題名  公開日   人数(男:女)  時間  こんな話  作者
 君を好きになった理由 2013/12/29   2(1:1) 20分  私、ほんとは君と会っちゃいけないんだ  りり~

A  : 女
B  : 男


「君を好きになった理由」


B  ん…ここは、どこ?

A  おはよう。気が付いた?

B  君は…

A  良かった、意識が戻らないかと思った

B  君はどうしてそこにいるの?

A  雨がさっき止んでね。外の景色を眺めていたの。
   それに、あなたの顔がここからよく見えるからね

B  顔?

A  ほら。あなた今、ベッドで寝ているでしょ。
   ベッドのちょうど後ろ側にある、この窓の隅に座ると、顔が覗き込めるのよ

B  ベッド?本当だ。いつの間にこんな所に、どうして…

A  覚えてないの?

B  何を?

A  ううん。いいよ、気にしないで

B  ごめん…まだぼんやりしてて、頭が回っていないんだと思う

A  随分長い間眠っていたから、仕方がないよ

B  僕はどれくらいの間眠っていたの?

A  そうね…あなたの、その足の傷が塞がるくらいまでの間は眠っていたかな

B  え?あ…本当だ、気が付かなかった

A  まだ痛む?

B  動かすとちょっとだけ

A  ごめんね

B  何で君があやまるの?

A  私があなたに出会ったから、こうなってしまったのかもしれない

B  そんなこと言わないで。少なくとも、君はこうやって今僕のそばにいてくれている
   優しい君が原因だなんてこれっぽっちも考えてやしないよ

A  そうかな

B  そうだよ。でも、色々忘れちゃってる僕が言っても、説得力ないか

A  ふふふ…ううん。あなたは色々忘れてても、優しいのは変わりないね

B  褒めても何も出せないよ

A  そう言って突っぱねても、顔にやけてるよ

B  う…そんなことない

A  ふふ……あ、見て。ほら、虹だよ

B  危ない!

A  っ…どうしたの?

B  え…だって…あの。うん…ははは…いきなりなんかごめん。
   急に窓から、身体乗り出すから。びっくりして、焦っちゃった…みたい

A  虹近くに出来てて、掴めそうって思ったらつい手を伸ばしちゃった
   私の方こそ心配かけてごめんね

B  ううん。ほんときれいだな
   君なら届くかもな

A  どうしてそういう風に思うの?

B  僕にはできないから

A  え?

B  あれ?何でだろ。自然にそう思えるんだ
   僕にはできないことを君は容易くできてしまう
   僕とは違う、遠くにいるような気がするんだ

A  今はそばにいるよ?

B  うん。そばにいる。なぜ君がそばにいてくれているのか、僕は未だに思い出せないでいるのに、君の優しさに甘えてしまっている。
   早く…早く思い出さなきゃ

A  ゆっくりでいいよ。急がなくていいから

B  そうだね

A  あ、そろそろセンセイがくるかも。私ちょっと外に出てくるね

B  センセイ?

A  皆そう呼んでる。君の怪我も治してくれたんだよ

B  そうなんだ。だったらお礼言わなきゃな

A  じゃあ行くね

B  え、そこから出るの?

A  私、ほんとは君と会っちゃいけないんだ

B  どうして?

A  私もわからない。でもカアサンにそう言われたんだ。もう行くね。

B) そう言い残して、彼女は窓から木を伝って外へ出て行った。
   しばらくすると、扉から誰かが入ってきた。
   一人は白い服を着た大きな身体の人と、もう一人は鮮やかな色の服を着たいい匂いがする人。
   この人たちが、さっき言っていた「センセイ」なんだろうなって思った。
   僕の足は事故で折れてしまっていて、それがもう治ってきているという話をしていた。
   僕は自分がどうなったのかをきちんと知りたくて、身体を起こして二人を見ようとした。
   するといい匂いがする人と目が合って、次の瞬間、僕はぎゅっと抱きしめられていた。
   突然の出来事で僕は驚いたけど、耳元で小さな声で「ごめんね、ごめんね」と聞こえてきて。
   同時に暖かい雫が次々と僕の額に降り注いできて。
   この人がさっき彼女が言ってた「カアサン」っていうことなのかなって。
   なんとなくそう思った。
   「カアサン」っていう意味が、どういう意味かは分からなかったけど、
   いい匂いに包まれたせいか、なんだか安心して、そのまま又眠ってしまったんだ。


 

A  おはよ

B  んん…あれ?ここは

A  よく眠れた?

B  君は?

A  忘れちゃった?昨日もここで会ったじゃない

B  会った…ような気がするけど、あれ?

A  こんなに天気がいいのに、どうしてそんな場所で隠れているの?

B  ここはどこ?

A  まーだ寝ぼけてるの?昨日私と約束したよね!又ここで遊ぼうって

B  約束したっけ?

A  えー!!それ、傷つくなー。何ヶ月も会ってないっていうなら分かるよ。
   でも昨日の話なのに、もう私を忘れちゃうなんて…。
   なんかまた会えるって思って急いでここに来た、この私の気持ちどうしてくれるのよ。
   あーしょんぼりしてきた。うう…

B  あー!ごめん!!泣かないで、ちょっとなんか記憶が混乱しちゃってて、寝起きだから!
   今からがんばって思い出すから!!

A  もーいー!思い出さなくてもいい!

B  えー!!そんなー!!

A  せっかく友達できたって思って喜んでいたのに。そう考えていたのは私だけだったみたい

B  そんなことない!

A  ひっ

B  あ!いきなりごめんね。僕も嬉しかった。
   ずっと一人だったから、君が僕に話しかけてくれた時驚いたけど、話している内にすぐに打ち解けていって…。
   一緒に居ることが嬉しくて、楽しくなっていって。
   これが友達ってことなのかなって考えてた

A  …思い出したの?

B  うん。ちょっとだけね

A  じゃー全部思い出せるように、昨日のゲームもう一回しよう!
   ほら、あの木の上までどっちが先に着けるか競争ね!

B  えー!それどうやったって僕が負けるじゃないか

A  えっへへーゲームスタート!よーいドン!



A  おはよう

B  んん…あれ?ここは

A  よく眠れた?

B  君は?

A  忘れちゃった?昨日もここで会ったじゃない

B  会った…ような気がするけど、あれ…?

A  随分うなされていたけど大丈夫?

B  え?…あぁそうか。夢見てたんだな

A  どんな夢だったの?

B  君と一緒に遊んでいる夢だったよ。木の上まで競争だ、って君が言って、よーいドンって言われた瞬間に目が覚めた

A  それでうなされていたのか。楽しい思い出じゃなかった?

B  楽しかったさ。でも毎回いつも僕ばかり負けちゃってさ。
   君がひらりとすぐにゴールして、理不尽極まりないなって思っていたよ

A  ははは、だったら嫌だって言ってくれたら良かったのに。何で言わなかったの?

B  くやしかったんだよ、ただ単純にね。いつか勝ってやるっていつも思ってたよ

A  そっかー。でも今やったら負けちゃうかもなー

B  どうして?

A  君が眠っている間に、随分大きくなっちゃったからかな

B  そんなに大きくなったの僕?

A  うん。成長期ってやっぱり恐ろしいね。ちょっと前まで一緒くらいだったのに、たやすく大きくなっちゃって…
   …もう私とは違うんだなって…

B  まだそんな風に感じないな。大きくなってるなら嬉しいけどね

A  起きてから一度も立ち上がってないから実感ないか。立ったら驚くよきっと

B  楽しみだな

A  そういえば…君が寝ている間に聞いたんだけどね。もうすぐここから出れるって言ってたよ

B  え?そうなの?

A  センセイが、もう身体は悪いところはないから、包帯を取ったら家に帰っていいです、って言ってた

B  そっかーじゃあまた遊べるようになるな

A  えっ…?

B  何?嬉しくないの?

A  そういうわけじゃないんだけど…多分遊べなくなると思うよ

B  どういうこと?

A  あのすっごい匂いのする人が、君を家に連れて行くって話してたから、こうやって私たち会えなくなるよ

B  「カアサン」がそう言ってたの?だったら嬉しいな

A  …嬉しいの?

B  あの人に抱かれると、安心するんだ
   いい匂いに包まれて落ち着くというか、眠たくなるような感じでさ

A  会えなくなるのに、そんなに嬉しいんだ、あなた

B  会おうとしたら会えるでしょ?僕が君に会いにいくよ!

A  …簡単にいうね

B  僕は成長したからね!きっと颯爽と目の前に現れるよ?

A  わかってない

B  え?

A  あなたは何も分かってない!!


B)  そういって彼女は僕の前から姿を消した。
   彼女がなぜあんなに声を荒げたのか…泣いていたのか、僕には理解できなかった。
   僕が元気になって動けるようになったら、また遊べるようになるのに。
   どうしてあんなこと言ったのか、いくら考えても分からなかった。
   少しずつ忘れていたことを思い出してきて、ようやく話が分かってきたって感じていたのに。
   次の日も、そのまた次の日も彼女は現れなかった。
   「センセイ」や「カアサン」は何度も部屋にきて、僕の様子を見に来てくれたけど、
   窓の方を見ても、いつもの彼女はそこに戻ってくることはなかった。

   僕が本当に大切にするべきものは彼女だったのに。
   今頃気づいても仕方ないんだけど、この胸の中から湧き上がる愛おしい気持ちは日に日に膨らんでいく。
   今までこんなことはなかったのに、どうしてだろう。
   会えない日々が続いている分、僕の気持ちが先走ってしまっているんだろうか。
   この足が治ったら、真っ先に彼女に会いに行って想いを伝えよう。

   窓から見える景色が変わり、季節が変わった頃に、センセイがカアサンに一言こう言った。
   そろそろいいでしょう、と。
   「カアサン」の腕に抱かれながら、腕にチクリと何か痛みを感じた後、僕は又眠ってしまった。



A  ねーあそこにどっちが先に着けるか競争しない?

B  えー危ないよ。こんな所通れないよ

A  こわいの?

B  う…ちょっと

A  別に難しいことやれって言ってる訳じゃないでしょ。
   ちゃんと左右見て何も来ていないか確認してから、真っ直ぐ前向いて走る!
   これだけのことでしょ

B  そうかもしれないけど。でもここは通らないほうがいいって聞いたよ

A  臆病な気持ちだと、大きくなれないよー

B  うー…じゃあやってやろうじゃないか

A  お、乗ってきたね!連敗記録がまた増えるかもしれないわよ?それでもいいの?

B  やらなきゃ、君に勝ったっていう記録も増えないでしょ。覚悟決めるよ

A  あっははーじゃあいくよー!ゲームスタート!よーいドン!

B  あ、フライングはずるい!って…危ない!!



A  大丈夫?

B  え!!君の方こそ大丈夫?

A  っ…突然何!どうしたの?怖いよ、そんな近くで見つめられたら

B  あ……わ!ごめん

A  足治ったんだね

B  え?

A  ほら、今あなた立ってるじゃない

B  本当だ。動くようになってる

A  良かったね

B  うん…良かった

A  またうなされてたよ。すっごい苦しそうだった

B  また変な夢見ちゃって、君がすごい危なっかしいことしようって 言い出してさ
   …でも、あれ多分夢じゃないよね。

A  そう…思い出したんだ

B  うん。あのゲームで君が変なタイミングで飛び出したから、俺は必死で止めようとして…それでこんな風になっちゃって

A  そうね

B  それよりもさ、久しぶりじゃない?ここ来るの

A  …ずっと来ないようにしていたからね

B  すごく寂しかった。突然いなくなるから、一人で色々なことを考えた

A  どんなことを考えてたの?

B  どんなって…君に会いたくて…俺の想いを伝えたくて

A  想い?

B  ……好きなんだ。すごく…すごく好きなんだ。何でだろう、今までもずっと好きだったんだけど

A  私のこと好きなの?

B  うん

A  ……私も、あなたのこと好きよ

B  え!ほんと?

A  うん

B  本当…良かった………

A  でもね

B  え?

A  あなたの好きは…私の好きとは、違う気がする

B  …どうしてそんなこというの。どうしてそんな悲しいこというの

A  …っ……何するの

B  今まで会いたかったのは…辛かったのは、俺だけだったの?
   ねぇ、答えてよ

A  落ち着いて、ねぇ君いつもと何か様子がおかしいよ?…そんなに近寄られたら、私…怖いよ

B  怖がらないで。何でだろう…はは…俺、おかしくなったのかな
   ここは夢?夢なの?

A  違うよ。夢じゃないよ

B  何だろう。大切にしたい、大切にしたいんだ。
   なのに何でだろう?何で…何でだ

A  落ち着いて

B  落ち着けないんだよ!

A  っ……これは…私からのゲームだよ

B  え?

A  あなたの好きなようにすればいいと思う

B  こんなことがしたい訳じゃないんだ。
   俺はどうなって…どうして。
   やめろ、やめてくれ
   なんで…君にこんなことしたくないのに。
   何でだ…何で、何でだよ!

A  それでいいのよ、それが「あなたらしい」ってことなのよ

B  やめて。好きなのに…好きなのに

A  私たちは、今まで普通に一緒にいたこと自体がおかしかった。
   あなたは何も悪くないわ。私が好きで一緒にいただけなんだから。

B  俺は…君を

A  おめでとう。あなたの勝ちね


B) 目が覚めると、彼女はいなかった。
   代わりにセンセイとカアサンがいて、カアサンは俺の姿を見て驚いているようだった。
   するとセンセイはカアサンにこう言ったんだ。
   「これはよくあることですから、あなたも落ち着いて。
   きっと何日もご飯を食べていなかったから、お腹が空いていたんでしょう。
   これは自然ではよくあることなんですよ。だから気に病まないで下さい。」と。
   彼女がいなくなって悲しいけど、それでも満足していたんだ。今、俺、幸せ、なんだ。


A) 真っ赤になった君の手と、真っ赤になった君の口。白いシーツの上で、辺り一面に飛び散った私の欠片。
   そうか。君は私に初めて会った時から、こうしたいって思っていたんだ。
   最初に感じた身震いするような君の視線から、私はずっと逃げることができなかった。虜になっていた。
   身体中に迸る激痛も今はなぜだか心地いい。充実した気持ちに包まれている。
   薄れていく世界で最後に見えた君は、あの人に優しく抱きかかえられていて幸せそうだった。
   もう、空が遠くても、虹も掴めなくてもいいから。羽なんてもぎりとっていいから…今度は私もあの人みたいになりたいな。

   友達って何なんだろう?…私たちは友達だったのかな?
   大好きだよ。
   私はちゃんと君を愛せていたのかな?




     
 
           
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