題名  公開日   人数(男:女:不問)  時間  こんな話  作者

 風のシルヴィア(37)
~いにしえの記憶~

2016/02/11  6(4:2) 30分 此の世界には本気で信じても良い人間が必ず一人は居る。  ニコ

登場人物
(年齢)
性別 その他

シルヴィア
(262)

昔々、愛する『 母 』の為に名だたる英雄を屠り続けた悪女。
おぞましい程の美貌に蠱惑的な雰囲気を併せ持っている。
悠久なる齢は数え始めてからの齢、本当は当人も判っていない。

ロキ
(17)

千年の歴史を誇る『古き国』の王子。
聡明で心優しい賢君だったが晩年は『千年王』と名乗る不死の暴君と化す。
演じ分けが好きな貴方に。

ドーラ
(不明)

太古より存在する巨大な雌の火龍。
龍は傲慢にして誇り高く、其れ故に良く敵を作る。
まるで永すぎる生に終止符を乞うかのように……。

オーズィ
(31)

鉄の国アイゼフィールの国王。
軽薄で軟弱な人間だったが周囲の支えにより自戒した。
と、思いきや何だか良く判らないやっぱり残念なイケメン。

ピエトロ
(45)

オーズィに付き従うアイゼフィール近衛長。
剣術も執務も優秀な努力の人。
堅物そうに見えてユーモアも解する気の良いオッサン。

アーウィン
(30)
魔族の血を引く鉄の国の傭兵団の元団長。
流浪の日々の数奇な運命の果て、最終決戦に馳せ参じる。
剽軽且つ冷酷な仮面の下は、部下想いの情義に篤い紳士なのだ。



「風のシルヴィア(37)~いにしえの記憶~」





現世に蘇った悪女シルヴィアは王都にて世界を滅ぼすと宣言する。

今は異世界で戦う友の為、鉄の国アイゼフィールの為、未だ見知らぬ世界の為に。

国王と忠臣、そして悪魔の落とし子は彼女と干戈(かんか)を交える。






( 炬竜の巣:燃え盛る出逢い )( ※回想シーン )

 

シル:私はかつて一人の少年に恋をした。

   ……『母様(かあさま)』の竜騎士として、

数多(あまた)の英雄を殺し続けて来た私を初めて好きになってくれた人。

 

アー:古き国の王子様、か。

   行き(づま)った飢餓を打開する為、

王子自らが『炬竜(きょりゅう)の巣』へ飛び込んだと言う。

   結果は奇跡的な生還、『竜騎士シルヴィア』から逃れた只一人の小さな英雄。

 

シル:殺せなかった。

   人はこんなにも簡単に人を見捨て、見捨てられることに慣れているのに。

   あの子は決して私を見限(みかぎ)らなかった。

 

ピエ:王子の起死回生の一撃が竜騎士の兜を弾き飛ばした。

   その下の素顔を覗いた人間は彼が初めてでは無い。

   だが、その魔貌(まぼう)を退けることが出来たのは王の器故か、

それとも幼子の純心故か。

 

シル:毎日の様に私に砕かれに来た。

   打ちひしがれて血を吐き出しても私が必要だと、ともすれば呪詛(じゅそ)(よう)に。

   ……私はそんなに弱い人間じゃないよ?

 

オー:弱く無くとも人は人だ。

   剝き出しの心は刃となり、容赦なく心を(あば)く。

   いにしえの大英雄、シルヴィア・アルトルージュよ、

   果たしてそなたは炬竜(きょりゅう)の娘なのか?

   それとも、人を愛して()まぬ夢見る少女か?

 

シル:私は……。

   どうしても独りで在りたかった。

   心の底ではそれが間違っていると言うのも解っている、だけど!!

   今まで誰もそうは言ってくれなかったから……だから!!

 

ロキ:好きだよ、シルヴィア。

 

シル: ――ッ!?

 

ロキ:僕の国へおいで?

   此の世界には本気で信じても良い人間が必ず一人は居る。

それが僕達なんだ。

 

シル:ロキ……。

 

ロキ:僕を信じてくれ。

   僕は絶対に死んだりしないし、君を裏切ったりもしない。

   だって、君が居ない世界なんて僕には考えられないから。

 

シル:ロキ……!!

 

ロキ:ああ、でも、そうだったね。

 

シル:え?

 

ロキ:君は龍の血の御蔭で悠久の時を生きるんだね。

   ……僕もそう在れたら本当に良かったのだけれど、

   此れじゃあ、ずっと一緒に居る事は出来ないね。

 

シル:こんなにも暗い世界だ。

   私を母様の元から連れ出すと言うのなら、せめて死なないでくれ。

   私に何時(いつ)までも生きていて良いと、そう言ってくれ。

 

ロキ:大丈夫、君に捧げられる物は何でも与える。

   そうすれば、きっと僕が居ない世界でも君は自分を大事に出来る。

   (はぐく)むことが出来る、友達との絆を、未だ見ぬ人との愛を。

 

シル:ロキと一緒に……。

ロキが死ぬ時、私も一緒に死ぬと言うのは、駄目か?

 

ロキ:( 微笑んで )――……君のイメージは君自身が決める。

   言葉なんて要らない、誰に愛されたかすらも関係無い。

   君の価値は、君がどれだけたくさんの人に出逢い優しくなれたか、

それで決まるんだ。

 

シル:でも、やっぱり寂しいよ。

 

ロキ:思い出せば僕が居るよ。

   そしてその時には、きっと他の人も居る(はず)さ。

……だからさ、シル。

……ね?

 

シル: ……もし、人の心の温かさを知ることが出来るのなら、

   もう一度人として生きてみるのも悪くないのかもしれない。

   この溶岩逆巻(さかま)煉獄(れんごく)の世界から、()の当たる希望の世界へと……私は。

 

 

( 間 )( 炬竜の巣:深奥の煉獄殿 )( ※回想シーン )

 

 

ドー:私の元を去っていくのか?

 

シル:母様……。

 

ドー:何処(どこ)まで()ちれば気が済むと言うのだ……。

   実の母に捨てられ、ドラグーンとして生きる道を選んだお前が人に(かえ)ると言う。

   ()れから私は、一体何を支えに生きれば良い?

 

シル:私は……自分が生きた意味を知りたいんだ!!

   ()の子はその事に気付かせてくれた。

   今まで無かった気持ち、想い。

自分が(から)っぽなんかじゃないって、信じたくなったんだ。

 

ドー:私の愛ではお前を満たせなかったのか?

 

シル:そんな事は無い!!

   けれど、何時(いつ)しか子供は旅をするものでしょう?

   それに母様の優しさは(わか)るけど…母様の冷たさが一番(わか)るのも私なんだよ。

 

ドー:お前とて(りゅう)眷属(けんぞく)だ、分け(へだ)てたつもりは無い。

   何よりも傲慢(ごうまん)で誇り高く、最強の(しゅ)相応(ふさわ)しい生き方を、私は。

 

ロキ:やあ、炬竜(きょりゅう)ドーラよ。

   お逢い出来て光栄です。

 

ドー: ……古き国の王子よ。

   良くも我が愛しい娘をかすめ盗ってくれた。

 

ロキ:貴女(あなた)はいささか偉大過ぎる。

   龍の身でありながら(ただ)一人の娘を愛し、此処(ここ)まで立派に育てあげたのだから。

 

ドー:我が命を奪えば死者を(よみがえ)らせることも出来る。

   そして蓄えた(ざい)を目当てに、随分と『英雄』とやらが押し寄せてきた。

   お前もその中の一人であれば良かったものを。

 

ロキ:最初はそのつもりでした。

   どうやら僕の古き国は余りにも貧し過ぎたようです。

 

ドー:心にもない事を……。

そう安々と変われるのなら、苦しまずに終われもするだろう。

   シルヴィア、そこな羽虫(はむし)を斬り殺せ。

 

シル:なっ!?

 

ドー:出来ぬか?

   最愛の母の頼みぞ?

 

シル:私は……。

 

ロキ:君に(ゆだ)ねる。

   ただ、君に生きて欲しいと願う僕の心を信じてくれ。

 

シル:私は……!!

 

ドー:幾度(いくたび)佞言(ねいげん)(ほだ)されては血の涙を流す。

   優しいお前が人として生きるとは、きっとそういう事だ!!

   だから私を否定するな!!

 

シル:私は…本当に……。

永遠に此処(ここ)()なけれはいけないのですか?

 

ドー: ……。

 

シル:だって此処(ここ)には夢が無いんです。

   何時(いつ)までも殺して、殺し合って、血塗(ちまみ)れの私を母様は愛してくれるけれど、

   (はた)から見た私は……きっと(ゆが)んだ世界の人形に違い無いんだ!!

 

ロキ:シル……。

 

ドー:ふっ……随分と酷薄(こくはく)な事を言う。

   だがこれも親の冥利(みょうり)、私も人並みの母で()れたと言う事か?

 

シル:ごめんなさい、母様を裏切りたくは無かった。

 

ドー:お前が決めた道ならそれで良い。

   私はお前を愛し続ける、お前の命が燃え尽きるまでずっと。

 

シル:母様!!

 

ロキ:御心遣(おこころづか)い痛み入ります。

   貴女(あなた)を討とう(など)と、人間のあさましさ、御容赦(ごようしゃ)願いたい。

 

ドー:何、羽虫(はむし)のさえずりも時には心地(ここち)よい物だ。

   良き()を聴かせてくれた、人間の子よ。

   礼を言う。

 

ロキ:(かな)わないなぁ。

なんだか、僕まで(しび)れてしまいそうです。

 

シル:あの……母様!!

   今まで御世話になりました!!

 

ドー:嗚呼……嬉しそうに娘が笑ってくれる。

   私はもう何も()らない。

   とても幸せなのだから、何も気兼(きが)ねしてはいけないよ、シル?

 

シル:はい……はい……!!

 

 

( 間 )( 空の見える世界へと )( ※回想シーン )

 

 

アー:それで、人間の世界はどうだった?

 

シル:あの頃の古き国は……面白かったな。

   私にしては初めての『 皆 』だったが、誰も彼もが下を向いていた。

   とにかく陰気(いんき)で古臭くて、灰色の空がとても良く似合う国だった。

 

ピエ:それが面白いとは実に貴女(あなた)らしい。

   炬竜(きょりゅう)の巣に比べれば楽園に違いなかった、という事ですか?

 

シル:(すべ)てが初めてだったからさ。

   うん……『初めて』が良い経験だったと思える。

   きっとそれは幸せな事なんだろうな。

 

オー:愛して止まぬ祖国なら、何故離れようと思ったのだ?

   ()()を失くしては、足元から崩れ去るのみであろうに。

 

シル:それは……。

 

 

( 間 )( 古き国:厳めしい王城の玉座 )( 回想シーン )

 

 

ロキ:( ※此処からは年老いた演技でお願いします )

   ハァ…ハァ……!!

 

シル:ロキ、大丈夫か?

 

ロキ:いや……ふふっ、

どうやら、迎えが近いらしい……。

 

シル:何をしたら良いか教えてくれ!!

   私に出来る事なら何でもする、命だって()しくは無い!!

 

ロキ:そなたは…何時(いつ)まで経っても変わらぬなぁ……。

   見目麗(みめうるわ)しさよ……此の薄れゆく眼に何と眩しく映る事か。

 

シル:もう一度奮い立ってくれ、共にどこまでも行こう!!

   未だ見ぬその先へ、奮い立つ心の果てへ!!

 

ロキ:一緒に……たくさん挑んできたなぁ。

   アドリス川のナメクジ退治、海賊島の取り締まり。

   ディオールのラビリンス。

 

シル:そうだよ、人生に終わりなんて無いのさ。

   楽しい事が何時までも続くって、信じなければやっていけないだろう?

 

ロキ:シル……人はどう足掻いても何時か死ぬ。

   だからこそ後悔の無い様に、射幸心(しゃこうしん)とやらが芽生える。

   こんな瓦礫の国だったが、どうだ、そなたにも幸せと呼べる物が出来た筈だが?

 

シル:私には何度思い返してもロキの顔しか浮かばない!!

   ロキが私の総てだった、私が愛した人だった!!

 

ロキ:余に囚われるな……。

   世界を愛する度量をもって、時に抱かれ何時までも…生きて。

   ……綺麗な儘でいて欲しい。

 

シル:此処で否定されたら私は自分自身を愛せなくなる!!

だから私の心を殺さないで!!

 

ロキ: ……さあ、もう行きなさい。

   そなたに見合う面(つら)で送ってやれんのは残念だが、

無様に看取られるよりは余程良い。

 

シル: ……また独りで冒険の旅に出るのか。

   王城の宝物庫で些末(さまつ)な装備を受けとり、

   見枯(みが)れた兵士の訓示を受けながら。

 

ロキ:竜騎士の装備が在るではないか。

   使わなければ只の重荷、背負うには難儀だと思うが?

 

シル:其れでも背負って最初から行く。

   お前は私の希望であり絶望、ならば総て最初から。

   ……だが、決して無かった事にはしない。

 

ロキ:そうか……礼を言う。

   こんな別れとなってしまったが、貴女の人生に幸在らんことを。

 

シル:( 凛として )もう喋るな、偽りの賢君よ。

   その老醜は見るに堪えん。

   憐憫(れんびん)にすら値せぬ愚かな余生、存分に悔やみながら味わうが良い。

 

ロキ: ……行ったか。

   そうか……ふっ、総てを見通し尚赦すか……。

   嗚呼そうさ…此の命が惜しいさ……!!

例え何を犠牲にしたとて生き延びてみせる……!!

   ……皮肉なものだな、お前を自由にしてやりたかった此の俺が、まさか…こんな。

 

 

( 間 )( 雨の伝う丘 )( ※回想シーン )

 

 

シル:生きてみよう。

   生きて、生きて、何時か自分を大好きだと言えるように。

   うん……そんな自由な旅が在っても良いのかもしれない。

   またまた私は最初からだ……良し、ならばせめて、最後まで元気に行こう!!

元気に…笑って生きて行こう……!!!

 

 

( 間 )( 王都アイゼフィール:竜騎士の吐いた息吹の世界 )

 

 

シル: ――ハッ!?

 

オー&ピエ&アー:ハアッ!!

 

シル: ……むんっ!!

 

オー&ピエ&アー:ぐおっ!?

 

ピエ:馬鹿な、押し返しただと!?

 

シル:ふっ、それで?

   大の男三人が女一人に手こずるのかい?

 

ピエ:おのれ竜騎士め、独りで世界と戦うだと!?

此れが無双の剣技だとでも言うのか!?

 

アー:あの大剣は名にし負う『英雄喰らい』……。

   ディオールの四騎士にしてアイゼフィール国王、オーズィ陛下には荷が重い。

 

オー:すっげぇ無念ですッ!!

   だが万事休すとは……云わせん!!

 

アー:あっ。

 

オー:でええぇぇりゃあぁぁぁぁ!!!

 

シル:そら。

 

オー:ウギャフンッ!?

 

ピエ:陛下!?

 

シル:死ね。

 

オー:うぐっ……!?

   うおおおぉぉぉ!!!

 

シル:な、何ッ!?

 

アー:おおっ!?

刀身を挟みつつのカウンター!?

 

ピエ:何故そんな無茶をなさる、陛下ッ!?

 

オー:( 荒い息遣い )――……!!

   剣戟の果てに解る心も在る……!!

人の温もりには、凍てつく氷塊すら融けさせる力が在るのだ!!

 

シル:私を理解しようとするな、その手が腐り落ちるだけだぞ?

 

オー:それの何が悪い!?

   喜んで差し出そうと言う助けを何故拒む!?

   貴様それでも女か!?

 

シル:先程までと言っていることが違う。

   お前には、故国を蹂躙した此の私を殺す大義が在る筈だが?

 

オー:確かに何も知らなければ殺し合いで済んだかもしれん……!!

   だが俺達はこうして出逢ってしまった、剣を交えてしまった!!

   俺にはもう、お前が只の敵には見えんのだ!!

 

シル:ハッ、男は誰も彼も同じか!!

   一時の感情ならば女を好きにしても良いと思っている。

   お前はロヴェルと何一つ変わらないよ、私が保証してやる!!

 

アー:闇黒の騎士、ロヴェル……。

   アイゼフィール建国の祖……。

 

オー:昔語りをしていれば満足か?

   お前はそうやって、

人間なんて信じるに値しないって自分を信じたいだけだろう!?

 

シル: ……もう良い、解った。

   いい歳をした子供、嫌いじゃないよ。

 

オー:本当か!?

   お前の信に能(あた)う王になる、約束するよ!!

 

ピエ:説得……?

   いや、違う、あれはもはやヒトではない、

   只の自暴自棄になった獣だ……陛下!!

 

オー:ウグッ――!?

   ……お…ぉお?

 

ピエ:( 被せて )陛下アアァッッ!!?

 

シル:これが私の返礼だ。

   しかと受け止め、未練を断ち切るが良い。

 

オー:ぐっ…ふっ……そうか。

   腹に風穴とは……随分と嫌われたものだな。

 

ピエ:大丈夫です、此の程度なら死にはしません!!

   後は我々にお任せを!!

 

シル:たわけ、敢えてそうしてやったのだ

   お前達の死に急ぎの王将に良く言い聞かせて置けよ?

   月が割れては星は輝けぬとな。

 

オー:俺の物語は……俺だけのものだ。

   夢やつばらに託し、一体誰が為の栄光だ!?

 

ピエ:陛下……此れ以上は御身体に障ります。

 

オー:ピエトロ……俺は、俺は人間が好きなんだよ!!

   好きな奴に好きだと豪語して何が悪い!?

   そいつ等が死なない様に身体を張って何が悪い!?

   それなのに、どうして想いが伝わらない事が在るんだ!?

 

ピエ: ……どうしても敵わぬ相手は居ますよ。

   貴方はまだ若いから自分の事が一番に思えて、

それに対して微塵も疑念を抱いた事が無いのでしょうが、

   本当は誰だって……自分に自信が無いから、誰かを大事にしたいと願うのです。

 

シル:( 溜息 )――……人とは弱いな。

 

ピエ:ハハハッ、弱くて結構!!

   私とて英雄の豪胆など露ほども解らない。

   ですが、尽くすべき人の事は判っているつもりです!!

 

シル:ほう?

 

ピエ:私は私の大義の為に戦う。

凡俗にはそれで結構、それだけで幸甚です。

 

オー:お前……。

 

アー:やい、シルヴィア。

 

シル:なんだ、黒いの。

 

アー:向こうは向こう、俺達は俺達だ。

   此処は汚い者同士、仲良くやろうや。

 

シル: ……ああ、そうだな。

   いみじくも歪(いびつ)なるハーフデヴィルよ、我が殺意に付き合え。

 

アー:だよなぁ、何せ独りで世界と戦うって決めた女だもんなぁ。

   今更誰かに……ハッ、そんなもんは犬に喰わせろって話だな!!

 

シル:アハハハッ……。

   そうか、サラの想い人、本当の名は何と言う?

 

アー:アーウィン・バークライツ。

 

シル:シルヴィア・アルトルージュだ。

   得がたき敵に出逢えたことを神に感謝する。

 

アー:行くぞッ!!

 

シル:応ッ!!

 

 

( 間 )( 夢の邂逅 )( ※回想シーン )

 

 

ドー:古き国から旅立ち、世界を巡った200余年。

   私の娘は行く先々で人に愛され、望まれ、そして壊され続けて来た。

   龍の力と無垢な心を弄ばれては心を刻み続ける……。

   娘が踏み躙られると分かっていながら、何故…私は……。

 

シル:違うよ、母様は何も悪くない。

   私は自分でこの道を選んだ、だから誰も悪くない。

   悪いのが居るなら、それはきっと私だ。

 

ドー:誰かを恨んで欲しい……例え、それが私でも良い。

   人間とは敵を創らなくては生きてはいけない、そういう生き物なのだろう?

 

シル:だったら私はヒトじゃなくて良い。

   人間でも龍でも無い、もう母様の娘でも無い。

   だからもう、母様の所にも帰らない。

 

ドー:嗚呼……それでも、それでもお前は絆を信じた。

   信じてしまった……。

   古き国へ舞い戻り、3人の子供達と出逢い、

   何時しか『ディオールの四騎士』と呼ばれる英雄になって。

 

シル:そうだよ……そして。

 

 

( 間 )( 黒光りするビカビカの宝石 )

 

 

アー:( 荒い息遣い )――ッ!!

   ふっ、いや……ザマぁ無いね、全く。

 

シル:そんなことは無い、中々に拮抗しているぞ?

   歴戦の術利を効かせ良くも捌くものだ。

 

アー:だがアンタには龍の血が流れている。

   一撃で殺(と)れなきゃ再生されて終わりだ。

 

シル:我が龍族は総ての生命を超克(ちょうこく)する。

   ……故に龍を殺せるのは、より強い龍だけなのさ。

 

ピエ:より強い『 龍 』?

   まさか、『それ』は……!?

 

アー:どうだいオッサン?

   そろそろ子守を止めて『あいつ』に賭けてみないか?

 

ピエ:しかし……。

 

オー:ピエトロよ。

 

ピエ:陛下……。

 

オー:先程のお前の諫言(かんげん)、吟味はしてみたが……。

   余り深く考えんことにした。

 

ピエ:えっ!?

 

アー: ……は?

 

オー:俺は……国王なのだ。

   何せやらねばならぬ数が違うし、

一度思い描けばそれだけ悩まねばならん。

 

アー:それが役目だろうが?

   サボるんじゃねえや。

 

オー:いや、面倒臭い、性に合わん、無理無理。

 

ピエ:なんと畏れ多い……。

 

オー:だから自分をビカビカに磨き上げる事にした!!

   ……国中の誰もが俺の様になりたいと思える手本になる。

   汚い所も下らない所も、全部悩まずに曝け出せたなら、

   きっと俺は皆に赦してもらえると思うんだ。

 

ピエ: ……それは、つまり、決して賢君では無いですな?

 

オー:ビッカビカだぞ!?

   ビッカビカッ!!

 

シル: ……ハッ、アハハッ!!

   アーッハッハッハッハッ!!

 

アー:嗤うのかよ、他人事だと思いやがって。

 

シル: ……いいや?

   だが、それで良いと思う。

   誰だって綺麗には生きられんのだ、正に最上のわきまえではないか?

 

オー:故にほれ、行けピエトロ。

   今の余を竜騎士が責める訳が在るまい、ほれ。

 

ピエ:ですが……。

 

シル:忠臣よ、約束しよう。

その男は最後に殺してやる。

 

ピエ:全く…貴方と言う人は……。

   貴方に出逢えて良かった!!

 

オー:此方こそ、有り難くて前が見えんわ。

 

シル:嗚呼……気持ちの良い男たちが私を殺しに来る。

   好き勝手に感情をぶっ放し、その力を刃に変えて!!

   ……ふふっ、生き返って来て良かった!!

 

 

( 間 )( 千年王の玄室 )( ※回想シーン )

 

 

ロキ:ほう、その子達がディオールの四騎士か?

   ……成程、皆、良い眼をしているな。

 

シル:ロキ……!!

 

ロキ:どうだシルヴィア、若返った余の姿は?

   命を吸い続ければ永遠に、例え千年だろうと生き永らえる事が出来ようぞ?

 

シル:永遠なんてものは存在しない。

   そんなざまは、ゴラムザードの禁術にまんまと乗せられた怪物じゃないか。

 

ロキ:ふっ、その四騎士達を打ち破り、良くぞ此処まで辿りついた。

 

シル:今の私には仲間が居る。

   昔の様に貴方に縋(すが)りもしなければ、

その悪徳を看過(かんか)出来る筈も無い。

 

ロキ:それは残念だな……ようやく同じに成れたと言うのに。

 

シル:違う!!!

   貴方は好き好んで孤独を選んだ!!

   傍に居てやるって言ったのに…ずっと愛してやるって誓ったのに……!!

   お前は千年の大馬鹿者だ!!

 

ロキ: ……仕方がない、では殺し合うか。

   さあ、我が『古き歴史』を終わらせてみろ!!

   若き冒険者達よ!!

 

シル:くっ……!!

 

 

( 間 )( 其の娘には悪夢さえ愛しく )

 

 

シル:ロキ…私は……本当は。

 

アー:我が血飛沫の残光、人魔の相克、

今こそ黒き裁きにて愚者を誘(いざな)わん!!

 

シル: ……あ。

 

アー:喰らえッ、ブラッディ・ロアー!!

 

シル:うぐぁっ!?

 

ピエ:は、入ったッ!?

   致命の一撃ではないか!?

 

シル:ぐ…アハハッ……無様だったな。

 

アー:らしくもないが、アンタらしいと言えばそうか。

   此のまま全力で引き裂かせて貰うぜ!!

 

シル:ぎっ……ぐ…あぁあ……!!

 

アー:後少しだ……後少しで総てが終わる!!

   永い悪夢もこれで仕舞だ!!

 

ピエ:いけるぞ黒騎士、援護する!!

 

シル: ……悪運此処に極まれり、か。

 

アー:何ッ!?

 

ピエ:此れは…亜空の結界の断片……!?

   向こうの勝負がついたのか!?

 

シル:惜しかったな……アーウィン。

 

アー: ……へっ、本当に運がわりぃや。

   ………ッ!!?

 

ピエ:黒騎士ッ!!!

 

オー:馬鹿な……。

 

シル:嬉しかったよ……私の肚を暴きに来てくれて。

   何時の日か、あの世で酒でも汲み交わそうじゃないか。

 

アー:( 血を吐き続ける )―――。

   ……シル…ヴィア。




 
 
 
     
 
           
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