題名 |
公開日 |
人数(男:女:不問) |
時間 |
こんな話 |
作者 |
風のシルヴィア(34)
~虹が待つ人~
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2015/11/04 |
6(3:2:1) |
30分 |
嗚呼、ニジに成れば、此の世界も君の事も、何時までも見護って居られるのかしら?
|
ニコ |
登場人物
(年齢) |
性別 |
その他 |
シルヴィア
(26) |
♀ |
厳しさと優しさを併せ持つ金髪の良い女。
アーウィンとは傭兵時代からの永い付き合い。
龍の血の御蔭で戦闘好きな面も。あと怪力。
|
アーウィン
(30) |
♂ |
百戦錬磨の風格漂う黒髪紫眼のハーフデヴィル。
感情豊でいてキレ者。彼の率いる傭兵団は国の要だった。
魔族の血を引くため翼が生えたりしちゃったりする。 |
悪魔
(不詳) |
♂ |
上級悪魔。魔王の側近。
人間を言葉巧みに騙し、人からすれば『感情を理解出来ない存在』。
完全に人外なので怪演に期待。 |
難民
(43) |
♂ |
『黒の国』へ流れ着いた中年男性。
過去に色々あった様ですっかり諦めてしまっている。
思いやりのある達観者だが、只の小者では無かったばかりに……。
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少年
(14) |
不問 |
少年時代のアーウィン。中々の美少年。
寡黙で真面目な為に上司(悪魔)からの覚えもめでたい。
しかし、内にはしっかりと人間らしい心を秘めていた。 |
リア
(14) |
♀ |
魔族と半魔の生きる『黒の国』に流れ着いた人間の少女。
其れ故に何かと目の敵にされるが、めげない。
才気闊達で奔放な人でした。故人。 |
「風のシルヴィア(34)~虹が待つ人~」
崩壊する塔から脱出する際に手傷を負ったシルヴィア。
彼女の意識が戻るまで見守っていたアーウィンは、其の面影に嘗ての想い人を見出す。
忌まわしき過去の記憶だが話さずには居られ無かった。2人で前へ進む為に。
※恐らくシリーズで一番病んでいる話です。気を付けて下さい。
( 王都アイゼフィール:静寂の瓦礫の中で )
アー:おい。
シル:う…うぅ……。
アー:いい加減に起きろってんだよ、馬鹿。
シル:だ、団長?
どうして……ハッ!?
まさか私、気を失っていたんですか?
アー:やれやれ……途中迄は上手い事かわせていたんだがな?
最後に有り得ない角度から、礫が頭にガァン、だ。
シル:そんな…私……。
アー:なぁに、お前に運が無いのは昔からじゃないか。
それで良く生き残って来れたと感心するぜ。
シル:すいません…何時も助けて貰ってばかりで。
アー:こちらこそ。
護り甲斐のある部下と最後の話が出来る。
ああ嬉しいね、これぞ組織の長として有るまじき幸甚だ。
シル:いえ……私こそ嬉しいです。
あ、団長のその翼、魔族として戦う事に決心がついたんですね?
アー:うむ、なんだかんだで世話になった国だしなぁ。
酸いも甘いも……フッ。
きっとやっぱり、俺はアイゼフィールが大好きなんだな!!
シル:私だってそうですよ!!
だから一緒に盛り立てましょう?
だって団長は、此処までついて来てくれじゃないですか。
アー:俺は……。
どうにも騎士って柄じゃないみたいだ。
シル:えっ!?
アー:永い事勤めて判った事だが、例え天職だと思い込んでも、
向かんものは向かんらしい。
……大人ってのは、色々と辛いもんだな。
シル:今が楽しければ、それで良いと思います。
……今はね。
アー:そうかな?
まあ、昔に比べれば随分と気楽に生きてはいるかな。
シル:黒の国ディガスディア。
その昔、聖王と魔帝が争った時、
魔帝に付き従った『偉大なる三魔』の一人。
ディガスディア・オーグドルドの国。
アー:ああ。鉄の茨と血錆の川で満たされた地獄。
低級の魔族と、それに孕まされた女共が産んだ異形が住まう此の世の掃き溜めさ。
シル:人の形を保つだけでも随分と苦労をなさったはずなのに。
本当にこれで良かったんですか?
アー:もう良いんだ。
大事な事は何時自分で決めたことを実行するか、だろう?
シル: ……。
アー:お前は記憶を取り戻す旅の果て、
この一年で在り得ない程に強くなった。
それは実の所、生きる事に必死になっていたからじゃないのか?
シル:確かに……。
色々あったけど、今思えば何一つ無駄な事なんて無かったと思います。
アー:俺もそう思える『人間』に成りたくてな。
ああ……もう何年だ?
何年そうやって生きて来たんだ……ったく。
シル:悩みがあるなら、今此処で吐いておいた方が良いです。
団長が楽になれるなら、私は幾らでも付き合いますから。
アー:お前には聴けるだけ聴いておいて欲しいんだ。
俺があの国で何を得たか……何を失ったか。
お前の顔を見ていたら、どうしても話したくて仕方が無くなってなぁ。
( 間 )( 独白 )( ※回想シーンへの導入 )
少年:何と言うか…その国は壊れていたんだ。
誰かが誰かに手を差し伸べれば、その両方が殺される。
世界を変えると綺麗事を謳えば、次の日には家族が殺される。
歩けば茨と瓦礫で傷だらけ。
紅い水を飲めば腸が焼けただれる。
何時まで経っても変わらない。
暇な時は、地べたを見ても詰まらないから、ずっと上を向いていたな。
空だけは澄み渡っていたし、雨が降るのを待って居たから。
( 間 )( 黒の国ディガスディア:茨に裂かれた罪人の脚痕で )( ※回想シーン )
悪魔:皆様―?
辛いあぜ道ですが後少しです、後少しでディガスディアへ到着しますよー?
難民:ハア……ハア……!!
おいあんた!!
ほ…本当なんだろうな!?
悪魔:( 遠くから )何がぁですぅーー?
難民:この黒の国は、どんな咎人でも異形でも受け入れてくれる。
もしも追手が来たときは、皆で追われ手を匿ってくれるって話だ。
悪魔:勿論ですとも!!
我等強力な魔族が皆様の生活を保障します!!
……但し、入国の手数料としてその魂を捧げて貰いますがね?
難民:た……魂を!?
悪魔:何、少しばかり今より悪い事をしたくなるだけです。
どうせ貴方々は、散々悪事を働いた挙句に此処まで堕ちて来ちまったんでしょう?
だったら大して変わりゃしないじゃないですか。
難民:よりにもよって、あんた達の親玉に魂を売り渡せってのか!?
『鉄の公王』、『偉大なる三魔』、ディガスディア・オーグドルドに!?
悪魔:嫌なら別に良いんですよ~?
今度は茨の道を一人でお帰りなさいな。
最もアタシが居なきゃ、モンスターに喰われて一巻の終わりでしょうがね?
難民:うう……糞ッ!!!
リア:あーーー!!
悪魔:うえっ!?
リア:悪魔さん、また誰かを泣かせてるー!!
そんなのイケないんだーー!!
悪魔:やれやれ、またお前さんかい?
鬱陶しいね全く、棲み家はとっくに割れてるんですよぉ~?
リア:襲ってきたら隠れるもーん!!
悪魔さんがすっごく恐いのは常識だもんね!!
酷い男だよ本当!!
難民:( 小声で )悪魔に魂を売り渡す…。
悪魔に魂を売り渡す…。
悪魔に魂を売り渡す…。
リア:( 途中から被せて )おじちゃん!!
難民:うっ!?
リア:嫌だったら『 嫌 』って言いなよ!!
悪魔:あっ、こら!!
リア:大人の癖に情けないよ!?
悪魔に魂を売るって言うのはね!!
悪魔:( 途中から被せて )黙れ『人間』がッ!!
リア:むぐっ!?
難民:お嬢ちゃん……。
リア:プハッ!!
……おじちゃんだって人を好きだった頃が在ったでしょう!?
誰かに好きだって言って貰った事があるでしょう!?
魔族になるって事はね、そういう素敵な人間を『辞める』って事なんだよ!?
難民: ……素敵な?
こんな俺も素敵だってのか?
リア:そうだよ!!
人にはね、優しくて温かくて、誰かを思いやる、
『 心 』って宝石が在るんだよ!?
難民:心の宝石……『心珠』か。
ああ……昔聞いたことが在る。
口が訊けない少年が月の兎と世界を巡り、
神獣達と心を通わせた挙句に、世界を救ったと言う話。
其の少年の名は確か……『エルジュ』と言ったか。
リア:私、その話大好き!!
だってそうでしょ!?
身振り手振りでだって友達は出来る!!夢だって叶えられる!!
何時か魔族の皆とも仲良くしてみせるんだから!!
悪魔:アタシ達は御免だねぇ。
人間なんて着飾る豚みたいなもんさ。
喰いたきゃ殺すし、用が無きゃ只のゴミ、鬱陶しいったらありゃしない。
リア:むー!!
難民:そうか……フッ。
エルジュの教えか…俺も昔は覚えていた筈なんだが、
齢を取ると、そういう綺麗な話も綺麗事も、何も考え無くなるもんだな。
悪魔:そういう事♪
所詮、子供が可愛いのは、子供だからなんですよねぇ。
難民:御蔭でようやく踏ん切りがついた。
さぁ悪魔さん、とっとと手続きと行こうじゃないか。
リア:おじちゃん!?
難民: ……お嬢ちゃん、名は何と言う?
リア: ……リア。
リア・バークライツ。
難民:リア?
人は、罪を犯さなきゃ生きて行けない、どうしようもない生き物だが、
それは頭が良いからであって、余計な事を考えなきゃ、
もっと気楽に生きられる。 ……他の動物と同じようにな。
リア:うん。
難民:別に、動物の方が愉快だとは決して思わん。
だがそれでも俺は畜生に堕ちたい。
消せない罪を背負ったままの眠れん日々も、
夢に見る家族の泣き顔も……俺にはもうウンザリなんだ。
リア:逃げ出したって…逃げ出したって何も変わらないよ!?
逃げた所がどんなに素敵でも、
何時しかそれを、逃げたおじちゃん自身が壊してしまうんだよ!?
難民:良いんだ、それでも!!
名も知られない一人の男が消えた所で、それこそ罪一つ生まれないだろうさ!!
だから悪魔にだって魂を売り渡すんだ!!
悪魔:( 手を叩いて )決ーーーまりッ♪
さささっ、それでは参りましょう!!
何、痛いのは最初だけです!!
直になぁんにも解らなくなりますから!!
難民: ……じゃあな、リア。
もしも此処から出ていけるなら、人間である内に出ていくんだぞ?
リア:おじちゃん……。
( 間 )( 黒の国ディガスディア:木陰に出来た家 )
少年:ただいま。
リア:( 泣いている )――。
少年:また泣いているのか?
水が勿体無いぞ。
リア:( 泣き続けている )――。
少年:リア。
リア:救えなかった……!!
また……誰も……!!
少年: ……最後に選ぶのは自分達なんだ。
天使であれ悪魔であれ、追い詰められた果てに相手を選ぶ権利がある。
其処にリアがどうこうする余地なんて無いだろう?
リア:じゃあ、どうしてアーウィンは人間の私を匿うの?
足元に落ちていた石コロを、只何となくで拾っただけ?
少年:石コロだなんて……いや、
本当の所はどうなんだろうな?
只寂しかっただけなのかも知れない。
リア: ……寂しい?
……難しいね、本当は寂しいのに、人は一人になりたがるんだね。
少年:さあねぇ。
結局魂を売ればそういう面倒は要らないんだろうが、
そういう人間だった奴等は、皆同じになって詰まらない。
……ああ、だからリアが眩しかったのかもな。
リア:アーウィン。
少年:何?
リア:勉強しよ?
少年:はあっ!?
リア:勉強して勉強して、偉くなればさ、
きっと耳を傾けてくれる人が出てくるよ!!
人間だって魔族だって、きっとそこら辺は一緒だと思うんだよね。
少年:魔族は……色々居るぞ?
人間を犯すのも居れば、喰う為に襲う奴も居る。
リア:一緒にしたら駄目?
だって、アーウィンは優しいじゃない。
少年:俺は特別だよ。
ハーフデヴィルの割には顔が整っているだろう?
しかも人間と普通に話せるってのはさ、
俺の親父ってのはよっぽど血の薄い、低級も良い所だったんだな。
リア:お父様に感謝、ですね。
少年:こんな地獄に産んでくれて有難う、って?
リア:ですねー。
少年: ……っておい、
今からするのか!?
リア:人間やろうと思った時にやらなきゃ。
やる気にも鮮度があるのだ!!
少年:やろうと……って、リアは何時もそうじゃないか!!
嗚呼…ったく、金にもならない敵創りを何時までも……フフッ。
( 間 )( 王都アイゼフィール:枯れたように男は語った )
アー:あの頃俺は…そうだな、人には言えん仕事をしていたな。
人の心を無くせば、餓鬼でも勤まる下らん仕事だ。
シル:死体を……。
アー:結局俺も、人間なんざ道具程度にしか思って無かったのさ。
リアにしたって、綺麗な人形を愛でてやってるって、餓鬼の自惚れと同じだ。
壊れたら平気で捨てただろうし、五月蠅過ぎたら俺が壊していただろうな。
シル:リア……という少女は、一体何を夢見ていたのでしょうか?
アー:さてねぇ……。
今思えば、対岸同士が仲良くなれる国。
魔族と人間の隔たりも無く、のどかに安らかに過ごせる国創りって所か。
シル:ですが、地獄は地獄だからこそ価値が在る。
嫌な仕組みですが、きっと其処は、世界には必要な掃き溜めだったんですよ。
アー:その通りだ。
ゴミ箱に上品な蓋をして、『さあどうぞ、いらしてください』。
『誰一人拒みはしません』、『但し永遠の虜になってください』。
それがあの国の真実だった。
シル:では、きっと彼女は……。
( 間 )( 黒の国ディガスディア:あぜ道の死体整理 )( ※回想シーン )
少年:よいっしょ……っと!!
……ふう。
悪魔:やあ、アーウィン坊や。
精が出る事だねぇ。
少年: ……何ですか?
仕事なら真面目にやってますよ。
悪魔:いやいや、坊やを疑うつもりは毛頭無いよ?
臭くて汚い仕事なのに、良く尽くしてくれているねぇ。
少年:なら何の御用です?
どうせ優しい言葉は上辺だけで、
本当の所は、半端者の俺の事も嫌いなんでしょう?
悪魔:心外だねぇ、多少は可愛がってやっているつもりだったが。
少年:魔族ってのは何時もそうだ。
人を使い捨てて、何食わぬ顔で明日を暮らす。
結局は『罪悪感』そのものが無いんだ、違いますか?
悪魔:ほぉう?
少年:ところが、肚の底では人への憎しみが抑えきれない。
魔族と人間の戦い、最後に勝ったのは――。
悪魔:( 途中から被せて )300年前の事を何時までも。
何、たかが300年じゃないか。
その程度で勝ち誇るってのは、些か青過ぎやしませんかねぇ?
少年:そういう、ものですか。
悪魔:アーウィン坊や?
君は一体どちらの側に付きたいんだい?
少年:俺は……。
悪魔:実の所……此れは坊やにだから話すが、
此の国はディガスディア様そのものでね。
魔族にとっても、人間にとっても重要な場所なのさ。
少年: ……何だって?
悪魔:今でこそ陛下の魂は封印されているが、その肉体は健在だ。
鉄の茨も血錆の水も、総てはディガスディア様の血肉なのさ。
少年:だから人間の魂を集めて……蘇生の為に。
悪魔:そうだよぉ?
だが人間どもは、そうと知りながら我々魔族を利用している。
どうせ駆け込んでくる異端の数など、たかが知れている、とね?
そうしなければ健全に生きられないとしたら、それは無様な種族だ。
……違うかい?
少年:どちらかに……付かないとどうなりますか?
悪魔:さぁてねぇ、怖い事になるんじゃないかな?
少年:俺…は…。
魔族:早く女を渡す事だ。
少年:俺は……。
( 間 )( 木陰に出来た家:恵みの雨の其の先に )
リア:雨だーーー!!
少年:はいはい、そうですね。
さっさと水を集めようぜ?
リア:ねえねえ、きっと虹が出るよぉ!?
すっごく大きぃ極彩色の!!
少年:そうですねぇ。
後で樹の上から、二人でのんびり観ましょうね。
リア:ねえ、アーウィン?
少年:何?
リア:私の事、好き?
少年:( おどけて )愛してる。
リア:私さ、アーウィンの事も、皆の事も大好き。
少年:全く、博愛主義も大概にしろってんだよッ!!
人の気も知らないでさぁ!!
リア:それはお互い様でしょ~?
永付き合いもしないで、気安く好きだって言う人はね、
今の自分が嫌いだから、構って欲しいだけなんだよ。
少年: ……愛してるさ、多分。
リア:えっへっへー。
私ね、ベッドの中で必死になるアーウィンが大好き。
少年:なっ!?
リア:自分の事だけ考えて、まるで震える子リスみたいで。
こんな世界で、私が貴方の寄生木になれるのが本当に嬉しかった。
少年:もっと色々してやっただろう!?
プレゼント送ったり、色んな思い出を作ったりさぁ!!
……そんなのを好きな理由にするんじゃねえよ!!
リア:ううん、此れが一番の理由で良いんだぁ。
御蔭で私、自分が誰でも良いって訳じゃ無い事に気付けたから。
少年:俺が!?
馬鹿だろお前、俺は暇潰しにお前を飼ってやっただけだ!!
所詮俺は魔族なんだよ!!
リア:そうだね。
でも、一緒に虹を待ち焦がれる人に逢えた。
それって幸せな事でしょう?
少年: ……なんだよそれ、いきなりさぁ。
もう終わりみたいな事言うなよ……!!
リア:もっと色んな人に逢いたかったなぁ。
……そして色々話し合って、慰め合って。
どんなに辛い雨でも耐えて、その後の虹を心から楽しみに出来る。
……うん、きっとそれが『仲間』って言えるんだよね。
少年:俺が外に連れてってやるよ。
そしたらお前がやりたいように生きれば良いじゃないか。
俺も頑張るからさぁ。
リア:そう?
……其れは嬉しいなぁ。
少年:ああ、俺はお前の味方だ、何があってもお前の味方なんだ!!
( 間 )( 底知れぬ深い闇夜の中で )
難民:ギュルルルル……!!!
ウゴオァァァ!!!
悪魔:おお良し良し、良い感じに出来てきたじゃないか。
これぞ悪魔の手先、此処でもたくさん殺して来て、良かったねですねぇ。
難民:アンダバ…ゴノボレヲ……ダマシダノガッ!?
悪魔: ……はて?
仰る意味が良く解りませんが?
難民:ナニボ……ガンジナグナルッデ……!!
デモウソダ……ゴノグルシミハ……ゴノカナジミハ……!!
悪魔:ああ、いやでも、何もかも鵜呑みにするのもどうかと思いますが。
だってあれ、比喩だし。
難民:ギザマッ!!
悪魔:( うんざりと )……だったらどうした?
難民:ナニッ!?
悪魔:騙されたと思ったなら、外へ逃げ出すなり自害するなり、
幾らでも方法はあっただろう?
難民:グルルル……ウウウゥゥッ!!!
悪魔:解っていますよぉ?
『此処まで堕ちた果て、自分が孤独になって良い訳が無い。』
『きっと此の先には何かが有る、曲りなりの希望が。』
『だって、こんなにも闇の力が込み上げてくるのだから。』
難民:ウ…ウウッ…ゾウダ……。
ゴノボレダッデ……ムグワレデモイイジャナイガ……!!
ボンノズゴジダケデモ……ワズガデモ……!!
悪魔:ウヒャヒャヒャヒャ!!!
悲しいねぇ……人間って生き物は。
難民: ……ゴロジデグレ。
悪魔:はい?
難民:モウイイ……。
イシギガマダアルトイウノナラ……セメテ、ヒトデアルウジニ。
悪魔:ああ……ふふっ♪
いやいや失礼、余りにも模範解答で!!
……ではそういう事で、手筈通りにお願いしますね。
( 間 )( 血の様に紅い夕立の中、只雨音だけが響いて )
少年:雨……また雨か……晴れるどころか連日となると、滅入るな。
……でも、帰る所がある。あいつが温かいスープを作ってくれている。
俺を待って居てくれている……ふふっ。
難民: ……坊主。
少年: ……何?
難民:幸せか?
少年:何だよいきなり、道端でさ。
……絶望した人間なりに、明るい話が聞きたいのか?
だったら――。
難民:( 被せて )俺は。
……俺として死んだ。
悪魔にも成らず、人間にも成らず、只、俺は俺として。
少年: ……?
血の痕……!?
難民:恨むならそれも良いだろう、
俺はもう死んじまうから、殺したくても殺せないのが哀れだが。
少年:まさか……!?
まさかッ!!?
難民:ずっと待って居た。
せめて大事な人間を奪った『 男 』の顔は知るべきだ、違うか?
少年:うああああぁぁぁ!!!!
難民:泣くな。
その涙は、あの子の為に取って置け。
俺にはもう、謝る言葉も無い。
少年: ……!?
リアは!?
難民:まだ生きている。 ……『そうしろ』と言われた。
悪趣味だが、もしもお前が本当に、愛を呉れる人に出逢えていたとしたら。
少年:あんたはもう喋らなくていい!!
難民:奇蹟ってのが起こるといいなぁ、坊主。
……ああ、こんな俺が他人の幸せを願って何が悪い…何が…悪いってんだ。
( 間 )( 血溜まりに倒れる少女に雨は容赦なく打ち付けて )
リア:う……ごほっ……。
少年:リ…ア……?
リア:アー……ウィ……ン。
少年:リアッ!!!
リア:雨……しばらく忘れていたなぁ。
自分の血も、紅いんだって事に。
少年:当たり前だろ!?
お前は人間なんだぞ!!
リア: ……。
綺麗な眼……紫色で、炎の様に煌めいている。
少年:俺……俺、本当は解らないんだ。
本当にリアの事を愛していたのか、本当に自分がやりたかったことは何なのか、
判らないまま此処まで来たからこうなって……ごめん!!
リア:ふふっ……正直…だね。
少年:ああ……!!
もう全部話すさ!!
だから死なないでよ、もっと俺と一緒に居てよ!!
俺の前で冷たくならないでよ!!!
リア:判らない事だらけ、か。
……じゃあ、ヒントです。
少年: ……え?
リア:私に逢えて、良かった?
少年: ……!!
リア:それが…君の『答え』で…良いんじゃないかなぁ?
少年:解ったよ、リア。
リア: ……止まないもんだねぇ、雨。
少年:うん?
リア:こういう時ってさ、パアって空が晴れて……。
綺麗な虹を見ながらお別れするものでしょう?
少年: ……見えるよ、俺には。
リアにもちゃんと見えるだろう?
リア: ……そうねぇ、そうですねぇ。
嗚呼、ニジに成れば、この世界も君の事も、
何時までも見護っていられるのかしら?
少年:ああ、きっと成れるさ。
俺も、何時までも空を見上げる男に成るよ。
リア:おやすみ、アーウィン。
独りになっちゃ駄目よ?
少年: ……君に、君に逢えて良かった!!
今なら心から言えるんだ!!
……君を愛している!!
リア: …………。
少年:リア……!!
( 間 )( 黒の国ディガスディア:出口 )
悪魔:それで?
どーすんの、これから?
少年:出ていく。
悪魔:坊やみたいに外に出た魔族はね、散々世の中を騒がせた挙句、
必ず身内に裏切られて殺される。
つまりそういう末路を辿った賢人・英雄の殆どが魔族だったって事さ。
それでも――。
少年:( 途中から被せて )俺は!!
……俺は人間だ、あんた達とは違う!!
悪魔:やれやれ…これは珍しさや酔狂じゃない、
哀れみから来る老婆心に違いはなかったが、それも仕方も無し、か。
魔族に人の気持ちは理解出来んよ。
少年:御世話になりました。
二度と此処へは帰ってきません。
悪魔:ああ、それが良い。
巣立ったヒナは振り返るもんじゃない。
バイバイ、アーウィン坊や。
( 間 )( 王都アイゼフィール:煌めく瞳は朧気な日差しを囚えていた )
シル: ……何だか、どうして団長に皆がついて来たのか、解った気がします。
アー:ほぉう?
魔族特有のカリスマ性か、はたまた、戦い続けて培った軍才にかな?
シル:人の気持ちを理解しようとする努力に、です。
きっと世界が平和になっても、それを心掛ける人は中々居ないと思います。
アー:俺は結局何も掴めちゃいない。
お前のせいで何もかも放り出して、今じゃ根無し草だ。
シル: ……償います、此の戦いが終わったら必ず。
アー:良いよ、もう。
只、事実は事実として認めねばならん。
あいつ等に贖罪(しょくざい)するのは俺の方だ。
シル:彼等にも、言いたい事が在った筈です、色んな思いも。
何時かそれを受け止てあげたいですね。
アー: ……愛している。
シル:え?
アー:あいつ等も大事だが俺達も大事だ。
……こんな時だからこそ言う。
シルヴィア、この戦いが終わったら結婚しよう。
シル: ……どうして『 今 』なんですか?
アー: ……。
シル:私の為に死のうとか、そういう風に考えているんじゃないですか?
アー:惚れた女の為に死ぬのは、悪いか?
シル:悪いです。
私、其処まで弱い女じゃありませんので。
アー:ブッ、フッハッハッハッ!!
ああそうだな、
シルは強い女だったなぁ。
シル:ふふっ……さ、御話は此処まで。
皆が待って居ますよ?
アー:続きは総てが終わってから、か。
これは生き残らねばならんなぁ。
シル:今度は2番目の恋を聞かせて下さい。
『必要な話』では無い、もっと気楽で安らかになれる話を。
アー:おう、大いに語ってやろうじゃないか!!
三十路男の恋話をとくと拝聴させてやる!!
ワハハハッッ!!
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