題名  公開日   人数(男:女:不問)  時間  こんな話  作者

 風のシルヴィア(21)~夢狭間(ゆめはざま)に見える双極(そうきょく)

2015/01/22  4(2:0:2) 30分

見た目なぞに意味は無い、心が枯れ果てる事実こそが『老い』なのだ。

 ニコ

登場人物
(年齢)
性別 その他
ゼオルード
(226)
『王の学書』の異名を取る鉄の国の宰相。
圧倒的魔力を持ち白兵戦もこなせる妖怪爺ちゃん。
長身痩躯で髭。恐竜みたいな雰囲気。
フェンシア
(108)
不問 『王の鍵』の異名を取る鉄の国の重鎮。
二槍流の使い手で圧倒的な美貌を持つハーフエルフ。
色気たっぷりの優雅な貴人。
ヴァロ
(144)

大昔のゼオルード。
回想にのみ登場。
万能だが不器用な武人。

キル
(26)
不問 大昔のフェンシア。
回想にのみ登場。
天真爛漫な美少年。


「風のシルヴィア(21)~夢狭間(ゆめはざま)に見える双極(そうきょく)~」




とある国のとある英雄二人の殺し合いです。

愛憎入り交じる涼やかな話です。

初見の方でもある程度楽しめます。





( 龍封樹:深奥 )

 

ゼオ:ふう……やれ、

   一大事よ。

   よもやガーデウスの子倅(こせがれ)が、

   ここまで出来(でき)る男に()るとはな。

   ……急がねば。

 

フェ:して、

   求める果ては龍封樹(りゅうふうじゅ)か?

   ゼオルード。

 

ゼオ:おお、

これはまた奇遇(きぐう)なり。

   どうしたフェンシア?

   

フェ:お(ぬし)()めに来たのだ。

   アイゼフィールが宰相殿(さいしょうどの)よ。

 

ゼオ:なんじゃ、

   もう覚悟を決めて来おったか。

 

フェ:()えて問うが、

   お(ぬし)は何を()すつもりだ?

   そしてそれは(くつがえ)せぬのか?

 

ゼオ:フッ……。

目的を知るが目的ならば()して見よ。

   (わし)(すべ)てを(つい)やすぞ?

   胸焦(むねこ)がれる程の宿願(しゅくがん)じゃ、

   (かな)えてやらねば(おのれ)を保てぬ。

 

フェ:()(もの)め。

   野望(やぼう)(ため)に祖国を(ほろ)ぼすか?

 

ゼオ:カッ!!

   お(ぬし)には解るまい?

   ()いを知る者の焦りと傲岸(ごうがん)は、

信念すら()じ曲げさせるのよ。

フハハハ……!!

 

フェ:ならば是非(ぜひ)も無い。

   せめて国の元勲(げんくん)として死んで行け。

 

ゼオ:いずれこの時が来るのは判っておった。

だがまさか、

その舞台が、

竜騎士が眠る樹の(うろ)とはな。

 

フェ:何とも因果(いんが)な事だが、

   我等(われら)仕舞(しまい)には相応(ふさわ)しかろう?

 

ゼオ:左様(さよう)

これも(さだ)めに相違無(そういな)い。

サディス・カーズ・イルツィネシオ。

渇望(かつぼう)(いだ)(もの)、暗き(もん)より(かんぬき)千切(ちぎ)り、

 (すべ)てを(むさぼ)暴刃(ぼうじん)()せぃ。』

 

フェ: ……死神(しにがみ)(かま)

   デス・ペナルティーか。

 

ゼオ:( 嬉しそうに )(なつ)かしいであろう?

さてこの大鎌(おおがま)

昔の(ごと)く振るえるかどうか。

 

フェ:イーラ・テスラ・ギーライーラ。

『 ……(きら)めく森羅(しんら)(ともがら)よ。

   ()手綱(たづな)()(うるわ)しき首をもたげ、

   誇り咲く流星(りゅうせい)双極(そうきょく)()せ。』

 

ゼオ:おおっ!!

フェンシア・キル・ツヴァイボルグが誇る、

炎と氷の(やり)二振(にふ)り、

氷炎陣(ひょうえんじん)』の美麗(びれい)さよ!!

 

フェ:既に間合いだが構えぬのか?

   死にたければ話は別だが。

 

ゼオ:フハハ……!!

そうか、我慢できぬか、

では行くか……!!

お主(ぬし)の魔槍(まそう)(まさ)るとも(おと)らぬ()魔鎌(まけん)

とくと(あじ)わ―――オグァッ!?

 

フェ:( 溜息 )――。

拍子抜(ひょうしぬ)けだぞ、

ゼオルード。

   これすらもかわせぬとはな。

 

ゼオ:きっ……!!

   貴様(きさま)ッ……!!

グッ……!!

   ヌオオオォォアアア!!

 

フェ:もはやその老醜(ろうしゅう)は見るに堪えん。

()()(ごと)く燃え(さか)るが良い。

 

ゼオ:ゴオオォォアアァァァ……!!

 

 

( 間 )( 王都アイゼフィール:昼下がりの城下 )( ※回想シーン )

 

 

キル:ゼオルード。

 

ヴァ:ん?

ああ、

お前か、

   上がってこい。

 

キル:よっ、と……。

お主(ぬし)は良くここに居るが、

屋根の上がそんなに良いか?

 

ヴァ:ああ……。

ここからの(なが)めが好きでな。

 

キル:どれどれ……。

   ふむ。

   普通、だな。

 

ヴァ:いいや?

何時眺(いつなが)めても良いものだぞ?

   俺の(まも)るべき物が此処(ここ)()る。

 

キル:成程、

そういう意味か。

 

ヴァ:なあフェンシア、

   お前はこの国が好きか?

 

キル:んん……まあ、

それなりにな。

 

ヴァ:そうか、

   何よりだ。

 

キル:だが今は、

遊ぶべき時と心得(こころえ)ておる。

 

ヴァ:フッ……。

   良い心掛(こころが)けだな。

 

キル:お主(ぬし)はどうなのだ?

   もうずっと国の重鎮(じゅうちん)として生きておるのだろう?

   飽きは()ぬのか?

 

ヴァ:どうかな?

(よわい)を140も超えるとな、

   何も感じなくなってくる。

 

キル:何だそれは。

傍目(はため)にはまだ40と言った所だぞ?

 

ヴァ:心得(こころえ)よ、

   長命(ちょうめい)なるハーフエルフよ。

   見た目なぞに意味は無い、

   心が枯れ果てる事実こそが『()い』なのだ。

 

キル:人間とは大変だな。

   自然を愛する(われ)にはまるで関知(かんち)(およ)ばぬ所だ。

 

ヴァ:人外(じんがい)(もっ)て尚(なお)、

それすらも愛するか。

やはりお前は(うるわ)しいな。

 

キル:ふふん♪

   知っておる。

 

ヴァ:奔放(ほんぽう)洒脱(しゃだつ)で、

   何よりも心が()んでいる。

 

キル:(われ)(ほだ)すつもりか?

   あいにくと、

今はそんな気分では無い。

 

ヴァ:お前だけだ。

   (じつ)(ちち)を食い殺した俺を恐れぬのは。

 

キル:ああ、それか。

   特に思う所は無いぞ?

   委細(いさい)は知っているのでな。

 

ヴァ:あの時は純粋にその力が欲しかった。

   だからこそ、

   その後は国の為に尽力(じんりょく)しようと生きてきた。

   ……だが……今は。

 

キル:安心しろ。

   (われ)は嫌いではないぞ?

   魔人と()っても(なお)

   人を捨てきれぬその心がな。

 

ヴァ:ハッ……。

金言(きんげん)(いた)()る。

   夢忘れず、

   ()が心の(くさび)としよう。

 

 

( 間 )( 絶世の四騎士 )

 

 

ゼオ:フ……フハハッ……!!

フハハハ……!!

 

フェ:やはり不死身(ふじみ)魔人(まじん)は殺せぬか。

 

ゼオ:()しい()しい。

   『ただ一人の(わし)』ならば、

これで死んだやも知れぬがな?

   フッ、ハハッ、

ワハハハハ……!!

 

フェ:フンッ!!

 

ゼオ:グアッ!?

   う……うげぇ!!

 

フェ:とはいえ楽には出来まいよ。

   詠唱なぞされては事なのでな。

 

ゼオ:ウ……ウヒャヒャヒャ……!!

   ( 嬉しそうに )ま、()っこと、

良き(やり)よな?

 

フェ:(おのれ)の好きな様に(とき)を巻き戻す、

   『夢幻陣(むげんじん)』の絶技(ぜつぎ)、か。

 

ゼオ: ……左様(さよう)

   偉大なる()が父が会得(えとく)し、

   尊大なる(わし)がそのままに飲み干した無双の力よ!!

 

フェ:血族(けつぞく)の魂を喰らい(みずか)らの力と為す……。

『古き国の四騎士(よんきし)』が(おさ)

   ゼオルード・ヴァロ・ゴラムザードが誇る最大禁術。

 

ゼオ:(おう)よ!!

   ()が『羅刹陣(らせつじん)』、

貴様等(きさまら)の下らぬ児戯(じぎ)とは格が違うわ!!

 

フェ:クカカッ!!

一族総(いちぞくすべ)てを喰らい尽くして手に入れたその力、

   誇った所で称賛は届くまい!?

 

ゼオ:ならば(うら)みも(なげ)きも同じ事!!

もはやゴラムザードは(わし)ただ一人、

   (わし)こそが最強にして最終の『四騎士(よんきし)』なのだ!!

 

フェ:ぬっ!?

 

ゼオ:ワハハハッ!!

思いの(ほか)

身体も動きよるッ!?

   血が(たぎ)るぞ、フェンシア!!

   その首を(わし)にくれぇ!!

 

フェ:はしゃぎおって……。

   餓鬼(がき)が……。

 

 

( 間 )( ゼオルードの館:寝室 )( ※回想シーン )

 

 

キル:( 寝息 )スウ……スウ……。

 

ヴァ:( 愛おしそうに )――。

 

キル: ……中々(なかなか)殊勝(しゅしょう)ではないか。

   今まで睦言(むつごと)一つ出さなんだ(くせ)に。

 

ヴァ:愛している。

   (そば)に居てくれて有難(ありがと)う。

   フェンシア。

 

キル:自惚(うぬ)れるな。

別段(べつだん)

(ぬし)の為に身を(ささ)げているつもりはない。

 

ヴァ:( 優しく )――だろうな。

   お前は自由の為に生きている。

 

キル:快楽の為さ。

   貧民窟(ひんみんくつ)夜鷹(よたか)であれ、

   ()にし()う大英雄であれ、

   (われ)にとっては等しき友に過ぎん。

 

ヴァ:フッ……。

それは光栄(こうえい)な事だ。

 

キル:まあ、

   この扱いは嫌いではないぞ?

   決してな。

 

ヴァ:ならば友として話を聞いてはくれぬか?

 

キル:ああ、

良いとも。

 

ヴァ:近頃な、

老いが止まらず恐ろしいのだ。

 

キル:ほう?

 

ヴァ:見ろ、

   この顔のヒビを。

   (とき)を巻き戻し続けても(いびつ)は起こる、

   何よりも(みじ)めだ。

 

キル:良き事では無いか。

   魔人殿(まじんどの)はいよいよ天寿(てんじゅ)(まっと)うし、

   人として死ねるのだからな。

 

ヴァ:そうはいかん。

   ()魔導(まどう)一族総(いちぞくすべ)ての結集(けっしゅう)

   この身は決して(ほろ)びる訳には行かぬのだ。

 

キル:ならば後進(こうしん)(ゆず)れ。

 

ヴァ: ……ぬ。

 

キル:良い機会ではないか、

   創る気が無い程に、

枯れ果てた訳ではないのだからな。

 

ヴァ: ……。

 

キル:クク……。

また食い殺してしまわぬか、

   恐れているのだな?

 

ヴァ: ……。

ゴラムザードは()(きら)われた(やみ)一族(いちぞく)

   (ゆえ)各々(おのおの)が独自の禁術を産み出す事が出来るのだが、

   何故(なぜ)俺だけがこんな……。

 

キル:起こってしまったことは仕方が無い。

   死ぬ訳には行かぬというのも、

   まあ認めてやるさ。

 

ヴァ: ……。

 

キル:だが、

人はいずれ死ぬ。

   逃げようが、

立ち向かおうが必ずな?

 

ヴァ:ではどうあるべきだ?

 

キル:今を楽しく生きれば良いではないか。

   蹴落(けお)としてきた者達を無駄にせぬために、

   これから出会う者達に粗相(そそう)の無い様に。

   人間一人が出来る事と言えばそれくらいだ。

 

ヴァ: ……やはり()いな。

   お前と作る子であれば、

   きっと大事(だいじ)に出来た気がするぞ?

   俺は。

 

キル:たわけ。

ハーフエルフに何を求めるか。

 

ヴァ:フハハ!!

   (たわむ)れだ、

(ゆる)せ。

 

キル: ……ふん。

 

ヴァ:それに、

   ……ただ思っただけだ。

俺はやはり、

   (ひと)りで死んでいくとしよう。

 

 

( 間 )( 澱み無き心は吹きすさぶ嵐が如く )

 

 

フェ:カッッ!!

 

ゼオ:ぬぐぉっ!?

   ……おお、ふふ!!

良く足掻(あが)く。

   また死んでしまったではないか!!

 

フェ:やはり魔力は無尽蔵(むじんぞう)……。

   ()れを(ねら)うは(はた)から愚策(ぐさく)か。

 

ゼオ:フンッ!!

 

フェ:ぐあっ……!?

 

ゼオ:カカッ……!!

   良い(さま)じゃのう、

   ハーフエルフよ。

   何時(いつ)()にか氷の(やり)を失っておるぞ?

 

フェ:ハア……ハア……。

   フッ、

   何の……これしき。

 

ゼオ:()れぬか?

 

フェ:まだ若いのでな。

 

ゼオ:( 舌打ち )――猪口才(ちょこざい)な。

   ならば絶望を与えてやろう。

   ( 指を鳴らす )――。

 

フェ: ……分身(ぶんしん)!!

   いや……これは、

   ジーニアスの影か!?

 

ゼオ:いや違うな?

   これこそは『 (わし) 』の影じゃ。

   竜騎士ミルケットの触媒(しょくばい)となっていた(やつ)めの影を、

(わし)が喰らい奪い取ってやったのよ。

 

フェ:クク……この鬼畜(きちく)め、

   マディーン方面軍(ほうめんぐん)の戦力増強とのたまいながら、

   最初からそれが狙いであったか。

 

ゼオ:( 恥ずかしそうに )――まあな、

   さて、どうする?

   (わし)二人を相手取り、

何処(どこ)まで意地(いじ)()れるかの?

 

フェ:切り札を出したなら()いはあるまい?

   存分(ぞんぶん)に死んで行け。

 

ゼオ:おお、豪気(ごうき)な事よ。

()が死神の(かま)にて薄れゆく中、

   せめて(うるわ)しさを(そこ)なわずに()くが()い。

 

フェ: ……たわけが!!

   (わか)さなぞに(しば)られおって!!

 

ゼオ:ぬっ!?

 

フェ:何故(なぜ)忠道(ちゅうどう)を捨ておった!?

   それこそが貴様(きさま)唯一(ゆいいつ)の誇りでは無かったか!?

   最後の防壁(ぼうへき)では無かったのか!!

 

ゼオ:(だま)れ!!

   貴様(きさま)に何が解るか!!

 

フェ:解っているとも!!

   貴様(きさま)唯一(ゆいいつ)欠点(けってん)()いだった!!

   完璧無比(かんぺきむひ)のお前が恐れた物はただ一つ、

   『()い』そのものだったのだ!!

 

ゼオ: ……何を。

 

フェ:だが最早遅(もはやおそ)い、

   せめて(われ)(とも)()け。

   ゼオルード。

 

ゼオ:馬鹿が……!!

   死ぬのは貴様(きさま)だけであろうがッ!?

 

フェ:そうは行かぬ。

   周りを良く()ろ。

 

ゼオ:フハハハ、何を………。

何ッ!?

   なんじゃ貴様(きさま)

   何をしでかしたッ!?

 

フェ:逃げ道を(ふさ)いだのだ。

   ()が氷の(やり)結界(けっかい)()してな。

 

ゼオ:くっ!?

   フロアそのものを氷結(ひょうけつ)するだと!?

   なんという魔力だ!!

 

フェ:クク……。

時を戻しても無駄だぞ?

   貴様(きさま)(われ)に、

随分と前から(とら)われていたのだ。

 

ゼオ:貴様(きさま)(はか)っておったな!?

   (わし)が時を戻して(なお)

影を出して(なお)

   死を(のが)れられぬこの時を!!

 

フェ:(あきら)めよ、

   ゼオルード。

   (すべ)てを()業火(ごうか)に飲み込ませ、

(けが)()きままに死ぬが()い。

 

ゼオ:フェンシア……自らを焼き尽くしてまで、

   そうまでして(わし)(ほうむ)り去りたいか、

   この(わし)をそこまで憎むのか……!?

 

フェ:()めたくば()が首を()()れ。

   その身が崩れ去る前にな。

 

ゼオ:ヌッ!?

   ウオッ!?

ヌガアアァァァァ!!

   グゥオオオオォォォォォ!!

 

フェ:見せてみよ。

   その渇望(かつぼう)を、

   (みにく)無様(ぶざま)(はぐく)んだ、

(あやま)ちだらけの(せい)とやらを。

 

ゼオ:フェンシアァァァァ!!

   ウォォォォォ……!!

   クゥアアァァァァ……!!

 

フェ:フッ……その(さま)はまるで、

(わらべ)(よう)だの。

 

ゼオ:グウオオオォォォォ……!!

 

 

( 間 )( 鉄の国アイゼフィール:近郊 )( ※回想シーン )

 

 

ヴァ:何処(どこ)へ行く?

 

キル:旅だ。

   当ては無いが、

   まあ楽しんでくるとするさ。

 

ヴァ:気楽なものだな。

   だが、

お前ほどの器量にただの将軍では、

役不足も(はなは)だしいか。

 

キル:これ以上は要らんぞ?

   人間は()(この)んでゆとりを失うが、

   (われ)公私(こうし)を分けたいのでな。

 

ヴァ:今のところはな。

   だがお前は四騎士(よんきし)だ、

   いずれは重鎮(じゅうちん)()ってもらう。

 

キル:ハッ、

下らぬ……。

 

ヴァ:そういう物だ。

   俺達はな。

 

キル:いっそ(すべ)てを投げ出し共に行くか?

 

ヴァ:ハッ!!

   何を――( 笑い )。

   ……ッ!?

 

キル:嫌か?

 

ヴァ:本気……なのか?

 

キル:(われ)はこういう性分(しょうぶん)だ。

   二度とは()かぬぞ?

 

ヴァ:俺は……。

 

キル:二人ならば何処(どこ)へでも行けるだろう、

   何処(どこ)ででも幸福(しあわせ)()れるだろう。

   ……それでも嫌か?

 

ヴァ:嫌な事なぞあるものか!!

   お前を(きら)(はず)があるまい!!

 

キル:んん?

 

ヴァ:だが……俺は……!!

   俺はそれだけは出来ぬのだ!!

 

キル: ……続けろ。

 

ヴァ:俺には(まも)らねばならぬものがある!!

   俺の心を保つために!!

   一族の誇りを保つために!!

   この国を捨てる訳にはいかん!!

 

キル:そうか、

   良き道ではないか。

   立派に(つらぬ)けよ?

 

ヴァ:( 何か言いかける )( ※アドリブでも可 )――。

 

キル:( 遮って )――ではな、

   ゼオルード。

 

ヴァ:行くなフェンシア!!

   帰ってこい!!

 

キル:知らぬ。

   そも、

最早(もはや)貴様(きさま)には関係の無い事であろう?

 

ヴァ:此処(ここ)はお前の帰る場所だ!!

 

キル: ……!?

   

ヴァ:俺が創る!!

   お前が戻りたくなるような、

   (すず)やかで絢爛(けんらん)たる(くに)を!!

   (かなら)ずや俺が!!

 

キル:ククッ……!!

ならばせいぜい(つくろ)うが良い。

   気に入ったなら、

また帰って来てやるさ。

 

ヴァ: ……さらばだ。

   フェンシア。

 

キル:ああ。

   さらばだ。

 

 

( 間 )( 緑光降り注ぐ龍封樹の闇で )

 

 

フェ:ウ……!?

ゴフッ……!!

   ゴボッ……!!

 

ゼオ:ゼェ……ゼェッ……!!

   グウッ……!!

 

フェ:クカカッ……!!

どうやら(われ)の……負け、か。

 

ゼオ:ゼエッ……ゼエッ……!!

……たわけがっ!!

   何故(なぜ)手抜いたッ!?

 

フェ: ……んん?

 

ゼオ:何故(なぜ)焼き尽くさなんだか!?

   出来る事を()さんで!!

   何を躊躇(ためら)いよった!?

 

フェ:フッ……滑稽(こっけい)よな。

まるで、

……死にたかった(よう)に……言うではないか?

 

ゼオ:お前となら死んでも良かった!!

   この俺を人間扱いしてくれたお前となら、

   こんな末路(まつろ)も喜んで俺は受け入れたんだあぁぁ……!!

 

フェ:馬鹿め……それなら……そうと……。

   早く言え。

 

ゼオ:()くな!!

   フェンシア!!

   お前以外に誰が俺を()められる!?

   誰が俺を愛してくれるんだ!!

 

フェ:(なげ)くな……。

   (おの)(みち)を行け。

 

ゼオ: ――ッ!?

 

フェ:その(よわい)になって……。

   ようやく……国と言う、

くびきから(はな)たれたのであろうが。

 

ゼオ:フェンシア……!!

お前は……!!

 

フェ:堂々と……()を張るが良い。

   誰に気遣うでも無い……。

   お(ぬし)のしたい事を(われ)は愛そう。

 

ゼオ:お前は……最初から死ぬ気で……!!

   そんな事を言う為に俺に(いど)んできたのか……!!

 

フェ:いいや……?

ただ……。

   思いの(ほか)

   我が『そなた』を好きだった……。

   ただ……それだけの事だ……。

 

ゼオ: ……フェンシア?

   フェンシアッ!?

 

フェ: ……もう一差(ひとさ)し夢を見れる……なら。

   ふっ……何の未練(みれん)か……。

   (まこと)(わらべ)は……我独(われひと)りであった……か。

   ………。

 

ゼオ:おぉっ……!!

   おおおおぉぉぉぉ!!

   ……これで、これでもう、

   俺を知る者は、

   俺が愛した者は、

ただの一人も居らんのだな……!!

   何と孤独の(むな)しい事よ……!!

 

 

( 間 )( 『王の鍵』が最も愛した日 )( ※回想シーン )

 

 

ヴァ:( 唸る )――。

 

キル:おう。

 

ヴァ: ……ッ!?

 

キル:文棚(ふみだな)で悩むとは不味(まず)いな。

   せめて月を(なが)めなければ。

 

ヴァ:フッ……ようやく帰って来たか。

 

キル:旅に飽きるまでと思うておったが、

   これが随分と楽しくてなぁ。

 

ヴァ:あれから何年経ったと思っている?

   俺は恋人を待つ村娘(むらむすめ)か?

 

キル:そう()ねるな。

   土産(みやげ)もあるぞ?

 

ヴァ:要らぬ。

   お前が此処(ここ)に居ればそれで良い。

 

キル:( 嬉しそうに )――そうか。

   ならばそうしてやろう。

 

ヴァ:フェンシア、

   俺の国はどうだ?

 

キル:町並みは変わらぬが、

   よくよく見れば活気(かっき)矜持(きょうじ)(にお)()つ。

   人を大事としている証左(しょうさ)だな。

 

ヴァ:気に入ったか?

 

キル:まあな。

   やはり窮屈(きゅうくつ)には違いないが、

   鳥籠(とりかご)としては中々(なかなか)上等(じょうとう)だ。

 

ヴァ:フッ…フハハッ……!!

ワハハハッ――!!

 

キル:( 途中から被せる )ククッ…フフフッ……!!

 

ヴァ: ……おかえり、

   フェンシア。

 

キル:ああ。

ただいま。

   ゼオルード。




 
 
 
     
 
           
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