題名  公開日   人数(男:女:不問)  時間  こんな話  作者

 風のシルヴィア(26)~月光(げっこう)

2015/04/28  6(3:1:2) 30分

運命に足掻(あが)いた貴方(あなた)だからこそ、私は――。

 ニコ

登場人物
(年齢)
性別 その他
シルヴィア
(26)
見目麗しい金髪碧眼の女騎士。
龍の血が入っている為、怪力で戦好き。
作中で言及されるプーデットとは3話から続く友人関係。
ミシェル
(17)
不問 『四騎士』という名門貴族の御曹司。
かなりの美少年で天才剣士。
ジーニアスとは親友の間柄。
オーズィ
(31)

鉄の国アイゼフィールの国王。『四騎士』の一人。
才能豊かだがゼオルードに傀儡として飼殺されてきた。
出番少な目。

ゼオルード
(226)
野心溢れる同国の宰相。『四騎士』の一人。
シルヴィアとは彼女が幼少の頃に面識がある。
出番少な目。
ピエトロ
(45)
平民出から近衛長に上り詰めた忠勇と努力の人。
自分を見い出してくれた陛下の事が大好き。
※後半はジーニアスの変装なので別人格です。
演じ分けてみてください
ジーニアス
(17)
不問 『王の影』の異名を取る諜報・暗殺専門の『四騎士』。
ゼオルードの奴隷となる事で死んだミシェルを生き返らせた。
空っぽの心を道化を演じる事で隠している。



「風のシルヴィア(26)~月光(げっこう)~」





シルヴィアとミシェルは騎士の職を辞し、四面楚歌の祖国を自分達なりに救おうとする。

一方、国王オーズィと近衛長ピエトロは宰相ゼオルードの野望に気付いていた。

そして、ゼオルードは市井に潜むシルヴィアに最強の刺客を放つ。





( アイゼフィール王城:朝露のエントランス )

 

ピエ:では陛下(へいか)……。

   行って参ります(ゆえ)

 

オー:()かろう。

近衛師団(このえしだん)(すい)()せてやれ。

 

ピエ: ……本当によろしいのですか?

   陛下(へいか)をこの王都に残して、

   我々は一体、誰を(まも)れると言うのですか?

 

オー:何故(なぜ)躊躇(ためら)う?

   武人(ぶじん)が戦場へ(おもむ)(ほま)れが、それ程(まで)()(がた)いか?

 

ピエ:貴方(あなた)は解っている(はず)だ。

   ゼオルード様はきっと貴方様(あなたさま)を……いや、きっと、

   私の思う限りでは他の方々も……。

 

オー:止めろ。

   貴様(きさま)の口から讒言(ざんげん)は聞きとうない。

 

ピエ:どうか自棄()を起こさぬように……。

   (たと)四面楚歌(しめんそか)王城(おうじょう)とは()え、

   (うち)に味方の()らぬ牙城(がじょう)とは云え、

   陛下(へいか)陛下(へいか)です。

   無闇(むやみ)やたらに(がい)されはしない(はず)――。

 

オー:( 被せる )行けピエトロ。

これは(めい)だ。

 

ピエ:はっ……はい。

 

 

( 間 )( 王城:宰相の執務室 )

 

 

シル:( ノックの音 )――。

 

ゼオ:誰かな?

 

シル:シルヴィア・シルフィードです。

   城を退去する御挨拶(ごあいさつ)(うかが)いました。

 

ゼオ:おお、『サラ』か、待ち()びたぞ?

   (はよ)(はい)って参れ。

 

シル: ……失礼します、ゼオルード様。

 

ゼオ:( 忙しそうに )――いや、困りものよ。

   ファファッ……。

   末期(まつご)に至っても(わし)を頼って来る者が絶えぬでな。

 

シル:それは素晴らしい。

   長年(ながねん)国の為に(つか)えてきた証左(しょうさ)ですね。

 

ゼオ: ……ふふ。

さて、遊ぶか。

 

シル:貴方(あなた)はアイゼフィールの宰相(さいしょう)です。

どうか彼等(かれら)の期待に(こた)えてやって下さい。

 

ゼオ:んん?

   お(ぬし)の友の、弟を喰い殺した張本人が此処(ここ)()るのだぞ?

   遺恨(いこん)を晴らさずとも()いのか?

 

シル:貴方(あなた)()なければ……今の私はありませんから。

 

ゼオ:カッ、拍子抜(ひょうしぬ)けじゃて。

もそっと(たけ)ってくれるものと期待しておったのじゃがな。

 

シル:あの村で龍の血を下さった貴方(あなた)御蔭(おかげ)で、

それが例え貴方(あなた)酔狂(すいきょう)だったとしても……。

   私は此処(ここ)まで生き抜いて来ることが出来たのです。

 

ゼオ:黙れ小娘。

   悋気(りんき)(はな)たずして何が人間か。

   誰が人を名乗れるか。

 

シル:ふっ……私は騎士でした。

   下野(げや)に降りてから貴方(あなた)を殺すのが礼儀です。

 

ゼオ:そうかぁ……?

ならば吐露するがな。

   存外、国と()う物は創り上げるより、

壊す方が労苦(ろうく)が多い物じゃぞ?

   いや、想えば感慨深いか……。

 

シル:()めて見せます。

   ()が命を賭けて。

 

ゼオ:律儀者(りちぎもの)め。

   それはもはや忠義では無く執着に過ぎぬと知れ。

 

シル:仕方無い。

それでも私はこの国が大好きなんです。

   では、『(とき)(おきな)殿(どの)

 

ゼオ:( 満足そうに )………おう。

   (わし)も楽しみにしとるよ。

 

 

( 間 )( アイゼフィール市内:朝紛れの蕭々たる広間 )

 

 

ミシ:どうでしたかシルヴィアさん?

   ゼオルード様との謁見(えっけん)は。

 

シル:ああミシェル。

無事に(つと)めたよ。

 

ミシ:人が()いなぁ。

 

シル:まあな。

 

ミシ:本当に良かったんですか?

   いくら不死身(ふじみ)のゼオルード様でも、僕達二人掛(ふたりが)かりなら(ある)いは。

今後まみえる機会があるかどうかも判らないのに……。

 

シル:真面目(まじめ)が一番だよ。

 

ミシ:えっ?

 

シル:失敗しても後腐(あとぐさ)れが無い。

   誰に責められる筋合(すじあい)も無い。

 

ミシ:()えて市井(しせい)()と成りますか。

   しかしゼオルード様の事です、

   きっと追手を差し向けている(はず)ですが……。

 

シル:ああ、さっきから五月蠅(うるさ)いのはそれか。

 

ミシ:えっ!?

   あっ…いや……。

 

シル:露払(つゆはら)御苦労様(ごくろうさま)

   ちゃんと気を付けているよ。

 

ミシ:さ、流石(さすが)ですねぇ。

   まるで何事(なにごと)も無かったかのように。

 

シル:誰かさんの御蔭(おかげ)で数が減っていたからな。

 

ミシ:それにしても!!

白昼(はくちゅう)から骨騎士(ワイト)をけしかけてくるとは豪勢です。

   闇夜(やみよ)のそれとは格段に戦闘力が落ちると言うのに。

 

シル:あの(おきな)にとっては私達等(わたしらなど)

暇潰しに過ぎないのかもな。

 

ミシ:片手間(かたてま)って事ですか?

 

シル:このまま攻め続ければ体力が尽きると踏んでいるのだろう。

   小娘(こむすめ)小僧(こぞう)のそれと小馬鹿(こばか)にしてるに決まっている。

 

ミシ:クスッ。

   では隠れる場所が必要ですね。

 

シル:良い場所があるのか?

 

ミシ:ええ。僕達の(あこが)れの人の家。

アイゼフィールで一番高潔で安らかな場所です。

 

シル:家……まさか。

 

ミシ:(しば)し別れるのは危険ですが、

渡りをつけるなら僕一人の方が良いでしょう。

   シルさんは少なからず遺恨(いこん)がありますし。

 

シル:解った。

   ここで待って()るとしよう。

 

 

( 間 )( 不安に照らす紫陽が沈む刻 )

 

 

シル: ……遅い。

   もう夕暮れじゃないか。

 

ピエ:おおぉい!!

   シルヴィア殿(どの)!!

 

シル:ん?

 

ピエ:私だ!!

   わ・た・し!!

 

シル:ピエトロ近衛長(このえちょう)……?

 

ピエ:( 走り疲れて )良かったッ!!

   探したんだぞ!?

 

シル:私を……?

   それより貴方(あなた)は戦地へ()った(はず)では?

 

ピエ:それが……!!

   それが……くっ!!

 

シル:どうしたんです?

 

ピエ:陛下(へいか)が暗殺されたのだ!!

 

シル:なっ!?

 

ピエ:私は、やはり陛下(へいか)を見捨てられなんだ。

   出陣の振りをして私だけが城内に忍び、

ゼオルードの動向を(さぐ)っていたのだが……。

 

シル:どうして……陛下(へいか)が……!!

 

ピエ:幔幕(まんまく)から突如(とつじょ)現れ、

陛下(へいか)に親しげに話しかけたあの少年が、

   あんなにも無邪気に人の首を()()るだなんて!!

   一体誰が予測出来るというのだ!?

 

シル:少年……まさか!!

『王の影』か!!

 

ピエ:嗚呼、(やつ)めはゼオルードの(がわ)に立ったのだ!!

   私は烈火(れっか)(ごと)(いか)り、奴原(やつばら)の腹をかっさばき!!

同じ様に()(くび)()り取ってやったぞッ!?

 

シル: ……。

 

ピエ:そして肉を幾寸(いくすん)にも斬り刻み、踏み(にじ)り!!

   噴き出す血潮(ちしお)を存分に(すす)り!!

   数多(あまた)英傑(えいけつ)がそうするように首級(しゅきゅう)天高(てんたか)(かか)げ!!

 

シル: ……貴様(きさま)

 

ピエ:そう!!私は叫んだのだ!!

   叫んだんだよシルヴィア!!

   『どうか神様、御赦(おゆる)し下さい!!』

   『僕はこんなにも罪深(つみぶか)罪人(ざいにん)です!!』

   『人間が大好きなんです!!』ってさ!!

 

シル:ジーニアス!!

陛下(へいか)に何をした!!

 

ピエ:見ろよ!!

   この首を!!

 

シル:ひっ!?

 

ピエ:そうだッ!!

   お前の大好きなプーデットちゃんの生首(なまくび)だよ!!

   腐りかけ豚の首さッ!!

 

シル:あ、嗚呼ッ……!!

 

ピエ:そぅらっ!!

   受け取れッ!!

 

シル:ぐっ!?

   う……うああああああ!!

 

ピエ:ひゃひゃひゃっ!!

   ひっ……ひひひっ!!

   ( 狂気 )――――!!!!

 

シル:プー……デット……!!

   そんなッ……!!

   プーデット……!!

 

ピエ:ちょっと()きたいんだけどさ、シルヴィア。

 

シル:プー……!!

 

ピエ:( 此処から段々若々しい声になっていく)

君にとって価値のある首って、

   陛下(へいか)の首とこの豚の首とぉ……。

   どっちぃ?

 

シル:( 悲しく抱きかかえている )――。

 

ピエ:たくさんの兵士が前線(ぜんせん)で死んでるって言うのに、

   流す涙はその子豚(こぶた)ちゃんの(ため)だけなのかい?

 

シル:プー……デット……は。

 

ピエ:んん~?

 

シル:夢ばかり追いかけて……!!

(みんな)の為に幸せを投げ捨てて……!!

 

ピエ:ぶえっくしッ!!

   ふがふが。

   ……脱ぐかこれ。

 

シル:それでもまだ、誰よりも優しくて、

(ひと)りで生きていく強さを持っていた……!!

 

ジー:んー……だから(なに)ぃ?

 

シル:プーデットは!!

誰よりも幸せにならなきゃいけなかったんだぞ!?

 

ジー:あはっ、そうだ!!

   彼から君へ、

伝言を預かってたんだ。

 

シル:ああ……?

 

ジー:『(みんな)大好きプー』……だって(笑)

   自分の(ため)に生きれない奴なんて、

   所詮(しょせん)こんな()まらない言葉しか残せないよね。

 

シル:きっさまああぁぁぁぁ!!!

 

ジー:おおっと!?

……ふふっ!!

   ()い顔!!

 

シル:貴様(きさま)は殺す!!

   ジーニアス・フィール・トライダアト!!!

 

ジー:踊れ踊れ♪

   どうせ間も無く(みんな)御仕舞(おしまい)なのだから♪

 

 

( 間 )( 王城:御創り手の覚悟 )

 

 

ゼオ:陛下(へいか)、少々宜しいですかな?

 

オー:うむ、()いぞゼオルード。

   とうとう反旗(はんき)(あら)わにするのか?

 

ゼオ:左様(さよう)

 

オー:左様(さよう)ってお前……。

 

ゼオ:貴方様(あなたさま)には早急(さっきゅう)に王城から退去して(いただ)く。

 

オー:約束はどうした?ん?

   その魂魄(こんぱく)を懸け、何が何でも国を(まも)るのでは無かったか?

 

ゼオ:今更(いまさら)何を。()生涯(しょうがい)

この恩国(おんくに)(ため)存分(ぞんぶん)(むく)いて来たではありませぬか。

 

オー:では問おう。

   お前の目的とやらは何だ?

   数多(あまた)犠牲(ぎせい)の果てに夢見る理想は(なん)だと言うのだ?

 

ゼオ:これはこれは……。

陛下(へいか)御聡明故(ごそうめいゆえ)、とっくに察しておるものと思っておりましたが。

 

オー:まあな。だが()にも解らぬ事がある。

   それを成して貴様(きさま)に何が在る?

   お前は一体何者なのだ?

 

ゼオ:私は私です。

   この国を愛し、ただ一つの願いの(ため)(すべ)てを(つい)やす。

   (あわ)れな()()に過ぎませぬ。

 

オー: ……(みな)お前に育てられたと言うのに、

   (なん)とも(むご)い親が居たものだ。

   幹が腐ったと豪語(ごうご)するのであれば(くだ)くより他は無いな。

 

ゼオ:(わし)()めると申すか?

   オーズィ・アイゼフィールよ。

 

オー:ああ、自分でも不思議だが。

(みな)が国の(ため)に戦っている。

   何も()しくは無いな。

 

ゼオ:フッ……では。

……来るがいい。

 

 

( 間 )( 静かなる闇の中に一輪の灯は咲いて )

 

 

シル:はああっ!!

 

ジー:ふっ!!

 

シル:ぜえっ……ぜえっ……!!

 

ジー:どうだい、史上最強の『 影 』と名高(なだか)い僕の動きは!?

   本気を出せば君の剣なんて止まって見えるよ!!

 

シル:速い……!!

   くっ、闇夜(やみよ)でなければまだ追えると言うのに。

 

ジー:この舞台はゼオ(じい)膳立(ぜんだ)てしてくれたんだ!!

   中々(なかなか)に優しい鬼畜(きちく)じゃないか!!

 

シル:そうか、そういうことか!!

   ぐっ!?

 

ジー:そうらっ!!

 

シル:ぐぁっ!?

 

ジー:ひゃひゃひゃ!!

捕まえてごらんなさーい!!

 

シル:ならば!!

 

ジー:むっ!?

   ……(なん)真似(まね)だいシルヴィア?

 

シル:お前を殺すくらい、素手(すで)でも訳は無い。

 

ジー:剣を捨て身軽になったって訳かい?

   僕さぁ、一応飛び道具も持ってるんだけど?

 

シル:使いたければ使うが良い。

   使い切るまでな。

 

ジー:かっくいぃぃ。

   どうせ龍の血の御蔭(おかげ)ですぐに治るんだろうけど。

   ん~~、どうしよっかな~?

 

シル:さあどうする!?

   徒手空拳(としゅくうけん)(おんな)を前に、

   むやみやたらに(たわむ)れるのが『王の影』か!!

 

ジー: ……(まった)く、本当に(やす)っぽい。

   その扇情的(せんじょうてき)な姿が(あか)りに照らされてなきゃ、

とっくに飽きて帰っちゃう所だよ。

 

シル:もし預けると言うのであれば、

今度はこの私が刺客(しかく)になるぞ!!

 

ジー: ……何?

 

シル:友の(かたき)だ!!

   例え草の根を分けてでも貴様(きさま)を探し出し、

   その喉笛(のどぶえ)()千切(ちぎ)る。

   必ず、何年かけてでも!!

 

ジー:はっ!!

……君が言うとらしく聞こえるねぇ。

   そうか、成程(なるほど)。それは困ったな。

 

シル:躊躇(ためら)うな。

 

ジー:んー?

 

シル:まさに私達に相応(ふさわ)しい舞台じゃないか。

   (にく)しみ()るに()る舞台だ。

 

ジー: ……まあね。

 

シル:あの時見せた貴方(あなた)の心は本当だった。

   だからもう、私は貴方を疑いはしない。

 

ジー:御人好(おひとよ)し!!

 

シル:さあ、どうか迷い無き()(さき)を!!

   私も言葉より、この想いで貴方(あなた)に語りたい!!

 

ジー: ……ぷすー。

   はいはい、解りましたよ。

   もうッ!!

 

シル:ははっ……!!

 

ジー:古き国が四騎士(よんきし)、『王の影』!!

   ジーニアス・フィール・トライダアト!!

   いざ参る!!!

 

シル:(おう「)よ!!

   獣王殺(じゅうおうごろ)しの大罪人(たいざいにん)!!

   シルヴィア・シルフィードが受けて立つぞ!!

 

ジー: ……。

 

シル: ……。

 

ジー: ……行くぞッ!!

 

シル:はあっ!!

   ……ぐっ!?

 

ジー:絶空(ぜっくう)……。

   ()が最速の一撃、闇すら払う音無(おとな)しの剣。

   (なんじ)()怨嗟(えんさ)(くろ)双刃(そうは)(きざ)むべし。

 

シル:なんだと……!?

(おと)(あと)から()いてきた……!?

 

ジー:素晴らしいねぇ。

   とっさに首を(まも)らなければ君は死んでいた。

 

シル:練りに練ったアサシンとしてのスキル。

貴方(あなた)は一体……何処(どこ)まで真面目(まじめ)に生きて……。

 

ジー:言葉は不要。

   あとは殺し合うのみ。

 

シル:はっ!?

 

ジー:さあ()ずは足を奪った!!

   いよいよ首を()()るかッ!?

 

シル:首……。

   首……?

 

ジー:行くぞシルヴィア!!

   ヒュッ!!

 

シル:成程(なるほど)……こうか?

 

ジー:( なっ!? )

 

シル:さあ、()ってみろよ。

   ジーニアス。

 

ジー: ――ッ!?

   うおおおおお!!

 

 

( 間 )( 道化の意地 )

 

 

シル:ふふっ……。

日和(ひよ)ったな。

 

ジー: ……君を相手だ。

   次は腕を(もら)おうと思っていたが、

   あそこまで綺麗(きれい)白筋(しらすじ)を魅せられてはね。

 

シル:真面目(まじめ)が一番さ。

 

ジー:どうやら、そのようで。

   ……ぐっ!?

 

シル:捕らえたぞ。

 

ジー:痛うっ……!?

ああ、そうだな……君の勝ちだ。

 

シル: ……。

 

ジー:どうしたんだ?

   早く心臓を(えぐ)()せよ。

 

シル:(なに)か、変えられたのでしょうか?

 

ジー:ああ?

 

シル:私が……私がもう少し上手くやっていれば、

色々な運命を変える事が出来たのでしょうか?

 

ジー:あのさあ……。

今からボコろうっていう17のガキにそんなこと言う?

 

シル:貴方(あなた)だからこそです。

   運命に足掻(あが)いた貴方(あなた)だからこそ、

   私は――。

 

ジー:じゃ、もう一刺(ひとさ)し行きますか。

 

シル:え?

 

ジー:フンッ!!

 

シル:うっ!?

   ……そんな、(なに)を!?

   自分の腕を斬り落とすだなんて!!

 

ジー:僕は初めて世界に反逆したんだ!!

 

シル:ジーニアス……!!

 

ジー:とても清々(すがすが)しかったよ!!

   (ひと)りぼっちで、アサシンとして、

   何時(いつ)まで()っても道具(どうぐ)だった僕が初めて手に入れた自由!!

 

シル:それは何だ!?

 

ジー:君との決闘、さ。

 

シル: ――ッ!?

 

ジー:君の殺し方は決まっていたが、

   僕はそれよりも自分の殺し方を優先したんだ。

 

シル: それが……貴方(あなた)の命の(ほこ)りなのですね。

 

ジー:僕と踊ってくれるだろう?

   シルヴィア。

 

シル:勿論(もちろん)です。

 

ジー:それでいい。

   だから好きなんだよ。

 

シル:行くぞッ!!

 

ジー: ……どこからでも。

 

シル: ……でぇやああぁぁ!!!

 

ジー:( 途中から被せる )――ふっ。

 

 

( 間 )( 世界を踊り果て、少年は瞼を閉じた )

 

 

シル:ぜえっ……ぜえっ……!!

 

ジー:( 虫の息 )――。

   ガハッ……ゴボッ……!!

 

シル:( 介錯をしようとしている )……ッ!!

 

ミシ:シルヴィアさん?

 

シル: ――ッ!?

   ミシェル……。

 

ミシ:これ……は?

 

シル: ……()まない。

 

ミシ: ……ジーニアス。

 

ジー:ゴブッ……!!

   グブッ……!!

 

ミシ:僕だよ。

   ミシェルだよ?

 

シル: ……。

 

ジー:ミシェ…ル……?

 

ミシ:うん。

   僕はここに()るよ?

 

ジー:はは……相変(あいか)わらず…人形(にんぎょう)みたいだな。

 

ミシ:ああ、そうなんだ。

   どんな顔をすれば()いのか分からないんだよ。

 

ジー:(ちが)ッ……ゴホッ……!!!

   (まった)く……。

 

ミシ:行かないでくれ、ジーニアス。

   もっと君と話したい、色んな所へ行きたい。

   ……君とまた遊びたい。

 

ジー:ご…めん。

 

ミシ:え?

 

ジー:ミシェルの……騎士になりたかった……。

   どんな事があっても……(まも)り抜く……。

   この命を…懸けて……。

 

ミシ:もう救ってもらったよ。

 

ジー: ……?

 

ミシ:ジーニアスはあの黒い森へ、

わざわざ僕を救いに来てくれたじゃないか。

   それに、こうして僕を生き返らせてくれた。

   こんなに()い友達、この世界に居るもんか……!!

 

ジー:はっ……。

 

ミシ:( 泣く )――。

 

ジー:泣くなよ。

 

ミシ:無理……!!

 

ジー:唇を……。

 

ミシ: ……えっ?

 

ジー:()いから。

   (いじら)らせろ。

 

ミシ:むぐっ――!?

 

ジー:( 吹き出して笑う )――!! 

   ……よし…これで()い。

 

ミシ: ……?

 

ジー:これで笑顔(えがお)だ。

 

ミシ:( 泣き笑い )――何が……!!

   ……ッ!?

 

ジー: ……。

 

ミシ:ジーニアス……!!

 

 

( 間 )( 素敵な少年のたった一つの宝物 )

 

 

シル:私を好きにしろ。

 

ミシ:何をするって言うんです?

   友達だからこそ、誰が正しいのかくらい判りますよ。

 

シル:大人……だな。

 

ミシ:馬鹿なんですよ。

   昔からちっとも変わらないんです。

 

シル:ふっ……そうか。

 

ミシ:彼は……コピーキャットの稀人(まれびと)でした。

 

シル:稀人(まれびと)……亜人だったのか?

 

ミシ:ええ。歴代のトライダアト家の家長(かちょう)は、

亜人達の中から同じようにコピーキャットを誘拐してきて、

   新たな後継(あとつぎ)にするんです。

 

シル:たった1人の子猫のまま、この国で育って死んでいくのか。

 

ミシ:だけどもう、それも終わりです。

   影猫(かげねこ)影猫(かげねこ)でしか探せない、

   トライダアトは、ようやくこの(やみ)から解放されたんです。

 

シル:私にも(ほうむ)ってやる資格があるかな?

 

ミシ: ……()いんですか?

   だってそこの首は。

 

シル:色々あり過ぎて良く解らなくなってしまった。

 

ミシ:シルヴィアさん……。

 

シル:だけど素敵だと思う。

   ()(よう)には生きられなかったのかもしれないけど、

   最後まで想いを(いだ)いていて、こんなにも満足そうな顔をして、

   ……()い子だったんだと思う。

 

ミシ: ……?

 

シル:ふっ……うっ……!!

   ううう……!!!

 

ミシ:貴女(あなた)はもっと素直に自分を出した方が良い。

 

シル:プーデット……!!

   プー……!!

   プー!!!

 

ミシ:少し優し過ぎますよ。

   お月様も僕達を笑っています。

 

シル:( 泣き続ける )――。

 

ジー: そうだよ、僕は(から)っぽなんかじゃ無かったんだ。

   僕のただ一つの願い。

   それは彼の幸せ。

   (ただ)その一欠(ひとか)けらで良い。

   それだけが僕の(すべ)てで良い。

   ……にゃはは。

   何てことは無い、(すべ)て父さんの言う通りだったなぁ。




 
 
 
     
 
           
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