題名  公開日   人数(男:女:不問)  時間  こんな話  作者

 風のシルヴィア(36)
浄火(じょうか)

2015/12/20  5(1:2:2) 30分 貴方は人より、ほんの少しだけ寂しがり屋なだけだったんだ。  ニコ

登場人物
(年齢)
性別 その他

サラ
(26)

本作の主人公にして金髪碧眼の美女。
少女の様な純真さと大人の優しさを兼ね備えている。
嘗てはシルヴィアと名乗っていた。

ミシェル
(17)

不問 四騎士と呼ばれる英雄にして金髪緑眼の美少年。
剣の名家であるフィーバストルテの跡取り。
シルヴィアに惚れている。

エレナ
(30)

アイゼフィールの気高い女将軍。四騎士。
甲冑を脱げば桃色の髪をした優しい美女である。
『聖騎士エレナ』の異名通り癒しと光属性の遣い手。

ゼオルード
(226)

悠久の時を生きた諸悪の根源。四騎士。
数千人の市民の命を犠牲にして若返る。
『時の翁』の異名通り時間を操り不死性が高い。

フェンシア
(108)

不問

元アイゼフィール北方総司令官。故人。四騎士。
絶世の美貌を持つハーフエルフで気高くも天真爛漫である。
ゼオルードとは恋仲であり殺し合った仲でもある。




「風のシルヴィア(36)~浄火(じょうか)~」





鉄の国アイゼフィールで起こったゼオルードの反乱は遂に最終局面を迎える。

伝説の竜騎士を復活させたゼオルードと仲間達を束ねる風のシルヴィア。

舞台を星空に移し2人の永い因縁は遂に決着する






( プロローグ:吐露する者達 )

 

エレ:どうして(いくさ)が好きなのかと()かれれば…考える必要があるのかしら?

   理屈無しに好きな事が()る、だからこそ個性が生まれ、人間らしさが人を導き合う。

   ……いいえ、本当は否定して欲しいのかもしれない。

   私と対等の高さから、対岸(たいがん)から、私の知らない人生を送っている人から。

   自分の正しさを疑わない人生なんて、()(ぴら)御免(ごめん)だもの。

 

ゼオ:ふむ、人から好かれる(すべ)か?

   あらゆる(こび)を売り己を捨てるか、たゆまぬ研鑚(けんさん)で他者の畏敬(いけい)を勝ち取るか。

   果てまた、持って産まれた『 (さい) 』とやらで羽虫(はむし)(ごと)奴等(やつら)()きつけるか。

   ……だが、それにすら興味を無くせばどうすれば()い?

   ただ虚無の彼方(かなた)から招かれ、虚無の世界へと(かえ)って行くのか?

 

ミシ:僕が人に優しい訳……って、別にそんなことは無いですよ。

   好きな人の為に生きる、その人がとびきり素敵な人だった。

   僕の今の()り方は、(すべ)て彼女を信じて支えたいって、そう生きた結果です。

   ……でも、人の幸せを願うだけの人生って、他人から見たらどうなのかな?

僕を幸せにしてくれる人は、()の先に待って()てくれるのかなぁ?

 

サラ:未来を信じるのが怖い、か……そうだな。

   今が辛いなら馬鹿になって凌げ、何時(いつ)か心から笑える日が来ることを信じて。

   友人を大事にしろ。夢は曲げるな。思い出を捨てるな。

   それから…ええっと……いや、本当は解っているんだよ。

   確かに人生は物語の様にはいかない。

……それでも、私はお前達を応援する。

 

 

( 間 )( エレナとゼオルードが創り上げた宇宙の世界にて )

 

 

ミシ:ぐっ、流石(さすが)四騎士(よんきし)の頂点……!!

   殺気で足が凍りつきそうだ……!!

 

ゼオ:ふっ、王の(つるぎ)が聞いて呆れる。

   3対1で掛かって来ぬのか?

 

サラ:恐れるな、ミシェル。

多勢(たぜい)無勢(ぶぜい)、手出しできないのは奴の方だ。

 

ミシ:はい!!

 

ゼオ:それはどうかな?

   ( 息を吸って )――。

(くら)さざめく精霊の子よ、二つ()らいの二槍(にそう)(おさ)よ。

 

ミシ:詠唱ッ!?

させるかッ、飛剣陣(ひけんじん)飍牙(ひゅうが)!!

 

サラ:早い……やったか!?

 

ゼオ: ……涅槃(ねはん)彼方(かなた)より()のゼオルードが導かん。

 

ミシ:くっ、駄目だ!!

   生半可な一撃では時を巻き戻されてしまう!!

 

エレ:詠唱の(すき)すらも無い……?

いえ、そんな(はず)は…きっと(なに)か弱点がある、一瞬にして最大の(すき)が。

 

ゼオ:綺羅(きら)の如きその(さら)(かみ)を捨て、

我が敵を(ほふ)る不死の騎士として蘇れ!!

   ()でよフェンシアッ!!

 

エレ:(なん)ですって!?

 

ミシ:まさかッ!?

 

ゼオ:フハハハハッ……!!

 

 

( 間 )( 宇宙:炎と氷の二槍の貴人 )

 

 

フェ:ん……んんッ……ッ!!

   ( 欠伸 )ふわぁぁ~~。

 

サラ:フェンシア・キル・ツヴァイボルグ……!!

 

フェ:んん? ……おお、黄泉(よみ)の国にて昼寝をしておったら、

   随分と(にぎわ)わっておるではないか?

 

ミシ:フェンシア様……(なん)て酷い姿に。

 

フェ:おや、ミシェル坊は健在か?

ふむ、確かに我らしくもない。

   つぎはぎだらけの埃塗(ほこりまみ)れ、おまけに死臭(ししゅう)もする。

 

エレ:ゾンビ……!?

   ゼオルード、貴方(あなた)一体、自分が何をしたか解っているの!?

 

ゼオ:フッ、『あの時』こやつの(むくろ)の一部を喰らっておいた御蔭で手間が(はぶ)けた。

   生き返らせるで無く、リビング・デッドとしてならば!!

   ……まあ、ハーフエルフの素体(そたい)を見つけ出すのは(こと)だったがな?

 

フェ:ふわぁ~~……あふ。

 

サラ:おのれ外道!!

   死者の尊厳を何と心得る!?

 

ゼオ:今更ッ!!

   ()の俺を誰だと思って……うぐっ!?

   き、貴様何を!?

 

フェ:いやさ、せめて一太刀(ひとたち)、悪くもあるまい?

   大火力(だいかりょく)にて死に絶えろ、外・道♪

 

ゼオ:いかん、よもや制御がッ!?

   ぐっ!?

   ウゴオォォァアッ!!?

 

 

( 間 )( 爆炎の槍が悪のはらわだを燻り暴く )

 

 

サラ:炎の槍が、正義が燃え尽きていく……。

   フェンシア様の氷炎陣(ひょうえんじん)()の一振りが。

 

ゼオ:ぐっ……馬鹿な、一度ならず二度までも!!

   こ、こんな(はず)では……!?

 

フェ:クカカッ!!

   ()まらぬ(せい)に固執するから増長(ぞうちょう)なぞするのよ!!

   はよう(あきら)めて此方側(こちらがわ)へ来い、ゼオ!!

 

ゼオ:黙れッ、ハーフエルフ風情(ふぜい)が……ぬんっ!!

 

フェ:おっ。

 

ゼオ:( 荒い息 )――ッ!!

   どうだ、動けまいが!?

 

フェ:()れは如何(どう)ともし(がた)い。

   ……済まぬなぁお主等(ぬしら)、遠慮なく殺してくれ。

 

ミシ:僕が引き受けます。

   同じ『古き国の四騎士(よんきし)』として、フェンシア様を。

……片槍(かたやり)を失い、生身(なまみ)とは程遠い、その腐敗した身体を!!

 

フェ:別段未練は無い、前世の用なら既に済ませた。

   ……が、エレナよ。

 

エレ:はい?

 

フェ:魔天(まてん)()けたぞ?

   (おう)(かぎ)の名に懸けてな。

 

エレ: ……ッ!?

 

ゼオ:ぐっ……はぁっ…はあっ……!!

 

エレ: ……ッ!?

そう……貴方様(あなたさま)は、最後まで優しいのね。

 

フェ:ククッ…好きにやってみるが良い。

   どれだけ無様(ぶざま)であろうと応援してやる。

 

エレ:ありがとう……。

 

フェ:生きろ、エレナ。

   お前がお前で()る理由は、生きていれば必ず見つかる……きっと。

 

エレ:うふふっ……ええ、そうですね。

 

フェ: ……そうか。

   ……うぐっ、()れ…は?

 

ゼオ:何時(いつ)まで()れている!?

   つぎはぎの出来損ないめッ!!

 

サラ:ゼオルード、貴様!!

 

フェ:良いのだ、シルヴィア。

   総て我が身から出た(さび)()不徳(ふとく)(ゆる)してくれ。

 

サラ:(ゆる)すも何も……うっ!?

 

ミシ:シルヴィアさん!?

 

エレ:()槍捌(やりさば)き……!!

   いささかの衰えも見せない、()の悲しい舞踏(ぶとう)は、一体誰の為に……!?

 

フェ:早く止めねば要らぬ犠牲が増える。

   迷う(いとま)は無いぞ?

 

サラ: ……(たく)しても良いか、ミシェル?

 

ミシ:解って居ます……!!

()れも(つと)めと()しましょう。

   早く為遂(しと)げなければきっと出来なくなる、だから!!

 

フェ:ククッ、良い殺気(さっき)だ。

   若さと焦燥に狩られるもまた、一興(いっきょう)か。

 

エレ:只でさえ自我を失う程の苦痛と倦怠(けんたい)でしょうに、

()理力(りりょく)こそは、まさにフェンシア様の。

 

サラ:それと…礼を言うよ。

 

ミシ:はい? ……あっ。

 

サラ:ミシェルが私の為に持ってきてくれた。

   冷たくて悲しい物語の詰まった()の竜剣に、

   何処(どこ)か優しくて甘い匂いが刻まれた気がする。

 

ミシ:そんな、僕だって悪い人間です。

   でも……嗚呼、そうだったのか。

 

サラ:うん?

 

ミシ:人を好きになれるかもしれない。

   だから僕は生きていて良いのかもしれない。

   僕は僕を名乗っても良いのかもしれない……僕は。

 

サラ:良いよ、そんなの(あた)(まえ)じゃないか。

 

ミシ:シルヴィアさん……。

 

サラ:何も気にするな、ただ前を向いてがむしゃらに。

   その背中(せな)を追う人は、味方ばかりでは無いのかも知れないけれど、

   きっと、自分の幸せは(はし)り続けた先にしか存在しないんだよ。

 

ミシ: ……本当に、貴女(あなた)って人は。

   (たま)には後ろも振り返ってくださいよ。

 

サラ:え――?

 

エレ:( 被せて )危ないッ!?

 

ミシ:もう、負けません!!

 

フェ:ほう、良くぞ(しの)いだ!!

 

ミシ:負けるわけにはいかないんだ!!

   僕には僕の戦いがある!!

 

フェ:それで良い、ミシェル・フォン・フィーバストルテ!!

(たく)されるとはそういう事だ!!

 

ミシ:ハアッ!!

 

 

( 間 )( 宇宙:氷と風の激闘の傍で )

 

 

ゼオ: ……グッ、どうした、エレナ?

   下らぬ茶番に気を取られ、俺に再生の(いとま)を与えたな?

 

エレ:考えていました。

 

ゼオ:何?

 

エレ:フェンシア様の御言葉の意味を。

   生きるとはどういう事かを。

 

ゼオ:答えは出たのか?

 

エレ:ウフフッ……はい。

 

ゼオ: ……。

 

サラ:ゼオルード!!

 

ゼオ:誰の(ゆる)しを得て俺の名を呼ぶ?

   噛み殺すぞ、小娘。

 

サラ: ……ッ!?

 

ゼオ:人間なぞ死滅すれば良い。

   うつつを抜かすとは良く言ったもの、

   所詮生きれば生きるだけ(まど)い苦しむ、ならば俺が!!

 

サラ:貴様は人間を愛していたのでは無いのか!?

   ()の国の(たみ)を、鉄の国アイゼフィールを!!

 

ゼオ:だぁまぁれえぇぇ!!!

 

サラ:何ッ……グゥッ!?

 

ゼオ:貴様如きに何が解る!?

   一体俺の人生の何を()み取ったつもりだ!?

 

サラ:ぎっ……魂が奪われていく!?

   死神(しにがみ)(かま)かッ……!!

 

ゼオ:一族総てを食い殺した懺悔(ざんげ)のつもりでアイゼフィールに尽くした!!

   何もかも捨て、情も正義も夢さえも投げ打って!!

 

サラ:駄目だ……意識が…遠のいて……。

 

ゼオ:貴様は此処(ここ)…で……ッ!?

 

エレ:失礼、背中がガラ()きでしたので。

 

ゼオ:エレナアァァッ!!?

 

エレ:ふん……だらしのないのね。

   時間を巻き戻す『夢幻陣(むげんじん)』を()いてまでシルヴィアにムキになる。

   そんな事だから何時(いつ)までも彼女に足元を(すく)われるのよ。

 

ゼオ:()の俺が!? ……こんな小娘に!?

 

サラ:はあっ…はあっ……!!

 

ゼオ:馬鹿を云えッ!!

   俺はシルヴィア・シルフィードを創り上げただけだ!!

   竜騎士シルヴィアを蘇らせる為に、龍の血の探究の為に!!

 

エレ:老人だった頃の貴方(あなた)は、

彼女の話をジーニアスから聞くたびに人間らしく微笑んだ。

   まるで孫の成長を(たに)しむ(おきな)(よう)に。

 

ゼオ: ……俺に、人の心が残っている(はず)が。

 

エレ:貴方(あなた)は夢を捨てたと言ったわね?

   それは遠い昔、未だ貴方(あなた)にとって取り返しのついた時代の夢でしょう?

 

ゼオ:貴様に……俺の……。

 

エレ:思い出してみて?

   貴方(あなた)(いだ)いた夢の形を、貴方(あなた)貴方(あなた)で在った頃の『(ほこ)り』を。

 

 

( 間 )( ゼオルードの独白:彼は父によって造られた存在だった )

 

 

ゼオ:俺は今まで人を好きになった事が無い。

   俺の心を動かすような人間は、俺より優れた人間は同じ時代には居なかったから。

   ……俺は人間の心が無い。

   力が欲しくて、親父も弟も、ゴラムザードに名を(つら)ねる人間を総て喰い殺したから。

   ……俺は誰からも愛されたことが無い。

   当然だろう、自分を理解出来ずに諦め、人間の振りをしている化け物には。

   ………だが、()れで本当に生きていると言えるのか?

 

フェ:言えぬなぁ、要するに何もない。

   自暴自棄(じぼうじき)すら程遠い、冷たいトカゲと何が違う?

 

ゼオ:それが悲しいとすら思わない……大体、人に好かれるとは何だ?

   何故人間は、人間を愛することが出来る?

   遺伝の欠陥を克服する為か?

 

フェ:お(ぬし)は綺麗な物、人、心をわざわざ穿(うが)って(とら)えるのか?

 

ゼオ:それは……。

 

フェ:もっと素直になれば良い。

   本当は誰かを愛してみたい、誰かに好かれてみたい。

   人間なら当然の心だよ。

 

ゼオ:()の先……もし祖国の為に我が生涯を(ささ)げたならば、

   何時(いつ)しか俺は、皆を好きになっているのだろうか?

   俺を愛してくれる人間は現れるのだろうか……こんな、俺を。

 

フェ:悩むな。 突き進め。

   何一つ持ち合わせぬと言うのなら、何一つ恐れる事もあるまい。

 

ゼオ:お前は誰だ?

   何故今更……こんな、夢を。

 

フェ:もっと早くにお前に逢って、そう言ってやりたかった。

   生きる事なんて大したことじゃ無い。

   ただ好きな人間を見つけ、愛し、信じれば良い。

   それだけで間違いは起こらなかったのに……済まぬなぁ。

 

ゼオ:お前は……!!

 

 

( 間 )( 宇宙:聖処女の御手は悪しき心を諸共に )

 

 

エレ:ゼオルード様?

 

ゼオ:ハッ!?

 

エレ:貴方(あなた)に問う事なんて何一つ無い。

   貴方(あなた)が生きた道、その報国(ほうこく)の道は私達の憧憬(どうけい)だった。

   私達が帰って来た時、それを迎えてくれたのは、

   何時(いつ)だって私達の為を想ってくれていた、優しいおじい様の()だった。

 

ゼオ:嘘だ…そんな事は。

   俺はただ……次の(いくさ)の為に。

 

エレ:ただ前を向いて生きて来たのでしょう?

   二度と後悔しないために。

   せめて人間だと言って欲しくて。

 

ゼオ:エレナ、俺は代々の四騎士(よんきし)を見てきた。

   どいつもこいつも変人だったが、

   ()の俺に()きつく程の狂人は、お前が初めてだぞ?

 

エレ:いいえ、少なくとも私は二番目。

   そうでしょう?

 

ゼオ: ……。

 

サラ:エレナ様……。

 

ミシ:ハアッ!!

 

フェ:ムンッ!!

 

ミシ: ……ぐあっ!?

 

フェ:ふむ……此処(ここ)までか。

   いいや、(まど)()きフィーバストルテの剣技(けんぎ)、実に眼福(がんぷく)であったぞ?

 

ミシ:僕の……勝ちです!!

 

フェ:解っている。

   ……胸から下が消し飛んだのだ、どうして足掻(あが)けようか?

 

サラ:フェンシア様ッ!!?

 

ミシ:( 困惑したように )――!!

全盛期(ぜんせいき)の貴方だったら、きっと!!

 

フェ: ……違うな。

もしも、と言う言葉は無い。

   あったとしても、使うだけ(おのれ)(むな)しくなるだけだ。

 

ゼオ:フェンシア……。

貴様は俺の、一体何だったんだ?

 

フェ: ……言わせるな、たわけめ。

 

ゼオ:そうか……。

 

フェ:さてと、では(かば)うか。

 

ミシ:えっ!?

 

サラ:うわっ!?

   ……()れは、氷の壁!!

   まさか、フェンシア様の氷の槍か!?

 

フェ:済まぬなぁミシェル。

   詰まらぬ乱稚気(らんちき)に剣の誇りを付き合わせた。

 

ミシ:何を言ってるんです、(かば)うって、

   一体何か…ら……ッ!?

 

サラ:まさか……!?

 

ゼオ:エレナ、貴様!?

 

エレ:貴方を道連れにして、()の世界から消えます!!

 

ゼオ:は、離せぇッ!!

 

エレ:ぐうっ!?

   ……フッ…ウフフッ……!!

 

ゼオ:何だと!?

貴様、既に()(へい)か!?

 

エレ:フェンシア様の槍の業火(ごうか)、受けた傷は()だ残って居る(はず)!!

   ならば、絶対に離さない!!

 

ゼオ:グウオオォァアアッ!!?

 

サラ:()の壁を解いてください、フェンシア様!!

 

フェ:出来ぬ。

せっかくエレナが夢幻陣(むげんじん)の時を越え、ゼオルードを(とら)えたのだ。

   幾ら時間を巻き戻そうと、()れで奴の(ほろ)びの結末は変えられん。

 

サラ:だけどッ!!

 

エレ:良いの……よ、シルヴィア。

 

サラ:エレナ様……!!

 

エレ:()の人は私のミルケットを奪った。

   もしかしたら何かが変わっていたかもしれない、私の大切な子供を。

   だから……。

 

サラ:そんなのは駄目だ!!

   エレナさんはきっと幸せになるんだよ、()れからも生きて、生きて!!

   皆から愛されて、皆から祝福されて、何時(いつ)か素敵な人とさぁ!!

 

エレ: ……そう、考えてみれば簡単な事だった。

   自分とは違った、対等な向こう側の女性。

   (なん)てことは無い、人並みの……幸せな家庭を築いた。

   それはきっと、私以上に。

 

サラ:そんなことは無い!!

   そんなことは無いよ!!

 

エレ:もう良いのよ。

私は自分で()の生き方を選んだのだから。

 

サラ:エレナ……サースティ……!!

 

エレ: ……()れで私も、少しは母親だって名乗れるかしら?

 

サラ:はい……!!

   きっと…貴女は……!!

   誰よりもお母さんです……!!

 

エレ:うふふっ……。

   ありがとう、サラちゃん。

   きっと幸せになるのよ?

 

サラ:エレナッ!!?

 

ゼオ:ウガアァァオォォォォ……!!!?

 

 

( 間 )( 宇宙を照らす白光が潰え )

 

 

サラ:ああぁ…そんな……!?

   消えてしまった……!!

   エレナ様が……私の居る世界から消えてしまった……!!

 

ミシ:フェンシア……様?

 

フェ:行け……導いて…やれ。

   あの(ざま)では……()う者が必要だ。

 

ミシ:はい……。

   ですが、こんな結末しか残って居ないのだとしたら、

   僕達は、本当に生きる資格があるのでしょうか?

 

フェ: ……どうなの、だろうなぁ。

 

ミシ:クスッ…それでは、自分で生きて確かめてみる事にします。

   今まで有難(ありがと)うございました。

 

フェ:うむ、何やら疲れてしまってなぁ。

……昼寝の続きを、(たの)しむとするよ。

   息災(そくさい)でな、ミシェル。

 

ミシ:はい!!

   フェンシア様も御元気で!!

 

フェ: ……その前に、エレナを(なぐさ)めてやらねばならんか。

   あの世もそう悪い物では無いが、向こうは向こうでやる事が在る。

   嗚呼……やはり無理に起き続けるのは…良いことでは無いなぁ。

 

 

( 間 )( 消えていく巨星達は何時だって優しかった )

 

 

サラ:ぐすっ…( 泣き続ける )――……!!

 

ミシ:( 優しく )シルヴィアさん?

 

サラ:私は…何度失えばいいんだ?

 

ミシ: ……。

 

サラ:家族も…地位も…誇りも……友達も。

   何一つ大事に出来なかった……。

   私の人生は、()れは一体何だ?

 

ミシ:僕だって……自分の父親を殺した人間です。

 

サラ: ……。

 

ミシ:悪い人だったかもしれないけれど、

   母様は本当にあの人を愛していた。

   だから僕も、無理矢理好きになるようにしていたけれど、

   二人とも、()の世界にはもう居ない。

   ……ジーニアスも。

 

サラ:皆、死んでしまったな。

 

ミシ:だけど、()だ終わっちゃ居ない。

 

サラ:戦争……いや、それとは程遠い血みどろのいさかいか。

 

ミシ: ……(つら)かったら、僕と一緒に逃げませんか?

 

サラ:えっ?

 

ミシ:何もかも捨てて、四騎士(よんきし)の名誉も捨てて、貴女(あなた)を幸せにしたい。

   だから……自分を嫌いにならないで……!!

 

サラ: ……泣いてくれるのか?

   こんな私の為に。

 

ミシ:物語なんて嫌いです……僕はそんなに綺麗な人間じゃない。

   それでも……僕は貴女を幸せにしたいんだ……!!

 

サラ:ミシェル……私は……。

 

 

( 間 )( 闇の落とし子、悪魔の子ゼオルード )

 

 

サラ:居るな?

 

ミシ: ……え?

 

サラ:匂いで判る……(せい)に執着する怪物の匂い。

   (ただ)れきった欲望を吐き出す悪党の匂い。

 

ミシ:まさか……!?

 

サラ:出てこい、ゼオルード。

 

ゼオ:( ※此処からは人間では無い醜く歪んだ演技をして下さい。 )

   ウ……ウギィィィ……ガバッ……!!

 

ミシ:あり得ない…あの爆発で生きている(はず)が……!!

   エレナ様の渾身(こんしん)聖火(せいか)を喰らって!?

 

ゼオ:グウォォ……シル……ヴィアァァッ…!!

 

ミシ:いや……心臓が()()しだ!!

   奴のあそこだけはもう、不死身じゃない!!

 

ゼオ:シル……ヴィアアァァッ……!!

 

ミシ:いける!!

 

サラ:いいや、私が行くよ。

 

ミシ:シルヴィアさん!?

   だけど!!

 

サラ:私ならもう、どれだけ傷ついても大丈夫。

   私ひとりじゃないって、ミシェルが教えてくれたから。

 

ミシ:あ……。

 

ゼオ:貴様等如きに……ぐうっ…!!

   時間さえあれば、()れしきの……手傷(てきず)!!

 

サラ:そうは行かない。

   皆が(のこ)してくれた()の好機、命に替えても為遂(なしと)げてみせる!!

 

ゼオ:ゴフッ……!?

   ゴボッ……ゴフッ……!?

   ……フ、フハハッ、そうか!!

行くか、シルヴィアッ!!!

 

サラ:いざ、参るッ!!

 

ゼオ&サラ:ハアアッッ!!!

 

 

( 間 )( 何処までも見果てぬ宇宙:夢潰えし時 )

 

 

サラ:( 荒い息 )――フンッ!!

 

ゼオ:ゴブッ……ガハッ!!?

 

ミシ:()っ…た……?

   とうとう……不死身の魔人(まじん)が死ぬのか!?

 

ゼオ:( 人間に戻って )……フフッ、良くも、足掻(あが)く者よな、人間ども。

 

サラ:貴方だって人間だ!!

 

ゼオ: ……そうか。

 

サラ:何か……言い(のこ)すことは在るか?

 

ゼオ: ……思えば13年前か、(なん)(こと)も無い小娘に、龍の秘薬を与え、

   何の因果か、その小娘は巡り巡って生き延び、俺の国で傭兵になっていた。

 

サラ: ……。

 

ゼオ:総てを失い荒れ果てていた(はず)の心が、仲間と出逢い、共に戦場を駆け、

   夢とやらに向かって突き進む。

   ……立身出世(りっしんしゅっせ)と言う餓鬼の理想にひた向けて。

 

サラ:それでも、夢は夢だ。

 

ゼオ: ……そうだな。

   確かに俺は、シルヴィアに(とら)われていたのやも知れん。

   俺と似ていた(はず)が、何時(いつ)しか全く違った人生を送り始めたお前が。

……(うらや)ましかった。

 

サラ:こんな形でなくても、抱き締めて欲しいと言われれば、

私は…幾らでも……!!

 

ゼオ:ふっ……。

   ()の俺すらも(ゆる)すつもりなのか?

 

サラ: ……(ゆる)します。

   貴方は人より、ほんの少しだけ寂しがり屋なだけだったんだ。

 

ゼオ:俺が……?

   ……嗚呼、フハハッ!!

   成程なぁ、()れが『 (こころ) 』か。

 

サラ:ふふっ、ようやく楽しそうに笑いましたね?

   本当に困った人です。

 

ゼオ:サラ。

 

サラ:はい?

 

ゼオ:大望(たいもう)なぞ叶えてしまえばゴミ同然になる。

   未来を夢見るよりも今、此処(ここ)にある小さな欠片(かけら)を拾い集めて行け。

   そうすれば……俺の(よう)にはならん。

 

サラ: ……ありがとう…ございます。

心に(きざ)みます。

 

ゼオ:( 溜息 )――。

今ならば正直に言えそうな気もするが……うむ、()めておこう。

 

サラ:そうですね……さよなら、ゼオルード。

   皆、貴方の事が大好きでした。

 

ゼオ:さようなら、サラ・シルフィード。

   ……風と共に旅をする者よ。

 

 

( 間 )( 去りゆく勇者を見護る瞳は )

 

 

ゼオ:何と言う女だ……。

きっと男とは……あれ程の女を振り向かせる為に生きるのだろう。

   もしも……俺もまともに生きていたなら……きっと。

   ……ふっ、『もしも』か。

俺までこんな今際(いまわ)では、あの世で奴に(わら)われてしまうなぁ……。




 
 
 
     
 
           
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