題名  公開日   人数(男:女:不問)  時間  こんな話  作者

 風のシルヴィア(最終話)
~風のままに~

2016/03/11  6(3:1:2) 30分 何処までも歩いてみますか。此の果てしなくも、皆が同じ空の下で生き続ける世界を。  ニコ

登場人物
(年齢)
性別 その他

サラ
(26)

心身共に麗しい金髪碧眼の女性。
芯が強く、時には頑固で、時にはすごく優しかった。
本作の主人公。
アーウィン
(30)
黒髪紫眼のイケメン、サラの恋人。
苦労人にして天才肌、そして理想の上司。
畜生、俺のサラを。

ミシェル
(17)

不問 美少年の天才剣士、あと貴族の御曹司。
基本的には優しいが容姿故に不機嫌だとクールビューディー。
サラと同じくらい『 風 』の似合う人。
プーデット
(21)
不問

純情子豚サンシャインだプー。
常に明るい天真爛漫なムードメーカー。
第3話から此処まで……お疲れ様!!

オーズィ&カゲ
(31)

サラ達が仕えた鉄の国アイゼフィールの国王。
難解なキャラですが要するにバカな振りをする馬鹿なんです。
本質は充分主人公を張るに足る器、残念なイケメン。

ピエトロ
(45)

忠勇無比のアイゼフィール近衛長。
堅実な大人のままに元冒険者の血が流れている。
オーズィとは昔一緒にパーティを組んだ縁で偶にタメ口になる。

女中
(20代)
いや~んな女中。出番最初のみ。
女性の誰かが兼ねて下さい。



「風のシルヴィア(最終話)~風のままに~」





本編は此れで終わりです。

彼女達がそれぞれどんな道を選び、歩き続けたのか。

皆さんの御想像のままに愛してやって下さい。






( 王城:国王の政務室 )

 

ピエ:( ノックの音 )――。

   宜しいですかな、陛下?

 

カゲ:いや、取り込んでいる。

   用があるなら後程聴くが?

 

ピエ:そうは参りません!!

   名だたる英雄が消え去った今こそ、陛下の御導きが必要なのです、

   我が鉄の国アイゼフィールは!!

 

カゲ:ならば!!

……えーっと。

 

ピエ:ハイ?

 

カゲ:新たな四騎士を定めよう!!

   奴等の血族、或いは我こそはと集う在野の獅子達。

   おお、無論お前でも構わんぞ?

 

ピエ:そんな……簡単に……?

 

カゲ:人は『地位』が育てる。

   一夜にして英雄扱いされるとあらば、その閾(しきい)値も相当なものだろう。

   ……嫌なことも忘れられるしな。

 

ピエ:ゼオルードに与(くみ)した閣僚の処罰は?

 

カゲ:やる気があるなら登用してやれ。

   上手く外交を纏められたら、元の椅子にも戻してやるとな。

 

ピエ:無念です……鉄の国が死に体でさえなければ、

格式・伝統に則って本来の在るべき姿へ戻すことも出来たのに。

 

カゲ:うーん……と。

   喫緊時(きっきんじ)だからこそ出来ることもある。

   状況を楽しめない奴は精神を病んでいるからだ。

   療治の旅にでも出させ、精々英気を養わせるが良い。

 

ピエ:成程……さように御考えでしたか……。

   流石はオーズィ・アイゼフィール陛下!!

優しく、理に適っている。

 

女中:うふふっ…御口が上手いんだから

 

ピエ:んっ?

 

カゲ:おまっ、おま嗚呼…お前こそそ、それは……///

 

ピエ:んんッ!!?

 

女中:カプッ

 

カゲ:イヤッフーーー

   わぁい(^^♪

 

ピエ:待てやゴルァ!!!( 扉を破壊する )

 

カゲ:げっ。

 

女中:んふぇ?

 

ピエ:お、お前は……!?

 

カゲ: ……ニヘッ。

 

 

( 間 )( 王城:白壁にカーテンのそよぐ病室 )

 

 

アー:( 静かな寝息 )――……。

 

ミシ:中々起きませんね、団長。

 

サラ:だけど息はしている。

   ……夢に飽きたらきっと帰ってくるさ。

 

ミシ:なぁんだかなぁ。

   今回の騒動、思いのほか被害が少なかったそうですよ?

 

サラ:そうなのか?

 

ミシ:クロウリに攻め込まれた南側は壊滅的ですが、

   それ以外は王都での死傷者が数万人、隣国との小競り合いで数万人。

   ガルフォード様にしたって、虐殺は出来る限り避けてくれたようです。

 

サラ: ……結局、英雄が独り歩きしていただけで、

   陰で頑張ってくれた人達がたくさん居たって訳か。

 

ミシ:ゼオルード様もきっと、やろうと思えばもっと酷い事が出来た筈なんです。

   命を喰らう羅刹陣(らせつじん)……『時の翁』の域になると、

それこそ国一つを呑み込むことすら出来たのに……。

 

サラ:あの人は価値のある死を願っていた。

自分が自分だと理解出来なくなった時から、

せめて自分の存在を確かめる相手が欲しかったんだ。

   ……シルヴィアにしたって。

 

ミシ:え?

 

サラ:きっと、私が情けなくて全力が出せなかったんだよ。

 

ミシ:シルさんが?

   クスッ、嘘でしょう?

 

サラ:あの人が生きていた時代は、聖王と魔帝(まてい)が世界を賭けて争った時代。

   英雄なんて五万と居たし、それを凌ぐ魔族も跋扈(ばっこ)していた地獄だった筈だ。

   だから……。

 

ミシ:だからって、貴女が弱い理由にはなりませんよね?

 

サラ:えっ?

 

ミシ:貴女は今まで色んな人から、様々な宝石を貰ってきた筈です。

   勝利、教え、温もり……数え切れない程の価値を。

 

サラ:そう…だな。

   そうかもしれない。

 

ミシ:サラさんが自分を否定するってことは、

其れ等総てを踏みにじるって事なんです!!

   ……その中には僕も含まれているんですよ?

 

サラ:うん……。

嗚呼……可愛いね、ミシェルは。

   頭を撫でてあげようか?

 

ミシ: ……子供扱いしないでください。

   それでは、後程。

 

プー:プーーーー!!!

 

ミシ:うわっ!?

 

サラ:プーデット!?

 

プー:シルさあああん!!!

 

サラ:アハハハッ、こら、抱きつくなよ!!

   私だって病み上がりなんだぞ?

 

プー:関係ないプー!!

   甘えられる時に甘えるプー!!

 

サラ:痛たた……。

   もう、しょうがない奴だなぁ。

 

プー:( 泣き続ける )――……。

 

ミシ: ………痛ッ!?

 

オー:なぁんて面してやがる。

 

ミシ:へ、陛下!?

   どうして此処に!?

 

オー:なんだぁ?

王が救国の英雄を見舞いに来て、何か悪いことでもあるか?

 

ミシ:また抜け出してきたんですね……。

 

オー:ヒャ、ヒャ、ヒャッ!!

……お前と同じようにな、紅顔の美少年?

 

ミシ: ――ッ!?

子供扱いしないでください!!

 

オー:ありゃっ!?

   ( 舌打ち )――ったく、そこが餓鬼だっつーのに。

   ……いよう、サラ!!プーデット!!

   俺にもおっぱい揉ませてくれぃ!!

 

 

( 間 )( 王城:緑豊かな空中庭園 )

 

 

ミシ:僕は此のままじゃ、鳥も木々も愛せない人間になってしまうなぁ……。

   心が貧しい人間には、誰も近寄ってなんか来やしないのに。

   ましてや、好きな人を振り向かせることなんか……。

 

プー:ミッ、シェ、ル、く~~ん!!

 

ミシ:( 深いため息 )――。

……君、誰なの?

 

プー:プ~?

 

ミシ:面識無いよね?

 

プー:僕の名前はプーデット・サンシャイン!!

   夢に向かって邁進中(まいしん)だプー!!

 

ミシ: ……ミシェル・フォン・フィーバストルテ。

 

プー:知ってるプー。

   前に、リューシオン様の処のニジさんから、

君の事を教えてもらったプー。

 

ミシ:リューシオン……?

ああ、シルさんが加護を受けた風の神獣か。

 

プー:ミシェル君に逢いたかったプー。

   思った通り、シルさんと同じ!!

風の匂いがする優しい子だプー。

 

ミシ:あのさぁ、僕は君の事を知らないのに、勝手に憧れて貰ってもさぁ。

   ……どうすれば良いのか分からないよ。

 

プー:じゃあ、少しずつ仲良くなるプ?

   僕の物語、聴いてみるプー?

 

ミシ:どうしてだい?

 

プー:『シンフォニーしたい』からだプー。

   あの人たちがそうだったように、

僕は誰かに、こんな僕の事を分かって欲しいんだプー。

 

ミシ:それがどうして僕なの?

 

プー:ん~。

   誰かが人を好きになるのに、理由がなくちゃダメなの?

 

ミシ: ……良いよ、努力してみるよ。

 

プー:プププッ

 

 

( 間 )( 目覚めた先に待って居てくれた人は )

 

 

アー:ええっと……つまり、俺は生き返ったんだな?

 

サラ:はい……竜騎士シルヴィア・アルトルージュが、その最後の力で。

 

アー:はた迷惑な女だなぁ……てめぇで殺しといて、てめぇで蘇らせたってのか。

 

サラ:ふふっ……だけど、あの人らしいです。

 

オー:全くだ。

   今回の騒動、失ったものは大きかったが、終わってみれば清々しいよ。

 

サラ:貴方がそう仰るのであれば、この国は希望が持てますね。

 

オー:まあな。

結局入れ替わり立ち代わり、運命は人を織り交ぜ、行き着く処に落ち着くのか。

 

アー:いや、陛下。

   見舞いは嬉しいのですが、政務は宜しいのですか?

 

オー:カゲに対策を講じてきたぁ~(^^♪

 

サラ:影武者……?

   既にジーニアスは居ないのに、どうやって。

 

オー:だからこそ、日の目を見れた人材も居たのだ。

   あれもようやく努力が実ったと張り切っておったぞ?

   まぁ……余と違ってちとエロいのが玉に瑕だが。

 

サラ:(それはギャグで言っているのか?)

 

アー:口には出すなよ、サラ?

   仮にも国王だ。

 

オー:で、だ。

   お前達の進退も、問うておかねばならぬと思ってな?

 

サラ:私達の……?

 

オー:どうだ、サラ、アーウィン。

新たな四騎士の座に収まってみるつもりはないか?

 

オー: ……御言葉ですが。

 

 

( 間 )( せせらぎとさえずりの中で )

 

 

ミシ:あの人達は……きっと断ると思うんだ。

 

プー:プー……?

   だけど2人は、ずっと英雄になりたくて、傭兵時代から頑張ってきたプー?

 

ミシ:僕達は、確かに英雄って呼ばれてきたけど……。

   じゃあプーさん、英雄って何だと思う?

   皆に慕われる、分かりやすい人?

 

プー:かっこいい人プー?

 

ミシ:クスッ。

   別にかっこ良くないよ、こんなの。

   物語の中でしか生きられない可哀想な生き物じゃないか。

 

プー:う~ん。

   不器用なんだか、器用なんだか。

 

ミシ:我慢、自制、自律……つまらない枷を無理やりはめ込んで僕は僕で在り続けた。

   でもね、自己犠牲なんてもううんざりなんだよ。

   ……彼女には同じ人生を歩んで欲しくない。

 

プー:じゃあ、ミシェル君も四騎士辞めちゃうプー?

 

ミシ:やりたい人がやれば良いと思う。

   僕以外にも出来る人は居ると思うし、誰かが出来ないことを僕はする。

   だから――。

 

オー:( 途中から被せて )ぬぅあああああッッ!!?

 

ピエ:陛下嗚呼ァァ!!!

 

オー:くぬっ、このっ、寄るなちょび髭ェ!!

 

ピエ:何だとッ!?

   いいから早く政務に戻れ、馬鹿めが!!

   早々にカゲなんぞに頼りおってからに!!

 

オー:ぜってぇ嫌だ!!

今日はあいつ等と飲み明かす……ん!?

ヴぁか……何と不敬な!?

 

ピエ:どぅえええぇぇい!!

連雅斬・覇翔(れんがざん・はしょう)!!

 

オー:あぶねっ!?

 

プー:プギャッ!?

 

ミシ:プーさん!?

   おのれ、よくもプーさんを!!

 

ピエ:おぶるぅあッッ!?

   こ、これは天下無双の飛剣陣(ひけんじん)!!

   貴様、御曹司か!?

 

ミシ: ……難なくいなしてるじゃないですか。

 

オー:ミシェル、よくぞ!!

   さあ、あの邪魔なオッサンを成敗してくれ!!

 

ミシ:乱痴気に乗るのは今日だけですよ?

   あと僕、此れで四騎士辞めますから。

 

オー:ほえ~~?

 

ピエ:珍しいな、貴殿が其方(そちら)側につくとは。

 

ミシ:クスッ……最後くらいは不真面目に振舞いたくて。

   それとも、ピエトロ殿には役不足でしょうか?

 

ピエ:ふむ……剣聖(けんせい)の一族の見納めか。

   誉れとしては此れ以上の事もあるまい。

   

ミシ:いざ、我が1000年の栄光に幕を!!

 

ピエ:務めさせて頂く……!!

 

オー:ふっ……花も舞い散る風雅(ふうが)の庭に、

   誇り湧き咲く剣気の華、か?

 

ミシ:ハアッ!!

 

ピエ:むんっ!!

 

 

( 間 )( 白い病室 )

 

 

サラ: ……。

 

アー:やっと2人きりだな。

 

サラ:んぇ…はい?

 

アー:ん、寝てたか。

 

サラ:( 欠伸 )――すみません。

   全部終わったんだなって思ったら、何だか疲れてしまって。

 

アー:2人で…何処か遠くへ行くか。

   見知らぬ場所へ……温泉でも探しにさ。

 

サラ:本当に良かったんですか?

   栄転の道を蹴ってしまって。

 

アー:先にも言ったがね、俺は騎士って柄じゃないんだ。

あれはもっと冷たい人間にしか務まらんよ。

 

サラ:ずっと夢に描いていたのに、叶いそうになった途端に此れだなんて。

   ああ、そうか……此れが…そうなのか。

 

アー:夢は子供の見るもんだ。

   いい歳をして見る夢ってのもまあ良いが、それはそれでキツい。

   何時の間にかオッサンだしな。

 

サラ:色んな事がありましたねぇ。

 

アー:やっと胸を張って、惚れた女に好きだって言えるんだ。

   こんなに嬉しいことは無いよ。

 

サラ:団長……?

 

アー:何時までも傍に居てくれ、サラ。

   お前と一緒に生きていきたい、お前の為なら頑張れる、

   お前一人くらいなら絶対に幸せにしてやる、だからッ!!

 

サラ:ふふっ……私はもう、何処にも行きませんよ?

 

アー: ……うん。

 

サラ:それに、一人で幸せになってもつまらないでしょう?

   生きていくなら2人で、何時までも一緒です!!

   ……だから、『自由』をそんなに怖がらないで、アーウィン?

 

アー: ……うおぉぉ。

   甘えてぇぇ~~。

 

サラ:はいはい。

   どうぞ御自由に。

 

 

( 間 )( 親父談義:昔の血が騒いじゃって、もう )

 

 

ピエ:( 荒い息遣い )――……!!

   やれやれ、あの天才剣士め、実も花も備えおってからに……!!

 

オー:ヒャッ、ヒャッ!!

   ……ま、良い勝負だったんじゃないか?

 

ピエ:ぬかせぃ!!

   後10年若ければ、少なくとも『分け』には出来たわ。

   ……あとその笑い方、下品だから改めろと何度も何度も。

 

オー:無~理~♪

   今はこれで充・分♪

 

ピエ: ……分かっているのか、オーズィ?

そんなだから、お前は孤独になっていくんだぞ?

 

オー:俺は俺だ、こんな俺を好きな奴は何時までも居ればいいし、

嫌ならば出ていけばいい。

……でもなぁ、頼られもしたいし、名残惜しいってのもやっぱりあるんだよ。

難しいけど、だからこそ惹かれるんじゃね?

人間、複雑だからこそだと思うよ?

 

ピエ: ……『 王 』として、繕いも私情も交えず、か。

   此れから先、自由な振りをして、色んな事に縛られて生きていくんだろうなぁ。

 

オー:俺はそれが『 人 』の在り方だと思っている。

   でなければ、ついてきてくれる人間に申し訳がない。

 

ピエ:当たり前だ。

何もかも新しく創り治す、辛い道を自ら選択したのだからな。

 

オー:そうだよなぁ。

   ……何時か、皆が還ってきたくなるような楽しい国を創りたいなぁ。

 

ピエ:お前なら出来るさ。

 

オー:うん。

此れからも支えてくれよ、ピエトロ?

 

ピエ:我が命の続く限り。

 

 

( 間 )( 明くる日の朝:旅立ちは早い方が良いから )

 

 

アー:おーい、サラー!!

   行くぞー!!

 

サラ:はーい!!

   待ってくださーい!!

 

アー:お前はそのままでも綺麗なんだから、女支度とかはしなくていいんだよ。

 

サラ:今の内に磨きをかけなくてどうするんですか。

   私だって何時かはオバさんになるんですからね!?

 

アー:それでも死ぬまで愛し続ける!!

 

サラ:う、うーん……団長も、男の子の一人だったんですね。

 

アー:何だよ。

 

サラ:いいえ、安心しました。

 

オー:お、お前等……此のヤモメ中年2人を前にしてその惚気(のろけ)……!!

   絶許(ぜつゆる)だよなぁ、ピエトロ!?

 

ピエ:鉄の国の万民に代わり祝辞を述べる。

2人の旅路に幸在らんことを。

 

オー:( 喰い気味に )ピエトロッ!?

 

アー:まあ、2人とも御達者で。

   気が向いたら逢いに来ますよ。

 

サラ:それにしても幸甚(こうじん)です。

まさか陛下自ら見送りに来て下さるなんて。

 

オー:ん?

   んん……実はな。

 

サラ:はい?

 

オー:昨日一晩考えてみたのだが、

   やはり翻意(ほんい)する気は無いか?

 

ピエ:陛下……。

 

オー:竜騎士の後継にはそなたこそ相応しい。

   余の為にではない、希望を失ったアイゼフィールの民草の為に、

   どうかその身を捧げては貰えないだろうか?

 

サラ: ……。

 

オー: ……頼む。

 

サラ:頭(こうべ)を御上げ下さい、陛下。

 

オー: ……駄目か?

 

サラ:その曇りなき眼で私を見てください。

   ……此処に、もはや忠国の騎士は居ますか?

 

オー: ……いいや。

   そうだな、あの戦いでシルヴィアは死んだのだったな。

   死人(しびと)に何を問うても無駄か。

 

サラ:私は此の国が大好きでした。

   何時か必ず帰ってきます。

   だから護り続けてください、貴方のアイゼフィールを。

 

オー:ああ、待つとも。

   お前達も、我が愛すべき民の一人だ。

 

サラ:ふふっ……貴方様も、御元気で。

 

オー: ………最後の試練、か。

 

 

( 間 )( 深い深い森の中で )

 

 

アー:おや、あいつ等は……?

 

サラ:ミシェル、プーデット。

 

プー:お別れだプー。

 

サラ:そうだね、此れでしばらく会えないね。

 

プー:ミシェル君と友達になったプー。

   一緒に、剣と料理の冒険をするプー。

 

アー:そりゃあ安心だ。

   何せお前一人じゃスライム一匹倒せないからな。

 

プー:うん、そーなの。

   けどそれだけじゃ無いんだプー。

 

アー: ……ん?

 

ミシ:シル……ヴィア…さん。

 

サラ:何だい、ミシェル?

 

ミシ:僕……僕はッ……!!

 

プー:プー……。

 

ミシ:どうしても……貴女を、諦めなければいけないんですか?

 

サラ:ミシェル……。

 

ミシ:間違ってるのは分かってます、こんなのは異常だ!!

   だけど…けれど……!!

   貴女の事を考えると頭が壊れそうになる!!

   どうしようも無く心が零れそうになる……!!

   貴女の温かさを求めたくなる……!!

 

サラ: ……。

 

ミシ:僕は……団長を斬り殺してでも貴女を奪いたい!!

   どうして一度もまともに向き合ってくれなかったんですか!?

   こんなの酷いよッ……!!

   僕だけ無様にさせて、2人で何処かへ行ってしまうだなんてさ!!

 

アー:ミシェル。

 

ミシ: ――ッ!?

 

アー:俺の女に手を出すってことは、俺達の関係も終わるって事だ。

   永久に、何一つ元に戻りはしない。

   お前には、本当にその道を選ぶ覚悟があるのか?

 

ミシ:そんなの分かるわけ無いでしょう!?

   だけど……もう此の気持ちに嘘が吐けないんですよ!!

 

サラ:( 優しく諦めたように )ミシェル?

 

ミシ:シルさん……助けてぇ……!!

 

サラ:『 君 』は、私にとってロミオの代わりだったんだ。

 

ミシ:ロミオ……?

 

サラ:覚えているかなぁ?

昔、ほんの少しだけ話したこともあると思うけど、

   私の部下で、黒髪とスカーフが良く似合う子だった。

 

ミシ: ……。

 

サラ:弟みたいに思っていたけど、最後には記憶を失った私を命懸けで助けてくれた。

   でも、私の事を好きでいてくれたみたいだけど、やっぱり私には合わなかったんだ。

 

ミシ:どうして……ですか?

 

サラ:心に闇がなかったからさ。

   汚い話だけど、私はまともな人間と自分とを秤にかけて、

   釣り合えるかどうかを試してみた時期があるんだ。

 

ミシ:シルさんは綺麗ですよッ!?

   何度も何度もそう言ってるじゃないですか!!

 

サラ:ううん、違う。

   私は、私の醜さを知って、それでも綺麗だと言ってくれる人が好きなんだ。

   だから君みたいな子供とは付き合えないよ。

   ……御免ね?

 

ミシ:そんなのって……!!

   じゃあ僕も傷つきます、貴女と同じ痛みを、苦しみを!!

 

サラ:お願い、自分を損なわないで?

   優しくて誇り高くて、やっぱり真っ新(さら)な君が、私も好きだったから。

 

ミシ: ……僕も!!

僕も、貴女の人生が、光差す穏やかな旅であることを、願います……!!

 

サラ: ……。

   君は私にとってのロミオだった。

だから、もう、さようなら。

 

ミシ: ……うぅ…うあぁぁぁ!!

嗚呼あぁぁぁぁ………!!!

 

サラ:行きましょう、団長。

   気が滅入る。

 

アー: ……ああ、そうだな。

 

ミシ:( 静かに泣き続ける )――……。

 

アー:( 歩き続けて )………。

 

サラ:( 出口も見えて来て )………。

 

アー:良かったのか、あれで?

 

サラ: ……何がです?

 

アー:随分と袖(そで)に振ったじゃないか。

あんな別れ方じゃ、殺されても文句は言えんぞ?

 

サラ:ふふっ……恨まれるのは私一人!!

   友達も居る、目的も在る、

   だったら、何一つ怖いことも無いじゃないですか。

 

アー: ……難儀な奴だ、最後の最後まで。

 

サラ:風が…心地良いですね……。

 

アー:んん?

( 大きく息を吸い込んで )――懐かしい匂いだなぁ。

……覚えているか?

   お前の記憶探しの旅も、最初はこんな、見果てぬ草原からだったんだぜ?

 

サラ:何時の間にか、こんなに遠くです。

 

アー:だが、まだまだ続く道だ。

   立ち止まるには勿体無い。

 

サラ:そうですねぇ。

   何処までも歩いてみますか。

   此の果てしなくも、皆が同じ空の下で生き続ける世界を。

 

( 小間 )( 思い出が次々と浮かんで )

 

サラ:色んな人達が居た。

   傷つけてしまった人、怒らせてしまった人、

   もう2度と逢えない人。

   気が付いてみたら、悲しい『宝石』もたくさんある。

   けれど、もし、私の紡いだ物語を聴いて、何かを想ってくれる人が居たなら。

   私の人生はきっと希望に満ちていたと、そう信じて欲しい。

   私も、そう信じて生きていくことにしたから。

 

 

( 間 )( 色さざめく次代の冒険者達へ )

 

 

ミシ:( 泣き続けて )プーさん……。

 

プー:プー?

 

ミシ:こんな僕を……人でなしだと嗤うかい?

 

プー:ミシェル君……。

 

ミシ:僕にはもう、お父さんもお母さんも居ないんだ……。

   ずっと好きだった人にも報われなかった……。

   僕は……此んなので本当に人間なのかなぁ?

 

プー:僕が居るプー♪

   僕と一緒なら毎日ハッピー

   誰も傷つきやしないプー!!

 

ミシ: ……本当?

 

プー:信じるプー!!

   思いっきり僕に頼るプー?

   もう誰も居ない分、皆で支えあって生きるプー。

 

ミシ:( 鼻をすする )――!!

   クスッ……そうだね、プーさんと一緒なら!!

   此の森を抜けると僕は何も無い、初めからのスタートを切る、

まるで『あの人』みたいだね!!

 

プー:プププッ

だったら何も怖くないプー!!

何処までも歩き続けるプー?

   空(から)の心を満たしてくれる、宝物を探しに!!

 

ミシ:うん!!

 

( 小間 )( 今までありがとうございました )

 

サラ:此れで『シルヴィア』の御話はおしまい。

   ここから先は、私たちだけの秘密です。

 

~Fin~




 
 
 
     
 
           
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