題名 |
公開日 |
人数(男:女:不問) |
時間 |
こんな話 |
作者 |
風のシルヴィア(31)
~名も知らぬ君たちへ~
|
2015/08/06 |
6(2:1:3) |
30分 |
僕達は貴方に逢えて良かった。 |
ニコ |
登場人物
(年齢) |
性別 |
その他 |
シルヴィア
(26) |
♀ |
心優しき女騎士。
記憶を失った日々は彼女の心の鎧を剥ぎ取り、
其の龍の血は、孤独を怒りと誇りで満たして呉れた。 |
ゼオルード
(226) |
♂ |
冷酷無比な悪の宰相。
シルヴィアに龍の力を与えた偉大なる魔術師にして武人。
老醜と野望に歪んだ心で数々の悲劇を生んだ。 |
プーデット
(21) |
不問 |
皆さん御馴染の癒しキャラです……が。
深い絶望に陥り、在りし日の彼とは別人の様になってます。
※後すっごい吠えるよ。 |
アーウィン
(30) |
♂ |
シルヴィアの元上司。
魔族の血を引く彼は戦を好み、人を愛していた。
総ては過去の過ちに追いつかれぬために。 |
ミシェル
(17) |
不問 |
シルヴィアの元同僚。
紅顔の美少年にして天才剣士
穏やかで心地良い緑風の様な人物。 |
影人
(不明) |
不問 |
黒龍の体内に潜む闇の住人。
道化に甘んじた者、道化から抜け出そうと足掻いた者。
其の人生は間違いだったのかもしれないが、決して悔いは無かった。 |
「風のシルヴィア(31)~名も知らぬ君たちへ~」
遂にシルヴィアは宿敵ゼオルードと一騎打ちを開始する。
アーウィンとミシェルは彼女に一縷の望みを託す為、四騎士の塔へ急行する。
一方、佇む巨大な黒龍の体内では世界を憎悪した少年が囚われていた。
( 四騎士の塔:摩天へと挑む戦 )
シル:ハアアッ!!
ゼオ:グムッ!?
シル:( 若干獣じみて )グルルル!!
グウオォォォ!!
ゼオ:ぬ…ぐおおぉ……!?
キシィィ……フンッ!!!
シル: ――ッ!?
ゼオ:ヌオアァッ!!
シル:ウワアァッ!?
……ガハッ!!
ゼオ:( 荒い息 )――おう、どうした、『サラ』!?
自慢の白兵で負けたとあっては、
『シルヴィア』の沽券に関わるのではないか!?
シル:(馬鹿な…奴は魔術も行使せずに私の膂力をいなしている……?
それは徒手の私に、奴自らが課した縛りだ……。
如何にあの大鎌が業物であろうと…そんな。)
ゼオ:フッ……血沸き肉踊る尋常の勝負の、何と『愉快』なる事か。
……さて、サラ・シルフィードよ?
貴様はどうして儂を『痛快』にしてくれる!?
シル:( 血を地ベタに吐き捨てる )――。
否、気づくべきだったな。
貴方こそは此の国の主。
200年の戦歴を経て無敗。
闇の魔術を極め、数多の血潮と摩耗で其の身を鍛え上げた伝説の四騎士。
ゼオ:此のゼオルードを止めて見せろ!!
悪逆の龍姫よ!!
シル:ハァアアアァァァッッ!!!
( 間 )( 王都アイゼフィール:市中 )
アー:フンッ!!
……お?
ミシ:くうっ……!!
ハアッ!!
アー:やれやれ……どうだ、ミシェルよ。
クソジジィが造った雑魚共が湧いているが、
辛い様なら俺が前に出てやるぞ?
ミシ:いえ……お構いなく。
まだ戦えますから。
アー:( 口笛 )――♪
実の父親を斬り殺して於いて其の強さ。
流石は『古き国の』、剣技も心も、段違いで育っていくんだな。
ミシ:黒血も涙も、早く洗い流すに越したことは無い。
僕はこの竜剣をシルヴィアさんに託すだけです。
アー: ……なあ。
お前はそんなにもあいつの事が好きなのか?
ミシ:えっ?
どういう意味ですか?
アー:どっこらせっ……と。
……友誼では無い。
『シルヴィア・シルフィード』という女を何処まで好いているか?
って意味だよ……抱きたいと思うのか?
ミシ:だ、団長ともあろう御方が下品な事を……。
僕はあの人と、何時までも一緒に居たいだけです。
アー:ハハッ、お前は未だ17だろう?
生き続けてりゃあ、何時か似合いの女が現れる筈だぜ?
ミシ:此れは僕が僕として、彼女に心から捧げた約束です。
誰にも邪魔はさせない、例えそれが貴方であっても。
アー: ……つまり、ヤりたいって思わないんだな?
ミシ:怒りますよッ!?
この状況で良くもそんな事をッ!!
アー:そうか。
なら、あいつは俺が貰おう。
ミシ:なっ――!?
アー:文句は在るまい?
シルヴィアは俺の女房で、お前はその友達だ。
友として、ずうぅっと傍に居てやれば良い。
ミシ:でも……それは……。
……です。
アー:んん?
ミシ:僕だって、男なんですよ?
アー: ……ぶっ、フハハハッ!!!
ハハハハハハッ!!!
ミシ: ……。
アー:いやまあ、そんな所だろうね。
何、昔のよしみでつい苛めたくなったのさ。
フフッ……!!
ミシ: ……そうですよね。
だって強くて賢くて、誰よりも頼れるんだから。
きっと似合いに決まっています。
アー:おい、負けるなよ?
若いの。
ミシ:クスッ……。
いえ、御蔭で楽になれました。
早く敵陣を突破しましょう!!
( 間 )( 暗き闇黒の世界 )
プー:此処……は?
影人:深い絶望の中だよ。
プー:真っ暗だ……。
誰も居ない……何も照らさない。
影人:ニャハハ!!
そうさ、だって此処は『 闇 』そのものなんだから。
プー:や…み……?
影人:誰一人報われる事の無い此の世界が滅びる迄、
兄さんはずっと此処で、じっとしていれば良いんだよ。
プー:君…は……?
影人:俺は兄さんの影。ミルケットと名乗って居た少年の残骸。
プー:ミル……桃色の髪をした…御洒落で…寂しがり屋で……。
何時も悲しい眼をしていた……。
影人:こうして兄さんの傍には居るけど、影は影だ。
只寄り添うことしか出来ない。
プー:そうか…やっぱり……。
ミルは死んでしまったのか。
影人:ふふん…『時の翁』は君たち兄弟を殺して、最悪の造魔を仕立て上げた。
弟から譲り受けた『 影 』の触媒。
其れを基に、死んだ兄をわざと歪に生き返らせたのさ。
プー:それじゃあこんなにも自由にならないのは……。
此処は……何かの…中?
影人:そうだよ?
天を裂かんばかりの醜悪な黒龍。
兄さんはその核となっている。
プー:うぅ…憎しみが入り込んでくる……!!
駄目だ、人を恨んじゃ……!!
影人:どうして自分がそんな役割を担っているのか、
本当は解っているのだろう?
兄さんは実の所、此の世界が大嫌いなんだよ。
プー:違う…そんなのは……!!
影人:俺達が持つ『同化』の特性。
他人の心と自分の心を惹き寄せ合い、分かち合う。
その気になれば憎しみを押し付ける事も出来るさ。
プー: ……思い出した。
確かにあの時……夢の中で手招かれた。
殺し続ける此の世界、愛憎塗れの此の世界、犠牲だらけの此の世界。
その総てを憎悪し、恨み抜いてみないかと。
影人:世界を壊す為に兄さんは生き返ったんだよ?
だったら…為すべき事をしないと。
プー:そうだ、この期に及んでやる事は決まっている。
……ちゃんと滅ぼさなきゃ。
( 間 )( 総てを憎悪し、恨み抜いた獣 )
プー:グオオオオオォォォ!!
シル:何だッ!?
……あれはッ!?
ゼオ:おぉ、やっと動き出しおったか。
成程のう、出来損ないにしても此の程度の時は掛かる、か。
シル:あの黒龍!!
やはり貴方の差し金か!?
ゼオ:ふっ、アレは最早此の世界を滅ぼす迄止まらぬ。
儂ですら始末に負えぬ最高傑作、『自慢の息子』じゃて。
シル:止めて見せる!!
この身に代えても!!
ゼオ:そうか……?
いや、早々にならば勝算が無い訳でも無いが。
シル: ……何?
ゼオ:儂の目的は半ば達成したのでな。
後は可愛い『孫娘』がどう足掻くのか、見届けるのも悪くない。
シル: ……何処迄も貴方の術中…と言う訳ですか。
総て……私の物語も、誰も彼もが。
ゼオ:何、儂は人間が好きなのよ。
故に弄び、試し、喰らうのだ!!
( 満足そうに )故にこそ……。
儂を殺す者もまた、人間なのじゃろうなぁ。
シル: ……やはり貴方は怪物だ。
成程、たかが小娘一匹では敵わないのかも知れません。
ゼオ:それでも意地を張るが戦乙女であろうが?
我を張らんか!!
『シルヴィア・シルフィード』の名に懸けて!!
シル:( 深呼吸 )――。
そうですね、これら総てが貴方の謀略であるならば、
此の私が其の総てを踏破すれば済む話だ。
ゼオ:フハハッ……!!
あの黒龍めは、プーデットを触媒にして産み出した古の災厄よ。
シル: ……?
ゼオ:解らぬか?
禍々しきあの姿は、奴を歪に生き返らせた『 悪 』そのもの。
となると、縁の者が唖奴の核に辿りつき、
説得すれば…あるいは。
シル:あれが…プーデットだと?
ゼオ:お主の好きにするが良い。
生きるか、死ぬか。
これ程の自由はあるまい?
シル:……私は。
ミシ:シルヴィアさん!!
ゼオ:むぅ?
ミシ:よ、良かった!!
間に合ったんだぁ!?
シル: ……決まっている。
ミシ:シルヴィアさん?
アー:どうしたってんだ、シル?
今から盛り返すんだろうが?
シル: ……し、世界が救えたとしたら。
アー:ああ?
シル:その役目は、貴方に託しても良いですか?
団長。
アー: ……ッ!?
何て顔しやがる……!!
シル:ごめんなさい。
だけど、行かなきゃいけないんです。
ミシ:い、一体何処へ……?
一緒について行きますよ!?
貴女が傍に居てくれるなら、僕は何処迄も堕ちていけますから!!
シル:ふふっ…有難うミシェル。
嬉しいけれど、お前は折角生まれ変わって綺麗になったんだから、
後は幸せに生きてくれ。
ミシ:嗚呼……駄目だ、そんなの。
その笑顔は…まるで昔の、あの時の僕じゃないか!!
ゼオ: ……肚を決めたか。
プー:グオオオオオォォォ!!
ミシ:まずい!!
黒龍が向かってくる!?
ゼオ:狼狽えるでない、フィーバストルテの子倅よ。
只、愛しの仇を喰らいに来ただけの事であろうが。
アー:仇?
……秘蔵の龍、シルへの恨み、取り巻く混乱。
……まさか!?
ゼオ:余計な者までついて来たのは誤算じゃったが、
これで儂を殺せる者が居なくなる事に変わりは無いな。
アー:考え直せシルヴィア!!
奴が奴のままで居ると何故解る!?
アレはもう出来損ないだ!!
シル: ……団長は、そんな出来損ないだった私を拾って、
こんなにも広い世界を教えてくれたじゃないですか。
アー:うるせぇって言ってんだよ馬鹿!!
だから俺はお前の事が必要になったんじゃねえか!!
シル:さよなら、アーウィン。
アー:良いから早くこっちへ来い!!
早く――!!
プー:( 途中から被せて )グオオオオオォォォ!!
ミシ:シル…ヴィア……さん……?
そんな……!!
アー:ぐっ…馬鹿野郎がッ……!!
( 間 )( 暗き闇黒の世界:臓腑の迷宮 )
シル:此処……は?
私は確かに、黒龍に一呑みにされた筈だが?
影人:やあ♪
シル: ……お前は…違うな。
影人:僕は欠片です。
何処にでも居て、何処にも居ない人です。
シル:ジーニアスの影……?
いや、ミルケットか?
影人:ニャハハッ♪
その両方ですよ。
もう随分と昔に成仏しているんですが、やっぱり兄さんが心配で。
シル:それじゃあ、やっぱりプーデットは此処に居るんだな!?
影人:こうなってしまった以上、貴女が生き残るには兄さんを説得するしかない。
そうでなければ、世界が壊れる迄、永遠にその様を見続ける事になる。
シル:其れでも良い…いや、そもそも説得するつもりも無いのかもしれない。
影人:全く……変な所で頑固で素直なんだから。
犠牲の果てに犠牲を招く。
それが貴女の愚かさであり、貴女らしさだったね。
シル:案内してくれないか?
影人: ……本当に良いのかい?
シル:ん?
影人:今の兄さんは歪曲されている訳でも、誇張されている訳でも無い。
憎しみに憑りつかれた醜い黒龍そのものだ。
貴女への愛憎は、立ち直れない程に其の心を傷つけるかも知れない。
シル:どうぞ好きにしてくれと言うのだ。
私の言いたい事も大体決まっているしな。
( 間 )( 暗き絶望の世界:心臓核の間 )
影人: ……来るよ。
プー:誰が?
影人:兄さんが只一人、心の底から愛し、憎んだ人さ。
プー:そんな人は居ない。
利用されるだけの命だった。
だから、人の気持ちなんて何一つ理解出来なかった。
影人:それでも彼女は総てを兄さんに捧げるってさ。
何もかも、自分の身体も夢も、全部。
プー: ……そんな人間が…居る訳が無いよ。
影人:ふふっ。
……果たしてそうかな?
シル: ……プー…デット?
プー: ――ッ!?
シル:プーデットだね?
良かったぁ……此処に居てくれたんだね?
プー:シル…ヴィア……!!
シル:嬉しいね……涙が止まらないよ。
ごめんね……?
プー:憎い、お前も此の世界も、自分自身も!!
こんな世界なら生まれなければ良かった!!
こんな不幸なら誰とも出逢わなければ良かったんだ!!
シル:プー……?
プー:絶対に殺してやる!!!
良くもこんなに無茶苦茶にしやがって!!
御蔭で僕は、泣きながら皆を殺し尽くす羽目になったんだ!!
シル: ……そっかぁ。
プーは、此の世界で生きる人達に絶望してしまったんだね?
プー:そうだ!!
お前はミルケットを殺した!!
皆に騙されて竜騎士に成った僕の弟を!!
本当は……本当はお前が死ねば良かったのにッ!!
シル:ごめんね……。
プー:お前は総てを駄目にする!!
生きていたら、きっとまた誰かを殺すに違いないんだ!!
だからお前は、死んだ方が良いんだよッ!!!
シル: ……もし、
私が死ねば…プーは殺戮を止めてくれるかい?
プー:止める訳無いだろう!?
僕は皆が嫌いなんだ!!
全部が憎くてもう……死にたくても死ねないんだ!!
シル:お願い、プーデット。
私の話を聞いて?
プー:嫌だッ!!!
シル:なら聞かなくても良い。
だけどこれから貴方に言う言葉は、総て私の本心だから。
せめて私にも話す自由を与えて欲しい。
プー: ……!!
シル:貴方が世界を滅ぼすと言うのなら、それはそれで構わない。
プー: ――ッ!?
シル:大丈夫だよ?
それでも私はプーと共に生き続ける。
何時迄もずっと、此処で傍に居てあげる。
プー:そんな……僕が地獄を創っても良いってのか!?
シル:だって、私はプーが好きなんだ。
優しくて、素直で、おっちょこちょいで。
私の事を愛してくれた…プーデットが大好きなんだ。
プー:僕は、最低なんだ。
一番認めたくないのは…自分自身なんだ!!
シル:誰だってそうだよ?
だから人に認めて欲しくて、
努力して、真似して、傷ついて。
其れが嫌だから、
傷つけて、独りであろうとして、放棄する。
プー:僕を認めないで…シルさん。
シル:どうして?
プー:僕はもう、本当は……諦めたいんだプー。
誰にも必要とされてないって、誰でも良いから言って欲しいんだプー。
シル:私はプーが好きだ。
プーが生きていてくれるなら何でもする、例え人殺しだってするよ?
プー:シルさんに、そんな事はさせたくないプー。
シル:良いんだよ、私は大した女じゃない。
生まれた村を滅ぼして、やさぐれて、
傭兵団に入って、ようやく騎士に成ったけどさぁ、
最後には全部失って、巡り巡って此処まで来てしまっただけさ。
プー: ……そんな事無いプー。
シルさんは立派な人だプー。
シル:君一人救えない人生なら私に価値なんて無いよ。
だからせめて、君と一緒に死んであげる。
プー:プーーー!!!
嫌だプー、シルさんに死んで欲しく無いプー!!
シル: ……本当に良いんだよ?
プー:嫌だ嫌だ、シルさんは死んじゃ駄目プー!!
思い出したんだプー!!
僕はシルさんの幸せな未来を夢見てたんだプー!!
シル:私……の?
プー:何時かアーウィンさんと一緒に、僕のお店に来て欲しかったんだプー。
毎年々々、何時か子供も連れて、僕の料理を食べて、
今が幸せだって言ってくれたら……!!
僕はそれで、満足だったんだプー!!!
シル:ふふっ、もう充分幸せだよ。
プー:えっ?
シル:私の幸せをこんなにも想ってくれる人が居た。
私の人生は報われた物だった。
それで良い、それだけで良い、だから。
プー:どうすれば良いプー?
シル:プーの夢を大きくしよう?
もっともっと、見果てぬ人の幸福(しあわせ)迄、
夢を見る愚者が居ても良いじゃないか。
プーはそういう人間に成れば良いんだよ。
プー:ううん……僕なんかが、成れるのかなぁ?
シル:大丈夫。
私は何時でもプーの傍に居る、呼んでくれたら駆けつけるから。
プー:ププッ♪じゃあ怖い物なんて無いプね?
きっとシルさんは僕を助けてくれるプー。
シル:ああ、傷つきながらも生きていこう。
何時までも夢を見て、何時か出逢う人々を祝福していこう。
プー:プーーー!!!
影人: ……良い答えだ。
プー:ミル……。
影人:良かったよね、兄さん?
此の世界に生まれて来て……良かったよね?
プー:もっと色んな人と話がしたいプー。
前も後ろも人で一杯。
僕はきっと、皆が居るから笑顔になれるんだプー。
影人:ははっ、これだから2人とも大好きなのさ。
……じゃあね、兄さん。何時かまた逢えるその時まで。
プー:プププッ♪
ミルケットもね?
きっとその時を楽しみにしてるプー。
シル:貴方達を救うことが出来なかった私に言えた義理ではないが、
どうかプーデットの事は任せて欲しい。
そして……済まなかった。
影人:いやいやいやいや!!
貴女が謝る事なんて何一つも無いさ!!
……嗚呼、でも一つ。
シル: ……なんだ?
影人:僕達は貴女に逢えて良かった。
サラ・シルフィード。
どうか幸せに、その優しさを何時までも損なわずに。
シル: ……ッ!?
プー:プップップー♪
僕の名前はプーデット・サンシャイン!!
夢に向かって邁進(まいしん)中だプー!!
シル:嗚呼……あああぁぁ……!!
影人:早く行ってあげなよ。
もう後悔したくないんだろう?
シル: ……有難う!!
………本当に有難う!!!
( 間 )( そして舞台は整い )
ミシ:黒龍の身体が崩壊していく!?
やった、シルさんが黒龍に打ち克ったんだ!!
シルさんは未(ま)だ生きてますよ!!
アー: ……ふっ。
あのバカ女、筋金が入り過ぎだ。
ゼオ:むぅ……これはいかんのう。
アー:( うんざりと )――何がだ爺さん?
アンタは未だに不死身だ。
そして自慢の影ももうじき戻る。
これでようやく一矢報いたって所だろうが?
ゼオ:いや、窮地には相違無いぞ?
実の所、儂の寿命はとっくに限界でな、
殺されはせぬにしても、天寿に追いつかれる寸前とあらば、ふっ。
……笑い話にも成らぬわ。
ミシ:ならば此れ以上何を企むと言うのです!?
生の理(ことわり)に逆ってまで、貴方は一体何を望むと言うのですか!?
ゼオ:しかし無念よ、
出来ればアイゼフィール全土を覆うつもりだったのじゃがなぁ。
衰えは隠せぬが……まあ此処は、見事なサラの意地を見習うとするか。
アー:何ッ!?
この禍々しい魔方陣は……まさか『羅刹陣』か!?
ゼオ:左様。我が血族を犠牲に、命と能力を喰らい取る禁術の最終形。
此の規模でも数千人は吸収出来よう。
ミシ:だ、だけどッ――!!
貴方は『それ』で一族総てを喰らい尽くした筈!!
もうゴラムザード家で残っているのは貴方…ひと…り……!?
アー:ああ、段々と解って来たぜ!!
貴様の企みとやらがな!!
ゼオ:皆、聴け。
アイゼフィールの勇士達よ。
アー:させんッ!!
……クッ!?
ミシ:駄目だ、あの人に刃は届かない!!
アー:偽の竜騎士を喰らって手に入れた『同化』の力と、
人の脳に直接語りかける『伝心術』。
ゼオ:国土は荒廃し、そして今、王都には世界を覆い尽くす悪龍が産みだされた。
他ならぬ陛下の尽力と、儂自らの手で退治には成功したが、最早満身創痍。
ミシ:時間を巻き戻し、死を無かった事にする『夢幻陣』、
そして、死者を蘇る事すら可能にする『ジーニアスの影』。
ゼオ:それでも尚、諸君等が此の愚かな宰相に祖国の威信を託すと言うのであれば、
応とも、儂に出来る最善を果たそうではないか。
アー&(ミシ):匙を投げてぇなぁ。
(此の人は……無敵だ。)
ゼオ:お前達を殺させはせぬ。
儂は此の国の民を肚の底から愛して居る。
兵士も、民草も、咎人も総て!!
アイゼフィールに生きる者は皆、他ならぬ我が『 子 』よ……!!
アー:ミシェル、息を整えて置け。
これから何が起ころうとも、あいつが戻ってくれば勝ち目は在る!!
ミシ:は、はいッ!!
ゼオ:故に僅かで良い、皆の命を儂に呉れぃ!!
其の力で必ずや捲土を重来してみせる!!
どうか此のゼオルードに古の魔力を!!!
アー&ミシ: ――ッ!!??
( 間 )( 不死身の魔人 )
ゼオ:( ※三段笑いで段々と若返って下さい )
フッ…フファファッ……フハハハハッッ!!!
ミシ:( 固唾を飲む )――!!
これは……!?
アー:何だ…その姿は……!?
ゼオ:蘇ったぞ!?
そうか、此れが『 力 』かッ……!!
フハハハハッ……!!
ミシ: ……黒龍なんかより、尚たちが悪い。
まさか全盛期のゼオルード様が相手だなんて。
ゼオ:さあ、行くぞお前達……?
嘗て七賢人にすら匹敵すると云われた我が魔力、
存分に味わうが良い!!
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