「風のシルヴィア(11)~ライアー・タウン~」 シルヴィアさんが迷い込んだとある犯罪都市での一幕です。 ( ライアータウン:キツネ雨の出逢い ) アシ:うん、 うん解ってる。 俺の心は何時だって君だけの物さ。 シル:酷い雨だな…生ゴミと死体の臭いでむせかえる。 アシ:そんなこと言ってぇ、 俺の裸を見て触ればすぐに シル: ……もう行くか。 なんとも 気兼ねなく悪党から金をむしりとれるしな。 アシ:オッケー♪ じゃあまた今度逢おうね? あ・い・し・て・る。 シル:( 溜息 )――。 アシ:( 溜息 )――。 シル&アシ:ライアー・タウンか。 シル&アシ: ―――んっ? アシ:わお……。 綺麗なお姉ちゃん。 シル:なんだい あいにく金なら持ってないが? アシ:それどころか浮浪者みたいだね。 どうだい? 仕事を紹介してやろうか? シル:要らん。 ……とも言えんか。 アシ:決まりぃ!! シル:正義の味方って仕事はあるか? アシ:ん? シル:ここは悪党の街なんだろ? だったら困ってる人を助けて金を貰うのが良い。 アシ: ……漫画の読み過ぎじゃない? 大体あんた銃使えるの? シル:獲物か…ふむ。 これでは不足か? アシ:そんなチンケなナイフじゃ、 チンポ一本切り取れねえよ。 シル: ……そうだろうか? アシ:ま、夢を見る分には誰しも自由だ。 好きに野垂れ死になぁ。 シル:ヒュッ!! アシ: ……うっ!? シル:その首筋を掻っ切るには充分だと思うが? アシ:は…速いですね。 お姉さん……。 シル:ふふっ……ま、良いだろう。 大人げなかったな、 許してくれ。 アシ: ……。 シル:( 去りながら )良い雨だなぁ、 打たれるなら雨が良い。 何もかも流れ落ちてしまえばいいのに。 アシ:なあ、 行くアテがあるのかよ? シル:無かろうとなあ、 アシ:用心棒なら幾らでも紹介してやるよ。 簡単なお仕事さ。 邪魔しに来るやつを シル:護る相手にもよる。 アシ:俺のツレを護って欲しい。 Cの13番地、 『ギーガー』ってアパートに住んでるんだ。 シル:恋人って……。 お前男だろ、 お前が護れよ。 アシ:ふっふっふ♪ 俺の恋人はこの街の人間全員さ。 ついてようがついて無かろうが俺は相手にしなきゃいけない。 そんなツイてない男に シル:愛してるのか? アシ:この街で一番好きなんだ。 シル:その連れの名前は? アシ:ゼウス。 シル:ゼウスか。 お前は? アシ:アシュレア。 シル:私はシルヴィアだ。 確かに引き受けたよ。 ( 間 )( ギーガーのアパート:『512号室』 ) ゼウ:違うな…こうじゃねえ。 もっと…そうだ、 嗚呼…いいぜ、 とろけそうな体液がそそるじゃねえか。 シル:おい。 ゼウ: ……ああ!? シル:ゼウスか? ゼウ: ……うるせぇよ!! ったく。 おめえがまわされてる絵でも描いてやろうか!? くそっ…( ぶつぶつ )。 シル:用心棒に アシュレアの頼みでな。 ゼウ:あっそ、 ふーん。 じゃあそこで立ってな。 シル:別段期待はしていないが、 金は幾ら払える? ゼウ:そこの手提げ袋の札束を全部やるよ。 一日の稼ぎとしちゃあ破格だろう? シル:( 溜息 )――。 不満は無いがもう少し ドアが開けっ放しの癖に、 私の顔もろくに見て無いじゃないか。 ゼウ:男はミテクレ、 女はウチヅラ、 ていうか声が良ければそれでよし。 シル:どうして命を狙われてる? ゼウ:ちょぃと絡まないでくれねえか? いや、別に良いけどよ、 程々に話しかけろよ、 絵描いてるんだからよぉ。 常識ねえのかよ…。 シル:その絵は何だ? ゼウ: ……この街の抽象画。 煙草と子宮と血の大地にそそりたつ巨大なマツタケ。 シル: ……売れるのか? ゼウ:お前さんを雇った金がこれ一枚分の稼ぎだ。 俺がモテモテで良かったな。 シル:上手いのに もっと綺麗な絵を描けばいいのに。 ゼウ:こういうのが需要有るのが此の街さ。 才能で食ってる俺は皆に優しく出来るが、 群れなきゃなんにもできない連中はそんな俺を妬んでる。 頼むぜ本当。 シル:せいぜい護ってやるよ。 ゼウ:ああ、それともう一つ。 シル:うん? ゼウ:俺は女に触られるのが死ぬ程むかつくんだ。 もしも俺に触ったらおめぇ、 本当に殺しちまうからな。 シル:( 溜息 )――。 ぜいぜい気を付けるさ。 ( 間 )( 512号室:魂を売るゼウス・シュトラウス ) 暴漢:クソがあああぁぁ!! 殺してやるッッ!! 殺してやるぞゼウスッ!! シル:黙れって。 暴漢:おぐぇあっ……!? はっ、放せええぇぇぇ!! シル:おい、ゼウス、 こいつはどうする? ゼウ:邪魔だ。 死んでもらえ。 暴漢:ぜっ、ゼウスッ!! てめぇがボスに依頼された肖像画を届けた途端に俺はこの様だ!! ゼウ:ひでえ面だな。 自慢のボスにおしおきされたか? 暴漢:誰が商売敵のゲリリーノ一家のボスとサカってる絵を描けって言った!? こっ、殺してやるっ!! シル: ……は? ゼウ:人類皆兄弟。 男は皆、穴兄弟。 ばきゅーん♪( ※茶化して言ってます ) 暴漢:うわあああん!! ゼウ:ひゃははははは!! 暴漢:ぢぐじょ~~~!! シル:お前……もう行っていいぞ。 気の毒に……。 暴漢:うう…ぐすっ。 ゼウ:良い絵だったろぉ? 正直に言えって。 暴漢:ああ…笑えたよ。 だけどもう笑えないんだろうな、 今日から俺は野良犬だ。 シル:この金をやるよ。 少しでも永く生き延びてくれ。 暴漢:あ…ありがとう……!! あんた……良い人だなぁ。 シル: ゼウ:くだらねえ。 金を持っていようが無かろうが、 此の街じゃ野良犬は死ぬしかねえんだよ。 餌をやるのは馬鹿のやる事だ。 暴漢:( 遠くから ) なっ、なんだお前等!! 放せっ!! この金は俺のだぞ!? お、おいやめろ!! ひぎっ、 やめてくれ助けてくれ ひぃぃぃ……!! シル:( 途中から被せる )それなら馬鹿で良い。 誰も見向きもしないなら私だけでも見つめてやる。 それだけでいい。 ゼウ:ハンッ!! アシュレアにそっくりだな。 ( 間 )( ライアータウン:ドブと夕餉の匂い ) アシ: ……ん? シル:おかえり。 アシ:ただいま。 何か変わったことは? シル:4人殺して1人逃がしてやった。 それくらいだな。 アシ:ゼウスは? シル:定時だからと酒を飲んでるよ。 売春婦を買えたら最高だってぼやいていたが。 アシ:ああダメダメ、 この間それをやって女をバラバラに切り刻んだんだ。 あいつは両刀だけど女にはトラウマしかないみたいでさ。 シル:( 溜息 )――おや? この街に来てから溜息が止まらないな。 アシ:ほらっ、 これやるから元気出せって。 シル: ……饅頭(まんじゅう)? アシ:『 ハッセンハンテン 』って饅頭屋さ。 ジュ~シ~で美味いんだぜ? シル:何か嫌な予感がするが……。 優しいんだな。 アシュレア。 アシ:さっき店の店主が生ゴミに あれって丸焼きにしたらきっと美味いと思うんだよね。 シル: ……( 溜息 )。 ゼウ:よお、 帰ってきたならそう言えよ。 アシ:ようゼウス。 ただいま。 ゼウ:飯食うか? ヒック。 アシ:出来てるのか? ゼウ: …… アシ:ったく―――。 俺が適当に作ってやるよ。 ゼウ:ひひっ……!! シルヴィアはどうするよ? シル: アシ:ここにいれば良いだろ? 一緒の方が楽しいぜ? シル:何かの拍子にそこの獣に触れたらどうする? 折角護ってやったのに殺したくは無い。 ゼウ:ガルルル!! 気をつけろ、 俺様はレクター博士だ!! シチューにして喰っちまうぞ!? シル:まともに、とは言わんが、 ゼウ: ……へっ。 アシ:わお…。 ゼウ:思いっきり仕事をして思いっきり休む。 それが楽しいって事じゃねえのか? シル:そうか、 そうだったな。 ゼウ:答えなんざ 技法も知識も人間の感情の前じゃゴミ屑みてえなもんだ。 思いっきりぶっ放せれば俺は何もいらねえんだよ。 シル: ……そうか。 アシ:まっすぐ行って左の突き当たりに悪趣味なモーテルがあるぜ。 豚の頭を被った 畑からお経が聞こえるんだぜ? シル:なんでもありだな……。 まぁ、せいぜい楽しんでくるとするさ。 ありがとう。 ( 間 )( 512号室:真心を売るアシュレア・レイン ) アシ:稼いだかい? ゼウス。 ゼウ:おお…ヒック。 金になるかは解らねえけど真面目に描いてたぜ。 マスをかいてる暇も無かった。 アシ:俺もさ。 マスをかいてる暇も無かった。 アシ&ゼウ:( 笑い )――。 ゼウ: …… そしたら抱いてやるよ。 アシ:いや、 俺そういうのは良いから。 ゼウスとはプラトニックな関係で居たいんだ。 ゼウ:旅行に行きてぇんだよぉ。 独りじゃ寂しいからお前と一緒に行くんだよぉ。 ……さもなきゃずっとこの街で独りぼっちだ。 アシ:暇な時があるのか? ゼウ:いいえー? 無いですよー。 アシ:無駄な時間を過ごしてる? ゼウ:人生に無駄な事なんざ何一つねえよ。 ただ一つ無駄な事があるとすれば、 自分が無駄だったと思った事実が、 そのまま無駄になるんだろうな。 アシ:酔っ払いに哲学こかれてもな。 ……さ、メシにしようぜ。 ゼウ:ガルル、 俺はお前を喰いたい。 アシ: …… ゼウ:ヘヘッ。 アシ:ほんと、 俺が居ないとゼウスは駄目だなぁ。 ……それは俺も同じだけどさ。 ( 間 )( ライアータウン:油溜まりに浮かぶ朝日 ) アシ:おはようシルヴィア。 よく眠れたかい? シル:( 欠伸 )それなりに。 やはり変態だらけだな、 この街は。 アシ:それはどうもありがとう。 じゃあ今日も頼むよ? シル:もう仕事に行くのか? アシ:仕事ついでに色々あるのさ、 一応 シル:そっちはスラム街だぞ? アシ:繁華街の方がモテるように見えるだろ? 違うんだよねぇ。 シル: ……ゼウスは? アシ:徹夜で絵を描いてたよ。 ゲロで薬も酒も全部流してカリカリカリカリ……。 シル:何を描いていたんだ? アシ:この世の だから最後には良く解らない絵になるんだ。 シル:もしそんなものを本当に 何の未練も無く死ねるんだろうな。 アシ: ……じゃ、 行ってきまーっす。 シル:ああ。 ありがとう。 ( 間 )( ライアータウン:スラム街の餌場 ) 変態:ハァ…ハァ…。 ねっ、ねえ、 き…君は売り物かい? アシ:ん~? おじさんのお財布次第かな~? 変態:い、幾らだい? アシ:半分。 変態:は…半分も!? お、大きく出たねぇ……。 アシ:おじさんのおっきぃのに比べたら大したことないでしょ? 変態:ぼ…僕にお金が無かったら、 ど、どうする? アシ:それでも半分くれるなら良いよ? 変態:ぶっ、ブヒヒッ!! じゃ、じゃあ、 こ、これで……、 た、足りるかなぁ? アシ:へえ……。 これって、 ママからのお小遣い? 変態:だ…駄目だよね…ぼ…僕… で、でも……。 き、君、とっても可愛いから……。 僕……僕……( 泣く )。 アシ: ……( 鼻で嗤う )。 変態:今まで誰からも愛されたことなんてない……!! 僕なんて死んだ方が良いんだ……!! アシ:良いよ。 変態:( 泣き止む )――えっ!? ほ、本当かい!? アシ:気持ちよくしてあげる。 変態:ど、 な、殴っても良い? アシ:顔以外なら。 あとちゃんと着けてよね。 変態:( 半ギレ )――な、なんでだよぉ!? ぼ、僕達、 お、男同士だろ!? アシ:くすっ♪ 俺さぁ、 実はついて無いんだよね。 ( 間 )( 512号室:二人きりの時間? ) ゼウ:よう立ちんぼ。 シル: ……なんだい引きこもり? ゼウ:ちょいとモデルにならねえか? シル: ……ああ!? ゼウ:金なら別に払う。 良いからそこに立ってみろよ。 シル:綺麗な物を描くのは美学に反するんじゃなかったのか? ゼウ:時計を見てみな? シル: ……あ。 ゼウ:定時だ。 シル: ……。 ゼウ:暇潰しに付き合ってくれよぅ。 シル:暇潰しにされるような女じゃない。 ゼウ:じゃあ本気です。 本気で貴女を シル:( 笑い )――。 お前。 ゼウ:止められねえものは仕方がないさ。 ナニがおっ勃つのを誰が止められるね? シル: ……言っておくが、 脱がんからな? ゼウ:良いよ。 そのままでも充分綺麗だ。 ( 間 )( 綺麗な人は陽だまりにこそ ) ゼウ:ふうむ、 ドミナントは白で決まりなんだが、 いまいちバタ臭ぇな。 シル: ……。 ゼウ:ハッチングで決めてみるか~? いやいやボカすだろうなここは。 しかし綺麗なもんだねぇ……。 シル: ……。 ゼウ:おお……この ガラス細工のひび割れに興奮するのは何年ぶりだ? もって生まれた人生に経験が シル: ……な、なあ、 どうしてアシュレアに身体を売らせるんだ? ゼウ:おい!! 動くなって。 シル:あ、ああ。 ……済まない。 ゼウ: ……別に強制はしてねえよ? シル: ……恋人なんだろ? お前は曲がりなりにも金持ちなのに。 ゼウ:あいつなりに価値が欲しいんだろうさ。 シル:価値……? ゼウ:自分で稼いだ金で飯を喰うってのは 誰かに必要とされてるって価値が欲しいんだろうさ。 シル:全部お前次第じゃないか。 ゼウ: ……。 シル:二人は ゼウ: ……。 ( 間 )( 闇の住人は仄暗き狭間で ) 変態:はぁ…はぁ…。 はぁ…はぁ……。 アシ: ……どいてくれる? もう気が済んだだろ? 変態:ぶふぇっ……!? う、うん。 ご、ごめんよ? アシ:痛てて……。 ったく、 おじさん 変態:あ、飴ならあるよ? アシ:じゃあ自分の吸うわ。 ……おじさんもキメる? 変態:ご、ごめんよ。 ママに叱られるから――。 アシ:あっそ。 ( 喫煙 )―――。 変態:か、可愛いねアシュレアちゃん。 ぼ、僕のお嫁さんになってよ。 アシ: ……考えとく。 変態:ぼ、僕本気だよ!? ママは厳しいから、 きっとアシュレアちゃんを嫌うだろうから、 別のおうちを用意してあげるね? アシ: ……ん? これ……こいつの財布か? 変態:た、たまに遊びに行ってあげるからね? い、一杯 い、一緒に遊ぼうね? アシ: ……。 変態:ど、どうしたの…? アシ:半分、 って言ったよね? 変態:そ、相場だっただろ…? な、何だよその眼…。 止めてよ……怖いよ……。 ( 間 )( ライアータウン:夢の終り ) シル:おかえり。 アシ:ただいま。 シル: ……血の匂いがするな。 アシ:ケチな豚を一匹ぶっ殺しただけさ。 シル:そうか。 アシ: ( 溜息 )――。 シル:ふふっ。 アシ:もう良いよシルヴィア。 結局のところ俺達はどうしようもなく ここはあんたの居る場所じゃないんだ。 シル:どうしようもない悪夢だからこそ、 悪夢の中でしか生きられない住人も居るって事だな。 アシ:暴力の街だからこそ、 暴力じゃ解決できない街なのさ。 シル:ライアー・タウン。 アシ:地獄の街さ。 シル:どうして迷い込んでしまったのか解らないが、 私はまだ壊れていなかったって。 アシ:ふふっ……あんたは行きなよ。 シル:幸せにな。 遠い旅の空から アシ:くすっ…俺だってそうさ。 ( 間 )( 夢の続き ) ゼウ:ん……( 欠伸 )。 アシ:起きた? 随分幸せそうに寝てたね。 ゼウ: ……何だよ、 被写体は何処行ったんだ? アシ:逃がしてあげたよ。 この街には勿体無かったからさ。 ゼウ:っか~~~~!! まだ描きかけだったのにあの ( 舌打ち )――これじゃゴミ箱行きだな。 アシ:素敵な絵じゃないか。 とっても綺麗なのに……。 ゼウ:まだあいつの気持ちを入れてない。 アシ:シルヴィアの気持ち? ゼウ:これじゃ俺の主観に過ぎねえ、 ただの物質だ、 心の込もってねえ絵なんざ糞だ!! アシ:なあゼウス。 その絵、 捨てるなら俺にくれよ? ゼウ:本気かよ? ただの小綺麗な肖像画だぜ? アシ:うん。 ただ綺麗だから好きなんだ。 ゼウ:違う女で描いてやるよ。 要するに売春婦じゃねえのが良いんだろう? こんな出来損ないの絵なんざ今すぐ――――。 アシ:( 被せる )お願い!! シルヴィアの絵が好きなんだ!! ……きっと思った以上に大事にし続けると思うから。 ゼウ: ……これがねえ。 ま、 ガキの アシ:ありがとう。 ……良いなあこれ。 この絵と一緒に居たら ゼウ: ……なあ、 今度旅行に行こうぜ? この街から抜け出して、 二人で アシ: ……うん、 考えとくよ。 |
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