題名  公開日   人数(男:女:不問)  時間  こんな話  作者

 風のシルヴィア(23)~風の()いだ日~

2015/02/24  6(4:2) 30分

……俺の名前が言えますか?カミュ団長。

 ニコ

登場人物
(年齢)
性別 その他
シルヴィア(26)
リゼラ(25)
シルヴィアは気高くも優しい女騎士です。

リゼラは慈愛に満ち溢れた美人妻。
ミシェルの母親で故人です。
ミシェル
(17)
ミシェルは心優しい美少年です。
故人でしたが友人の御蔭で生き返りました。
カミュの息子です。
カミュ
(42)

高慢な貴族で剣の天才。
『王の剣』の異名を取る英雄。
※兼ねは無いですが一番難しいです。

騎士(18)
常連(27)
騎士は理想に燃える若者です。
世間知らずなヘタレです。

常連はただの飲んだくれです。
兵士(23)
主人(36)
兵士は騎士を見守る従者にして兄貴的な存在です。
主人は豪快な酒場のマスターです。

※おなじみ出番控えめ枠
傭兵(29)
ゼオルード(226)
傭兵はシルヴィアの元同僚で現実的なイケメンです。

ゼオルードは威厳と野心に満ちた宰相です。
老人ですが現役の武人でもあります。

※その他、亜人はやりたい方がやってください。

 殆どモンスターです。( 騎士の人以外で )


「風のシルヴィア(23)~風の凪いだ日~」




アイゼフィールが敵の猛攻に晒される中、

とうとうシルヴィアさんが祖国へ還ります。

皆さんお待ちかね屑親父の回です。





( アイゼフィール近郊:そよ風薫る田舎道 )

 

ミシ:シルヴィアさん?

 

シル:あっ!?

ああ……。

 

ミシ:どうしたんですか?

   疲れたのなら、

せめて木陰(こかげ)でも探しましょうよ?

 

シル:いや、その……。

   いまいち実感が()かなくてな。

 

ミシ:僕が生き返った事が、

   ですか?

 

シル:だってお前は、

   確かに私がこの手で……。

 

ミシ:ああ。

   後ろめたいんですね?

   あの時、僕の首を()ねた事がそんなにも。

 

シル: ……()まなかった。

 

ミシ:気にしないで下さい。

   黒き森で魔獣(まじゅう)()していた(ぼく)は、

   この世の(すべ)てを憎悪(ぞうお)して死んだけれど。

 

シル: ……。

 

ミシ:( 深呼吸 )――。

 

シル:ミシェル。

 

ミシ:今となってはこの青葉(あおば)の匂いも、

   シルヴィアさんの(にお)いも、

   全部(すこ)やかで大好(だいす)きです。

 

シル: ……言うべきことは、

   たくさん()(はず)なのに、

   (なに)も言葉に出来ないんだ。

 

ミシ:彷徨(さまよ)い続けたのはお互い様じゃないですか。

   (くろ)針葉(しんよう)孤独(こどく)なる(もり)

   欠片(かけら)の散らばる茫漠(ぼうばく)の世界、

   どちらも言い訳には充分ですよ。

 

シル:私を……。

(ゆる)してくれるのか?

 

ミシ:(  溜息 )――。

此方(こちら)へ。

   シルヴィアさん。

 

シル: ……。

   ――ッ!?

 

ミシ:どうか忘れないで下さい。

僕は貴女(あなた)に救われたんです。

   ……そして僕は、貴女(あなた)永久(とわ)味方(みかた)です。

 

シル:ミシェル……。

 

ミシ:それともこうやって、

   ただ()きとめるだけでは伝わりませんか?

 

シル:いや……ふふっ。

 

ミシ:クスッ。

 

シル:何時(いつ)()にか(おとこ)(うで)になっていて、

(おどろ)いたよ。

 

ミシ:ただいま。

   シルヴィアさん。

 

シル:おかえり。

   ミシェル。

 

 

( 間 )( 砂塵逆巻く戦場:『アイゼフィール』 対 『新生クロウリ』 )

 

 

騎士:ゼエッ……ゼエッ……!!

 

亜人:グフフ……!!

 

騎士:まだだ!!

祖国(そこく)(ため)に、アイゼフィールの(ため)に!!

   (かなら)ずやこの(いくさ)に勝利をもたらす!!

 

カミ:( ※ぶつぶつと呟いてください )嗚呼……。

   何だ、この規律も(ほま)れも無い野蛮(やばん)(いくさ)は?

   鉄の国アイゼフィールの名が聞いて(あき)れる。

   ……一体誰が指揮を()っているのだ?

 

兵士:ぐっ!?

   (あるじ)!!(あるじ)はいずこぞッ!?

   ……くそっ、見失っちまった!!

 

カミ:いや……?

そうだ、思い出したぞ?

   この戦場(せんじょう)の指揮者は私だ。

   亜人共(あじんども)結託(けったく)した、

ガルフォードの代替(だいたい)としてこの私が――。

 

騎士:( 被せる )行くぞ亜人共(あじんども)!!

   ハアッ!!

 

亜人:グルルル……!!

   グオオオッ!!

 

カミ: ……だが、何故(なぜ)だ?

   此処(ここ)が私の戦場(せんじょう)だと言う気がしないのは。

 

兵士:クソッ!!

   退()貴様等(きさまら)ッ!!

   砂塵(さじん)で敵も味方も判りやしねえ!!

 

カミ:クフフ…それも……。

   思案(しあん)無駄(むだ)、か。

 

傭兵:布陣(ふじん)(ほころ)んでいる……!!

   屈強な亜人を相手に、

   混戦となっては勝ち目など無いと言うのに!!

 

カミ:南の()()きは、

(すべ)てガルフォードが持っていきよった。

   私の元に残っているのは、没落貴族(ぼつらくきぞく)とその隷奴(れいど)

そして野蛮(やばん)傭兵共(ようへいども)しかおらぬのだ。

 

兵士:(なん)なんだこの(いくさ)は!?

さっさと(なに)をすれば良いか(めい)(くだ)せッ!!

うちの司令官は何をやってるんだ!?

 

カミ:いや……ならば私が……?

   だがそれでは……むう……。

   やはりそれは早計(そうけい)だ……。

   ( 独りでぶつぶつと呟く )――。

 

 

( 間 )( 塗れ行く大地、染まり行く空 )

 

 

騎士:ゼエッ……ゼエッ……!!

 

亜人:( 咀嚼 )――!!

   ガフッ!!

   ガフッッ!!

 

騎士:わ、(われ)こそはセレスタイト()家長(かちょう)!!

   ソラーナ・セレスタイト(なり)!!

   いざ尋常(じんじょう)に立ち会えッ!!

 

亜人:グル……!?

   グフフ……!!

 

騎士:う、うわあッ!?

   こ、こいつ、

人間を()ってる!?

 

亜人:グオオオォォッッ!!

 

騎士:ひいいぃぃ―――!?

 

カミ:( 被せる )ムンッ!!

 

亜人:グギャアッ!?

 

騎士: ………ッ!!

……え?

 

カミ:(くだ)らん。

   手こずる事すら難しい。

 

騎士:おお!?

た、助かりました!!

   カミュ様!!『王の(つるぎ)』よ!!

 

カミ:腰抜(こしぬ)けめが。

 

騎士: ……は?

 

カミ:( ぶつぶつと )やはりこれでは勝てぬ。

   そもそも何故(なにゆえ)

下賎(げせん)な者を(まも)るために、

この私の高貴(こうき)なる剣を振るう必要がある?

このフィーバストルテの剣を。

 

騎士:カミュ様!!

 

カミ: ……何だ?

   何か進言(しんげん)でもあるのかね?

 

騎士:自分は決して、

   腰抜(こしぬ)(など)では!!

 

カミ:そうか。

では無能(むのう)だな。

 

騎士:何ですと!?

 

カミ:亜人(ごと)きに(おく)れを取り、

   (しょう)(みずか)らに剣を取らせるとは、

   騎士の風上(かざかみ)にも置けぬではないか?

 

騎士:ぐっ……!!

 

カミ:使えぬのであれば、

せめて意地(いじ)を見たかったが、

   成程、セレスタイト()零落(れいらく)(うなず)ける。

 

騎士:貴公(きこう)は……!!

   この戦場でかつての仲間と殺し合い死んでいく配下(はいか)の事を、

   考えたことがあるのですか!?

 

カミ:ほざくなっ!!

何故(なぜ)この私が貴様等(きさまら)斟酌(しんしゃく)までする必要がある!?

(こま)は黙って(いくさ)を続けろ!!

 

騎士:もう……たくさんだ。

   折角(せっかく)勇気を出して出陣(しゅつじん)してきたのに……。

   こんなのは……あんまりだ。

 

カミ: ……待て。

何処(どこ)へ行くつもりだ?

 

騎士:此処(ここ)じゃない所へ。

   そうだ、(いえ)が良い。

   ……()()に帰るんだ。

 

カミ:敵前逃亡(てきぜんとうぼう)だと……!?

   信じられん、

   貴様(きさま)それでも騎士か!?

 

騎士:五月蠅(うるさ)いッ!!

 

カミ:むっ!?

 

騎士: ……成程(なるほど)

   私は(あさ)はかな人間です。

   ですが、なればこそ、

貴公(きこう)には良き(しょう)で居て欲しかった。

 

カミ:何ッ!?

私の差配(さはい)が気に()わぬと言うのか!?

 

騎士:せめて最後の時は愛すべき者の(そば)に居てやりたい。

   貴公(きこう)にとっては(ただ)の『御家(おいえ)』でしょうが、

   私には、そこには心から信じられる家族が居るのですから。

 

カミ: ……ッ!?

   クッ…クフフ……!!

何を……何を貴様(きさま)は……!!

 

騎士:残念です。

……貴公(きこう)にも、

   かつては豊かな家庭が()ったでしょうに。

   貴公(きこう)はそれを、(みずか)らの手で――。

 

カミ:( 被せる )(だま)れえええっッ!!

 

騎士: ……なッ!?

   ……ゴフッ!!

   何…を……!?

 

兵士:見つけた、(あるじ)よッ!!

……(あるじ)

( 剣を落とす )……馬鹿(ばか)な。

 

騎士:ゴボッ……!!

   ………。

 

カミ:ハアッ…ハアッ……!!

 

傭兵:団長……。

   あんた、気が……。

 

カミ:ええい、

黙れ黙れッ!!!

 

兵士: ……四騎士殿(よんきしどの)

 

カミ:何を突っ立っておる!?

   この無能(むのう)どもがッ!!

   さっさと敵陣(てきじん)()りかからぬか!!

 

兵士:御暇(おいとま)を願います。

 

カミ: ――ッ!?

馬鹿を言うな!!

 

兵士:自分はこれから、

(しゅ)訃報(ふほう)奥方(おくがた)御伝(おつた)えせねばなりません。

 

カミ:私がこの(いくさ)(あるじ)なのだぞ!?

   その私に逆らうのか!?

 

兵士:今しがたあんたが斬り殺した騎士様は、

   俺の主君(しゅくん)にして(とも)だった。

 

カミ:それがどうした!?

   貴様(きさま)躊躇(ためら)う理由にはなるまい!?

 

兵士:()(かた)(めい)ならば……!!

俺は喜んで(したが)っただろう……!!

   喜んで死んだだろう……!!

   だが……あんたは決して俺の(あるじ)じゃない……!!

 

カミ:いいやッ!!

   私に従え!!

私こそが(あるじ)なのだ!!

 

兵士:( 溜息 )――。

やれやれ。

   名前(なまえ)ばかりで、所詮(しょせん)はこんなものか。

 

カミ:なっ!?

   何ッ……!?

 

兵士:あばよ。

 

カミ:貴様(きさま)ッ!!

   ぐっ……!?

   ええい(はな)せッ!!

 

傭兵: ……俺の名前が言えますか?

   カミュ団長。

 

カミ:(なん)貴様(きさま)は!?

   何処(どこ)(うま)(ほね)だ!?

 

傭兵:( 苦笑 )――。

やはり(ぞん)じませんか。

俺はあんたが(ひき)いる、

エルツィ傭兵団の隊長ですよ。

 

カミ:だから何だと言うのだ!?

   何時(いつ)死ぬとも知れぬ傭兵風情(ふぜい)が、

(さか)しらに!!

 

傭兵:ロヴェル団長は、

俺達の一人々々(ひとりひとり)を理解しようとしてくれた。

   俺達がどれだけ(おさな)くて野蛮(やばん)でも、

   (ただ)(こま)だとは一欠(ひとか)けらも思わずに接してくれた。

 

カミ:あの反逆者にこの私が(おと)ると言うのか!?

   傭兵(ごと)きが四騎士(よんきし)である私に苦言(くげん)だと!?

   (はじ)を知れッ!!

 

傭兵: ……()()めました。

 

カミ:ああッ!?

 

傭兵:エルツィ傭兵団3000()

   (あつじ)を見失ったが(ゆえ)

戦場から離脱(りだつ)させて(いただ)く。

 

カミ:何だと!?

   お、おい待てッ!?

   待てと言うに!!

   ……ッ!?

   この奴ばらめがあぁぁ!!!

 

 

( 間 )( 落日の王都:アイゼフィール )

 

 

シル:嗚呼……!!

   アイゼフィールだ!!

   王都(おうと)アイゼフィールだ!!

 

ミシ:ええ……。

   とうとう此処(ここ)まで来たのですね。

 

シル:見ろ!!あのそそり立つ王城(おうじょう)!!

   歴代四騎士(よんきし)のレリーフ!!(はる)かなる凱旋門(がいせんもん)!!

   (すべ)て私達が守り抜いて来たものだ!!

 

ミシ:良かったですねシルヴィアさん。

   僕も嬉しいです。

 

シル:さてどうする?

   早速傭兵からやり直すのも手だが、

   何だか勿体無(もったいな)い気もするなぁ。

 

ミシ:アハハ……。

その……出来れば。

   ……何処(どこ)かで休みたいのですが。

 

シル:え?

……あっ!?

   おいっ、どうした!?

 

ミシ:いえ、お(かま)いなく。

   二足(にそく)で歩くのは久しぶりだったので、

   ちょっと疲れてしまいました。

 

シル:お前らしくも無い……。

   前ばかり見ていたから、

   気づいてあげられなかった。

 

ミシ:クスッ……。

だけど、この(ほう)が都合が良いです。

 

シル:何故(なぜ)だ?

 

ミシ:正体(しょうたい)を知られて困るのは、

お互い様でしょう?

 

シル: ……むう。

 

ミシ:そういうものです。

 

シル:むうぅぅぅ……!!

 

ミシ:( 棒読み )あー。

   風が気持ちいいなー。

 

シル:良しッ!!

   飲むぞミシェル!!

 

ミシ:ええっ!?

   まだ黄昏時(たそがれどき)ですよ?

 

シル:遠慮しなくても良いさ!!

   人間死ぬ時は死ぬし、

生き延びる時もまた(しか)り!!

   明日の事は明日考えれば良いのさ!!

 

ミシ:ううん……。

 

シル:それとも、

私の酒が飲めないのか?

 

ミシ: ……やれやれ。

シルヴィアさんと居ると、

   (すご)真面目(まじめ)不良(ふりょう)になりそうな気がします。

 

シル:アハハッ……!!

つい楽しくてさ。

迷惑をかけるね、ミシェル。

 

ミシ:滅相(めっそう)も無い。

   何処(どこ)までも御伴(おとも)しますとも。

 

シル:覚えているか?

   私達の馴染(なじみ)の店。

 

ミシ:勿論(もちろん)です。

   冒険者の(つど)う酒場。

   (みんな)の思い出の店、ですね?

 

 

( 間 )( 王都老舗:『『ディオールのラビリンス』亭 』 )

 

 

主人:へいらっしゃい!!

ようこそ!!

   『ディオールのラビリンス』(てい)へ!!

 

シル:主人(しゅじん)!!

   蜂蜜酒(はちみつしゅ)をくれ!!

 

主人:ハイよ!!

   (ぼう)やは何にするね!?

 

ミシ:かあぁぁのじょぉぉぉ!!

と、

おーなーじーもーのーをー!!

 

主人:了解、了解ッ!!

   フードを(かぶ)った謎の女と(すす)けたお子様、

ご来店ェェエン!!!

 

シル:悪いなァ!!

   不足分は上乗せするよぉ!!

 

主人:ウハハハ!!

(かた)い事は言いっこ無しだ!!

   好きなだけ飲んでいきな!!

 

シル:()のテーブルで良いかなーー!?

   誰か取ってるかーー!?

 

主人:好きに座りなぁ!!

   文句言う奴は俺がぶっ飛ばしてやるよ!!

   ウハハハ!!

 

シル:ふふっ。

相変わらず、

気取(きど)らぬ良い店だ。

 

ミシ:ええっと、

   メニュー――。

 

主人:( 被せる )へいおまちッ!!

   ( グラスを置く )――蜂蜜酒(はちみつしゅ)!!

 

ミシ:う……!?

 

常連:おい!!

   マスター!!

こっちもだ!!

 

主人:はいよぉ!!

ただいまぁ!!

 

シル:さぁて、

   何に乾杯する?

 

ミシ:で、では。

   コホン……この(みせ)()に。

 

シル:『ディオールのラビリンス』に?

 

ミシ:ええ。

それこそはまさに大昔、

土の神獣タイタニシアが創り出した迷宮の名です。

   ……違いますか?

 

シル:ふっ……。

   そこで冒険者をやっていた3人の子供に、

   竜騎士シルヴィアが出逢って、

   何時(いつ)しか『ディオールの四騎士(よんきし)』と呼ばれるようになった。

 

ミシ:そして僕達の祖先、

『古き国の四騎士(よんきし)』との戦いを経て、

   古き国はアイゼフィールへと生まれ変わる。

 

シル:ディオールの四騎士(よんきし)

暗闇(くらやみ)のロヴェルが王となり、

   古き国の御姫様(おひめさま)と結ばれる形でな。

 

ミシ:シルヴィアさんは、

   伝説の竜騎士に(あこが)れたから、

アイゼフィールへ来たのですよね?

 

シル:まあなぁ。

最初は(から)っぽだったが、

   (なん)だかんだで楽しい毎日だったよ。

 

ミシ:ではやはり、

   (すべ)ての始まりである()御名(みな)に。

 

シル:( 感心 )――♪

(まった)く、(たい)した切れ味だよ。

 

ミシ:せーのっ!!

 

シル&ミシ:乾杯(かんぱい)ッ!!

 

 

( 間 )( 満員御礼☆大盛況 )

 

 

常連:おい!!

   何だよぉ、

   その(ざま)はよぉ!?

 

傭兵:うるせえなぁ……ヒック!!

   放っといてくれよぉ……。

 

シル:ん?

 

常連:ひでえ負け(いくさ)だって聞いたけどよぉ、

   まだ全部終わった訳じゃ無いだろうがい?

 

傭兵:お前は良いよなぁ。

   こうやって酒に酔って、

文句を言ってりゃあ、

(すべ)てが終わっちまってるんだからよぉー。

 

シル:この声は……。

 

ミシ: ?

   どうかしましたか?

 

シル:いや……。

 

主人:まあまあ、

   そう荒れなさんな。

   今夜はツケといてやるからよ?

 

傭兵:ヒック……!!

   昔は良かったよぉ……!!

   ロヴェル団長もシルヴィアも居て、

   ミシェルに、ロミオに、

   ティオに、それからそれから――。

 

常連:( 被せる )わぁってるって!!

   お前よぉ、誇っていいぜ?

   全盛期(ぜんせいき)のエルツィ傭兵団ってのは、

そりゃあもうな、アイゼフィールの花形(はながた)だったからよぉ!!

 

傭兵:ヒック……!!

俺は可笑(おか)しいと思ったんだよぉ。

   2年前にミシェルが突然消えて、

   1年前に団長もシルヴィアも消えて、

   寄ってたかって俺達を捨て(ごま)にしやがって!!

 

主人:( 溜息 )――確かに、皆(そろ)ってたらなぁ。

   亜人なんかに遅れを取りはしなかっただろうなぁ。

 

傭兵:ケッ!!

   それが解散しちまったら世話も()ぇやい!!

 

シル: ……ッ!?

 

ミシ:止しましょう、シルヴィアさん。

   僕等(ぼくら)素性(すじょう)を明かしても、

   混乱させるだけです。

 

シル:あ、ああ……。

 

常連:ところでよぉ、

   無能(むのう)なカミュ様の代わりに司令官になった男、

   お前知ってっか?

 

傭兵:知るかよぉ……ヒック!!

今更(いまさら)そんなの、

……興味も無ぇや。

 

主人:ああそれな!!

ゼオルード様が拾ってきた、

無銘(むめい)の騎士だって聞くぜ?

   なんでも、『 (りゅう) 』と『 同化(どうか) 』の二重属性の(つか)い手だって。

 

常連:見た目はマディーンで戦死した、

   竜騎士シルヴィアにそっくりだってよ。

 

傭兵:竜騎士……?

シルヴィア……?

う……!!

   ( 慟哭 )うおおぉぉぉぉ……!!!

 

常連:ああ?

   ……ああ、はいはい。

   『シルヴィア』ねぇ。

 

主人:こりゃひでえや、

   ( 飲む )――ウエップ。

   ……相当深い傷みてぇだな。

 

ミシ: ……。

   あっ!?

 

シル:おい。

 

傭兵:うるせえっ!!

   放っといてくれ!!

 

シル:泣くなよ、

   グレン。

 

傭兵:気安(きやす)く呼ぶんじゃねえッ!!

   俺は泣く子も黙るエルツィ傭兵団隊長!!

   グレンゴル・ベルカッツィ様だ!!

 

シル:私だよグレン。

   シルヴィア・シルフィードだよ。

 

傭兵: ……へ?

 

主人:こ、こりゃあ……!?

忘れる訳も無ぇ!!

   その目の()めるような金髪碧眼(きんぱつへきがん)の女っぷりは!!

 

傭兵:う、嘘……。

   だろ……?

 

シル:嘘じゃない。

   私は確かにここに居るよ?

 

傭兵: ―――ッ!?!?!?

   ( 気絶 )――!!

 

常連:お、おおおいっ!?

 

主人:い、いやッ!?

   確かにそうだ!!

   あんたはシルヴィア・シルフィードだ!!

 

シル:ふふっ。

   存外(ぞんがい)気づかれないもので、

驚いたよ。

 

主人:だが何故(なぜ)だ!?

   あんたは獣王殺(じゅうおうごろ)しの大罪(たいざい)で、

処刑された(はず)じゃ……!!

 

シル:(すべ)て話すさ。

   だから其方(そちら)の情報も全部教えてくれ。

 

ミシ:( 溜息 )――。

仕方が無いなぁ、あの人も。

   本当に()()ぐで、綺麗(きれい)なんだから。

 

 

( 間 )( 王城:錆びついた牢獄 )( ※カミュの夢の中です )

 

 

カミ:う…うぅ……。

   何故(なぜ)…この私が……。

   こんな(きたな)らわしい牢獄(ろうごく)なんぞに……。

 

ミシ:父上(ちちうえ)

 

カミ: ……ッ!?

   ミシェル!?

 

ミシ:(そば)に行っても……。

いいですか……?

 

カミ:や、止めろッ!?

   私に近寄るなッ!!

 

ミシ:散々(さんざん)僕を利用しておいて……。

   良い父親ですね。

 

カミ:確かにお前は死んだのだッ!!

   私はジーニアスの持ち帰った、

()生首(なまくび)を見たのだぞッ!?

 

ミシ: ……クスッ。

 

カミ:ヒッ!?

 

リゼ:貴方(あなた)

 

カミ:リ、リゼラ……!?

 

リゼ:そうよ?

   貴方(あなた)の妻のリゼラよ?

 

カミ:う……うわあぁぁぁ!!?

   消えろ!!

   消えてくれッ!!

 

リゼ:どうして私を殺してしまったの?

   あんなに愛していたのに。

 

カミ:おっ、お前が亜人の血を引いていたからだッ!!

   お前が素性(すじょう)を隠していたのが悪いのだッ!!

 

リゼ:私を()いて……。

ミシェルを創って……。

   それでも貴方(あなた)は私を愛せなかったの?

 

カミ:当たり前だ!!

   (きたな)らわしい亜人共め!!

 

ミシ:コロスゾ?

   オマエ。

 

カミ:ううっ!?

 

リゼ:貴方(あなた)

 

カミ:くっ、来るなあぁぁ……!!

もう止めてくれえぇぇ……!!

   ( 泣く )……ククッ!!

   ウッ…ウウウッ……!!

 

リゼ:愛してるわ。

   貴方(あなた)

 

カミ: ……ッ!?

   ()(ごと)を言うなッ!!

 

リゼ:胸に手を当ててみて?

……貴方(あなた)が本当に欲しかったものは、

   そんな(から)っぽのお(うち)だったの?

 

カミ:黙れ黙れッ!!

   貴様等(きさまら)亜人の言う事なぞ聞く耳は持たん!!

 

リゼ:それでも良いわ。

   せめて貴方(あなた)の思い出に残れたのなら、

   私はそれだけで嬉しい。

 

カミ: ……何故(なぜ)だ?

   私はお前を殺した男だぞ!?

   そんな私に何を(さと)すつもりだ!?

 

リゼ:何も?

   ただ(やす)らかでいて欲しいだけ。

 

カミ: ……リゼラ。

 

リゼ:貴方(あなた)何時(いつ)も何かに(おびや)かされて、

   焦りっぱなしで、

   良く人を馬鹿にしたけれど。

 

カミ:()めろ……!!

 

リゼ:そういう人が居ても良いんじゃないかしら?

   だあって、こんなに広い世界ですもの。

   だからきっと大丈夫よ。

 

カミ:もう()めてくれ……!!

 

リゼ:貴方(あなた)のそう言う所が可愛(かわい)らしくて、

私はお金なんかよりも、もっと素敵な、

   貴方(あなた)の笑顔が大好きでした。

 

カミ:私は……本当は解っていたんだ。

お前がそう言う女だという事を。

 

リゼ:御免(ごめん)なさい。

貴方(あなた)は私が思うよりもずっと、

(ひと)りぼっちだったのね。

   ……もう少し上手(うま)くやってあげれば良かった。

 

カミ:私をッ!!

   どうかこの私をッ!!

 

リゼ:ええ、(ゆる)すわ?

   こんな私を(ひろ)って下さったのですもの。

   ……貴方(あなた)と過ごすことが出来て、

   私は心から幸せでした。

 

カミ:( 泣く )――うぅぅ!!

   ……ううぅぅ!!

 

リゼ:さよなら。

   貴方(あなた)

 

カミ:待ってくれ!!

   リゼラッ!!

 

ミシ: ……母様がお前を(ゆる)しても、

僕は絶対に赦さない。

 

カミ:ミシェルッ!?

   ミシェル、私は――!!

 

ミシ:( 被せる )聴きたくも無い!!

……お前は最低の四騎士(よんきし)だ。

   せいぜい誇りある末路(まつろ)(むか)えるが良い。

 

カミ:ま、待ってくれ、

   行かないでくれ、

   リゼラ!!ミシェル!!

   待て……!!待ってくれ……!!

 

 

( 間 )( 朝露の滴る闇の中で )

 

 

カミ:( ぶつぶつ )ってくれ……。

   私を…… てくれ……。

   ………。

 

ゼオ:おい。

   起きよ、カミュ。

 

カミ:う……。

 

ゼオ:起きぬか。

   カミュ・レーヴ・フィーバストルテ。

 

カミ:ゼオルード…様……?

 

ゼオ:(こと)顛末(てんまつ)は聞いておる。

   お(ぬし)には(はた)から期待はしておらなんだが……。

   (あわ)れよ。

此処(ここ)まで無様(ぶざま)(やぶ)れるとはな。

 

カミ:私は……。

()がフィーバストルテは、

どうなるのですか?

 

ゼオ:これで仕舞(しまい)じゃ。

   お(ぬし)(だい)で1000年の栄光(えいこう)も、

(はかな)()りおったわ。

 

カミ:ならば殺して頂きたい。

   味方の虜囚(りょしゅう)と成るは恥辱(ちじょく)

 

ゼオ:フハハハッ……!!

   成程(なるほど)な、いざとなれば、

『風の(やいば)』で如何様(いかよう)なりともなったであろうに。

   ……腐っても四騎士(よんきし)か。

 

カミ:フィーバストルテの当主(とうしゅ)として、

   せめて誇りある死を(たまわ)りたい。

 

ゼオ:気に入ったぞ。

   お(ぬし)(わし)と共に来ぬか?

 

カミ:は?

 

ゼオ:()の剣の腕が()しい。

   (わし)と共に新たな国を、

創造しようではないか。

 

カミ:まさか…貴方(あなた)は……。

   アイゼフィールに反旗(はんき)を……?

 

ゼオ:いや、()にあらず。

   かつて古き国がアイゼフィールへと変貌(へんぼう)したように、

   (いびつ)を元に戻したい。

   ただそれだけの事よ。

 

カミ:ですが……。

   私は……。

 

ゼオ:選べ小童(こわっぱ)

   このまま無能(むのう)烙印(らくいん)を押され、

歴史に埋もれ行くか……。

   それとも誇り高き英雄として伝承(でんしょう)()を残すか。

   ……どちらが良い!?

 

カミ:私は……。

   ………。




 
 
 
     
 
           
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