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A ： 男 B ： 男 「点対称な男たち」 B 君はこれ見てどう思う？ A どうって言われてもな。丸と三角と四角が箱の中で移動しているだけにしか見えないよ B 分かっていないね。いいか？ここの動きをよく見てみろ、ほら丸が三角に寄って行くだろ？で、ここで三角が小さく上下に動く A あぁ、そうだな B で、四角は端で動かない。ここまでは見ていてわかってるか？ A 確かに、言われたらそういう風にも見える。でも、それが一体何だっていうんだい？ B そこまで分かっていてどうして何も思わないんだ。 脳の神経細胞がもうアルコール漬けになってしまって正常な判別ができなくなっているんじゃないだろうな? A 今日は飲んでいないだろう？それに、君の方が僕より酒の度数と飲む量は勝っていると思うが？ 僕の記憶違いじゃなかったら、ポーランド製のウォッカのボトルを先週の日曜日に一晩で流し込んでいたのは君だったと思うんだが B おいおいそういってる君はウィスキーのボトルを2本空にしていただろう？ A ふむ。だとしたら、純粋なアルコールの量としては僕達は同じくらい摂取しているのかもな。 じゃあお互いまだ脳の働きとしては問題ない程度の範囲ってことだろうな B 問題ないことを確認した所で、話は戻るがこの図形がな A もう飽きたよ図形の話は B 何を言ってるんだい。まだ本題にも入っちゃいないよ A 急用だと言われて飛んで駆け付けたのにも関わらず、僕の家に行こうって言い出すし。 戻ってきたら、突然こんな下らない映像を見ろというし。 わからないと返したら、もう一度見てみろの繰り返しでこれで何度目かな? いい加減にしてくれよ。もう僕は学生の頃みたいに自由な時間が多いわけではないんだよ B そんなこわい顔しないでくれよ。君が都市部の自動車エンジン開発部で毎日働き詰めで多忙ということは君から何度も聞いている A 反対に、君は会社にも所属せず、その日暮らしをしていると聞いた。君は僕よりも優秀だ。なのに一体全体どうしたんだい B 謙遜はよしてくれよ。社会に通用する能力と実力が足りていないのさ。そして我慢強さもないときた。 どこを見てそう考えたのか知らないが、僕は君には何一つ勝てる所はないよ A どうしたんだ。いつもの饒舌たる語り口は海の底にでも投げ込んでしまったのかい? ここは「僕ほどの人間は他にはいないからね」と決め台詞を吐くところだろ B それに対して君はこういうんだ。「君は本当に僕の真似が好きだね」ってな。 いつもこんな調子だから、お互いのこと判りきっているもんだと思っていた。 僕がこういうと君はこう返し、考えは予想できる範疇だった A その過去を思い返すような言い草はどうしたんだい?図形のことに関して無関心な私を見て、君を苛立たせてしまったのかな B いや僕が悪いんだ。率直に聞けばいいことを図形を用いて、余計に話を複雑化させてしまった。 難解な事態におとしめているのは、僕自身の心の弱さが原因だ A 君らしくもない。僕達の仲だろ。とりあえずこれを飲んで心を落ち着けてくれないか B ありがとう。ん…これは、いつもと風味が違うな A 新しい豆を挽いたんだ。5種類の豆を店の主人がブレンドしてくれてね。 私が挽く時に、全ての豆が均等に入らないのもあって毎回味が違うんだよ。ん…今日は当たりみたいだ B おいしいよ。出無精の君が珍しいね。いつもの近くにある豆屋以外の店に行くなんて A たまたま用事があったから寄っただけさ。良い気分転換になる B ふーん。………なぁ。この一輪挿しなんで空のまんまなんだ A 花を挿していないからだろ B そういう物理的事象めいた言葉を期待しているのではなくて、そもそも君が植物に興味を持っているなんて聞いたことがないんだが A これもさっきの気分転換の一環だ。花は心を癒す力があると文献で読んだ。色、香りで脳が本能的に安らぐらしい B ほうほう…それで、この辞書や資料で埋もれたテーブルには似合わない一輪挿しがあるという訳か。 君は癒しを求めていたという訳か…ふんふん。どうりで前より酒の量が減ったわけだ、うんうん A 酒は君と同じ量昨日も飲んだだろ?君こそ量が少し減ったんじゃないかい?…さっきから君は何を勘繰っているんだい B いや?一輪挿しを見て少し考えていただけだよ。この近くに花屋があったか、思い出そうとしていたんだよ。 最近は、なかなか頭の引き出しが自分の思い通りに開いてくれなくて困るよ。もう若くはないなってね A ……僕も思い出したんだが、一つ聞いていいかい? B かしこまってどうしたんだ。何だい? A 先週…日曜日に近所の靴屋で買い物してたのは…君であってるのか? B なんだい見かけたなら声をかけてくれたらいいのに。確かに僕で間違いないよ A 隣に女性がいたようだったからね。お邪魔になっちゃ悪いんで遠慮させてもらったよ。一緒に靴を選んでたんだろ B …まぁそうだな。流行やら好みやらは僕は疎いからね。手伝ってもらっていたんだよ A 手伝ってもらっていた?彼女への誕生日プレゼントを一緒に決めていたんじゃないのかい B 誕生日? A いや違うなら、いいんだ。うん。 B ……ふーん。本当に君は判りやすい人間だ A 何を笑っている B 失礼 A ふん B 彼女、美人だよな A ん…まぁ、後姿しか見ていないが、綺麗な髪をしていたな B 本当に後姿しか見ていなかったのかい君 A …そうだが B ふーん A …何が言いたい B 君が最近コーヒー豆を買いに行き出した店の近くに花屋があってだな。彼女そこの花屋のお嬢さんなんだよ A そうかい……で？ B で？ A いつ君は彼女と寝たんだい？ B …おいおい、君にとってそんなに僕が軽薄な人間に映っているのか A 毎回会うたびに隣にいる女性が違うのだからね。そう考えるのが妥当だろう B 君は大変誤解をしているようだが、隣に並んで歩いているからといって僕の「彼女」であるという証明にはならないんだよ A まぁその通りなのだが、残念ながら今の僕には君が必死に釈明会見をしているようにしかみえないんだ B おいおい… A …すまないね B ん？ A これではただの八つ当たりだ…どうにかしてるのは僕の方だ。君は何も悪くない B そうか A …すまない B あの日な A うん？ B 君が靴屋で僕と…彼女を見た日 A うん B 誕生日プレゼントを探してたんだよ A やっぱり B 話は最後まで聞けよ。女の子にはプレゼント何がいいんだろうと考えながらだな、俺は街をうろついていた。 いいの思いつかないなって悩んでいたら、良いコーヒーの香りがしてきてさ。だからそこで休憩することにしたんだ。 で、外出たら花屋があったから、あー女の子に花か、名案じゃないかと思って立ち寄ったんだよ。 でも花とかよく知らないから、店の人に相談しながら迷って、結局見た目綺麗だから赤いバラでいいかって思ってたらね。 店の奥からあの子が出てきてね「それ、彼女にプレゼントするんですか？」って突然聞いてきた A え？ B とんでもない、これは妹にあげるんだって言ったら 「それは、妹さんに対して向けるには、少し情熱的な愛すぎるかな」って止められちゃってさ。 それから妹の詳しい話聞かせてくれって言われたから、次で18になって、来年からは一人暮らしする予定だって話したら 「花じゃなくて、実用性のある靴なんてどうですか？」って言ってきてね A 花屋なのに？ B やっぱりそう思うよな。花屋は花を売っての商売じゃないのかって話したら 「プレゼントはその時その時にふさわしいものがあって、食べ物でいう旬みたいなものだから、 そのタイミングが花になった時に、私の店に来てくれたらいいんですよ」って言ってた A 変わった子だな B うん。それでその後もね。 花のことも詳しくない僕に靴のセンスもないだろうって見抜かれて、妹のプレゼント探しに付き合ってくれていたという訳さ。 人は良いんだけど、多少強引なところは花屋らしくないというか。不思議な子だよ、ほんと A そうだったのかい。で、君の妹には靴を渡せたのかい B あぁ渡したさ。こんな上等な革靴を私に？ってめちゃくちゃ喜んでくれてさ。 花と比べたら出費は大きかったけど、あの喜び様みたら良い買い物だったよ A …それはよかった B この一輪挿し。彼女の店に行ってるんだろ A …ああ B 最近行ったのは？ A …先週の…いや忘れた B はー…先週の日曜日僕らを見かけてから出向いていないっていうことかい。 僕と彼女が恋人同士だと勘違いして、毎日働きづめだった仕事を有休とって悩んでいた、と A そう、だな B 否定しない、か…なぁ図形の話覚えてるか A あ？ああ… B あれな、幼児の知覚テストに使われている映像なんだってさ。 丸と三角と四角が箱の中にいて、丸が三角に寄って行く、三角が上下に小さく動いて、四角は端で動かない。 この動きだけで、2、3歳くらいの子供は人間の関係性を想像するらしい A 図形が動いて移動しているだけなのに、そんな小さい子が人間の関係性を見出すのかい B 動きや行動でどのように相手が考えているのかを、感覚で捉えて経験して学んでいく時期なんだとさ。 赤ん坊の人形でお母さん紛いのままごとをするのもこれくらいの年だな。 見て真似して学ぶんだよ、やわらかい頭を持っている頃はね。 ま、俺達みたいなおっさんには、もう脳が凝り固まってしまっていて無機質な図形がただ動いているだけにしか見えないけどな A じゃあ、自分がやわらかい頭を持っていると思って考えてみるよ。 この丸と三角と四角が人であると考えて、これを見たらいいということだよな。 んー……それでも君が何を伝えたいのか、さっぱりわからないな B この四角、誰かに似ていると思わないかい A 端で何も動いていないこの地味な四角か…全く個性がみえないな B 個性が見えない…か。 アピール下手だしね、見ているだけでは何も変えることなんてできないのに、いつも外側で眺めているだけのようにも見える A え？ B 自分の想いを直接伝えることもできないまま、うじうじ悩んでるどこかの誰かさんにそっくりだって言ってるんだよ A は？じゃあなんだ。この丸は、しつこく彼女に付きまとっているだけじゃないか。 まるで君のいいかげんな女癖を見ているようで頭が痛くなる B まだ君みたいに部屋の端っこで何もしていない奴よりかは、はるかにいいと思うけどね A …君が、こんなに回りくどく、単刀直入に物を聞けない人間だとは思わなかったよ。 分かりづらい上に、こんな無駄に頭を使わされて、全く不愉快だ B 熱くなっているのはどっちの方かな。 行動を起こそうともしないで、遠くで眺めているだけでいいとか考えてるんだね？ そんなんじゃこの先の人生も一人寂しくロンリーライフで過ごしていくんだね。笑っちゃうよ。 まさか頭だけいい温室育ちのぼっちゃんには、恋の仕方も分からないのかな。 そうだ！僕が夜の歓楽街へとご案内して手ほどきを致しましょうか、おぼっちゃん？ 君なら誰でも選り取り見取りできるに違いないよ。まぁ、あんな程度のレベルの女はそこらかしこにいるから安心したまえ A いいかげんにしろ！！ 僕のことはいくらでも卑下してもらって構わない。 ただ、彼女を侮辱する発言は、例え君であっても許さないぞ B ほう？どう許さないんだい？ 事実を述べているだけだというのに。真実を突きつけられるのがそんなに怖いのかい？ どうしたんだいそんな顔して。やけに難しい顔しているね。 その握り締めている拳が僕に向けられるものだったら、僕にとってはさらに大変な笑い話なんだがな A これが笑い話に見えるかっ（B の顔へ右ストレート） B （パンチかすれる）おいおい顔はよしてくれよ。顔だけが売りなんだから A その減らず口をだまらせてやろうか（即座にB 左フック） B （直撃して）痛てて…ちっくしょ…やったな。こっの（B は手出しません） A 顔だけで、肝心の頭は働かないような人間だからな！君は B 言うねー、よっと！（起き上がる） じゃあこっちも何度も言ってやるよ。君の耳が痛くなるまで言ってやる！ 惚れた女に正直に自分の気持ちを何も伝えないまま、全部終わった気になってて、勝手に落ち込んでいる… そんな君が、ほんっと傑作で笑えて仕方がないよ。道化にも程があるね A この…野郎っ！！（腹に一発） B ぐっ…は…はは…ほらこいよ！もっとこいよ（笑い継続） A なんだ？殴られたいのか君は B さぁね A なぜこの状況で笑ってる B いや？その必死になっている姿が…実に滑稽でね。どうにもこうにもね。なんだろうね…おっと （BがAをテーブルに向かって身体を押し倒す） A こっの！くそ！くそ！！どうして君はいつもそうやって…ちっくしょ！！（結構殴ってる） B …… A この状況でどこを見ているんだ？どこまで君は僕を小馬鹿にすれば気が済む B ちょうど目の前に見えたからね。良かった…割れていないみたいだな A え B 君にとって大事な物なんだから、こんなことで壊したくないからね。はい、これ A …ありがとう B こういうものはこんな雑多な場所に置くよりも、美しさが際立つように整理された空間に置いてあげるといい A そうだな。そうするよ B 手が休まってるよ A ん…あぁ…そうだったな B はぁ。さっきまでの気迫はどこにいったんだい…それとも、その今両手で握り締めている物のせいかな A 僕は君への苛立ちでいっぱいで、これになんて目にもくれてなかった。 どんな状況でも…そうやって、容易く僕の上を行くんだ B 容易く君の上を行く人間が、こんな部屋であちらこちらの物が飛散する事態を作ると思うかい。 ほら、さっきの衝撃であのおいしいコーヒー豆があらわな状態だぞ。 ちゃんと蓋しておけばこんな可愛そうな姿にはならなかっただろうにな、もったいない。 開けたらすぐ閉める。基本的な行為だぞ A すまない。気をつける B ……少しはすっきりしたかい A え？ B 何で僕達はこうも違う人間同士なはずなのに、いやはやどうして趣味趣向は似てしまうんだろうか。 考えや理念が全て一緒というわけではない。でも同じ「花」を好むようになるとはね A 「花」ね B お互い偶然、同じタイミングで惹かれ合うなんて…ほんと滑稽な話だ。自分を含めてね A …僕は君が彼女の相手なら、納得して、このことはなかったことにしようと思えていたんだ B そうやって自分の真意をそっと覆い隠す癖は変わっていないな A 本当に納得していたんだ。覆い隠しているわけではなく、きちんと考えた上での結論だよ B そうかい。で？その結論が出ているというのに、その君の曇った表情はなぜなのかな A わからない B わからないのかい A でも B でも? A 君が彼女と付き合うと、僕は大切なものが両方いなくなってしまう様な感じがして、想像すると胸が苦しくなるんだ。 多分寂しいんだと思う。 B あーあ、馬鹿だね A 知ってるよ B 君じゃないよ。僕がさ A どうして? B 君が考えていたことを、俺も考えていたからさ A まさか B 笑い話だな、ほんと A ふふ B あーなんかどうでもよくなったな。 殴られた身体の節々の痛みのおかげで色んな所が麻痺してきたよ A ごめん、つい手を出してしまった僕のせいで B 少しはすっきりしただろ?僕の作戦が功を奏したならいうことないさ A まさか最初から君はそのつもりだったのかい B さぁね。どうだろう A やっぱり君には敵わないな 二人見合って笑い合う B やーめた A ん？ B 色々考えること A そっか。じゃあ僕もやめとくよ B え？いいの、それで A こっちの方が落ち着くからね B …じゃあ、一緒にあの花屋行くか A え？今から？ B あれ。飾る花。ないと殺風景だろう？ A まぁそうだけど。いいのかい？ B 彼女、今日仕事夕方までだって言ってたし A そっか。じゃあ、軽く部屋片付けて準備するとするかな B いいじゃん、このままじゃだめなの？ A だーめ。ほら、早く手伝って B はいはい。日頃から片付けていない癖に、何でこのタイミングでしようと言い出すかね A 開けたらすぐ閉める、だろ？ B そうだね。時間はあるからね。まだ一日始まったばかりなんだから、とことん付き合わさせて頂きます A せっかくの有休だしな。しっかりと付き合ってもらいますよ B それに汚い部屋だと、あの子文句言いそうだしな A ん？何か言った？ B 何でもないさ。この一輪挿し、玄関のところに置いておくぞ A ああ。帰ってきた時に一番目に入る所にお願いするよ B さて、どんな花に今日は会えるかな A そればかりは行ってみないと分からないよ B だな。これでよしっと A いくか。あ、そうだ B ん？ A えいっ（蹴り） B 痛っ！背後からは卑怯だろう A 仕返し。結局僕は君の手の平で転がされていた訳だからね。少しは予想の範疇外である、これぐらいのことはして当然だろう？ あーすっきりした B さっき十分殴っていただろう。痛たたた…全く…君っていう奴は A はは、お互い様だろ B はぁ。ほんと、敵わないな |
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