題名 |
公開日 |
人数(男:女:不問) |
時間 |
こんな話 |
作者 |
風のシルヴィア(30)
~微睡に得た願い~
|
2015/07/16 |
6(4:2) |
30分 |
貴方が居てくれなかったら、きっと此の人は心迄腐り果てていた。 |
ニコ |
登場人物
(年齢) |
性別 |
その他 |
シルヴィア
(26) |
♀ |
金髪碧眼の女騎士。
気高いながらも優しさと野蛮さを併せ持つ。
ゼオルードとは因縁がある。 |
ゼオルード
(226) |
♂ |
偉大なる闇の魔術師にして諸悪の根源。
飄々としているが本性は冷酷無比の鬼畜。
前々回、父親を捨て駒として利用した。 |
オーズィ
(31) |
♂ |
アイゼフィール国王。残念なイケメン。
ゼオルードに居城を追われ投げ遣りになっていたが再起。
とある事情で永遠に実力を発揮できない呪いをかけられている。 |
エレナ
(30) |
♀ |
アイゼフィールの女将軍。聖騎士。
母性と慈悲の塊だが腕も立つ。
オーズィ、ガルフォードとは幼馴染。 |
ガルフォード
(32) |
♂ |
亜人と人間の共存する国、新生クロウリの王。
豪放磊落にして最強格の将器を持つ。
オーズィを裏切りアイゼフィールに攻め込んだ。 |
オノウ
(28) |
♂ |
ガルフォードの副官。ムキムキのオカマ。
非常に好戦的、そして一途。
ノリノリでお願いします。 |
亜人
(不詳) |
♂ |
ガルフォードの配下。人外。
※出番少ないのでゼオルードと兼ね役で。 |
リゼラ
(25) |
♀ |
アイゼフィールの重臣の妻。故人。
明るく慎み深く、意思の強い人物。
※シルヴィアと兼ね役でお願いします。 |
「風のシルヴィア(30)~微睡に得た願い~」
混迷只中の王都アイゼフィール。
シルヴィアはゼオルードを倒すため、単身四騎士の塔へ斬り込む。
一方、ゼオルードに居城を奪われたオーズィは、嘗ての親友と対峙していた。
( 四騎士の塔:頂上 )
シル:ゼオルード様。
やはり此処に居られたのですね?
ゼオ: ……おぉサラか、待って居ったぞ?
シル:随分と手間取りました。
さすがは『時の翁』殿、大したダンジョンを形成なさるものです。
ゼオ:即席故に攻略されるのは目に見えて居ったが、まさかな。
よもや単騎で来るとは思わなんだぞ?
シル:妄執に耽る老虎を討ち取るに、
何の手間が要りましょうや?
ゼオ:良い、愚かな増長だがそれも赦そう。
我が造魔共を蹴散らすその武略、見事也。
シル: ……永きに渡りその身を捧げ、
尽くしてきた祖国が絵図通りに砕かれていく。
貴方にとってはさぞや痛快なのでしょうね?
ゼオ:フッ、ハハハッ…如何にも。これぞ天上の特等席よ。
どうじゃ?お主は儂を屠りにやってきたのであろうが、
邪魔立てせぬと言うのであれば、この終景を幕迄堪能させてやるが?
シル:いえ、ですが、貴方の父君からの言伝です。
ゼオ:ああ、そんなものは遺さんで良い。
お主の胸襟に仕舞って置けい。
シル:『愛していた。』
只、そう伝えて欲しいと、切に。
ゼオ: ……うむ。御苦労。
……御苦労。
シル:遠目から見えるその寂寥は本物だ。
だのに、貴方は何故こんなにも酷い仕打ちを為さるのですか?
ゼオ:何時か夢さえ見れなくなるその時が来る。
だからこそ、この望みを叶えたい。
……この衝動こそが儂の生きる糧なのだ。
シル:どうか堪えて下さい!!
今からでも……遅くは無い筈です……!!
ゼオ:お主に解るか?
命を延ばす為に延々と魔力を酷使し、
一刻を稼ぐ為に九吋を犠牲とする。
老いた脳髄と、枯れ木の如き精力を振り絞り得られる成果がそれだ。
この惨めさと摩耗が、貴様に解ると言うのか!?
シル:貴方を止めようとする私の心を信じて下さい!!
ゼオ:フハハハッ……!!
まるで、孫気取りじゃなぁ。
シル:ええ、本当にそうですね。
ですが、そう仕向けてきたのは貴方でしょう?
ゼオ:然り。龍の力を以てすればあるいは、我が命を断てるやもとな。
最後の惑い……くっ、今にして思えば、下らぬ布石よ。
シル:その野望、曲げられませんか?
ゼオ:諄い!!
シル:では望み通りに、御老体。
ゼオ:うん?此処から見ておったぞ?
切り札を失ったままで良いのか?
シル:今は寸刻も惜しい。
やりたい事があるのは此方も同じですので。
ゼオ:龍の慢心此処に極まれり、か。
下らぬ縛りだが、応とも!!
応じてやろう!!
シル:行きます!!
ゼオ:来い!!
小娘!!
シル:ハアアアァァッッ!!
( 間 )( 王都アイゼフィール:市街 )
オー:ううむ……。
オノ:オーホッホッホッ!!
亜人:グファファファ!!
エレ:どうなさるのかしら?
へ・い・か?
オー:いや、悩んで居る。
オノ:待ちなさぁい、お退きなさぁい!!
……ぶっとばすわよワリャア!?
亜人:滅びよ人間ども!!
今こそ亜人の永久世を実現する時!!
オー:確かにシルヴィアに助勢するとは言ったが、
まさか初戦の相手がムキムキのオカマとは……。
オノ:むんっ!!
ホォウア!!
アアァウ!!?
亜人:我等新生クロウリ!!
オノウ様、ジェミ様、ガルフォード様ある限り、
如何なる敵にも負ける気がせぬわ!!
エレ:兵士達が恐慌に陥っています。
早急に敵の将を討ち取らねば、敗北は必至。
オノ:アタシの名はオノウ・フンドシオ!!
新生クロウリの軍・事・大・臣!!
ふごほっ、ブヒッ!!
亜人:ウオオオォォン!!
オー:やれやれ……。
おい、そこなオカマよ。
オノ:むむっ!?
オー:亜人共々侵略御苦労。
褒美に死を賜わそう。
オノ:あらッ、あら、あらりゃッ!?
あ…あな、あな、貴方様は!?
オー:ふっ…余の面貌に覚えがあるとは、
腐っても嘗ての我が将か。
裏切りの非礼を詫びる暇なら呉れてやるが?
オノ:オーズィ・アイゼフィール陛下!!?
いやああぁぁぁん、もうッ、本物よッ!?
信じられなぁぁいッ!!
三十路なのにッ、三十路なのにその美貌、やりてえ!!
オー:ぷひー。
エレ:オノウとやら、下らぬ陽動はそこ迄になさい?
亜人:何ッ!?
エレ:肝心要の陛下が此処に居るのです。
貴方が騒いだ所で無意味でしょう?
オノ:オーホッホッ!!
流石は聖騎士エレナ・サースティ。
大した慧眼だこと。
亜人:しかしオノウ様!!
今それを明かしては――!!
オノ:( 被せる )いーのよーぅ!!
どうせガル様もこちらに向かっているわぁん!!
オー:まあ、そんな所であろうな。
エレ:そう、私達は歴戦ですもの。
どんな手を使うかなんて嫌でも想像がついてしまう。
オノ:ガル様は生粋の戦人、故に暴虐も策略もお手の物よ?
アタシ達が釣り込んだ敵の真後ろで、
ガル様自ら要人共をブ☆ッ☆殺す!!
……そういう手筈だったのだけれど。
エレ:無駄な犠牲を避ける為にね。
そんな優しい王だからこそ、貴方やワンちゃんは彼に付き従うのでしょう?
亜人:ワンッ……!?
オノ:そ。だから恨み誹りもお手の物よ?
幾ら汚れてもアタシはアタシ、あの人を護るわ。
オー:ううむ……。噂には聞いていたが、良き将に成ったものだ。
本性を露わにすれば、眠る潜在すらも引き起こされると言う事か。
エレ:ウフフッ…良いわねぇ。
真の覇王、文字通り民を導く悠久の夢追い人、か。
ガル:ハイヤァッ!!
亜人: ――ッ!?
おお、あの御姿は!!
ガル:よーし、ドウドウ!!
……待たせたなぁ皆の衆!!
亜人:ガルフォード様!!
オノ:おっそいわよーーぅ!!
四騎士を二人も相手にする所だったじゃなぁい!?
ガル:ワハハッ、すまん!!
あの老骨共め、思いの外足掻きおってなぁ!!
王が居らぬのに忠義な事よ!!
オー:ガルフォード。
ガル:むむっ、これはこれは、噂のオーズィ陛下では在らせられませぬか!!
この喫緊時にとうとう出撃なさるのか!?
オノ:あら、そういえば妙ねぇ?
怠惰・臆病・軽薄の三拍子揃った陛下が自ら出て来るなんて。
オー:おい。
エレ:もう陛下ではありません。
居城はゼオルード様に奪われました。
今は一国の亡命者。
ガル:成程、其のゼオルードならば木端微塵にしてやったぞ?
といっても、実際はジーニアスの影に過ぎなかったが。
オー:奴は死んだ。
シルヴィアに斬られてな。
ガル:何と、それは重畳!!
これで奴に寝首を掻かれる杞憂も無い訳だ。
……しかし中々に事態が動くな。
オー:うむ。あの天を裂かんばかりの黒龍、
ゼオルードの切り札に違いあるまいが、どうだ?
先にあれを仕留めると言うのは?
ガル: ……まさかな。
そんなものはあいつ等の仕事だ。
それでも尚残っていたとしたならば、是非も無い。
エレ: ……どうすると?
ガル:貴様等を殺してから片付けよう。
オー: ……そうか。
いや、解っていた筈なのにな。
最早笑い合える筈も無いと。
ガル:ダハハハッ……!!
まあなぁ、想いは多々あれど此れが戦だ。
了見してくれや。
オー:出来ると思うのか?
……俺にお前を殺せだと?
ガル:その為に此処迄来たんだろうが?
まさに晴れ舞台、俺達の決着にこそ相応しい。
オノ:ううん、手を貸したりしたら……やっぱ殺されちゃうわよね?
……チラリ。
エレ:無粋は赦しません。
斬り刻まれたくなくば、粛に。
オノ:解ってるわよぉう!!
それに、大分疲れたわぁん?
勝ち戦の蜜の味で此処迄もって来たけれど、
やっぱり限度もあるわよねぇ?
亜人:ぐっ……!?
た、確かに……。
オノ:ガル様ーー!!
頑張ってーー!?
ガル:ワァッハッハ!!
任せろぉ!!
エレ:陛下?
オー:何かな?
エレ:御武運を。
オー: ……解っているよ、エレナ。
戦えなければ生きる価値も無いのだろう?
エレ: ……。
オー:それでも…俺は。
( 間 )( 王城:紅茶の薫る貴賓室 )( ※回想シーン )
オー:なあリゼラ!!
リゼ:はい?
オー:そなたは美しい!!
何たる美貌だ、まさに『ディオールの至宝』に例えられよう!!
リゼ:あらあら、それで?
また焼き菓子の催促ですの?
オー:まあ、なんだ。
そんな所だ、クレクレ。
リゼ:クスッ…可笑しい事。
エレナ様から貰った方が話は早いでしょうに。
オー:あいつ『 等 』は駄目だ、最近まるで構ってくれんのだ。
嘗ての友が聞いて呆れる。
リゼ: ……陛下?
オー:何だ?
リゼ:御歴々の悲嘆は、
御最もだと思いませんか?
オー: ……ほぉぉう?
お前迄『四騎士』の味方か、良いぞ?
他人の気も知らずに身勝手極まりない。
リゼ:『他人の気持ち』……。
先に出した者勝ちの、卑怯な言葉ですね。
オー:五月蠅い!!国王とは言葉すら自由に成らぬのか!?
お前の傍に居る時くらい甘えさせろと言うのだ!!
リゼ:貴方様には道が用意されていた。
オー:黙れッ!!
リゼ:四騎士を束ね、覇者として、賢君として、
民が夢見る、理想の国家を築き上げる。
……そんな素敵な道が。
オー:だから何だと言う!?
それは一体誰の為の戦いだ!?
リゼ: ……。
オー:詰まる所は俺の決定だ!!
俺の人生、俺の意思!!
寄ってたかって決めつけられるものでは無いだろう!?
リゼ:つまり、自分は王には成りたくないと。
そういう事ですか?
オー:そうだ!!
一から王を目指せと言うなら学びもしよう、
零から英雄を目指せと言うなら努力もしよう!!
だが端から持っている物をどうして大事に出来る!?
誰が胸を張って誇れると言うのだ!?
リゼ: ……恵まれた誕生が不幸だなんて、
実に貴方様らしいですね。
オー:何だと?
リゼ:何も持たない無垢なる人がどうして夢を抱けると言うのですか?
オー: ……ッ!?
リゼ:生まれた時から逃れられない罪を背負い、
誰一人守れず、自分すら保てずに死んでいく。
そんな惨い末路すらあるというのに。
オー:どうしたと言うのだ、リゼラ。
今日はやけに己を張るではないか。
リゼ:これは失礼しました。
私に向けられた言葉にしては、余りにも残酷だったもので、つい。
オー:それはお前が……いや、そうか。
そんなつもりは無かったのだがな。
……すまなかった。
リゼ:でも、だからこそ陛下は陛下なんです。
オー:はい?
リゼ:素直に謝ることが出来て、皆の笑顔の為に冗談を忘れない。
誰よりも優しくて不器用で……。
そんな陛下が、私は大好きです。
オー:プヒン、お菓子プリーズ。
リゼ:クスッ…はいはい。
オー: ……お前もな?あんな夫を相手取り、
良く出来た息子に育てている。
それは誇っていい事だと思うよ?
リゼ:ミシェルですか…あの子は私の誇りです。
だけど、何時かは別れる時が来てしまうんだろうなぁ。
( 間 )( 独白 )
オー:認めよう、俺は甘い人間だった。
何せ友と呼べる男、いずれ妻となる女、大いなる庭と才能。
その総てを持って生まれついたのだから。
……だから。
それら総てを投げ出してみたかったのかもしれない。
若さが魅せる可能性を信じて、只、自分一人の力を信じて。
そうしなければ本当の優しさなんて、何一つ理解出来ない気がしたから。
( 間 )( 王城:紅く染まり行く貴賓室 )( ※回想シーン )
ガル:本当に行くのか?リゼラ。
リゼ:はい。
……我が家に帰る事が、それ程やましい事でしょうか?
ガル:お前……。
いや、お前がそう思ったのなら、そうだな。
それがお前の選択なのだろう?
リゼ:別に私は奇蹟を信じている訳でも、
あの人を信じている訳でもありません。
でも、これを乗り越えなければ、きっと私達は壊れてしまうから。
ガル:お前が亜人の血を引いている等と、
詰まらぬ讒言もあったものだが……。
さて、まさか自ら打ち明けてしまうとはな。
リゼ:クスッ…もう、自分を偽り続ける事にも飽きました。
ガルフォード様だってそうでしょう?
ガル:ああん?
リゼ:だって貴方、凱旋の度に詰まらなそうな顔をするんですもの。
ガル:そうか?
まあ血塗れの汗腐れだ。
多少不愉快ではあっただろうが?
リゼ:大好きな戦場に、本当に好きな人と行く。
そんな夢が潰えた今になってようやく気付いた。
自分は彼が居なくてもやっていけると。
ガル: ……。
リゼ:新しい世界を切り拓くのは何時だって怖いけれど、その瞬間は必ず訪れる。
……その時を逃げては駄目。
だってその逃げ傷は、果てしない未来迄永遠に消えない痕になるから。
ガル:俺は…別段あいつが嫌いじゃない。
馬鹿な事を仕出かしたとは思うが、あいつらしいといえばそうなのだろう。
リゼ: ……はい。
ガル:だが、あいつはそれを認める俺に寄り添えと言う……!!
此の『ディオールの四騎士』、ガルフォード・ガーデウスに暗君の世話を焼けと!!
これ程無様で蒙昧な法が在るか!?
リゼ: ……。
ガル:確かに昔は思いを馳せた……。
あいつとエレナ、フェンシア、ゼオ爺、
それにお前の夫と、いずれは影猫の子倅も引き連れて!!
一斉に轡を並べ、地平の果て迄征服する!!
一挙に、一気呵成にだ!!
リゼ:素敵…四騎士が一同に会するなんて。
ガル:それだけじゃないぞ?
巷を賑わしているエルツィ傭兵団!!
忠勇無比なファルセラ近衛師団!!
奴等もみぃんな駆り出して――!!
……( 鼻で嗤う )。
リゼ:ふふっ、いいえ?
賑やかで良いです。
ガル:これから死に行く女に大層な愚痴を吐いた。
赦せ、男の不覚だ。
リゼ: ……もしも。
ガル:ん?
リゼ:貴方と違った形で出逢えていたら……。
貴方は私の事を受け入れてくれましたか?
ガル:違うも何も、今望まれれば直ぐにでも娶ってやる。
リゼ: ――ッ!?
ガル:そなたは賢い!!美しい!!
コブ付きだろうが何だろうが、俺がまとめて大事にしてやる!!
ドンと向かって来いと言うのだ!!
リゼ:嬉しい……!!
その言葉だけで…やっと人間になれた気がします。
ガル:諦めやがって。
お前が泣きながら覚悟を決めたと言うのなら、俺は笑って見送る他に無い。
リゼ: ……貴方達と出逢えて…本当に良かった。
ガル:紅い夕日に瑠璃の涙か。
うむ、天上の至宝、しかと此の瞼に焼き付けておこう。
ああ、きっと、ずっと忘れないよ。
リゼ:ミシェルの事を頼みます。
ガル:当たり前だ。
俺を誰だと思っている?
リゼ:そうですね…貴方は乱雑な様でいて、
景色も人も良く愛でる、本当に光の様な人でした。
ガル:お前は風の様に優しくて、気持ちが良い女だったよ。
じゃあな、リゼラ。
リゼ:有難う。
ガルフォード・ガーデウス。
( 間 )( 独白 )
ガル:認めよう。俺は冷酷だ。
他人の気持ちを理解したとしても、思いやるつもりは毛頭無い。
俺が本気になれば救える命は幾らでもあった。
だが、俺は俺の覇道を張り続けた。
俺にしか出来ない事が此の果てにある筈だと。
それこそが俺を俺たらしめる目標、生きる糧だったのだから。
( 間 )( 王都アイゼフィール:其れは殺し合いと呼ぶには、余りにも )
オー:ゼエッ……ゼエッ……!!
ぐっ!?ゴホッ…ゴボッ……!?
ガル:ゼエッ……ゼエッ……!!
どうしたァッ!?
内臓が破裂してもう終わりか!?
オー:ふっ、たわけめ……!!
この程度で死んで…何とする!?
まだ殴り足りまいが!?
ガル:出来損ないめ、その華奢な身体、
俺が粉と砕いてくれる!!
オー:ハッ…ハハハッ!!
この器にそれ程の価値が残っているとは思わぬが、
うむ…お前にそう言われると……勝ちたくなってくるぞッ!?
ガル:ウオオォォォ!!
オー:( 被せて )ハアァァッ!!
オノ:綺麗……。
大の英雄同士が殴り合いの殺し合い。
鎧は砕け、武具はひしゃげ、只々力をぶつけ滅び行く。
其は夢の為、其は憎しみの為。
エレ:永い間、ずっと患って来たのですもの。
この一瞬は二人にとってまさに至福の時、
誰一人邪魔立て出来ない、王と王の意地の境地。
オノ:あたしは、ガル様が死んだら一緒に死ぬわ。
エレ:オノウ……。
オノ:結局、貴方達はオーズィ陛下以外に居ないのでしょう?
それと同じように、私達はガル様の元に居るのが居心地良いの。
だから、他は無い。
エレ:貴方迄死ぬことはありません。
自分の命を粗末にしないで。
オノ:いいえ?きっと死ぬわ。
アタシは軍人だもの。
エレ: ……そう。
やっぱり男の子なのね。
オー:ガハッ!?
うぐっ、うぎぃぃ……!?
ガル:神獣の呪いが何だと言うのだ!?
本気が出せぬなら、何としてでも生き延びて見せろ!!
オー: ……だって…お前。
もう…骨も…肉も…グチャグチャなのだが……?
ガル:黙れッ!!
たかが神獣風情に、俺風情に貴様が負けるのは我慢がならん!!
簡単に死ぬんじゃねえ!!
オー:ふっ…ならば、その抗命でもすると…しようか。
ガル:自死、か?
オー:いいや?
只、お前にはどうしても伝えておきたい事がある。
だから、好き勝手には……させん!!
ガル:うぐぁっ!?
……なっ!?
オノ:そんなッ!?
組み伏せられた状態からガル様を!!
エレ:命を……燃やし尽くす気?
オー:赦せ、ガルフォード。
俺にはもう、立ち向かう気力も体力も無い。
だからせめて、言葉で済ませるとするよ。
ガル: ……そうか。
それがお前に出来る、精一杯の足掻きか。
まさか武人の俺に、舌鋒で挑むとはな。
オー:届くことは無いと解っている。
だが、せめて……謝りたかった。
ガル: ……。
エレ: ……陛下。
オー:俺はお前『 達 』に縋ってばかりで、
自分で撒いた種を払う気にもならなかった。
……死ぬ迄本気に成れないのなら、
その空いた穴の分迄…努力すれば良かっただけなのに。
ガル:今更だぞ…てめぇ。
オー:うん、本当に今更なんだ、ごめん。
もしも…まだ生きていて良いと言われたら、
もっともっと頑張って……またお前達と遊べるようになりたい。
……お前達に褒めて貰いたい。
エレ: ……ッ!?
オー:でも、俺はこの生き方でも満足しているよ?
だって誰も裏切らなかったし、馬鹿にされても…皆が笑ってくれたのならきっと、
俺は皆を好きなまま死ねるから。
エレ:本当に馬鹿ねぇ……!!
それは…ずっと、
皆…本当は…笑いながら泣いてたのよ……!?
オー: ……ええっ!?
……そ、そうなのかぁ?
ガル:馬鹿野郎……。
ガキなのも大概にしろってんだ。
オー:なぁんてこったい…ハハッ……。
嗚呼…でも、ガル。
ガル:何だ?
オー:此の国を頼む。
エレナも護ってやってくれ。
それだけだ。
ガル: ……亡国とは云え王の遺命だ。
しかと引き受けよう。
オー:うん。 ……なんだか、安心したら眠くなった。
……じゃあな…ガル…エレナ。
何時かまた、一緒に……。
また…3人…で……………。
( 間 )( 例え何年かかっても、例えどれだけ傷ついても )
ガル:エレナ。
エレ:はい。
ガル:死ぬ気で蘇生させろ。
エレ:言われる迄も無い。
邪魔立てすれば殺します。
ガル:( おどけて )おお怖いッ!?
( 溜息 )――。
……さぁて、恐ろしい故帰るとするか。
エレ:有難う、ガルフォード。
ガル:後の尻拭いは勝手にしろ。
俺はこれ以上、貴様等の茶番に付き合うつもりは無い。
エレ:ええ。でも、陛下を助けてくれて有難う。
貴方が居てくれなかったら、きっと此の人は心迄腐り果てていた。
……初めて知りました。
例え寄り添わずとも、想いさえ届けば人は救えるのだと。
ガル:ふん……。
ジジィになっても良い、さっさと有言を実行しろというのだ。
どうせ、何時迄も待って居てやるに違い無いのだからな。
……ハアッ!!
エレ: ……ですってよ、陛下?
きっと生き返って、また3人で何処へでも行きましょうね?
助け合って…笑い合って…時には喧嘩して……また同じ夢を見て……!!
だから……生きて下さいね…陛下……!!
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