題名  公開日   人数(男:女:不問)  時間  こんな話  作者

 風のシルヴィア(33)
Dragon(ドラゴン) Knight(ナイト)

2015/10/09  5(3:1:1) 30分 ……只其れだけを生き甲斐に此処まで来た。……此処まで来てしまった。  ニコ

登場人物
(年齢)
性別 その他
シルヴィア
(262)
古の大英雄。竜騎士。『ディオールの四騎士』。
彼女は誰よりも傲岸で怪力無双の騎士であったが、
半竜の其の魔性は数多の英雄すらも惹きつけたと言う。
※何時ものシルヴィアさんとは違う人です。
ゼオルード(226)
&
老人
アイゼフィール宰相。魔法鎌士。『古き国の四騎士』。
数千人分の命を吸い取り若返った青年。
シルヴィアを生き返らせる為に策略を巡らせた。
※老人と兼ね役でお願いします。
オーズィ
(31)
鉄の国アイゼフィール国王。残念なイケメン。
道化を甘んじて受け入れる度量と確かな技量を併せ持つ賢君。
昔々、ピエトロの為に呪いを受けて全力を出せない身体になった。
ピエトロ
(45)
鉄の国の近衛長。英雄並みの腕を持つ騎士。
嘗ては一介の浮浪者に過ぎなかったが、オーズィの影響で成長する。
其の忠勇と実力、過保護っぷりは鉄の国全土に知れ渡っている。
プーデット
(21)
不問 子豚系アイドル。シルヴィアの親友。
人並み以上の感受性を持ち、誰かに何かを訴える実力も在るが、
其れはきっと、只ひたすらに真心から出た言葉だからなのだろう。



「風のシルヴィア(33)~ Dragon(ドラゴン)Knight(ナイト)~」





四騎士の塔の頂上にてシルヴィア一行にボコられたゼオルードは起死回生の一手を放つ。

一方塔の真下は不死族・造魔の類が跋扈する王都アイゼフィール。

国王オーズィはシルヴィアの友を庇護しながら彼女からの朗報を待って居た。





( 王都アイゼフィール:永い白昼も蔭り行く中で )

 

オー:さて、シルヴィアが託した()の小僧。

一体どう守ったものか……。

 

プー:( 寝息 )スピー……スピー……。

   んん……もう食べられないプー……。

   プヒヒッ!!

 

オー:存外(まこと)の安らぎとは、

重荷を背負った時に気付くものやも知れぬな。

 

ピエ:陛下……?

 

オー:んんッ!?

 

ピエ:陛下……陛下ァ……!!

 

オー: ……お前、ピエトロか?

 

ピエ:良くぞぉ、良くぞ御無事で……!!

 

オー:無事ではぬぁああい!!

 

ピエ: ――ッ!?

 

オー:見ろ、実は色々あったのだ!!

先程までバッキバキだったのだぞ、骨バッキバキ!?

 

ピエ:ならば尚更帰還して良かった!!

 

オー:ぬぁにぃ~?

 

ピエ:だってそうでしょう!?

   陛下の御傍(おそば)を離れて、

私はどうして『近衛長(このえちょう)』を名乗って()られるのですか!?

 

オー:(ゆえ)に一人だけ命に(そむ)き、前線(ぜんせん)から戻ってきたのか?

   ハッ、全く(たい)した律義者(りちぎもの)だぞ、それは!!

 

ピエ:好きに(おっしゃ)るが()い!!

15年前に貴方(あなた)から頂いた()の命、

   黒冥石(こくめいせき)の名の元に、必ずや武功(ぶこう)(のこ)して御覧(ごらん)()れます!!

 

オー:随分と昔の話ではないか。

   土壇場(どたんば)ついでに忘れて仕舞え。

 

ピエ:私は(かつ)て……家族を救う為に不治(ふじ)(やまい)を背負い。

   そして貴方様(あなたさま)に……自らの死を無かった事にして頂いた。

 

オー:そうだったかな?

 

ピエ:(ゆえ)に私は永久(とわ)の臣下(しんか)なのです。

   ですが、取り()の無い私に出来る事と言えば、

陛下の御身(おんみ)を護る事しか無いではないですか。

 

オー: ……。

 

ピエ:決して友誼(ゆうぎ)の為ではない、

この忠誠こそが……私の!!

 

オー:おこがましいわッ!!

 

ピエ: ……ッ!?

 

オー:(おご)るなよ、ピエトロ・クラウーダ!?

   ()はアイゼフィール王国国王、オーズィ・アイゼフィールなるぞ!?

   貴様如き(いや)しい身分のオチョンピトゥに―――あ痛たッ……!!

 

ピエ:陛下ッ!?

 

オー:全く、今のお前なら一人で『(やみ)(あな)』に挑むことも可能だろうに。

   俺自身がお前の(のろ)いになってしまうだなんて、思いもしなかったよ。

 

ピエ:はぁ……ならば私は(なん)と幸福な呪縛者なのでしょうか。

 

オー:あんだってぇ?

   今何と仰いましたか?

 

ピエ:どうせ人間など100年は生きられぬのです。

   それが早々(はやばや)に生き甲斐を見出(みい)せた、ならば。

()れた男の呪詛(じゅそ)(まみ)れて死ぬのも悪くない。

 

オー:抜かせ、ドМが。

 

ピエ:今後とも。

御歴々(おれきれき)についていける様、精進(しょうじん)して参ります。

 

オー:( 溜息 )――良かろう。

   ならば貫いて魅せるが良い。

   誇り高き冒険者め。

 

ピエ:ハッ!!

()身命(しんめい)に誓って!!

 

 

( 間 )( 独白:過ぎ行く時を騙り、過ぎた夢に語りかける者 )

 

 

ゼオ:聞こえるか、友よ……?

   (おう)とも、連戦続きの連敗続きで、(いささ)蕭々(しょうしょう)としては()るが、じきに良くなるさ……。

見よ、(すべ)てを破壊するあの烙印(らくいん)を。

フッ…フハハハッ…!!!

 

 

( 間 )( 王都アイゼフィール:目覚めし者はいにしえの )

 

 

プー:プー……。

声が……するプー。

 

オー:おっ。

 

ピエ:そういえば……そこな(わらべ)何者(なにもの)なのですか?

 

オー:ああ、シルヴィアの(ともがら)だとよ。

   余程大事な小僧(こぞう)らしい。

 

ピエ:はあ……???

 

プー:世界を滅ぼす力……闇の龍姫(りゅうき)

 

オー:竜…騎?

 

プー:()火怨(かえん)()は力。

   (おご)り高ぶる怪物の(おさ)は天地を呑み込み……。

   やがて己が身すらも喰らい尽くすだろう。

 

ピエ:なんだ、突然……。

これは託宣(たくせん)…なのか……?

 

オー:()言霊(ことだま)……まさか。

 

プー:()の者は悪辣(あくらつ)(きみ)

   ()の者は(いにしえ)(けもの)

   ()の者は……英雄殺しの英雄。

 

ピエ:肌が粟立(あわだ)つ……!!

   こやつめ、一体何を(かつ)がされている!?

 

オー:止めろ。

   恐らく宣告者を斬って納まる(だん)ではあるまい。

   ……それに。

 

ピエ:如何(いかが)なさいました!?

 

オー:空が……落ちてくるな。

 

ピエ:空と……なっ!?

   隕石(いんせき)だとッ!?

   此処(ここ)を目指しているのか!?

 

オー:あんな馬鹿げた禁術を発動出来るのはゼオルードくらいのものだが。

   そうか……シルヴィアはしくじったか。

 

ピエ:おのれ、アイゼフィール王国の宰相(さいしょう)を名乗っておきながら!!

   由緒(ゆいしょ)ある『四騎士(よんきし)の塔』ごと我々を一掃(いっそう)するつもりか!?

 

オー:守護方陣は敷けるか?

   ピエトロ。

 

ピエ:無論(むろん)です!!

   ですがあれ程の質量……耐えきれるかどうか。

 

オー:(なん)とか生き延びよう。

   (こと)顛末(てんまつ)を見届けるまでは死んでも死にきれん。

 

ピエ:陛下の御身(おんみ)は何が何でも御護りします!!

   ()(いのち)に替えてもッ!!

 

オー: ……命、命と五月蠅(うるさ)い奴だなぁ。

   お前が此処(ここ)で死んだら、今後一体誰が俺を守るのだ?

 

ピエ:へ、陛下……!!

 

オー:2人で行こう。

 

プー:もう遅い……。

   やがてその魔性(ましょう)は、世界の隅々に傷痕(きずあと)を遺すだろう。

   13の禁を犯し、(かつ)皇子(おうじ)すら(とりこ)にしたその瞳で、

   ()箱庭(はこにわ)世界(せかい)を破壊し続けるのだろう。

 

ピエ:こやつ――!!?

 

オー:( 被せて )()いから備えんか、たわけッ!!

 

ピエ:ぐっ!?

 

プー:()の者の名は……。

 

ピエ:ヌゥオオォォッ!!?

 

 

( 間 )( ※回想シーン )( 13年前:龍封樹 )

 

 

シル:(なが)摩耗(まもう)の中で……。

   一体私は(なん)の為に生き続けたのだろう?

 

老人:是非とも伺いたいものだ。

   お主の生き(ざま)は知ってはいても、死に様迄(ざままで)知る者はそうは()るまい?

 

シル:いや…だからこそ、()の答えは出さずに終えたのだ。

せめて『 (ひと) 』として、出した瞬間に名乗れなくなる言葉を呑み込んで。

 

老人:(ゆえ)に誰も寄りつかぬ大樹(たいじゅ)(うろ)で死に絶えたと?

   カッ、竜騎士ともあろう者が()まらぬ末路よな。

 

シル:(ひと)(せい)として、()れは余りにも永過ぎたのだ……。

   飽き足りた血の匂い、欺瞞(ぎまん)に満ちた下らぬ世界……。

私の紅い眼には、最早(もはや)汚い者しか、汚物(おぶつ)しか見えなくなった……だから。

 

老人:フハハッ……どれだけ生きようが()は人か。

   所詮、世の(ことわり)からは誰も逃れられぬらしい。

 

シル:(なん)とも無様(ぶざま)だが、だからこそ()える者も()る。

 

老人:ほう?

 

シル:私は何一つ損なわずに死んでいった。

()が名はシルヴィア・アルトルージュ。

   史上無敵にして、世界最強の騎士だ。

 

老人:誰もそれを否定はせぬさ。

   だからこうして(おもむ)いたのであろうが?

(わし)は……どうしてもお主に逢いたくてのう。

 

シル:忘れ去られてしまえば……それはそれで嬉しかったが。

   誰かに必要とされれば応じねばならぬ。

   魂となって(まで)求められるのは……億劫(おっくう)だなぁ。

 

老人:ふふ…良いぞ?

   中々(なかなか)に素直になって来たではないか。

   そう、所詮我等は同じ者よ。

 

シル:同じか…そうだな、永き者よ。

   ならば(よしみ)で答えてやろう。

   ()先達者(せんだつしゃ)に何を問う?

 

 

( 間 )( 崩壊した王都:埃舞う灰色の世界 )

 

 

オー:むんっ!!

……ゲホッ、ゲホッ…生きておるかー?

ピエトロー?

 

ピエ:ええ……ですが……。

ふっ、ふふふっ……!!!

 

オー:ああん……?

ああ、笑うしかないな。

   目の前のあの2人。

 

ピエ:時を経て(なお)解る事もある。

   あの煌々(こうこう)たる龍気(りゅうき)

星色の髪に血の様な真紅(しんく)(ひとみ)

 

オー:(ほとばし)瘴気(しょうき)伝来(でんらい)大鎌(たいけん)

   瑞々(みずみず)しい黒髪(くろかみ)(すず)やかな風情(ふぜい)

   ああ、あの爺様(じいさま)め、肖像通(しょうぞうどお)りの美男(びなん)じゃないか。

 

ピエ:古い獣……悪い冗談だ。

   あれが若返った時の(おきな)の切り札か。

 

オー:鉄の国の騎士として、誰もが憧れた伝説の英雄。

 

ゼオ:眼は醒めたか、龍輝石(りゅうきせき)(ぬし)よ。

 

シル:此処(ここ)は……何処(どこ)だ?

 

ゼオ:王都アイゼフィール。

   300年前、お前が尽くした国だ。

 

シル:()れが……?

   (ひど)有様(ありさま)だ……瓦礫(がれき)だらけで、(なに)も残って()らぬじゃないか。

 

ゼオ:お前を生き返らせる為に随分と犠牲(ぎせい)にした。

   本当に……永く尊い犠牲(ぎせい)の果てだった。

 

シル: ……うん?

……お前は同じか?

   冥府(めいふ)で私に話しかけてきたあの『若僧(わかぞう)』と。

 

ゼオ:若造(わかぞう)……?

フッ、()が名はゼオルード・ヴァロ・ゴラムザード。

   1000年の血を受け継ぐ『古き国の四騎士(よんきし)』が(おさ)だ。

 

シル:同じだと言え。

   下らん言い廻しは好きじゃない。

 

ゼオ:そうか、ならば直截(ちょくさい)に聞こう。

 

シル:( 背伸び )――。

   伺おう、『(とき)(おきな)』殿?

 

ゼオ:シルヴィア、()の俺の生き(ざま)をどう思う?

 

シル: ……んん?

   どう、とは?

 

ゼオ:()の姿で、()の光景にお前を呼び出し、

一体お前は俺をどう思うのか。

……(ただ)()れだけを生き甲斐に此処(ここ)まで来た。

   ……此処(ここ)まで来てしまった。

 

シル:お前、余程の馬鹿か?

 

ゼオ:何を今更、俺なぞとっくの昔に壊れ者よ。

   その昔、龍封樹(りゅうふうじゅ)で散々に語り聞かせたではないか。

 

シル:(ゆが)み過ぎだろう?

   『四騎士(よんきし)』ともあろうものが、問い一つで国を滅ぼすとは。

 

ゼオ:その『四騎士(よんきし)』も粗方(あらかた)が消え去った。

   俺が壊した、(なに)もかも、そして残る(すべ)ても()()く終わるだろう。

   ……俺の手には、もはや(なに)一つ残って()らんのだ。

 

シル:成程()んでいる。

   ……()れは(むく)いてやらねば(あわ)れだなぁ?

 

ゼオ:どうか望みを叶えて欲しい。

   俺は……お前の瞳にどう(うつ)る?

 

シル:フッ、私に懸想(けそう)した(まで)()い。

   私は最上(さいじょう)の女だからな、()れは(ゆる)そう。

   ……だがな?

 

ゼオ:(なん)だ?

 

シル:(ただ)それだけだと言うのが気に入った!!

   俗物(ぞくぶつ)ならば私の力を利用し、世界を征服するだのとのたまうだろう?

   そんな()まらぬ男なら即座に殺してやったものを、お前は!!

()()がれ、

あまつさえ死んだ女一人を生き返らせる為に此処(ここ)まで犠牲にしたってぇ?

   アハハッ、アーハッハッハッ!!!

 

ゼオ:( 笑い声の途中から被せて )……そうか…可笑(おか)しいか。

   ()(がた)い…()の言葉だけで()のゼオルード。

   (ただ)()れだけで……!!

 

シル:ククッ……でぇ?

   ()れからどうする?

   私を口説いて()(よう)にするつもりかい?

 

ゼオ:お前程の女だ。

   (はな)から(ぎょ)しきれるとは思っていない。

 

シル:賢明だな。

 

ゼオ:だが竜騎士よ。

(ゆる)されるならお前の夢についていきたい。

   改めて、深い闇の底でお前が(いだ)いた大望(たいぼう)を聞かせて(もら)おう。

 

シル: ……そうだな。

   生前(せいぜん)の私は誰かに己を見て貰う為に戦って来た。

   ……ならば。

 

ゼオ:真逆(まぎゃく)(つらぬ)くと?

   (かつ)ての伝説、『英雄殺(えいゆうごろ)し』の()のままに。

 

シル:ああ。

今度は私がお前達を見てやろう。

   私を相手取(あいてど)り、お前達がどれ程(みにく)足掻(あが)くのか。

   私はそれらを吟味(ぎんみ)する為に、()の世界を好き勝手に殺し廻るとするよ。

 

プー:プーーーー!!

 

シル&ゼオ:んっ?

 

プー:プゥオォォォ!!!

 

オー:おぎゃああぁぁ!?

待たんかい、小僧ッ!!

 

ピエ:陛下、御自愛(ごじあい)下さい!!

   スリップダメージが半端無いです!!

 

オー:えっ!?

   (あつ)ッ、え、熱いええぇぇ!!?

   止まって子豚ちゃぁぁん!!!

 

プー:させないプーーー!!

 

オー:ジュウワアァァァ!?

   身体が()千切(ちぎ)れるうぅぅぅ!!!

 

ピエ:陛下アァァァ!!?

 

シル: ……(なん)だ、この馬鹿どもは。

 

ゼオ:ああ、(わら)いながら殺し合うに()る者達だ。

   ……つまりは俺達の敵だな。

 

プー:僕の名前はプーデット・サンシャイン!!

   夢に向かって邁進中(まいしんちゅう)だプー!!

 

ピエ:()()はピエトロ・クラウーダ!!

   鉄の国アイゼフィールの誇り(たか)近衛長(このえちょう)なり!!

 

オー: ……うん、はい。

 

ゼオ:ふふっ、貴方(あなた)は名乗らぬのですかな?

   満身創痍(まんしんそうい)(いくさ)主殿(あるじどの)

 

オー:えー。

 

ピエ:陛下、どうか御安心()されよ!!

   ()の私が御守り(おまも)して差し上げる!!

   さあさあ、御存分(ごぞんぶん)口上(こうじょう)を!!

 

オー:ぴゃーい……。

ええっ、と…オーズィ、っす。

竜騎士シルヴィア・アルトルージュ殿とお見受けするが、如何(いか)に?

 

シル:ああ、相違無(そういな)い。

   晴れて()の度(たび)蘇った。

 

オー:ならば何故(なにゆえ)祖国に仇成(あだな)す?

ロヴェル・カトレイドの末孫(まっそん)として、

()れは看過(かんか)出来ぬ反逆だ。

 

シル:お前は……そうか、あいつの!!

   300年前だぞ、それは!!

 

オー: ……酷い話じゃないか。

『ディオールの四騎士(よんきし)』……最早(もはや)バラバラだが。

   最後の最後で貴女迄(あなたまで)が私を裏切ると言う。

()父祖(ふそ)と共に夢見る冒険をした()竜騎士殿(りゅうきしどの)が。

 

シル:お前達がそれを言うのか?

   ……やはりあの男の子孫(しそん)だな。

 

オー:(なに)

 

ゼオ:ふっ。

 

シル:私はな?

   別段(べつだん)お前達が憎いわけでも殺す義務がある訳でも無いよ?

 

ピエ:ならば今からでも遅くは無い!!

   (あやつ)られていると言うのであれば、()奏者(そうじゃ)を倒せば済む事!!

 

シル: ……『 ヒト 』とはな?

 

ピエ:うっ!?

 

シル:誰もが()しき所と()き所を持っていて、互いに()れを認め合える存在だ。

   だが何時(いつ)()にか、天秤が傾いたままに動かぬ己の心に気付いた時、

その時は、誠心誠意を(もっ)て相手を破壊せずには()られなくなる、

(じつ)(むな)しい生き物なんだよ。

 

ピエ:(なん)と……悲しい眼をなさるのだ。

 

シル:ピエトロと言ったか。

   私がお前達の敵となるのはそれ程(まで)に悪い事なのかい?

 

ピエ:(せき)を問うつもりはない!!

   だが私は(かつ)て、一介(いっかい)の冒険者として『ディオールの四騎士(よんきし)』に焦がれた!!

   何も持たぬ浮浪(ふろう)の少年少女に、竜騎士である貴女(あなた)が出逢い、

   土の神獣のラビリンスを攻略し……古き国と戦い……やがては!!

 

シル:確かに『私達』はアイゼフィールを創ったさ。

   (みな)が夢見る理想郷(りそうきょう)、語れば(やす)いが、(なん)とも幸福な日々だった。

   ああ……確かにあの頃はそうだったな。

 

ピエ:()めてくれ……それ以上は、貴女(あなた)の口からは聞きたくない。

 

シル:では、これにて話は終わりだな。

 

プー:プー!!

 

オー&ピエ: ――ッ!?

 

シル:そうだな、元気な坊や、まだ坊やが残って()たな?

 

プー:お姉さんは、『シルヴィア』さんって知ってるプー?

 

シル:いいや……知らないな。

   一体誰の事だ?

 

ゼオ:13年前、お前の血を受け入れた『サラ』と言う名の子娘(こむすめ)だ。

   それが(なん)因果(いんが)か、お前の名を(かた)り俺を大層(たいそう)(わずら)わせてくれた。

 

シル:私の血を……不幸な女だな。

 

プー:シルさんは、何度も何度も、後悔して傷ついても、

絶対に自分の夢を諦めなかったプー。

 

シル:夢の為……か。

夢とは何かな?

 

プー:『竜騎士シルヴィアみたいな大英雄に()る事』……って言ってたけど、

   多分本当は違うと思うプー。

 

ゼオ:ほう、ならば何だ?

   早々(そうそう)に舞台を降りれば死なずに()(やから)()った(もの)を、あのたわけめ。

 

プー:ううん……君、あのお(じい)ちゃんプヨネ?

 

ゼオ:ああ。

   これから()の女と共に、世界を滅ぼそうしている男だ。

 

プー:もし、旅のお(そら)で僕と出逢う事が()ったら、

   その時は僕の料理を御馳走(ごちそう)してあげるプー。

 

ゼオ: ……話を聞いていたのか?

   その時とは、お前の言う『シルヴィア』が死んだ世界と言う意味だぞ?

 

プー:それでも僕は料理を作るプー。

   貴方(あなた)が世界を壊すなら、僕は()の世界に人がいる限り料理を作り続けるプー。

 

ゼオ:ぬっ……!?

 

プー:それくらい()いでしょ?

 

ゼオ:馬鹿の一つ覚えか?

 

プー:プップップー♪

解りやすい方が、楽しいでしょ?

 

ゼオ:( 溜息 )――。

   プーデット、と言ったな?

 

プー:何プ?

 

ゼオ:世界はお前が思うよりも余程(よほど)(みにく)い。

   女を()く時、愛液(あいえき)体液(たいえき)に溺れる吐き気と同じ様に、

   お前はサラの様に、生き続ける限り世界から傷つけられることだろう。

   お前達は、そういう(たぐい)の人間だ。

 

プー:プー……そうなのプー?

 

ゼオ:だが、決して挫折(ざせつ)だけはするな。

 

オー&ピエ: ……?

 

ゼオ:お前は人として生きろ!!

   俺が(すべ)ての憎しみを背負ってやる、だから絶対に夢を諦めるな!!

   お前は力の限り、()の世界で生き抜いて魅せろ!!

 

プー: ……!!

 

オー:ゼオルード……。

 

ピエ:『古き国の四騎士(よんきし)』……か。

 

プー: ……お爺ちゃん変だプー。

   悪い人なのに、優しいプー?

 

ゼオ: ……勘違いするな。

   お前の(よう)な子豚には、愛玩(あいがん)程度の認識しか持てぬだけの事だ。

 

プー:プー???

 

ゼオ:とっとと()せろと言ったのだ!!

 

プー:プエッ!?

 

シル: ……坊や、私達に(ほどこ)すと言ってもね?

   私達は人を殺すことを悦楽とし、あまつさえ()の『 (さい) 』をすら持った、

   実に悲しくて寂しがり屋の()(がた)い集団なんだよ?

 

プー:でも、僕は皆が好きなんだプー!!

   シルさんも、アーウィンさんも、ミシェル君も!!

   ジーニアス君も、王様もお(じい)ちゃんもお姉さんも!!

   (みんな)大好きプーー!!!

 

ゼオ: ――ッ!?

 

オー:(なん)と、まぁ……。

 

シル:ああ……そうかい。

   じゃあもう行きなさい?

   ()れ以上は我儘(わがまま)だって、気付いているのでしょう?

 

プー:うん、でも……。

 

シル:でも?

 

プー:遠くから最後まで見てるプー。

   ……だって!!

   誰かが()てあげなきゃ……可哀想(かわいそう)だプー。

 

シル:ふふっ……()い子だね。

   さよなら、プーデット。

 

プー:バイバイプー。

   綺麗(きれい)な竜騎士さん。

 

 

( 間 )( そして、決戦の火蓋は斬って落とされ )

 

 

オー:さぁて、それでは死合(しあ)うとするかぁ。

 

ゼオ:クァッ…!!

   折角(せっかく)若返ったと言うのに、(くだ)らぬ問答(もんどう)で肩が()ったわ。

 

ピエ:とんだ若造(わかぞう)()たものだ、四騎士(よんきし)を相手にあれ程の不届(ふとど)きとは。

   ふっ、唖奴(あやつ)こそが騎士に()れば()いものを。

 

シル:んっ。

 

ゼオ:ん?

 

シル:私の得物(えもの)だよ。

   素手(すで)のままに奴等(やつら)(なぶ)るのは(あわ)れだろう?

 

ゼオ:ああ……()の俺の膨大な魔空間ですら圧迫されたのだ。

   あれ程の大剣(たいけん)、竜騎士がどう手繰(たぐ)るのか興味深いな。

 

ピエ:まさか、あれを()の目で見れるのか!?

   それもシルヴィア・アルトルージュ自らの手で!!

 

ゼオ:『解呪空間(イル・リリース)』。

   ……そら、持って()けぃ。

 

シル:おおっ!?

   これこれっ♪

   フフフッ……!!

 

オー:『英雄喰らい(ヒーローイーター)』。

   およそ英雄と名のつく対象に対し特攻(とっこう)

   竜騎士シルヴィアの代名詞にして、世界有数の超重大剣(ちょうじゅうだいけん)か。

 

シル:ああっ……()血錆(ちさび)と腐った臓物(ぞうもつ)(にお)い……!!

   腕の筋肉を怒張(どちょう)させる無骨(ぶこつ)(たくま)しさ!!

   たまらないぃぃぃ……あっ、おい、甲冑(かっちゅう)はどうした!?

 

ゼオ: ……()まんが、お前を生き返らせる為の触媒(しょくばい)に使わせて貰った。

   ()わば(よろい)骨代(こしが)わり、ジーニアスの(かげ)肉代(にくが)わりと言った所か。

 

シル: ……そうか。

   ()の薄着では気分が乗らんが。

 

ゼオ:防御力は変わっていない、どころか動きやすくなっている(はず)だが?

   それに……()くも言う。

 

シル:ああ?

 

ゼオ:その隠しきれぬ殺気(さっき)の事だ。

   (ゆが)んだ(よろこ)びと渇望(かつぼう)大気(たいき)すら()てつく(よう)だぞ?

 

シル: ……フッ、フフフッ!!

   アッハハハハハッッ!!!

 

オー&ピエ:うっ!?

 

シル:やめだ、もう()められん!!

   (なに)が騎士だ、(なに)が夢だ!!

   あいつの血族だろうがもう知ったことでは無い!!

   私はお前達を殺したくて仕方が無いんだよ!!

   ()れが()の私なんだッ!!

 

オー:あれが本性(ほんしょう)……か。

   まさしく伝説の通りだな。

 

ピエ:そして()のけたたましさの、(なん)と美しい事か。

   残酷すぎる程に…そう、あの(ざま)にはまるで、

殺されたくなる(よう)だ。

 

オー:ほう、らしくもない。

   俺を守るのではなかったか?

 

ピエ:いえ、()えて問いますが。

   ……本当に守って欲しいので?

 

オー:要らぬ。

だって生き延びると決めたじゃないか。

   全力で、俺達二人で。

 

ピエ:フッ、フフッ……!!

 

オー:ん~?

 

ピエ:いや、御立派(ごりっぱ)に成られた!!

   ()れで存分に戦える!!

 

ゼオ:覚悟は出来たか?

   此方(こちら)は既に万全だが。

 

シル:グルルル……!!!

   グウゥオオォォアアァァッッ!!!

 

オー:行くぞ、ピエトロ!!

 

ピエ:ハッ!!




 
 
 
     
 
           
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