題名  公開日  人数(男:女:不問)  時間  こんな話  作者

 風のシルヴィア(16)~決意~

2014/11/30  5(2:2:1) 25分

努力ならしたさ。こうやって身なりにも気を使ってるし優しくもあろうとした。でもさ……。もう遅い。

 ニコ

登場人物
(年齢)
性別 その他
シルヴィア
(26)
金髪碧眼の美女。
本作の主人公。
芯の強い自由な性格です。
アーウィン(30)
兵士(不詳)
兼ね役でお願いします。
アーウィンはダンディーかつお茶目な色男、
兵士は立派に殉職した若者です。
プーデット(21)
大将(不詳)

兼ね役その2。
プーデットは皆の天使です。
大将は後半わずかに出てきます。

エレナ
(30)
敵方の麗しき女司令官。
何気に相当な実力者。
優しくも底知れぬ怖さを醸し出してください。
ミルケット
(17)
不問 プーデットの弟です。
シルヴィアとプーデットに憧れています。
※獣の様なシーンは演じ分けてください。


「風のシルヴィア(16)~決意~」




傭兵になったシルヴィアは砂漠の国で知古と出逢う。

誰の為に戦うのかを問う内に己を見つめ直すシルヴィア。

そして友と共に決戦の地へと赴く。






( 情熱の国マディーン:とある戦線 )

 

エレ:私はいつも考える。

 

兵士:う…うぅ……。

 

エレ:(した)しき隣人(りんじん)に何かを与える為に、

他の誰かから(うば)う事を正当化するのなら、

   それはもう……。

 

兵士:(おろ)かな……。

   何故貴様等(なぜきさまら)は戦争を続ける……?

   その果てに何を望むというのだ?

 

エレ:( 溜息 )――。

(あらそ)いこそが願いなのです。

 

兵士:何……?

 

エレ:貴方(あなた)も子供の頃にお母様から習ったでしょう?

   他の人間を蹴落(けお)として幸せに成るように、と。

   あの子の様には成るな、と

 

兵士:違う……。

   少なくとも俺は、

目的の(ため)に人を殺すようには(おそ)わらなかった。

 

エレ:成程(なるほど)

貴方(あなた)がたマディーンは情熱だけを(うた)うのでしたね。

   我がアイゼフィールは戦争と平和を愛します。

 

兵士:ふっ……。

   聖騎士め。

思いのほか血生臭(ちなまぐさ)く、

(みにく)い心をしているな。

 

エレ:せめて安らかに眠りなさい。

   私の手にかかれば御魂(みたま)を天へ送ることが出来ます。

 

兵士:浄化(じょうか)(つるぎ)か。

   あいにくだが遠慮しておくよ。

 

エレ:敵の(なさ)けは受けぬ。

と言う事ですか?

 

兵士:俺は祖国(そこく)を守る為に戦った。

   (たと)えこれが無残(むざん)敗戦(はいせん)だったとしても、

   砂の大地は、

俺の(しかばね)を暖かく飲み込んでくれる事だろう。

 

エレ:立派な心がけです。

 

兵士:嗚呼……。

考えるだに恐ろしい。

   四騎士(よんきし)を二人も相手取(あいてど)っていたとはな。

   竜騎士シルヴィアに聖騎士エレナ、

   まさに英雄に相応(ふさわ)しい……ぐふっ……。

 

ミル:グルル……!!

   グオオォォォ!!

 

エレ: ……さあ、

行きますわよシルヴィア?

   ……物思いにふける(いとま)など我々には無いのですから。

 

 

( 間 )( 紅い砂の街サライ:『 露天商通り 』 )

 

 

シル:あ“ぁぁっづぃぃぃ……!!

 

アー:(だぁ)って歩け!!

   余暇(よか)兵舎(へいしゃ)で過ごすのが嫌だってのが、

お前の言い分だろうが!!

 

シル:だぁってあんな所に居たらカリカリになっちゃうじゃないですか。

   (かさ)着用(ぎよう)のヴェールでも買ってのんびり昼寝でもしましょうよ。

 

アー: …まあ、

敗色濃厚(はいしょくのうこう)陣幕(じんまく)で、

野郎共(やろうども)と一緒にいるのは俺も御免(ごめん)だ。

 

シル:(となり)に美人も居ますしね!!

 

アー:ここで何人斬った?

   いや、勿論(もちろん)そういう意味でだが。

 

シル:6人くらいですね。

   流石(さすが)は情熱の国です。

 

アー:ふっ!!

   お前を風のシルヴィアと知っていれば誰も手を出さないだろうにな。

 

シル:私を恐れるならばそれまでの事です。

   そんな人間に誰が()かれるものですか。

 

アー:相変(あいか)わらず厳しいな。

そういえば、

『シルヴィア』ついでに竜騎士についてはどう思う?

   戦場に現れては戦況をひっくり返してくれる、

『ディオールの四騎士(よんきし)』の一人だが。

 

シル:偽者(にせもの)なのは確実ですね。

   私はかつて彼女の遺品(いひん)と死体を目にしたことがあります。

   それに、

もしも彼女が本当に生きていたとしたら……。

国などは簡単に(ほろ)ぶことでしょう。

 

アー:おとぎ話を信じるなら、な。

   是非一度真偽(しんぎ)(ほど)を確かめたいものだ―――。

   ん?

 

プー:プェェ~。

   お腹減ったプゥゥゥ……!!

 

アー:おいシル、あれを見ろ。

   子豚(こぶた)の亜人が行き倒れているぞ。

 

シル:プーデットッ!!

 

アー:ああん?

 

プー:プ?

   あ~~。

   シルヴィアさんだプー。

 

シル:何だよお前、

   カヴァロさんの店で修業してるんじゃなかったのか!?

   どうしてここに居るんだよ?

 

プー:僕もシルさんみたいに旅に出たプー。

   世界は果てしなく広くて楽しいプー。

   そうしてたら何時(いつ)()にかこんな所まで来てしまったプー。

 

シル:そうか、

   そうだったんだな。

 

プー:プゥゥ……。

   でも、

ちょっと疲れたプー。

 

アー:知り合いか?

 

シル:ええ、

   この子は私の友人です。

   旅の先々(さきざき)で一緒になって、

   別れて、

   何時(いつ)までも(あきら)めないんです。

 

アー:(あきら)めない、か。

   良い心掛(こころが)けだな、

   プーデット君。

 

プー:誰プー?

 

アー:俺の名はアーウィン。

   シルヴィアとはまあ、

長い付き合いだ。

 

シル:悪い人じゃないよ。

   約束する。

 

プー:ププッ。

   シルさん楽しそうプー。

 

シル:プーに()えたからね。

   夢は叶いそうかい?

 

プー:プー。

   おっきなレストランを建てて、

   皆を幸せにするプー。

   薄利多売(はくりたばい)だプー。

 

アー:( 苦笑 )なるほど、

   らしいな。

 

シル:そうだ、

   商売ならこの人に(なら)うといい。

   今は傭兵をしているが、

   きっと詳しい(はず)だよ。

 

プー:プ?

   ホントプー?

 

アー:だがしかし!!

タダでは教えられんな。

   責任感が違ってくる。

 

プー:プー……。

   これで良いプ?

 

アー:世界中の地勢(ちせい)情勢(じょうせい)

   流行(りゅうこう)符牒(ふちょう)

   それら(すべ)ての情報をこの金で買えると?

 

シル:(いく)ら必要なのですか?

 

アー:お前は出すな。

   男の夢に女が(みずか)ら関わると、

ロクな目にあいやしない。

 

シル: ……むぅ。

 

プー:じゃあこれをあげるプー。

 

アー:指輪……?

   こりゃあ結構な代物(しろもの)だ、

   氷の神獣ガバルダイテの加護が(きざ)まれている。

 

プー:これを身に着ければ暑く無いプー。

   僕の家の宝物プー。

 

アー: ……お前にこれ程の覚悟を見せつけられては無碍(むげ)には出来ん。

   俺の商魂(しょうこん)をお前に(たた)き込んでやろう!!

 

プー:タダであげるプー。

 

アー:ぬぁに?

 

プー:他人(ひと)に優しくするプー。

   その心掛(こころが)けが皆も自分も幸せにするプー。

   忘れないでね。

 

アー: ……。

 

シル: ……クスッ。

 

プー:プププッ。

 

アー:(まった)く……。

どいつもこいつもキラキラしやがって。

 

シル:プーはお(なか)()かせています。

 

アー:ならば(めし)とするか!!

   人を愛せぬ(あわ)れな男に、

せめて(おご)らせておくれ。

 

プー:プウゥゥゥ!!

   ご(はん)だプーーーー!!

 

 

( 間 )( 繁華店:『 星砂停 』 )

 

 

ミル:( 食物にガッツク )ハフッ、ハフッ。

   モグモグ……ングッ。

 

エレ:ふふ……美味しい?

   ミルケット。

 

ミル:ああ、

   美味(うま)いよ母さん。

   流石(さすが)万国(ばんこく)の特産品が入れ()う国、

マディーンだね。

 

エレ:そうね。

   もうすぐ思い出の(あじ)に成ってしまうのは悲しい事だけれど。

 

ミル:えっ?

 

エレ:こちらの話ですわ。

   ミルケットには関係の無い事ね。

 

ミル:そ、そうかい?

 

プー:プップップー♪

お邪魔しますプーーーーー!!

 

シル:おいっ、

はしゃぐなプー!!

   ……すいません、

   ご迷惑をおかけします。

 

エレ:あら?

 

シル: ……え?

 

プー:プッ?

 

シル&アー:エレナ・サースティ……。

 

エレ:ふふ……。

   ごきげんよう。

 

アー:何故(なにゆえ)かな?

   アンタはまごう事無(ことな)宿敵(しゅくてき)(はず)だが。

 

エレ:敵地で豪胆(ごうたん)にも飲食を楽しむ。

   これもまた英雄の(たしな)みですわ。

 

シル:良いのですか?

   貴女(あなた)素性(すじょう)をここで明かせば、

如何(いか)貴女(あなた)と言えども――。

 

エレ:よろしくてよ?

   貴女達(あなたたち)がそんな事をする様には見えないけれど。

 

シル: ……。

 

アー:俺も考えてはみたが、

   公私混同(こうしこんどう)してまでこの国に義理立(ぎりだ)てする義務が無い。

   つまりはそう言う事だな。

 

プー: ……ミルケット。

 

ミル:兄さん。

 

シル:兄さん!?

   プーデットが?

 

アー:ううむ……。

まさに(ぶた)真珠(しんじゅ)

 

シル:ちょっと!!

 

エレ:そう、

   貴方(あなた)がプーデット君なのですね?

 

プー:そうプー。

 

エレ:(うわさ)は聞いていますよ?

   家を飛び出して世界中を旅しているのだとか。

 

プー:お姉さん誰プー?

 

エレ:私はエレナ・サースティ。

   シルヴィアの友人であり、

ミルケットの後見人(こうけんにん)です。

 

ミル:俺もあの後家を飛び出したんだ。

   兄さんと同じようにね。

 

プー:なぜプー?

   ミルは貧乏人(びんぼうにん)になりたかったプー?

 

ミル:あんな(けがわ)らわしい奴隷商(どれいしょう)の家なんか、

   だれが引き継ぐもんか。

 

プー:勿体無(もったいな)いプー。

   ミルはかっこいいし頭も良いし、

良い跡取(あとと)りになったプー。

 

ミル:兄さんは俺の(あこが)れだよ。

   兄さんが居たから俺は自分が間違っていることに気付けたし、

   こうやって世界を(めぐ)る冒険に出られたんだ。

 

アー:ではミルケット君、

   軍人(ぐんじん)と一緒に居るのはどうしてかな?

 

ミル:母さんがこんな俺を愛してくれたからさ。

   母さんは奴隷商(どれいしょう)の生まれで、

   母親も奴隷(どれい)で、

   兄さん以外(すべ)ての人間が嫌いだった俺を愛してくれたんだ。

 

エレ:私も子供が出来て嬉しいわ。

   ミルケットに出逢(であ)えた奇蹟(きせき)を神に感謝します。

 

ミル:へへっ……。

 

シル:()でたい話なのだろうか……。

   我々はどうすべきなのでしょう?

 

アー: ……。

飲もう!!

 

シル:ええっ!?

 

アー:夢日頃(ゆめひごろ)一夜(ひとよ)の出逢いこそ万物(ばんぶつ)至宝(しほう)なり。

   いわんや酒に酔い、

   女に(おぼ)れ、

   汝酔狂(なんじすいきょう)を極めつつ、

星を愛する(わらべ)であれ。

 

エレ:エルジュの教え第四章、

   『神樹(しんじゅ)フェルディアースの賢者(けんじゃ)』、

   ですわね。

 

アー:美女二人と(うるわ)しき兄弟愛、

   俺としてはこれ以上の(さかな)は無い。

   思いっきり飲んで馬鹿な事を語り合いたい!!

 

シル:ふふ……。

   可愛いですね団長。

   そう言う所は昔とちっとも変わらない。

 

アー:アァァーウィンン!!

 

シル:はいはい。

   クスクスッ。

 

ミル:何だか夢みたいだな。

   兄さんや母さん、

   それにシルヴィアさん達と一緒に過ごせるなんて。

 

エレ:ふふ……。

こんな壱日(いちにち)も良いのかも知れませんわね。

   皆様どうか遠慮なくお願いします。

 

 

( 間 )( 星砂に飲まれて )

 

 

シル:ははっ!!

   どうしたんだプー、

   もう負けちゃったのか?

 

プー:プー……。

   なんだか眠いプー。

 

アー:仕方ねえなおい。

   ペースが早過ぎるんだよ。

 

エレ:ミル、

   大丈夫?

 

ミル:うーん……。

   眠いよ、

   母さん。

 

エレ:良いわよ?

   ちゃんと送ってあげるから。

 

ミル:ありがとう、

   母さん。

   俺を見捨てないでね。

 

エレ:大丈夫よ。

   安心して眠りなさい。

 

ミル:へへっ……。

 

 

(  間 )( 微睡みに囁く世迷い人は )

 

 

ミル:シルヴィアさん。

 

シル:ん……。

 

ミル:シルヴィアさん。

 

シル:んん……。

   何だい?

   ミルケット。

 

ミル:少し話したいんだ。

   起きてくれますか?

 

シル:( あくび )――。

どうしてもかぁ?

 

ミル:今が良いんだ。

   俺達は敵同士だし、

   こんな機会は皆が寝てる今しかないと思うから。

 

シル:皆……?

 

プー:プゥ……プゥ……。

 

アー:スー…スー…。

 

エレ:んん……。

 

シル:何かしたのか?

 

ミル:ちゃちな(くすり)を少しね、

   俺はまともな人間じゃないんで。

 

シル: ……ふふっ。

   可愛い顔して、

   結構良い性格をしているんだな。

 

ミル:二人だけで話がしたい。

   母さんから貴女(あなた)の話を聞いて、

   ずっとそうしたいって思ってた。

 

シル:良いよ。

   ( 背伸び )――何処(どこ)かへ散歩でもしよう。

   きっと夜風(よかぜ)心地良(ここちい)いから。

 

 

( 間 )( それでも止めて欲しくて )

 

 

シル: ……どうだ、

良い景色だろ?

   赤き砂と天津(あまつ)引く天宮(てんきゅう)

   私のお気に入りだ。

 

ミル:ああ…。

   血の海に無限に降り(そそ)ぐ流れ星、

だね。

   

シル:それでどうした?

   何を話したい?

 

ミル:俺はね、

   シルヴィアさん。

   (ちまた)では竜騎士と呼ばれている。

 

シル:お前が?

   冗談だろう?

 

ミル:じゃあどうして俺が母さんと一緒に居るんだい?

   何の価値も無いこの俺が、

   どうしてこうやってシルさんと話せるんだい?

 

シル:私は誰ともなく、

   好きな人と話す。

   ミルケットの事も好きだし、

   エレナの事も好きだ。

 

ミル:へえ……寒いね。

   少しさ。

 

シル: ……。

 

ミル:俺には兄さんみたいに良い人に(めぐ)り合える人生は用意されていなかった。

   利用されて見捨てられて、

   何一つ得る事も無いまま(うば)い続けられた日々だった。

 

シル:違う、そうじゃない。

   自分が魅力的にならなければ誰も見向きもしてくれないし、

   その努力が自分を成長させるんだ。

   待ってたって何も変わりはしない。

 

ミル:うるせえんだよ!!

 

シル: ……。

 

ミル:努力ならしたさ。

   こうやって身なりにも気を使ってるし優しくもあろうとした。

   でもさ……。

   もう遅い。

 

シル: ……。

 

ミル:へへっ、

   そんな目で見ないでよ。

   ちゃんと解ってるから。

 

シル:何がだい?

 

ミル:結局人間は一人でも生きていけるけど、

   (ひと)りじゃ大きくなれないんだ。

   そう、誰かを利用して何かを喰らって、

   (だま)し合って生きるのさ。

 

シル:そんな生き方、

楽しいか?

 

ミル:少なくとも今までよりは。

   母さんは俺の中にある『宝物(たからもの)』を愛してくれている。

 

シル:宝物(たからもの)

 

ミル:俺自身はその価値に気付けなかったけど、

   とても貴重で大事な代物(しろもの)なんだってさ。

 

シル:身体の中にある(たから)……(こころ)……。

(たましい)(きざ)み込まれた『特性(とくせい)』……?

 

ミル:ああ。

俺達の一族は人の心を引き付け同じ色に染める、

   『同化(どうか)』の特性(とくせい)を持っているそうだよ。

 

シル:それは……。

 

ミル:奴隷商(どれいしょう)には相応(ふさわ)しい特性(とくせい)だろう?

 

シル:だけどお前は変わろうと努力した。

 

ミル:はははは!!

結局俺は(ゆが)んでいたから、

そんな人間しか俺の周りには集まらなかった。

   糞山(くそやま)にたかる(はえ)のような奴等(やつら)と一緒に過ごしてみなよ。

   それはもう――。

 

シル:( 被せる )そんな事関係無いよ。

   ミルケットがどれだけ熾烈(しれつ)な人生を歩んできたとしても、

   (ゆが)んできたとしても、

   私に(こころ)(うち)を明かしてくれたことは嬉しいよ。

 

ミル:( 満足そうに ) ……。

   母さんの言っていた通りだ。

   強くて綺麗で優しくて……。

   あんたとヤれるなら命さえ()しくない。

 

シル:ならこっちに来てくれ。

   そんな生き方はもう()めてくれ。

 

ミル:あんたは俺が兄さんの弟だから優しくしてくれている。

   母さんと何ら変わりはしない。

   だからもう話は終わりさ。

 

シル: ……違うよ。

   私は私だ。

   他の誰でも無い。

 

ミル: ……ッ!!

 

エレ:あらあら、

   二人でデートですの?

 

ミル:母さん!?

 

エレ:お似合(にあ)いですわね。

 

ミル:どうして?

 

エレ:ミルの好きにさせてあげたくて。

 

ミル: ……。

 

エレ:シルヴィアと話して、

   貴方(あなた)は何か変われたのかしら?

 

ミル:そうだな、

   もっと力が欲しくなった。

   言葉だけじゃどうしようもないから、

   この人を手に入れる力が欲しいよ。

   母さん。

 

エレ:そう。

   では(いと)しのアイゼフィール軍へ戻りなさい?

   私はこの人にもう少しだけ話があるから。

 

ミル:うん。

 

 

( 間 )( 決別の夜景 )

 

 

シル: ……エレナ・サースティ。

お前は悪魔(あくま)なのか?

 

エレ:壊れているなりに綺麗でしょう?

   (いびつ)な人形ほど(おもむき)があるものですから。

 

シル:あの子を英雄に仕立(した)てて、

   さらに(ゆが)ませて、

   その果てに何がある?

   誰を幸福に出来る?

   答えろエレナッ!!

 

エレ:この星空(ほしぞら)と何も変わりはしないわ。

 

シル:何?

 

エレ:この枠に(おさ)まっていることが出来(でき)ずに世界に(またた)いて、

   散っていく星屑(ほしくず)の中で、

   ただ一人だけを見繕(みつくろ)って(まも)る。

   その行為自体が『独善(どくぜん)』に(ちが)いないのだから。

 

シル:何を言っているんだ?

 

エレ:もしも貴女(あなた)がミルケットを救う為に私達に()めかかったとして、

   一体何人の兵士が犠牲(ぎせい)になるのかしら?

   雄大(ゆうだい)詭弁(きべん)(かた)る、

   貴女(あなた)こそが『 (あく) 』そのものではなくて?

 

シル: ……ッ!!

 

プー:プーーー!!

 

エレ:なっ!?

 

プー:馬鹿馬鹿馬鹿!!

   そんなの関係ないプー!!

 

シル: ……プーデット。

 

エレ:そう(たた)かないで。

   一体何が言いたいのかしら?

 

プー:夢だけ見てれば良いプー!!

誰だって夢を否定されるのは嫌だプー!!

 

エレ:夢?

 

プー:お姉さんもミルも何かを持ってたのに(あきら)めたプー!!

   だから人に冷たく出来るんだプー!!

 

エレ:ええ……。

   その通りね、

   だから傷を()めあっているのかも知れない。

 

プー:だったらまた挑戦すれば良いプー!!

   誰かを頼れば良いプー!!

   ()い人を見つければ良いプー!!

 

エレ: ……。

 

プー:シルさんも自信持つプー!!

 

シル:えっ?

 

プー:何の為に戦うプー?

   誰かの為プ?

   考えて欲しいプー。

 

シル: ……。

 

プー:プゥゥ……。

 

シル:私は……。

 

アー: ……(まった)く、あのガキ。

   俺も焼きが(まわ)ったもんだぜ……。

   何がどうなった……?

……ん?

 

 

( 間 )( その姿は風の如く )

 

 

シル:誰かの為に正しいと思う事をしても、

きっとそれは私のエゴに過ぎないから。

誰かの為、と言うよりは、

私の為、

なのかな。

 

エレ: ……ッ!!

 

シル:だから全力で戦えるんだ。

 

アー: ……。

 

シル:誰にも私を()める事は出来ない。

 

エレ:貴女(あなた)が自分の為に戦えるのは、

   貴女(あなた)が恵まれているからでしょう?

 

シル:そういう貴女(あなた)は私の数百倍恵まれた地位に生まれ、

   何も出来(でき)ずに(ゆが)んでいくだけでした。

   だから私は……、

貴女(あなた)にはもう……。

   ()かれない。

 

エレ: ……あらあら、

   すっかりイジめられちゃったわね。

   貴女達(あなたたち)もこんな国も皆……大嫌(だいきら)い。

 

アー:ああ、受けて立つぜ。

   今度戦場で()ったら女だろうが血を()いていようが関係無い、

   俺の()(ざま)(たた)き込んでやる。

 

シル:ふふっ、

楽しい夜会(やかい)でした。

   (あと)はそれぞれの正義を(つらぬ)きましょう。

 

エレ:ええそうね。

ではごきげんよう、

   (ほろ)びゆく人々たち。

 

プー: ……ミルケットを助けてくれるプー?

 

シル:ああ、

   約束する。

   プーデットの頼みだからね。

 

プー:ププッ。

 

 

( 間 )( 白砂の大丘:『 サシャ 』 )

 

 

大将:( 太い声で )良いか!!

これは我がマディーンとアイゼフィールの雌雄(しゆう)を決する戦いだ!!

敵方(てきがた)は8万!!

我等(われら)は6万にも()たぬ劣勢(れっせい)!!

だが()()我等(われら)にあるぞ!!

 

シル: 良き喧騒(けんそう)ですね。

   ……心がさざめく。

 

アー:ああ、悪くない。

   あの大将も口が達者(たっしゃ)だ。

 

大将:慣れぬ砂漠で連戦続(れんせんつづ)き!!

   如何(いか)にアイゼフィール軍と言えども長期戦には耐えられぬ!!

   (みな)こらえよ!!

   (かなら)ずや勝機(しょうき)は訪れる!!

 

アー:これ程の戦いだ、

   奴等(やつら)も必ずいる。

 

シル:ふふ…そうでなくては困ります。

   約束を守るなら早い方が良いですから。

 

大将:我等(われら)こそが情熱の国マディーンなのだ!!

   最後の一滴(ひとしずく)(いた)(まで)その血を燃やし尽くせぃ!!

   ……かかれえええ!!

 

アー:行くぞ!!

 

シル:はい!!

 

エレ:やれますか?

   シルヴィア。

 

ミル:グルル……!!

 

エレ:竜騎士の甲冑(かっちゅう)英雄殺(えいゆうごろ)し。

   (いつわ)りとは言え狂化(きょうか)(まぬが)れませんか。

 

ミル:グオオオォォォ!!

 

エレ:良い気焔(きえん)です。

   さて、

   一体どちらのシルヴィアが(まさ)ると言うのかしら?

   血飛沫(ちしぶき)の果てに私に魅せて御覧(ごらん)なさいな。

   ウフフッ………!!




 
 
 
     
 
           
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