題名  公開日   人数(男:女:不問)  時間  こんな話  作者

 風のシルヴィア(34)
(ニジ)が待つ人~

2015/11/04  6(3:2:1) 30分

嗚呼、ニジに成れば、此の世界も君の事も、何時までも見護って居られるのかしら?

 ニコ

登場人物
(年齢)
性別 その他
シルヴィア
(26)

厳しさと優しさを併せ持つ金髪の良い女。
アーウィンとは傭兵時代からの永い付き合い。
龍の血の御蔭で戦闘好きな面も。あと怪力。

アーウィン
(30)
百戦錬磨の風格漂う黒髪紫眼のハーフデヴィル。
感情豊でいてキレ者。彼の率いる傭兵団は国の要だった。
魔族の血を引くため翼が生えたりしちゃったりする。
悪魔
(不詳)
上級悪魔。魔王の側近。
人間を言葉巧みに騙し、人からすれば『感情を理解出来ない存在』。
完全に人外なので怪演に期待。
難民
(43)

『黒の国』へ流れ着いた中年男性。
過去に色々あった様ですっかり諦めてしまっている。
思いやりのある達観者だが、只の小者では無かったばかりに……。

少年
(14)
不問 少年時代のアーウィン。中々の美少年。
寡黙で真面目な為に上司(悪魔)からの覚えもめでたい。
しかし、内にはしっかりと人間らしい心を秘めていた。
リア
(14)
魔族と半魔の生きる『黒の国』に流れ着いた人間の少女。
其れ故に何かと目の敵にされるが、めげない。
才気闊達で奔放な人でした。故人。



「風のシルヴィア(34)~(ニジ)が待つ人~」





崩壊する塔から脱出する際に手傷を負ったシルヴィア。

彼女の意識が戻るまで見守っていたアーウィンは、其の面影に嘗ての想い人を見出す。

忌まわしき過去の記憶だが話さずには居られ無かった。2人で前へ進む為に。


※恐らくシリーズで一番病んでいる話です。気を付けて下さい。




( 王都アイゼフィール:静寂の瓦礫の中で )

 

アー:おい。

 

シル:う…うぅ……。

 

アー:いい加減に起きろってんだよ、馬鹿。

 

シル:だ、団長?

どうして……ハッ!?

   まさか私、気を失っていたんですか?

 

アー:やれやれ……途中(まで)上手(うま)い事かわせていたんだがな?

   最後に()()ない角度から、(つぶて)が頭にガァン、だ。

 

シル:そんな…私……。

 

アー:なぁに、お前に運が無いのは昔からじゃないか。

   それで良く生き残って来れたと感心するぜ。

 

シル:すいません…何時(いつ)も助けて(もら)ってばかりで。

 

アー:こちらこそ。

   (まも)甲斐(がい)のある部下と最後の話が出来る。

   ああ嬉しいね、これぞ組織の(おさ)として有るまじき幸甚(こうじん)だ。

 

シル:いえ……私こそ嬉しいです。

あ、団長のその翼、魔族として戦う事に決心がついたんですね?

 

アー:うむ、なんだかんだで世話になった国だしなぁ。

   ()いも甘いも……フッ。

   きっとやっぱり、俺はアイゼフィールが大好きなんだな!!

 

シル:私だってそうですよ!!

   だから一緒に盛り立てましょう?

   だって団長は、此処(ここ)までついて来てくれじゃないですか。

 

アー:俺は……。

   どうにも騎士って(がら)じゃないみたいだ。

 

シル:えっ!?

 

アー:(なが)い事(つと)めて判った事だが、例え天職だと思い込んでも、

向かんものは向かんらしい。

……大人(おとな)ってのは、色々と辛いもんだな。

 

シル:今が楽しければ、それで良いと思います。

   ……今はね。

 

アー:そうかな?

   まあ、昔に比べれば随分と気楽に生きてはいるかな。

 

シル:(くろ)の国ディガスディア。

   その昔、聖王(せいおう)魔帝(まてい)が争った時、

魔帝(まてい)に付き従った『偉大なる三魔(さんま)』の一人。

   ディガスディア・オーグドルドの国。

 

アー:ああ。鉄の(いばら)血錆(ちさび)の川で満たされた地獄。

   低級の魔族と、それに(はら)まされた女共(おんなども)が産んだ異形(いぎょう)が住まう()の世の()()めさ。

 

シル:人の(かたち)を保つだけでも随分と苦労をなさったはずなのに。

   本当にこれで良かったんですか?

 

アー:もう良いんだ。

   大事な事は何時(いつ)自分で決めたことを実行するか、だろう?

 

シル: ……。

 

アー:お前は記憶を取り戻す旅の果て、

この一年で在り得ない程に強くなった。

   それは実の所、生きる事に必死になっていたからじゃないのか?

 

シル:確かに……。

色々あったけど、今思えば何一つ無駄な事なんて無かったと思います。

 

アー:俺もそう思える『人間』に()りたくてな。

   ああ……もう何年だ?

   何年そうやって生きて来たんだ……ったく。

 

シル:悩みがあるなら、今此処(ここ)で吐いておいた方が良いです。

   団長が楽になれるなら、私は幾らでも付き合いますから。

 

アー:お前には聴けるだけ聴いておいて欲しいんだ。

   俺があの国で何を得たか……何を失ったか。

   お前の顔を見ていたら、どうしても話したくて仕方が無くなってなぁ。

 

 

( 間 )( 独白 )( ※回想シーンへの導入 )

 

 

少年:何と言うか…その国は壊れていたんだ。

   誰かが誰かに手を差し伸べれば、その両方が殺される。

   世界を変えると綺麗事を(うた)えば、次の日には家族が殺される。

   歩けば(いばら)瓦礫(がれき)で傷だらけ。

   紅い水を飲めば(はらわた)が焼けただれる。

   何時(いつ)まで経っても変わらない。

   暇な時は、地べたを見ても()まらないから、ずっと上を向いていたな。

   空だけは澄み渡っていたし、雨が降るのを待って()たから。

 

 

( 間 )( 黒の国ディガスディア:茨に裂かれた罪人の脚痕で )( ※回想シーン )

 

 

悪魔:皆様―?

   (つら)いあぜ道ですが後少しです、後少しでディガスディアへ到着しますよー?

 

難民:ハア……ハア……!!

   おいあんた!!

   ほ…本当なんだろうな!?

 

悪魔:( 遠くから )何がぁですぅーー?

 

難民:この(くろ)(くに)は、どんな咎人(とがびと)でも異形(いぎょう)でも受け入れてくれる。

   もしも追手が来たときは、(みな)で追われ手を(かくま)ってくれるって話だ。

 

悪魔:勿論ですとも!!

   我等強力な魔族が皆様の生活を保障します!!

   ……但し、入国の手数料としてその(たましい)を捧げて貰いますがね?

 

難民:た……(たましい)を!?

 

悪魔:何、少しばかり今より悪い事をしたくなるだけです。

   どうせ貴方々(あなたがた)は、散々悪事を働いた挙句に此処(ここ)まで()ちて来ちまったんでしょう?

   だったら(たい)して変わりゃしないじゃないですか。

 

難民:よりにもよって、あんた達の親玉(おやだま)に魂を売り渡せってのか!?

   『鉄の公王(こうおう)』、『偉大なる三魔(さんま)』、ディガスディア・オーグドルドに!?

 

悪魔:嫌なら別に良いんですよ~?

   今度は(いばら)の道を一人でお帰りなさいな。

   最もアタシが()なきゃ、モンスターに喰われて一巻(いっかん)の終わりでしょうがね?

 

難民:うう……(くそ)ッ!!!

 

リア:あーーー!!

 

悪魔:うえっ!?

 

リア:悪魔さん、また誰かを泣かせてるー!!

   そんなのイケないんだーー!!

 

悪魔:やれやれ、またお前さんかい?

   鬱陶(うっとう)しいね全く、()()はとっくに割れてるんですよぉ~?

 

リア:襲ってきたら隠れるもーん!!

   悪魔さんがすっごく恐いのは常識だもんね!!

   酷い男だよ本当!!

 

難民:( 小声で )悪魔に魂を売り渡す…。

   悪魔に魂を売り渡す…。

   悪魔に魂を売り渡す…。

 

リア:( 途中から被せて )おじちゃん!!

 

難民:うっ!?

 

リア:嫌だったら『 (いや) 』って言いなよ!!

 

悪魔:あっ、こら!!

 

リア:大人の癖に情けないよ!?

   悪魔に魂を売るって言うのはね!!

 

悪魔:( 途中から被せて )黙れ『人間(にんげん)』がッ!!

 

リア:むぐっ!?

 

難民:お嬢ちゃん……。

 

リア:プハッ!!

   ……おじちゃんだって人を好きだった頃が()ったでしょう!?

   誰かに好きだって言って(もら)った事があるでしょう!?

   魔族になるって事はね、そういう素敵な人間を『()める』って事なんだよ!?

 

難民: ……素敵な?

   こんな俺も素敵だってのか?

 

リア:そうだよ!!

   人にはね、優しくて温かくて、誰かを思いやる、

『 (こころ) 』って宝石が()るんだよ!?

 

難民:心の宝石……『心珠(しんじゅ)』か。

   ああ……昔聞いたことが在る。

口が()けない少年が月の(うさぎ)と世界を(めぐ)り、

   神獣達と心を通わせた挙句(あげく)に、世界を救ったと言う話。

   ()の少年の名は確か……『エルジュ』と言ったか。

 

リア:私、その話大好き!!

   だってそうでしょ!?

身振り手振りでだって友達は出来る!!夢だって叶えられる!!

   何時(いつ)か魔族の(みんな)とも仲良くしてみせるんだから!!

 

悪魔:アタシ達は御免(ごめん)だねぇ。

   人間なんて着飾る(ぶた)みたいなもんさ。

   喰いたきゃ殺すし、用が無きゃ(ただ)のゴミ、鬱陶(うっとう)しいったらありゃしない。

 

リア:むー!!

 

難民:そうか……フッ。

エルジュの教えか…俺も昔は覚えていた筈なんだが、

   (とし)を取ると、そういう綺麗な話も綺麗事も、(なに)も考え無くなるもんだな。

 

悪魔:そういう事♪

   所詮、子供が可愛いのは、子供だからなんですよねぇ。

 

難民:御蔭(おかげ)でようやく踏ん切りがついた。

   さぁ悪魔さん、とっとと手続きと行こうじゃないか。

 

リア:おじちゃん!?

 

難民: ……お嬢ちゃん、名は(なん)と言う?

 

リア: ……リア。

   リア・バークライツ。

 

難民:リア?

   人は、罪を犯さなきゃ生きて行けない、どうしようもない生き物だが、

   それは頭が良いからであって、余計な事を考えなきゃ、

   もっと気楽に生きられる。 ……他の動物と同じようにな。

 

リア:うん。

 

難民:別に、動物の方が愉快だとは決して思わん。

   だがそれでも俺は畜生(ちくしょう)()ちたい。

   消せない罪を背負ったままの眠れん日々も、

   夢に見る家族の泣き顔も……俺にはもうウンザリなんだ。

 

リア:逃げ出したって…逃げ出したって何も変わらないよ!?

   逃げた所がどんなに素敵でも、

何時(いつ)しかそれを、逃げたおじちゃん自身が壊してしまうんだよ!?

 

難民:()いんだ、それでも!!

   名も知られない一人の男が消えた所で、それこそ罪一つ生まれないだろうさ!!

   だから悪魔にだって魂を売り渡すんだ!!

 

悪魔:( 手を叩いて )決ーーーまりッ♪

さささっ、それでは参りましょう!!

何、痛いのは最初だけです!!

(じき)になぁんにも解らなくなりますから!!

 

難民: ……じゃあな、リア。

   もしも此処(ここ)から出ていけるなら、人間である(うち)に出ていくんだぞ?

 

リア:おじちゃん……。

 

 

( 間 )( 黒の国ディガスディア:木陰に出来た家 )

 

 

少年:ただいま。

 

リア:( 泣いている )――。

 

少年:また泣いているのか?

   水が勿体無(もったいな)いぞ。

 

リア:( 泣き続けている )――。

 

少年:リア。

 

リア:救えなかった……!!

   また……誰も……!!

 

少年: ……最後に選ぶのは自分達なんだ。

   天使であれ悪魔であれ、追い詰められた果てに相手を選ぶ権利がある。

   其処(そこ)にリアがどうこうする余地なんて無いだろう?

 

リア:じゃあ、どうしてアーウィンは人間の私を(かくま)うの?

   足元に落ちていた石コロを、(ただ)(なん)となくで拾っただけ?

 

少年:石コロだなんて……いや、

   本当の所はどうなんだろうな?

(ただ)寂しかっただけなのかも知れない。

 

リア: ……寂しい?

   ……難しいね、本当は寂しいのに、人は一人になりたがるんだね。

 

少年:さあねぇ。

結局魂を売ればそういう面倒は要らないんだろうが、

   そういう人間だった奴等は、(みんな)同じになって()まらない。

   ……ああ、だからリアが(まぶ)しかったのかもな。

 

リア:アーウィン。

 

少年:何?

 

リア:勉強しよ?

 

少年:はあっ!?

 

リア:勉強して勉強して、偉くなればさ、

   きっと耳を傾けてくれる人が出てくるよ!!

   人間だって魔族だって、きっとそこら辺は一緒だと思うんだよね。

 

少年:魔族は……色々()るぞ?

   人間を犯すのも居れば、喰う為に襲う奴も居る。

 

リア:一緒にしたら駄目?

   だって、アーウィンは優しいじゃない。

 

少年:俺は特別だよ。

   ハーフデヴィルの割には顔が整っているだろう?

   しかも人間と普通に話せるってのはさ、

   俺の親父ってのはよっぽど血の薄い、低級も良い所だったんだな。

 

リア:お父様に感謝、ですね。

 

少年:こんな地獄に産んでくれて有難(ありがと)う、って?

 

リア:ですねー。

 

少年: ……っておい、

今からするのか!?

 

リア:人間やろうと思った時にやらなきゃ。

   やる気にも鮮度(せんど)があるのだ!!

 

少年:やろうと……って、リアは何時(いつ)もそうじゃないか!!

   嗚呼…ったく、(かね)にもならない敵創(てきづく)りを何時(いつ)までも……フフッ。

 

 

( 間 )( 王都アイゼフィール:枯れたように男は語った )

 

 

アー:あの頃俺は…そうだな、人には言えん仕事をしていたな。

   人の心を無くせば、餓鬼(がき)でも(つと)まる下らん仕事だ。

 

シル:死体を……。

 

アー:結局俺も、人間なんざ道具程度にしか思って無かったのさ。

   リアにしたって、綺麗な人形を()でてやってるって、餓鬼(がき)自惚(うぬぼ)れと同じだ。

   壊れたら平気で捨てただろうし、五月蠅過(うるさす)ぎたら俺が壊していただろうな。

 

シル:リア……という少女は、一体何を夢見ていたのでしょうか?

 

アー:さてねぇ……。

   今思えば、対岸(たいがん)同士が仲良くなれる国。

   魔族と人間の(へだ)たりも無く、のどかに安らかに過ごせる国創(くにづく)りって所か。

 

シル:ですが、地獄は地獄だからこそ価値が在る。

   嫌な仕組みですが、きっと其処(そこ)は、世界には必要な掃き溜めだったんですよ。

 

アー:その通りだ。

ゴミ箱に上品(じょうひん)(ふた)をして、『さあどうぞ、いらしてください』。

   『誰一人(こば)みはしません』、『(ただ)し永遠の(とりこ)になってください』。

   それがあの国の真実だった。

 

シル:では、きっと彼女は……。

 

 

( 間 )( 黒の国ディガスディア:あぜ道の死体整理 )( ※回想シーン )

 

 

少年:よいっしょ……っと!!

   ……ふう。

 

悪魔:やあ、アーウィン坊や。

   (せい)が出る事だねぇ。

 

少年: ……(なん)ですか?

   仕事なら真面目(まじめ)にやってますよ。

 

悪魔:いやいや、坊やを疑うつもりは毛頭無いよ?

   (くさ)くて(きたな)い仕事なのに、()く尽くしてくれているねぇ。

 

少年:なら(なん)御用(ごよう)です?

   どうせ優しい言葉は上辺(うわべ)だけで、

本当の所は、半端者(はんぱもの)の俺の事も嫌いなんでしょう?

 

悪魔:心外(しんがい)だねぇ、多少は可愛(かわい)がってやっているつもりだったが。

 

少年:魔族ってのは何時(いつ)もそうだ。

   人を使い捨てて、何食わぬ顔で明日を暮らす。

   結局は『罪悪感(ざいあくかん)』そのものが無いんだ、違いますか?

 

悪魔:ほぉう?

 

少年:ところが、(はら)の底では人への憎しみが抑えきれない。

   魔族と人間の戦い、最後に勝ったのは――。

 

悪魔:( 途中から被せて )300年前の事を何時(いつ)までも。

   何、たかが300年じゃないか。

   その程度で勝ち誇るってのは、(いささ)青過(あおす)ぎやしませんかねぇ?

 

少年:そういう、ものですか。

 

悪魔:アーウィン坊や?

   君は一体どちらの(がわ)に付きたいんだい?

 

少年:俺は……。

 

悪魔:実の所……()れは坊やにだから話すが、

()の国はディガスディア様そのものでね。

   魔族にとっても、人間にとっても重要な場所なのさ。

 

少年: ……(なん)だって?

 

悪魔:今でこそ陛下の魂は封印されているが、その肉体は健在だ。

   鉄の(いばら)血錆(ちさび)の水も、(すべ)てはディガスディア様の血肉(ちにく)なのさ。

 

少年:だから人間の魂を集めて……蘇生の為に。

 

悪魔:そうだよぉ?

だが人間どもは、そうと知りながら我々魔族を利用している。

   どうせ駆け込んでくる異端(いたん)の数など、たかが知れている、とね?

   そうしなければ健全に生きられないとしたら、それは無様(ぶざま)な種族だ。

   ……違うかい?

 

少年:どちらかに……付かないとどうなりますか?

 

悪魔:さぁてねぇ、怖い事になるんじゃないかな?

 

少年:俺…は…。

 

魔族:早く女を渡す事だ。

 

少年:俺は……。

 

 

( 間 )( 木陰に出来た家:恵みの雨の其の先に )

 

 

リア:雨だーーー!!

 

少年:はいはい、そうですね。

   さっさと水を集めようぜ?

 

リア:ねえねえ、きっと(にじ)が出るよぉ!?

   すっごく大きぃ極彩色(ごくさいしき)の!!

 

少年:そうですねぇ。

   後で()の上から、二人でのんびり()ましょうね。

 

リア:ねえ、アーウィン?

 

少年:何?

 

リア:私の事、好き?

 

少年:( おどけて )愛してる。

 

リア:私さ、アーウィンの事も、(みんな)の事も大好き。

 

少年:全く、博愛主義(はくあいしゅぎ)大概(たいがい)にしろってんだよッ!!

人の気も知らないでさぁ!!

 

リア:それはお互い様でしょ~?

   永付(ながづ)()いもしないで、気安く好きだって言う人はね、

   今の自分が嫌いだから、(かま)って欲しいだけなんだよ。

 

少年: ……愛してるさ、多分。

 

リア:えっへっへー。

   私ね、ベッドの中で必死になるアーウィンが大好き。

 

少年:なっ!?

 

リア:自分の事だけ考えて、まるで震える子リスみたいで。

   こんな世界で、私が貴方(あなた)寄生木(やどりぎ)になれるのが本当に嬉しかった。

 

少年:もっと色々してやっただろう!?

   プレゼント送ったり、色んな思い出を作ったりさぁ!!

   ……そんなのを好きな理由にするんじゃねえよ!!

 

リア:ううん、()れが一番の理由で良いんだぁ。

   御蔭(おかげ)で私、自分が誰でも良いって訳じゃ無い事に気付けたから。

 

少年:俺が!?

   馬鹿だろお前、俺は暇潰しにお前を飼ってやっただけだ!!

   所詮俺は魔族なんだよ!!

 

リア:そうだね。

   でも、一緒に(にじ)()()がれる人に()えた。

   それって幸せな事でしょう?

 

少年: ……なんだよそれ、いきなりさぁ。

   もう終わりみたいな事言うなよ……!!

 

リア:もっと色んな人に()いたかったなぁ。

……そして色々話し合って、(なぐさ)め合って。

   どんなに(つら)い雨でも耐えて、その後の(にじ)を心から楽しみに出来る。

   ……うん、きっとそれが『仲間(なかま)』って言えるんだよね。

 

少年:俺が外に連れてってやるよ。

   そしたらお前がやりたいように生きれば()いじゃないか。

   俺も頑張るからさぁ。

 

リア:そう?

   ……()れは嬉しいなぁ。

 

少年:ああ、俺はお前の味方だ、何があってもお前の味方なんだ!!

 

 

( 間 )( 底知れぬ深い闇夜の中で )

 

 

難民:ギュルルルル……!!!

   ウゴオァァァ!!!

 

悪魔:おお()()し、()い感じに出来てきたじゃないか。

   これぞ悪魔の手先、此処(ここ)でもたくさん殺して来て、()かったねですねぇ。

 

難民:アンダバ…ゴノボレヲ……ダマシダノガッ!?

 

悪魔: ……はて?

   (おっしゃ)る意味が良く解りませんが?

 

難民:ナニボ……ガンジナグナルッデ……!!

   デモウソダ……ゴノグルシミハ……ゴノカナジミハ……!!

 

悪魔:ああ、いやでも、何もかも鵜呑(うの)みにするのもどうかと思いますが。

   だってあれ、比喩(ひゆ)だし。

 

難民:ギザマッ!!

 

悪魔:( うんざりと )……だったらどうした?

 

難民:ナニッ!?

 

悪魔:(だま)されたと思ったなら、外へ逃げ出すなり自害するなり、

幾らでも方法はあっただろう?

 

難民:グルルル……ウウウゥゥッ!!!

 

悪魔:解っていますよぉ?

   『此処(ここ)まで堕ちた果て、自分が孤独になって()い訳が無い。』

   『きっと()の先には何かが有る、(ばが)りなりの希望が。』

   『だって、こんなにも闇の力が込み上げてくるのだから。』

 

難民:ウ…ウウッ…ゾウダ……。

   ゴノボレダッデ……ムグワレデモイイジャナイガ……!!

   ボンノズゴジダケデモ……ワズガデモ……!!

 

悪魔:ウヒャヒャヒャヒャ!!!

悲しいねぇ……人間って生き物は。

 

難民: ……ゴロジデグレ。

 

悪魔:はい?

 

難民:モウイイ……。

   イシギガマダアルトイウノナラ……セメテ、ヒトデアルウジニ。

 

悪魔:ああ……ふふっ♪

   いやいや失礼、(あま)りにも模範解答で!!

   ……ではそういう事で、手筈通(てはずどお)りにお願いしますね。

 

 

( 間 )( 血の様に紅い夕立の中、只雨音だけが響いて )

 

 

少年:雨……また雨か……晴れるどころか連日となると、滅入(めい)るな。

   ……でも、帰る所がある。あいつが温かいスープを作ってくれている。

   俺を待って()てくれている……ふふっ。

 

難民: ……坊主。

 

少年: ……何?

 

難民:幸せか?

 

少年:(なん)だよいきなり、道端(みちばた)でさ。

   ……絶望した人間なりに、明るい話が聞きたいのか?

   だったら――。

 

難民:( 被せて )俺は。

   ……俺として死んだ。

   悪魔にも()らず、人間にも()らず、(ただ)、俺は俺として。

 

少年: ……?

   血の(あと)……!?

 

難民:(うら)むならそれも()いだろう、

俺はもう死んじまうから、殺したくても殺せないのが(あわ)れだが。

 

少年:まさか……!?

   まさかッ!!?

 

難民:ずっと待って()た。

   せめて大事な人間を奪った『 (おとこ) 』の顔は知るべきだ、違うか?

 

少年:うああああぁぁぁ!!!!

 

難民:泣くな。

   その涙は、あの子の為に取って置け。

   俺にはもう、謝る言葉も無い。

 

少年: ……!?

リアは!?

 

難民:まだ生きている。 ……『そうしろ』と言われた。

   悪趣味だが、もしもお前が本当に、愛を()れる人に出逢えていたとしたら。

 

少年:あんたはもう喋らなくていい!!

 

難民:奇蹟(きせき)ってのが起こるといいなぁ、坊主。

   ……ああ、こんな俺が他人の幸せを願って何が悪い…何が…悪いってんだ。

 

 

( 間 )( 血溜まりに倒れる少女に雨は容赦なく打ち付けて )

 

 

リア:う……ごほっ……。

 

少年:リ…ア……?

 

リア:アー……ウィ……ン。

 

少年:リアッ!!!

 

リア:雨……しばらく忘れていたなぁ。

   自分の血も、(あか)いんだって事に。

 

少年:当たり前だろ!?

   お前は人間なんだぞ!!

 

リア: ……。

   綺麗な眼……紫色で、炎の様に(きら)めいている。

 

少年:俺……俺、本当は解らないんだ。

   本当にリアの事を愛していたのか、本当に自分がやりたかったことは何なのか、

   判らないまま此処(ここ)まで来たからこうなって……ごめん!!

 

リア:ふふっ……正直…だね。

 

少年:ああ……!!

   もう全部話すさ!!

   だから死なないでよ、もっと俺と一緒に()てよ!!

   俺の前で冷たくならないでよ!!!

 

リア:判らない事だらけ、か。

   ……じゃあ、ヒントです。

 

少年: ……え?

 

リア:私に()えて、良かった?

 

少年: ……!!

 

リア:それが…君の『(こた)え』で…良いんじゃないかなぁ?

 

少年:解ったよ、リア。

 

リア: ……()まないもんだねぇ、雨。

 

少年:うん?

 

リア:こういう時ってさ、パアって空が晴れて……。

   綺麗な虹を見ながらお別れするものでしょう?

 

少年: ……見えるよ、俺には。

   リアにもちゃんと見えるだろう?

 

リア: ……そうねぇ、そうですねぇ。

   嗚呼、ニジに()れば、この世界も君の事も、

何時(いつ)までも見護(みまも)っていられるのかしら?

 

少年:ああ、きっと()れるさ。

   俺も、何時(いつ)までも空を見上げる男に()るよ。

 

リア:おやすみ、アーウィン。

   (ひと)りになっちゃ駄目よ?

 

少年: ……君に、君に()えて良かった!!

   今なら心から言えるんだ!!

   ……君を愛している!!

 

リア: …………。

 

少年:リア……!!

 

 

( 間 )( 黒の国ディガスディア:出口 )

 

 

悪魔:それで?

   どーすんの、これから?

 

少年:出ていく。

 

悪魔:坊やみたいに外に出た魔族はね、散々世の中を騒がせた挙句(あげく)

   必ず身内(みうち)に裏切られて殺される。

   つまりそういう末路(まつろ)辿(たど)った賢人(けんじん)英雄(えいゆう)(ほとん)どが魔族だったって事さ。

   それでも――。

 

少年:( 途中から被せて )俺は!!

   ……俺は人間だ、あんた達とは違う!!

 

悪魔:やれやれ…これは珍しさや酔狂(すいきょう)じゃない、

(あわ)れみから来る老婆心(ろうばしん)に違いはなかったが、それも仕方も無し、か。

魔族に人の気持ちは理解出来んよ。

 

少年:御世話(おせわ)になりました。

   二度と此処(ここ)へは帰ってきません。

 

悪魔:ああ、それが良い。

   巣立ったヒナは振り返るもんじゃない。

   バイバイ、アーウィン坊や。

 

 

( 間 )( 王都アイゼフィール:煌めく瞳は朧気な日差しを囚えていた )

 

 

シル: ……何だか、どうして団長に(みんな)がついて来たのか、解った気がします。

 

アー:ほぉう?

   魔族特有のカリスマ性か、はたまた、戦い続けて(つちか)った軍才(ぐんさい)にかな?

 

シル:人の気持ちを理解しようとする努力に、です。

   きっと世界が平和になっても、それを心掛(こころが)ける人は中々居ないと思います。

 

アー:俺は結局何も(つか)めちゃいない。

   お前のせいで何もかも放り出して、今じゃ根無し草だ。

 

シル: ……(つづな)います、()の戦いが終わったら必ず。

 

アー:()いよ、もう。

   (ただ)、事実は事実として認めねばならん。

   あいつ()に贖罪(しょくざい)するのは俺の方だ。

 

シル:彼等にも、言いたい事が()った(はず)です、色んな思いも。

   何時(いつ)かそれを受け止てあげたいですね。

 

アー: ……愛している。

 

シル:え?

 

アー:あいつ()も大事だが俺達も大事だ。

   ……こんな時だからこそ言う。

   シルヴィア、この戦いが終わったら結婚しよう。

 

シル: ……どうして『 (いま) 』なんですか?

 

アー: ……。

 

シル:私の為に死のうとか、そういう風に考えているんじゃないですか?

 

アー:()れた女の為に死ぬのは、悪いか?

 

シル:悪いです。

   私、其処(そこ)まで弱い女じゃありませんので。

 

アー:ブッ、フッハッハッハッ!!

   ああそうだな、

   シルは強い女だったなぁ。

 

シル:ふふっ……さ、御話(おはなし)此処(ここ)まで。

   (みんな)が待って()ますよ?

 

アー:続きは(すべ)てが終わってから、か。

   これは生き残らねばならんなぁ。

 

シル:今度は2番目の恋を聞かせて下さい。

   『必要な話』では無い、もっと気楽で安らかになれる話を。

 

アー:おう、(おお)いに語ってやろうじゃないか!!

   三十路男(みそじおとこ)恋話(こいばなし)をとくと拝聴(はいちょう)させてやる!!

   ワハハハッッ!!




 
 
 
     
 
           
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