居ると落ち着くの。

   (すず)しくて静かで、

   緑の樹液が(ほたる)みたいに周りで光ってるの。

 

老人:うむ、

   確かに。

   ここは(ただ)れた心を癒すには良き場所よな。

 

サラ:私、

なにも悪い事してない。

 

老人:そうじゃのう。

   サラは良き子じゃ。

 

サラ:そうか。

   隠し事は出来ないんだったね。

 

老人:良くある話よ。

   若気の至りと言うには貧しく、

   貧しさを理由にするには余りにも若い。

 

サラ:でも皆喜んでるし良いでしょう?

   皆寂しいんだから。

 

老人:それは蜂蜜か?

 

サラ:ん。

   一瓶(ひとびん)しか売れなかった。

 

老人:どれ…。

   ふむ……。

 

サラ: ……。

 

老人:花が悪いのう。

   蜂共が龍の毒気(どくけ)にあてられた花ばかり選んでおる。

   身に余る力を求めるのは蜂とて同じ、か。

 

サラ:どうすれば良いの?

 

老人:毒花の花粉はやがて村を覆いつくし、

   龍の病で村人は(ことごと)異形(いぎょう)となるであろう。

 

サラ:異形(いぎょう)

 

老人:内臓と筋骨(きんこつ)が皮を突き破り眼は(つぶ)れ血は泥の様に固まり、

   牙が生え鱗が浮かび――――。

 

サラ:( 被せる )龍の病……お母さんもそれで…。

   ―――!?

   ジジさんが危ない!!

 

老人:毒ならば蜂が腹の中に溜め込んでおる。

   蜜自体は飲んでも差し支えはせん。

 

サラ:私はどうしたら良いの?

 

老人:運命は変えられぬ。

   滅びゆく村を眺め続けるが良い。

 

サラ:お(じい)さんならどうするの?

 

老人:ワシか?

   そうさのう、

   見分けなぞつかぬし(らち)も明かぬ。

   いっそ風の(おもむ)くままに花を燃やし尽くすかのう。

   毒花(どくか)健常花(けんじょうか)(ことごと)くのう。

 

サラ:それで村は救われるの?

 

老人:其処(そこ)まで先は見えぬがな、

   ()えていうならこの村は確かに滅ぶぞ?

   竜騎士の呪いに依ってな。

 

サラ:お(じい)さんを信じても良い?

 

老人:嘘はついておらん。

   老婆心(ろうばしん)ついでに、

   もしも覚悟を決めたのならこの薬を飲んではみぬか?

 

サラ:何これ…キラキラしてる。

 

老人:エリクサーとまでは行かぬがな、

   それに準じた力を秘めた龍の秘薬よ。

 

サラ:どうなるの?

 

老人:ふはは…どうなるのかのう?

   この先生き延びたければ飲むより他に(すべ)は無いが、

   まあ村と心中(しんじゅう)したければそれも良しじゃて。

 

サラ: ……。

 

老人:お主冒険が好きだと言うておったな?

   夢忘れるな?

   冒険とは数多(あまた)の苦痛と試練の果てにのみ栄光を(つか)み得る、

   門狭(もんせま)き競合の『 (ごう)  』だと言う事を。

 

サラ:( 飲み干す )。

   ……これで満足?

 

老人:ふむ。

   異常は無いか。

 

サラ:まさか…。

   試したの?

 

老人:ふはは……ワシはもう行く。

   此処(ここ)での用は済んだでな。

 

サラ:私も行くわ。

   やらなきゃいけない事があるもの。

 

老人:おおそうか、

   ならば先程の薬をもう一瓶(ひとびん)(さず)けようではないか。

 

サラ:これ…色が違うけど。

 

老人:物は試しよ。

   本当に生きていて欲しい者に飲ませると良い。

 

サラ: ……生きていて…欲しい人?

 

老人:お主で上手くいったのじゃ。

例え今際(いまわ)(きわ)とて服用者は助かることじゃろう。

 

 

( 間 )( 記憶の村:サラの家 )

 

 

アレ:サラッ!!

 

サラ:あぐっ!?

 

ジジ:()めないかアレス!!

 

アレ:どうして花畑に火を(はな)ったりしたんだ!?

   これでは蜂が蜜を採れなく――――、

   いや、村にまで飛び火したらどうする!?

 

サラ:お願いお父さん。

   ここの花を全部無くしてしまいたいの。

   そうしないと村が駄目になるの。

 

アレ:何を―――!!

   何を言ってるんだいサラ!?

   狂ってしまったのか!?

 

ジジ:サラ、

   何があったのか言ってくれ。

   龍封樹(りゅうふうじゅ)で何かあったのか?

 

サラ:どうせ言っても信じて貰えないもん。

   私の事嫌いでしょう?

 

アレ:誰がそんなことを言ったんだ!?

 

サラ:じゃあどうして私に売れない蜂蜜ばかり持たせるの!?

   夜中まで放っておいたの!?

   結局そうやってお金を稼いで来いって事なんでしょ!?

 

アレ:何を……言ってるんだい?

 

サラ:お母さんと一緒に村を追いだされて、

   才能も無い癖に養蜂(ようほう)なんて始めて借金作って、

   私が居なかったら何も出来ない(くせ)に!!

 

アレ: ――――ッ!?

   このっ!!

 

サラ:きゃっ!?

 

ジジ:止めるんだアレス!!

 

アレ:俺がどんな想いでお前を育てたか解ってるのか!?

   俺にちっとも(なつ)かない(くせ)に気ばっかり(つか)いやがって!!

   そんな事されて俺が喜ぶと思ってたのか!?

 

サラ:いぎっ!?

 

ジジ:()めないか!!

 

サラ:ふ…ふふ…。

 

アレ&ジジ: ッ!?

 

サラ:今なら母さんの気持ちが解るわ。

 

アレ: ……。

 

サラ:お父さんは優しいだけだもの。

   自分から何かを(つか)み取ろうともしないで、

   受け入れて、受け入れて、

   逃げ出して、

   馬鹿みたい。

 

アレ: ……ッ!?

 

サラ:私さえ居ればいいって?

   それ以外を手に入れる事が怖かっただけでしょう?

   お父さんもこの村と同じよ。

 

アレ:( 泣く )。

 

ジジ: ……もう止めてくれ。

   俺はお前ら家族がこんなになっちまうなんて思いもしなかった。

   ソニアとアレス、

   そしてサラ。

   俺はお前等(まえら)が大好きだったのに。

 

サラ:大丈夫よジジさん、

   私が貴方にとって、

もっともっと大好きな村を守ってあげる!!

 

ジジ:おい、待つんだサラ!!

 

サラ:キャハハハハ!!

 

ジジ: ……何てこった。

   俺が龍封樹(りゅうふうじゅ)をサラに教えたばかりに。

   ……済まねえ、アレス。

 

アレ: ……終わりだ。

   蜂達も俺達も。

   もう誰も護りたくない。

 

サラ:皆燃えちゃえば良いのよ!!

   これで皆が幸せに成れるわ!!

 

 

( 間 )( 記憶の村:朝 )

 

 

アレ: ……サラ。

   起きなさい。

 

サラ:う…。

 

アレ:おはよう。

   サラ。

 

サラ: ……怒ってないの?

 

アレ:もう良いんだ。

   サラを(ひと)りにさせた僕が悪かった。

 

サラ:ごめんなさい。

   でも花が龍に(けが)されたから、

焼かなきゃ駄目だったの。

 

アレ:そうなのかい?

   サラがそう言うんならそうなんだろうね。

 

サラ:これからどうするの?

 

アレ:もう養蜂(ようほう)は止めるよ。

   だからサラもそんなことはしなくていい。

……良いね?

 

サラ:でも…。

   もう村には居れないよ?

 

アレ:これを見て御覧(ごらん)

   旅道具一式さ。

 

サラ:お父さん、

   魔物と戦えるの?

 

アレ:大丈夫!!

   確かに僕は小さな男だったかもしれないけど、

   サラを護るためなら何でも出来るって、

   母さんに誓ったんだ。

 

サラ:私を?

 

アレ:ずるいかい?

   サラを景品みたいに扱って。

 

サラ:そんな事ないの。

   でも私、

   自分の価値があまり判らないの。

 

アレ:お互い様さ。

   僕も何か出来そうな気がして、

結局何も挑んでこなかった。

   今回の事は良い薬になったよ。

 

サラ:冒険に行く?

 

アレ:( 笑い )。

   行こうか?

   二人でずぅっと遠くの果てまで。

 

ジジ:おぉぉい二人ともー!!

 

アレ&サラ: ?

 

ジジ:( 荒い息 )。

   良かった…なんかそんな気がしてたんだ……!!

 

アレ:どんな気だ?

 

ジジ:行っちまうんだろうがぁぁぁ!?

   二人でよおおぉぉ!?

 

サラ:ばいばい。

   ジジさん。

 

ジジ:待てっておい、

   行っても良いけどよ。

   これを持って行けよ。

 

アレ:うん?

   ( 臭いをかぐ )蜂蜜酒(はちみつしゅ)…。

   俺の蜂蜜か?

 

ジジ:まだ平和だった頃のな。

何時か二人で飲もうと思ってとっておいたんだ。

   ……二人で飲んでくれ。

 

アレ: ……ああ!!

   良いとも!!

 

ジジ:( 笑い )――。

じゃあな。

 

 

( 間 )( 思い出の味 )

 

 

サラ:甘くて美味しいねぇ。

   お父さん。

 

アレ:そうかな?

   僕には少し甘過ぎるかな。

 

サラ:ごめんね。

 

アレ:いえいえ、

   こちらこそ。

 

サラ:私忘れないよ。

   お父さんと一緒に歩いたこの道を。

 

アレ:道を?

 

サラ:何時かここを通って帰ってくる気がするの。

   嫌な思い出しかないけど、

   きっと帰ってくると思うの。

 

アレ:そうだね。

   (つら)いことがたくさんあったけど、

   あの村は僕らの故郷(ふるさと)だからね。

 

サラ:美味しいね。

   お父さん。

 

アレ:そうだね。

   これで少しは報われたよ。

 

サラ:ふふっ。

 

アレ: ……ん?

   何の音だろう?

 

サラ: ……羽の音。

 

アレ:うわっ!?

   ひぃっ!?

 

サラ: ……お父さん?

 

アレ:う…腕に蜂が…ひいっ―――!?

 

サラ:( 被せる )お父さん!!

 

アレ:ぐ…ぐぅ…!!

 

サラ:蜂……?

   どうして蜂が私達を襲うの?

   あんなに仲良しだったのに。

 

アレ:え、餌が無くなったからだろう。

   きっと気が立っているんだよ。

 

サラ:でも…腕が血だらけだよ?

   お父さんを刺すんじゃなくて、

   かじろうとしたんだよ。

 

アレ:人間を食べる蜂なんて聞いたことも無い。

   ……きっと偶然さ。

 

 

( 間 )( 暗い記憶 )

 

 

ジジ:( 煙草を吸う )。

   非道(ひで)ぇ因果もあったもんだ。

   あいつの蜂が村の連中を襲うなんてな。

   ……おまけにこの症状だ。

   あいつが何も知らずに出て行ってくれただけで(もう)けもんだ。

 

サラ:お父さん、

   具合悪いの?

 

アレ:寒い…指がごわごわして自分の物じゃないみたいだ。

 

ジジ:もう帰って来てくれるなよ?

   きっと周りの奴らにぶち殺されちまう。

 

サラ:お父さん、

   身体中()()になっちゃったね。

   大丈夫?

 

アレ:痛みは無いんだ。

   ただぬるぬるして、

   身体が熱いんだ。

 

ジジ:いや…違うな。

   今度逢ったら俺が(ゆる)せねえ。

   俺の家族を…俺の両眼を……。

   あの野郎共……!!

   良くも……!!

 

サラ:お父さん、

   死なないで?

 

アレ:( 激しい苦しみ:約5秒 )――!!

 

サラ:そうだ。

   良く効くお薬があるの。

   龍の薬だってお爺さんが言ってたわ。

 

ジジ:嗚呼…皆死んで行っちまう…!!

   何て(やまい)だ、

   何の力があればこんなに人を変えちまえるんだ!?

 

サラ:きっと龍の血よ?

   これでお父さんも私と同じになれるね。

 

アレ:う…うぅ…ソニア。

   ソニア……待ってくれ。

 

サラ:お父さん?

   ……お父さん?

 

アレ:ソニア……ソニア……。

   ……。

 

サラ:お…父さん?

 

アレ: ……。

 

サラ: ……なんだ、皆嘘吐(うそつ)きだ。

   お母さんとの約束を守るためにこの人は生きてきたんだ。

   ……もう行こう。

   誰の顔も見たくない。

   誰も信じたくない。

   誰にも見て欲しくない。

   誰にも知って欲しくない。

   ……もう…(ひと)りでも行かなきゃ。




 
 
 
     
 
           
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