題名  公開日   人数(男:女:不問)  時間  こんな話  作者

 風のシルヴィア(25)~最後の四騎士(よんきし)

2015/04/13  6(4:1:1) 30分

千載一遇(せんざいいちぐう)。二度とはやらんぞ?

 ニコ

登場人物
(年齢)
性別 その他
シルヴィア
(26)
金髪碧眼の麗しき女騎士。
数々の冒険を経て英雄を滅ぼす程の力を得た。
優しくも気高い性格。
ミシェル
(17)
不問 鉄の国が誇る四騎士の一人。
将来を嘱望されていたが作中では一度死んでいる。
生き返った後はシルヴィアの友であることを誓った。
オーズィ
(31)

鉄の国アイゼフィールの王にして最後の四騎士。
決して無能ではないが世捨て人の様に振る舞う。
その為に他の四騎士からは愛想を尽かされている。

ゼオルード
(226)
圧倒的な魔力を持つ宰相にして四騎士の一人。
野心露わな危険人物。その性格は冷酷無比にして尊大。
出番少な目。
ピエトロ
(45)
鉄の国の近衛長。
忠勤な人物で公平に物を見る。
が、国王に対しては些か過保護の気がある。
近衛
(不詳)
モブ。出番少な目。 



「風のシルヴィア(25)~最後の四騎士(よんきし)~」





シルヴィアとミシェルは酒場で鉄の国アイゼフィールの現状を知った。

一方、余にも名高(なだか)い『暗君(あんくん)』であるオーズィは二人の接近を知り覚悟を決める。

一触即発の中、シルヴィアは己にしか出来ない事を悟る。





( アイゼフィール王城:厳かなる玉座 )

 

オー:( 独白 )世界はまるで、砕け散った硝子(がらす)の様だ。

   (うるわ)しい玉壁(ぎょくへき)(ほど)価値は無く、手に入れ(がた)欠片(かけら)(ほど)(あや)うい。

   だからこそ……()足掻(あが)く者に(あこが)れるのか。

 

ピエ:陛下(へいか)

 

オ: ( 何か呟いている )――。

 

ピエ:陛下(へいか)!!

 

オー:おお……どうしたピエトロ?

   ()が忠実なる近衛長(このえちょう)よ。

 

ピエ:喫緊(きっきん)()(ゆえ)

   ()近衛師団(このえしだん)をクロウリ方面(ほうめん)に向けよ。

との、ゼオルード閣下(かっか)(おお)せですが。

 

オー:王都を(から)にしてまでか?

ふむ……事態はそれ程までに深刻か。

 

ピエ:何を今更(いまさら)……ガルフォードの(ひき)いる亜人軍は、

   先の大戦(たいせん)で、カミュ様(ひき)いる南方軍(なんぽうぐん)圧倒(あっとう)したではありませんか。

 

オー:カミュ、か。

   (やつ)には(あわ)れな事をした。

   やはり『王の(つるぎ)』は、(さや)(おさ)めて置いてやれば良かったのだ。

 

ピエ:まるで空言(そらごと)(よう)に……!!

貴方(あなた)と同じ四騎士(よんきし)ならば、

   やはり何処(どこ)かが欠けていたのでありましょうな!!

 

オー:ううむ。諫言(かんげん)痛み入る。

   が、やはりそれ程の大事(だいじ)は本人の口から述べさせるとしよう。

 

ピエ:は?

 

オー:出て来いと言ったのだ。

   ゼオルードよ。

 

ゼオ:フハハ……御見事(おみごと)!!

 

ピエ: ……ッ!?

 

ゼオ:良くぞ見破られた。

   素晴(すば)らしき御慧眼(ごけいがん)ですな。

 

ピエ:ゼオルード……様……!?

   何時(いつ)()に!?

 

オー:たちが悪い。

   何時(いつ)から(のぞ)いていたのだ?

 

ゼオ:陛下(へいか)御心(おこころ)がさざ波立(なみだ)つと言うのであれば、

(かげ)ながら御見守(おみまも)りするのが、宰相(さいしょう)(つと)めにござる。

   さあ、忌憚(きたん)なく述べられよ。

 

オー: ……。

フェンシアの()らぬ世界とは、

   つくづく(むな)しい(もの)だと思ってな。

 

ピエ:なっ、()だその(よう)な事を!?

   この状況を理解していなさるのか!?

 

ゼオ:左様(さよう)にござるぞ?

『王の鍵』の名誉の戦死を、

国家滅亡(こっかめつぼう)遠因(えんいん)(はずかし)めるおつもりですかな?

 

オー:滅亡(めつぼう)か。

   ()いてしまえば(なん)のことは無い。

()が鉄の国アイゼフィールは、ここまで脆弱(ぜいじゃく)な国だったのだな。

 

ピエ:なればこそ、早急(そうきゅう)に手を打たねばならぬのです!!

   貴方(あなた)は国王ではありませんか!!

 

オー:おおそうか、指示であったな。

 

ピエ:そうですとも!!

 

ゼオ:お任せ願えますかな?

 

オー:うむ。

一任(いちにん)しよう。

 

ピエ:陛下(へいか)!!

 

オー:ピエトロよ、()には将器(しょうき)が無い。

   何せ一度たりとも戦場に立ったことが無いのだからな。

 

ピエ:しかし……私は。

 

オー:鬼手(おにて)が欲しいのであれば、

ゼオルードに(ほう)ってもらえ。

 

ゼオ:ふっ……流石(さすが)暗君(あんくん)

良く(わきま)えていなさる。

 

オー:()傀儡(くぐつ)()い。

   ……が、()わりに勝利をもたらせよ?

   この国を終わらせることは許さぬ。

 

ゼオ:無論(むろん)にございます。

   ()魂魄(こんぱく)(すべ)てを()け、アイゼフィールに再光(さいこう)を。

 

オー: ……ふむ。

 

 

( 間 )( 凶報続きの急報 )

 

 

近衛:( 息を荒げて駆けつける )―――!!

もっ、申し上げます!!

 

オー:おー。

   良き(しら)せであろうな?

 

近衛:えっ!?

 

オー:これ以上の凶報(きょうほう)()らんぞ?

   ()(きょう)じさせるのだ。

 

近衛:はっ、い、いえ……その。

 

ピエ:(はばか)るでない!!

   ()りのままを申せ。

 

近衛:ハッ!!

   『獣王殺(じゅうおうごろ)し』のシルヴィア・シルフィード、

   『王の(つるぎ)』、ミシェル・フォン・フィーバストルテ(きょう)

   行方不明になっていた両名(りょうめい)が只今帰還(きかん)しました。

 

ゼオ: ……ほう、二人(そろ)ってか?

   これはまた、剣呑(けんのん)じゃな。

 

オー:うん?

帰還と言う事は、

再びアイゼフィールに(つか)えると言う事か?

 

近衛:あっ、い、いえ、そこまでは(はか)りかねますが……。

   是非陛下(へいか)にお()いしたいと。

 

オー:どう見る、ゼオルード?

   ()はどう在るべきだ?

 

ゼオ:無碍(むげ)には出来(でき)ますまい?

   両名共(りょうめいとも)にこの国の『大事(だいじ)』を知っている人物。

   良からぬ醜聞(しゅうぶん)を流されては(こと)ですからな。

 

ピエ:シルヴィアは先の大戦(たいせん)の引き(がね)を引いた女です。

   その(よう)(やから)陛下(へいか)()わせる訳にはいきません。

 

近衛:し、しかし……!!

   既に城門(じょうもん)の前で一悶着(ひともんちゃく)あったらしく……。

 

ピエ:ならば尚更(なおさら)だ!!

 

近衛:いいっ!?

 

オー:いや、(かま)わんぞ?

(なに)宰相殿(さいしょうどの)丁重(ていちょう)にもてなせと(おお)せなのだ。

   存外(ぞんがい)、この窮状(きゅうじょう)打破(だは)するきっかけになるやも知れぬしな。

 

ピエ:何故(なぜ)です、ゼオルード様?

   我々の知らぬ(なに)かを、あの二人は知っていると言うのですか!?

 

ゼオ:貴様(きさま)には過ぎたる話じゃて。

それでも(なお)陛下(へいか)の身を(あん)じるのであれば、

自慢の近衛(このえ)(ひそ)ませておけ。

   奴原(やつばら)が信用出来ぬのは確かな事だ。

 

ピエ: ……良いでしょう。

ならば最上(さいじょう)の備えで陛下(へいか)御身(おんみ)御守(おまも)りします。

   おい!!

 

近衛:ハッ!!

了解であります!!

 

オー:いや、要らぬ。

 

近衛:了解です!!

   って、ええっ!?

 

オー:お前達も下がれ。

ピエトロ、ゼオルード。

 

ピエ:しかし……!!

 

ゼオ:宜しいのですかな?

   いずれも百戦練磨(ひゃくせんれんま)、ましてや『刺客(しかく)』とあらば、

これ(ほど)手練(てだ)れは()りますまい?

 

オー:良い。

()とて四騎士(よんきし)末裔(まつえい)だ。

   (おのれ)の身は(おのれ)で守る。

 

ゼオ:フハハ……!!

   これは(いさ)ましいですなぁ、陛下(へいか)

   白昼(はくちゅう)の悪夢から、ようやく御目覚(おめざ)めの(よう)だ。

 

オー:()方等(ほうら)(うで)の中が、余りにも心地良(ここちよ)くてな。

 

ゼオ:ファファファ……(なん)(なん)の。

流石(さすが)にこの()()には、(いささ)か重い揺り(かご)でしたぞ?

 

オー:失って判ることも()る。

   良き母親()わりであったが、

   やはり子供は自律(じりつ)せねばな。

 

ピエ:陛下(へいか)……。

   御立派(ごりっぱ)になられて……!!

 

ゼオ: ……フッ。

 

 

( 間 )( 王城:陽光と緑に包まれた城門前 )

 

 

ピエ:近衛長(このえちょう)ピエトロ・クラウーダだ。

   その方等(ほうら)陛下(へいか)(もと)まで案内しよう。

 

ミシ:お久しぶりです。

   ピエトロ殿(どの)

 

ピエ:ミシェル殿(どの)貴卿(きけい)が今まで何をしていたか()うつもりは無い。

   だが騎士として、今この国で何を()すべきか解っていような?

 

ミシ:勿論(もちろん)です。

   父が()とした家名(かめい)はこの手で立て直します。

 

ピエ:ならば()いのだ。

 

ミシ:宜しくお願いします。

 

ピエ:うむ、ではついて(まい)れ。

 

シル: ……。

 

ピエ:良いか?

くれぐれも粗相(そそう)の無い(よう)にな?

 

シル:( 小声で )まさか……そんな……。

   どうしてガルフォードが……フェンシア様が……。

 

近衛:おい!!

   聴いているのか、女!?

 

シル:粗相(そそう)とは……何だ?

 

近衛:何ぃ?

   貴様(きさま)、ピエトロ隊長に楯突(たてつ)くと言うのか!?

 

シル:言ってみろ。

   このシルヴィア・シルフィードが、

   陛下(へいか)御前(ごぜん)(なに)をしでかすと思ったのだ?

 

近衛:うっ……!?

 

シル:言えよ……!!

 

ピエ:何と言う殺気(さっき)だ……獣王を()ったというのも(うなず)ける……。

 

ミシ:クスッ……。

今の彼女は、きっと私よりも(はる)かに強いですよ?

 

ピエ:ミシェル殿(どの)……。

   この者は果たして信用できるのか?

 

ミシ:()家名(かめい)()けて。

   何、(かな)わぬとは言え、

いざと言う時は私も()めに入ります(ゆえ)に。

 

ピエ:そうか。

ミシェル殿(どの)がそう(おっしゃ)るのであれば。

 

近衛:うう……こ、これは……!!

大変な事になったぞ……!!

 

 

( 間 )( 忠義を裏切られた戦乙女は )

 

 

オー:良くぞ(まい)ったな。

   シルヴィア、ミシェル。

 

ミシ:御久(おひさ)しゅう御座(ござ)います、陛下(へいか)

 

シル:拝謁(はいえつ)(たまわ)り……恐悦(きょうえつ)(ぞん)じます。

 

オー:()い。

両名(りょうめい)、好きに(くず)せよ?

 

シル:では……。

   オーズィ・アイゼフィール陛下(へいか)

 

オー:うむ、どうした?

   シルヴィア・シルフィード。

 

シル:私の事を……覚えておいでですか?

 

オー:その美貌(びぼう)を誰が忘れる者か。

   そなたの前ではエレナも(かす)むぞ。

 

シル:貴方(あなた)はこの私に、(けん)(さず)けて下さいました。

 

オー:騎士の叙勲式(じょくんしき)、……か。

   まさか、あの(よう)結末(けつまつ)(いた)るとは思いもせなんだがなぁ。

 

シル:では……私のこの一年(いちねん)は?

   さまよい続けた私の一年(いちねん)御存知(ごぞんじ)ですか?

 

オー:無論(むろん)だ。

   この世はまさに、

面白(おもしろ)(はなし)こそ()(みち)てるべきなのだ。

 

シル: ――ッ!?

 

オー:密命(みつめい)により獣王を暗殺し、その事実を秘匿(ひとく)する(ため)に記憶を消され、

そのまま『処分』される(はず)が……。

   『(だれ)ぞ』の手引(てび)きで抜け出したのであったな?

 

シル:そうです……!!

   私が失ったものは記憶だけではありません!!

   地位や友や、たくさんの大事な物をすり減らして、

此処(ここ)まで生き延びてきたのです!!

 

オー:『風のシルヴィア』、鉄の国アイゼフィールを一周(いっしゅう)し、

王道楽土(おうどうらくど)帰還(きかん)する、か。

   庭も整わぬ(うち)から御苦労(ごくろう)(こと)だ。

 

シル:ならば問いたい……!!

 

オー:何かな?

 

シル:私がそこまでして()くしてきたアイゼフィールは、

   何故(なにゆえ)これ程の窮状(きゅうじょう)(さら)されなければ()らないのか!?

 

ミシ:シルヴィアさん!!

 

シル:(こた)えろ!!

貴方(あなた)(おう)として手を打ったのか!?

   祖国の(ため)に尽くしたのかッ!?

 

オー:こらこら。

()(だれ)心得居(こころえお)る?

 

シル:貴方(あなた)は……国王ではないですか!!

 

オー:違うな。

()はこの国の傍観者(ぼうかんしゃ)だ。

 

シル: ……(なに)

 

オー:()沿()わぬか。

ならば直截(ちょくさい)に……()暗君(あんくん)だ、

とでも言えば気が()むかね?

 

シル:だから何だ。

 

オー:この国は、まっこと面白(おもしろ)き国だぞ?

   見ていて飽きぬ。

 

シル:質問に答えろ……!!

 

オー:国土(こくど)深淵(しんえん)にして雄渾(ゆうこん)(なり)

   掘れば(ざい)(あふ)()し、(いど)めば宿敵(しゅくてき)が待って()る。

   (あまね)く英雄達は、(たみ)を良く守り、(した)われ、

   500年の伝統と文化は――。

 

シル:( 途中から被せる )――ッ!!!

 

ミシ:シルヴィアさん!?

   ……どうか陛下(へいか)抗弁(こうべん)を!!

   (いつわ)りでも()い!!

どうかシルヴィア・シルフィードに慈悲(じひ)の言葉を!!

 

オー:ふっ……罪人(ざいにん)に何を語ると言うのだ?

 

ミシ:陛下(へいか)!?

 

オー:成程(なるほど)、その憤怒(ふんぬ)はまさに道理(どうり)だ。

   さあ、その(けん)を振り下ろせ!!

   貴様(きさま)にはその資格がある!!

 

シル: ―――ッ!?

うおおおぉぉぉぉ!!

 

ミシ:陛下(へいか)ッ!!?

 

 

( 間 )( 其れは落涙か、騎士の誇りか )

 

 

オー: ……。

 

シル:( 荒い息から途中で泣き出す )

フッ……!!

   フウッ……!!

   ウウウウゥゥ……!!

 

オー:何故(なぜ)だ……。

 

シル:( 泣き続ける )――。

 

オー:何故逸(なぜそ)らせた?

 

ミシ:玉座(ぎょくざ)が……。

 

シル:私は……!!

   私は………!!!

 

オー:千載一遇(せんざいいちぐう)

二度とはやらんぞ?

 

シル:わたくしとて……この様な狼藉(ろうぜき)……!!

二度とは……二度とは……!!

 

オー:( 溜息 )――。

女が涙で語る時、男に()があるのは自明(じめい)だが。

   ……そなたから流れ出る()れは、

まるで瑠璃(るり)(よう)だな。

 

シル:申し訳……ありません……!!

   陛下(へいか)ッ……!!

 

オー:そうか、(あま)りの(うるわ)しさ(ゆえ)失念(しつねん)していた。

 

シル:( 泣き続ける )――。

 

オー:シルヴィア・シルフィードとは、

忠勇無比(ちゅうゆうむひ)の、騎士の(かがみ)であったな。

 

 

( 間 )( 夜の王城:貴賓室 )

 

 

ミシ:( ノックの音 )。

 

シル:誰だ?

 

ミシ:僕です。

   眠れないので少し話しませんか?

 

シル:入ってこい。

   私も考え事をしていた。

 

ミシ:お邪魔(じゃま)しまぁす。

   ……泣いてたんですか?

 

シル:何だか良く解らないがそうらしい。

 

ミシ:大丈夫ですか?

 

シル: ……さあな。

 

ミシ:う……うわー。

   良い部屋ですねー。

   陛下(へいか)御配慮(ごはいりょ)に感謝しなきゃー。

 

シル:しかし、(みょう)()()きになったものだ。

 

ミル:陛下(へいか)近衛(このえ)拝命(はいめい)したのが不服(ふふく)ですか?

   いえ、確かに乱暴な儀礼(ぎれい)でしたが。

 

シル:違う、そうじゃない。

   私のこの一年(いちねん)(かえり)みていた。

 

ミル:ああ……( 励ますように )何を今更(いまさら)ッ!!

   (うらや)ましい限りじゃ無いですか。

   冒険、冒険、冒険の日々。

   シルヴィア・シルフィードは(すで)絵本(えほん)の人です。

 

シル: ……たくさん殺してきたんだ。

   (ゆる)しを()い、迷って、また舞い戻って来て。

   馬鹿みたいだ。

 

ミシ:馬鹿にされるのが嫌で生きてきた訳じゃ無いでしょう?

 

シル:そうだな。

   負けず(ぎら)いだが、そこまで小さくは無いと思う。

 

ミシ:自分を()めてあげて下さい。

   シルヴィアさんは勇気を出してここまで来たんですから。

   (えら)いですよ。

 

シル:こんなに迷いっ(ぱな)しの私がか?

 

ミシ:誰だって同じようなものです。

 

シル:はっ……!!

ようやく仲間が出来た気がするよ。

 

ミシ:えっ?

 

シル:私は(こころ)何処(どこ)かで、夢を叶える為には(ひと)りで戦い続けなきゃいけない。

   ……そういう(のろ)いを(おのれ)()していたんだ。

 

ミシ: ……。

 

シル:きっと、自分に(きび)()ぎたんだな。

 

ミシ:クスッ……。

   シルヴィアさんの(ゆめ)って、

結局(なん)だったんですか?

 

シル:さあ?

ただがむしゃらに走って、走って……。

   とどのつまりは、私はただの女だったのかもしれないな。

 

ミシ:良いじゃないですか、女でも騎士でも。

   それでもシルヴィアさんの味方(みかた)は、

この世界にたくさん()るんですから。

 

シル:そうかなぁ?

 

ミシ:そうですよ!!

 

シル: ……陛下(へいか)にはああ言ったが、

記憶を無くして良かった。

 

ミシ:どうして?

……ですか?

 

シル:御蔭(おかげ)で人に(すが)ることを覚えた。

   ……皆の事をもっと知りたいと思えた。

 

ミシ:成程(なるほど)

僕達は……誰かと話をする(ため)に生きているのかも知れませんね。

 

シル:きっとそうだよ。

どれだけ(よわい)を取っても、人と関わる事を()めてしまったら、

   それはもう人じゃ無いんだな。

 

ミシ:シルヴィアさんは綺麗(きれい)ですよ!!

 

シル:『 まだ 』、だろ?

 

ミシ:そんなこと無いですってば!!

 

シル:お前もまだ子供だなぁ。

 

ミシ:もうッ!!

   すぐ忘れちゃうんだからなあ。

 

シル:ふふっ……。

さて、これからどうする?

   ()がアイゼフィールは風前(ふうぜん)(ともしび)だが。

 

ミシ:( 溜息 )――足掻(あが)くなら(なん)とします?

   外は四面楚歌(しめんそか)

   (うち)には最凶(さいきょう)宰相(さいしょう)が一人。

 

シル:犠牲(ぎせい)は少ない方が良い。

 

ミシ:では……やはりそうする事にするんですね?

 

シル:あの男が考えている事は、きっと人間のそれじゃない。

   国が(ほろ)びるにしても、その夢だけは絶対に叶えさせやしない。

 

 

( 間 )( 陛下☆出撃 )

 

 

オー:( 小さく )ふんふんふんふふーん♪

 

ミシ:( 被せて )何か聞こえませんか?

 

シル:ん?

   これは……誰かが近づいてくる……。

 

オー:( 段々大きく )ぬぅぅぅおぉぉぉぉぉ!!

 

ミシ:嫌な……予感が。

 

オー:( 勢い良く扉を開けて )――しゅわっちッ!!

シルヴィア!!

   酒飲(さけの)もうぞ!?

 

シル:なっ!?

 

ミシ:陛下(へいか)!?

 

オー:( 酔っ払い )ヒック……!!

   なんだバカヤローこのやろー。

 

ミシ:お()め下さい陛下(へいか)!!

   シルヴィアさんも()るんですよ!?

 

オー:んあ~?

   いや、そういえば……。

そもそも(なん)でお前がここに()るのだ?

 

ミシ:あっ。

   い、いえ……その。

 

オー:あーーーー!!

   お前等(まえら)そういう(なか)かよお!?

 

ミシ:違いますってば!!

 

シル:あのぅ……。

 

オー:ん?……ヒック!?

   どうしたシルヴィア?

 

シル:いえ、それは此方(こちら)台詞(せりふ)なのですが……。

 

ミシ:とほほ……。

   ばれちゃいましたか。

   (じつ)は、これが陛下(へいか)()なんです。

 

シル:そんな……!!

 

オー:ひゃっ、ひゃっ、ひゃっ!!

   まあ、()いではないか!!

   (しゃく)でもせい、シルヴィア。

   パアアッとやろうぞ!?

 

ピエ: 陛下(へいか)アアアァァァ!?

   お休み前のミルクの時間ですぞおおお!?

 

オー:むっ!?

   いかん!!

 

近衛:陛下(へいか)!!

   こんな所にいらしたのですか!!

 

シル:こんな所とは(なん)だ!!

   ずけずけと貴様等(きさまら)!!

 

ミシ:シルヴィアさん!!

   そこじゃないです!!

 

シル:ヒック……。

 

ミシ:えっ!?

   あっ……お酒。

 

オー:ひゃっ、ひゃっ。

   行ける(くち)ではないかシルヴィアよぉ。

   愉快(ゆかい)愉快(ゆかい)

 

ピエ:いけませぬ陛下(へいか)!!

   寝る前の飲酒(いんしゅ)は睡眠を(あさ)くしますぞ!?

 

近衛:もういい!!

   このお酒は私が個人的に処分します!!

 

オー&シル&ピエ:たわけっ!!

 

近衛:ぷぎゃっ!?

 

オー:一度飲んだからにはとことん酔うのだ!!

( 謳う様に )夢日頃(ゆめひごろ)一夜(いちや)出逢(であ)いこそ万物(ばんぶつ)至宝(しほう)なり。

   いわんや酒に酔い、女に(おぼ)れ、

   (なんじ)酔狂(すいきょう)(きわ)めつつ、

星を愛する(わらべ)であれ!!

 

ミシ:良く()まずに言えますね……。

 

オー:エルジュ(しん)、最高ォォォ!!

 

シル:おい、ヒック……!!

一介(いっかい)近衛(このえ)よ。

 

近衛:えっ?

   ふぁっ……ふぁい。

 

シル:お前は陛下(へいか)の本質が斯様(かよう)なものだと知った(うえ)(なお)

陛下(へいか)忠誠(ちゅうせい)(ちか)えるのか?

 

近衛:それは……微妙ですが。

 

オー:おいっ。

 

近衛:可愛(かわい)い人だと思います。

   だって、妖怪爺(ようかいじじい)英雄達(えいゆうたち)と、口うるさい世話係(せわがかり)に囲まれて、

   それでも馬鹿(ばか)を演じているのですから。

 

シル:うむ、(じつ)にそうだな。

   見ていて飽きぬぞ?

 

オー:うーわ。

 

ミシ:クスッ。

 

ピエ: ……あっ!?

   陛下(へいか)、こんな時に言うのも何ですが、

   私共(わたくしども)が留守の(あいだ)、くれぐれも深酒(ふかざけ)はなさらぬように、

   くれぐれも休肝日(きゅうかんび)を作り、適度な睡眠を――。

 

オー:( 被せて )解っている。

   平民出(へいみんで)(わり)真面目(まじめ)(やつ)だ。

 

ピエ:その私に近衛長(このえちょう)(くだ)さったのです。

貴方様(あなたさま)酔狂(すいきょう)中々(なかなか)でしたぞ?

 

オー:()のこれはフェンシアの真似事(まねごと)だ。

   それにお前を信任(しんにん)したのは、

それがアイゼフィールの(ほう)だからだ。

 

ピエ:ならば祖国(そこく)に感謝をしなければ。

   (なに)も持たぬ()の身には、

まるで過ぎたる栄誉(えいよ)でした。

 

オー:()めんか。

今生(こんじょう)(わか)れでもあるまいに。

 

ピエ:いえ……ふふっ。

   世話が焼けましたかな?

 

ミシ:ピエトロ殿(どの)……。

 

オー:あー……もう良い、(しら)けた。

今宵(こよい)(だま)って部屋に帰るとしよう。

 

シル:陛下(へいか)

 

オー:うん?

 

シル:やはり私は近衛(このえ)辞退(じたい)します。

 

近衛:なっ!?

   陛下(へいか)御厚意(ごこうい)なのですぞ!?

 

ピエ:我等(われら)前線(ぜんせん)に立つのが(いや)なのであれば、

   それ相応(そうおう)配慮(はいりょ)はしてやるが?

 

シル:いえ。

きっと私にしか出来ない事があって、

   誰にも理解されなくても、やらなければならない事が()る。

   その事に気付いたんです。

 

オー:やれやれ……そなたらしい。

あくまで(つらぬ)くは(とうと)(やいば)、か。

 

ミシ:僕はシルヴィアさんについていきます。

   だから此処(ここ)でお別れですね、陛下(へいか)

 

オー:ふふん。

友誼(ゆうぎ)(ため)か、愛の(ため)かは知らぬが、

   (かつ)ての物言(ものい)わぬ人形(にんぎょう)が、

随分と人間らしくなったことだな。

 

ミシ:それは陛下(へいか)だって同じでしょう?

 

オー:まだまだ、足掻(あが)き足りぬぞ。

   この世の(すべ)てを見尽(みつ)くすまでは死ねぬわ。

 

ミシ:クスッ……。

 

シル:では陛下(へいか)()()(ざま)御了承(ごりょうしょう)下さい。

 

オー:うむ、(ゆる)す。

   存分(ぞんぶん)()()るが()い。

 

シル:()(がた)(しあわ)せ。

 

オー:ところで。

 

シル:はっ。

 

オー:今宵程度(こよいていど)客人(きゃくじん)として(ぐう)されろよ?

   長旅(ながたび)の疲れ(など)とは言わぬ。

そなたの祖国は(まぎ)れも無く此処(ここ)なのだからな。

 

シル: ……貴方(あなた)名君(めいくん)です。

   最後の四騎士(よんきし)出逢(であ)えて……。

この国に(つか)えることが出来て……。

   私は幸せでした。

 

オー:ふむ……最後の四騎士(よんきし)、か。

   ……果たしてそれで()めば()いがな。




 
 
 
     
 
           
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