題名  公開日  人数(男:女:不問)  時間  こんな話  作者

風のシルヴィア(14)~情熱旋風~

2014/10/17  5(3:1:1) 25分

俺は後悔していない。自分の人生に、決断に。

 ニコ

登場人物
(年齢)
性別 その他
シルヴィア
(26)
主人公。
金髪碧眼の美女。
バトル大好きの元騎士。
ロヴェル
(30)
シルヴィアの元上司。
黒髪紫眼の良い男。
一体○―ウィンなんだ……?
ジーニアス
(17)
不問

『王の影』と呼ばれる英雄の一人です。
飄々とした感じでお願いします。
若々しさ、解き放つ。

通行人(不詳)
カミュ(42)
兼ね役でお願いします。
通行人は怪しい感じで。
カミュは貴族の様に上品に嫌味たらしくお願いします。
商人(不詳)
行商人(不詳)
兼ね役です。
情熱的なモブです(一応演じ分けてください)。
ノリノリでやると楽しいです。


「風のシルヴィア(14)~情熱旋風~」




記憶を取り戻したシルヴィアは砂漠の国でかつての仲間と出逢う。

感傷たっぷりに演(や)ってください(厨二

バトルも多少あります。





( 砂漠の国マディーン:商業都市プラシカ )

 

シル:暑い……。

ここが砂漠の国マディーンか。

面白い店が幾つも並んでいるが……。

 

商人:おりゃほ(訳:よいしょ)!!

   おりゃほ(よいしょ)!!

   うぅーい(どっこらしょ)!!

 

シル:あ…あの。

 

商人:らだ(訳:いらっしゃい)!!

   らだどうがや(いらっしゃい、何にするね)!?

 

シル:???

   じゃ、じゃあこれを。

 

商人:おいしょおホイキタ(よっしゃ、任せときな)!!

   あんべえよろしゃんすぅ(これからも宜しくな)!!

 

シル:か…買えた……。

   ん?

 

 

( 間 )( 同じ店にて:喧騒 )

 

 

商人:ダアアアラヤアアア(なんだてめえ)!?

   えんずうばぁぁが(うるせえ馬鹿が)!!

ほいどぉぉぉ(乞食野郎が)!!

   

ロヴ:だから何なんだそりゃあ!?

わかんねえよおい!!

   俺はクロウリの工芸品を売ろうとしているだけだろうが!?

 

商人:あぐでぇ(悪党が)!!

あぐでぇよらしゃんすゥ(寄るんじゃねえ悪党が)!!

   げでげ、げでげほうじゃあ(出てけ、出てけよ)!!

 

ロヴ:痛ッ……えっ、しょっぱっ!?

   塩って、おい!!

   なん…塩撒くのやめてぇ!?

 

商人:さあ毎度毎度!!

   マディーンが誇る星の砂だズラ!!

   使えばMPが回復するだじゃあ!!

 

ロヴ:なんだよ、普通にしゃべれるんじゃねえか……。

あぁ……自信無くすぜ、

ほんと…。

 

シル:団…長……?

 

ロヴ:ん?

……おいおい、

その名で俺を呼ぶ女は一人しかいないが。

 

シル:ロヴェル団長じゃないですか!!

 

ロヴ:ああ、やっぱりお前か。

   偶然にしちゃ出来過ぎてるな。

 

シル:どうして団長がここに……?

 

ロヴ:今の俺は商人だぜ?

そしてここは、

砂漠の国マディーンだ。

   別に俺がいたって不思議じゃないだろ?

 

シル:私はただ…(おもむ)くがままにここへ来ました。

 

ロヴ:そうか、その様子じゃ、

記憶を取り戻したようだな。

   良かった良かった。

 

シル:ええ…長い旅路でしたが……。

   私は……私は……。

 

ロヴ:やっと自分ってやつを取り戻せたんだな。

   おめでとう、

シルヴィア!!

 

シル:はい……!!

 

ロヴ:色々あったが、

やっとこれから。

   だな!!

 

シル:私ッ!!!

   そのっ、

愛していました……!!

   大好きでした団長!!

 

ロヴ:ああ……ええっと、

無理だ。

 

シル:えっ。

 

ロヴ:おいおい。

   一度途切れた(ひも)をこよって何になる?

   元通りになったつもりになるだけさ。

 

シル: ……。

 

ロヴ:新しい道って奴を、

見つけ出して歩くのは、

   まあしんどい事だが、

   だからって過去にすがるのは弱虫のやることだ。

 

シル:そう……ですよね。

   軽率(けいそつ)でした。

 

ロヴ:全く、楽しいもんだよ旅って奴は。

   お前も人生を謳歌(おうか)しているか?

 

シル:団長が私の為に何処(どこ)まで(つい)やしてくれたのかは知りません。

ですが貴方の御蔭(おかげ)で今の私が有ります。

今までありがとうございました。

 

ロヴ:限り無きは感謝の心、か。

   何時(いつ)か二人で酒でも()()わしたいもんだな。

 

シル:そうですね。

   ……もう行ってしまわれるのですか?

 

ロヴ:ああ。

   俺は部下を守れず仲間を見捨てた卑怯者。

   お前はアイゼフィールの為に使命を果たした英雄。

   ……これが一番おさまりが良い。

 

シル:あれ……?

   おかしいです、団長。

   いきなり涙が……止まらなくて。

 

ロヴ:( 優しく )砂漠の風に癒してもらいな。

   もう俺がお前に出来る事は充分したさ。

 

 

( 間 )( 商業都市プラシカ:夢の謳歌街 )

 

 

シル:どうかしてる…私は……。

   ここまで来て涙を流して……。

   どうしてあの人にすがろうだなんて……。

 

商人:おう(ねえ)ちゃん!?

   オハナ垂らして何しとるんじゃ!?

 

シル:えっ?

 

商人:ここは情熱の国マディーン!!

   炎の様に(たぎ)慕情(ぼじょう)があるなら、

ぶっ(ぱな)さんかい!!

 

シル;お…おお?

 

商人:燃えんかい小娘!! 

   まだまだ若いみぎりじゃろうがい!!

   熱ぅならんかい!!

   ばいじゃああああい(訳:がんばれええい)!!

 

シル:お…おう…?

 

商人:ほれ、これこれ!!

   マグマベーコンにコブラの卵に、

チクチクトマト!!

   ほれほれ、

   コハクパンもつけるじゃい!!

 

シル:あ…ありがと……う?

   ですが……これで何をしろと?

 

商人:なんじゃいワレぃ!?

   これでメシが作れるでっしゃろ???

 

シル:で、でも……調理場も無いし。

 

商人:なら貸してやるじゃい!!

作れねえなら教えてもやるんじゃ!!

   男をメシで飼い慣らして幸せに成らんかい!!

 

シル:お金は?

 

商人:馬鹿こぐでね(訳:馬鹿言うな)!!

   わらすがらぽしゃって何になるじゃ(子供からぼったくって何になる)!?

 

シル:( 躊躇い )――。

 

商人:はよ作らんかい!!

男の居場所ならワシ等が総出(そうで)で探してやるじゃ!!

あとそこに立たれると邪魔じゃ!!

のけ、のけっ(訳:どけどけッ)!!

 

シル:情熱の国……ふふっ、

   いえいえ……嬉し泣きです。

   これくらいは御容赦(ごようしゃ)下さい。

 

 

( 間 )( 砂漠の憩い場:『 激オアシス 』 )

 

 

ロヴ:ふぃぃぃぃ。

   まったくよぉ。

 

シル:( 明るく )団長♪

 

ロヴ:ん?

……お前ってこんなにしつこい女だったか?

 

シル:ふふっ…。

   よいしょっ…と。

   オアシスで休憩ですか?

 

ロヴ:( うんざりと )商談がまとまらん。

   オマケだボジョーだのとうるさい割に、

商売には手厳しい国だ。

 

シル:サンドイッチを作ってきました。

   いかがです?

 

ロヴ:シルヴィア……!!

俺は嬉しいぞ、

   ようやく女らしくなってくれて……!!

 

シル:ふふ……。

そういう貴方は、

やっと気楽になれたのですね。

 

ロヴ:あぁ……毒とか入って無いよな?

   前に一度酷い目に逢ってるもんで。

 

シル:食べるのか?

   食べないのか?

 

ロヴ:はいはい、

当然いただきまっしゃろ?

   美女の(ほどこ)しを拒否れば男が(すた)るじゃい!!

 

シル::ふふっ、

    なんなんですか、それ。

 

ロヴ:はは、連中の真似(まね)だ。

   おい、寄越(よこ)せ。

 

シル:はいはい。

 

ロヴ:( 食べながら )この国は、

世界の通り道。

   誰だって不毛の砂漠を見りゃ、

踏破(とうは)したくなるのが普通だが、

   中には本当に挑む馬鹿が居る。

   そんな個性的な奴等が世界中から集まって、

こさえた国がここさ。

 

シル:情熱を(いだ)いた人が創り上げた国。

   未来と希望と人生を賭けて。

 

ロヴ:そして道や街を整備し、

   同じ穴のムジナを呼びこんだ。

   ……結局そんな強い奴等も何が辛かったって、

孤独が一番の絶望だったって事だ。

 

行商:おりゃあ!!

   買えやごるぁ!!

   損はさせんけえのう!!

 

通行:なんばいうぞきさん(訳:何言ってるんだお前)!?

   わしゃあ腐った魚なんぞくいとうないんじゃ()け!!

 

行商:こりゃあハモいうんじゃあほぉ!!

   こんな砂漠でも生きとるくらい命張ってるんじゃ()け!!

   買ってやらんかいタコ!!

 

通行:うげぇ!?

   なんじゃそのウニョウニョした……おえっ。

   貴方、正気(しょうき)ですか?

 

行商:なんっ―――!?

   ……美味しいよ?

 

シル:ふふっ……。

   良いですね、

   感情をぶっ(ぱな)すって。

 

ロヴ:ああ。

   手練手管(てれんてくだ)で女を口説くのも嫌いじゃないが、

   ああいうので手に入れた女こそ、

本当に幸せに出来る女なんだろうな。

 

シル:そんな気がします。

 

ロヴ:(つい)棲家(すみか)には相応(ふさわ)しいのかもしれねえ。

   負ければ終わるだけってのも気楽でいい。

 

シル:( 深呼吸 )……良い風です。

 

ロヴ: ……ああ。

   そうだな。

 

シル:……何だか、

   あの戦争の日々が遠い昔の様ですね。

 

ロヴ:1年あれば人間変わるさ。

   仲間の噂もチラホラ聞く。

   ああ、何て言ったか、

あの…ほら、

   あの青い髪の伊達男(だておとこ)

 

シル:ティエラ・カプリス。

   今じゃアイゼフィールの敵ですものね。

 

ロヴ:ああ。

お前の隊は面白い奴がたくさんいたな。

   何て言ったかな?

   黒髪の、

なになにっす~が口癖のガキ。

 

シル:( 躊躇い:※その子はもう死んでいます )――。

 

ロヴ:まあ良いさ。

   それが応えなら勝手に想うとしよう。

 

シル: ……ロミオは、

   運命で片づけてよい子だったのでしょうか?

 

ロヴ:自分で自分の絵図(えず)を描かなきゃならないのが、

大人の辛い所だが、

   それが描けない奴は自殺する勇気も無いのが辛い。

 

シル:団長は全部思い描いているんですか?

   自分のこの先の人生すらも。

 

ロヴ:( 乾いた笑い )ハハハ…!!

こうなったら、

こうなった()りでな。

   それに、

   あれだぞ、

   お前は後悔なんてするな。

 

シル:どうして?

   ……ですか?

 

ロヴ:お前は良い女だ。

   そんなお前の為に何かをしてやれたら、

   そりゃあ一番判り易くて簡単な、

   男の夢だって事さ。

 

シル: ……貴方にすがっても、

   良いですか?

 

ロヴ: ……。

 

シル:私は貴方の(そば)にいてはいけませんか?

 

ロヴ:さっきも言っただろう、

   夢が人生を狂わせることもあれば、

人生が夢を否定することも有る。

   俺の場合は、

   これ以上女のせいで人生を狂わせたくない。

 

シル: ……。

 

ロヴ:それが、

俺の決めた()(ざま)だ。

 

シル:ふふっ…氷の様に冷たい信念。

   やはり貴方は昔のままでしたね。

 

ロヴ:はは、お前の御蔭(おかげ)で少しは()けたさ。

   ごちそーさん。

   ……もう行くわ。

 

シル:ええ…さよなら。

 

 

( 間 )( 激オアシス:水の飛沫の音だけが聞こえ )

 

 

シル:( 溜息 )――。

 

通行:ふふっ、正気(しょうき)かいあんた?

 

シル:えっ?

 

通行:どんな仕事だろうと境遇だろうと、

最後に当てはめるピースは恋だろう?

   それを恰好(かっこう)つけて手放(てばな)して、

   一体誰が幸せに()れるんだい?

 

シル:ふふっ、

   そんな資格が無いから、

   私達は何時(いつ)までも苦しむのさ。

 

通行:やれやれ……。

隣、空いてるかい?

 

シル:見ての通りだ。

 

通行:どっこらせ……っと。

 

シル:どうすれば良かったと思う?

   どこから間違っていたのかな。

 

通行:あんたがこっち側に来たいと願って、

   ボコボコにされて、

   最後に頼るべき男に意地を張って。

   さあ、どれがいいね?

 

シル: ……いや、よそう。

   前を向くって決めたから、

   私は軽々(かるがる)しく命を賭けるんだ。

 

通行:あはははは!!

   あー……おっかしぃね。

   実に君らしい。

 

シル:あの時、

貴方は影猫(かげねこ)と名乗っていたな。

   本当に変装の上手いことだ。

 

通行:『あの時』は僕だけ居なかったからね。

   君と出逢うのはこれで2回目って訳だ。

   でも、何故だい?

 

シル:この国には、

貴方の冷たい心は相応(ふさわ)しく無い。

……そんな気がしただけだ。

   ……それは私も団長も同じだが。

 

通行:ふふ……悪いけど、

記憶が戻ったのなら殺すよ?

   ゼオ(じい)とはそういう取り決めだったものでね。

 

シル:優しい事だな。

   その気になれば背中から心臓を貫く事も出来ただろうに。

 

通行:冗談!

   君みたいな綺麗な人を後ろから襲うだなんて、

   そぉんないやらしい真似(まね)できまっか!?

 

シル:御身(おんみ)は『王の影』、ですね?

 

通行:フフフフ――。

 

ジー:( 途中から被せる )フフフフ……!!

いかにも。

   『古き国の四騎士(よんきし)』が一人、

   『王の影』。

   ジーニアス・フィール・トライダアト。

   貴女を()らせていただきます。

 

シル:( 微笑みながら )元エルツィ傭兵団一番隊隊長、

   シルヴィア・シルフィードです。

   宜しく頼みます。

 

ジー:さぁて……、

どこから始める?

   二人ともベンチに座ったままってのも(おつ)で良いけどさ、

   僕としちゃあ、

誰も居ない所で二人っきりになりたいなぁ。

 

 

( 間 )( 刹那にして凍りつく夢広場 )

 

 

シル: ……ふう。

 

ジー:ん?

 

シル:ふんっ!!

 

ジー:うあっ!?

 

シル: ――ッ!?

へえ。

   流石に速いな。

 

ジー:なな、何が!?

   正々堂々じゃないの!?

 

シル:あいにく騎士と名乗ったのは遠い昔の事だ。

   今の私はただの旅人さ♪

 

ジー: ……あぅぅ。

   うぜぇ……。

 

シル:こう人前では十分に力を発揮出来ないだろう?

   自慢の()けの(かわ)()がれそうだぞ?

 

ジー:別に素顔を見せるのは良いけどさ、

   見た奴を皆殺(みなごろ)しにする手間がかかるからねぇ。

 

シル:退()くつもりは無いのか?

 

ジー:これも役割、

   生きるも死ぬも駄賃(だちん)には含まれている。

 

シル:ならば……行くぞッ!!

 

ジー:( 独白 )速いな……。

   随分と成長している。

   蘇った記憶と、

   旅をした経験。

   (微笑み)……良い宝物だ。

 

シル:くっ!?

 

ジー:でももう少し、かな?

 

シル:二つの黒い短剣、

   それがお前の獲物か!!

 

ジー:紹介するよ。

   黒刀(こくとう)

(やみ)』と『(くらい)』、

   君のドラゴンスレイヤーと同じくらいの、

いわくつきだ。

 

シル:私の事は全部お見通しという事か。

   だが、私は戦えるぞ!!

   私は強くなった!!

 

ジー:ふふっ。

良いねえ、

   風の神獣に貰った宝剣(ほうけん)か。

……お互い全力で行こうじゃないか。

 

シル:(おう)とも!!

   風のシルヴィアが我が大綱(たいこう)に問う。

   血沸(ちわ)く龍の真言(しんごん)よ、

   大神獣リューシオンの加護の元に具現し、

今この(やいば)破邪(はじゃ)御剣(みつるぎ)()さん!!

 

ジー:(おとし)めよ、(やみ)

   ()みつくせ、(くらい)

   刹那の残光(ざんこう)に黒き憎悪を込め、

(なんじ)血潮(ちしお)(あか)(たけ)びで満たすべし……!!

 

シル:『風龍神の戦加護(ドラグレイド・フィアー)』!!

 

ジー:『闇喰乃斬子(クラハミノキリコ)』。

 

シル:行くぞ!!

英雄!!

 

ジー:ふふ…何処(どこ)からでも……!!

 

 

( 間 )( 商業都市プラシカ:暗い袋小路 )

 

 

ロヴ:さて、

   一体俺は何処(どこ)から(だま)されたのか。

 

行商:ん?

だら(訳:どうしたんだ)?

   えんずうがら、けたぐったべや(面倒くさいから、絡んでくるなよ)。

 

ロヴ:俺にとっては大事な話だ。

   確かにあんたは『完璧な行商人』だよ。

   情けは人の為ならずってのを体現(たいげん)している。

 

行商:げはは!!

   むなやげがするじゃあ(訳:胸がざわざわするって)!!

   わぎぃな、わぎぃな(おだてんな、おだてんな)。

 

ロヴ:だがな、

   何処(どこ)にも理想郷(りそうきょう)なんて物は在りはしないのさ。

   浮浪者には恵みを、

   悲恋(ひれん)(ふけ)る者には導きを、

   正義の為に利益を否定する。

   なんて聖人は特にな。

 

行商:じゃあ(訳:こら)!!

かだぐぜえでば(堅苦しい話は抜きにしな)!!

わでらはほぉがいでっしゃろ(俺達は同胞じゃないか)!!

 

ロヴ:あいにくとこの場所は、

こっちにとっても都合が良い。

 

行商:わっ、わわっ!?

   やめれ!!

 

ロヴ:この狭い場所で二人きりだ。

   人違いでも……誤魔化(ごまか)しが効くからなッ!!

 

行商:げひゃぁぁあ!?

 

ロヴ:果たしてどうかな?

   あの商人もあんたも『同じ人物』。

   違うかな?

 

行商: ……ぅぅ。

 

ロヴ:ではもう一刺(ひとさ)し。

 

ジー:止めてください死んでしまいます。

 

ロヴ:ハハ、御久(おひさ)しい事ですね、

   『王の影』、

   トライダアト(きょう)

 

ジー: ……ちぇっ、

   ()まらないな。

   君の方は真面目(まじめ)に暗殺しようと思ってたのに。

 

ロヴ:なにゆえですかな?

 

ジー:君が商人に(おさ)まっている(うつわ)じゃないからさ。

   だってそうだろう?

   元アイゼフィールの男爵(バロン)殿。

 

ロヴ:随分と買い(かぶ)られたものだ。

   愚か者と看過(かんか)して下されば、

下手な真似(まね)もしないものを。

 

ジー:まあ正直に言えば、

   僕個人が君達に魅せられたってのも大きい。

   君達が僕達に憧れた様にね。

 

ロヴ:なにが(笑)

   私はそんな殊勝(しゅしょう)な人間じゃありませんよ。

   ()の名前も、

都合が良いので名乗っていただけの事です。

 

ジー:そうなのかい?

   僕には君もシルヴィアも、

夢を追いかける(わらべ)にしか見えなかったけど。

 

ロヴ:ハハッ……。

   まぁ、それは置いておきましょう。

   どうしますか?

   殺し合いますか?

 

ジー:残念だけど歯が立ちそうに無いなぁ。

   シルヴィア相手でさえ、

あれ程手こずっているんだ。

   影の僕じゃあ尚更(なおさら)だよ。

 

ロヴ:『王の影』トライダアト。

   文字通り暗殺・諜報(ちょうほう)統括(とうかつ)する貴方は、

自在に操れる影を3つ持っていると聞く。

 

ジー:その通り♪

   僕の属性は『 (うつろ) 』。

   何処(どこ)にもいるし何処(どこ)にもいない。

   だから僕を殺すことは誰にもできない。

 

ロヴ: ……隠すなよ。

   本体を殺せば影も消えるし、

   その影にしたって『奥の手』が在る(はず)だ。

 

ジー: ……おやおやぁ?

   英雄に興味の無い君が、

   どうしてそんな事まで調べているのかな?

 

ロヴ: ……元エルツィ傭兵団団長、

ロヴェル・バークライツだ。

相応(ふさわ)しい相手を召喚しな。

 

ジー:アハハ……うむ!!

   では我が『操影陣(そうえいじん)』の(みょう)をご(ろう)ぜよ!!

   (ひょう)()っ!!

 

ロヴ: ……なっ!?

 

カミ: ……ふう。

 

ロヴ:こいつは……!!

 

カミ: ……ほう?

   ジーニアスの小僧め、

   どれほどの理由でこの私を召喚したのかと思えば、

とんだ獲物ではないか。

 

ロヴ:まさかあんたが出てくるとはな!!

   『王の(つるぎ))』、

   カミュ・レーヴ・フィーバストルテ!!

 

カミ:軽々(かるがる)しく私の名を口にするな、

裏切り者め。

 

ロヴ:ふふ……あんたには()りがあったな。

 

カミ:うぬ?

   何の事だ?

 

ロヴ:うちの最年少の隊長の事だ。

   俺が居ない間に、

随分と好き勝手に(いじ)ってくれたらしいじゃねえか。

 

カミ: ……ああ、それか。

   だが、あの時貴様が(そば)に居たとして、

   結末は変わっていたのかね?

 

ロヴ: ……ッ!!

 

カミ:貴様とて数多(あまた)の犠牲の上にあの地位に立ったはずだ。

   正直な所、

私は貴様に一目(いちもく)置いていたのだぞ?

 

ロヴ:そりゃあ、

()(がた)いこって。

 

カミ:クフフ……!!

( 煽る )それが、

たかだか女一人の為に(すべ)てを投げ出す愚か者であったとはな。

   やはり下賎(げせん)の血は(あがな)えんか。

 

ロヴ: ……なあ、

俺の傭兵団はどうだい?

 

カミ:ぬっ!!

 

ロヴ:あんたが引き継いだエルツィ傭兵団だよ。

   原石(げんせき)兵団(へいだん)

   皆俺にとっては家族であり、

   仲間であり、

   愛していた。

 

カミ:だが貴様はそれさえも見捨てた!!

   私と何が違うというのだ!?

 

ロヴ:俺は後悔していない。

   自分の人生に、

   決断に。

 

カミ: ……ッ!!

   義務も果たさず責任を放り投げ!!

   誰も彼もに責務を押し付け、

何をいけしゃあしゃあと!!

   (くず)分際(ぶんざい)で私に語りかけるな!!

 

ロヴ:( 微笑む )あんたも大変だろうな。

   英雄のままで居るってのはさ。

 

カミ: ……()けぃ。

   小賢(こざか)しい(した)は命ごと斬り捨ててくれる。

 

ロヴ:ああ、

   いくぜっ!!

 

 

( 間 )( 激オアシス:血潮で語る少女の夢は )

 

 

シル:( 荒い息 )ハァ…ハァ…。

   ふふっ……余所見(よそみ)ですか?

 

ジー: ――!?

   あ…いや失礼、

   向こうが面白そうだったもので、つい。

 

シル:斬りましたよ。

 

ジー:ん?

   ……ぐぁっ!?

 

シル:確かにそのスピードは圧倒的です。

   私の心眼(しんがん)(もっ)てしても(とら)える事は(かな)わない。

 

ジー: ……これは申し訳ないな。

   決して飽きた訳では無かったのだけれど。

 

シル:貴方は暗殺者(アサシン)であって騎士(ナイト)では無い。

   迷いを振り切れる時間には限りがある。

   そうでしょう?

 

ジー:迷い……。

   ( 笑い )そうか、僕は迷っていたのか。

 

シル:それでも貴方には(かな)いません。

   貴方が本気で来たのであれば、ね。

 

ジー:いやいや、君は強いよ。

   自信を持って良い。

 

シル:私が好きならここで手を引いてください。

   あるいは私達から。

 

ジー:ふぅむ。

   ( うんざりと )しかし此処(ここ)で手を引くと、

あの親父がうるさいしな。

 

シル:大丈夫です。

   きっと私達はまた出逢えます。

   もっと相応(ふさわ)しい舞台で、

   全力で戦える日が来るはずです。

 

ジー: ……ふふ。

   なんてキラキラした眼をしているんだい。

 

シル:くすっ。

楽しかったから、つい。

 

ジー:ああ…僕は何と言う事だ!!

   流石は砂漠の大国(たいこく)マディーン。

   何時(いつ)()にか(うるわ)しき蜃気楼(しんきろう)(だま)されてしまったようだ。

 

シル: ……お元気で。

   ジーニアス殿。

 

ジー:君もね、

シルヴィア君。

   僕をわくわくさせる素敵な旅をまだまだ続けてくれ。

   じゃあねー♪

 

 

( 間 )( あの干戈の残り香は今も心に )

 

 

シル:ふう……。

   つっかれたぁぁぁ!!

   ……オアシスで水浴(みずあ)びしたら、

   皆に怒られるかな?




 
 
 
     
 
           
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