題名  公開日   人数(男:女:不問)  時間  こんな話  作者

 風のシルヴィア(27)
黒冥石(こくめいせき)

2015/05/18  6(3:2:1) 30分

払うものを払えば望みを叶えてくれる。それだけは確かな奴だった。

 ニコ

登場人物
(年齢)
性別 その他
シルヴィア
(26)
龍の血を引く金髪碧眼の麗しき女騎士。
戦闘好きながら母性と優しさ、気高さも併せ持つ。
レベルは大体話数+年齢くらい。強い(確信
エレナ
(30)
聖騎士の名を冠する大人びた美女。
普段は決して乱雑になる事は無いが戦自体は大好き。
昔シルヴィアと殺し合った。
ミシェル
(17)
不問

名門貴族の美少年。
剣術の天才で今はシルヴィアの仲間となっている。
真面目且つ誠実。癒し。

アーウィン
(30)
黒髪紫眼の凄腕の剣士。
シルヴィアの元上司で彼女に好かれている。
皮肉屋だが部下想いで内外問わず人望は厚い。
ピエトロ
(30)
※回想にのみ登場。
何の取り柄も無いが努力の人。
現在は陛下の忠臣。
オーズィ
(31)
アイゼフィール国王にして四騎士と呼ばれる英雄の一人。
複雑怪奇な人間だが誰よりも皆を愛していた。
すっごい出番あるよ!!頑張って!!



「風のシルヴィア(27)~黒冥石(こくめいせき)~」





死闘の果て、シルヴィアは四騎士の一人ジーニアスを倒す。

闇夜の中。野心の宰相ゼオルードの放つアンデットをかわすため逃げ込むは嘗ての敵、

同じく四騎士の一人、聖騎士エレナの家であった。





( 『エレナの家』:夜。跪くは星屑の髪をした )

 

シル:プーデット……どうして。

 

エレ:お優しい事ね。

何時(いつ)まで夜風(よかぜ)に当たっているつもりかしら?

 

シル:エレナ様。

 

エレ:シルヴィア・シルフィード。

友の(とむら)いならば、(いくさ)が終わってからになさい。

 

シル:いえ……ですが。

 

エレ:今出来る事、それはほんの少しでも休んで好機(こうき)を待つ事。

   ……違いますか?

 

シル:こうしてエレナ様の家に(かくま)ってもらうのみならず、

   プーデットとジーニアスの葬儀までして頂いて……。

   感謝の仕様(しよう)もありません。   

 

エレ:それが私の(つと)めですから。

   ましてや手負(てお)いの窮鳥(きゅうちょう)とあらば、

尚更(なおさら)看過(かんか)出来ません事よ?

 

シル:ふっ……。

 

エレ:なあに?

 

シル:だって、そうじゃないですか。

   貴女(あなた)も私も戦争が大好きで、

   かつては殺し合った仲だと言うのに、

   今ではこうして互いの平穏(へいおん)を願っているのですから。

 

エレ:それは今更(いまさら)じゃないの、シルヴィア?

それが騎士と言うもので、

   ましてや私は四騎士(よんきし)の一人なのだから。

 

シル:私は貴女(あなた)を知っている。

   聖騎士エレナ・サースティ。

   恋人を(まも)(ため)に子供を産めない身体(からだ)になって、

母と呼んでくれた子を失い、盟友(めいゆう)に裏切られ、

   今更(いまさら)何を気取(きど)り続けるのですか?

 

エレ:例え薄氷(はくひょう)の上でも()い。

   私はほんの少しでも自分らしさを保ち続けて、

舞台に上がり続けて、

   誰かに魅て貰えればそれだけで幸せなのよ。

 

シル:それが騎士の(ほこ)り……ですか?

 

エレ:いいえ?

()いて言うなら女の意地ね。

 

シル:女の…意地……。

 

エレ:シルヴィアもあの子を見習いなさいな。

 

シル:ミシェルを……?

 

ミシ:( 寝息 )――。

 

エレ:あの子は自分が何を()すべきか知っている。

   (ほか)ならぬ貴女(あなた)の幸せの(ため)に。

 

シル:私も解っていて利用しています。

   私の騎士道(きしどう)(ため)に。

 

エレ:それで良いのよ。

   それを悪辣(あくらつ)と呼ぶ人も居れば、

友誼(ゆうぎ)と呼ぶ人もまた居るわ。

 

シル:ふふっ。

 

オー:ヘルプミー。

 

アー:ちょいと邪魔しますよ。

 

シル&エレ: ――ッ!?

 

 

( 間 )( エレナの家:月下の邂逅 )

 

 

エレ: ……あら。

 

シル:ええっ!?

 

オー:むっ!?

 

アー:おおっ!!?

   奇遇だな、シルヴィア。

 

シル:団長!?

   何故(なぜ)(しげ)みから!?

 

アー:すまんがエレナに用があってな、

   マディーンから突っ走ってきたんだ。

 

オー:助けてムーミン。

 

エレ:どういう事ですの、陛下(へいか)

 

オー:ゼオルードに城を追い出されたの。

 

エレ:( 溜息 )――。

   情けない事。

とうとう(なに)もかも良い(よう)にされるのね。

 

オー:だってあいつ死なないじゃん。

   チートだよチート。

 

アー:本当に陛下(へいか)なのですか?

 

オー:ロヴェル!!

いやぁ遠路(えんろ)はるばる御苦労(ごくろう)!!

   今はアーウィンと名乗って()るのだったか?

 

アー:影猫(かげねこ)では無いのですね?

 

オー:どころか、国王でも無いな。

   今の()()武者(むしゃ)落伍者(らくごしゃ)(たぐい)だろうよ。

 

アー:証拠を。

 

オー:( 咳払い )――。

   オッペケポッポコ、ペケポッポー♪

 

アー:ああ、本物ですな。

 

オー:ひゃっ、ひゃっ、ひゃっ。

   面白い、この場に(つど)うは(みな)()(いぬ)という(わけ)か!!

   おい!!起きろミシェル!!

 

ミシ:んぎゃっ!?

   ……えっ!?

   えっ、えっ???

 

オー:おいっす!!

元気か紅顔(こうがん)の!?

 

ミシ:陛下(へいか)……団長……?

これは……?

 

アー:驚くのは俺の方だ。

   行方不明の(はず)元同僚(もとどうりょう)が、どうしてここに()る?

 

ミシ: ……それは。

 

シル:どうやら、少し話を()める必要がありそうですね。

 

 

( 間 )( 夜想:思惑を吐露する一同 )

 

 

アー:成程(なるほど)な。

プーデットを救う為にアイゼフィールへやって来たが、

   どうやら手遅れだった訳か。

 

オー:そうか……ジーニアスめが死んだか。

如何(いか)反旗(はんき)(ひるがえ)したとはいえ莫逆(ばくぎゃく)の友、

最早(もはや)あの笑顔が見れぬとはな。

 

シル: ……。

 

ミシ:(みな)さん思う所はあるでしょうけど、

   力を合わせてゼオルード様を倒しませんか?

 

エレ:あら、それは横暴(おうぼう)ではなくて?

   何処(どこ)まで私に御願(おねが)いをするつもりなの?

 

ミシ:だってエレナ様も陛下(へいか)も団長も!!

   (みんな)あの人に(うら)みがあるんじゃないですか!?

 

オー:そうは言ってもなぁ……。

 

ミシ:そうに決まってます!!

 

オー: ……()はやるだけの事をした。

   後はこのまま愛人と、

見知らぬ国へ亡命行脚(ぼうめいあんぎゃ)洒落込(しゃれこ)むのも悪くない。

 

アー:俺もだ。

   (かたき)()つなんて気概(きがい)は生きる(ため)に取っておくさ。

   此処(ここ)に来たのはあくまでプーデットの情報を得る(ため)だからな。

 

ミシ:自分の都合で動くって言うんですか!?

   亡国(ぼうこく)瀬戸際(せとぎわ)なんですよ!?

 

アー:誰の国だ?

   少なくとももう、俺の国じゃあ無い。

 

エレ:そういう事ね。

   踏み(にじ)られる国土(こくど)を前に私がすべきこと。

   それは()まらない内輪揉(うちわも)めではない、

   せめて国と共に(ほろ)ぶことでしょう?

 

ミシ: ……僕はアイゼフィールも、ディオールの迷宮(めいきゅう)も、エルジュ(きょう)も、

   色んな歴史と文化をこの国で学びました!!

   この国でご飯を食べてきたんです!!

 

オー:()(ゆる)す。

   今後は自由に生きろ。

 

ミシ:だけどッ!!

 

オー:友が()れた命を無下(むげ)にするのか?

   誰の物でも無い、お前の命が此処(ここ)()るのではないのか?

 

アー:金の稼ぎ方なら教えてやるぜ?

   何、そんなに難しいことじゃ無いさ。

 

ミシ: ――ッ!!

皆勝手です!!

   好き勝手大人ぶって!!

 

シル:ミシェル。

人を説得するには、自分の生き(ざま)を認めて貰わなければいけないんだ。

   ()れは歳の差とか、善悪(ぜんあく)とかじゃなくて、

   どうしようもないくらい純粋で、

(ほま)(だか)い心じゃなくてはいけないんだよ。

 

ミシ:だって、これ程の人達で一緒に挑めば……きっと上手(うま)く行くんですよ?

 

シル:(みち)(たが)うのが人さ。

   私はお前が(そば)()れば、それだけで戦っていけるから。

 

ミシ:シルヴィアさん……。

 

シル:素敵な心だと思う。

   私なんかの(ため)(すべ)てを捨ててついて来てくれるんだ、

   こんなに嬉しい事は無いよ。

 

ミシ:なんッ……!?

   もうっ!!

   泣いちゃいますからね!!?

 

シル:ははっ!!

 

アー: ……ふん。

 

オー:(なん)とも(うらや)ましい限りだな。

 

エレ:うふふ……。

皆で遊んだあの時を思い出しますわね。

 

オー:ああ。

お前と、ガルフォードと、

   共に(いど)んだディオールの廃墟(はいきょ)

 

エレ:最奥(さいおう)()った物。

今でも覚えていますか?

 

オー:いや………忘れたな。

 

エレ:そうでしょうね。

昔の貴方(あなた)は誰よりも優しくて、魅力的で、

   (なん)にでも()れる可能性に満ちていた。

 

オー:そんな顔をするなよ。

   俺が『これ』で良かったんだから。

 

エレ:では残された私達は?

   貴方(あなた)と共に覇道(はどう)(つらぬ)く、私達が夢見た未来は何処(どこ)へ消えてしまったの?

 

オー: ……ッ!?

   うるせえっ!!

 

エレ:やれやれですわね。

 

オー:おい、ミシェル!!

シルヴィアを貸せ!!

 

ミシ:ふえっ?

 

オー:お前はエレナ叔母(おば)さんの相手をして差し上げろ!!

   ()は美女と月見と洒落込(しゃれこ)む!!

 

シル: ???

はあ……私と……ですか?

 

オー:行くぞ龍輝石(りゅうきせき)の!!

   これは勅命(ちょくめい)である!!

 

アー:感心しませんなぁ。

   (うるわ)しき花を()でずして(なお)何時(いつ)そこに()る月を選ぶとは。

 

オー:黙れ黒騎士!!

   あんまり茶化すと放送出来ん事するからな!!

 

アー: ……だ、そうだ。

   付き合ってやれ、シル。

 

シル:団長がそう(おっしゃ)るのであれば。

 

オー:わっしょおおぉぉぉい!!

   よっしゃ!!

   行くべシルヴィア!!

 

シル:ふふっ……。

   はいはい。

 

オー:モハハハハ!!

 

エレ:馬鹿ねぇ……。

……本当に馬鹿なんだから。

 

 

( 間 )( 吐露するはいにしえの記憶 )

 

 

シル:それで?

   私に(なん)御用件(ごようけん)なのですか?

   可愛(かわい)い国王様。

 

オー:ん~?

   ……さて、(なん)だったかな。

 

シル:宰相殿(さいしょうどの)対峙(たいじ)()さったそうですね。

 

オー:ゼオルードか……。

あれは時を巻き戻し、空間を自在に移動する。

   不死身の魔人とは良く言ったものだ。

 

シル:それでも貴方(あなた)(ひと)りで戦った。

   勝てぬ(いくさ)と知りながら(なお)

 

オー:せめて一太刀(ひとたち)、な。

   ()が人生を誇りたかったのだ。

 

シル:誰だって同じようなものですよ。

   立ち向かう事に意味があるんですから。

 

オー: ……そなた達の味方になると言う話、

   聴いてやらん事も無い。

 

シル: ……。

 

オー:不服か?

   アイゼフィール建国の()

ロヴェル・アイゼフィールから連綿(れんめん)と受け継がれし、

()が闇の魔術と鎌術(けんじゅつ)は。

 

シル:(ちまた)での貴方(あなた)は、宰相(さいしょう)に踊らされ放蕩(ほうとう)(ふけ)暗君(あんくん)との(うわさ)でした。

   しかしそれと同時に、史上稀(しじょうまれ)にみる王器(おうき)才覚(さいかく)を持った、

   救国(きゅうこく)()()るに違いないとの見方(みかた)もあったのです。

 

オー: ……ふっ。

 

シル:私は陛下(へいか)を信じます。

   どうか力と()ってください。

 

オー:今から話すことを、

そなたの腹蔵(ふくぞう)()れてくれると言うのであればな。

 

 

( 間 )( 15年前、王都アイゼフィール )( ※回想シーン )

( ※このシーンのオーズィとエレナは若々しくお願いします )

 

 

オー:フンフンフフーン♪

良い世界、良い世界♪

   今度はあいつ()とどんな冒険をしよっかな~♪

 

エレ:陛下(へいか)

 

オー:おー。どうしたエレナ?

   またディオールに繰り出すか!?

 

エレ:いえ、(しばら)く王都を留守にすることになりました。

   海賊達の略奪が目に余るとの(おお)せなので。

 

オー:えー。

   ガルフォードは?

 

エレ:アドリス川のヘビ退治へと向かいましたわ。

   野蛮な亜人共を()らしめてやると、大層(たいそう)な意気込みでね。

 

オー:(みな)巣立っていくなぁ。

   ゆくゆくはフェンシアの様に司令官になるのであろうが。

 

エレ: ……血筋(ちすじ)(なん)の意味が()ろうか?

   風が吹けば人は歩き出すのか?

      それとも踏み(とど)まるのか?

   雨が降れば花はしなだれるのか?

   それとも(なお)咲き誇るのか?

 

オー:エルジュの(おし)えか。

 

エレ:(すべ)ては(なんじ)の意思なり。

   永遠(とわ)の夢も、諦観(ていかん)も。

人はこんなにも自由ではないか。

   なればこそ(なんじ)、自由を謳歌(おうか)すべし。

 

オー:お前達は自分の意思で戦場へ()つと、

   そう(うそぶ)くのだな?

 

エレ:それが私達です。

   貫いていれば何時(いつ)しか、

血塗(ちまみ)れの剣も綺麗(きれい)だと()めて頂ける(はず)です。

 

オー:( 溜息 )――やっぱりお前は(ゆが)んでいるよ。

   いや……(ゆが)ませ『られた』って(ほう)が正しいか。

 

エレ:貴方(あなた)何時(いつ)まで子供で()り続けるのかしら?

   オーズィ・アイゼフィール?

 

オー:冒険は好きだ。

   だけど争いは……嫌いだ。

 

エレ:可愛(かわい)いのね。

   余り女の子を泣かせては駄目ですよ?

 

オー:今度デートしてくれッ!!

 

エレ:うふふ……では陛下(へいか)

   ごきげんよう。

 

オー: ……つまらん!!

   ええい、何か面白いことは無いのかあぁぁ!?

 

ピエ:う……うぅ……!!

 

オー:むっ!?

 

ピエ: ……ごほっ、ごほっ!!

 

オー:おい、お前。

   行き倒れるなら郊外(こうがい)にしろ。

   城下(じょうか)で死なれては人心(じんしん)が離れるではないか。

 

ピエ:ふっ……。

   身なりの良いお坊ちゃんは……言う事が違うねえ。

 

オー:おろ?

おろろ?

 

ピエ:何だよ?

 

オー:その剣!!

そう言うお前は冒険者か?

 

ピエ:ああ、闇の(のろ)いを解く旅を続けていてな。

   だが……ようやくそれも終われるらしい。

   (せい)(こん)も尽き果てたよ。

 

オー:宜しい!!

   ならば()……俺とパーティを組むのだッ!!

 

ピエ: ……何だそりゃあ?

   鉄の国アイゼフィールは希望と出逢(であ)いの国だと聞いたが、

   (なん)て良い笑顔をしやがるんだ。

 

オー:ふむ、()ずは腹ごしらえと呪いの(ただ)れの手当(てあて)からか。

   お、食料と薬草を手に入れるミッションが加えられたぞ~?

   化石鳥(かせきちょう)の卵なら一石二鳥(いっせきにちょう)なのだがそれには馬が()るな。

   やはり立場上(たちばじょう)泥棒(どろぼう)はいかんし、そうなると(くら)(あぶみ)から――。

 

ピエ:( 途中から被せる )おい、おい!!

 

オー:なんだ?

 

ピエ:俺は(のろ)いを受けてるって事以外何一つ()()が無い。

   それでも俺を選ぶってのか?

 

オー:冒険者なのだろう?

 

ピエ:ああ、そうさ!!

 

オー:勇気があれば()れで()い。

   楽しくやって行こうじゃないか。

 

ピエ:坊主(ぼうず)……()は?

 

オー:ロヴェル。

 

ピエ: ……俺の名はピエトロだ。

   宜しくな、坊主(ぼうず)

 

 

( 間 )( 思わず語った。其の心を理解して欲しくて )

 

 

ミシ:ちょっと待ってください。

   陛下(へいか)戦争嫌(せんそうぎら)いですって?

   これだけ(うら)みを買っておいて今更(いまさら)!?

 

アー:そこを宰相殿(さいしょうどの)に付け込まれ、骨抜きにされちまった、と。

   良くある話だな。

 

エレ:陛下(へいか)が変わってしまった当時、

私なりに陛下(へいか)の事を調べてみたの。

   これは憶測(おくそく)に過ぎないのだけれど、大体は正しい(はず)よ?

 

アー:その時期にピエトロ近衛長(このえちょう)抜擢(ばってき)されたってのが(あや)しい。

   おおかたゼオルードの子飼(こが)いか何かなんだろう?

 

エレ:うふふ……(はず)れよアーウィン?

(すべ)ては自業自得(じごうじとく)ね。

   あの人は私達の留守中に途轍(とてつ)もない(あやま)ちを(おか)してしまった。

 

ミシ:ゼオルード様が裏で糸を引いて無い事があったんですか?

 

エレ:彼は……ピエトロは(ただ)の冒険者だったの。

   それも一介(いっかい)の、本当に何にも無い人だった。

 

アー:あれが?

   御前試合(ごぜんじあい)でやり合ったことも有る。

   あれを凡人(ぼんじん)と呼ぶなら、およそ名のつく英雄はゴミ同然だぜ?

 

エレ:陛下(へいか)素性(すじょう)を隠し、ピエトロと(ひと)りの冒険者として付き合った。

   それは夢の続き……。

   あの人にとって何よりも楽しかった冒険と探検の日々。

 

ミシ:15年前……陛下(へいか)が僕より年下だった時ですね。

 

アー:ピエトロは闇の(のろ)いを受けていた、と言ったな?

   だったら()(やまい)と同義だが。

 

エレ:その通り。

(かつ)て、自分の家族を救う(ため)(みずから)らを闇の神獣に差し出したのよ。

   不治(ふち)(のろ)いは心も身体も(むしば)んで、とうとう家族にも見捨てられた。

   それが、陛下(へいか)に必要とされて嬉しかったのでしょうね。

   だから………ふふっ。

 

ミシ:何です?

 

エレ:いいえ?

   こんな話を貴方(あなた)に、ましてや他人に話すだなんて、

とうとう終わりが近いのだと思って。

 

アー:続けろよ。

   終わりかどうかにするのは俺達だ。

 

エレ:そうね。

   此処(ここ)まで来たのですものね。

貴方達(あなたたち)には知る権利がある。

   ……続けるわよ?

 

 

( 間 )( 英雄として、国王として )( ※回想シーン )

 

 

ピエ:なあロヴェル、こいつは酒場(さかば)の親父に聞いた確かな話なんだが。

 

オー: ……また冒険の話か?

 

ピエ:(おう)よ!!

   城下(じょうか)裏路地(うらろじ)に『(やみ)(あな)』がぽっかり()いたらしいぜ?

 

オー:(やみ)(あな)

 

ピエ:闇の神獣クラハミの創ったダンジョンだよ!!

   あいつは期間限定で俺達冒険者を誘っては、

   無闇(むやみ)惨殺(ざんさつ)したり、願いの(ため)代価(だいか)を支払わせるのが大好きなのさ!!

 

オー:まるで見知った様に言う。

   それが事実だとして、俺達が(かな)う相手だと思うのか?

 

ピエ:俺はクラハミに()った事がある。

   払うものを払えば望みを叶えてくれる、

それだけは確かな奴だった。

 

オー:お前は何を支払ったんだ?

 

ピエ:んん?

   ……でっへへへ。

 

オー:言いたく無いならそれで良い。

何時(いつ)も酔うたびに話す家族の話、

大体想像はつくしな。

 

ピエ:どうだい乗るだろ!?

ロヴェルさんよォ!?

 

オー:冒険か……。

何時(いつ)までも夢を見るのが自由なら、

   (あきら)める自由も此処(ここ)にあるんじゃないか?

 

ピエ:ああ?

 

オー:お前と一緒に居るのは楽しかったが、

   俺もそろそろ現実に戻らないと。

   ……(みんな)が戦ってるんだ。

 

ピエ:俺は仲間じゃないってのかよ!?

 

オー: ――ッ!?

 

ピエ:楽しかったんだよ!!

   何でも出来て、かっこ良くてよ!!

   まるで勇者みたいに俺を導いてくれたお前が大好きだったんだ!!

 

オー:ピエトロ……。

 

ピエ:可笑(おか)しいだろぉ……こんなおっさんがよ。

   お前みたいなガキに(すが)って、

願いを叶えようって言うんだからよ。

 

オー:何が望みだ?

   俺に出来る事なら……いや、

   俺が何とかしてやる。

 

ピエ:この身体を(むしば)(のろ)いを解きたいんだ。

   そうしたら、また家族を迎えに行ける。

   俺みたいな屑底(くずぞこ)(はま)った人間でも、

   希望を持って生きていける……そんな気がするんだよ。

 

オー: ……解った。

   だけどこれで最後にしような?

   俺達の冒険も、こうして利用し合う関係も。

 

ピエ:ああ……きっとそうだな。

   何だか夢みたいな日々だったぜ。

 

オー:俺もさ。

   楽しかった。

 

ピエ:じゃ、とっとと行くとしようぜ?

   俺の王子様よぅ!!

 

オー:ふっ……。

ハハハッ!!

 

 

( 間 )( エレナの家:華趣に染まる庭園 )

 

 

シル:それで……どうなったのですか?

 

オー:結局、闇の神獣に()ったのは俺だけだった。

   まあそんな気はしてたさ。

   (やつ)は途中で倒れて、そのまま動かなくなった。

 

シル:まさか……。

 

オー:大体が悪魔の親玉(おやだま)との取引だ。

   呪いを解くだけでも相応(そうおう)の物を取られただろうに、

   ましてや、人ひとりを生き返らせるなんてな。

 

シル:教えて下さい!!

   貴方(あなた)(なに)を支払ったのですか!?

 

オー:(ゆめ)……さ。

 

シル:(ゆめ)

 

オー:ずっと夢を見続ける事。

   子供のままに振る舞い、為政(いせい)からは(ことごと)(のが)れ、

   戦いの際は決して全力を出せぬ(のろ)いをかけられた。

 

シル: ……馬鹿なんじゃないですか?

 

オー:ん~~?

 

シル:たった一人を救う為に才能を投げ出して!!

   たくさんの羨望(せんぼう)憧憬(どうけい)を踏み(にじ)って!!

   国王としての(つと)めを放棄して!!

   (なん)でそんな馬鹿な事をしてしまったんですか!?

 

オー: ……さあ?

   本当に無様過(ぶざます)ぎて、自分でも良く解らんな。

 

シル:どうして……!!

   どうして……!!!

 

オー:泣いてくれるのか?

 

シル:私が貴方(あなた)だったら、絶対に自殺します。

   だってそんな生き方、

   何が面白いっていうんですか?

 

オー:いや、面白いよ?

 

シル:え?

 

オー:御蔭(おかげ)()(うえ)無い親友を得ることが出来たし、

   こうやって美女に泣いて貰えるんだからな。

 

シル: ……ッ!?

   勝手にして下さい!!

 

オー:ふぃ~……初めて他人に話したな。

   ちょいと(らく)になったぞ。

 

シル:陛下(へいか)はもう……自由になってください。

 

オー:おおっ!?

奇特(きとく)な事だな、シルヴィア。

   無償の御奉仕(ごほうし)か?

 

シル:貴方(あなた)の優しさと、心の痛みを教えてもらえました。

   私はもう、それだけで満足です。

 

オー:ついでだ、胸を貸せ。

 

シル:はいはい。

   (いく)らでもどうぞ?

 

オー: ………!!

 ……くっ!!

   ううぅ…うぅぅ……!!!

 

シル:よしよし。

 

オー:うあああぁぁ……!!!

 

シル:大丈夫ですよ、陛下(へいか)

   この国は絶対私が(まも)ってみせます。

 

 

( 間 )( 血刃の理由 )

 

 

エレ:私はあの人を迎え入れる(ため)に戦場へ()ったのではない。

   ……あの人が戦場へ(おもむ)かなくても良い(よう)に、

   ずっと戦い続けて来たのかもしれないわね。




 
 
 
     
 
           
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