題名  公開日   人数(男:女:不問)  時間  こんな話  作者

 風のシルヴィア(29)
~果て無き旅路(たびじ)へ~

2015/06/09  5(3:1:1) 30分 貴方はやっと…自由になれたのでしょう?  ニコ

登場人物
(年齢)
性別 その他
ミシェル
(17)
不問 翡翠色の瞳と淡い金髪が特徴の美少年。
『四騎士』と呼ばれる英雄の末裔。
天才剣士でもあり、並大抵の魔物は一人で蹴散らしてしまう。
アーウィン
(30)
魔族の血を引く黒髪紫眼の男。
かつて『エルツィ傭兵団』の団長として名を馳せた。
所謂完璧超人。兵法家としては最強クラス。
虚ろな鎧
(不詳)
鎧に魂を定着させられた傀儡の一人。
生前は居合の名手だったらしく如何なる獲物も両断する。
※カクレナと兼ね役でお願いします。
カクレナ
(28)
エルツィ傭兵団三番隊隊長。故人。
顔に傷を負った男装の麗人。隻眼。
いわゆる隠しキャラ。
兵士
(不詳)
圧倒的モブ。
そこそこの技量を持つ忠臣。
※傭兵と兼ね役でお願いします
傭兵
(27)
回想シーンにのみ登場。
下卑た言葉遣いの割に仕事も娯楽もそつなくこなす。
つまりは齢相応の男なのだ。
カミュ
(42)
余りの凋落ぶりに満身創痍となった四騎士の一人。
ミシェルの父親であり、彼の母親を八つ裂きにした男でもある。
其の傲慢且つ利己的な性格を嫌う者も多い。



「風のシルヴィア(29)~果て無き旅路(たびじ)へ~」





シルヴィアの龍剣を回収する為、単身(たんしん)敵の巣食う『武闘殿(ぶとうでん)』を訪れたミシェル。

中では虚ろな鎧達がアイゼフィール正規軍を憎しみに任せて殺戮していた。

彼等を止めるには最奥(さいおう)で待つ者を殺すしかないと諭されるが――。



※戦闘回です。すっごい叫ぶよ!!





( 武闘殿:血塗れの外郭 )

 

ミシ:( 荒い息遣い )ハッ…ハッ……!!

   急がないと、きっと、きっとシルヴィアさんが!!

 

兵士:うわあああぁぁ!?

 

ミシ:悲鳴……!?

 

兵士:くそぉ!!

   死んでたまるかあぁぁッ!!!

 

ミシ:奥の方にまだ生きている兵士が居るのか。

   この惨状(さんじょう)は見るに()えないが…間に合うかどうか。

 

虚ろ:ギ…ギギ。

   ()くぞ来た、『王の(つるぎ)』よ。

 

ミシ:エンプティドール!?

   おのれ、神聖なる武闘殿(ぶとうでん)(なに)彷徨(さまよ)う!?

 

虚ろ:違うな、私はお前達を待って()たのだ。

   手慰(てなぐさ)みに歯向かう者達を切り捨ててな。

 

ミシ:『たち』……?

 

虚ろ:ミシェル・フォン・フィーバストルテ。

ロヴェル・バークライツ。

 

ミシ:え……?

 

アー:(ひど)了見(りょうけん)だな。

   俺じゃあヒーローに()れないってのかい?

 

ミシ:団長…どうしてこんな所に?

 

アー:馬鹿な女が調子に乗り、自分の獲物を放り投げたと言う。

   さて、まさか俺以外にも拾いに来る物好(ものず)きがいたとはな。

 

ミシ:シルヴィアさんは馬鹿ではありません!!

   じゅ、純粋なんです!!

 

アー:( 口笛 )――♪

   成程(なるほど)盲目(もうもく)とは()く言ったもんだ。

 

ミシ:団長だって……(すべ)てを捨てて彼女を助けたじゃないですか。

   それ程の人なんですよ、シルヴィア・シルフィードは。

   (みんな)彼女が大好きなんで――。

 

アー:( 被せる )どいてな。

 

ミシ:えっ?

 

虚ろ:ゼイッッ!!

 

ミシ: ……なッ?

   (はや)――!!

 

アー:つぅぅ……!?

   相変(あいか)わらずの神速(しんそく)だな。

 

虚ろ:流石(さすが)は団長。

   ()重水(じゅうすい)居合(いあい)を見切るとは。

   ()甲斐(がい)がある。

 

ミシ:団長ですって?

   この鎧もエルツィ傭兵団の一員だったって事ですか!?

 

アー:ああ。

お前も見知っては()(はず)だが、こいつは()()りのだんまりでな。

   古参(こさん)(やつ)としか話をしなかった。

 

虚ろ:そういう事だ十番隊の。

   お前に用は無い、早く行け。

 

ミシ: ……。

 

アー:やたらと(なが)い時の中で気付くことが在る。

 

ミシ:え?

 

アー:思いの(たけ)をぶちまけられる相手ってのは、

恋人でも親でも、親友でもない、

   何時(いつ)()にかそこにいる、どこかの誰かさんだって事にな。

 

虚ろ:()く言う。

   シルヴィア1人の(ため)に、

我等(われら)を見捨てた(やから)が。

 

アー: ……少し失望したぞ?

   大方(おおかた)(にせ)の竜騎士を造った時のノウハウで出来てんだろうが、

   (うら)(ひと)つで『そっち(がわ)』に()ちたのか?

 

虚ろ:如何(いか)にも。

今となってはこの居合刀(いあいがたな)(よろい)が私の(すべ)てだ。

   立ち会ってもらわねば気が晴れぬ。

 

兵士:ウギャアッ!!?

 

虚ろ:そして、彷徨(さまよ)(よろい)は私1人では無い。

 

ミシ: ……随分と兵が彼等(かれら)()られているようです。

   ここは一体一体確実に壊していきましょう。

 

虚ろ:成程(なるほど)(かしこ)い。

   それでも私は構わぬがな?

 

アー:いや…こいつが一番手強(てごわ)いだろう。

お前は雑魚(ざこ)蹴散(けち)らしつつ、騒ぎの大元(おおもと)()ってこい。

 

ミシ:大元(おおもと)

   (あやつ)る者が()るのですか?

 

アー:感じないのか?

   こいつはとびきり上等な糸で(あやつ)られている。

   感度抜群(かんどばつぐん)、決して切れる事の無い不可視(ふかし)の風の糸だ。

 

ミシ:そんな…可視不可能(かしふかのう)な風の力ですって……!?

   そんなの……!!

 

アー:ここから先の決着はお前にしか出来ない事だ。

   俺達と同じようにな。

 

ミシ: ……ええ、やらなければ行けないんですよね?

   どんなに辛くても、怖くても。

   僕の力で。

 

虚ろ:武運(ぶうん)を祈っているぞ?

   ミシェル・フォン・フィーバストルテ。

 

ミシ:貴方(あなた)御元気(おげんき)で。

   三番隊隊長、三日月(みかづき)の騎士、

   カクレナ・キリスリン。

 

虚ろ:ふっ。

 

アー:話なら後で聞いてやる。

   血脈(けつみゃく)を越えていけ。

 

 

( 間 )( 武闘殿:栄光と簒奪の舞台 )

 

 

兵士:ぐ……あぁ!!

 

カミ:ん?

……おお、狐雨(きつねあめ)か。

   装束(しょうぞく)(よご)れてしまうな。

 

兵士:何故(なぜ)だ……?

   カミュ・レーヴ・フィーバストルテ。

   貴方(あなた)は誇り高き四騎士(よんきし)の1人だった(はず)

   何故(なぜ)…正規軍である我々を手にかける……?

 

カミ:下賎(げせん)の者が知る必要は無い。

   とはいえ中々(なかなか)練武(れんぶ)だな、良く生きていたぞ?

 

兵士:ふっ……どれだけ鍛練(たんれん)を重ねようとも、

持って産まれた(けん)(さい)貴方(あなた)に及ぶべくもない。

   『王の(つるぎ)殿(どの)

 

カミ:ならば誇りを(もっ)て死ぬが()い。

   陛下(へいか)御前(おんまえ)にて死合(しあ)われるこの場にて、

   ()()にかかり死ねるのだからな。

 

兵士:外患内憂(がいかんないゆう)

   いよいよ()の国は終わるのか…無念だ……!!

 

ミシ:( 荒い息遣い )――!!

父上(ちちうえ)ッ!!

 

カミ: ……ふっ。

 

ミシ:父上……何故(なぜ)です!?

   どうして貴方(あなた)がこんな暴挙(ぼうきょ)を!?

 

カミ:(てん)かける黒龍(こくりゅう)狐雨(きつねあめ)、死んだ(はず)不肖(ふしょう)(せがれ)

   今日は()天変(てんぺん)する日だと思わぬか?

   ……(くる)った末路(まつろ)相応(ふさわ)しい。

 

兵士:ゴブッ…グジュ……!!

 

カミ:なんだぁ?

(たわ)けめ、勝手やたらに死にかけおって!!

 

ミシ:やめて下さい!!

 

カミ:(なに)()めろと言う?

   この死に(ぞこ)ないを早く楽にしてやろうと言うのに。

 

兵士:ば…ばやぐ…ご…殺してくれぇ……!!

 

カミ:雨で聞こえん。

   貴様(きさま)はもう少し苦しんでいろ。

 

兵士:なっ!?

   うぐっ…うあぁぁぁぁ!!?

   ああぁ…痛いィ!!

   ( 暫く苦しんだ演技をしていてください )

 

カミ:それとも、この国への反逆をかね?

 

ミシ:今すぐ暴虐(ぼうぎゃく)を止めて下さい!!

   フィーバストルテの家名(かめい)()けて!!

 

カミ:そんなものは消え()せた!!

   私に残っているのはこの剣と意地だけだ!!

 

ミシ:貴方(あなた)は…私を生贄(いけにえ)にして…!!

母様(かあさま)()()きにして…!!

   たくさんの人々を犠牲(ぎせい)にして、

貴方(あなた)には……そんな物しか残らなかったのですか!?

 

カミ:ああ、そうだとも!!

   私を無能(むのう)(あなど)り、(はずかし)めた()の国の屑共(くずども)を滅ぼしてやる!!

   (なに)一つ要らぬ!!

アイゼフィールと共に滅びるが良いわッ!!

 

兵士:ぎっ、ぎざまぁぁぁ!!!

 

カミ: ――なッ!?

死ねいッ!!

 

兵士:ウギャアッ!?

   ガフッ……おのれ…国賊(こくぞく)……!!

 

カミ:ク…クフフッ……!!!

 

ミシ: ……?

 

カミ:これ…これデ静かになったッ!!

   静かになったぁ!?

   ヒャヒャ…わ、私に歯向かうからこうなるのだ、

   馬鹿め無能め、出来損(できぞこ)ないめがッ!!

 

ミシ:会話を…する事は出来ますか?

 

カミ:ああ~~???

   薄汚い亜人が(なに)かほざいておるぞォ?

   悪魔と話す舌など持たぬなぁ?

 

ミシ:僕を亜人と(ののし)る、貴方(あなた)の心は何なのですか?

   母様(かあさま)を愛した……貴方(あなた)の心は何だったのですか?

 

カミ:貴様等(きさまら)親子が私を狂わせたのだ!!

   ()が誇り高いフィーバストルテを()くも!!

   その(むく)いは万死(ばんし)(あたい)すると知れぃ!!

 

ミシ:全部、僕達のせいだと(おっしゃ)るのですね?

   あの日々も、思い出も、貴方(あなた)にとっては(すべ)てが重荷(おもに)でしか無かったと、

   そう(だん)じるのですね!?

 

カミ:ああぁぁぁその通りだよぉ!?

   ()まわしき記憶ごと、あの女を引き裂いてやったのだあぁぁ!!

ク…クヒャヒャヒャッ!!!

   アーーーーーヒャヒャヒャヒャ!!!

 

ミシ:僕は人間だ!!!

 

カミ: ……ああぁ?

 

ミシ:貴方(あなた)姿形(すがたかたち)で人の価値を決めると言う!!

   だけど僕は皆が好きなんだ!!

   異形(いぎょう)でも亜人でも構わない、この世界で生きる人が好きなんだ!!

 

カミ:クフェフェフェ……!!

   地獄から持ち帰った割には、青い考えだなあぁ?

 

ミシ:僕は越えていく!!

   御家(おいえ)(のろ)いを、貴方(あなた)と言う狂おしい(まで)の人間を!!

 

カミ:ふん。

……早く構えろ。

   口先だけの男に誰がついてくるものか。

 

ミシ:行きます!!

 

 

( 間 )( 武闘殿:嘗ての友として、主従として )

 

 

アー:そうか…お前(まで)死んじまったのか。

   悪い事をしたな。

 

虚ろ:それは別に構わないのだ。

   貴方(あなた)常々(つねづね)言っていたではないか、

配下(はいか)の死を(いた)みはしても、悔やみはしないと。

 

アー:全力で戦える舞台をあつらえるのが趣味なんでね。

   楽しく勝てりゃあそれに越したことは無いが、

   負けたとて次に()かせりゃ文句は無いさ。

 

虚ろ:貴方(あなた)()ないこの一年(いちねん)

   我々が如何(いか)(あなど)られ、酷使され続けたか解っているのか?

 

アー:ああ。

   風の便(たよ)りでな。

 

虚ろ:シルヴィアに罪があるとは思えない。

   だから…貴方(あなた)にこそ死んでもらう。

 

アー:よっぽどタチが悪い相手さ。

   俺が黙って斬られる人間じゃないって知ってるくせに、

   (なん)だってこうして立ちはだかるんだ?

 

虚ろ:構えてくれ、ロヴェル。

   ならば、せめて、私と(やいば)(まじ)えてくれ。

 

アー:はいはい、お受けしますよ!!

   どうしようもねえ馬鹿野郎が!!

 

 

( 間 )( 独白 )

 

 

兵士:誰もが未来を読み通せる訳ではない。

   この人に(すべ)てを(ささ)げて(むく)われるかどうか。

   この生き方を選んで幸せなのかどうか。

   それでも人は剣を取り、()が道を行き、

   見果てぬ誰かと出逢う(ため)に旅を続ける。

 

 

( 間 )( 親愛なる死闘 )

 

 

ミシ:( 荒い息遣い )――!!

   うぐっ……ああっ!!

 

カミ:どうした?

   (うるわ)しの乙女を救う(ため)にあの剣を求めたのではないのか?

 

ミシ:ドラゴンスレイヤー……!!

   あの龍剣(りゅうけん)があれば!!

 

カミ:遠慮なく(もち)いるが良い。

   それで私をどうにかしてみせろ。

 

ミシ:くっ…(あなど)るなッ!!

   『飛剣陣(ひけんじん)』!!

 

カミ: ……ミシェルよ、この私にフィーバストルテの技は効かん。

   『風の(やいば)』は確かに鋭く迅速だが、

殺気(さっき)さえ見切ればかわすのは難しいことでは無い。

 

ミシ:そんな…これ程までに遠いのか…!!

   大陸一と(うた)われた父上の剣技とは…!!

 

カミ:天稟(てんびん)(しぼ)り尽くせ。

   惜しい所まで来ているではないか。

 

ミシ:ええ、勿論(もちろん)です!!

   死力(しりょく)を尽くして貴方(あなた)を倒さなければ、

   ()の国は救えないんだ!!

 

カミ:クフフッ……。

昔、一度だけ()の国を出ようとしたことが()る。

 

ミシ: ……?

 

カミ:(おのれ)の剣が何処(どこ)までこの世界に通じる物か。

   フェンシアと同じように旅をして、他人と出逢(であ)い、

   限界と言う物を知ろうと思ってな。

 

ミシ:そして…母様(かあさま)出逢(であ)ったのですか?

 

カミ:いいや?

   結局私は何処(どこ)へも出ることは無かった。

   御家(おいえ)を継ぐたった一人の跡取りの夢を、

誰も(ゆる)してはくれなかった。

 

ミシ: ……勿体無(もったいな)いですね。

   父上の冒険の話、寝る前に聞かせて(もら)えたら、

   どんなに貴方(あなた)(あこが)れられたでしょうか?

 

カミ:(なに)もかも無くしたが、私は私で良かったと思う。

 

ミシ:はい。

 

カミ:私は一振りの(つるぎ)だ。

   この境地(きょうち)こそ無敵(むてき)、他の誰にも解るまい。

 

ミシ:続きをお願いします。

   僕達は剣士なのですから。

 

カミ:(おう)…殺し合うか。

   これぞ言葉より判り(やす)い、

   (まこと)道義(どうぎ)だな。

 

ミシ:クスッ……。

悲しいけど、やっぱり僕等(ぼくら)は親子なんですよね。

 

 

( 間 )( 傭兵の野営地:蟲の鳴く気だるげな夜 )( ※回想シーン )

 

 

カク:さらしがきつい……。

   それに暑い。

   (なん)だ、夜だと言うのにこの蒸し暑さは……。

 

傭兵:ややっ!?

カクレナ隊長、今日も一日、

(つと)御苦労様(ごくろうさま)でやす!!

 

カク: ……ああ。

   互いにな。

 

傭兵:そうだ、隊長も(ふもと)の街まで出向きやせんか?

 

カク:何?

 

傭兵:何でも抜群(ばつぐん)娼館(しょうかん)があるらしくて、

今、一番隊の奴等(やつら)と相談してたんで、

   シルヴィア隊長なんて高嶺(たかね)の花が(そば)()たんじゃ、

   溜まりに溜まって仕方無いだろうってね。

 

カク: ……男所帯(おとこじょたい)だ。

   (とが)めはしないが、私は遠慮しておく。

 

傭兵:そりゃあまた、どうしてで?

   最近危険な任務が多くて辛いし、

   良い息抜きになるかと思ったんですが……。

 

カク:いや、良い。

   それにこの醜面(しこづら)では女も怖がる。

 

傭兵:( 笑いながら )そんな事ありやせんって!!

   俺達を(かば)って出来(でき)た名誉の傷じゃねえですかい。

 

カク:そんな……つもりは。

 

傭兵:少なくとも、あっし()よりよっぽど真面(まとも)ですとも!!

   あっ、そうだ、自分達と一緒じゃ気まずいっていうなら、

   グレン隊長も誘おうかなって思ってたんですが――。

 

カク:( 途中で被せて )――(はな)つぞ貴様(きさま)

   くどいと言っているのだ。

 

傭兵:へ…へへへッ!!

   振られちゃあしょうがないね!?

   さ、どうぞ、お休み下さいやし!!

 

カク: ……ああ。

 

 

( 間 )( 馬鹿げた夢想を其れでも愛すると誓った日 )( ※回想シーン )

 

 

カク:ふうっ……今日も疲れたな。

こんな時はチョコでも()まむに限る。

 

傭兵:( ノックの音 )――。

 

カク: ――うッ!?

 

傭兵:カクレナ隊長、おられますか?

 

カク:( 咳払い )――。

(ほう)って置いてくれ。

今日はもう、誰とも()いたくないんだ。

 

傭兵:いや、その……じゃあドア越しで。

へへっ!!

 

カク: ……。

 

傭兵:( 咳払い )――!!

あ、あっしと隊長は同郷(どうきょう)でやす、

   獲物も同じ、信じてる神様も同じ!!

   甘党(あまとう)なのはもっと同じだ!!

 

カク: ……だから(なん)だと言う。

 

傭兵:実は…その、お袋から手紙が届きやして。

   いきなりで申し訳ねえんですが。

 

カク: ……。

 

傭兵:どうやら『もう先が永くねえ』らしいんで。

   悩みに悩んだんですが、団長にも相談しやして、

   この遠征が終わったら、除隊させて頂く事になりやした!!

 

カク: ……そうか、御苦労(ごくろう)だったな。

 

傭兵:だけど隊長!!

あっしは(なん)にもねえ()まらねえ男ですが、

もしもあんたがあっしと共に来てくれるなら!!

   ……今、この場で御覚悟(おかくご)を聞かせちゃくれやせんか!?

 

カク: ……は?

 

傭兵:(だい)それてるのは解ってんだ!!

   だけど他に何もいらねえ!!

   あんたが一生男のままだって言うんならそれでも構わねえ!!

 

カク:私を…欲しいだと?

   馬鹿な、シルヴィアに相手にされない腹いせだろう?

   ( ……私は何を言っている? )

 

傭兵:シルヴィア・シルフィードが(なん)だってんだよ!?

   あんたは他の誰よりも優しくて別嬪(べっぴん)じゃねえか!!

   あんたの部下で()れたのは俺の誇りだ!!

   今度は俺があんたを幸せにしてやるッ!!

 

カク: ……私は。

 

傭兵:へい……!!

 

カク:私はロヴェル団長の理想と()()げる。

   お前の告白は何よりも嬉しいが、

   私が幸せを感じるのは、あの人の傍以外(そばいがい)有り得ない。

 

傭兵:へい……へへっ、重々(じゅうじゅう)承知ですとも!!

   だからこそ隊長は、他の誰よりも輝いて見えてやした。

   おさらばで御座(ござ)んす、三日月(みかづき)騎士殿(きしどの)

 

カク:ああ……。

   今まで有難(ありがと)う、さよなら。

 

 

( 間 )( 独白 )

 

 

カク:(むく)われないのは解っていた。

   勝ち目の無いどころか、勝とうとすら思っていなかった。

   (ただ)あの人に(ひき)いて(もら)える充足(じゅうそく)

   それさえあれば私は(よろこ)んで死ねたのに!!

   ……それなのにッ!!!

 

 

( 間 )( 壊れゆく人形 )

 

 

虚ろ:ギ…ギギッ……!!

   ガッ……!?

 

アー:( 荒い息 )――!!

気が…()んだか?

 

虚ろ:ふっ…団長…やはり貴方(あなた)(もの)が違う……。

   私の憎しみを…何度も何度も…その(やいば)で救い…上げて…。

 

アー:お前って…こんなに御喋(おしゃべ)りな(やつ)だったんだな。

   (なが)い付き合いだが…初めて知ったよ。

 

虚ろ:この(ざま)になって…1つだけ良かったことが在る…。

 

アー: ……何だ?

 

虚ろ:涙を…見せずに()む……。

 

アー: ――ッ!?

   カクレナァッ!!

 

虚ろ:どうか…シルヴィアを導いて……。

   我々の分まで……幸福(しあわせ)()て……。

 

アー:(なん)だって俺なんかに()れた!?

   どうして俺だったんだよ!!

 

虚ろ:泣かない…で……?

 

アー:俺は馬鹿だ……!!

   目の前の気持ちに(こた)える気さえ無かったんだ、

   自分の事しか考えられなかった!!

 

虚ろ:それで()い……。

   貴方(あなた)はやっと…自由になれたのでしょう?

 

アー:ふざけるな!!

   お(まえ)『 (たち) 』が()ない人生に(なん)の価値がある!?

   (なん)だってお前等(まえら)何時(いつ)だってそんな御人好(おひとよ)し共なんだよォ!!!

 

虚ろ:私は……貴方(あなた)を応援するに決まっている。

   だってこれは……私が信じた…貴方(あなた)が選んだ道だもの。

   どうか最後まで…(つらぬ)いて……。

 

アー:消えるな、カクレナ!!

   俺の(そば)()てくれ!!

 

カク: ……ふっ。

   おさらばです…団長。

 

アー:う…ああぁ!!

   ああああああぁぁぁぁぁ!!!

   ( 泣き続ける )――!!

 

 

( 間 )( 晴れ渡る空、澄み渡る心 )

( ※戦闘シーンなのでテンポ良くお願いします )

 

 

カミ:ハアッ!!

 

ミシ:ヤアッ!!

 

カミ:ムゥ!?

   ……くっ!!

 

ミシ:まぁだ、まだぁッ!!

   行きますよ、父上!!

 

カミ:くっ、楽しませる!!

さっさとかかって来るが良い!!

 

ミシ:クスッ……!!

   ハアアアアアッ!!

 

カミ:ぐおっ!?

   ( 荒い息 )――!!

   ふっ、血塗(ちまみ)れの…親子喧嘩(おやこげんか)とはな……!!

 

ミシ:( 荒い息 )――!!

   どうしました、父上、息が上がっていますよ!?

 

カミ:嬉しそうに……!!

   親を切り刻むのがそれ程迄(ほどまで)に楽しいか!?

 

ミシ:はい!!

 

カミ:なっ!?

 

ミシ:父上から稽古(けいこ)をつけてもらうのは久しぶりです!!

   だからとっても嬉しいんです!!

 

カミ:こ、これは稽古(けいこ)では無い!!

   (ころ)()いだ!!

 

ミシ:( 少し納まりながら )ハッ、ハッ……!!

   ……え?

 

カミ: ……馬鹿な。

 

ミシ:()れは稽古(けいこ)なのでしょう?

……そうでなければ、

僕が父上とまともに立ち会えるものですか。

   何時(いつ)だって僕は父上に(かな)わなかったんですから。

 

カミ:そうか…こうも易々(やすやす)世代(せだい)とは(めぐ)るのか……。

   ()いたものだ……。

(おとろ)えたものだな。

 

ミシ:(まい)ったなぁ、本当に()れが本気なのだとしたら拍子抜(ひょうしぬ)けも()い所だ。

   如何(いかが)です?

()手無(てな)しなら御自慢(ごじまん)の『飛剣陣(ひけんじん)』でも(はな)たれてみては?

   ……って、殺気(さっき)で見えるから意味が無いんでしたっけ、はは。

 

カミ:( 途中から被せて )――殺すなら早く殺せ!!

   ()()きにされたとて文句は言わん!!

   だが卑怯者(ひきょうもの)には我慢がならん!!

 

ミシ: ……そんなに怖がらないで下さいよ。

父上。

 

カミ:怖がる!?この私が!?

   怖がっているのは貴様(きさま)だろう!?

   出来損(できぞこ)ないが意気地(いくじ)さえ()くして誰を(まも)るとほざいた!!?

 

ミシ:ええ……!!

だからこそ僕は貴方(あなた)躊躇(ためら)いを(いだ)けないんだ!!

   こんな(ふう)にッ!!

 

カミ:( 被せて )グオッ!?

 

ミシ:こんな(ふう)にッ!!

 

カミ:ウグッ!?

 

ミシ: ……こんな(ふう)にだッ!!!

 

カミ:あああっ……!?

   ウ……ウウゥ……!!

   ゴブッ………!!

 

ミシ:( 荒い息 )――!!

   フッ…ウ…ウウゥゥ……!!

 

カミ:ク…クフフ……ガハッ……!!

   (まん)(ぞく)…か……?

息子よ……。

ようやく…だな。

 

ミシ:貴方(あなた)がほんの少しでも(あやま)ってくれたなら!!

   僕達を認めてくれたなら!!

   絶対に殺しはしなかったのに!!

   そう決めてたのに…どうしてッ!?

 

カミ:私は私だ……。

   (おのれ)を曲げて…(なん)とする。

 

ミシ:(ゆる)()えたんですよ……?

   お互いに…やろうと思えばやり直せたんです!!

 

カミ:誰が……亜人…血を…お前……。

 

ミシ:(やいば)はそう言っていなかった!!

   本当の貴方(あなた)はもっと……もっと!!

 

カミ: ……ミシェルよ。

 

ミシ:( 泣き続ける )―――!!

 

カミ:こんな(いえ)の事は忘れろ……。

   そして…他の誰に誇るでも無い……。

自分の誇れる道を行きなさい。

 

ミシ: ……いいえ。

   僕は母様(かあさま)の事も…父上の事も……。

(なに)があっても絶対に忘れません。

 

カミ:ふ……これを受け取るが良い。

 

ミシ: ……これ…は?

 

カミ:フィーバストルテの奥義書(おうぎしょ)だ。

   お前ならば…必ずや会得(えとく)出来(でき)よう。

 

ミシ: ……はい。

   ()家名(かめい)()けて。

 

カミ:それから……私の剣も……。

   もう…託しても良いだろうか?

 

ミシ:()いですとも…だから父上は何一(なにひと)つ心配なさらずに。

どうか安らかにお眠りください。

 

カミ:うむ…ではな息子よ……。

(いびつ)ながらに……ふっ。

 

 

( 間 )( 君が笑ってくれる世界が僕の総てだったから )

 

 

カミ:おお……リゼラ…まだ其処(そこ)で待って()たのか。

   (だれ)(はばか)ると言う、共に見て(まわ)ろうではないか。

   いずれミシェルの旅をする、この広大無辺(こうだいむへん)大地(だいち)を。




 
 
 
     
 
           
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