題名  公開日   人数(男:女:不問)  時間  こんな話  作者

 風のシルヴィア(22)~影の光~

2015/02/14  5(2:2:1) 30分

君が僕の幸せを願ってくれるように、僕も君に幸せになって欲しい。

 ニコ

登場人物
(年齢)
性別 その他
シルヴィア(26)
女給(不詳)
誠実で気高い女騎士。
誰よりも優しく、誰よりも不器用。
女給と兼ね役でお願いします。
ゼオルード
(226)
底知れぬ狂気を秘めた宰相。
冷酷且つ残虐な妖怪爺。
村人と兼ね役でお願いします。
道化&村人&父親
(不詳)

圧倒的モブ。
演じ分ける事が出来れば楽しいかもしれません。
父親は気弱な感じでお願いします。

ジーニアス
(17)
不問 『王の影』の異名を取る空虚な暗殺者。
『影』という実体化している分身を持つ。
すっごい喋るし叫ぶよ!!
ミシェル
(15)
質実兼備で心優しき美少年。
故人(詳しくは5話&6話を宜しくな!)。
出番少な目です。
民1&2&3
(不詳)
不問  皆さんで割り当てて下さい。


「風のシルヴィア(22)~影の光~」




とある暗殺者の葛藤の話。

今虚しいと思っている人に、

何か少しでも報われて欲しいと思って書きました。





( 夢の中 )

 

ジー:何時(いつ)からそう思ったのだろうか。

 

ミシ:何が?

 

ジー:僕は憎悪(ぞうお)(いだ)き続けながら生きるより、

   ただの機械である方が幸せだと確信したんだ。

 

ミシ:それは間違っていたのかい?

 

ジー: ……解らない。

   でもそれは、

決定的に何かを踏み外してしまうものだった。

 

ミシ:後戻りが出来ないって事?

 

ジー:そうさ。

   僕は(ただ)の暗殺者。

   どれだけ英雄視されても、

   もうそれだけは変わらない。

揺るがない事実なんだよ。

 

ミシ:だけど君は生きている。

   ジーニアス・フィール・トライダアト。

 

ジー: ……だけど君は死んでしまったね。

   ミシェル・フォン・フィーバストルテ。

 

ミシ:教えてくれ。

   君が本当に()したかった夢は、

何だったんだい?

 

ジー:僕が?

   僕が()したかった事……!?

   はっ、そんなの――。

 

 

( 間 )( 王都アイゼフィール:市井 )( ※出来ればひそひそ言って下さい )

 

 

民1:うう……。

ぐすっ……。

 

民2:おい、聞いたかよ?

   フェンシア様が戦死なされたって話。

 

民3:まさか!?

   有り得ないよ。

   あのフェンシア様が。

 

民2:だけどさぁ、

   (ただ)でさえ四面楚歌(しめんそか)のアイゼフィールだ。

   もしも事実だとしてもさぁ。

 

民3:公表することは無い……か。

 

民2:ああ。

   北の連中は随分と焦ってるって話だ。

 

民3:やれやれ。

エレナ様は引き(こも)っちゃったし、

   ガルフォード様は裏切るし。

   ……これじゃ、

この国も終わりだな。

 

民1:( 泣く )――。

 

民2:おい、

   泣くなよ。

   まだ四騎士(よんきし)が、

全部居なくなった訳じゃないんだからさ。

 

民1:違うよぉ……。

 

民3:ああ?

 

民1:ひい婆ちゃんが言ってたんだ。

   フェンシア様は優しかったんだって。

   だから独りが好きだったんだって。

   ……今ならそれが解る気がしてさぁ。

 

民2&3: ……。

 

 

( 間 )( 王城:掃き溜め通路 )

 

 

道化:トテテン♪

   トテツク♪

 

女給:あら、

   ごきげんよう。

   道化師君(どうけしくん)

   

道化:やあ♪

   可愛(かわい)女給(じょきゅう)さん。

 

女給:また素敵な創り(ばなし)を聞かせて?

 

道化:良いけど、

   サボってて良いのかい?

 

女給:良いのよ。

   私みたいな端女(はしため)

   誰も見向きもしないんだから。

 

道化:じゃあ、

ハーフエルフと孤独な老人の御話(おはなし)はどう?

   羊腸(ようちょう)可哀想(かわいそう)な物語。

 

女給:アハハッ!!

相変わらず悪趣味ねぇ。

 

道化:泣かせる自信はあるぜ~♪

   ベベベン♪

   

女給:そういえば、

そのフェンシア様が、

亡くなられたって本当かしら?

 

道化:ん~~?

 

女給:(しばら)く見ていないもの。

   あの人の綺麗な御顔(おかお)を見るのが、

大好きだったのに。

 

道化:ただの(うわさ)さぁ。

   本当ならベルホストの連中が、

放っておく(はず)ないよ~♪

 

女給:それもそうね。

   不安な事は考え無い様にしましょ。

 

道化:そ~そ、

さ~さ、

   仕事仕事。

   仕事へどうぞ~♪

 

女給:あら?

   恋の御話(おはなし)は?

 

道化:怖いお(じい)ちゃんがやってくる~♪

   怖い顔してやってくる~♪

 

女給:またまたぁ、

   そんな嘘吐(うそつ)いちゃって――。

 

ゼオ:( 被せる )何じゃ、

   近頃の王城勤(おうじょうづと)めは。

   ここまで寄っても気付かぬのか?

 

女給:ひっ!?

   ゼ、ゼオルード様!?

 

道化:やあ♪

   ゴラムザード(きょう)

 

ゼオ:もう良い、

失せよ下女(げじょ)めが。

 

女給:は、はいッ!!

 

ゼオ:どこから入り込んだかは知らぬが、

面妖(めんよう)道化(どうけ)め。

(わし)(みずか)らあしらってくれるわ。

 

女給:あのっ!!

   その子は決して悪い子じゃ――。

 

ゼオ:( 被せる )ああ?

誰に口を()いておる?

 

女給:いっ、いえっ!?

   申し訳ございませんでした!!

 

ゼオ: ……全く、

   招喚(しょうかん)を命じてはおったが、

   まさかその(よう)()りで、

(まぎ)れ込んでおったとはな。

 

ジー:やあ、

ゼオ(じい)

   良く僕が判ったね。

 

ゼオ:魂にこびりつく(けが)れは隠せん。

   (ゆる)みきった王城(おうじょう)においては特にな。

 

ジー:しかし、

その王城(おうじょう)閑散(かんさん)としてるねえ。

   民達(たみたち)も不安で仕方ないみたいだし。

 

ゼオ:やはり、

あやつの死はそれ程の衝撃か。

 

ジー:素知(そし)らぬでは通じないと思うけど?

   それとも本当に、

何も感じないとなるとぉ……。

いよいよもって枯れちゃったのかな?

 

ゼオ:たわけ。

良くもいけしゃあしゃあと。

貴様(きさま)がフェンシアを手引(てび)きした事は解っておるのだ。

 

ジー: ……あんたが死ねば良かったのに。

 

ゼオ:ハッ!!

   ……青いのう。

   やはりまだ小童(こわっぱ)か。

 

ジー:御蔭(おかげ)で僕まで悪役だ。

   これ程無念な事は無い。

 

ゼオ:だがそれで、

   宿願(しゅくがん)が叶うのではないか。

 

ジー:まあね♪

 

ゼオ:どちらに転んでも(はず)れ無き道とは、

如才(にょさい)()き男よ。

 

ジー:それでどうなんだい?

   首尾(しゅび)は。

 

ゼオ:さて、

   上手(うま)く創る他にあるまい?

   このままでは、

大駒(おおごま)が足りぬでな。

 

ジー:ガルフォードは強い。

   急がないと間に合わないってのに、

   君は随分と楽しそうだね。

 

ゼオ:(おう)よ。

   (いくさ)魔導(まどう)(まつりごと)

   飽きる程に喰らい尽くしたその果てに、

   ようやく己の願いが見えてきおった。

   その(よろこ)びが貴様(きさま)に解るか?

 

ジー:解るよ。

   僕と君は似た者同士なのだから。

 

ゼオ:フハハハ……!!

   まあ、待っておれ。

   すぐに死ぬ程使役(しえき)してやろう。

 

ジー:それは……楽しみだね。

 

 

( 間 )( アイゼフィール近郊:暁へ向かう道 )

 

 

シル:さて、

   もう少しでアイゼフィールだ!!

   ……ふふっ。

 

村人:おおい!!

   旅の御方(おかた)

   朝焼(あさや)けに(なに)をそれ(ほど)はしゃぎなさる!?

 

シル:えっ!?

   ……いえ。

   (なつ)かしくて、つい。

 

村人:アイゼフィールへと続く道が、

ですかな?

 

シル:私は長い間、

   この国の(ろく)()んでいた身ですので。

 

村人:ホッホ……。

やはり貴女(あなた)には、

この世界は狭過(せます)ぎましたかな?

 

シル:はい?

   

村人:ロヴェル団長に救い出され、

まるで幽鬼(ゆうき)(よう)にふらつく貴女(あなた)を、

クロウリへいざなったのは私です。

 

シル:貴方(あなた)は……。

 

村人:それがまさか、

   たった一年足らずで帰って来てしまうとは。

   風のシルヴィアここに(きわ)まれり、

ですかな?

 

シル: ……騎士とは祖国に忠誠を誓う者。

   たとえ裏切られても、

   傷ついても、

   逃げ出しても、

   最後には必ず戻ってきてしまう者なのです。

 

村人:へえ?

   僕はそうは思わないけどね。

 

シル:違いますか?

   ジーニアス、

   『王の影』よ。

 

ジー:それは(いぬ)の生き方だ。

   シルヴィア、

   君は(いぬ)か?

 

シル:そう呼ぶ人が居るのならそれでいい。

   それで私が変わるとも思わない。

 

ジー:( 満足そうに )――そう。

   君はそれでいいんだ。

   それでこそシルヴィア・シルフィードだよ。

 

シル:今ここに居る貴方(あなた)も、

   『 影 』なのですね。

 

ジー:その通り。

僕は判り易く言えば分身(ぶんしん)人間だ。

何処(どこ)にでも居るし、

実は何処(どこ)にも居なかったりする。

 

シル: ……何故です?

   貴方(あなた)はあの時、

その影で私を殺すことも出来た(はず)

   何故(なぜ)私を見逃したのですか?

 

ジー:見てみたかったのさ。

   たった一人の人間がどこまで足掻(あが)けるか、

   どこまで強くなれるのか。

 

シル:馬鹿げている……!!

   私にそんな価値等(かちなど)ありません!!

   貴重な影を()いてまで、

   貴方は何をしていたのですか!?

 

ジー:君が好きだからさ。

 

シル:なに?

 

ジー:君が僕等(ぼくら)を英雄視する(よう)に、

   僕達(ぼくたち)も君の事が大好きだった。

   ただそれだけの事さ。

 

シル: ……私はもう、

   貴方々(あなたがた)に憧れを(いだ)きません。

   ただ好きなだけです。

 

ジー:( 口笛 )――♪

やっぱり良い女だ。

   ガルフォードが一途(いちず)になるのも無理はない。

 

シル:話があるから私を待って居たのでしょう?

   ならば早く仰れば良いではないですか。

 

ジー:おお~~?

僕の扱いに慣れて来たねぇ。

 

シル:大事な話なのでしょう?

 

ジー:何故(なぜ)解る?

 

シル:闇の中で生きる貴方(あなた)が表に出てきたと言う事は、

   やはり平時(へいじ)では有り得ない事ですから。

 

ジー: ……(すべ)てを知った後で君が何を()そうと、

僕は君を応援する。

殺してくれても構わない。

 

シル:貴方(あなた)は……。

何を……。

 

ジー:ふふ……。

僕はね――?

 

 

( 間 )( 王城:誰も知らぬ部屋 )

 

 

ジー:本当にそんなことが出来るのか……!?

 

ゼオ:貴様(きさま)の影は実に見事な触媒じゃ、

   まさに万能(ばんのう)(うつわ)と呼ぶに相応(ふさわ)しい。

 

ジー:『(とき)(おきな)』にそう言われるのは光栄(こうえい)だけどさ、

   どうせ良からぬ(たくら)みなんだろ?

 

ゼオ:なに、

善悪(ぜんあく)択一(たくいつ)(たみ)の決める事よ。

   (まこと)弱者(じゃくしゃ)であれば、

   フフ……まあ否定はすまい。

   いや……させぬがな?

   フハハハ……!!

 

ジー:それで?

   君が僕から奪った影だけじゃ、

足りないって言うのかい?

 

ゼオ:念には念を入れておきたい。

   そこでどうじゃジーニアス、

   もう一体、

影を(わし)(ゆず)ると言うのは?

 

ジー:それはつまり、

   僕にそこまでさせる見返りがあるって事か。

 

ゼオ:最後に残った貴様(きさま)の影を用いて、

貴様(きさま)の最も愛する者を、

生き返らせてやろう。

 

ジー: ……何だって?

 

ゼオ:(わし)には貴様(きさま)渇望(かつぼう)が見えるぞ?

   人ならざる身で、

人の心を理解しようと足掻(あが)き、

   暗い水の底で(うずくま)(けもの)の姿がな。

 

ジー:どの(つら)をして救いを差し向ける?

その(みにく)くヒビ()れた(うで)で、

僕を(すく)い上げるというのか?

 

ゼオ:左様(さよう)

(わし)は悪魔に相違無(そういな)い。

   (ゆえ)にしっかと、

代価(だいか)(はら)って(もら)おう。

 

ジー:代価(だいか)

 

ゼオ:まずは影もう一体の(すみ)やかな提供。

   これは、

(くだん)の禁術の実験体にさせて(もら)う。

 

ジー:それから?

 

ゼオ:貴様(きさま)の魂の永劫(えいごう)束縛(そくばく)じゃ。

   最愛の者が(よみがえ)った途端(とたん)

反旗(はんき)(ひるがえ)されてはたまらんのでな。

 

ジー:その頃には、

僕は影を持たない(ただ)のアサシンじゃないか。

   (かま)わないでくれよ。

 

ゼオ:その技量(ぎりょう)はやはり()しい。

   この枯れ果てた老骨(ろうこつ)に変わり、

   死神の(かま)を振るって欲しいのじゃ。

   その命尽きるまで、な。

 

ジー:き・ち・く!!

 

ゼオ:フハハハ!!

   如何(いか)にも、

   如何(いか)にも……!!

   ……さて、

   貴様(きさま)に選ぶ余地(よち)があるかの?

 

ジー:ある訳無いだろう?

   僕に意味なんて無いのだから。

 

 

( 間 )( 夢の中 )

 

 

ジー:何が楽しくて生きていたんだろう……。

   何が楽しくて殺し続けて来たんだろう……。

   何が……。

 

ミシ:君の人生に、

本当に意味は無かったのかい?

 

ジー:僕は何でも出来る。

   楽器(がっき)一通(ひととお)()けるし、

言葉も色々話せるけどさ、

   そんなもの、

   人を殺す(ため)の道具でしか無かったんだ。

 

ミシ:でも家族は居たんだろ?

   それも意味は無かった?

 

ジー:家族……?

 

ミシ:君に()いたがっているよ?

 

ジー:ハン!!

どうせ本当の家族じゃない。

   あんなの、

好きでも何でもなかったさ。

 

ミシ:でもさ、

   彼の話も聞いてあげてよ、

   ジーニアス。

 

ジー:はいはい、

   聴くだけなら聴きましょう?

 

ミシ: ……。

 

父親: ……ジーニアス。

 

ジー:やあ、

父さん♪

 

父親:久しぶりだね、

   ジーニアス。

 

ジー:なんで……ああ、そうか。

ゼオ(じい)の実験の副作用、

ちょっぴりリアルな夢って所か。

 

父親:時間は無い。

だから最後にアサシンとして、

君に伝えておきたい事があるんだ。

 

ジー:それはそれは(笑)

   ()(ぼく)に対してねぇ。

今更(いまさら)届くとは思えないけれど、

どうぞ?

 

父親:トライダアト()は光と影、

   そのどちらも内包(ないほう)した(つと)めを持つ一族(いちぞく)だ。

 

ジー:ふうん?

 

父親:人々は我々を暗殺者として(おそ)れるが、

   それをお前が恐れる事は無い。

   何故(なぜ)ならば、

我々はこの国に必要な『英雄』なのだから。

 

ジー:トライダアト……古き国の四騎士(よんきし)……。

   1000年の伝統と誇り……。

   もう聞き飽きたよ。

 

父親:だが、

   どうしても(おのれ)(せい)に誇りを見い出せないのであれば、

   それもまた仕方が無い事だ。

 

ジー:じゃあ、

どうしろっていうんだよ?

 

父親:その時は自分の『 光 』を見つけなさい。

   命を()して、

この人を()()てる。

   陛下(へいか)でも如何(いか)なる貴人(きじん)でも無い、

   (おのれ)が信じた人の(ため)に『 影 』と()りなさい。

 

ジー: ――ッ!?

そんな生き方ッ!!

   あんたが僕に一番伝えたかったことがそれか!?

   あんたが見つけ出した『(こた)え』だってのか!?

 

父親:仕方が無い、

   我々はそういう存在だ。

   私も色々頑張ってみたが、

   やはりこういう(ふう)にしか生きられなかった。

 

ジー:あんたは、

   やっぱり死んだんだな?

 

父親: ……ああ。

   (すべ)ての()けの皮を()がされ、

   誰とも判らぬままに捨てられたよ。

 

ジー:情けないの。

   仕事が出来ない(やつ)は嫌いだね。

 

父親:( 達観 )――。

私はお前を『連れてきて』本当に良かった。

   お前が家に居てくれた、

   ただそれだけで闇の中を生きていける気がしたんだ。

 

ジー:僕は光なんかじゃない。

   血塗(ちまみ)れの、

   ただの壊れてしまった玩具(おもちゃ)だ。

 

父親:だが、

今お前は、

お前自身の『 光 』の為に生きている。

なら、

それで()いじゃないか。

 

ジー:()くないって。

   馬鹿親(ばかおや)

 

父親:その、

   父親らしい事は何一つしてやれなかったが、

   お前が悩んでくれる子に(そだ)ってくれて、

   嬉しかった。

 

ジー:なんだよそれ、

   アイゼフィールどころじゃない、

   世界が(ほろ)びるかも知れないってのにさ。

 

父親:大丈夫だよ?

   何時(いつ)だって今更(いまさら)だなんて言葉は存在しないんだ。

   誇り高く、

自分の道を歩みなさい。

   ジーニアス。

 

 

( 間 )( アイゼフィール近郊:希望へと続く道 )

 

 

ジー:それから……ええっと。

   なんだったっけ?

   ええっと……。

 

シル:ゼオルードとの密約(みつやく)

   夢の中での父君(ちちぎみ)との会話、

   それを私に話した意味。

 

ジー:そう!!

   そうだ、

   それを伝えなきゃ……!!

 

シル:何故(なぜ)……泣いているのですか?

 

ジー:えっ?

   あ、あれ……?

   変だな。

 

シル:誰の(ため)に涙を流すのですか?

 

ジー: ……僕は。

 

シル:はい。

 

ジー:僕はあいつが大好きだったんだ。

 

シル: ……はい。

 

ジー:守りたい友達が居た……!!

   たった一人しか居なかったけど、

   そいつの(ため)ならどれだけ手を(けが)しても!!

   (けが)れても傷ついても手足をもぎ取られても!!

   僕はどんなになっても(かま)わなかったのに!!

 

シル: ……。

 

ジー:それなのに!!

   なんで!?

   何であいつが死ななくちゃならなかったんだ……!!

   あいつを英雄にさせる(ため)なら、

   僕は喜んで(やみ)の中を生きたのに……!!

   だのになんで……なんであいつがぁ……!!

 

シル:自分を責めないでください。

   あの子も、貴方(あなた)も、

   きっと悪くない。

 

ジー:ハハ……!!

   ハハハハ……!!!

笑ってくれよ、

   シルヴィア。

 

シル: ……。

 

ジー:僕は(たと)え世界を犠牲(ぎせい)にしても、

   大事な家名(かめい)(どろ)()ってでも……!!

   僕はまた……!!

またあいつの笑顔が見たかったんだあぁぁぁぁぁ………!!!

 

シル:ジーニアス……。

 

ジー:( 泣く )――。

 

シル:それが……貴方(あなた)だったのですね。

 

ジー: ……ふふっ。

   そうさ、

無様(ぶざま)だろう?

 

シル:いいえ?

   とても綺麗(きれい)です。

 

ジー: ……。

 

シル:だって自分で決めた道じゃないですか。

   (つら)くたって、

   きっと楽しい事が待っているに違いありませんよ。

 

ジー: ……あいつの事、

   宜しく頼むよ?

   もうじき()の影から生まれてくる(はず)だから。

 

シル:はい。

   ではいずれ、

   相応(ふさわ)しい舞台で。

 

ジー:(まった)く、

   (やさ)しいんだか(きび)しいんだか。

 

シル:ふふっ、

楽しみにしています。

   (ふたた)貴方(あなた)(まみ)えるその(とき)を。

 

ジー:僕もさ、

シルヴィア。

最後に君と話せて良かった。

 

シル: ……さよなら。

   ジーニアス。

 

 

( 間 )( 王都アイゼフィール:繁華街 )( ※回想シーン )

 

 

ジー:きーめたっ!!

 

ミシ:何が?

 

ジー:今夜さ、

   海岸まで出かけてみないか?

 

ミシ: ……。

門限(もんげん)を守らないと、

父上(ちちうえ)(しか)られてしまうよ。

 

ジー:(しか)られたら死ぬのか?

   君の価値はそんな事で()がるのか?

 

ミシ: ……。

 

ジー:しっかりしろ、

   未来の大英雄(だいえいゆう)

   いじけた奴なんかには、

   誰もついてこないぜ?

 

ミシ:そうかなぁ?

   英雄たる者、

   (つね)規律(きりつ)鍛練(たんれん)を忘れるなって、

   父上(ちちうえ)が。

 

ジー:かぁんけぇい無いね!!

   だってそうだろう?

   親が決めた道を進んだら、

   きっとそれが当然(とうぜん)になっちまうよ!!

 

ミシ:( 悩む )――。

 

ジー:脳みそが(くさ)ってチーズになっちまう!!

   世界の終わりだ!!

 

ミシ:じゃあさ、

   ジーニアスは僕を(ゆる)してくれるの?

 

ジー:(ゆる)す!!

   (たと)え世界を敵に回しても、

ミシェルを(ゆる)(つづ)ける!!

 

ミシ:クス……。

解った。

   じゃあ行くよ。

 

ジー:よっし♪

   そうこなくっちゃ!!

 

 

( 間 )( 星の見える海岸線 )( ※回想シーン )( ※出来れば波の環境音 )

 

 

ミシ:砂浜……。

   本当に寝転ぶの?

 

ジー:(おう)とも!!

男と男の友情の(あかし)!!

   浜辺で星を見ながら語らうのだ!!

 

ミシ:うう、

   (きたな)い……。

 

ジー:よっと!!

……それで?

   (なや)みとかある?

 

ミシ:(なや)み?

 

ジー:うん♪

 

ミシ: ……僕さぁ。

   今度エルツィ傭兵団って所に行くんだ。

 

ジー:へえ!!

飛ぶ鳥を落とす、

試金石隊(しきんせきたい)か。

   確か黒騎士ロヴェル団長と、

一番隊隊長の……。

 

ミシ:シルヴィア・シルフィード。

 

ジー:ああ、

それそれ!!

(うで)()つが、

とびきりの美人(びじん)だって聞くな。

この(あいだ)凱旋式(がいせんしき)でも相当(そうとう)評判(ひょうばん)だったって。

 

ミシ: ……。

 

ジー:なに?

()れたの?

 

ミシ:あの人に振り向いてもらえたら、

   どんなに素敵(すてき)だろう。

   ……あの人を信じて、

   あの人に信じて(もら)えたら、

   どんなに幸せだろう。

 

ジー:だけど君は貴族(きぞく)だ。

   身分が違う。

 

ミシ:だったら何も()らない。

   僕はこの(けん)を彼女に(ささ)げる。

 

ジー: ……ま、

   それもお前らしいよ。

 

ミシ:どうして僕を(ゆる)してくれるの?

   まるで母様(かあさま)みたいじゃないか。

 

ジー:ミシェルの母君(ははぎみ)か。

一緒にたくさん遊んだな。

 

ミシ:あの頃は(みんな)キラキラしてて、

   とても楽しかったね。

 

ジー: …………あ!!

さ、さぁいしょはさ、

   ()らぬ(ぞん)ぜぬで通すんだぜ?

   生まれの高貴(こうき)さを存分(ぞんぶん)()りつけるんだ!!

   そんでお互い、

少しずつ距離を(ちぢ)めてってぇ――。

何?

 

ミシ:クスッ……。

 

ジー:何だよ。

 

ミシ:君が僕の幸せを願ってくれるように、

   僕も君に幸せになって欲しい。

 

ジー:はあ。

   そうですか。

 

ミシ:君に()えて僕は変われたんだ。

……君が居なかったら、

   僕は母様(かあさま)以外、

誰も愛せない人間に()っていたと思う。

 

ジー:あのね?

そういう台詞(せりふ)はさ、

   これから先に出逢(であ)う、

素敵な人の(ため)に取っときなさい。

 

ミシ:今ここで言いたいから言うんだよ。

   それだって僕の自由だし、

   こういう場所だから言えたんだ。

 

ジー: ……。

 

ミシ:今日は(さそ)ってくれて有難(ありがと)う、

   ジーニアス。

 

ジー:へいへい。

 

ミシ:君は僕に聞いて欲しい事、

   何か無いのかい?

 

ジー: ……いや。

何も要らない。

   ただこうやって、

ミシェルと星を(なが)めていたい。

 

ミシ: ……そっか。

   クスッ……。

   僕達には言葉なんて、

   最初から()らなかったね。




 
 
 
     
 
           
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