題名 |
公開日 |
人数(男:女:不問) |
時間 |
こんな話 |
作者 |
風のシルヴィア(37)
~いにしえの記憶~
|
2016/02/11 |
6(4:2) |
30分 |
此の世界には本気で信じても良い人間が必ず一人は居る。 |
ニコ |
登場人物
(年齢) |
性別 |
その他 |
シルヴィア
(262)
|
♀ |
昔々、愛する『 母 』の為に名だたる英雄を屠り続けた悪女。
おぞましい程の美貌に蠱惑的な雰囲気を併せ持っている。
悠久なる齢は数え始めてからの齢、本当は当人も判っていない。
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ロキ
(17)
|
♂ |
千年の歴史を誇る『古き国』の王子。
聡明で心優しい賢君だったが晩年は『千年王』と名乗る不死の暴君と化す。
演じ分けが好きな貴方に。 |
ドーラ
(不明)
|
♀ |
太古より存在する巨大な雌の火龍。
龍は傲慢にして誇り高く、其れ故に良く敵を作る。
まるで永すぎる生に終止符を乞うかのように……。
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オーズィ
(31)
|
♂ |
鉄の国アイゼフィールの国王。
軽薄で軟弱な人間だったが周囲の支えにより自戒した。
と、思いきや何だか良く判らないやっぱり残念なイケメン。
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ピエトロ
(45)
|
♂ |
オーズィに付き従うアイゼフィール近衛長。
剣術も執務も優秀な努力の人。
堅物そうに見えてユーモアも解する気の良いオッサン。
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アーウィン
(30) |
♂ |
魔族の血を引く鉄の国の傭兵団の元団長。
流浪の日々の数奇な運命の果て、最終決戦に馳せ参じる。
剽軽且つ冷酷な仮面の下は、部下想いの情義に篤い紳士なのだ。 |
「風のシルヴィア(37)~いにしえの記憶~」
現世に蘇った悪女シルヴィアは王都にて世界を滅ぼすと宣言する。
今は異世界で戦う友の為、鉄の国アイゼフィールの為、未だ見知らぬ世界の為に。
国王と忠臣、そして悪魔の落とし子は彼女と干戈を交える。
( 炬竜の巣:燃え盛る出逢い )( ※回想シーン )
シル:私はかつて一人の少年に恋をした。
……『母様』の竜騎士として、
数多の英雄を殺し続けて来た私を初めて好きになってくれた人。
アー:古き国の王子様、か。
行き詰った飢餓を打開する為、
王子自らが『炬竜の巣』へ飛び込んだと言う。
結果は奇跡的な生還、『竜騎士シルヴィア』から逃れた只一人の小さな英雄。
シル:殺せなかった。
人はこんなにも簡単に人を見捨て、見捨てられることに慣れているのに。
あの子は決して私を見限らなかった。
ピエ:王子の起死回生の一撃が竜騎士の兜を弾き飛ばした。
その下の素顔を覗いた人間は彼が初めてでは無い。
だが、その魔貌を退けることが出来たのは王の器故か、
それとも幼子の純心故か。
シル:毎日の様に私に砕かれに来た。
打ちひしがれて血を吐き出しても私が必要だと、ともすれば呪詛の様に。
……私はそんなに弱い人間じゃないよ?
オー:弱く無くとも人は人だ。
剝き出しの心は刃となり、容赦なく心を暴く。
いにしえの大英雄、シルヴィア・アルトルージュよ、
果たしてそなたは炬竜の娘なのか?
それとも、人を愛して止まぬ夢見る少女か?
シル:私は……。
どうしても独りで在りたかった。
心の底ではそれが間違っていると言うのも解っている、だけど!!
今まで誰もそうは言ってくれなかったから……だから!!
ロキ:好きだよ、シルヴィア。
シル: ――ッ!?
ロキ:僕の国へおいで?
此の世界には本気で信じても良い人間が必ず一人は居る。
それが僕達なんだ。
シル:ロキ……。
ロキ:僕を信じてくれ。
僕は絶対に死んだりしないし、君を裏切ったりもしない。
だって、君が居ない世界なんて僕には考えられないから。
シル:ロキ……!!
ロキ:ああ、でも、そうだったね。
シル:え?
ロキ:君は龍の血の御蔭で悠久の時を生きるんだね。
……僕もそう在れたら本当に良かったのだけれど、
此れじゃあ、ずっと一緒に居る事は出来ないね。
シル:こんなにも暗い世界だ。
私を母様の元から連れ出すと言うのなら、せめて死なないでくれ。
私に何時までも生きていて良いと、そう言ってくれ。
ロキ:大丈夫、君に捧げられる物は何でも与える。
そうすれば、きっと僕が居ない世界でも君は自分を大事に出来る。
育むことが出来る、友達との絆を、未だ見ぬ人との愛を。
シル:ロキと一緒に……。
ロキが死ぬ時、私も一緒に死ぬと言うのは、駄目か?
ロキ:( 微笑んで )――……君のイメージは君自身が決める。
言葉なんて要らない、誰に愛されたかすらも関係無い。
君の価値は、君がどれだけたくさんの人に出逢い優しくなれたか、
それで決まるんだ。
シル:でも、やっぱり寂しいよ。
ロキ:思い出せば僕が居るよ。
そしてその時には、きっと他の人も居る筈さ。
……だからさ、シル。
……ね?
シル: ……もし、人の心の温かさを知ることが出来るのなら、
もう一度人として生きてみるのも悪くないのかもしれない。
この溶岩逆巻く煉獄の世界から、陽の当たる希望の世界へと……私は。
( 間 )( 炬竜の巣:深奥の煉獄殿 )( ※回想シーン )
ドー:私の元を去っていくのか?
シル:母様……。
ドー:何処まで堕ちれば気が済むと言うのだ……。
実の母に捨てられ、ドラグーンとして生きる道を選んだお前が人に還ると言う。
此れから私は、一体何を支えに生きれば良い?
シル:私は……自分が生きた意味を知りたいんだ!!
此の子はその事に気付かせてくれた。
今まで無かった気持ち、想い。
自分が空っぽなんかじゃないって、信じたくなったんだ。
ドー:私の愛ではお前を満たせなかったのか?
シル:そんな事は無い!!
けれど、何時しか子供は旅をするものでしょう?
それに母様の優しさは解るけど…母様の冷たさが一番解るのも私なんだよ。
ドー:お前とて龍の眷属だ、分け隔てたつもりは無い。
何よりも傲慢で誇り高く、最強の種に相応しい生き方を、私は。
ロキ:やあ、炬竜ドーラよ。
お逢い出来て光栄です。
ドー: ……古き国の王子よ。
良くも我が愛しい娘をかすめ盗ってくれた。
ロキ:貴女はいささか偉大過ぎる。
龍の身でありながら只一人の娘を愛し、此処まで立派に育てあげたのだから。
ドー:我が命を奪えば死者を蘇らせることも出来る。
そして蓄えた財を目当てに、随分と『英雄』とやらが押し寄せてきた。
お前もその中の一人であれば良かったものを。
ロキ:最初はそのつもりでした。
どうやら僕の古き国は余りにも貧し過ぎたようです。
ドー:心にもない事を……。
そう安々と変われるのなら、苦しまずに終われもするだろう。
シルヴィア、そこな羽虫を斬り殺せ。
シル:なっ!?
ドー:出来ぬか?
最愛の母の頼みぞ?
シル:私は……。
ロキ:君に委ねる。
ただ、君に生きて欲しいと願う僕の心を信じてくれ。
シル:私は……!!
ドー:幾度も佞言に絆されては血の涙を流す。
優しいお前が人として生きるとは、きっとそういう事だ!!
だから私を否定するな!!
シル:私は…本当に……。
永遠に此処に居なけれはいけないのですか?
ドー: ……。
シル:だって此処には夢が無いんです。
何時までも殺して、殺し合って、血塗れの私を母様は愛してくれるけれど、
傍から見た私は……きっと歪んだ世界の人形に違い無いんだ!!
ロキ:シル……。
ドー:ふっ……随分と酷薄な事を言う。
だがこれも親の冥利、私も人並みの母で在れたと言う事か?
シル:ごめんなさい、母様を裏切りたくは無かった。
ドー:お前が決めた道ならそれで良い。
私はお前を愛し続ける、お前の命が燃え尽きるまでずっと。
シル:母様!!
ロキ:御心遣い痛み入ります。
貴女を討とう等と、人間のあさましさ、御容赦願いたい。
ドー:何、羽虫のさえずりも時には心地よい物だ。
良き音を聴かせてくれた、人間の子よ。
礼を言う。
ロキ:敵わないなぁ。
なんだか、僕まで痺れてしまいそうです。
シル:あの……母様!!
今まで御世話になりました!!
ドー:嗚呼……嬉しそうに娘が笑ってくれる。
私はもう何も要らない。
とても幸せなのだから、何も気兼ねしてはいけないよ、シル?
シル:はい……はい……!!
( 間 )( 空の見える世界へと )( ※回想シーン )
アー:それで、人間の世界はどうだった?
シル:あの頃の古き国は……面白かったな。
私にしては初めての『 皆 』だったが、誰も彼もが下を向いていた。
とにかく陰気で古臭くて、灰色の空がとても良く似合う国だった。
ピエ:それが面白いとは実に貴女らしい。
炬竜の巣に比べれば楽園に違いなかった、という事ですか?
シル:総てが初めてだったからさ。
うん……『初めて』が良い経験だったと思える。
きっとそれは幸せな事なんだろうな。
オー:愛して止まぬ祖国なら、何故離れようと思ったのだ?
寄る辺を失くしては、足元から崩れ去るのみであろうに。
シル:それは……。
( 間 )( 古き国:厳めしい王城の玉座 )( 回想シーン )
ロキ:( ※此処からは年老いた演技でお願いします )
ハァ…ハァ……!!
シル:ロキ、大丈夫か?
ロキ:いや……ふふっ、
どうやら、迎えが近いらしい……。
シル:何をしたら良いか教えてくれ!!
私に出来る事なら何でもする、命だって惜しくは無い!!
ロキ:そなたは…何時まで経っても変わらぬなぁ……。
見目麗しさよ……此の薄れゆく眼に何と眩しく映る事か。
シル:もう一度奮い立ってくれ、共にどこまでも行こう!!
未だ見ぬその先へ、奮い立つ心の果てへ!!
ロキ:一緒に……たくさん挑んできたなぁ。
アドリス川のナメクジ退治、海賊島の取り締まり。
ディオールのラビリンス。
シル:そうだよ、人生に終わりなんて無いのさ。
楽しい事が何時までも続くって、信じなければやっていけないだろう?
ロキ:シル……人はどう足掻いても何時か死ぬ。
だからこそ後悔の無い様に、射幸心(しゃこうしん)とやらが芽生える。
こんな瓦礫の国だったが、どうだ、そなたにも幸せと呼べる物が出来た筈だが?
シル:私には何度思い返してもロキの顔しか浮かばない!!
ロキが私の総てだった、私が愛した人だった!!
ロキ:余に囚われるな……。
世界を愛する度量をもって、時に抱かれ何時までも…生きて。
……綺麗な儘でいて欲しい。
シル:此処で否定されたら私は自分自身を愛せなくなる!!
だから私の心を殺さないで!!
ロキ: ……さあ、もう行きなさい。
そなたに見合う面(つら)で送ってやれんのは残念だが、
無様に看取られるよりは余程良い。
シル: ……また独りで冒険の旅に出るのか。
王城の宝物庫で些末(さまつ)な装備を受けとり、
見枯(みが)れた兵士の訓示を受けながら。
ロキ:竜騎士の装備が在るではないか。
使わなければ只の重荷、背負うには難儀だと思うが?
シル:其れでも背負って最初から行く。
お前は私の希望であり絶望、ならば総て最初から。
……だが、決して無かった事にはしない。
ロキ:そうか……礼を言う。
こんな別れとなってしまったが、貴女の人生に幸在らんことを。
シル:( 凛として )もう喋るな、偽りの賢君よ。
その老醜は見るに堪えん。
憐憫(れんびん)にすら値せぬ愚かな余生、存分に悔やみながら味わうが良い。
ロキ: ……行ったか。
そうか……ふっ、総てを見通し尚赦すか……。
嗚呼そうさ…此の命が惜しいさ……!!
例え何を犠牲にしたとて生き延びてみせる……!!
……皮肉なものだな、お前を自由にしてやりたかった此の俺が、まさか…こんな。
( 間 )( 雨の伝う丘 )( ※回想シーン )
シル:生きてみよう。
生きて、生きて、何時か自分を大好きだと言えるように。
うん……そんな自由な旅が在っても良いのかもしれない。
またまた私は最初からだ……良し、ならばせめて、最後まで元気に行こう!!
元気に…笑って生きて行こう……!!!
( 間 )( 王都アイゼフィール:竜騎士の吐いた息吹の世界 )
シル: ――ハッ!?
オー&ピエ&アー:ハアッ!!
シル: ……むんっ!!
オー&ピエ&アー:ぐおっ!?
ピエ:馬鹿な、押し返しただと!?
シル:ふっ、それで?
大の男三人が女一人に手こずるのかい?
ピエ:おのれ竜騎士め、独りで世界と戦うだと!?
此れが無双の剣技だとでも言うのか!?
アー:あの大剣は名にし負う『英雄喰らい』……。
ディオールの四騎士にしてアイゼフィール国王、オーズィ陛下には荷が重い。
オー:すっげぇ無念ですッ!!
だが万事休すとは……云わせん!!
アー:あっ。
オー:でええぇぇりゃあぁぁぁぁ!!!
シル:そら。
オー:ウギャフンッ!?
ピエ:陛下!?
シル:死ね。
オー:うぐっ……!?
うおおおぉぉぉ!!!
シル:な、何ッ!?
アー:おおっ!?
刀身を挟みつつのカウンター!?
ピエ:何故そんな無茶をなさる、陛下ッ!?
オー:( 荒い息遣い )――……!!
剣戟の果てに解る心も在る……!!
人の温もりには、凍てつく氷塊すら融けさせる力が在るのだ!!
シル:私を理解しようとするな、その手が腐り落ちるだけだぞ?
オー:それの何が悪い!?
喜んで差し出そうと言う助けを何故拒む!?
貴様それでも女か!?
シル:先程までと言っていることが違う。
お前には、故国を蹂躙した此の私を殺す大義が在る筈だが?
オー:確かに何も知らなければ殺し合いで済んだかもしれん……!!
だが俺達はこうして出逢ってしまった、剣を交えてしまった!!
俺にはもう、お前が只の敵には見えんのだ!!
シル:ハッ、男は誰も彼も同じか!!
一時の感情ならば女を好きにしても良いと思っている。
お前はロヴェルと何一つ変わらないよ、私が保証してやる!!
アー:闇黒の騎士、ロヴェル……。
アイゼフィール建国の祖……。
オー:昔語りをしていれば満足か?
お前はそうやって、
人間なんて信じるに値しないって自分を信じたいだけだろう!?
シル: ……もう良い、解った。
いい歳をした子供、嫌いじゃないよ。
オー:本当か!?
お前の信に能(あた)う王になる、約束するよ!!
ピエ:説得……?
いや、違う、あれはもはやヒトではない、
只の自暴自棄になった獣だ……陛下!!
オー:ウグッ――!?
……お…ぉお?
ピエ:( 被せて )陛下アアァッッ!!?
シル:これが私の返礼だ。
しかと受け止め、未練を断ち切るが良い。
オー:ぐっ…ふっ……そうか。
腹に風穴とは……随分と嫌われたものだな。
ピエ:大丈夫です、此の程度なら死にはしません!!
後は我々にお任せを!!
シル:たわけ、敢えてそうしてやったのだ
お前達の死に急ぎの王将に良く言い聞かせて置けよ?
月が割れては星は輝けぬとな。
オー:俺の物語は……俺だけのものだ。
夢やつばらに託し、一体誰が為の栄光だ!?
ピエ:陛下……此れ以上は御身体に障ります。
オー:ピエトロ……俺は、俺は人間が好きなんだよ!!
好きな奴に好きだと豪語して何が悪い!?
そいつ等が死なない様に身体を張って何が悪い!?
それなのに、どうして想いが伝わらない事が在るんだ!?
ピエ: ……どうしても敵わぬ相手は居ますよ。
貴方はまだ若いから自分の事が一番に思えて、
それに対して微塵も疑念を抱いた事が無いのでしょうが、
本当は誰だって……自分に自信が無いから、誰かを大事にしたいと願うのです。
シル:( 溜息 )――……人とは弱いな。
ピエ:ハハハッ、弱くて結構!!
私とて英雄の豪胆など露ほども解らない。
ですが、尽くすべき人の事は判っているつもりです!!
シル:ほう?
ピエ:私は私の大義の為に戦う。
凡俗にはそれで結構、それだけで幸甚です。
オー:お前……。
アー:やい、シルヴィア。
シル:なんだ、黒いの。
アー:向こうは向こう、俺達は俺達だ。
此処は汚い者同士、仲良くやろうや。
シル: ……ああ、そうだな。
いみじくも歪(いびつ)なるハーフデヴィルよ、我が殺意に付き合え。
アー:だよなぁ、何せ独りで世界と戦うって決めた女だもんなぁ。
今更誰かに……ハッ、そんなもんは犬に喰わせろって話だな!!
シル:アハハハッ……。
そうか、サラの想い人、本当の名は何と言う?
アー:アーウィン・バークライツ。
シル:シルヴィア・アルトルージュだ。
得がたき敵に出逢えたことを神に感謝する。
アー:行くぞッ!!
シル:応ッ!!
( 間 )( 夢の邂逅 )( ※回想シーン )
ドー:古き国から旅立ち、世界を巡った200余年。
私の娘は行く先々で人に愛され、望まれ、そして壊され続けて来た。
龍の力と無垢な心を弄ばれては心を刻み続ける……。
娘が踏み躙られると分かっていながら、何故…私は……。
シル:違うよ、母様は何も悪くない。
私は自分でこの道を選んだ、だから誰も悪くない。
悪いのが居るなら、それはきっと私だ。
ドー:誰かを恨んで欲しい……例え、それが私でも良い。
人間とは敵を創らなくては生きてはいけない、そういう生き物なのだろう?
シル:だったら私はヒトじゃなくて良い。
人間でも龍でも無い、もう母様の娘でも無い。
だからもう、母様の所にも帰らない。
ドー:嗚呼……それでも、それでもお前は絆を信じた。
信じてしまった……。
古き国へ舞い戻り、3人の子供達と出逢い、
何時しか『ディオールの四騎士』と呼ばれる英雄になって。
シル:そうだよ……そして。
( 間 )( 黒光りするビカビカの宝石 )
アー:( 荒い息遣い )――ッ!!
ふっ、いや……ザマぁ無いね、全く。
シル:そんなことは無い、中々に拮抗しているぞ?
歴戦の術利を効かせ良くも捌くものだ。
アー:だがアンタには龍の血が流れている。
一撃で殺(と)れなきゃ再生されて終わりだ。
シル:我が龍族は総ての生命を超克(ちょうこく)する。
……故に龍を殺せるのは、より強い龍だけなのさ。
ピエ:より強い『 龍 』?
まさか、『それ』は……!?
アー:どうだいオッサン?
そろそろ子守を止めて『あいつ』に賭けてみないか?
ピエ:しかし……。
オー:ピエトロよ。
ピエ:陛下……。
オー:先程のお前の諫言(かんげん)、吟味はしてみたが……。
余り深く考えんことにした。
ピエ:えっ!?
アー: ……は?
オー:俺は……国王なのだ。
何せやらねばならぬ数が違うし、
一度思い描けばそれだけ悩まねばならん。
アー:それが役目だろうが?
サボるんじゃねえや。
オー:いや、面倒臭い、性に合わん、無理無理。
ピエ:なんと畏れ多い……。
オー:だから自分をビカビカに磨き上げる事にした!!
……国中の誰もが俺の様になりたいと思える手本になる。
汚い所も下らない所も、全部悩まずに曝け出せたなら、
きっと俺は皆に赦してもらえると思うんだ。
ピエ: ……それは、つまり、決して賢君では無いですな?
オー:ビッカビカだぞ!?
ビッカビカッ!!
シル: ……ハッ、アハハッ!!
アーッハッハッハッハッ!!
アー:嗤うのかよ、他人事だと思いやがって。
シル: ……いいや?
だが、それで良いと思う。
誰だって綺麗には生きられんのだ、正に最上のわきまえではないか?
オー:故にほれ、行けピエトロ。
今の余を竜騎士が責める訳が在るまい、ほれ。
ピエ:ですが……。
シル:忠臣よ、約束しよう。
その男は最後に殺してやる。
ピエ:全く…貴方と言う人は……。
貴方に出逢えて良かった!!
オー:此方こそ、有り難くて前が見えんわ。
シル:嗚呼……気持ちの良い男たちが私を殺しに来る。
好き勝手に感情をぶっ放し、その力を刃に変えて!!
……ふふっ、生き返って来て良かった!!
( 間 )( 千年王の玄室 )( ※回想シーン )
ロキ:ほう、その子達がディオールの四騎士か?
……成程、皆、良い眼をしているな。
シル:ロキ……!!
ロキ:どうだシルヴィア、若返った余の姿は?
命を吸い続ければ永遠に、例え千年だろうと生き永らえる事が出来ようぞ?
シル:永遠なんてものは存在しない。
そんなざまは、ゴラムザードの禁術にまんまと乗せられた怪物じゃないか。
ロキ:ふっ、その四騎士達を打ち破り、良くぞ此処まで辿りついた。
シル:今の私には仲間が居る。
昔の様に貴方に縋(すが)りもしなければ、
その悪徳を看過(かんか)出来る筈も無い。
ロキ:それは残念だな……ようやく同じに成れたと言うのに。
シル:違う!!!
貴方は好き好んで孤独を選んだ!!
傍に居てやるって言ったのに…ずっと愛してやるって誓ったのに……!!
お前は千年の大馬鹿者だ!!
ロキ: ……仕方がない、では殺し合うか。
さあ、我が『古き歴史』を終わらせてみろ!!
若き冒険者達よ!!
シル:くっ……!!
( 間 )( 其の娘には悪夢さえ愛しく )
シル:ロキ…私は……本当は。
アー:我が血飛沫の残光、人魔の相克、
今こそ黒き裁きにて愚者を誘(いざな)わん!!
シル: ……あ。
アー:喰らえッ、ブラッディ・ロアー!!
シル:うぐぁっ!?
ピエ:は、入ったッ!?
致命の一撃ではないか!?
シル:ぐ…アハハッ……無様だったな。
アー:らしくもないが、アンタらしいと言えばそうか。
此のまま全力で引き裂かせて貰うぜ!!
シル:ぎっ……ぐ…あぁあ……!!
アー:後少しだ……後少しで総てが終わる!!
永い悪夢もこれで仕舞だ!!
ピエ:いけるぞ黒騎士、援護する!!
シル: ……悪運此処に極まれり、か。
アー:何ッ!?
ピエ:此れは…亜空の結界の断片……!?
向こうの勝負がついたのか!?
シル:惜しかったな……アーウィン。
アー: ……へっ、本当に運がわりぃや。
………ッ!!?
ピエ:黒騎士ッ!!!
オー:馬鹿な……。
シル:嬉しかったよ……私の肚を暴きに来てくれて。
何時の日か、あの世で酒でも汲み交わそうじゃないか。
アー:( 血を吐き続ける )―――。
……シル…ヴィア。
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