題名 |
公開日 |
人数(男:女:不問) |
時間 |
こんな話 |
作者 |
風のシルヴィア(24)~集う思惑~
|
2015/03/24 |
4(2:0:2) |
30分 |
俺一人が、俺一人で完結させた答えに何の価値がある?
それこそ現実から逃げているだけだ。
|
ニコ |
登場人物
(年齢) |
性別 |
その他 |
アーウィン
(30) |
♂ |
魔族の血を引く黒髪紫眼のイケメン。
元は傭兵団の団長でしたが色々あって今は商人をしています。
知的で人当たりも良いので人気者。 |
プーデット
(21) |
不問 |
語尾が特徴的な子豚系アイドル。
料理人を志し富豪の家を飛び出した夢見る少年。
皆大好きプー!! |
隊商
(59) |
♂ |
キャラバンの座主を務める盲目の老人。
元々は賞金稼ぎでしたが商才があったようです。
粗雑なようで思慮深く優しい人物。
|
道化
(17) |
不問 |
キャラバンの用心棒として参加した怪しげなピエロ。
正体は冷酷な暗殺者。例の四騎士の一人。
少年の未熟さと残酷さ、解き放つ。 |
「風のシルヴィア(24)~集う思惑~」
キャラバンに参加したアーウィンとプーデットは鉄の国へと向かう。
途中怪しげな老人と道化に出逢い一夜を過ごすが……。
シルヴィアさんは出てきません。男だけだと多少むさ苦しいかも。
( 国境の公路:気だるげな白昼 )
アー:( 独白 )今から何をすべきか……。
それを考えるのはしんどいし、
誰かに答えを訊くのはこっぱずかしい限りだが、
だからって逃げ出すのは、
死ぬより惨めな事だしなぁ。
プー:プゥ……プゥ……。
アー:( 疲れた様に )どうにも、暑いねぇ。
砂漠から、熱気まで、持ってきちまったかな?
プー:そんな事無いプー。
皆辛そうプー。
キャラバンも大変だプー。
アー:まあな。
変なのも居るしな。
プー:プー?
道化:トテツク♪トテツク♪
達者で何より、座主の爺様♪
隊商:さあて、何の事かな?
道化:眼が見えないのにその健脚♪
ほれぼれしますね、ヤルっすね♪
隊商:一応剣も使えるって事で雇ってやってるが、
口だけ達者な道化なら首にしちまうぞ?
道化:キャハハッ♪
首にされたら誰かが拾ってくれるかしら♪
オイラにそんな値打ちがあるのかしら♪
プー:ねえねえ、アーウィンさん?
アー: ……どうしたプーデット?
荷物が重いなら貨車に乗って良いぜ?
プー:そうじゃ無いプー。
アイゼフィールの事を聴きたいプー。
アー:自分の目で確かめろよ。
結局、鉄の国でレストランを開くことにしたんだろう?
プー:アーウィンさんはシルヴィアさんの元上司で、
鉄の国の事も良く知ってるプー。
アー:俺の色眼鏡に頼るな。
商人を志すなら、無知から総てを飲み込む気概も必要だ。
プー:プー……。
アー:まぁ、住むには良い所さ。
生きるにはしんどい場所かも知れないけどな。
プー:どういう意味プー?
アー:大人になれば解るって事よ。
プーもさっさと女でも抱いて、
醒めれる夢なら醒めちまいな。
プー:下品プー。
最低プー。
アー:ハハッ……!!
ハハハハ!!
( 間 )( 夜の森:炊煙の薫るテント群 )
プー:フンフンフ~ン♪
グツグツ、コトコト……♪
アー: ……。
隊商:おう、若いの。
ここに居たか。
アー:これはこれは……キャラバンの旦那。
一体何の御用で?
隊商:このテントが辺りで一番美味そうな匂いを漂わせていたんでな?
是非、御相伴に預かろうと思ったんだが。
アー:成程、流石。
眼が見えない分鼻が利くって訳ですか。
隊商:ワハハ!!
面目ない、たかりに来たぜ!!
プー:皆で食べた方が美味しいプー。
もうちょっとで出来るプー。
干し鱈のシチューだプー。
隊商:おぉ悪いな坊主。
そう言ってくれて、爺ちゃんも嬉しいよ?
アー:気にしないで下さい。
こいつはね?
人に振る舞うのが好きなんですよ。
その為に生きてるんです。
プー:プー♪
はくあいしゅぎだプー。
隊商:( 溜息 )――。
どっこらせっ……と。
まあ、やれや。
アー:これは重畳。
エントレアの酒ですか。
隊商:少し機会があってな。
随分と儲けさせてもらったよ。
何から何まで形尽くでな?
美人も多いし飯も美味い。
アー:俺もそっちを選べば良かったなぁ。
向こうじゃ、散々な目に逢っちまった。
隊商:その様だな。
お前さん方、マディーンからやって来ただろう?
プー:プー?
何で判るプー?
隊商:灼熱の砂の匂いがするからさ。
それに……血と闇の匂いもするな。
アー:俺はこう見えて元傭兵なんです。
昔は見た目よりもずっと野卑で、
したたかな人間だったんですよ。
隊商:おっとっと……( 酒を飲む )。
……で、何だ?
今は違うってのか?
アー:色々な奴等と出逢ってね。
隊商: ……ふうん。
アー:こんなんで良いのかなぁ?って、毎日思ってましたが……。
あいつと出逢ってからは、妙に納まりが良くなっちまってね。
今じゃこうして楽しく生きてますよ。
隊商:成程……俺も眼が見えなくなった頃は、
あいつへの復讐の事ばかり考えて生きてきたが、
最近になって、ようやく思い出せるようになってきたんだ。
アー: ――( 酒を飲む )。
そりゃあ一体、どんな宝物で?
隊商:家族の顔。さ。
アー:成程ね。
そりゃ何よりで。
隊商:ふふっ……。
プー:はい、どうぞお爺さん?
召し上がれプー。
隊商:おお、悪いな坊主!!
こいつは美味そうだ!!
プー:カヴァロさん直伝の料理だプー。
きっと幸せになれるプー。
隊商:( 汁をすする )――。
……うん!!
美味いな!!
坊主はきっと良い料理人になるぜ。
プー:プー♪
お腹一杯になってね?
隊商:鱈だけにってか!?
ワハハッ……!!
アー:俺は流石に食い飽きたが、まあ飽きたって事は、
お前に喰わせて貰ってるって事なんだろうな。
プー:プー。
れぱぁとりぃ増やすプー。
隊商:うむ、こいつは大したもんだ。
……坊主、名は?
プー:僕の名前はプーデット!!
鉄の国アイゼフィールでお店を開くプー!!
僕の料理で皆を幸せにするプー!!
アー:偉そうな事言うなってぇの。
またシルヴィアに逢えるかも知れないから。
って理由だろ?
プー:プー!!
シルヴィア・シルフィードは僕の女神様だプー!!
そんな俗っぽい言い方止めてプー!!
隊商: ……シルヴィア、か。
アー: ……ん?
道化:何ナニナニー!?
何美味しそうなお話してるんですかぁ!?
オイラも混ぜてーー!!
プー:プッ!?
ピエロさんプー。
隊商:( 舌打ち )――。
懐きやがって。
道化:嫌うの?
もしかしてオイラ、迷惑だった?
アー:寄っていきな。
酒も食い物もある、
誰も不機嫌じゃないさ。
道化:やったあああ♪
ねえねえ子豚ちゃん、シタール弾いてあげようか?
ナバージュの民直伝だよ~♪
上のコブが月の石なんだよ~♪
プー:あ~。
ギターみたいだプー。
道化:いにしえの楽器さ~♪
オイラの魅力でなんとか教えて貰ったのさ~♪
プー:ピエロさん器用だプー。
ウサギが跳ね回ってるみたいぷー。
道化:オイラの演奏で世界を幸せにするのだ~♪
ポロロン♪
プー:プー♪♪♪
おんなじプー♪
隊商: ……良い音を出しやがる。
アー:本物ですね。
月の民は一族にしか心を赦さない筈ですが、
大したもんだ。
隊商:お前さんの丁稚の料理と、あの道化の楽器と。
……こいつは想像が弾むな。
お前さんには何が在るね?
アー:俺ですか?
ふうむ、そうだなあ。
……同僚を家族扱いしちまう、
甘さしか在りませんかねぇ。
隊商:( 酒を飲む )……家族か。
俺だってお前等が家族だったらと思うが、
俺達はどこまで言っても他人だ。
血を分けてもいないし、血を受け継ぐ訳にもいかん。
アー:それに近い存在になら成れますよ。
現に俺はプーデットにも、シルヴィアにも幸せになって欲しいし、
随分と救われてます。
プー:楽しい音色プー♪
ぷわわぁ~ん♪
道化:子豚ちゃんの料理だって楽しそうな匂いさ~♪
オイラは何時だって楽しそうな所が好きなのさ~♪
アー:ふっ……。
道化:キャハハッ♪
キャハハハッ♪
キャハハハハッ♪
( 間 )( 深淵の覗く真夜中 )
アー:う……。
隊商:気づいたか、若いの。
アー:やれやれ……。
また、一服盛られたか……。
あの道化め。
隊商:そうそう機会があるもんじゃないが、
どうやらその様だな。
アー: ……ん?
プーデットは?
隊商:誘拐、だな。
アー:何だと!?
隊商:『影猫』め。
俺の首が欲しいのかと思ったが……どうやら、
最初からあの坊主が目当てだったようだな。
アー:くっ!!
隊商:止めときな。
追いつけるたぁ思っていまい?
アー:それでも追わねばならん。
友を見捨てるなんざ、屑のすることだ。
隊商:まあ聞け、老いぼれの戯言だ。
『王の影』を追いかけるのは、それからでも遅くはあるまい?
アー:『王の影』?
アイゼフィールの四騎士の一人だ。
そいつが何故プーデットを狙う?
隊商:ふふ……さあ、な。
あの坊主の御大層な実家から、
身代金でも踏んだくるつもり、かもな。
アー:何から何まで……。
そこまで調べ上げているなら、当然俺の事も知っているな?
邪魔立てするなら遠慮なく殺らせて貰うが?
隊商:それでも構わん。
惜しい命でも無い。
ただな、お前さんと俺は似た者同士だ。
ならば一つ、忠告をしてやろうと思ってな。
アー: ……似た者同士?
隊商:ああ。
俺達はシルヴィアなんて、とんでもない女と出逢っちまった。
アー: ……!!
( 間 )( 星空の街道を疾駆する影 )
プー:プウウウウウウ!!
降ろしてプウウウウウウ!!
道化:いやん♪
だめだめ駄目よん♪
ユーとオイラはこのままアイゼフィールへ直行なんだからッ♪
プー:僕が可愛いからって酷い事するつもりプー!?
道化:キャハハ!!
その通り!!
可愛い子豚ちゃんは、怖い魔法使いに食べられちゃうのだ♪
プー:嫌プウウウウ!!
誰か助けてええええ!!
アーウィンさぁん!!シルヴィアさぁん!!
道化:オイラの脚に敵う人間なんて居ないよ~ん♪
悪魔の血を引く元団長も、
龍の血を引く戦乙女も、
君を取り巻くこの世界も、
みいぃんな総て、滅び去るのさ♪
プー: ……。
道化:んん~~?
怖くて気絶しちゃったかな?
プー:僕は誰からも嫌われる様な事はしてないプー。
それでも君が僕を狙うのは、
それは君が何かに追い詰められているか、
傷ついているから、でしょ?
道化: ……さあ?
どうでしょう?
プー:ちょっと前までの僕は……。
誰かが幸せに成れるなら、
死んでも良いやって思ってたけど……。
今の僕には夢があるプー。
死にたくないプー。
道化:( 少し素に戻りながら )いや、駄目だね。
君は殺される。
可哀想だとも思わない。
プー:君、寂しい人?
道化:寂しくは無い。
僕は夢を叶えたんだ。
だから後は道化に徹するだけさ。
プー: ……お月様が綺麗だプー。
道化: ……何だって?
プー:君はこんなに急いで走り回ってるのに、
お月様はただ、ゆったりとそこに居るだけプー。
道化:イカれたのか!?
命乞いをしろ、泣き叫んで覚悟を決めろよ!!
プー:僕もお月様になりたかったプー。
皆をぽかぽか見守ってあげる、
お月様になりたかったプー。
道化:( 小声で )五月蠅い……!!
プー:ピエロさんは良い匂いがするプー。
きっと善い人だプー。
道化:五月蠅いッ!!
黙れ!!
プー:ぷぎゃっ!?
……痛々々。
道化:成程、お前はあの弟に似ている!!
だからなんだ!?
僕にお前を見過ごせとでも言うのか!?
今更!?
プー:ミルケットの事知ってるプー?
あの子は元気プー?
シルヴィアさんもアーウィンさんも、
教えてくれなかったプー。
道化:あいつなら死んだ!!
偽りの母親を好きだ好きだと、
最後まで嘯きながら!!
偽りの父親に噛み砕かれて死んだんだ!!
プー: ……え?
道化:お前が憧れる世界なんてこんなものさ!!
夢を叶える?やりなおす?
ハッ、冗談じゃない!!
一部の人間だけが死ぬ思いで手に入れる栄光を、
何でお前等みたいなムシケラが手に入れられると思うんだ!!
プー:そんな……ミルケット。
僕の料理……まだ食べて無いプー。
……涙が止まらないプー。
道化:ニャハハハ!!
良いぞ、ようやくボロボロになった!!
じゃあ良いよ、僕の手を汚したくは無かったんだけど、
君五月蠅いからもういいよ。
プー:プゥ……プゥ……!!
どうして世界はこんなにも残酷なの?
道化:さあ?
お月様に聞いて来れば?
プー:僕も殺すの?
道化:さよならプーデット。
愛しのシルヴィアに伝言は?
プー: ……。
( 間 )( 必要な戯れ言、狂わざる為に )
アー:あんたの眼を潰したのがシルヴィアだってのか?
隊商:ああ。
……もう13年も昔の話だ。
あいつは名も無き村で、父親と二人暮らしだった。
アー:あいつの過去は詮索したことが無い。
それがあいつの為だと思ったからだ。
隊商:お優しい事だな。
何か抱え込んでいるのは解っていたんだろう?
アー:シルヴィアは誇りの塊だ。
素性を隠したいと言うなら、そうしてやりたかった。
隊商: ……中々に偏屈な親子でな。
それをわきまえて、村の外れでこっそりと、養蜂を営んでいたが、
それでも村の連中からは、厄介者にしか扱われなかった。
アー:むごいな。
村人ってのはよ。
隊商:そうさ。俺の恨みにしたって、
結局はあいつ等の蜂共が暴走し、
村を滅ぼしただけのことだ。
あいつ等が総て悪い訳じゃ無いってのも判ってる。
アー:ようやくな。
隊商:だが赦せるか?
俺の家族は蜂の毒でドロドロに溶けて死んじまった。
俺が最後に見た光景はそれだ。
俺は一体誰を恨めば良かったんだ?
アー:その憎しみの御蔭で今まで生き抜いて来れたんだろうが!!
俺の部下をガタガタと苛めるんじゃねえ!!
隊商: ……。
アー: ……なんてな。
悟った爺様に何を今更って話だな。
隊商:いや、有り難い。
誰かの口からそれを聴きたかった。
俺一人が、俺一人で完結させた答えに何の価値がある?
それこそ現実から逃げているだけだ。
アー:もっと気楽に考えなって。
俺もたくさんの部下を死なせたが、
今まで一度だって、そいつ等に文句を言われた事が無い。
隊商:ふっ……実はエントレアに女が居てな。
俺の帰りを待っている。
アー:良い事じゃねえか。
せいぜい幸せになりなよ?
隊商: ……済まねえ。
アー:さぁて、じゃ……。
ここら辺でな。
隊商:あいつに関わるのは止めろ。
アー:んー?
隊商:人間を魅了し、人間を不幸にする。
最初は竜騎士シルヴィアの真似をしているのかと思ったが、
どうやらあれは、持って産まれたものらしい。
アー:だったらそれで良い。
俺が心底惚れ込めば良いだけの話だ。
隊商:出来るかねぇ。
今の其の境遇はやはり惨めだぜ?
エルツィ傭兵団元団長。
ロヴェル・バークライツ殿よ?
アー:俺は誰も恨んじゃいない。
それに、サゲマンにしたってシルヴィアは美人だ。
所詮男なんて、そんなもんだろ~~?
隊商:ワハハ!!
お前等の人生こそ、幸の有らん事を祈っているよ!!
アー:そりゃあどうも。
というより何だ、やはりシルヴィアはアイゼフィールに行くのか?
隊商:ああ、どうやらそうらしい。
本当は、あいつと殺し合うかどうかの瀬戸際だったんだが……。
お前さんと話せて俺も救われた様だ。
この銃とも、おさらば出来そうだよ。
アー:あんた、名は?
隊商:さあな。
もう二度と逢う事も無い老いぼれの名前なぞ、
覚えるだけ無駄ってなもんだろう?
アー:あ。
隊商:何だ?
アー:俺の名前はアーウィンだ。
ロヴェルじゃない。
隊商:へっ……そうかい、
じゃあとっとと行っちまいな、アーウィン。
愛しのアイゼフィール、サラの元へよ。
……達者でな。
アー: ……あいつの本当の名前、
『サラ』って言うのか。
どうにも先行きは解らんが、
運命に操られてる様な気がするねえ。
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