題名 |
公開日 |
人数(男:女:不問) |
時間 |
こんな話 |
作者 |
風のシルヴィア(36)
~浄火~
|
2015/12/20 |
5(1:2:2) |
30分 |
貴方は人より、ほんの少しだけ寂しがり屋なだけだったんだ。 |
ニコ |
登場人物
(年齢) |
性別 |
その他 |
サラ
(26)
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♀ |
本作の主人公にして金髪碧眼の美女。
少女の様な純真さと大人の優しさを兼ね備えている。
嘗てはシルヴィアと名乗っていた。
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ミシェル
(17)
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不問 |
四騎士と呼ばれる英雄にして金髪緑眼の美少年。
剣の名家であるフィーバストルテの跡取り。
シルヴィアに惚れている。 |
エレナ
(30)
|
♀ |
アイゼフィールの気高い女将軍。四騎士。
甲冑を脱げば桃色の髪をした優しい美女である。
『聖騎士エレナ』の異名通り癒しと光属性の遣い手。
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ゼオルード
(226)
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♂ |
悠久の時を生きた諸悪の根源。四騎士。
数千人の市民の命を犠牲にして若返る。
『時の翁』の異名通り時間を操り不死性が高い。
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フェンシア
(108)
|
不問 |
元アイゼフィール北方総司令官。故人。四騎士。
絶世の美貌を持つハーフエルフで気高くも天真爛漫である。
ゼオルードとは恋仲であり殺し合った仲でもある。
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「風のシルヴィア(36)~浄火~」
鉄の国アイゼフィールで起こったゼオルードの反乱は遂に最終局面を迎える。
伝説の竜騎士を復活させたゼオルードと仲間達を束ねる風のシルヴィア。
舞台を星空に移し2人の永い因縁は遂に決着する
( プロローグ:吐露する者達 )
エレ:どうして戦が好きなのかと訊かれれば…考える必要があるのかしら?
理屈無しに好きな事が在る、だからこそ個性が生まれ、人間らしさが人を導き合う。
……いいえ、本当は否定して欲しいのかもしれない。
私と対等の高さから、対岸から、私の知らない人生を送っている人から。
自分の正しさを疑わない人生なんて、真っ平御免だもの。
ゼオ:ふむ、人から好かれる術か?
あらゆる媚を売り己を捨てるか、たゆまぬ研鑚で他者の畏敬を勝ち取るか。
果てまた、持って産まれた『 才 』とやらで羽虫の如く奴等を惹きつけるか。
……だが、それにすら興味を無くせばどうすれば良い?
ただ虚無の彼方から招かれ、虚無の世界へと還って行くのか?
ミシ:僕が人に優しい訳……って、別にそんなことは無いですよ。
好きな人の為に生きる、その人がとびきり素敵な人だった。
僕の今の在り方は、総て彼女を信じて支えたいって、そう生きた結果です。
……でも、人の幸せを願うだけの人生って、他人から見たらどうなのかな?
僕を幸せにしてくれる人は、此の先に待って居てくれるのかなぁ?
サラ:未来を信じるのが怖い、か……そうだな。
今が辛いなら馬鹿になって凌げ、何時か心から笑える日が来ることを信じて。
友人を大事にしろ。夢は曲げるな。思い出を捨てるな。
それから…ええっと……いや、本当は解っているんだよ。
確かに人生は物語の様にはいかない。
……それでも、私はお前達を応援する。
( 間 )( エレナとゼオルードが創り上げた宇宙の世界にて )
ミシ:ぐっ、流石は四騎士の頂点……!!
殺気で足が凍りつきそうだ……!!
ゼオ:ふっ、王の剣が聞いて呆れる。
3対1で掛かって来ぬのか?
サラ:恐れるな、ミシェル。
多勢に無勢、手出しできないのは奴の方だ。
ミシ:はい!!
ゼオ:それはどうかな?
( 息を吸って )――。
暗さざめく精霊の子よ、二つ喰らいの二槍の長よ。
ミシ:詠唱ッ!?
させるかッ、飛剣陣:飍牙!!
サラ:早い……やったか!?
ゼオ: ……涅槃の彼方より此のゼオルードが導かん。
ミシ:くっ、駄目だ!!
生半可な一撃では時を巻き戻されてしまう!!
エレ:詠唱の隙すらも無い……?
いえ、そんな筈は…きっと何か弱点がある、一瞬にして最大の隙が。
ゼオ:綺羅の如きその新髪を捨て、
我が敵を屠る不死の騎士として蘇れ!!
出でよフェンシアッ!!
エレ:何ですって!?
ミシ:まさかッ!?
ゼオ:フハハハハッ……!!
( 間 )( 宇宙:炎と氷の二槍の貴人 )
フェ:ん……んんッ……ッ!!
( 欠伸 )ふわぁぁ~~。
サラ:フェンシア・キル・ツヴァイボルグ……!!
フェ:んん? ……おお、黄泉の国にて昼寝をしておったら、
随分と賑わっておるではないか?
ミシ:フェンシア様……何て酷い姿に。
フェ:おや、ミシェル坊は健在か?
ふむ、確かに我らしくもない。
つぎはぎだらけの埃塗れ、おまけに死臭もする。
エレ:ゾンビ……!?
ゼオルード、貴方一体、自分が何をしたか解っているの!?
ゼオ:フッ、『あの時』こやつの骸の一部を喰らっておいた御蔭で手間が省けた。
生き返らせるで無く、リビング・デッドとしてならば!!
……まあ、ハーフエルフの素体を見つけ出すのは事だったがな?
フェ:ふわぁ~~……あふ。
サラ:おのれ外道!!
死者の尊厳を何と心得る!?
ゼオ:今更ッ!!
此の俺を誰だと思って……うぐっ!?
き、貴様何を!?
フェ:いやさ、せめて一太刀、悪くもあるまい?
大火力にて死に絶えろ、外・道♪
ゼオ:いかん、よもや制御がッ!?
ぐっ!?
ウゴオォォァアッ!!?
( 間 )( 爆炎の槍が悪のはらわだを燻り暴く )
サラ:炎の槍が、正義が燃え尽きていく……。
フェンシア様の氷炎陣、其の一振りが。
ゼオ:ぐっ……馬鹿な、一度ならず二度までも!!
こ、こんな筈では……!?
フェ:クカカッ!!
詰まらぬ生に固執するから増長なぞするのよ!!
はよう諦めて此方側へ来い、ゼオ!!
ゼオ:黙れッ、ハーフエルフ風情が……ぬんっ!!
フェ:おっ。
ゼオ:( 荒い息 )――ッ!!
どうだ、動けまいが!?
フェ:此れは如何ともし難い。
……済まぬなぁお主等、遠慮なく殺してくれ。
ミシ:僕が引き受けます。
同じ『古き国の四騎士』として、フェンシア様を。
……片槍を失い、生身とは程遠い、その腐敗した身体を!!
フェ:別段未練は無い、前世の用なら既に済ませた。
……が、エレナよ。
エレ:はい?
フェ:魔天は開けたぞ?
王の鍵の名に懸けてな。
エレ: ……ッ!?
ゼオ:ぐっ……はぁっ…はあっ……!!
エレ: ……ッ!?
そう……貴方様は、最後まで優しいのね。
フェ:ククッ…好きにやってみるが良い。
どれだけ無様であろうと応援してやる。
エレ:ありがとう……。
フェ:生きろ、エレナ。
お前がお前で在る理由は、生きていれば必ず見つかる……きっと。
エレ:うふふっ……ええ、そうですね。
フェ: ……そうか。
……うぐっ、此れ…は?
ゼオ:何時まで戯れている!?
つぎはぎの出来損ないめッ!!
サラ:ゼオルード、貴様!!
フェ:良いのだ、シルヴィア。
総て我が身から出た錆、我が不徳を赦してくれ。
サラ:赦すも何も……うっ!?
ミシ:シルヴィアさん!?
エレ:此の槍捌き……!!
いささかの衰えも見せない、此の悲しい舞踏は、一体誰の為に……!?
フェ:早く止めねば要らぬ犠牲が増える。
迷う暇は無いぞ?
サラ: ……託しても良いか、ミシェル?
ミシ:解って居ます……!!
此れも務めと解しましょう。
早く為遂げなければきっと出来なくなる、だから!!
フェ:ククッ、良い殺気だ。
若さと焦燥に狩られるもまた、一興か。
エレ:只でさえ自我を失う程の苦痛と倦怠でしょうに、
此の理力こそは、まさにフェンシア様の。
サラ:それと…礼を言うよ。
ミシ:はい? ……あっ。
サラ:ミシェルが私の為に持ってきてくれた。
冷たくて悲しい物語の詰まった此の竜剣に、
何処か優しくて甘い匂いが刻まれた気がする。
ミシ:そんな、僕だって悪い人間です。
でも……嗚呼、そうだったのか。
サラ:うん?
ミシ:人を好きになれるかもしれない。
だから僕は生きていて良いのかもしれない。
僕は僕を名乗っても良いのかもしれない……僕は。
サラ:良いよ、そんなの当り前じゃないか。
ミシ:シルヴィアさん……。
サラ:何も気にするな、ただ前を向いてがむしゃらに。
その背中を追う人は、味方ばかりでは無いのかも知れないけれど、
きっと、自分の幸せは奔り続けた先にしか存在しないんだよ。
ミシ: ……本当に、貴女って人は。
偶には後ろも振り返ってくださいよ。
サラ:え――?
エレ:( 被せて )危ないッ!?
ミシ:もう、負けません!!
フェ:ほう、良くぞ凌いだ!!
ミシ:負けるわけにはいかないんだ!!
僕には僕の戦いがある!!
フェ:それで良い、ミシェル・フォン・フィーバストルテ!!
託されるとはそういう事だ!!
ミシ:ハアッ!!
( 間 )( 宇宙:氷と風の激闘の傍で )
ゼオ: ……グッ、どうした、エレナ?
下らぬ茶番に気を取られ、俺に再生の暇を与えたな?
エレ:考えていました。
ゼオ:何?
エレ:フェンシア様の御言葉の意味を。
生きるとはどういう事かを。
ゼオ:答えは出たのか?
エレ:ウフフッ……はい。
ゼオ: ……。
サラ:ゼオルード!!
ゼオ:誰の赦しを得て俺の名を呼ぶ?
噛み殺すぞ、小娘。
サラ: ……ッ!?
ゼオ:人間なぞ死滅すれば良い。
うつつを抜かすとは良く言ったもの、
所詮生きれば生きるだけ惑い苦しむ、ならば俺が!!
サラ:貴様は人間を愛していたのでは無いのか!?
此の国の民を、鉄の国アイゼフィールを!!
ゼオ:だぁまぁれえぇぇ!!!
サラ:何ッ……グゥッ!?
ゼオ:貴様如きに何が解る!?
一体俺の人生の何を汲み取ったつもりだ!?
サラ:ぎっ……魂が奪われていく!?
死神の鎌かッ……!!
ゼオ:一族総てを食い殺した懺悔のつもりでアイゼフィールに尽くした!!
何もかも捨て、情も正義も夢さえも投げ打って!!
サラ:駄目だ……意識が…遠のいて……。
ゼオ:貴様は此処…で……ッ!?
エレ:失礼、背中がガラ空きでしたので。
ゼオ:エレナアァァッ!!?
エレ:ふん……だらしのないのね。
時間を巻き戻す『夢幻陣』を解いてまでシルヴィアにムキになる。
そんな事だから何時までも彼女に足元を掬われるのよ。
ゼオ:此の俺が!? ……こんな小娘に!?
サラ:はあっ…はあっ……!!
ゼオ:馬鹿を云えッ!!
俺はシルヴィア・シルフィードを創り上げただけだ!!
竜騎士シルヴィアを蘇らせる為に、龍の血の探究の為に!!
エレ:老人だった頃の貴方は、
彼女の話をジーニアスから聞くたびに人間らしく微笑んだ。
まるで孫の成長を愉しむ翁の様に。
ゼオ: ……俺に、人の心が残っている筈が。
エレ:貴方は夢を捨てたと言ったわね?
それは遠い昔、未だ貴方にとって取り返しのついた時代の夢でしょう?
ゼオ:貴様に……俺の……。
エレ:思い出してみて?
貴方が抱いた夢の形を、貴方が貴方で在った頃の『誇り』を。
( 間 )( ゼオルードの独白:彼は父によって造られた存在だった )
ゼオ:俺は今まで人を好きになった事が無い。
俺の心を動かすような人間は、俺より優れた人間は同じ時代には居なかったから。
……俺は人間の心が無い。
力が欲しくて、親父も弟も、ゴラムザードに名を連ねる人間を総て喰い殺したから。
……俺は誰からも愛されたことが無い。
当然だろう、自分を理解出来ずに諦め、人間の振りをしている化け物には。
………だが、此れで本当に生きていると言えるのか?
フェ:言えぬなぁ、要するに何もない。
自暴自棄すら程遠い、冷たいトカゲと何が違う?
ゼオ:それが悲しいとすら思わない……大体、人に好かれるとは何だ?
何故人間は、人間を愛することが出来る?
遺伝の欠陥を克服する為か?
フェ:お主は綺麗な物、人、心をわざわざ穿って捉えるのか?
ゼオ:それは……。
フェ:もっと素直になれば良い。
本当は誰かを愛してみたい、誰かに好かれてみたい。
人間なら当然の心だよ。
ゼオ:此の先……もし祖国の為に我が生涯を捧げたならば、
何時しか俺は、皆を好きになっているのだろうか?
俺を愛してくれる人間は現れるのだろうか……こんな、俺を。
フェ:悩むな。 突き進め。
何一つ持ち合わせぬと言うのなら、何一つ恐れる事もあるまい。
ゼオ:お前は誰だ?
何故今更……こんな、夢を。
フェ:もっと早くにお前に逢って、そう言ってやりたかった。
生きる事なんて大したことじゃ無い。
ただ好きな人間を見つけ、愛し、信じれば良い。
それだけで間違いは起こらなかったのに……済まぬなぁ。
ゼオ:お前は……!!
( 間 )( 宇宙:聖処女の御手は悪しき心を諸共に )
エレ:ゼオルード様?
ゼオ:ハッ!?
エレ:貴方に問う事なんて何一つ無い。
貴方が生きた道、その報国の道は私達の憧憬だった。
私達が帰って来た時、それを迎えてくれたのは、
何時だって私達の為を想ってくれていた、優しいおじい様の瞳だった。
ゼオ:嘘だ…そんな事は。
俺はただ……次の戦の為に。
エレ:ただ前を向いて生きて来たのでしょう?
二度と後悔しないために。
せめて人間だと言って欲しくて。
ゼオ:エレナ、俺は代々の四騎士を見てきた。
どいつもこいつも変人だったが、
此の俺に抱きつく程の狂人は、お前が初めてだぞ?
エレ:いいえ、少なくとも私は二番目。
そうでしょう?
ゼオ: ……。
サラ:エレナ様……。
ミシ:ハアッ!!
フェ:ムンッ!!
ミシ: ……ぐあっ!?
フェ:ふむ……此処までか。
いいや、惑い無きフィーバストルテの剣技、実に眼福であったぞ?
ミシ:僕の……勝ちです!!
フェ:解っている。
……胸から下が消し飛んだのだ、どうして足掻けようか?
サラ:フェンシア様ッ!!?
ミシ:( 困惑したように )――!!
全盛期の貴方だったら、きっと!!
フェ: ……違うな。
もしも、と言う言葉は無い。
あったとしても、使うだけ己が空しくなるだけだ。
ゼオ:フェンシア……。
貴様は俺の、一体何だったんだ?
フェ: ……言わせるな、たわけめ。
ゼオ:そうか……。
フェ:さてと、では庇うか。
ミシ:えっ!?
サラ:うわっ!?
……此れは、氷の壁!!
まさか、フェンシア様の氷の槍か!?
フェ:済まぬなぁミシェル。
詰まらぬ乱稚気に剣の誇りを付き合わせた。
ミシ:何を言ってるんです、庇うって、
一体何か…ら……ッ!?
サラ:まさか……!?
ゼオ:エレナ、貴様!?
エレ:貴方を道連れにして、此の世界から消えます!!
ゼオ:は、離せぇッ!!
エレ:ぐうっ!?
……フッ…ウフフッ……!!
ゼオ:何だと!?
貴様、既に死に兵か!?
エレ:フェンシア様の槍の業火、受けた傷は未だ残って居る筈!!
ならば、絶対に離さない!!
ゼオ:グウオオォァアアッ!!?
サラ:此の壁を解いてください、フェンシア様!!
フェ:出来ぬ。
せっかくエレナが夢幻陣の時を越え、ゼオルードを捉えたのだ。
幾ら時間を巻き戻そうと、此れで奴の滅びの結末は変えられん。
サラ:だけどッ!!
エレ:良いの……よ、シルヴィア。
サラ:エレナ様……!!
エレ:此の人は私のミルケットを奪った。
もしかしたら何かが変わっていたかもしれない、私の大切な子供を。
だから……。
サラ:そんなのは駄目だ!!
エレナさんはきっと幸せになるんだよ、此れからも生きて、生きて!!
皆から愛されて、皆から祝福されて、何時か素敵な人とさぁ!!
エレ: ……そう、考えてみれば簡単な事だった。
自分とは違った、対等な向こう側の女性。
何てことは無い、人並みの……幸せな家庭を築いた。
それはきっと、私以上に。
サラ:そんなことは無い!!
そんなことは無いよ!!
エレ:もう良いのよ。
私は自分で此の生き方を選んだのだから。
サラ:エレナ……サースティ……!!
エレ: ……此れで私も、少しは母親だって名乗れるかしら?
サラ:はい……!!
きっと…貴女は……!!
誰よりもお母さんです……!!
エレ:うふふっ……。
ありがとう、サラちゃん。
きっと幸せになるのよ?
サラ:エレナッ!!?
ゼオ:ウガアァァオォォォォ……!!!?
( 間 )( 宇宙を照らす白光が潰え )
サラ:ああぁ…そんな……!?
消えてしまった……!!
エレナ様が……私の居る世界から消えてしまった……!!
ミシ:フェンシア……様?
フェ:行け……導いて…やれ。
あの様では……添う者が必要だ。
ミシ:はい……。
ですが、こんな結末しか残って居ないのだとしたら、
僕達は、本当に生きる資格があるのでしょうか?
フェ: ……どうなの、だろうなぁ。
ミシ:クスッ…それでは、自分で生きて確かめてみる事にします。
今まで有難うございました。
フェ:うむ、何やら疲れてしまってなぁ。
……昼寝の続きを、愉しむとするよ。
息災でな、ミシェル。
ミシ:はい!!
フェンシア様も御元気で!!
フェ: ……その前に、エレナを慰めてやらねばならんか。
あの世もそう悪い物では無いが、向こうは向こうでやる事が在る。
嗚呼……やはり無理に起き続けるのは…良いことでは無いなぁ。
( 間 )( 消えていく巨星達は何時だって優しかった )
サラ:ぐすっ…( 泣き続ける )――……!!
ミシ:( 優しく )シルヴィアさん?
サラ:私は…何度失えばいいんだ?
ミシ: ……。
サラ:家族も…地位も…誇りも……友達も。
何一つ大事に出来なかった……。
私の人生は、此れは一体何だ?
ミシ:僕だって……自分の父親を殺した人間です。
サラ: ……。
ミシ:悪い人だったかもしれないけれど、
母様は本当にあの人を愛していた。
だから僕も、無理矢理好きになるようにしていたけれど、
二人とも、此の世界にはもう居ない。
……ジーニアスも。
サラ:皆、死んでしまったな。
ミシ:だけど、未だ終わっちゃ居ない。
サラ:戦争……いや、それとは程遠い血みどろのいさかいか。
ミシ: ……辛かったら、僕と一緒に逃げませんか?
サラ:えっ?
ミシ:何もかも捨てて、四騎士の名誉も捨てて、貴女を幸せにしたい。
だから……自分を嫌いにならないで……!!
サラ: ……泣いてくれるのか?
こんな私の為に。
ミシ:物語なんて嫌いです……僕はそんなに綺麗な人間じゃない。
それでも……僕は貴女を幸せにしたいんだ……!!
サラ:ミシェル……私は……。
( 間 )( 闇の落とし子、悪魔の子ゼオルード )
サラ:居るな?
ミシ: ……え?
サラ:匂いで判る……生に執着する怪物の匂い。
爛れきった欲望を吐き出す悪党の匂い。
ミシ:まさか……!?
サラ:出てこい、ゼオルード。
ゼオ:( ※此処からは人間では無い醜く歪んだ演技をして下さい。 )
ウ……ウギィィィ……ガバッ……!!
ミシ:あり得ない…あの爆発で生きている筈が……!!
エレナ様の渾身の聖火を喰らって!?
ゼオ:グウォォ……シル……ヴィアァァッ…!!
ミシ:いや……心臓が剝き出しだ!!
奴のあそこだけはもう、不死身じゃない!!
ゼオ:シル……ヴィアアァァッ……!!
ミシ:いける!!
サラ:いいや、私が行くよ。
ミシ:シルヴィアさん!?
だけど!!
サラ:私ならもう、どれだけ傷ついても大丈夫。
私ひとりじゃないって、ミシェルが教えてくれたから。
ミシ:あ……。
ゼオ:貴様等如きに……ぐうっ…!!
時間さえあれば、此れしきの……手傷!!
サラ:そうは行かない。
皆が遺してくれた此の好機、命に替えても為遂げてみせる!!
ゼオ:ゴフッ……!?
ゴボッ……ゴフッ……!?
……フ、フハハッ、そうか!!
行くか、シルヴィアッ!!!
サラ:いざ、参るッ!!
ゼオ&サラ:ハアアッッ!!!
( 間 )( 何処までも見果てぬ宇宙:夢潰えし時 )
サラ:( 荒い息 )――フンッ!!
ゼオ:ゴブッ……ガハッ!!?
ミシ:殺っ…た……?
とうとう……不死身の魔人が死ぬのか!?
ゼオ:( 人間に戻って )……フフッ、良くも、足掻く者よな、人間ども。
サラ:貴方だって人間だ!!
ゼオ: ……そうか。
サラ:何か……言い遺すことは在るか?
ゼオ: ……思えば13年前か、何の事も無い小娘に、龍の秘薬を与え、
何の因果か、その小娘は巡り巡って生き延び、俺の国で傭兵になっていた。
サラ: ……。
ゼオ:総てを失い荒れ果てていた筈の心が、仲間と出逢い、共に戦場を駆け、
夢とやらに向かって突き進む。
……立身出世と言う餓鬼の理想にひた向けて。
サラ:それでも、夢は夢だ。
ゼオ: ……そうだな。
確かに俺は、シルヴィアに囚われていたのやも知れん。
俺と似ていた筈が、何時しか全く違った人生を送り始めたお前が。
……羨ましかった。
サラ:こんな形でなくても、抱き締めて欲しいと言われれば、
私は…幾らでも……!!
ゼオ:ふっ……。
此の俺すらも赦すつもりなのか?
サラ: ……赦します。
貴方は人より、ほんの少しだけ寂しがり屋なだけだったんだ。
ゼオ:俺が……?
……嗚呼、フハハッ!!
成程なぁ、此れが『 心 』か。
サラ:ふふっ、ようやく楽しそうに笑いましたね?
本当に困った人です。
ゼオ:サラ。
サラ:はい?
ゼオ:大望なぞ叶えてしまえばゴミ同然になる。
未来を夢見るよりも今、此処にある小さな欠片を拾い集めて行け。
そうすれば……俺の様にはならん。
サラ: ……ありがとう…ございます。
心に刻みます。
ゼオ:( 溜息 )――。
今ならば正直に言えそうな気もするが……うむ、止めておこう。
サラ:そうですね……さよなら、ゼオルード。
皆、貴方の事が大好きでした。
ゼオ:さようなら、サラ・シルフィード。
……風と共に旅をする者よ。
( 間 )( 去りゆく勇者を見護る瞳は )
ゼオ:何と言う女だ……。
きっと男とは……あれ程の女を振り向かせる為に生きるのだろう。
もしも……俺もまともに生きていたなら……きっと。
……ふっ、『もしも』か。
俺までこんな今際では、あの世で奴に嗤われてしまうなぁ……。
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