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 風のシルヴィア(15)~モグッ、モグモグッ~

2014/11/14  5(3:2) 25分

貴方の気持ちも解るけど、貴方が正しい事も解るけど、どうかお願いします。

 ニコ

登場人物
(年齢)
性別 その他
シルヴィア
(26)
本作の主人公。
戦闘好きな所を除けば大人な女性です。
金髪碧眼の美女。
アーウィン
(30)
団長、ロヴェル等と呼ばれる事が有りましたが、
アーウィンが本名です。
ダンディーなシルヴィアの元上司。
スマイル
(31)

変テコなモグラ族の男。
詩的な台詞回しが特徴的。
好きに演技なさってください。

エレナ
(30)
『ディオールの四騎士』と呼ばれる英雄の一人。
シルヴィアとは趣の違う美女。
とっても優しい皆の理想の上司。
登録官&兵士
(不詳)
いわゆるモブ。
登録官はベテランなんだけど怪しい親父。
兵士は正義漢過ぎて少しヤんでる感じでお願いします


「風のシルヴィア(15)~モグッ、モグモグッ~」




情熱の国マディーンに辿りついたシルヴィアは路銀稼ぎに傭兵になることにした。

そこでモグラ族のスマイル、かつての上司アーウィンと出逢い、

三人は強大な敵へ挑むことを決意する。





( 紅い砂の街サライ:傭兵登録所 )

 

シル:済まない、

   傭兵(ようへい)の登録場所はここで良いのか?

 

登録:んん?

   ……ああ、そうだよ、

   中々の歴戦だな。

   あんた。

 

シル:情熱の国マディーンに、

社交辞令は不要じゃないかな?

 

登録:ふふ……だが、

生まれは『此処(ここ)』じゃないだろう?

   砂漠に適応できなきゃ、

野垂(のた)()ぬってのも現実味を帯びてくるぜ?

 

シル:なに、

   少しだけだ。

   たまには血潮(ちしお)(まみ)れなければ、

私じゃなくなってしまうのでな。

 

登録: ……相手取るのは何処が良い?

   北の硝子(ガラス)の国、エントレアか、

   西の鉄の国、アイゼフィールか。

 

シル:魔法使いは斬った心地がしない。

   正々堂々と戦いたいものだ。

 

登録:なら……アイゼフィールか。

   『ディオールの四騎士』、

エレナ・サースティが大将だ。

女だてらに最強の(ほま)れも高い、

   出逢ったら逃げた方が良いぞ?

 

シル:解っているよ。

   さっさと登録を済ませてくれ。

 

 

( 間 )( 紅い砂の街サライ:露天商通り )

 

 

シル:おい、お前。

何をついてきている?

 

スマ:オッスモグ。

 

シル: ……。

 

スマ:モグモグ。

 

シル:( 溜息 )――やれやれ。

また莫連(ばくれん)と勘違いされたか。

 

スマ:そんなヤクザじゃないモグ。

   モグはあんたと同じ傭兵志願。

   旅は道連れっていうモグ。

 

シル: ……鉄の国のシルヴィア・シルフィード。

 

スマ:(ふた)(こく)のスマイル・プスクス。

   よろしくッ!!

   モグモグ。

 

シル:モグラ族が砂漠で傭兵か。

   誰の為かは知らないが、

酷な道を選んだな。

 

スマ:あんたも女なのに大変だね、

   モグ。

 

シル: ……。

 

スマ:でも砂って良いよね。

   掘れば何かが在るのかもしれないし、

   埋めるのも簡単だし。

   モグ。

 

シル:どうかな?

   そこに在るものが本当に幸福なものだとは限らないし、

   埋めた時に何かを忘れるかもしれない。

   実際は悲しいものだよ。

 

スマ:シルヴィアはどうして生まれの国と戦う?

   鉄の国アイゼフィールは君の故郷だろ?

 

シル:私は戦いが好きだから戦う。

   他に楽しい事もたくさんあるけれど、

   これが一番好きだから、

   結局相手は誰でも良いんだと思う。

 

スマ:モグモグ。

   下ネタ?

 

シル:( 微笑み )――。

そういうものだよ。

   どうでも良くなるものさ、

   本当に好きな事を叶える為ならな。

 

 

( 間 )( マディーン傭兵団兵舎内 )

 

 

シル:団…長…?

   どうして貴方が兵舎(へいしゃ)に?

 

アー:おおぅ……フハハ!!

   まさかのシルヴィアか!!

 

スマ:モグ、

   知り合い?

 

アー:そうかそうか、

俺達は所詮、

同じ穴のムジナだったな!!

 

シル:何故貴方がここに……!!

   貴方は商人を(こころざ)した(はず)では無かったのですか!?

 

アー:ああ、それだがな。

   ( 嬉しそうに )吹っ切れたよ。

   好きに生きるって事は、

過去に(とら)われないって事だ。

 

シル:え?

 

アー:俺の真名(しんめい)はアーウィン・バークライツ。

   黒の国、

ディガスディアの出自(しゅつじ)だ。

 

シル:ディガスディア……。

魔族と人間の共存する国……。

   黒騎士ロヴェル……。

 

アー:そう!!

黒騎士ロヴェルは確かに死んだ。

   今の俺は俺なりに好きに生きてる。

   そういう意味じゃ、

お前と釣り合いだな。

 

シル:そうか……貴方は魔族の。

 

スマ:モグモグ。

   紹介!!

紹介!!

 

シル:ああ。

   ロ、……アーウィン・バークライツ。

   私の元上司で、

   とても強くて聡明(そうめい)な人だった。

 

スマ:モグ。

元彼かぁ。

 

シル:そういうんじゃない。

 

アー:まぁそうは言っても、

銭を稼いだら(てい)よく抜けるさ。

   お前達も程々にな。

 

スマ:モグの名前はスマイル・プスクス。

   

アー: ……(ふた)(こく)のモグラ族か。

   相変(あいか)わらず変な(つら)をしている。

 

スマ:いいぜ~好きに批判しな。

   モグはかんよーなんだ、

   かんよー。

 

アー:まあ、

そう()ねるなよ。

   良い情報が有るんだ。

 

シル:良い情報……。

   武功(ぶこう)に関わる事柄(ことがら)ですか?

 

アー:敵の大将、

エレナ・サースティの居場所だ。

   申し分無いだろう?

 

シル:何処(どこ)のつてからですか?

 

アー:(やっこ)さんに(うら)みを持つ相手なら腐る程いるからな。

   ましてやエレナは、

マディーン方面軍の総司令官だ。

 

スマ:聖騎士エレナ。

   パラディンの特殊スキルの『癒し』と『浄化』、

   そして『 光 』の3重属性の使い手モグ。

 

シル:お前……。

 

スマ:モグ?

 

シル:い、いや。

   何でもない。

   どうぞ続けてください、

 

アー:そして俺の商売仲間は、

俺がどういう人間か良く知ってる。

   だから教えてくれたのさ。

 

シル: ……まさに千載一遇(せんざいいちぐう)ですね。

   これ程の相手を()れるなら死も(いと)いません。

 

アー:やれるかシルヴィア。

   お互い初見(しょけん)って訳でも無いんだろう?

 

シル:確かにあの方とは面識があります。

ですが、

私が一度(ひとたび)戦場へ出て躊躇(ためら)う女だと?

 

アー:ハハ!!

   ああ……。

またお前と組めるかと思うと血が騒ぐな、

   文無(もんな)しに成って良かった。

 

シル:ふふっ、

なんだ。

また商談にしくじったのですね、

   団長。

 

アー:『団長』はもう辞めろ、

   ただのアーウィンで良い。

 

シル:では参りますか、

   ……アーウィン。

 

スマ:モグ。

三人だけの決死隊(けっしたい)モグ。

 

 

( 間 )( アイゼフィールマディーン方面軍:野戦病棟 )

 

 

エレ:光の加護の元、

   (なんじ)、傷つかず躊躇(ためら)わず、

   誇り高く、

   神獣(しんじゅう)アルティナの御名(みな)を知らしめ、

   (かた)()(もの)なり。

   ファート・ソート・アンソード。

 

兵士:おお…傷が……!!

   有難うございます!!

   エレナ様!!

 

エレ:『 光 』属性も付与しておきましたわ。

   悪い事をすれば傷が開くので注意なさい?

 

兵士:な、なんと!?

   私めは兵士、

人を殺めに戦場へ(おもむ)くと言うのにどうすれば!!

 

エレ:大丈夫。

   自分を保ちなさい。

   ()やまず、敬意を(もっ)て相手を(ほうむ)るのです。

   光の大神獣(だいしんじゅう)アルティナとて、

   元を正せば殺戮(さつりく)獅子(しし)だったのですから。

 

兵士:それが正義を為す、

   という事ですか?

 

エレ:命を大事にする、

と言う意味ですわ。

 

兵士:方便(ほうべん)ですか。

 

エレ:わたくしも人殺しの(たぐい)です。

   だからこそ考えて生きています。

 

兵士:わざわざ負傷兵の治癒に(おもむ)かれる大将など聞いたことが有りません、

   エレナ様の麾下(きか)に入れたことを誇りに思います。

 

エレ:どういたしまして。

   貴方(あなた)武運(ぶうん)を祈ってますわよ?

 

兵士:はっ。

 

エレ: ……ところで、

竜騎士(りゅうきし)とは上手くやっていますか?

 

兵士:いえ……あの御方(おかた)は戦場に()いてはまさしく阿修羅(あしゅら)ですが、

   幕下(ばっか)においてはまるで……その。

 

エレ:引きこもり、

   かしら?

 

兵士:本当にあれが竜騎士(りゅうきし)シルヴィアなのでしょうか。

 

エレ: ……。

 

兵士:彼女は残酷で気まぐれで、

   誰よりも魅力的で美しかった英雄です。

   アイゼフィール正規軍ならば、

誰しもが(あこが)れた存在です。

 

エレ:時が()てば人は変わるものですから。

   それは過去も未来も同じ事でしょう?

 

兵士: ……僭越(せんえつ)でした。

私にとっては、

『 今 』こそが生きる為に必要な時間です。

 

エレ:賢明な事です。

   さて、

   何やら不穏(ふおん)な気配が近づいて来ているようですが。

 

兵士:は?

 

アー:おいおいおい!!

   何やってんだ、おい!!

   何処(どこ)まで掘り進むんだおい!!

 

シル:おいスマイル!!

   ()めろ!!

   遊びに付き合っている場合じゃないぞ!!

 

スマ:モグモグモグモグモグ!!

   モグウウウウ!!!

 

 

( 間 )( ※出来れば崩壊のSE )

 

 

シル:()つつ……ん?

 

アー:あたた……ん?

 

スマ:モグモグ。

   しょ~とかっと。

 

エレ:あらあら、

   見覚えのある顔ぶれですこと。

 

兵士:なっ!?

   何だ貴様等(きさまら)!!

 

アー:でかしたモグ公!!

   流石(さすが)(ふた)(こく)のモグラ族!!

   お前と組んで良かったぜ!!

 

スマ:モグ~。

 

兵士:空間に穴を掘り進めて……!!

   このモグラがこの(よう)な高等魔術を、

使いこなしてみせたとでもいうのか!?

 

スマ:モグ。

   お腹減って死ぬモグ。

 

シル:くっ、

こうなっては()むを得まい……!!

エレナ・サースティ!!

   命を()らせてもらうぞ!!

 

エレ:()()きとしている事ね、

   シルヴィア。

   ロヴェル。

   スマイルちゃん。

 

シル&アー:おう!!

      ……え?(ん?)

 

スマ:モグッ!!

 

アー: ……知り合いか?

 

スマ:モグッ!!

   『元カノ』モグ!!

 

シル:はあっ!?

 

エレ:何年振(なんねんぶ)りかしら?

 

スマ:砂時計が一万回ひっくり返ったくらいモグ

 

エレ: ……ふふ。

気にしなくても良かったのに、

   やっぱり此処(ここ)まで来てしまったのね。

 

スマ:気にしない訳にはいかないじぇ~。

   モグのせいで子供が出来ない身体になってしまった英雄。

   モグはどうすれば良いか解らないまま、

さまよい続けたモグ。

 

エレ:あの時スマイルちゃんをかばったのは、

(すべ)て私の我儘(わがまま)ですわ?

   だから忘れてくだされば良かったのに。

 

スマ:ああ~、

モグと君は住む世界が違ったんだね~。

   助けられても困るって事にも、

もっと早く気づけば良かったモグ。

   ……高嶺(たかね)の女性を望んだことの愚かさにも。

 

エレ:後悔しているの?

 

スマ:モグッ!!

 

エレ:私を聖騎士と持てはやす人々の中で、

スマイルちゃんだけは私を人として見てくれたもの。

   後悔も後腐れ(あとぐさ)もある訳が無いでしょう?

 

兵士:な、何やら微妙な空気だが、

   我々はどうすれば良いのだ!?

 

アー:そりゃあ、

   殺し合うしか無いだろう。

   おたく()が自分達の大将を見殺しにする気なら話は別だが?

 

兵士:あのモグラも刺客(しかく)だというのか!?

   何故(なぜ)なのだ、

   話が見えぬでは無いか!!

 

スマ:エレナちゃんがモグを(ゆる)してくれたとしても、

   きっとモグも世間(せけん)もモグを(ゆる)す事なんて出来ないから、

   モグは何も解らないまま強くなって、

君に()いに来たんだ。

 

エレ:そうなの?

 

スマ:君に打ち()つことが出来て、

ようやくモグは君に顔向(かおむ)け出来る。

   そこから先の事はモグが決める。

 

シル:スマイル……お前。

 

エレ:ふふ……。

   嬉しいものですわね、

   昔の友が、

どんな理由であれ、

自分に逢いに来てくださるのは。

 

アー:道理(どうり)でわざとらしい登場を選んだ訳だ。

   どうするモグ公、

   やっぱり1対1か?

 

スマ:良いじぇ~~。

   モグが死んだら、

   出来るだけエレナちゃんは助けてあげてください。

 

シル:それでこそ男だぞ、

スマイル!!

   行って来い!!

   その手で勝利を(つか)みとってこい!!

 

スマ:モグ~!!

 

アー: ……あついねえ、

   どうにも。

 

兵士:貴殿(きでん)の顔には覚えがある。

   エルツィ傭兵団は元団長、

   ロヴェル・バークライツ殿とお見受けするが、

   如何(いか)に?

 

アー:いいや、

   人違いだ。

 

兵士:そうか、

   ()えて問うたが。

   ならば遠慮も()るまい。

 

アー:本人なら遠慮したのか?

 

兵士:憐憫(れんびん)の情は(ぬぐ)えなかっただろう。

   成程解(なるほどわか)る、

   実に美しい女丈夫(にょじょうぶ)だ。

 

シル:さあ!!

   共に殺し合おうぞ!!

   我が同胞にして仇敵共(あだてきども)よ!!

   シルヴィア・シルフィードが受けて立つぞ!!

 

アー:あいつ、

   俺以上に自由だな。

 

兵士:素晴らしいな、

   貴殿(きでん)らと戦えるとは夢の様だ。

 

 

( 間 )( 聖騎士として )( ※出来れば剣劇のSE )

 

 

スマ:モグ!!

   ……モグゥ!!

 

エレ:ふふ……。

 

スマ:やっぱりエレナちゃんは(すご)いモグ。

 

エレ:どうしたのかしら?

   スマイルちゃんは強くなった(はず)じゃなかったの?

 

スマ:モグ……。

 

アー:くあっ!?

   『 光 』属性……!!

そうかエレナの加護の御蔭(おかげ)か!!

   ああ、厄介(やっかい)なこったぜ!!

 

兵士:まだまだ!!

力量差(りきりょうさ)は明らかでも決して(くじ)けぬ!!

   (なに)我等(われら)はエレナ様の配下(はいか)なのだから!!

 

シル:あっはっは!!

   いいぞお前等(まえら)……!!

   戦力差(せんりょくさ)は明らかでも、

この血は(たぎ)って仕方が無い!!

   流石(さすが)はアイゼフィール正規軍だ!!

 

エレ: ……強くなったのは君だけでは無くてよ?

   皆同じように努力して、

   同じように綺麗に生きようと足掻(あが)いているのだから。

 

スマ: ……あの時、

   斬りつけた部分を、

その傷ごと天界へ『浄化』する君の剣は、

   敵に捕らえられたモグを助けるために、

   (みずか)らのお(なか)へ突き刺さったね?

 

エレ:治癒不可能な(みにく)瘢痕(はんこん)(のこ)す『浄化』の特性。

   (きよ)らかな様でいて残酷なクラスですわ、

   聖騎士だなんて。

 

スマ:どうしてモグなんかを助けてくれたんだい?

   君はモグなんかには勿体無(もったいな)かった、

   おかげでモグはずっと(あやま)りっぱなしだ。

 

エレ:良いのよ。

   母様(かあさま)から譲り受けた家督(かとく)血筋(ちすじ)も、

   スマイルちゃんの(いのち)の前では『どうでも良かった』のだから。

 

スマ:だけど、

   モグは君の前から居なくなった。

   本当は一緒に居たかったんだけど。

 

エレ:(かま)わなかったのに。

 

スマ:いいや?

エレナちゃんの事を好きな人はこの世に大勢いるけれど、

   モグは何時(いつ)だって独りぼっちだから。

   それが『答え』ってことで良いモグ。

 

エレ: ……(微笑み)。

   ではどうするのかしら?

   (かな)わぬ『他人(たにん)』さん。

 

スマ:変わったね、

   エレナちゃん。

 

エレ:貴方(あなた)も。

 

スマ:モグは――。

 

エレ:( 被せる )ゴフッゴフッ!!

   ウッ……!!

 

スマ:なっ!!

 

兵士:エレナ様!!

 

エレ:( 激しい咳き込み )――!!

   ゴフッ……ゴフッ。

 

兵士:いかん!!

   エレナ様の発作(ほっさ)が!!

 

アー:吐血(とけつ)……!!

   今なら()れる!!

   ……うっ!?

 

シル:お()め下さい。

 

アー:何のつもりだ?

   シルヴィア。

 

シル:こちらの台詞(せりふ)です。

   あの二人の決闘を(けが)すおつもりですか?

 

アー:目の前にある栄光を(つか)み取れずに何が人生だ。

   俺は負け犬になっても、

世捨(よす)て人になるつもりはない。

 

シル:変わりましたね、

   団長。

 

アー:変わる?

   お前は解っていた(はず)だ。

   俺がこうする男だと。

 

シル: ……もう少しだけ、

   あの二人に時間を与えてはくれませんか?

 

アー:それはどうかな?

   もしも、

変わったのがお前の方だとしたら。

 

シル:えっ?

   ……あっ!!

 

兵士:貴様アアアァァァァ!!

 

スマ:ギャウゥッ!?

 

 

( 間 )( のたうつ咎人 )

 

 

エレ: ……ああ。

 

スマ:モグゥ……。

   ……痛いモグ。

 

兵士:ハア…ハァ…思い知ったかッ!?

   (みにく)いモグラ族め!!

   エレナ様は貴様(きさま)のせいでこうなったのだ!!

 

スマ:モグゥ……。

 

兵士: ―――ハッ!?

   大事(だいじ)ございませんか、

エレナ様!!

 

エレ:ええ……。

   大義(たいぎ)でした。

 

兵士:御自愛(ごじあい)下さい、

   その御体(おからだ)は、

もはや一人の物では無いのですから。

 

エレ:ええ、

   そうですね。

   有難(ありがと)うございます。

 

兵士:御自身(ごじしん)の治癒は可能ですか?

   (そこ)なった内腑(ないふ)補填(ほてん)する(すべ)など(ぞん)じませぬが、

   きっと本営(ほんえい)へ移れば―――。

 

エレ:( 被せる )少し。

 

兵士:はっ?

 

エレ:少し二人きりにしてくれませんか?

 

兵士:しかしこやつは……。

 

エレ:貴方(あなた)の気持ちも解るけど、

   貴方(あなた)が正しい事も解るけど、

   どうかお願いします。

 

兵士: ……解らないな。

   エレナ様、

   私は間違(まちが)っていましたか?

 

エレ:違います……。

   ただ少しだけ、

   ほんの少しだけ死にゆく者に(あわ)れみを。

 

兵士: ……ウッ!?

   き…傷口(きずぐち)が開いて……!!

   ぐふっ……!!

 

エレ:何度でも癒しましょう。

   貴方とて前を向いて歩む求道者(きゅうどうしゃ)なのですから。

 

兵士:エ、エレナ様、

   その御体(おからだ)で……!!

   申し訳ございません、

   申し訳ございませんでした……!!

 

エレ:()いのです。

   痛みには慣れていますから。

 

 

( 間 )( あの時の宝物は )

 

 

スマ:( 虫の息 )ヒュウ…ヒュウ……。

 

エレ:スマイルちゃん。

 

スマ: ……なんだい、

   ……エレナ。

 

エレ:治して欲しい?

 

スマ: ……。

   いいや、

   ()らない。

 

エレ:そうね。

   君は死にたくてここに(かえ)って来たのでしょう?

 

スマ:また昔に戻りたい。

 

エレ: ――ッ!?

 

スマ:一緒に野風(のかぜ)を追いかけた日々も、

   共に過ごした夜も、

   二人で食べた御飯(ごはん)も、

   全部モグの宝物だ。

 

エレ: ……私だってそうよ。

   君が居なければ今の私は居なかった。

   人に優しくなんて出来なかった。

 

スマ:モグ~~。

   お腹すいたモグ。

 

エレ: ……何が食べたいの?

 

スマ:エレナちゃんの焼いたクッキー。

 

エレ:ふふ……。

そうね、

   また一緒にお茶しましょうね。

 

スマ:やったじぇ~……。

   あっ……。

   忘れてた。

 

シル:ん?

 

アー:なんだ?

   足元の空間が。

 

スマ:という訳で……モグは死ぬので。

   皆も……送り返してあげるモグ。

 

シル:空間転移、

   か。

 

アー:まさにオチって訳だな。

   おいモグ公!!

 

スマ: ……ぷしゅ~?

 

アー:良い夢見ろよ。

 

スマ: ……モグ。

   二人こそ……お幸せに。

 

シル:じゃあな、

   スマイル。

 

 

( 間 )( 夕焼けに染まる紅砂は―― )

 

 

シル:団長。

 

アー:アーウィン。

 

シル:( ごほん )――。

ではアーウィン、

   これからどうです?

酒でも。

 

アー:ああ……。

   そうだな、

   出来る事はやった。

   ならば(すべ)て良い酒に違いない。

 

シル:ふふ!!

   良い女も(となり)に居る事ですしね!!

 

アー:なんだおい、

   自分で言うか?

 

シル:吹っ切れました。

   だって良く言われるんですもの。

 

アー:( 小声で )まあ、確かにその通りだが。

 

シル:え?

 

アー:ん?

 

シル:今何か言いましたよね?

 

アー:馬鹿にした。

 

シル:ひっどい!!

   なんでそんな事言うんですか!!

 

アー:目の前に美人が居るんだ。

   ()(かく)しもするさ。

 

シル:なっ――!?

 

アー:ハハ!!

 

スマ:モググ!!

 

アー:ハハハ!!

 

スマ:プスクスッ!!

 

シル&アー:ナニィッ!?

 

スマ:オッスモグ。

 

シル:お前……どうして!?

 

スマ:まあ、

   そういう事だモグ。

 

シル: ……。

 

スマ:砂ってさ、

   どんなクボミだって埋めてくれるし、

   気付いたらあったかいし、

   モグは砂と一緒に生きていくことにするよ。

 

シル:( 微笑み )――、

そうか。

 

スマ:わっかんないかな~?

   ま、君たちは続きを楽しみなって~。

 

シル:お前と()えて良かった。

 

スマ:プスクスッ!!

   じゃ、

はいこれ。

 

アー:クッキー?

   ……ああ、そうか。

   こりゃまた、

良いオチなこって。

 

スマ:さよならモグ。

 

シル:さよならスマイル。

   何よりも幸せにな。




 
 
 
     
 
           
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