題名  公開日   人数(男:女:不問)  時間  こんな話  作者

 風のシルヴィア(30)
微睡(まどろみ)()た願い~

2015/07/16  6(4:2) 30分 貴方が居てくれなかったら、きっと此の人は心迄腐り果てていた。  ニコ

登場人物
(年齢)
性別 その他
シルヴィア
(26)
金髪碧眼の女騎士。
気高いながらも優しさと野蛮さを併せ持つ。
ゼオルードとは因縁がある。
ゼオルード
(226)
偉大なる闇の魔術師にして諸悪の根源。
飄々としているが本性は冷酷無比の鬼畜。
前々回、父親を捨て駒として利用した。
オーズィ
(31)
アイゼフィール国王。残念なイケメン。
ゼオルードに居城を追われ投げ遣りになっていたが再起。
とある事情で永遠に実力を発揮できない呪いをかけられている。
エレナ
(30)
アイゼフィールの女将軍。聖騎士。
母性と慈悲の塊だが腕も立つ。
オーズィ、ガルフォードとは幼馴染。
ガルフォード
(32)
亜人と人間の共存する国、新生クロウリの王。
豪放磊落にして最強格の将器を持つ。
オーズィを裏切りアイゼフィールに攻め込んだ。
オノウ
(28)
ガルフォードの副官。ムキムキのオカマ。
非常に好戦的、そして一途。
ノリノリでお願いします。
亜人
(不詳)
ガルフォードの配下。人外。
※出番少ないのでゼオルードと兼ね役で。
 リゼラ
(25)
♀  アイゼフィールの重臣の妻。故人。
明るく慎み深く、意思の強い人物。
※シルヴィアと兼ね役でお願いします。



「風のシルヴィア(30)~微睡(まどろみ)()た願い~」





混迷只中の王都アイゼフィール。

シルヴィアはゼオルードを倒すため、単身四騎士の塔へ斬り込む。

一方、ゼオルードに居城を奪われたオーズィは、嘗ての親友と対峙していた。






( 四騎士の塔:頂上 )

 

シル:ゼオルード様。

   やはり此処(ここ)に居られたのですね?

 

ゼオ: ……おぉサラか、待って()ったぞ?

 

シル:随分と手間取(てまど)りました。

さすがは『(とき)(おきな)殿(どの)(たい)したダンジョンを形成なさるものです。

 

ゼオ:即席故(そくせきゆえ)に攻略されるのは目に見えて()ったが、まさかな。

よもや単騎(たんき)で来るとは思わなんだぞ?

 

シル:妄執(もうしゅう)(ふけ)老虎(ろうこ)を討ち取るに、

(なん)の手間が()りましょうや?

 

ゼオ:()い、愚かな増長(ぞうちょう)だがそれも(ゆる)そう。

()造魔共(ぞうまども)を蹴散らすその武略(ぶりゃく)見事也(みごとなり)

 

シル: ……(なが)きに渡りその身を(ささ)げ、

尽くしてきた祖国が絵図通りに砕かれていく。

貴方(あなた)にとってはさぞや痛快なのでしょうね?

 

ゼオ:フッ、ハハハッ…如何(いか)にも。これぞ天上(てんじょう)の特等席よ。

どうじゃ?お(ぬし)(わし)(ほふ)りにやってきたのであろうが、

   邪魔立てせぬと言うのであれば、この終景(しゅうけい)幕迄(まくまで)堪能(たんのう)させてやるが?

 

シル:いえ、ですが、貴方(あなた)父君(ちちぎみ)からの言伝(ことづて)です。

 

ゼオ:ああ、そんなものは(のこ)さんで良い。

   お(ぬし)胸襟(きょうきん)に仕舞って置けい。

 

シル:『(あい)していた。』

   (ただ)、そう伝えて()しいと、(せつ)に。

 

ゼオ: ……うむ。御苦労(ごくろう)

   ……御苦労(ごくろう)

 

シル:遠目(とおめ)から見えるその寂寥(せきりょう)は本物だ。

   だのに、貴方(あなた)何故(なぜ)こんなにも(むご)い仕打ちを()さるのですか?

 

ゼオ:何時(いつ)か夢さえ見れなくなるその時が来る。

   だからこそ、この望みを(かな)えたい。

   ……この衝動(しょうどう)こそが(わし)の生きる(かて)なのだ。

 

シル:どうか(こら)えて下さい!!

   今からでも……遅くは無い(はず)です……!!

 

ゼオ:お(ぬし)に解るか?

   命を延ばす(ため)延々(えんえん)と魔力を酷使し、

一刻(いっこく)(かせ)(ため)九吋(きゅうすん)犠牲(ぎせい)とする。

   老いた脳髄と、枯れ木の如き精力を振り絞り得られる成果がそれだ。

   この(みじ)めさと摩耗(まもう)が、貴様(きさま)に解ると言うのか!?

 

シル:貴方(あなた)()めようとする私の心を信じて下さい!!

 

ゼオ:フハハハッ……!!

まるで、孫気取(まごきど)りじゃなぁ。

 

シル:ええ、本当にそうですね。

ですが、そう仕向けてきたのは貴方(あなた)でしょう?

 

ゼオ:(しか)り。龍の力を(もっ)てすればあるいは、()が命を()てるやもとな。

   最後の(まど)い……くっ、今にして思えば、(くだ)らぬ布石(ふせき)よ。

 

シル:その野望(やぼう)()げられませんか?

 

ゼオ:(くど)い!!

 

シル:では望み通りに、御老体(ごろうたい)

 

ゼオ:うん?此処(ここ)から見ておったぞ?

   切り札を失ったままで良いのか?

 

シル:今は寸刻(すんこく)()しい。

   やりたい事があるのは此方(こちら)も同じですので。

 

ゼオ:龍の慢心此処(ここ)(きわ)まれり、か。

(くだ)らぬ(しば)りだが、(おう)とも!!

(おう)じてやろう!!

 

シル:行きます!!

 

ゼオ:来い!!

   小娘(こむすめ)!!

 

シル:ハアアアァァッッ!!

 

 

( 間 )( 王都アイゼフィール:市街 )

 

 

オー:ううむ……。

 

オノ:オーホッホッホッ!!

 

亜人:グファファファ!!

 

エレ:どうなさるのかしら?

   へ・い・か?

 

オー:いや、悩んで()る。

 

オノ:待ちなさぁい、お退()きなさぁい!!

   ……ぶっとばすわよワリャア!?

 

亜人:(ほろ)びよ人間ども!!

   今こそ亜人の永久世(とこしよ)を実現する(とき)!!

 

オー:確かにシルヴィアに助勢(じょせい)するとは言ったが、

   まさか初戦の相手がムキムキのオカマとは……。

 

オノ:むんっ!!

   ホォウア!!

   アアァウ!!?

 

亜人:我等(われら)新生(しんせい)クロウリ!!

オノウ様、ジェミ様、ガルフォード様ある限り、

如何(いか)なる敵にも負ける気がせぬわ!!

 

エレ:兵士達が恐慌(きょうこう)に陥っています。

   早急(さっきゅう)に敵の(しょう)を討ち取らねば、敗北は必至(ひっし)

 

オノ:アタシの名はオノウ・フンドシオ!!

   新生(しんせい)クロウリの軍・事・大・臣!!

   ふごほっ、ブヒッ!!

 

亜人:ウオオオォォン!!

 

オー:やれやれ……。

   おい、そこなオカマよ。

 

オノ:むむっ!?

 

オー:亜人共々(あじんともども)侵略御苦労(ごくろう)

   褒美(ほうび)に死を(たま)わそう。

 

オノ:あらッ、あら、あらりゃッ!?

   あ…あな、あな、貴方様(あなたさま)は!?

 

オー:ふっ…()面貌(めんぼう)に覚えがあるとは、

腐っても(かつ)ての()(しょう)か。

裏切りの非礼を詫びる(いとま)なら()れてやるが?

 

オノ:オーズィ・アイゼフィール陛下!!?

いやああぁぁぁん、もうッ、本物よッ!?

   信じられなぁぁいッ!!

   三十路(みそじ)なのにッ、三十路(みそじ)なのにその美貌(びぼう)、やりてえ!!

 

オー:ぷひー。

 

エレ:オノウとやら、(くだ)らぬ陽動(ようどう)はそこ(まで)になさい?

 

亜人:(なに)ッ!?

 

エレ:肝心要(かんじんかなめ)の陛下が此処(ここ)()るのです。

   貴方(あなた)が騒いだ所で無意味でしょう?

 

オノ:オーホッホッ!!

流石(さすが)は聖騎士エレナ・サースティ。

   (たい)した慧眼(けいがん)だこと。

 

亜人:しかしオノウ様!!

   今それを明かしては――!!

 

オノ:( 被せる )いーのよーぅ!!

   どうせガル様もこちらに向かっているわぁん!!

 

オー:まあ、そんな所であろうな。

 

エレ:そう、私達は歴戦(れきせん)ですもの。

   どんな手を使うかなんて嫌でも想像がついてしまう。

 

オノ:ガル様は生粋(きっすい)戦人(せんじん)(ゆえ)暴虐(ぼうぎゃく)も策略もお()(もの)よ?

アタシ達が釣り込んだ敵の真後ろで、

ガル様(みずか)要人共(ようじんども)をブ☆ッ☆殺す!!

   ……そういう手筈(てはず)だったのだけれど。

 

エレ:無駄な犠牲(ぎせい)()ける(ため)にね。

   そんな優しい(おう)だからこそ、貴方(あなた)やワンちゃんは彼に付き従うのでしょう?

 

亜人:ワンッ……!?

 

オノ:そ。だから(うら)(そし)りもお()(もの)よ?

   (いく)(よご)れてもアタシはアタシ、あの人を(まも)るわ。

 

オー:ううむ……。(うわさ)には聞いていたが、良き(しょう)()ったものだ。

   本性(ほんしょう)(あら)わにすれば、眠る潜在(せんざい)すらも引き起こされると言う事か。

 

エレ:ウフフッ…良いわねぇ。

(まこと)の覇王、文字通り民を導く悠久(ゆうきゅう)夢追(ゆめお)(びと)、か。

 

ガル:ハイヤァッ!!

 

亜人: ――ッ!?

   おお、あの御姿(おすがた)は!!

 

ガル:よーし、ドウドウ!!

   ……待たせたなぁ(みな)(しゅう)!!

 

亜人:ガルフォード様!!

 

オノ:おっそいわよーーぅ!!

   四騎士(よんきし)を二人も相手にする所だったじゃなぁい!?

 

ガル:ワハハッ、すまん!!

   あの老骨共(ろうこつども)め、思いの(ほか)足掻(あが)きおってなぁ!!

   王が()らぬのに忠義(ちゅうぎ)な事よ!!

 

オー:ガルフォード。

 

ガル:むむっ、これはこれは、(うわさ)のオーズィ陛下では()らせられませぬか!!

   この喫緊時(きっきんじ)にとうとう出撃なさるのか!?

 

オノ:あら、そういえば(みょう)ねぇ?

   怠惰(たいだ)臆病(おくびょう)軽薄(けいはく)三拍子(さんびょうし)(そろ)った陛下が(みずか)ら出て来るなんて。

 

オー:おい。

 

エレ:もう陛下ではありません。

居城(きょじょう)はゼオルード様に奪われました。

   今は一国(いっこく)亡命者(ぼうめいしゃ)

 

ガル:成程(なるほど)()のゼオルードならば木端微塵(こっぱみじん)にしてやったぞ?

   といっても、実際はジーニアスの影に過ぎなかったが。

 

オー:(やつ)は死んだ。

   シルヴィアに斬られてな。

 

ガル:何と、それは重畳(ちょうじょう)!!

   これで(やつ)寝首(ねくび)()かれる杞憂(きゆう)も無い訳だ。

   ……しかし中々(なかなか)に事態が動くな。

 

オー:うむ。あの天を裂かんばかりの黒龍(こくりゅう)

ゼオルードの切り札に違いあるまいが、どうだ?

   先にあれを仕留(しと)めると言うのは?

 

ガル: ……まさかな。

   そんなものはあいつ()の仕事だ。

   それでも(なお)残っていたとしたならば、是非も無い。

 

エレ: ……どうすると?

 

ガル:貴様等(きさまら)を殺してから片付けよう。

 

オー: ……そうか。

いや、解っていた(はず)なのにな。

   最早(もはや)笑い合える(はず)も無いと。

 

ガル:ダハハハッ……!!

   まあなぁ、想いは多々(たた)あれど()れが(いくさ)だ。

   了見(りょうけん)してくれや。

 

オー:出来ると思うのか?

   ……俺にお前を殺せだと?

 

ガル:その(ため)此処迄(ここまで)来たんだろうが?

   まさに晴れ舞台、俺達の決着にこそ相応(ふさわ)しい。

 

オノ:ううん、手を貸したりしたら……やっぱ殺されちゃうわよね?

   ……チラリ。

 

エレ:無粋(ぶすい)(ゆる)しません。

   ()(きざ)まれたくなくば、(しゅく)に。

 

オノ:解ってるわよぉう!!

   それに、大分(だいぶ)疲れたわぁん?

   ()(いくさ)の蜜の味で此処迄(ここまで)もって来たけれど、

   やっぱり限度もあるわよねぇ?

 

亜人:ぐっ……!?

   た、確かに……。

 

オノ:ガル様ーー!!

   頑張ってーー!?

 

ガル:ワァッハッハ!!

任せろぉ!!

 

エレ:陛下?

 

オー:(なに)かな?

 

エレ:御武運(ごぶうん)を。

 

オー: ……解っているよ、エレナ。

   戦えなければ生きる価値も無いのだろう?

 

エレ: ……。

 

オー:それでも…俺は。

 

 

( 間 )( 王城:紅茶の薫る貴賓室 )( ※回想シーン )

 

 

オー:なあリゼラ!!

 

リゼ:はい?

 

オー:そなたは美しい!!

   (なん)たる美貌(びぼう)だ、まさに『ディオールの至宝(しほう)』に例えられよう!!

 

リゼ:あらあら、それで?

   また()菓子(がし)の催促ですの?

 

オー:まあ、なんだ。

   そんな所だ、クレクレ。

 

リゼ:クスッ…可笑(おか)しい事。

   エレナ様から(もら)った方が話は早いでしょうに。

 

オー:あいつ『 () 』は駄目(だめ)だ、最近まるで(かま)ってくれんのだ。

   (かつ)ての友が聞いて(あき)れる。

 

リゼ: ……陛下?

 

オー:何だ?

 

リゼ:御歴々(おれきれき)悲嘆(ひたん)は、

御最(ごもっと)もだと思いませんか?

 

オー: ……ほぉぉう?

   お前迄(まえまで)四騎士(よんきし)』の味方か、()いぞ?

   他人(ひと)の気も知らずに身勝手極(みがってきわ)まりない。

 

リゼ:『他人(ひと)の気持ち』……。

   先に出した者勝ちの、卑怯(ひきょう)な言葉ですね。

 

オー:五月蠅(うるさ)い!!国王とは言葉すら自由に()らぬのか!?

お前の(そば)()る時くらい甘えさせろと言うのだ!!

 

リゼ:貴方様(あなたさま)には道が用意されていた。

 

オー:黙れッ!!

 

リゼ:四騎士(よんきし)(たば)ね、覇者(はしゃ)として、賢君(けんくん)として、

(たみ)が夢見る、理想の国家を築き上げる。

   ……そんな素敵な道が。

 

オー:だから(なん)だと言う!?

   それは一体誰の(ため)の戦いだ!?

 

リゼ: ……。

 

オー:()まる所は俺の決定だ!!

   俺の人生、俺の意思!!

   寄ってたかって決めつけられるものでは無いだろう!?

 

リゼ:つまり、自分は王には()りたくないと。

   そういう事ですか?

 

オー:そうだ!!

   (いち)から王を目指せと言うなら学びもしよう、

   (ぜろ)から英雄を目指せと言うなら努力もしよう!!

   だが(はな)から持っている物をどうして大事(だいじ)に出来る!?

   誰が胸を張って誇れると言うのだ!?

 

リゼ: ……(めぐ)まれた誕生(たんじょう)が不幸だなんて、

(じつ)貴方様(あなたさま)らしいですね。

 

オー:(なん)だと?

 

リゼ:(なに)も持たない無垢(むく)なる人がどうして夢を(いだ)けると言うのですか?

 

オー: ……ッ!?

 

リゼ:生まれた時から(のが)れられない罪を背負い、

誰一人守れず、自分すら保てずに死んでいく。

   そんな(むご)末路(まつろ)すらあるというのに。

 

オー:どうしたと言うのだ、リゼラ。

   今日はやけに()を張るではないか。

 

リゼ:これは失礼しました。

私に向けられた言葉にしては、(あま)りにも残酷(ざんこく)だったもので、つい。

 

オー:それはお前が……いや、そうか。

   そんなつもりは無かったのだがな。

……すまなかった。

 

リゼ:でも、だからこそ陛下は陛下なんです。

 

オー:はい?

 

リゼ:素直に(あやま)ることが出来て、(みな)の笑顔の(ため)に冗談を忘れない。

   誰よりも優しくて不器用で……。

そんな陛下が、私は大好きです。

 

オー:プヒン、お菓子プリーズ。

 

リゼ:クスッ…はいはい。

 

オー: ……お前もな?あんな夫を相手取(あいてど)り、

良く出来た息子に育てている。

   それは誇っていい事だと思うよ?

 

リゼ:ミシェルですか…あの子は私の誇りです。

   だけど、何時(いつ)かは別れる時が来てしまうんだろうなぁ。

 

 

( 間 )( 独白 )

 

 

オー:認めよう、俺は甘い人間だった。

   (なに)せ友と呼べる男、いずれ妻となる女、(おお)いなる(にわ)と才能。

   その(すべ)てを持って生まれついたのだから。

……だから。

それら(すべ)てを投げ出してみたかったのかもしれない。

   若さが魅せる可能性を信じて、(ただ)、自分一人の力を信じて。

   そうしなければ本当の優しさなんて、何一(なにひと)つ理解出来ない気がしたから。

 

 

( 間 )( 王城:紅く染まり行く貴賓室 )( ※回想シーン )

 

 

ガル:本当に行くのか?リゼラ。

 

リゼ:はい。

……()()に帰る事が、それ程やましい事でしょうか?

 

ガル:お前……。

いや、お前がそう思ったのなら、そうだな。

   それがお前の選択なのだろう?

 

リゼ:別に私は奇蹟(きせき)を信じている訳でも、

   あの人を信じている訳でもありません。

   でも、これを乗り越えなければ、きっと私達は壊れてしまうから。

 

ガル:お前が亜人の血を引いている(など)と、

()まらぬ讒言(ざんげん)もあったものだが……。

   さて、まさか(みずか)ら打ち明けてしまうとはな。

 

リゼ:クスッ…もう、自分を(いつわ)り続ける事にも飽きました。

   ガルフォード様だってそうでしょう?

 

ガル:ああん?

 

リゼ:だって貴方(あなた)凱旋(がいせん)(たび)()まらなそうな顔をするんですもの。

 

ガル:そうか?

   まあ血塗(ちまみ)れの汗腐(あせぐさ)れだ。

多少不愉快ではあっただろうが?

 

リゼ:大好きな戦場に、本当に好きな人と行く。

   そんな夢が(つい)えた今になってようやく気付いた。

   自分は彼が()なくてもやっていけると。

 

ガル: ……。

 

リゼ:新しい世界を切り(ひら)くのは何時(いつ)だって怖いけれど、その瞬間は必ず訪れる。

   ……その時を逃げては駄目。

だってその()(きず)は、果てしない未来迄(みらいまで)永遠に消えない(あと)になるから。

 

ガル:俺は…別段(べつだん)あいつが嫌いじゃない。

   馬鹿な事を仕出(しで)かしたとは思うが、あいつらしいといえばそうなのだろう。

 

リゼ: ……はい。

 

ガル:だが、あいつはそれを認める俺に寄り添えと言う……!!

   ()の『ディオールの四騎士(よんきし)』、ガルフォード・ガーデウスに暗君(あんくん)の世話を焼けと!!

   これ(ほど)無様(ぶざま)蒙昧(もうまい)(ほう)()るか!?

 

リゼ: ……。

 

ガル:確かに昔は思いを()せた……。

あいつとエレナ、フェンシア、ゼオ(じい)

   それにお前の夫と、いずれは影猫(かげねこ)子倅(こせがれ)も引き連れて!!

   一斉(いっせい)(くつわ)を並べ、地平の果て(まで)征服する!!

   一挙に、一気呵成(いっきかせい)にだ!!

 

リゼ:素敵…四騎士(よんきし)が一同に(かい)するなんて。

 

ガル:それだけじゃないぞ?

(ちまた)(にぎ)わしているエルツィ傭兵団!!

   忠勇無比(ちゅうゆうむひ)なファルセラ近衛師団(このえしだん)!!

奴等(やつら)もみぃんな駆り出して――!!

   ……( 鼻で嗤う )。

 

リゼ:ふふっ、いいえ?

   (にぎ)やかで良いです。

 

ガル:これから()()く女に大層(たいそう)愚痴(ぐち)()いた。

   (ゆる)せ、男の不覚(ふかく)だ。

 

リゼ: ……もしも。

 

ガル:ん?

 

リゼ:貴方(あなた)(ちが)った形で出逢(であ)えていたら……。

   貴方(あなた)は私の事を受け入れてくれましたか?

 

ガル:(たが)うも(なに)も、今望まれれば()ぐにでも(めと)ってやる。

 

リゼ: ――ッ!?

 

ガル:そなたは(かしこ)い!!美しい!!

コブ付きだろうが(なん)だろうが、俺がまとめて大事(だいじ)にしてやる!!

   ドンと向かって来いと言うのだ!!

 

リゼ:嬉しい……!!

   その言葉だけで…やっと人間になれた気がします。

 

ガル:(あきら)めやがって。

お前が泣きながら覚悟を決めたと言うのなら、俺は笑って見送る(ほか)()い。

 

リゼ: ……貴方達(あなたたち)出逢(であ)えて…本当に良かった。

 

ガル:(あか)夕日(ゆうひ)瑠璃(るり)の涙か。

うむ、天上(てんじょう)至宝(しほう)、しかと()(まぶた)に焼き付けておこう。

   ああ、きっと、ずっと忘れないよ。

 

リゼ:ミシェルの事を頼みます。

 

ガル:当たり前だ。

   俺を誰だと思っている?

 

リゼ:そうですね…貴方(あなた)は乱雑な(よう)でいて、

   景色(けしき)も人も良く()でる、本当に(ひかり)(よう)な人でした。

 

ガル:お前は風の(よう)に優しくて、気持ちが()い女だったよ。

じゃあな、リゼラ。

 

リゼ:有難(ありがと)う。

   ガルフォード・ガーデウス。

 

 

( 間 )( 独白 )

 

 

ガル:認めよう。俺は冷酷だ。

   他人(ひと)の気持ちを理解したとしても、思いやるつもりは毛頭無(もうとうな)い。

   俺が本気になれば救える命は(いく)らでもあった。

   だが、俺は俺の覇道(はどう)を張り続けた。

   俺にしか出来ない事が()の果てにある(はず)だと。

   それこそが俺を俺たらしめる目標、生きる(かて)だったのだから。

 

 

( 間 )( 王都アイゼフィール:其れは殺し合いと呼ぶには、余りにも )

 

 

オー:ゼエッ……ゼエッ……!!

   ぐっ!?ゴホッ…ゴボッ……!?

 

ガル:ゼエッ……ゼエッ……!!

   どうしたァッ!?

   内臓が破裂してもう終わりか!?

 

オー:ふっ、たわけめ……!!

   この程度で死んで…(なん)とする!?

   まだ殴り()りまいが!?

 

ガル:出来損(できぞこ)ないめ、その華奢(きゃしゃ)な身体、

   俺が(こな)(くだ)いてくれる!!

 

オー:ハッ…ハハハッ!!

   この(うつわ)にそれ(ほど)の価値が残っているとは思わぬが、

   うむ…お前にそう言われると……勝ちたくなってくるぞッ!?

 

ガル:ウオオォォォ!!

 

オー:( 被せて )ハアァァッ!!

 

オノ:綺麗(きれい)……。

(だい)の英雄同士が殴り合いの殺し合い。

   (よろい)(くだ)け、武具(ぶぐ)はひしゃげ、只々(ただただ)力をぶつけ(ほろ)び行く。

   ()は夢の(ため)()(にく)しみの(ため)

 

エレ:(なが)(あいだ)、ずっと(わずら)って来たのですもの。

   この一瞬は二人にとってまさに至福の時、

   誰一人邪魔立て出来ない、王と王の意地(いじ)境地(きょうち)

 

オノ:あたしは、ガル様が死んだら一緒に死ぬわ。

 

エレ:オノウ……。

 

オノ:結局、貴方達(あなたたち)はオーズィ陛下以外に()ないのでしょう?

   それと同じように、私達はガル様の元に()るのが居心地(いごこち)()いの。

   だから、他は無い。

 

エレ:貴方迄(あなたまで)死ぬことはありません。

   自分の命を粗末(そまつ)にしないで。

 

オノ:いいえ?きっと死ぬわ。

   アタシは軍人(ぐんじん)だもの。

 

エレ: ……そう。

   やっぱり男の子なのね。

 

オー:ガハッ!?

   うぐっ、うぎぃぃ……!?

 

ガル:神獣の(のろ)いが(なん)だと言うのだ!?

   本気が出せぬなら、(なん)としてでも生き延びて見せろ!!

 

オー: ……だって…お前。

   もう…骨も…肉も…グチャグチャなのだが……?

 

ガル:黙れッ!!

   たかが神獣風情(しんじゅうふぜい)に、俺風情(おれふぜい)貴様(きさま)が負けるのは我慢がならん!!

   簡単に死ぬんじゃねえ!!

 

オー:ふっ…ならば、その抗命(こうめい)でもすると…しようか。

 

ガル:自死(じし)、か?

 

オー:いいや?

   (ただ)、お前にはどうしても伝えておきたい事がある。

   だから、()勝手(かって)には……させん!!

 

ガル:うぐぁっ!?

   ……なっ!?

 

オノ:そんなッ!?

   組み()せられた状態からガル様を!!

 

エレ:命を……燃やし尽くす気?

 

オー:(ゆる)せ、ガルフォード。

   俺にはもう、立ち向かう気力も体力も無い。

   だからせめて、言葉で()ませるとするよ。

 

ガル: ……そうか。

それがお前に出来る、精一杯の足掻(あが)きか。

   まさか武人(ぶじん)の俺に、舌鋒(ぜっぽう)(いど)むとはな。

 

オー:届くことは無いと解っている。

   だが、せめて……(あやま)りたかった。

 

ガル: ……。

 

エレ: ……陛下。

 

オー:俺はお前『 (たち) 』に(すが)ってばかりで、

   自分で()いた種を払う気にもならなかった。

   ……死ぬ(まで)本気に()れないのなら、

その()いた穴の分迄(ぶんまで)…努力すれば良かっただけなのに。

 

ガル:今更(いまさら)だぞ…てめぇ。

 

オー:うん、本当に今更(いまさら)なんだ、ごめん。

   もしも…まだ生きていて()いと言われたら、

   もっともっと頑張って……またお前達と遊べるようになりたい。

   ……お前達に()めて(もら)いたい。

 

エレ: ……ッ!?

 

オー:でも、俺はこの生き方でも満足しているよ?

   だって誰も裏切らなかったし、馬鹿にされても…(みんな)が笑ってくれたのならきっと、

   俺は(みんな)を好きなまま死ねるから。

 

エレ:本当に馬鹿ねぇ……!!

それは…ずっと、

   (みんな)…本当は…笑いながら泣いてたのよ……!?

 

オー: ……ええっ!?

   ……そ、そうなのかぁ?

 

ガル:馬鹿野郎……。

   ガキなのも大概(たいがい)にしろってんだ。

 

オー:なぁんてこったい…ハハッ……。

   嗚呼…でも、ガル。

 

ガル:(なん)だ?

 

オー:()の国を頼む。

   エレナも(まも)ってやってくれ。

   それだけだ。

 

ガル: ……亡国(ぼうこく)とは()え王の遺命(いめい)だ。

   しかと引き受けよう。

 

オー:うん。 ……なんだか、安心したら眠くなった。

……じゃあな…ガル…エレナ。

   何時(いつ)かまた、一緒に……。

また…3人…で……………。

 

 

( 間 )( 例え何年かかっても、例えどれだけ傷ついても )

 

 

ガル:エレナ。

 

エレ:はい。

 

ガル:死ぬ気で蘇生(そせい)させろ。

 

エレ:言われる(まで)も無い。

   邪魔立(じゃまだ)てすれば殺します。

 

ガル:( おどけて )おお怖いッ!?

   ( 溜息 )――。

……さぁて、恐ろしい(ゆえ)帰るとするか。

 

エレ:有難(ありがと)う、ガルフォード。

 

ガル:(あと)尻拭(しりぬぐ)いは勝手にしろ。

   俺はこれ以上、貴様等(きさまら)茶番(ちゃばん)に付き合うつもりは無い。

 

エレ:ええ。でも、陛下を助けてくれて有難(ありがと)う。

   貴方(あなた)()てくれなかったら、きっと()の人は心迄(こころまで)腐り果てていた。

   ……初めて知りました。

   例え寄り添わずとも、想いさえ届けば人は救えるのだと。

 

ガル:ふん……。

ジジィになっても()い、さっさと有言(ゆうげん)を実行しろというのだ。

   どうせ、何時迄(いつまで)も待って()てやるに違い無いのだからな。

   ……ハアッ!!

 

エレ: ……ですってよ、陛下?

   きっと生き返って、また3人で何処(どこ)へでも行きましょうね?

   助け合って…笑い合って…時には喧嘩(けんか)して……また同じ夢を見て……!!

   だから……生きて下さいね…陛下……!!




 
 
 
     
 
           
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