題名 |
公開日 |
人数(男:女:不問) |
時間 |
こんな話 |
作者 |
風のシルヴィア(最終話)
~風のままに~
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2016/03/11 |
6(3:1:2) |
30分 |
何処までも歩いてみますか。此の果てしなくも、皆が同じ空の下で生き続ける世界を。 |
ニコ |
登場人物
(年齢) |
性別 |
その他 |
サラ
(26)
|
♀ |
心身共に麗しい金髪碧眼の女性。
芯が強く、時には頑固で、時にはすごく優しかった。
本作の主人公。 |
アーウィン
(30) |
♂ |
黒髪紫眼のイケメン、サラの恋人。
苦労人にして天才肌、そして理想の上司。
畜生、俺のサラを。 |
ミシェル
(17)
|
不問 |
美少年の天才剣士、あと貴族の御曹司。
基本的には優しいが容姿故に不機嫌だとクールビューディー。
サラと同じくらい『 風 』の似合う人。 |
プーデット
(21) |
不問 |
純情子豚サンシャインだプー。
常に明るい天真爛漫なムードメーカー。
第3話から此処まで……お疲れ様!!
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オーズィ&カゲ
(31) |
♂ |
サラ達が仕えた鉄の国アイゼフィールの国王。
難解なキャラですが要するにバカな振りをする馬鹿なんです。
本質は充分主人公を張るに足る器、残念なイケメン。
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ピエトロ
(45) |
♂ |
忠勇無比のアイゼフィール近衛長。
堅実な大人のままに元冒険者の血が流れている。
オーズィとは昔一緒にパーティを組んだ縁で偶にタメ口になる。
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女中
(20代) |
♀ |
いや~ん♡な女中。出番最初のみ。
女性の誰かが兼ねて下さい。 |
「風のシルヴィア(最終話)~風のままに~」
本編は此れで終わりです。
彼女達がそれぞれどんな道を選び、歩き続けたのか。
皆さんの御想像のままに愛してやって下さい。
( 王城:国王の政務室 )
ピエ:( ノックの音 )――。
宜しいですかな、陛下?
カゲ:いや、取り込んでいる。
用があるなら後程聴くが?
ピエ:そうは参りません!!
名だたる英雄が消え去った今こそ、陛下の御導きが必要なのです、
我が鉄の国アイゼフィールは!!
カゲ:ならば!!
……えーっと。
ピエ:ハイ?
カゲ:新たな四騎士を定めよう!!
奴等の血族、或いは我こそはと集う在野の獅子達。
おお、無論お前でも構わんぞ?
ピエ:そんな……簡単に……?
カゲ:人は『地位』が育てる。
一夜にして英雄扱いされるとあらば、その閾(しきい)値も相当なものだろう。
……嫌なことも忘れられるしな。
ピエ:ゼオルードに与(くみ)した閣僚の処罰は?
カゲ:やる気があるなら登用してやれ。
上手く外交を纏められたら、元の椅子にも戻してやるとな。
ピエ:無念です……鉄の国が死に体でさえなければ、
格式・伝統に則って本来の在るべき姿へ戻すことも出来たのに。
カゲ:うーん……と。
喫緊時(きっきんじ)だからこそ出来ることもある。
状況を楽しめない奴は精神を病んでいるからだ。
療治の旅にでも出させ、精々英気を養わせるが良い。
ピエ:成程……さように御考えでしたか……。
流石はオーズィ・アイゼフィール陛下!!
優しく、理に適っている。
女中:うふふっ…御口が上手いんだから♡
ピエ:んっ?
カゲ:おまっ、おま嗚呼…お前こそそ、それは……///
ピエ:んんッ!!?
女中:カプッ♡
カゲ:イヤッフーーー♪♫
わぁい(^^♪
ピエ:待てやゴルァ!!!( 扉を破壊する )
カゲ:げっ。
女中:んふぇ?
ピエ:お、お前は……!?
カゲ: ……ニヘッ。
( 間 )( 王城:白壁にカーテンのそよぐ病室 )
アー:( 静かな寝息 )――……。
ミシ:中々起きませんね、団長。
サラ:だけど息はしている。
……夢に飽きたらきっと帰ってくるさ。
ミシ:なぁんだかなぁ。
今回の騒動、思いのほか被害が少なかったそうですよ?
サラ:そうなのか?
ミシ:クロウリに攻め込まれた南側は壊滅的ですが、
それ以外は王都での死傷者が数万人、隣国との小競り合いで数万人。
ガルフォード様にしたって、虐殺は出来る限り避けてくれたようです。
サラ: ……結局、英雄が独り歩きしていただけで、
陰で頑張ってくれた人達がたくさん居たって訳か。
ミシ:ゼオルード様もきっと、やろうと思えばもっと酷い事が出来た筈なんです。
命を喰らう羅刹陣(らせつじん)……『時の翁』の域になると、
それこそ国一つを呑み込むことすら出来たのに……。
サラ:あの人は価値のある死を願っていた。
自分が自分だと理解出来なくなった時から、
せめて自分の存在を確かめる相手が欲しかったんだ。
……シルヴィアにしたって。
ミシ:え?
サラ:きっと、私が情けなくて全力が出せなかったんだよ。
ミシ:シルさんが?
クスッ、嘘でしょう?
サラ:あの人が生きていた時代は、聖王と魔帝(まてい)が世界を賭けて争った時代。
英雄なんて五万と居たし、それを凌ぐ魔族も跋扈(ばっこ)していた地獄だった筈だ。
だから……。
ミシ:だからって、貴女が弱い理由にはなりませんよね?
サラ:えっ?
ミシ:貴女は今まで色んな人から、様々な宝石を貰ってきた筈です。
勝利、教え、温もり……数え切れない程の価値を。
サラ:そう…だな。
そうかもしれない。
ミシ:サラさんが自分を否定するってことは、
其れ等総てを踏みにじるって事なんです!!
……その中には僕も含まれているんですよ?
サラ:うん……。
嗚呼……可愛いね、ミシェルは。
頭を撫でてあげようか?
ミシ: ……子供扱いしないでください。
それでは、後程。
プー:プーーーー!!!
ミシ:うわっ!?
サラ:プーデット!?
プー:シルさあああん!!!
サラ:アハハハッ、こら、抱きつくなよ!!
私だって病み上がりなんだぞ?
プー:関係ないプー!!
甘えられる時に甘えるプー!!
サラ:痛たた……。
もう、しょうがない奴だなぁ。
プー:( 泣き続ける )――……。
ミシ: ………痛ッ!?
オー:なぁんて面してやがる。
ミシ:へ、陛下!?
どうして此処に!?
オー:なんだぁ?
王が救国の英雄を見舞いに来て、何か悪いことでもあるか?
ミシ:また抜け出してきたんですね……。
オー:ヒャ、ヒャ、ヒャッ!!
……お前と同じようにな、紅顔の美少年?
ミシ: ――ッ!?
子供扱いしないでください!!
オー:ありゃっ!?
( 舌打ち )――ったく、そこが餓鬼だっつーのに。
……いよう、サラ!!プーデット!!
俺にもおっぱい揉ませてくれぃ!!
( 間 )( 王城:緑豊かな空中庭園 )
ミシ:僕は此のままじゃ、鳥も木々も愛せない人間になってしまうなぁ……。
心が貧しい人間には、誰も近寄ってなんか来やしないのに。
ましてや、好きな人を振り向かせることなんか……。
プー:ミッ、シェ、ル、く~~ん!!
ミシ:( 深いため息 )――。
……君、誰なの?
プー:プ~?
ミシ:面識無いよね?
プー:僕の名前はプーデット・サンシャイン!!
夢に向かって邁進中(まいしん)だプー!!
ミシ: ……ミシェル・フォン・フィーバストルテ。
プー:知ってるプー。
前に、リューシオン様の処のニジさんから、
君の事を教えてもらったプー。
ミシ:リューシオン……?
ああ、シルさんが加護を受けた風の神獣か。
プー:ミシェル君に逢いたかったプー。
思った通り、シルさんと同じ!!
風の匂いがする優しい子だプー。
ミシ:あのさぁ、僕は君の事を知らないのに、勝手に憧れて貰ってもさぁ。
……どうすれば良いのか分からないよ。
プー:じゃあ、少しずつ仲良くなるプ?
僕の物語、聴いてみるプー?
ミシ:どうしてだい?
プー:『シンフォニーしたい』からだプー。
あの人たちがそうだったように、
僕は誰かに、こんな僕の事を分かって欲しいんだプー。
ミシ:それがどうして僕なの?
プー:ん~。
誰かが人を好きになるのに、理由がなくちゃダメなの?
ミシ: ……良いよ、努力してみるよ。
プー:プププッ♪♫
( 間 )( 目覚めた先に待って居てくれた人は )
アー:ええっと……つまり、俺は生き返ったんだな?
サラ:はい……竜騎士シルヴィア・アルトルージュが、その最後の力で。
アー:はた迷惑な女だなぁ……てめぇで殺しといて、てめぇで蘇らせたってのか。
サラ:ふふっ……だけど、あの人らしいです。
オー:全くだ。
今回の騒動、失ったものは大きかったが、終わってみれば清々しいよ。
サラ:貴方がそう仰るのであれば、この国は希望が持てますね。
オー:まあな。
結局入れ替わり立ち代わり、運命は人を織り交ぜ、行き着く処に落ち着くのか。
アー:いや、陛下。
見舞いは嬉しいのですが、政務は宜しいのですか?
オー:カゲに対策を講じてきたぁ~(^^♪
サラ:影武者……?
既にジーニアスは居ないのに、どうやって。
オー:だからこそ、日の目を見れた人材も居たのだ。
あれもようやく努力が実ったと張り切っておったぞ?
まぁ……余と違ってちとエロいのが玉に瑕だが。
サラ:(それはギャグで言っているのか?)
アー:口には出すなよ、サラ?
仮にも国王だ。
オー:で、だ。
お前達の進退も、問うておかねばならぬと思ってな?
サラ:私達の……?
オー:どうだ、サラ、アーウィン。
新たな四騎士の座に収まってみるつもりはないか?
オー: ……御言葉ですが。
( 間 )( せせらぎとさえずりの中で )
ミシ:あの人達は……きっと断ると思うんだ。
プー:プー……?
だけど2人は、ずっと英雄になりたくて、傭兵時代から頑張ってきたプー?
ミシ:僕達は、確かに英雄って呼ばれてきたけど……。
じゃあプーさん、英雄って何だと思う?
皆に慕われる、分かりやすい人?
プー:かっこいい人プー?
ミシ:クスッ。
別にかっこ良くないよ、こんなの。
物語の中でしか生きられない可哀想な生き物じゃないか。
プー:う~ん。
不器用なんだか、器用なんだか。
ミシ:我慢、自制、自律……つまらない枷を無理やりはめ込んで僕は僕で在り続けた。
でもね、自己犠牲なんてもううんざりなんだよ。
……彼女には同じ人生を歩んで欲しくない。
プー:じゃあ、ミシェル君も四騎士辞めちゃうプー?
ミシ:やりたい人がやれば良いと思う。
僕以外にも出来る人は居ると思うし、誰かが出来ないことを僕はする。
だから――。
オー:( 途中から被せて )ぬぅあああああッッ!!?
ピエ:陛下嗚呼ァァ!!!
オー:くぬっ、このっ、寄るなちょび髭ェ!!
ピエ:何だとッ!?
いいから早く政務に戻れ、馬鹿めが!!
早々にカゲなんぞに頼りおってからに!!
オー:ぜってぇ嫌だ!!
今日はあいつ等と飲み明かす……ん!?
ヴぁか……何と不敬な!?
ピエ:どぅえええぇぇい!!
連雅斬・覇翔(れんがざん・はしょう)!!
オー:あぶねっ!?
プー:プギャッ!?
ミシ:プーさん!?
おのれ、よくもプーさんを!!
ピエ:おぶるぅあッッ!?
こ、これは天下無双の飛剣陣(ひけんじん)!!
貴様、御曹司か!?
ミシ: ……難なくいなしてるじゃないですか。
オー:ミシェル、よくぞ!!
さあ、あの邪魔なオッサンを成敗してくれ!!
ミシ:乱痴気に乗るのは今日だけですよ?
あと僕、此れで四騎士辞めますから。
オー:ほえ~~?
ピエ:珍しいな、貴殿が其方(そちら)側につくとは。
ミシ:クスッ……最後くらいは不真面目に振舞いたくて。
それとも、ピエトロ殿には役不足でしょうか?
ピエ:ふむ……剣聖(けんせい)の一族の見納めか。
誉れとしては此れ以上の事もあるまい。
ミシ:いざ、我が1000年の栄光に幕を!!
ピエ:務めさせて頂く……!!
オー:ふっ……花も舞い散る風雅(ふうが)の庭に、
誇り湧き咲く剣気の華、か?
ミシ:ハアッ!!
ピエ:むんっ!!
( 間 )( 白い病室 )
サラ: ……。
アー:やっと2人きりだな。
サラ:んぇ…はい?
アー:ん、寝てたか。
サラ:( 欠伸 )――すみません。
全部終わったんだなって思ったら、何だか疲れてしまって。
アー:2人で…何処か遠くへ行くか。
見知らぬ場所へ……温泉でも探しにさ。
サラ:本当に良かったんですか?
栄転の道を蹴ってしまって。
アー:先にも言ったがね、俺は騎士って柄じゃないんだ。
あれはもっと冷たい人間にしか務まらんよ。
サラ:ずっと夢に描いていたのに、叶いそうになった途端に此れだなんて。
ああ、そうか……此れが…そうなのか。
アー:夢は子供の見るもんだ。
いい歳をして見る夢ってのもまあ良いが、それはそれでキツい。
何時の間にかオッサンだしな。
サラ:色んな事がありましたねぇ。
アー:やっと胸を張って、惚れた女に好きだって言えるんだ。
こんなに嬉しいことは無いよ。
サラ:団長……?
アー:何時までも傍に居てくれ、サラ。
お前と一緒に生きていきたい、お前の為なら頑張れる、
お前一人くらいなら絶対に幸せにしてやる、だからッ!!
サラ:ふふっ……私はもう、何処にも行きませんよ?
アー: ……うん。
サラ:それに、一人で幸せになってもつまらないでしょう?
生きていくなら2人で、何時までも一緒です!!
……だから、『自由』をそんなに怖がらないで、アーウィン?
アー: ……うおぉぉ。
甘えてぇぇ~~。
サラ:はいはい。
どうぞ御自由に。
( 間 )( 親父談義:昔の血が騒いじゃって、もう )
ピエ:( 荒い息遣い )――……!!
やれやれ、あの天才剣士め、実も花も備えおってからに……!!
オー:ヒャッ、ヒャッ!!
……ま、良い勝負だったんじゃないか?
ピエ:ぬかせぃ!!
後10年若ければ、少なくとも『分け』には出来たわ。
……あとその笑い方、下品だから改めろと何度も何度も。
オー:無~理~♪
今はこれで充・分♪
ピエ: ……分かっているのか、オーズィ?
そんなだから、お前は孤独になっていくんだぞ?
オー:俺は俺だ、こんな俺を好きな奴は何時までも居ればいいし、
嫌ならば出ていけばいい。
……でもなぁ、頼られもしたいし、名残惜しいってのもやっぱりあるんだよ。
難しいけど、だからこそ惹かれるんじゃね?
人間、複雑だからこそだと思うよ?
ピエ: ……『 王 』として、繕いも私情も交えず、か。
此れから先、自由な振りをして、色んな事に縛られて生きていくんだろうなぁ。
オー:俺はそれが『 人 』の在り方だと思っている。
でなければ、ついてきてくれる人間に申し訳がない。
ピエ:当たり前だ。
何もかも新しく創り治す、辛い道を自ら選択したのだからな。
オー:そうだよなぁ。
……何時か、皆が還ってきたくなるような楽しい国を創りたいなぁ。
ピエ:お前なら出来るさ。
オー:うん。
此れからも支えてくれよ、ピエトロ?
ピエ:我が命の続く限り。
( 間 )( 明くる日の朝:旅立ちは早い方が良いから )
アー:おーい、サラー!!
行くぞー!!
サラ:はーい!!
待ってくださーい!!
アー:お前はそのままでも綺麗なんだから、女支度とかはしなくていいんだよ。
サラ:今の内に磨きをかけなくてどうするんですか。
私だって何時かはオバさんになるんですからね!?
アー:それでも死ぬまで愛し続ける!!
サラ:う、うーん……団長も、男の子の一人だったんですね。
アー:何だよ。
サラ:いいえ、安心しました。
オー:お、お前等……此のヤモメ中年2人を前にしてその惚気(のろけ)……!!
絶許(ぜつゆる)だよなぁ、ピエトロ!?
ピエ:鉄の国の万民に代わり祝辞を述べる。
2人の旅路に幸在らんことを。
オー:( 喰い気味に )ピエトロッ!?
アー:まあ、2人とも御達者で。
気が向いたら逢いに来ますよ。
サラ:それにしても幸甚(こうじん)です。
まさか陛下自ら見送りに来て下さるなんて。
オー:ん?
んん……実はな。
サラ:はい?
オー:昨日一晩考えてみたのだが、
やはり翻意(ほんい)する気は無いか?
ピエ:陛下……。
オー:竜騎士の後継にはそなたこそ相応しい。
余の為にではない、希望を失ったアイゼフィールの民草の為に、
どうかその身を捧げては貰えないだろうか?
サラ: ……。
オー: ……頼む。
サラ:頭(こうべ)を御上げ下さい、陛下。
オー: ……駄目か?
サラ:その曇りなき眼で私を見てください。
……此処に、もはや忠国の騎士は居ますか?
オー: ……いいや。
そうだな、あの戦いでシルヴィアは死んだのだったな。
死人(しびと)に何を問うても無駄か。
サラ:私は此の国が大好きでした。
何時か必ず帰ってきます。
だから護り続けてください、貴方のアイゼフィールを。
オー:ああ、待つとも。
お前達も、我が愛すべき民の一人だ。
サラ:ふふっ……貴方様も、御元気で。
オー: ………最後の試練、か。
( 間 )( 深い深い森の中で )
アー:おや、あいつ等は……?
サラ:ミシェル、プーデット。
プー:お別れだプー。
サラ:そうだね、此れでしばらく会えないね。
プー:ミシェル君と友達になったプー。
一緒に、剣と料理の冒険をするプー。
アー:そりゃあ安心だ。
何せお前一人じゃスライム一匹倒せないからな。
プー:うん、そーなの。
けどそれだけじゃ無いんだプー。
アー: ……ん?
ミシ:シル……ヴィア…さん。
サラ:何だい、ミシェル?
ミシ:僕……僕はッ……!!
プー:プー……。
ミシ:どうしても……貴女を、諦めなければいけないんですか?
サラ:ミシェル……。
ミシ:間違ってるのは分かってます、こんなのは異常だ!!
だけど…けれど……!!
貴女の事を考えると頭が壊れそうになる!!
どうしようも無く心が零れそうになる……!!
貴女の温かさを求めたくなる……!!
サラ: ……。
ミシ:僕は……団長を斬り殺してでも貴女を奪いたい!!
どうして一度もまともに向き合ってくれなかったんですか!?
こんなの酷いよッ……!!
僕だけ無様にさせて、2人で何処かへ行ってしまうだなんてさ!!
アー:ミシェル。
ミシ: ――ッ!?
アー:俺の女に手を出すってことは、俺達の関係も終わるって事だ。
永久に、何一つ元に戻りはしない。
お前には、本当にその道を選ぶ覚悟があるのか?
ミシ:そんなの分かるわけ無いでしょう!?
だけど……もう此の気持ちに嘘が吐けないんですよ!!
サラ:( 優しく諦めたように )ミシェル?
ミシ:シルさん……助けてぇ……!!
サラ:『 君 』は、私にとってロミオの代わりだったんだ。
ミシ:ロミオ……?
サラ:覚えているかなぁ?
昔、ほんの少しだけ話したこともあると思うけど、
私の部下で、黒髪とスカーフが良く似合う子だった。
ミシ: ……。
サラ:弟みたいに思っていたけど、最後には記憶を失った私を命懸けで助けてくれた。
でも、私の事を好きでいてくれたみたいだけど、やっぱり私には合わなかったんだ。
ミシ:どうして……ですか?
サラ:心に闇がなかったからさ。
汚い話だけど、私はまともな人間と自分とを秤にかけて、
釣り合えるかどうかを試してみた時期があるんだ。
ミシ:シルさんは綺麗ですよッ!?
何度も何度もそう言ってるじゃないですか!!
サラ:ううん、違う。
私は、私の醜さを知って、それでも綺麗だと言ってくれる人が好きなんだ。
だから君みたいな子供とは付き合えないよ。
……御免ね?
ミシ:そんなのって……!!
じゃあ僕も傷つきます、貴女と同じ痛みを、苦しみを!!
サラ:お願い、自分を損なわないで?
優しくて誇り高くて、やっぱり真っ新(さら)な君が、私も好きだったから。
ミシ: ……僕も!!
僕も、貴女の人生が、光差す穏やかな旅であることを、願います……!!
サラ: ……。
君は私にとってのロミオだった。
だから、もう、さようなら。
ミシ: ……うぅ…うあぁぁぁ!!
嗚呼あぁぁぁぁ………!!!
サラ:行きましょう、団長。
気が滅入る。
アー: ……ああ、そうだな。
ミシ:( 静かに泣き続ける )――……。
アー:( 歩き続けて )………。
サラ:( 出口も見えて来て )………。
アー:良かったのか、あれで?
サラ: ……何がです?
アー:随分と袖(そで)に振ったじゃないか。
あんな別れ方じゃ、殺されても文句は言えんぞ?
サラ:ふふっ……恨まれるのは私一人!!
友達も居る、目的も在る、
だったら、何一つ怖いことも無いじゃないですか。
アー: ……難儀な奴だ、最後の最後まで。
サラ:風が…心地良いですね……。
アー:んん?
( 大きく息を吸い込んで )――懐かしい匂いだなぁ。
……覚えているか?
お前の記憶探しの旅も、最初はこんな、見果てぬ草原からだったんだぜ?
サラ:何時の間にか、こんなに遠くです。
アー:だが、まだまだ続く道だ。
立ち止まるには勿体無い。
サラ:そうですねぇ。
何処までも歩いてみますか。
此の果てしなくも、皆が同じ空の下で生き続ける世界を。
( 小間 )( 思い出が次々と浮かんで )
サラ:色んな人達が居た。
傷つけてしまった人、怒らせてしまった人、
もう2度と逢えない人。
気が付いてみたら、悲しい『宝石』もたくさんある。
けれど、もし、私の紡いだ物語を聴いて、何かを想ってくれる人が居たなら。
私の人生はきっと希望に満ちていたと、そう信じて欲しい。
私も、そう信じて生きていくことにしたから。
( 間 )( 色さざめく次代の冒険者達へ )
ミシ:( 泣き続けて )プーさん……。
プー:プー?
ミシ:こんな僕を……人でなしだと嗤うかい?
プー:ミシェル君……。
ミシ:僕にはもう、お父さんもお母さんも居ないんだ……。
ずっと好きだった人にも報われなかった……。
僕は……此んなので本当に人間なのかなぁ?
プー:僕が居るプー♪
僕と一緒なら毎日ハッピー♫
誰も傷つきやしないプー!!
ミシ: ……本当?
プー:信じるプー!!
思いっきり僕に頼るプー?
もう誰も居ない分、皆で支えあって生きるプー。
ミシ:( 鼻をすする )――!!
クスッ……そうだね、プーさんと一緒なら!!
此の森を抜けると僕は何も無い、初めからのスタートを切る、
まるで『あの人』みたいだね!!
プー:プププッ♪♫
だったら何も怖くないプー!!
何処までも歩き続けるプー?
空(から)の心を満たしてくれる、宝物を探しに!!
ミシ:うん!!
( 小間 )( 今までありがとうございました )
サラ:此れで『シルヴィア』の御話はおしまい。
ここから先は、私たちだけの秘密です。
~Fin~
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