題名  公開日  人数(男:女:不問)  時間  こんな話  作者

風のシルヴィア(10)~夜葬曲(やそうきょく)

2014/09/17  4(1:1:2) 25分

思い出……。私の始まりの記憶…。

 ニコ

登場人物
(年齢)
性別 その他

シルヴィア
(26)

金髪碧眼の美女です。
最近やっと記憶を取り戻したと思ったらトラウマだらけでした。
幸せになって欲しいです。

アレス
(56)

シルヴィアのお父さんです。
凄く…病んでます。
でも優しいです。

村人
(不詳)

不問

村人(モブ)です。   
場面ごとに声を変えても面白いかも。
ホラー要員です。

フェンシア
(108)

不問

性別不詳のハーフエルフです。
御歳を召されていますがかなりの美人です。
気高くも茶目っ気のある武人です。



風のシルヴィア(10)~夜葬曲(やそうきょく)~」



記憶を取り戻したシルヴィアさんの里帰りです。

初見でも楽しめるように書きました。

暗い話ですが愛してあげてください。




( 記憶の村:のどかな集落 )

 

 

村人:ひっこ…ひっこ…おっせ…おっせ。

 

シル:ここは……。

 

村人:うんしょ…うんしょ…。

 

シル:やはりそうだ……。

   ここは私の生まれた村だ。

 

村人:ふぃぃ。

   (とし)を取ると荷車(にぐるま)を引くのも一苦労じゃて。

 

シル:どういうことだ……?

   私のこの記憶すらも偽りだというのか?

 

村人:んぇ~~?

お前さん見かけぬ顔じゃな。

 

シル:この村は…何故ここにあるのですか?

 

村人:ほっほっ。

   こりゃ突飛(とっぴ)な事を……。

   村がここにあって何が悪いね?

 

シル:だってこの村は……。

   とっくの昔に滅びたはずじゃ……。

 

村人:何を――( 笑い )。

   この村は昔からこうしてここに居るよ?

   お前さんもここに居たらええ、

   ずっとここに居たらええんじゃ。

 

アレ:サラ?

 

シル: ―――ッ!?

 

アレ:サラじゃないか?

 

シル:そんな…。

   貴方は……。

 

アレ:サラなんだろ!?

   ……綺麗になったねぇ。

 

シル:どうして貴方が生きているのですか?

   父さん。

 

アレ:どうして、って……。

   ああ、そうか。

   そうだったね。

 

シル: …?

 

アレ:僕はサラのくれた薬の御蔭(おかげ)で助かったんだよ。

   村の人達も多くが病気で死んでしまったけど、

   なんとか此処(ここ)まで作り直すことが出来たんだ。

 

村人:ほんに、ほんに。

   アレス・シルフィードさんには随分と世話になった。

   優しいし頭も良いし、

   何より力持ちじゃ。

 

シル:力…持ち?

   あの父さんが?

 

アレ:ははは、

   まあ、信じて貰えないのも仕方がない。

   僕は不甲斐ない父親だった。

   

村人:見てみぃ、

   あの立派な風車(ふうしゃ)を。

   誰もが目を奪われる村の名物じゃが、

   アレスさんが一人で作ってくれたんじゃ。

 

シル:あれを…たった一人で?

 

アレ:今日はうちに泊まっていきなさい。

   今度はちゃんと(ふもと)に家を作ったんだ。

   同じ(あやま)ちを起こさない様にね。

 

シル:ハンスやレオンは生きているの?

 

アレ:ああ、皆に逢いたいんだね?

   待っててくれ、

   もう(しばら)くしたら逢わせてあげるよ。

 

村人:お前さんはもう少し遊んできたらええ、

   寂しい村じゃが、

   故郷ならば思い出があるじゃろう?

 

シル:そういえば……あなたには覚えがあります。

   私に娘さんのおさがりをくれた優しい人でした。

 

村人:おおそうか。

   思い出はええもんじゃ、

   何時(いつ)だって心の始まりは、

強い思い出から産まれる。

 

シル:思い出……。

   私の始まりの記憶…。

   この村の御神体(ごしんたい)

   龍封樹(りゅうふうじゅ)

 

 

( 間 )( 記憶の村:龍封樹 )

 

 

シル:ここは何も変わらないな。

   龍封樹(りゅうふうじゅ)の中は。

   樹の中にこんなダンジョンが広がってるなんて、

   きっと誰も知らないだろうな。

 

フェ:( 独り言 )良い場所だな。

   龍の精気(せいき)に満ち満ちている。

   ……まさしく竜騎士シルヴィアの(のこ)()、か。

 

シル:記憶を取り戻した今となっては全て納得がいく。

   私がどうしてこんなにも力を秘め、

   人を殺さずには居られない(ごう)を秘め、

   気高さとやらに憧れてきたのかも、全て。

 

フェ:あやつはここで何を……。

   いや…この村を見れば想像はつく。

   きっとあやつは―――。

 

シル:誰だ?

 

フェ:ほう?

   懐かしい声だ。

 

シル: ――ッ!?

   貴方は…!!

 

フェ:シルヴィア・シルフィード。

   それともサラの方が良いか?

 

シル:フェンシア・キル・ツヴァイボルグ……。

   四騎士の貴方が何故ここに?

 

フェ:()えて言うなら知識の含蓄(がんちく)の為であり、

   ……正直に言うなら暇潰しと言った所だ。

 

シル:暇潰し……?

 

フェ:ん?

我の名を言えると言う事は、

   記憶を取り戻したと言う事か?

 

シル:は、はい。

   とても永い旅路でしたが。

 

フェ:良くぞ。

これであの男も報われような。

 

シル:あの男?

 

フェ:そうか、

   あれから先の事は知らぬか。

 

シル:まさか…団長の身に何か!?

 

フェ:言えぬなぁ。

   だが、まあ息災(そくさい)で何よりだ。

 

シル:『王の鍵』の異名(いみょう)を持つツヴァイボルグです。

   その当主が此処(ここ)に来たのは、

それ相応の理由があるのでは?

 

フェ:(まこと)を教えると思うのか?

   曲がりなりにも忠義を(まっと)うせなんだお主に、

この我が。

 

シル: ……。

 

フェ:そんなことより、

父君に夕食にでも呼ばれているのであろう?

   無下(むげ)にはしない方が良いぞ?

 

シル:フェンシア殿も如何(いかが)ですか?

 

フェ:ん?

   エルフの血を引く我が、

そう安々(やすやす)と腹を空かすとでも?

 

シル:ですが、

見知らぬ土地で独りでは寂しいでしょう?

   少なくとも私はそうでした。

 

フェ:樹の(みき)なり桟橋(さんばし)の下なり、

(のき)は何処にでもある。

   自然に耳を傾ければ孤独など微塵(みじん)も感じぬものだ。

 

シル:ですが―――。

 

フェ:( 被せる )それとも不安か?

   死んだ(はず)の男と共に一夜(いちや)を過ごすのが。

 

シル:貴方と共に過ごしたかっただけです。

   貴方だけは善き人でしたから。

 

フェ:そうでもない。

   我は英雄の名に恥じぬ偏屈ものよ。

   故に見逃してやる。

 

シル:私も…貴方とは戦いたくありません。

 

フェ:ふっ…まあそんなところか。

楽しんでくるが良い。

 

 

( 間 )( 黒く染まりゆく夕映え )

 

 

シル:さて…招かれたは良いけど父さんの家は何処だろう?

   (ふもと)にあるのは確かなんだけれど。

 

村人:お前さん見かけぬ顔じゃな。

   旅人かえ?

 

シル:え?

 

村人:まあええ。

   ゆっくりして行ったらええ。

   (さび)れた所じゃがゆっくりして行ったらええ。

 

シル:貴方と共に過ごしたかっただけです。

   貴方は善い人でしたから。

 

村人:おおそうじゃ、

   腹が空いておるならワシが何かこしらえてやろう。

   この季節は肉が獲れぬで、

大したもてなしが出来ぬがのう。

 

アレ:やあサラ!!

   ここに居たのか!!

 

シル:父さん。

   探しに来てくれたの?

 

アレ:娘を遅くまで独りには出来ないよ。

覚えてるかい?

   母さんの味を。

   僕が腕によりをかけて再現してあげる。

 

シル:私ね、

   実は父さんの事あまり良く知らなかったの。

 

アレ:サラはまだ子供だったからね、

   無理もないさ。

 

村人:アレスさんは良い人じゃ。

   皆アレスさんの御蔭(おかげ)でここまで建て直すことが出来た。

   アレスさんはこの村の英雄じゃ。

 

アレ:( 照れる )言い過ぎですよ。

 

シル: ……うちに案内してくれる?

 

アレ:勿論(もちろん)さ!!

   さあおいで。

 

シル: ……。

 

村人:ゆっくりして行ったらええ。

   ずっとここに居ってもええぞ?

   金など要らぬ。

   ずっとここに居ればええ。

 

シル:可笑(おか)しな村。

   いえ……昔と同じね。

   ここは私が子供の頃から可笑(おか)しな村だった。

 

 

( 間 )( 記憶の村:サラの家? )

 

 

シル:美味(おい)しい…。

   父さん。

何、これ?

 

アレ:(うさぎ)のシチューさ。

   上手(うま)く血抜きが出来て良かった。

 

シル:この季節は肉が獲れないんじゃなかったの?

 

アレ:今朝がたね、

たまたま罠にかかっていたんだよ。

   暴れるから大変だった。

 

シル: ……そう。

この家の間取り…あの頃と同じだね。

 

アレ:君が帰ってきた時に戸惑わない様にね。

   僕なりにずっと心配してたんだ。

 

シル: ……『龍の血』のせいで、

   暴力的になったり、

   力持ちになったりして、

   どうしようもなく不安になったりしなかった?

 

アレ:僕はむしろサラに感謝してるんだ。

 

シル:えっ?

 

アレ:御蔭(おかげ)で村を再建する事も出来たし、

   魔物から人々を護れる。

   僕は運命と戦う力を手に入れたんだ。

 

シル:私もたくさん戦ったよ?

   人並みに恋をしたし、

   人並みに友達も出来た。

   悪くない『それから』だったよ?

 

アレ:はは……お互い様のようだね。

   恋人が出来たって?

   是非紹介してくれよ。

 

シル:もう別れちゃったよ。

   私の方からずっと遠くへ行ってしまったから。

 

アレ:そうなのか…。

   皆でこの村で暮らせば、

   きっと楽しいのになぁ。

 

シル: ……今日はもう疲れちゃった。

   寝る所、

   あるかな?

 

アレ:もう…かい?

   色々と話したかったのに残念だな。

   もっとサラの事が知りたかった。

 

シル:他人(ひと)に話せるような人生じゃないよ。

   父さんだってそうでしょう?

 

アレ: ……。

 

シル:だって自分の事は、

   自分が一番解っているでしょう?

 

アレ:ずっと……此処(ここ)に居てくれるよね?

   ここはサラの家なんだから。

 

シル:そうね。

   美味しい料理有難う、

   父さん。

 

 

( 間 )( 闇色の村 )

 

 

フェ:( 溜息 )空虚(くうきょ)な村だ。

   誰がどう取り(つくろ)おうとも、

一度壊れたものが元通りになる道理は無かろうに。

 

村人:お待ちなせぇ。

お前さん、

見かけない顔じゃね?

 

フェ: ……何度同じセリフを吐くつもりだ?

 

村人:おお…ふふっ、

   遠慮せずともええ、

   ほれっ、

   わしの家に泊まっていくとええ。

 

フェ:そしてずっとこの村で暮らせと?

   断ったらどうなるのかな?

 

村人:そりゃあ――( 笑い )、

   あの人がお前さんを造り直すに決まっておろうが。

   わしらの誰かにのう。

 

フェ:ふっ…正直者め。

 

村人:ひゃひゃひゃ……!!

   誰も此処(ここ)から出られはせぬのじゃ……!!

   お前さんもここでずっと苦しめばええ……!!

 

フェ:我の氷炎陣(ひょうえんじん)を見せてやる。

   冥途(めいど)への土産(みやげ)とするが良い。

 

村人:ギョエエッッエエエッッ!?

 

フェ:ふむ、

龍の木偶(でく)にしては良く燃える。

   素体(そたい)が人間だからか?

 

村人:( 狂った演技で )……ずっと…ずっとこの村に居るとええ。

   何も無い村じゃが、

   皆お前さんを…お前さんを……。

 

フェ:仲間にしたいかね?

   死体から創り上げられた、

(むな)しい村人に。

 

村人:ああ…蜂共が襲ってきゆる…。

   皆腐って……何も無くなってしまう……。

   グ…グゲゲ…!!

 

シル:( 荒い息 )―――これは!?

   フェンシア殿、

   これは一体!?

 

フェ:御覧の通りだ。

旅人を襲う村人を火葬しているだけだが?

 

シル:ですが……この人達は……!!

   私は確かに見覚えがあるんですよ!?

 

フェ:ならば違いも判るだろう?

 

村人:ゴォォォ……!!

   キサマラモクルシメェェェェ!!

 

シル:なっ……!?

 

フェ:龍の残滓(ざんし)から異形(いぎょう)化物(けもの)を産み出す禁術だ。

   この(ざま)では大した使い手では無いがな。

 

シル:龍の…残滓(ざんし)……?

   そうか……あの時の魔物と同じ……!!

 

フェ:龍の眷属(けんぞく)で無ければ扱えぬ龍魔法。

   心当たりがあるのではないか?

 

シル: ……嗚呼…そんな!!

 

村人:グァァァ…( ゾンビの様なうめき声 )

   殺してやる…殺してくれ……うぅぅ。

 

シル:どうして……。

 

アレ:( 欠伸 )――どうしたんだいサラ?

   急に飛び出して行ったから驚いたよ。

 

シル: ―――ッ!?

 

アレ:駄目だよ。

   良い子のサラは、

   こんなものを見ちゃいけないよ?

 

シル:父…さん…?

 

アレ:折角村をここまで直したのに、

   どうして邪魔をするんだ?

   君は一体何処(どこ)の誰なんだい?

 

フェ:フェンシア・キル・ツヴァイボルグだ。

   貴様に用は無いが、

立ち会いたくば受けて立つぞ?

 

アレ:おお……そうか確かにね!!

   遠く離れたこの地でまで、

君たちの事は語り草だったよ、

   いやあ光栄だなぁ!!

 

シル: ……!!

 

アレ:覚えているかいサラ?

   炎と氷、

二つの槍を操るハーフエルフ、

   古き国の四騎士(よんきし)の一人だ。

   昔(はな)してあげたよね?

 

シル:くっ―――!!

 

アレ:でもお父さんも強くなったからね、

   勝負はやってみるまで判らないよ?

   応援してくれサラ!!

   村の皆!!

 

シル:父さん…。

 

村人:ギョアアアア!!

   コロシテヤルコロシテヤルコロシテヤル!!

 

フェ:( 溜息 )――。

身の程知らずが。

 

アレ:嗚呼……噂通り綺麗な顔してるなぁ……!!

   ソニアとは(おもむき)が違うけど何て綺麗な人なんだ、

   早く殺して村人にしてしまいたいよ。

 

フェ:( 笑い )―――こやつめ。

   元々『素質(そしつ)』があったようだな、

   如何(いか)に龍の眷属(けんぞく)になったとはいえここまで狂いはせん、

   こやつは元が―――。

 

シル:( 被せる )もういい!!

 

フェ:くくく……。

 

シル:私が殺す!!

 

アレ:ああそうだね!!

   サラも協力してくれるなら百人力(ひゃくにんりき)だよ!!

 

シル:違う!!

   わたしが貴方を殺すのだ!!

 

アレ:えっ?

 

シル: ……。

 

村人:( 遠くから )グゥゥ……!!

   イタイヨォォ……!!

   クルシイヨォォ……!!

 

アレ:サラ…?

   可笑(おか)しいじゃないか、

   どうして君が僕を……。

   君は僕の―――。

 

シル:( 被せる )私はシルヴィアだ!!

 

アレ:何を……。

 

シル:もう……私は貴方の理想の娘じゃないんだよ。

 

アレ: ……。

 

村人:ギュァァァ。

   オギュギュギュ。

   エアァァァ。

 

シル:待っててくれ皆。

   すぐ楽にしてやる。

 

アレ: ……酷いよ。

   僕がどんな思いでここに(とど)まったのかも知らないで、

   たった1日で僕の13年間を壊すつもりだなんて。

   ……酷過ぎるよ。

 

シル:もう私に言葉は通じないよ?

   父さん。

 

アレ:君がサラじゃないなら……。

僕がサラに造り替えてあげるよ……。

   その顔だけは傷つけないから安心してくれ……。

 

シル:フェンシア殿。

   槍の一振りを貸してはいただけませぬか?

 

フェ:良かろう。

   だがこの槍は、

あくまで我が具現化したものだ。

   我が手を離れればそう長持ちはせんぞ?

 

シル:元より承知の上です。

 

フェ:どちらが良い?

   総てを灰燼(かいじん)()す炎か?

   総てを彫像(ちょうぞう)()す氷か?

 

シル:総てを焼き払う火葬の槍を。

 

フェ:くく…。

   シルヴィアよ、

   お主はきっと母親似だな。

 

シル: ……行きます!!

 

村人:ゴロズゴロズゴロズ!!

 

アレ:さあおいでサラ!!

   君を僕だけの娘にしてあげるよ!!

 

シル:父さん…。

   ごめん……!!

 

 

( 間 )( 紅蓮の炎に抱かれて )

 

 

シル:たぁぁぁ!!

 

村人:ギャァァァ!!

 

アレ:アァァア!!

   熱いよぉぉ!!

   痛いよぉぉ!!

 

村人:ウゴァァァァ!!

   ギョァァァァ!!

 

シル:( 荒い息 )。

   くっ……!!

 

アレ:ぼ…僕は実の娘に焼き殺されて死ぬのか……!!

   村も…村人も…全部燃えていく…!!

   僕は……こんな人生……!!

 

シル:父さん!!

 

アレ:助けてソニア!!

 

シル: ――ッ!?

 

アレ:ソニアアァァァ!!

   ソニア……うぅ……寂しいよぉ。

 

シル:父さん…。

 

フェ:とどめを刺してやれ。

   もはや人間ではないのだ、

   時間をかければ再生するぞ?

 

シル:解って…います。

 

アレ:ヒャヒャハハハハ!!

 

シル:ひっ!?

 

アレ:所詮この世は(から)っぽだ!!

   家族だけが僕の宝物なんだ!!

   家族は僕を殺したりしない!!

   絶対に殺したりしない!!

 

シル: ……。

 

アレ:そうだよねぇ……サラ?

   また二人で仲良く暮らそう?

   ずっと幸せになろうよぉ。

 

シル: ……ねえ。

 

アレ:本当に綺麗になったねぇ。

   ソニアにそっくりだよ。

 

シル:父さん、

本当は解っていたんでしょう?

自分が間違っていたんだって、

気付いていたんでしょう?

 

アレ:サラはまだ生娘(きむすめ)だろ?

    (にお)いで判るさ。

……父さんは嬉しいよ、

ちゃんと自分を大事に出来てたんだね。

 

シル:私を少しでも愛しているなら、

   死ぬ前に心を教えてよ。

   貴方はアレス・シルフィードでしょう?

 

アレ: ……。

 

シル:私に何かを(のこ)して死んで。

   そうすればきっと貴方を忘れずに済むわ。

 

アレ:僕は……寂しかったんだ。

   気づいたらボロボロで、

   君が居なくて、

   村は全滅していて、

   寂しかったんだ。

 

村人:ウ…ウゲゲ。

   嗚呼…これでやっと…楽になれる。

   この地獄から解放される……。

 

シル: ……。

 

アレ:だから何をやっても(ゆる)されると思ってた。

   でも結局、

   僕は自分で自分を(ゆる)せなかった。

 

シル: ……私は貴方を(ゆる)します。

 

アレ: ……え?

 

シル:だってそうでしょう?

   私が(ゆる)せなかったら貴方は何処(どこ)に行くの?

   何時(いつ)になったら安らげるの?

 

アレ: ……サラは本当に良い子だね。

 

シル:( 笑い )―――。

父さんの子だからね。

 

アレ:僕は…本当に君達の家族だったのかなぁ?

   僕だけが場違いなまま……。

何時(いつ)もそこに居た気がする……。

 

シル:父さんの事大好きだよ?

   優しくて臆病で、

   何時(いつ)までも夢を追い続けたお父さんが。

 

アレ: ……もう燃やしてくれ。

   なんだか疲れてしまったよ。

 

シル:そんな顔しないで?

私も一緒に死んであげるから。

 

アレ:ううん、

君には何時(いつ)までも気高く綺麗に生きていて欲しい。

   シルヴィア・シルフィードの名に恥じない人生をね。

 

シル: ……ありがとう。

 

アレ:( 笑う )―――。

   さよなら……サラ。

 

 

( 間 )( 誰もいなくなった朝 )

 

 

フェ:総ての村人を(とむら)うつもりか?

 

シル:大した手間ではありません。

   死臭(ししゅう)にも慣れてますから。

 

フェ:宛ての無くなった己の無聊(ぶりょう)を、

   (なぐさ)めているようにしか見えぬがな。

 

シル:もしかしたら……。

   私は貴方がたに仇成(あだな)す者になるのかもしれません。

 

フェ:その時は受けて立とう。

   お主にはその資格がある。

 

シル:もう行ってください。

   ここは村の人々の眠る地です。

   貴方には相応(ふさわ)しくありません。

 

フェ:その様だな。

   朝焼けは燃えるようだが、

   何とも空寒(そらざむ)い景色ではないか。

 

シル:それでもここは……。

   私の故郷(ふるさと)ですから。




 
 
 
     
 
           
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