題名  公開日  人数(男:女:不問)  時間  こんな話  作者

 風のシルヴィア(17)~終わる(はず)だった物語~

2014/11/30  5(2:2:1) 25分

あの子は救われたがっていた!!
今あの子が必要としているのは……。
私なんだ……!!

 ニコ

登場人物
(年齢)
性別 その他
シルヴィア
(26)
強くて優しい皆の主人公(?)
戦好きですが決して野蛮ではありません。
良い女なのです。
ミルケット
(17)
不問 主人公(!?)
出番も多く演じ分けも大変ですが頑張ってください。
やりがいはあります。
エレナ
(30)

麗しの女司令官(30)
敵役でミルケットの後見人。
叫ぶシーン大目です。

アーウィン(30)
ジーニアス(17)
アーウィン:ベテランの傭兵(商人)
ジーニアス:明るくひょうきんな英雄(ガキ)

※出番少ないので兼ね役をお奨めします。
アーウィンは最後にナレーションもお願いします。
ゼオルード
(226)
堂々とした老魔術師にして大英雄(鬼畜)。
恐竜の様な雰囲気の大柄なお爺ちゃんです。
長台詞大目なのでテンポ良くお願いします。


「風のシルヴィア(17)~終わる(はず)だった物語~」




何者でも無いままに生きて、何者でも無いまま消えていく人間。

そういうのを描きたかったのです。

そういう話です。






( ゴミ溜め:汚水のほとり )( ※回想シーン )

 

ミル:雨……打ちひしがれる。

   ……。

ただ痛く…冷たく……。

だけど後悔すらも洗い流してくれるような……。

……。

 

ゼオ:( 小声で呟くように )何じゃこの臭い…。

   鬱陶(うっとう)しい……。

   まぁったく…世も(すえ)じゃ……。

 

ミル:声……?

誰かが近づいてくる……。

 

ゼオ:おぉ……!?

生きておったか!!

祝着(しゅうちゃく)

祝着(しゅうちゃく)

   間に合わなんだ、

では話にならぬでな。

 

ミル:( 今にも死にそうな演技で )

……誰だ?

 

ゼオ:お(ぬし)詮索(せんさく)する暇等(いとまなど)無かろうて。

   だが、そうさな、

   ()えて述べるとするならば、

皆からは時の(おきな)と呼ばれておる。

 

ミル: ……ガキが()()(さま)(たか)みの見物(けんぶつ)か。

   (えら)そうな(じい)さんだ。

 

ゼオ:フハハ……言葉通りよ。

国ではそれ相応(そうおう)の地位におるのでな。

 

ミル:ゴホッ…!!

   ゴホッ……!!

 

ゼオ:時にお(ぬし)

   (おのれ)(せい)(なん)心得(こころえ)る?

 

ミル: ……ゴホッ。

   このままゴミ()めで()()ぬだけの俺に、

   どうしてそんな事を考える必要がある……?

 

ゼオ:(ほどこ)しや説法(せっぽう)をする為にここへ来た訳ではない。

   (わし)とて(とき)()しいでな、

   端的(たんてき)に言わせてもらうが――。

 

ミル: ……。

 

ゼオ:お(ぬし)

英雄に成ってはみぬか?

 

ミル: ……はぁ?

 

ゼオ:なに、

即席者(そくせきもの)ではあるがな。

   やはりそれにはお(ぬし)血筋(ちすじ)が必要なのよ。

 

ミル:俺の()

 

ゼオ:(おう)ともさ、

   お(ぬし)の『同化(どうか)』の特性(とくせい)は、

他者(たしゃ)の心に(おのれ)の心を投影(とうえい)する。

   ……そうじゃな、

   判り易く言えば奴隷(どれい)奴隷(どれい)らしく、

   英雄は英雄らしくあれと心に(きざ)みつける(すべ)じゃな。

 

ミル: ……ッ!!

 

ゼオ:ふむ、

これ以上老いぼれに口説(くど)かれても()まらぬか。

……エレナ。

 

エレ:はい。

 

ゼオ:ジーニアス。

 

ジー:やあっ♪

 

ミル:あんた達……。

何時(いつ)()に……。

 

ジー:(きみ)さぁ、

野垂(のた)()にするくらいなら僕たちの仲間に成りなよ。

   どうせ死ぬんだろう?

   受かれば英雄、

   ()んじゃえば、

ちょっと苦しんで死ぬだけなんだしさ。

 

ミル:仲……間……?

 

ジー:おっ、

   そこに反応するとは……。

   やはり()えていらっしゃる?

 

エレ:私達と共に来ては下さりませんか?

   ミルケット君。

 

ミル:う……うぅ……。

 

エレ:私達と共にある限り、

   決して私達は貴方(あなた)を見捨てません。

   だって家族になるのですから。

 

ミル:家族……。

   こんな俺が……。

   呪われた家で生まれ、

最後まで(うら)まれ続けたこの俺が、

   そんな幸せ……。

 

ジー:(つか)めるさ。

   自分からそういうのを手放(てばな)す馬鹿も居るけどさ、

   結局マジメに生きていれば、

皆が君を大事にしてくれるようになるよ。

 

ミル: ……。

 

エレ:わたくしの養子(ようし)になってくれても(かま)いませんのよ?

   (なに)せわたくしは『ディオールの四騎士(よんきし)』ですもの、

   貴方(あなた)にもそれ相応(そうおう)の暮らしをさせてあげられます。

 

ミル:どうして……おかしいじゃないか。

   俺はここで終わる(はず)だった。

   こんな出来過ぎた話で……。

   最後に俺を迷わせるなよ……!!

 

エレ: ……貴方(あなた)が必要なのです。

 

ミル: ……?

 

エレ:言葉を信じられないのなら何でもします。

   だから貴方を救わせてください、

   それだけで私も救われるから。

 

ミル:俺を……愛してくれるのか?

 

エレ:神に誓います。

   私の(そば)に居てください。

   ……貴方(あなた)を愛し続けます。

 

ミル: ……ぁさん。

 

エレ:はい?

 

ミル:(かあ)さんって、

   呼んでも良いですか?

 

エレ:お(かあ)……さん?

 

ミル:条件はそれだけで良い、

   ……本当にそれだけで良いんだ。

 

 

( 間 )( 独白 )

 

 

ミル:何故(なぜ)俺が選ばれたのかは知らない、

   だけど俺は英雄となった。

   戦場で殺し合い、

   その後で(かあ)さんと呼ぶ人と暮らし、

   また殺し合って。

   そして俺は……その時を迎えたんだ。

 

 

( 間 )( 白砂の決戦地:『サシャ』 )( ※:出来れば剣劇・喧騒のSE )

 

 

シル:はあ…はあ……!!

 

ミル:ガアッ!!

 

シル: ―――ッ!?

   ()られるッ!?

 

アー:シルヴィア!!

 

ミル:グアアアァァァ!!

 

アー:グアッ……!!

 

シル:そんな……貴方(あなた)(かば)うだなんて!!

   何故(なぜ)ッ!?

 

アー:この傷でお前が助かるのなら採算(さいさん)が取れる……!!

   用が出来たら呼ぶからよ、

それまでせいぜい(いき)を整えておけ!!

 

シル:アーウィン……!!

 

ミル:グァァァ!!

 

アー:ハッ……行くぞ竜騎士!!

   傭兵だからと(あなど)るな?

   経験ならば『偽者(にせもの)』の貴様とは(かく)が違うぜ!!

 

ミル:グゥゥ……!!

 

アー:この決戦で(すべ)てが決まる……!!

   お前達(まえら)にかき(みだ)されたマディーン大戦(たいせん)も、

   俺の人生も、

   (すべ)てがここで決着するんだ!!

 

シル:アーウィン……。

   やはりそうだったのですね。

   貴方(あなた)にとって、

   栄光の無い人生とは――。

 

エレ:( 被せる )では貴女(あなた)にとっての救いとは何なのかしら?

   シルヴィア。

 

シル:エレナ……!!

 

エレ:あの時貴女(あなた)は言ったわね?

   (すべ)ての(おこな)いは自分の為だと、

   だから全力で戦える、

と。

 

シル:ふっ、

この間隙(かんげき)を見逃すとは(あなど)られたものだ。

 

エレ:待っていてあげたのよ。

   貴女(あなた)の息が整う(まで)ね。

 

シル:それはお優しい事だ。

だが、

あいにくと無駄話(むだばなし)に付き合うつもりは……無い!!

 

エレ:素晴らしいわっ!!

なら戦いながらでも良いからお聞きなさい?

 

シル:何だッ!?

 

エレ: ……私達は決して負けない。

 

シル:これは……光魔法の詠唱破棄(えいしょうはき)……!!

   あぐっ!?

 

エレ:貴女(あなた)は夢をそらんじて、

   私は運命に(あやつ)られ、

   あの子は絶望の中に居た。

 

シル:くぅっ……!!

   ()(ごと)を!!

 

エレ:あの子と私は同じ者よ。

   自由を手に入れようと足掻(あが)(あきら)め、

そのままの人生を歩んできた。

   だから(にく)いの、

   貴女(あなた)とプーデットが。

 

シル:何だとッ!?

 

エレ:(すき)が。

 

シル:ぐあっ!?

 

エレ:くすっ。

……()まらない女。

   貴女(あなた)の描いた軌跡(きせき)に何の意味があって?

   こうやって届かぬ(やいば)無様(ぶざま)に振るうだけじゃない。

 

シル:( 呟く )く……。

   したんだ……。

 

エレ:なぁに?

何なのかしら?

 

シル:プーデットと約束したんだ!!

   ミルケットを助けるって!!

 

エレ:助ける?

   ……あの子が不幸だとでも言うつもり?

 

シル:貴女(あなた)はあの子の(はは)だと言ったな。

   だったら、

   だからこそ言えない事もあったんだ!!

 

エレ:解った(ふう)に……!!

   私達に口出ししないで!!

   たった一夜(いちや)を過ごしただけで理解者の振りをしないで!!

 

シル:あの子は救われたがっていた!!

   今あの子が必要としているのは……。

   私なんだ……!!

 

エレ:ズダボロの(くせ)に良く言うわね、

   自分の姿を見てみるといいわ。

 

シル:( 荒い息 )ハア…ハア……!!

……ッ!?

 

エレ:(みにく)いつぎはぎだらけ、

   今度は顔に消えない(あと)を残してあげる。

 

シル:ミルケットはもっと傷ついている!!

   1人の人間すら救えずに何が女だ!!

   どうして人間を名乗れるっていうんだ!!

 

エレ:何……傷が……!!

   内側から()()して……!?

 

シル:私はこんな身体でも人間を名乗っていたい!!

   アーウィンだってそうだ!!

   かつての貴女(あなた)も……!!

そうだった(はず)だ!!

 

エレ:成程……龍の血の御蔭(おかげ)ね?

   怒りをそのまま力に変える、

   龍真言(りゅうしんごん)とやらだったかしら?

 

シル:行くぞ!!

   エレナ!!

 

エレ: ……本当に後悔しているというの?

   ミルケット……。

   私は……。

 

 

( 間 )( エレナの家:居間 )( ※回想シーン )

 

 

ミル:(かあ)さん。

 

エレ: ……。

 

ミル:(かあ)さん!!

 

エレ:えっ?

   あっ、ああ。

   そうでしたわね。

 

ミル: ……。

 

エレ:そんな顔をしないで?

   わたくしも色々と(かんが)(ごと)があるのですから。

 

ミル:考えって何さ?

 

エレ:マディーンとの(いくさ)の事ですわ。

 

ミル:どうして戦争する事になったの?

 

エレ:我々の力を見せつける為です。

 

ミル:それだけ?

   大義(たいぎ)とかは?

 

エレ:名分(めいぶん)などは後から付ければ良いのです。

国とは本来そこに在るだけで敵を作るものですから。

   戦わない国は健全ではありません。

 

ミル: ……俺も行かなきゃいけないんだよね?

 

エレ:そうねミルケット。

   貴方(あなた)は竜騎士として兵達を鼓舞する指揮官にならなくてはね。

 

ミル: ……。

 

エレ:貴方(あなた)の今までと何が違うのかしら?

 

ミル:どうして自分を(いつわ)るのさ。

 

エレ: ……。

 

ミル:俺は(かあ)さんが好きだ。

   だから俺の前では素直になってよ、

   じゃなきゃ家族だなんて言えないじゃないか。

 

エレ:本当の家族にしたって、

   本当の事を言えるとは限らないわ。

   私だって若いころは(かあ)様に随分と反発したけどね、

   心の底では――。

 

ミル: ……。

 

エレ:ふふっ…そうね、

   そういう意味では、

   私達は本当の家族なのかも知れないわね。

 

ミル:これ……あげるよ。

 

エレ:えっ。

   ……指輪(ゆびわ)

 

ミル:木の神獣フェルディアースの加護がついてるんだ。

   それがあれば傷が早く治るって話だよ?

 

エレ: ……どうして?

 

ミル:誰だって自分の母親が傷つくのは見たくないだろ?

   ましてや母さんは誇り高き四騎士(よんきし)なんだから。

 

エレ:私は……。

   ……いいえ?

   ありがとう。

   ミルケット。

 

ミル:へへっ♪

 

ゼオ:おう、

これは()が悪かったかの?

 

ミル:うわぉっ!?

 

エレ:御機嫌(ごきげん)よう。

   ゼオルード様。

 

ゼオ:空間転移も考え物じゃて。

   さりとてこの老骨(ろうこつ)では、

   歩き回るのも労苦(ろうく)でな。

 

ミル: ……そんな事無いさ。

   『(とう)さん』。

 

ゼオ:フッ…フハハ……!!

   まあお主には(わし)の魔力もいささか(そそ)いでおる(ゆえ)

やぶさかでも無いがな、

   このゼオルードを相手に『 (ちち) 』とは滑稽(こっけい)じゃのう。

 

ミル:良いんだ、

   俺は皆を愛することにしたんだ。

   まるで今までの俺とは別人さ。

 

ゼオ:左様(さよう)か。

   では(わし)は、

これからお(ぬし)の母とやらと小難(こむず)しい話をするでな、

   巻き込まれたくなくば、

早々に立ち去るが(きち)じゃぞ?

 

ミル:そうだな。

   ガキはガキらしく、

   ガキと遊ぶとするよ。

 

エレ:ミルケット。

 

ミル:ん?

 

エレ:気を付けてね。

 

ミル:ああ。

   解ったよ母さん。

 

 

( 間 )( 王都アイゼフィール:屋根上の情景 )( ※回想シーン )

 

 

ミル:あ~がりっ♪

また俺の勝ちだな♪

 

ジー:かあ~~~!!

   どうにも強いねぇ、

   このゲームとミルとの相性(あいしょう)が良いのかなぁ?

 

ミル:硝子(ガラス)の国の(みやび)なカードゲームだろ?

   ジーニアスにしては小洒落(こじゃれ)てるじゃないか。

 

ジー:僕にしては何だって?

   ボコるよ?

   龍化(りゅうか)してない君なんて(ただ)のガキなんだからさ。

 

ミル:へへっ♪

   いいさ、

   それも悪くない。

 

ジー:死にたいのか?

 

ミル:いいや?

   それも悪くないなって、

   (ただ)そう思っただけさ。

 

ジー:身勝手な奴。

   豊かになった途端(とたん)死んでも良いだなんてさ、

   君に(いく)らのお(かね)(そそ)がれたか解っているのかい?

 

ミル:だってこんな景色(けしき)を見てたらさ。

   ……城下町(じょうかまち)の屋根の上でさ、

   のどかにゲームをして、

   父さんに母さんも居て、

   わざと負けてくれる友達も居て、

   俺はもうそれだけでさ……!!

 

ジー: ……。

   あいつに似てるよね、君。

 

ミル:あいつって誰だよ?

 

ジー:運命に振り回された可哀想(かわいそう)な子。

 

ミル:ああ……。

 

ジー:何て言えばいいんだっけ?

   こういう時は。

   ……そうだ、

   君に武運(ぶうん)が有ることを祈っているよ。

 

ミル:ははっ!!

   ジーニアスって、

   誰かの振りをしていないと本当に駄目だよな。

 

ジー:それもまた~人生~♪

   ……なんてね。

僕の素顔を知った者は皆死ぬのさ。

   だからこれだって他の誰かの顔なんだ。

 

ミル:何時(いつ)か俺の魅力で、

お前の本当の顔って奴を(のぞ)かせてやるよ。

 

ジー:オマエ男色家(だんしょくか)かよぉ!?

   まあ別にいいけど。

 

ミル:約束する。

 

ジー:期待している。

 

ミル:行ってくる。

 

ジー:行ってらっしゃい。

   まあ、

   僕もついていくんだけどさ。

   情熱の国マディーン。

 

 

( 間 )( 決戦:白砂を紅く染めて )

 

 

ミル:グオォォォ!!

 

アー:ハアッ!!

 

ミル:グウゥ……!!

 

アー:へへっ……!!

   良いのかねえ、

   俺なんかにかかりっきりでよぅ……!!

 

ミル: ……!?

 

アー:周りを見てみな?

元々英雄(だの)みのアイゼフィール軍だ、

   ならば戦局(せんきょく)(くつがえ)って()()し、

   だろう?

 

ミル:グゥゥ……!!

 

アー:母さんとやらも苦戦しているようだぜ?

   どうする竜騎士!?

 

ミル: ……ッ!?

 

エレ:ハァ……ハァ……!!

 

シル:ハァ……ハァ…!!

   どうしたエレナ!!

   『ディオールの四騎士(よんきし)』が小娘相手(こむすめあいて)に足止めかッ!?

 

エレ:強くなったわね……!!

   シルヴィア……!!

   龍化(りゅうか)や風の神剣等(しんけんなど)ではない、

   その意思の強さこそが私に死を覚悟させる!!

 

シル: ……もう()して下さい、

   私達はこうなってしまったのです。

   ならば最後まで『らしく』振舞(ふるま)いましょう。

 

エレ:ふふっ……。

戸惑(とまど)貴女(あなた)はとても素敵ですよ?

   結局、

私達は()かれあったまま殺し合うのですね。

   

シル: ……本当に残念です。

   もしも貴女(あなた)と違った形で出逢(であ)っていたなら……!!

   きっと私達は……!!

   きっと……!!

 

エレ: ……そうね。

   さようなら、

   シルヴィア・シルフィード。

 

シル: ……さらばです。

   エレナ・サースティ。

 

エレ: ……。

 

シル: ……。

 

シル&エレ:ハアアアァァッ!!

 

エレ:( 独白 )……ふふっ。

   ちょっぴり遅かったわね。

   まあ、

この子に()られるのなら……それも……また。

 

ミル:グオオオオッ!!

 

 

( 間 )( 何処かの闇 )( ※回想シーン )

 

 

ミル:何だい父さん?

   こんな所へ呼び出して。

 

ゼオ:おぉミルケット、

   待っておったぞ?

 

ミル:悪いけど時間なら無いよ?

これからカミュさんに剣術(けんじゅつ)を教わるんだ。

   いけ()かない人だけどさ、

   腕は確かだし、

ちゃんと教えてくれるからね。

 

ゼオ:結構、

   結構。

   良き心掛けじゃな。

 

ミル:へへっ♪

 

ゼオ: ……ところでお(ぬし)

   殺し合いは嫌いか?

 

ミル:えっ?

 

ゼオ:エレナから聞いたぞ?

   どうにも(じょう)(おぼ)れ、

()(かた)(そこ)なってしまったようじゃな。

 

ミル:(ころ)しが好きな人間なんているのかよ?

   そんなのは殺人鬼(さつじんき)だ。

 

ゼオ:(おう)とも、

   我等(われら)殺人鬼(さつじんき)相違無(そういな)い。

   もっとも、

格別(かくべつ)の力を持った悪鬼羅刹(あっきらせつ)じゃがな。

 

ミル:えっ?

 

ゼオ:だからこそ我等(われら)は英雄なのだ。

   違うか?

 

ミル: ……。

 

ゼオ:(こた)えよミルケット。

弱き者、

   (まど)う者に誰が()かれる?

   誰が(かね)を払い国土(こくど)(たく)す?

 

ミル:それは……。

 

ゼオ:血肉(ちにく)(むさぼ)り目玉を(えぐ)れ、

   母親の前で赤子を()(ころ)せ、

   (せがれ)の前で親を血祭(ちまつ)りに上げろ、

   その狂気(きょうき)こそが(たみ)の求める強者(きょうしゃ)()(かた)なのだ。

 

ミル:そんなッ……!!

   俺はそんな人間になんかなりたくない!!

 

ゼオ:解らぬか、

   ふふ……まあ解らんでも無い。

 

ミル:どうしたんだよ父さん!?

   (くる)ったのか!?

 

ゼオ:ところでお主、

   兄が居るそうじゃな?

 

ミル: ……。

 

ゼオ:名はプーデットと言ったか。

   良く理解し、

   良く愛嬌(あいきょう)を振りまく子幸(こしあわ)せな男だと聞く。

 

ミル:ああ、

   俺は兄さんに(あこが)れて旅に出たんだ。

 

ゼオ:ならば兄と弟、

   同じく流浪(るろう)の道を歩んだ(せい)に、

   何故(なぜ)これ(ほど)の差がついたか解るか?

 

ミル:それは……。

 

ゼオ:(かた)や皆から愛される幸福者(しあわせもの)

   (かた)やゴミ()めで死ぬ(はず)だった取るに足らぬ落伍者(らくごしゃ「)

   ……何故(なぜ)かのう?

 

ミル:何が言いたいんだ?

 

ゼオ:お主は兄の代わりに(いびつ)を背負い、

   兄の不幸を避ける為だけに創られた(にえ)よ。

   (ゆえ)に光も当たらぬ(やみ)の世界で生きてきた。

 

ミル: ……止めてくれ。

 

ゼオ:兄と違い身体を(けが)し、

   他人を殺し、

   無様(ぶざま)悪辣(あくらつ)に生き抜いて来た糞餓鬼(くそがき)がお主よ。

   何も変わらぬ、

   ( 笑い )運命のせいにしたところで(むな)しいだけじゃて。

   ……お主は(みずか)ら間違いを選び続けて来た出来損(できぞこ)ないなのだからな!!

 

ミル: ……うっ!?

   うぷっ……!!

   ( 嘔吐 )――うげぇぇぇぇ!!

 

ゼオ:用はこれで仕舞(しまい)じゃ。

   家族とあらば、

夢から()まさせてやらねば(あわ)れでのう。

 

ミル:( 泣く )うっ…うぅ…。

 

ゼオ:後は好きに生きるが良い、

   出来損(できぞこ)ないに(えが)ける未来があるのならな。

 

ミル:( 泣きながら )ひっく…ひっく…!!

   俺は……!!

俺はどうすればいい……!?

 

ゼオ: ……ああ?

 

ミル:教えてくれ……!!

   こんな俺はこれから先どうやって生きていけばいいんだ……!?

 

ゼオ:フハハハ……!!

   何、下らぬ事よ。

 

ミル:答えを!!

 

ゼオ:素晴らしきこの世界を謳歌(おうか)せよ。

   英雄とやらに成り下がり、

殺し合いを楽しめれば今まで通りに暮らせる事じゃろうて。

   ……のう?

   『息子(むすこ)』よ。

 

ミル: ……それで(ゆる)されるなら、

   幸せに成れるとしたなら……。

   俺は……。

 

 

( 間 )( 貫かれたものは )

 

 

ミル:グゥゥ……!!

 

エレ: ……ミル…ケット?

 

ミル:ゴファッ……!!

 

エレ:ミルケット……!?

   (いや)……(いや)アアァァァ!!

 

シル:馬鹿な……。

 

ミル:ゲハッ!!

   ゴフッ、ゴフッ……!!

   ゴボッ……!!

 

エレ:そんなっ!!

   どうして私を(かば)ったりなんてしたの!?

   どうしてぇッ!?

 

ミル:(かあ)……さん……。

   だか……ら。

 

エレ:そんなものは建前(たてまえ)でしょう!?

   私に子供が出来る(はず)無いじゃない!!

 

ミル:いいや……。

   (かあ)さんは……(まぎ)れも無く……俺の。

 

エレ:違うわよ……!!

   何処(どこ)の世界に子供を戦場へ連れ出す母親が居るの!?

 

ミル:だけど俺の為に泣いてくれてる……。

   それだけで良い……。

   俺の為に泣いてくれた人は……。

   この世界で貴女(あなた)だけだった。

 

エレ:嫌よ……!!

   こんな結末……!!

   そうだ、

   治癒してあげる!!

   まだ遅くは無い、

   私は聖騎士なのだから!!

 

ミル: ……へへっ。

 

エレ:傷が治らない!?

   ミルケット!!

   貴方!!

 

シル:治癒を……拒んでいるのか?

 

ミル: ……これで良いんだ。

   ……もう充分だよ母さん、

   俺には勿体無(もったいな)いくらいの幸せだったさ。

 

エレ: ……。

 

シル: ……お前とプーは良く似ているよ。

   ただ少し、

   選び方が下手(へた)だっただけなんだ。

 

ミル:ありがとう……シルヴィアさん。

   あーぁ……。

   くっそぉ……。

あんたの(となり)に居たかったのになぁ。

 

シル:( 微笑み )――そうだな。

 

ミル:ああ……そうだ。

   兄さんに言っといてくれよ。

   兄さんの代わりになれたのなら嬉しいって。

 

シル:えっ?

 

ミル:あの時そう言えなかったのが……。

本当に最低だった。

 

シル: ……解った。

   確かに伝えて――。

 

ゼオ:( 被せる )おお、

   ()()うたか!!

 

シル:何ッ!?

 

エレ:ゼオルード様!?

   どうしてここに!?

 

ゼオ:治癒を(こば)むとあらば(いた)(かた)あるまい、

   ならば息子よ、

   我が血肉(ちにく)として生きてはくれまいか?

 

シル:くっ、

   結界(けっかい)か!?

   ここから出せ!!

 

エレ:ゼオルード様!!

   ()めて!!

 

ゼオ:退()け。 

 

エレ:あぐっ!?

 

ゼオ:お主は使えん。

   そこになおり、

   我等(われら)顛末(てんまつ)を見届け、

   性根(しょうね)を直すがよい。

 

エレ:くっ!?

   結界(けっかい)ですって!!

   そんな……ミルケット!!

ミル:ふっ……。

   そういう事か、

   『お(とう)さん』。

ゼオ:左様(さよう)

   (わし)にはどうしてもお主の力が必要なのだ。

   ()らぬのならばくれい。

   

ミル:どうせ野垂(のた)()(はず)だった身だ。

   あんた達から(もら)ったものは全部返していくさ。

 

ゼオ:()まぬな……息子(むすこ)よ。

   決して無碍(むげ)にはせぬぞ?

   カアアッ……!!

( 咀嚼の演技 )―――!!

 

ミル:グァッ…!!

 

シル:ひっ!?

 

エレ:うっ……うぅ……!!   

   やめてぇ……!!

   もうやめて下さい……!!

   ゼオルード様ぁ……!!

 

ゼオ:( 咀嚼の演技 )――。

 

ミル: ……。

 

シル:ゼオ……ルードッ……!!

   貴様(きさま)アァァァァ!!

 

アー:それはさながら悪夢(あくむ)だった。

   英雄が英雄を()らう、

   その()てつく光景は俺達の戦意を奪い、

   決戦の場を失ったマディーンとアイゼフィールは、

   (ほど)なくして和睦(わぼく)を結び、

   俺達の戦争は終わりを()げた。




 
 
 
     
 
           
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