題名  公開日   人数(男:女:不問)  時間  こんな話  作者

 風のシルヴィア(31)
~名も知らぬ君たちへ~

2015/08/06  6(2:1:3) 30分 僕達は貴方に逢えて良かった。  ニコ

登場人物
(年齢)
性別 その他
シルヴィア
(26)
心優しき女騎士。
記憶を失った日々は彼女の心の鎧を剥ぎ取り、
其の龍の血は、孤独を怒りと誇りで満たして呉れた。
ゼオルード
(226)
冷酷無比な悪の宰相。
シルヴィアに龍の力を与えた偉大なる魔術師にして武人。        
老醜と野望に歪んだ心で数々の悲劇を生んだ。
プーデット
(21)
不問 皆さん御馴染の癒しキャラです……が。
深い絶望に陥り、在りし日の彼とは別人の様になってます。
※後すっごい吠えるよ。
アーウィン
(30)
シルヴィアの元上司。
魔族の血を引く彼は戦を好み、人を愛していた。
総ては過去の過ちに追いつかれぬために。
ミシェル
(17)
不問 シルヴィアの元同僚。
紅顔の美少年にして天才剣士
穏やかで心地良い緑風の様な人物。
影人
(不明)
不問 黒龍の体内に潜む闇の住人。
道化に甘んじた者、道化から抜け出そうと足掻いた者。
其の人生は間違いだったのかもしれないが、決して悔いは無かった。



「風のシルヴィア(31)~名も知らぬ君たちへ~」





遂にシルヴィアは宿敵ゼオルードと一騎打ちを開始する。

アーウィンとミシェルは彼女に一縷の望みを託す為、四騎士(よんきし)の塔へ急行する。

一方、佇む巨大な黒龍(こくりゅう)の体内では世界を憎悪した少年が囚われていた。






( 四騎士の塔:摩天へと挑む戦 )

 

シル:ハアアッ!!

 

ゼオ:グムッ!?

 

シル:( 若干獣じみて )グルルル!!

   グウオォォォ!!

 

ゼオ:ぬ…ぐおおぉ……!?

キシィィ……フンッ!!!

 

シル: ――ッ!?

 

ゼオ:ヌオアァッ!!

 

シル:ウワアァッ!?

   ……ガハッ!!

 

ゼオ:( 荒い息 )――おう、どうした、『サラ』!?

   自慢の白兵(はくへい)で負けたとあっては、

『シルヴィア』の沽券(こけん)に関わるのではないか!?

 

シル:(馬鹿な…奴は魔術も行使(こうし)せずに私の膂力(りょりょく)をいなしている……?

   それは徒手(としゅ)の私に、奴自(やつみずか)らが課した(しば)りだ……。

   如何(いか)にあの大鎌(サイズ)業物(わざもの)であろうと…そんな。)

 

ゼオ:フッ……血沸(ちわ)き肉踊る尋常の勝負の、(なん)と『愉快(ゆかい)』なる事か。

   ……さて、サラ・シルフィードよ?

   貴様(きさま)はどうして(わし)を『痛快(つうかい)』にしてくれる!?

 

シル:( 血を地ベタに吐き捨てる )――。

(いな)、気づくべきだったな。

貴方(あなた)こそは()の国の(ぬし)

200年の戦歴を経て無敗(むはい)

   闇の魔術を極め、数多(あまた)血潮(ちしお)摩耗(まもう)()の身を鍛え上げた伝説の四騎士(よんきし)

 

ゼオ:()のゼオルードを()めて見せろ!!

   悪逆(あくぎゃく)龍姫(りゅうき)よ!!

 

シル:ハァアアアァァァッッ!!!

 

 

( 間 )( 王都アイゼフィール:市中 )

 

 

アー:フンッ!!

   ……お?

 

ミシ:くうっ……!!

ハアッ!!

 

アー:やれやれ……どうだ、ミシェルよ。

クソジジィが造った雑魚共(ざこども)()いているが、

   (つら)(よう)なら俺が前に出てやるぞ?

 

ミシ:いえ……お(かま)いなく。

まだ戦えますから。

 

アー:( 口笛 )――♪

(じつ)の父親を斬り殺して()いて()の強さ。

流石(さすが)は『古き国の』、剣技も心も、段違いで育っていくんだな。

 

ミシ:黒血(くろち)も涙も、早く洗い流すに越したことは無い。

   僕はこの竜剣(りゅうけん)をシルヴィアさんに(たく)すだけです。

 

アー: ……なあ。

お前はそんなにもあいつの事が好きなのか?

 

ミシ:えっ?

   どういう意味ですか?

 

アー:どっこらせっ……と。

……友誼(ゆうぎ)では無い。

『シルヴィア・シルフィード』という女を何処(どこ)まで()いているか?

って意味だよ……()きたいと思うのか?

 

ミシ:だ、団長ともあろう御方(おかた)下品(げひん)な事を……。

   僕はあの人と、何時(いつ)までも一緒に()たいだけです。

 

アー:ハハッ、お前は()だ17だろう?

   生き続けてりゃあ、何時(いつ)似合(にあ)いの女が現れる(はず)だぜ?

 

ミシ:()れは僕が僕として、彼女に(こころ)から(ささ)げた約束です。

   誰にも邪魔はさせない、例えそれが貴方(あなた)であっても。

 

アー: ……つまり、ヤりたいって思わないんだな?

 

ミシ:怒りますよッ!?

   この状況で()くもそんな事をッ!!

 

アー:そうか。

なら、あいつは俺が(もら)おう。

 

ミシ:なっ――!?

 

アー:文句は()るまい?

   シルヴィアは俺の女房で、お前はその友達だ。

   友として、ずうぅっと(そば)()てやれば()い。

 

ミシ:でも……それは……。

   ……です。

 

アー:んん?

 

ミシ:僕だって、男なんですよ?

 

アー: ……ぶっ、フハハハッ!!!

   ハハハハハハッ!!!

 

ミシ: ……。

 

アー:いやまあ、そんな所だろうね。

(なに)、昔のよしみでつい(いじ)めたくなったのさ。

   フフッ……!!

 

ミシ: ……そうですよね。

   だって強くて賢くて、誰よりも頼れるんだから。

   きっと似合いに決まっています。

 

アー:おい、負けるなよ?

若いの。

 

ミシ:クスッ……。

いえ、御蔭(おかげ)で楽になれました。

   早く敵陣を突破しましょう!!

 

 

( 間 )( 暗き闇黒の世界 )

 

 

プー:此処(ここ)……は?

 

影人:深い絶望の中だよ。

 

プー:真っ暗だ……。

誰も()ない……何も照らさない。

 

影人:ニャハハ!!

そうさ、だって此処(ここ)は『 (やみ) 』そのものなんだから。

 

プー:や…み……?

 

影人:誰一人報われる事の無い()の世界が滅びる(まで)

(にい)さんはずっと此処(ここ)で、じっとしていれば()いんだよ。

 

プー:君…は……?

 

影人:俺は(にい)さんの(かげ)。ミルケットと名乗って()た少年の残骸(ざんがい)

 

プー:ミル……桃色(ももいろ)の髪をした…御洒落(おしゃれ)で…寂しがり屋で……。

   何時(いつ)も悲しい()をしていた……。

 

影人:こうして(にい)さんの(そば)には()るけど、影は影だ。

   (ただ)寄り添うことしか出来ない。

 

プー:そうか…やっぱり……。

ミルは死んでしまったのか。

 

影人:ふふん…『(とき)(おきな)』は君たち兄弟を殺して、最悪の造魔(ぞうま)仕立(した)て上げた。

   弟から(ゆず)り受けた『 (かげ) 』の触媒(しょくばい)

   ()れを(もと)に、死んだ兄をわざと(いびつ)に生き返らせたのさ。

 

プー:それじゃあこんなにも自由にならないのは……。

此処(ここ)は……(なに)かの…(なか)

 

影人:そうだよ?

   (てん)を裂かんばかりの醜悪(しゅうあく)黒龍(こくりゅう)

   (にい)さんはその核となっている。

 

プー:うぅ…(にく)しみが入り込んでくる……!!

   駄目だ、人を(うら)んじゃ……!!

 

影人:どうして自分がそんな役割を(にな)っているのか、

本当は解っているのだろう?

(にい)さんは(じつ)(ところ)()の世界が大嫌いなんだよ。

 

プー:違う…そんなのは……!!

 

影人:俺達が持つ『同化(どうか)』の特性(とくせい)

他人の心と自分の心を()き寄せ合い、()かち合う。

   その気になれば憎しみを押し付ける事も出来るさ。

 

プー: ……思い出した。

   確かにあの時……夢の中で手招(てまね)かれた。

   殺し続ける()の世界、愛憎塗(あいぞうまみ)れの()の世界、犠牲(ぎせい)だらけの()の世界。

   その(すべ)てを憎悪(ぞうお)し、(うら)み抜いてみないかと。

 

影人:世界を壊す(ため)(にい)さんは生き返ったんだよ?

   だったら…()すべき事をしないと。

 

プー:そうだ、この()に及んでやる事は決まっている。

   ……ちゃんと(ほろ)ぼさなきゃ。

 

 

( 間 )( 総てを憎悪し、恨み抜いた獣 )

 

 

プー:グオオオオオォォォ!!

 

シル:何だッ!?

   ……あれはッ!?

 

ゼオ:おぉ、やっと動き出しおったか。

   成程(なるほど)のう、出来損(できそこ)ないにしても()の程度の(とき)()かる、か。

 

シル:あの黒龍(こくりゅう)!!

やはり貴方(あなた)()(がね)か!?

 

ゼオ:ふっ、アレは最早(もはや)()の世界を(ほろ)ぼす(まで)()まらぬ。

   (わし)ですら始末に負えぬ最高傑作、『自慢の息子』じゃて。

 

シル:()めて見せる!!

この身に代えても!!

 

ゼオ:そうか……?

   いや、早々(そうそう)にならば勝算(しょうさん)が無い訳でも無いが。

 

シル: ……(なに)

 

ゼオ:(わし)の目的は(なか)ば達成したのでな。

   後は可愛い『孫娘』がどう足掻(あが)くのか、見届けるのも悪くない。

 

シル: ……何処迄(どこまで)貴方(あなた)術中(じゅっちゅう)…と言う訳ですか。

   (すべ)て……私の物語も、誰も彼もが。

 

ゼオ:(なに)(わし)は人間が好きなのよ。

   (ゆえ)(もてあそ)び、試し、喰らうのだ!!

( 満足そうに )(ゆえ)にこそ……。

(わし)を殺す者もまた、人間なのじゃろうなぁ。

 

シル: ……やはり貴方(あなた)は怪物だ。

成程(なるほど)、たかが小娘一匹(こむすめいっぴき)では(かな)わないのかも知れません。

 

ゼオ:それでも意地を張るが戦乙女(いくさおとめ)であろうが?

   ()()らんか!!

   『シルヴィア・シルフィード』の()()けて!!

 

シル:( 深呼吸 )――。

   そうですね、これら(すべ)てが貴方(あなた)謀略(ぼうりゃく)であるならば、

()の私が()(すべ)てを踏破(とうは)すれば()む話だ。

 

ゼオ:フハハッ……!!

あの黒龍(こくりゅう)めは、プーデットを触媒(しょくばい)にして産み出した(いにしえ)災厄(さいやく)よ。

 

シル: ……?

 

ゼオ:解らぬか?

   (まがまが)々しきあの姿は、奴を(いびつ)に生き返らせた『 (あく) 』そのもの。

   となると、(えにし)の者が唖奴(あやつ)の核に辿(たど)りつき、

説得すれば…あるいは。

 

シル:あれが…プーデットだと?

 

ゼオ:お(ぬし)の好きにするが()い。

   生きるか、死ぬか。

   これ程の自由はあるまい?

 

シル:……私は。

 

ミシ:シルヴィアさん!!

 

ゼオ:むぅ?

 

ミシ:よ、()かった!!

   間に合ったんだぁ!?

 

シル: ……決まっている。

 

ミシ:シルヴィアさん?

 

アー:どうしたってんだ、シル?

   今から()り返すんだろうが?

 

シル: ……し、世界が救えたとしたら。

 

アー:ああ?

 

シル:その役目は、貴方(あなた)に託しても()いですか?

   団長。

 

アー: ……ッ!?

   (なん)て顔しやがる……!!

 

シル:ごめんなさい。

   だけど、行かなきゃいけないんです。

 

ミシ:い、一体何処(どこ)へ……?

   一緒について行きますよ!?

   貴女(あなた)(そば)()てくれるなら、僕は何処迄(どこまで)()ちていけますから!!

 

シル:ふふっ…有難(ありがと)うミシェル。

   嬉しいけれど、お前は折角(せっかく)生まれ変わって綺麗(きれい)になったんだから、

   後は幸せに生きてくれ。

 

ミシ:嗚呼……駄目だ、そんなの。

   その笑顔は…まるで昔の、あの時の僕じゃないか!!

 

ゼオ: ……(はら)を決めたか。

 

プー:グオオオオオォォォ!!

 

ミシ:まずい!!

黒龍(こくりゅう)が向かってくる!?

 

ゼオ:狼狽(うろた)えるでない、フィーバストルテの子倅(こせがれ)よ。

(ただ)(いと)しの(あだ)を喰らいに来ただけの事であろうが。

 

アー:(あだ)

   ……秘蔵の龍、シルへの(うら)み、取り巻く混乱。

   ……まさか!?

 

ゼオ:余計な者までついて来たのは誤算じゃったが、

   これで(わし)を殺せる者が()なくなる事に変わりは無いな。

 

アー:考え直せシルヴィア!!

   奴が奴のままで(い)ると何故(なぜ)解る!?

   アレはもう出来損(できそこ)ないだ!!

 

シル: ……団長は、そんな出来損(できそこ)ないだった私を拾って、

   こんなにも広い世界を教えてくれたじゃないですか。

 

アー:うるせぇって言ってんだよ馬鹿!!

だから俺はお前の事が必要になったんじゃねえか!!

 

シル:さよなら、アーウィン。

 

アー:()いから早くこっちへ来い!!

   早く――!!

 

プー:( 途中から被せて )グオオオオオォォォ!!

 

ミシ:シル…ヴィア……さん……?

   そんな……!!

 

アー:ぐっ…馬鹿野郎がッ……!!

 

 

( 間 )( 暗き闇黒の世界:臓腑の迷宮 )

 

 

シル:此処(ここ)……は?

   私は確かに、黒龍(こくりゅう)一呑(ひとの)みにされた(はず)だが?

 

影人:やあ♪

 

シル: ……お前は…違うな。

 

影人:僕は欠片(かけら)です。

何処(どこ)にでも()て、何処(どこ)にも()ない人です。

 

シル:ジーニアスの影……?

   いや、ミルケットか?

 

影人:ニャハハッ♪

その両方ですよ。

   もう随分と昔に成仏しているんですが、やっぱり(にい)さんが心配で。

 

シル:それじゃあ、やっぱりプーデットは此処(ここ)()るんだな!?

 

影人:こうなってしまった以上、貴女(あなた)が生き残るには(にい)さんを説得するしかない。

   そうでなければ、世界が壊れる(まで)、永遠にその(さま)を見続ける事になる。

 

シル:()れでも()い…いや、そもそも説得するつもりも無いのかもしれない。

 

影人:(まった)く……変な所で頑固で素直なんだから。

   犠牲(ぎせい)の果てに犠牲(ぎせい)を招く。

   それが貴女(あなた)の愚かさであり、貴女(あなた)らしさだったね。

 

シル:案内してくれないか?

 

影人: ……本当に()いのかい?

 

シル:ん?

 

影人:今の(にい)さんは歪曲されている訳でも、誇張されている訳でも無い。

   憎しみに()りつかれた(みにく)黒龍(こくりゅう)そのものだ。

貴女(あなた)への愛憎は、立ち直れない程に()の心を傷つけるかも知れない。

 

シル:どうぞ好きにしてくれと言うのだ。

私の言いたい事も大体(だいたい)決まっているしな。

 

 

( 間 )( 暗き絶望の世界:心臓核の間 )

 

 

影人: ……来るよ。

 

プー:誰が?

 

影人:(にい)さんが(ただ)一人、心の底から愛し、憎んだ人さ。

 

プー:そんな人は()ない。

   利用されるだけの命だった。

だから、人の気持ちなんて(なに)一つ理解出来なかった。

 

影人:それでも彼女は(すべ)てを(にい)さんに(ささ)げるってさ。

   (なに)もかも、自分の身体も夢も、全部。

 

プー: ……そんな人間が…()る訳が無いよ。

 

影人:ふふっ。

   ……果たしてそうかな?

 

シル: ……プー…デット?

 

プー: ――ッ!?

 

シル:プーデットだね?

   ()かったぁ……此処(ここ)()てくれたんだね?

 

プー:シル…ヴィア……!!

 

シル:嬉しいね……涙が止まらないよ。

   ごめんね……?

 

プー:(にく)い、お前も()の世界も、自分自身も!!

   こんな世界なら生まれなければ()かった!!

   こんな不幸なら誰とも出逢(であ)わなければ()かったんだ!!

 

シル:プー……?

 

プー:絶対に殺してやる!!!

()くもこんなに無茶苦茶にしやがって!!

   御蔭(おかげ)で僕は、泣きながら(みんな)を殺し尽くす羽目(はめ)になったんだ!!

 

シル: ……そっかぁ。

   プーは、()の世界で生きる人達に絶望してしまったんだね?

 

プー:そうだ!!

   お前はミルケットを殺した!!

(みんな)(だま)されて竜騎士に()った僕の弟を!!

   本当は……本当はお前が死ねば()かったのにッ!!

 

シル:ごめんね……。

 

プー:お前は(すべ)てを駄目にする!!

   生きていたら、きっとまた誰かを殺すに違いないんだ!!

   だからお前は、死んだ方が()いんだよッ!!!

 

シル: ……もし、

私が死ねば…プーは殺戮(さつりく)()めてくれるかい?

 

プー:()める訳無いだろう!?

   僕は(みんな)が嫌いなんだ!!

   全部が(にく)くてもう……死にたくても死ねないんだ!!

 

シル:お願い、プーデット。

   私の話を聞いて?

 

プー:嫌だッ!!!

 

シル:なら聞かなくても()い。

   だけどこれから貴方(あなた)に言う言葉は、(すべ)て私の本心(ほんしん)だから。

   せめて私にも話す自由を与えて欲しい。

 

プー: ……!!

 

シル:貴方(あなた)が世界を滅ぼすと言うのなら、それはそれで構わない。

 

プー: ――ッ!?

 

シル:大丈夫だよ?

   それでも私はプーと共に生き続ける。

   何時迄(いつまで)もずっと、此処(ここ)で傍に()てあげる。

 

プー:そんな……僕が地獄を創っても()いってのか!?

 

シル:だって、私はプーが好きなんだ。

   優しくて、素直で、おっちょこちょいで。

   私の事を愛してくれた…プーデットが大好きなんだ。

 

プー:僕は、最低なんだ。

   一番認めたくないのは…自分自身なんだ!!

 

シル:誰だってそうだよ?

   だから人に認めて欲しくて、

努力して、真似(まね)して、傷ついて。

   ()れが嫌だから、

傷つけて、独りであろうとして、放棄(ほうき)する。

 

プー:僕を認めないで…シルさん。

 

シル:どうして?

 

プー:僕はもう、本当は……諦めたいんだプー。

   誰にも必要とされてないって、誰でも()いから言って欲しいんだプー。

 

シル:私はプーが好きだ。

   プーが生きていてくれるなら(なん)でもする、例え人殺しだってするよ?

 

プー:シルさんに、そんな事はさせたくないプー。

 

シル:()いんだよ、私は(たい)した女じゃない。

   生まれた村を滅ぼして、やさぐれて、

傭兵団に入って、ようやく騎士に()ったけどさぁ、

   最後には全部失って、巡り巡って此処(ここ)まで来てしまっただけさ。

 

プー: ……そんな事無いプー。

   シルさんは立派な人だプー。

 

シル:君一人救えない人生なら私に価値なんて無いよ。

   だからせめて、君と一緒に死んであげる。

 

プー:プーーー!!!

   嫌だプー、シルさんに死んで欲しく無いプー!!

 

シル: ……本当に()いんだよ?

 

プー:嫌だ嫌だ、シルさんは死んじゃ駄目プー!!

   思い出したんだプー!!

   僕はシルさんの幸せな未来を夢見てたんだプー!!

 

シル:私……の?

 

プー:何時(いつ)かアーウィンさんと一緒に、僕のお店に来て欲しかったんだプー。

   毎年々々(まいとしまいとし)何時(いつ)か子供も連れて、僕の料理を食べて、

   今が幸せだって言ってくれたら……!!

僕はそれで、満足だったんだプー!!!

 

シル:ふふっ、もう充分幸せだよ。

 

プー:えっ?

 

シル:私の幸せをこんなにも想ってくれる人が()た。

   私の人生は報われた物だった。

   それで()い、それだけで()い、だから。

 

プー:どうすれば()いプー?

 

シル:プーの夢を大きくしよう?

   もっともっと、見果てぬ人の幸福(しあわせ)(まで)

夢を見る愚者が()ても()いじゃないか。

   プーはそういう人間に()れば()いんだよ。

 

プー:ううん……僕なんかが、()れるのかなぁ?

 

シル:大丈夫。

   私は何時(いつ)でもプーの傍に()る、呼んでくれたら駆けつけるから。

 

プー:ププッ♪じゃあ怖い物なんて無いプね?

   きっとシルさんは僕を助けてくれるプー。

 

シル:ああ、傷つきながらも生きていこう。

   何時(いつ)までも夢を見て、何時(いつ)出逢(であ)う人々を祝福(しゅくふく)していこう。

 

プー:プーーー!!!

 

影人: ……()い答えだ。

 

プー:ミル……。

 

影人:()かったよね、(にい)さん?

   ()の世界に生まれて来て……()かったよね?

 

プー:もっと色んな人と話がしたいプー。

   前も後ろも人で一杯。

   僕はきっと、(みんな)()るから笑顔になれるんだプー。

 

影人:ははっ、これだから2人とも大好きなのさ。

   ……じゃあね、(にい)さん。何時(いつ)かまた()えるその時まで。

 

プー:プププッ♪

ミルケットもね?

   きっとその時を楽しみにしてるプー。

 

シル:貴方達(あなたたち)を救うことが出来なかった私に言えた義理ではないが、

   どうかプーデットの事は任せて欲しい。

   そして……()まなかった。

 

影人:いやいやいやいや!!

貴女(あなた)が謝る事なんて何一つも無いさ!!

   ……嗚呼、でも一つ。

 

シル: ……なんだ?

 

影人:僕達は貴女(あなた)()えて()かった。

   サラ・シルフィード。

   どうか幸せに、その優しさを何時(いつ)までも(そこ)なわずに。

 

シル: ……ッ!?

 

プー:プップップー♪

僕の名前はプーデット・サンシャイン!!

   夢に向かって邁進(まいしん)中だプー!!

 

シル:嗚呼……あああぁぁ……!!

 

影人:早く行ってあげなよ。

   もう後悔したくないんだろう?

 

シル: ……有難(ありがと)う!!

   ………本当に有難(ありがと)う!!!

 

 

( 間 )( そして舞台は整い )

 

 

ミシ:黒龍(こくりゅう)の身体が崩壊していく!?

   やった、シルさんが黒龍(こくりゅう)に打ち()ったんだ!!

   シルさんは未(ま)だ生きてますよ!!

 

アー: ……ふっ。

あのバカ女、筋金(すじがね)(はい)()ぎだ。

 

ゼオ:むぅ……これはいかんのう。

 

アー:( うんざりと )――(なに)がだ(じい)さん?

   アンタは(いま)だに不死身(ふじみ)だ。

そして自慢の影ももうじき戻る。

   これでようやく一矢報(いっしむく)いたって所だろうが?

 

ゼオ:いや、窮地(きゅうち)には相違無(そういな)いぞ?

   (じつ)の所、(わし)の寿命はとっくに限界でな、

   殺されはせぬにしても、天寿(てんじゅ)に追いつかれる寸前とあらば、ふっ。

……笑い話にも成らぬわ。

 

ミシ:ならば()れ以上(なに)(たくら)むと言うのです!?

   生の理(ことわり)に(さから)ってまで、貴方(あなた)は一体(なに)を望むと言うのですか!?

 

ゼオ:しかし無念よ、

出来ればアイゼフィール全土を覆うつもりだったのじゃがなぁ。

   (おとろ)えは隠せぬが……まあ此処(ここ)は、見事なサラの意地(いじ)を見習うとするか。

 

アー:(なに)ッ!?

   この禍々(まがまが)しい魔方陣(まほうじん)は……まさか『羅刹陣(らせつじん)』か!?

 

ゼオ:左様(さよう)()血族(けつぞく)犠牲(ぎせい)に、命と能力を喰らい取る禁術の最終形。

   ()の規模でも数千人は吸収出来よう。

 

ミシ:だ、だけどッ――!!

   貴方(あなた)は『それ』で一族(すべ)てを喰らい尽くした(はず)!!

   もうゴラムザード家で残っているのは貴方(あなた)…ひと…り……!?

 

アー:ああ、段々と解って来たぜ!!

   貴様(きさま)(たくら)みとやらがな!!

 

ゼオ:(みな)、聴け。

   アイゼフィールの勇士達よ。

 

アー:させんッ!!

   ……クッ!?

 

ミシ:駄目だ、あの人に(やいば)は届かない!!

 

アー:(にせ)の竜騎士を喰らって手に入れた『同化(どうか)』の力と、

   人の脳に直接語りかける『伝心術(でんしんじゅつ)』。

 

ゼオ:国土は荒廃し、そして今、王都には世界を覆い尽くす悪龍(あくりゅう)が産みだされた。

   他ならぬ陛下の尽力と、(わし)(みずか)らの手で退治には成功したが、最早(もはや)満身創痍(まんしんそうい)

 

ミシ:時間を巻き戻し、死を無かった事にする『夢幻陣(むげんじん)』、

   そして、死者を(よみがえ)る事すら可能にする『ジーニアスの影』。

 

ゼオ:それでも(なお)諸君等(しょくんら)()の愚かな宰相(さいしょう)に祖国の威信を託すと言うのであれば、

   (おう)とも、(わし)に出来る最善を果たそうではないか。

 

アー&(ミシ):(さじ)を投げてぇなぁ。

()の人は……無敵だ。)

 

ゼオ:お前達を殺させはせぬ。

(わし)()の国の民を(はら)の底から愛して()る。

   兵士も、民草(たみくさ)も、咎人(とがひと)(すべ)て!!

   アイゼフィールに生きる者は皆、他ならぬ()が『 () 』よ……!!

 

アー:ミシェル、息を整えて置け。

これから(なに)が起ころうとも、あいつが戻ってくれば勝ち目は()る!!

 

ミシ:は、はいッ!!

 

ゼオ:(ゆえ)(わず)かで()い、(みな)の命を(わし)に呉れぃ!!

   ()の力で必ずや捲土(けんど)重来(ちょうらい)してみせる!!

   どうか()のゼオルードに(いにしえ)の魔力を!!!

 

アー&ミシ: ――ッ!!??

 

 

( 間 )( 不死身の魔人 )

 

 

ゼオ:( ※三段笑いで段々と若返って下さい )

フッ…フファファッ……フハハハハッッ!!!

 

ミシ:( 固唾を飲む )――!!

これは……!?

 

アー:(なん)だ…その姿は……!?

 

ゼオ:(よみがえ)ったぞ!?

そうか、()れが『 (ちから) 』かッ……!!

   フハハハハッ……!!

 

ミシ: ……黒龍(こくりゅう)なんかより、(なお)たちが悪い。

まさか全盛期(ぜんせいき)のゼオルード様が相手だなんて。

 

ゼオ:さあ、行くぞお前達……?

   (かつ)七賢人(しちけんじん)にすら匹敵すると()われた()が魔力、

   存分(ぞんぶん)に味わうが()い!!




 
 
 
     
 
           
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