題名  公開日   人数(男:女)  時間  こんな話  作者
 虚空に溶けゆく手 2014/04/24  2(1:1) 20分  俺には何も見えなくなってしまった。  りり~

A  : 女
B  : 男

「虚空に溶けゆく手」



A  お姫様と王子は二人で幸せに暮らしましたとさ

B  それで終わりか

A  終わりだと思うでしょ?でもまだつづきがあるみたいなんだ。その前にちょっと休憩していい?

B  つづき?もうそれで終わりじゃないのか

A  お姫様と王子、私たちみたいだね

B  突然何を言い出すのやら

A  私たちはこの屋敷でこれからもずっと幸せに暮らしていく

B  幸せ?…本当に?

A  今までも幸せだった。そしてこれからもずっと一緒…でしょ?

B  …もういいよ

A  …どうしたの?何か気分を悪くさせちゃった?

B  お前が見ているのは俺じゃない

A  …何でそんなこと言うの

B  これ以上惨めな思いにさせないでくれ

A  落ち着いて。私はここにいるよ。そばにいるから

B  俺に触るな!

A  っ…ごめんなさい

B  …違う、すまない。急に触れられると、気が変になりそうになるんだ…
   お前はいいんだ…お前があやまる必要はない

A  ううん、私が触るねって一言聞けばいいだけだったんだもの。気が利かなくてごめんなさい。
   怖いよね、そりゃ。………もし…私があの時、あの場所にいなければ、あなたの目がこんな風には…なることはなかったのにね

B  またその話か。やめろ

A  今でも昨日のことみたいに思い出せるよ。
   二人で式を挙げて、これから幸せな生活が始まるんだって思っていた矢先に、あんな事故に巻き込まれて…

B  …そうだな

A  大きな車が曲がり角からすごいスピードでこっちへ向かってきて、あなたは急ブレーキ踏んで必死に避けようとした。
   でも避け切れなかった…私があなたと出会わなければ、きっとこんなことには(ならなかった)

B  頼むから、黙ってくれ

A  ごめんなさい

B  事実であっても直面したくないものだってある

A  あなたが助かってくれて本当に良かった。あなたの目は…私が一緒にいる、そばにいるから大丈夫だよ。
   それぐらいしか私には何もできないけど…

B  必要ない

A  え?

B  必要ないといっている。お前なんかもういらない。俺の前から消え去れ

A  …私があなたを愛しているといっても?

B  それは愛なんかじゃない。俺の目をこうさせてしまった、ただの後悔の念から、そうさせているだけだ。そこには何の感情もない

A  そうじゃない…後悔なんかしていない

B  俺と一緒ではない未来の方がお前には合ってる。俺には何も見えなくなってしまった。
   お前の姿も表情も、光さえも届かない。お前に何もしてやることができない。
   早く俺のことを忘れて、他の場所に行け

A  忘れるわけないじゃない。私たちは誓い合った、あの時、あの場所で一緒に支え合おうって、生きていこうって言ったじゃない。
   あなたがどんな状態であろうと、私にとっては大切な人なの

B  世界は暗い、この中でいつも寝てるのか起きているのか分からない時間を過ごしながら俺は生き続ける。
   だがお前はそこにはいなくていい

A  それでも私は一緒にいたい

B  俺がお前を憎いと言ってもか

A  え…

B  俺は一人で行動することもままならない…お前に頼りきって、誘導してもらわない限り、どこに何があるかもわからない。
   そうやってお前は2年もの間俺に従順してきたわけだ

A  2年…?

B  実際そうだろう、季節が二巡りしただろう

A  そうかしら。私にはそんな長い時間に感じなかったわ。
   …私にはあなたが必要。事故が起きる前からずっとそうだったじゃない?
   どうして今さらそんな悲しいことを言うの

B  疲れたんだよ。憐れみの情で動く女といることにね

A  …そんな風に思ってたんだ

B  何も見えないと心がすさんできてね。全てを排除したくなるんだよ。
   異様に優しい人間がいると、自分の心がどす黒い醜い感情で穢れているのがよく分かってね。
   我慢の限界だ

A  私があなたを苦しめていたのか。傍にいることで安心してもらえたり、喜びの時間が増えたらと思って一緒にいたんだけど
   それは私の勝手な思い違いだったみたい。
   私が幸せだと思っていた時間は…なんだったのかしら

B  お前の幸せは、全て俺にとっては必要ではないものだ
   心底思うよ。お前がこっち側だったら良かったのにって

A  っ…それは…本気で、本心でそう思ってるの?

B  ああ。今俺が吐露している気持ちが、俺の全てさ。
   どうだ?こんな俺の本性を見て落胆してるのか?後悔しているのか?蔑んでるのか?憎いのか?
   はっはっはっは…どうとでも思え!!もう嫌なんだよ、同情も、愛も何もいらない。
   残るのはこの暗闇に漂う俺だけでいい!その他のものなんて消えてしまえ!
   お前もここから消えてしまえ!!!

A  …(泣く)…

B  泣いているのか…?ようやく泣いたのか。あの事故の時に泣かなかったお前がなぁ?
   どうだい?お前も我慢していたのだろう?こんな一人で生きれそうにない男をずっと自責の念で世話してきてなー?
   感謝されるどころか、憎悪の念しかないって気付かされて…くふふふ。
   混乱と困惑で頭がおかしくなってしまったのかな?

A  …違うよ

B  じゃあなんだ?あ!そうか嬉しくて笑い泣きしているんだな!はははははは!

A  ただ…ただすごく悲しいだけだよ。私が全部悪いんだなって、返す言葉も見つからないから…
   本当にごめんなさい

B  じゃあ俺の目の前から消えろ

A  え

B  いや、いっそのこと死んでいいよ。てか、死ね

A  …私に…死んでほしいの?

B  もう嫌なんだよ。何もかも

A  そう

B  全て消えてしまえ、何も見たくない

A  そっか…分かった。
   っ…じゃあ最後に…そうだ、お話の続き読むね。中途半端だと気になるでしょ?
   お姫様と王子が一緒に暮らして、何年たったのでしょうか。
   お姫様は気付いてしまいました。王子が自分のものではないということを。
   自分が縛り付けていることによって王子の自由を奪ってしまっている。そう感じたお姫様は…どうしたと思う?

B  それでも、そばを離れることができずに何も変えることができないままいつも通り日々を過ごすんだろ。
   …結局自分の幸せしか見えてないんだ、姫様っていう女は

A  そっか…そうなのかもね

B  …で?最後はどうなったんだ

A  へへ、実はこのつづきはないんだ。これで…おしまい

B  そうか

A  もう視線を合わせてもくれないのね

B  …

A  私には…何もできないのね。私のせいで…長い間苦しませてしまってごめんね。
   元は私のわがままでこうなっただけだもの

B  …

A  もう一つだけ最後にわがまま言っていい?

B  …何だ

A  手、握っていい?

B  …好きにしろ

A  ありがと。はぁ…やっぱり温かいなぁ…貴方の手。私とは大違いだ…ふふふ。
   私、あなたと出会えてよかった。今まで本当にありがとう…さようなら





B  行ったか…ははは。これで良かったんだ、これで…
   何でだ…何でだ…。いつから俺はこうなってしまったんだ…?
   見えないあいつの笑顔が、俺の中で作り変えられてしまったのは、俺の心の弱さのせいか
   くくく…後悔してるのか、もう?ちくしょ…
   俺は…泣いているのか…ははは…皮肉なものだな。
   見えない瞳にも雫は垂れるのか……ん?…まさか…そんな。これは一体どういうことだ。眩しい…光か?
   これは俺の手だ…俺は、夢を見ているのか。何年ぶりの光なんだろう
   そうだ…あいつ、あいつに知らせなきゃ。あいつはどこに行ったんだ。
   いや俺が追い出してしまったから…でもさっき出たばかりだ、そう遠くには行ってないだろ
   あんなに冷たく当たってしまったが、これを聞いたらきっと…
   ん…?なんだ、これは。花瓶か?それにこれは…あいつの写真か。
   あれ?これは…指輪?あいつの…あれ、何だ…この胸の苦しさは…

A  あなたは私といることで変わってしまった。
   いや…私が変えてしまったのよね。私があなたと話せることが嬉しくて、ずっとここに居続けちゃって
   一緒にいることが当たり前になっていた

B  どうしてこんなに外に出ることが不安に感じるんだ?
   扉を開けるだけじゃないか、なんてことはない
   こんなに怯えてどうしたんだ。早くあいつに伝えなければ
   ……あれ、こんな場所に?なぜ?あ、ちょうどいい。すみません!このお墓はどなたのでしょうか?
   え?昨日葬式あげたばかりでしょう…って、そんな馬鹿げた冗談はよしてください
   結婚してから何年一緒に暮らしてると思ってるんですか…もういいです、不愉快だ

A  どんどん何も見えなくなっていって、盲目的になっていくあなた
   外の世界から遮断されて、私の声しか届かなくなってしまった
   最初はあなたはそれでもいいって笑ってくれたけど、その目は哀しそうに見えた

B  嘘だろ…ははは…どういうことだ?じゃああいつは…誰だったんだ?
   俺と一緒にいた、あいつは

A  私が彼を暗い闇に閉じ込めてしまった。全て私のせいだったの

B  俺が暗闇だと思っていたのは、俺自身の心の…現実を見ようとしなかった罰なのか?

A  生きて、私のいない広くて、明るい世界で

B  これは…あいつが読んでいた本か
   ん…何だ…ページ全て真っ白じゃないか…まさか…
   ふふふ…自分の幸せしか見えていないのは俺の方か…俺が…俺が全部悪いんだな

A  短い時間だったけど、新婚生活が過ごせて、私はすごく嬉しかった
   欲を言えばもっと一緒にいたかった…でも解放してあげなきゃね

B  どうしてあんなことを俺は…もっと、話すべきことは、伝えるべきことは山ほどあったのに
   …死んでしまった後まで、俺のそばにいてくれようとしたのに!
   死んだ奴に、俺は二度までも死ねと言ってしまった…何という愚かな言葉を吐いてしまったんだ
   どこだ!どこにいるんだ!!まだいるんだろう。聞こえるんだろう!!

A  私の声はもう届かない。私はもうここには、いない

B  俺が壊れてしまってもいい。いっそ心ごと全てお前に…そっちへ俺も、連れて行ってほしい
   頼む…頼むから!!…お願いだ…もう一度だけでいいから

A  …

B  ………王子は…姫が帰ってくるのを待ち続けます
   全部今までの話は…この世界は、悪い夢だったのでしょう…そう全て、全てが悪い夢なんだ
   いたんだよ、確かにいたんだ…さっきまで側に、俺の…手を握って
   あいつの、あいつの手の温もりだけしか…
   見えない…そう!俺は何も見えない…そしたらあいつが俺の手を引いて…そして……そして
   俺は………信じない



     
 
           
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