題名  公開日   人数(男:女)  時間  こんな話  作者
 ガラスの靴は、もうはかない【後編】 2015/04/22 6(3:3) 90分 自分の道を切り開くために、運命に立ち向かうの  りり~

A 美里(ミサト)  : 女
B 和也(カズヤ)  : 男
C 沙絵(サエ)    : 女
D 芳照(ヨシテル) : 男
E 雪(ユキ)     : 女
F 健斗(ケント)  : 男


※読み方
剣は、「けん」でお願いします。
皆は、「みんな」でお願いします。



「ガラスの靴は、もうはかない」【後編】


A   …

E   …ん

A   …あっ… ごめんなさい、痛かった?雪さん

E   あ、痛かったわけじゃないですよ。
    あの… 私の髪、くせあるしときづらいのに… それなのにこんな風に手伝ってもらっちゃったりなんかして。
    …申し訳ないなーって思っちゃって

A   大丈夫ですよ。慣れてますから

E   美里さんってもしかして、美容師さん?

A   ふふふ… 違いますよ。ちょっと…昔に、髪を結うことをよくしてた時期があって…、だから、こういうの得意なんですよ

E   ふーん… ちなみに、今日のヘアセットは?

A   もちろん自分で。後、沙絵のも、私がしてあげたんですよ

E   沙絵のも?! 全然分かりませんでしたよ! もうプロとほぼ変わりないじゃないですか!
    すごいなー… 器用だしセンスあるし…

A   そんなことないです。それに、へアセットはね… 案外コツさえ掴んでしまえば、簡単なものなんですよ

E   そうなんですか? あ、そういえば… 美里さんって兄弟とかっています?

A   …どうして?

E   ほら? 妹とかいたら、髪いじり合いしたりするでしょ?
    そういうのうらやましいなーって昔思ったことがあったんです
    私一人っ子で、両親も早くに亡くしちゃったので、ないものねだりなんですけど…。
    美里さんみたいな人がお姉ちゃんだったらいいのになって、考えちゃいました

A   …私みたいなのは、姉… 失格よ

E   え? 何か言いました?

A   …いえ。私も、雪さんみたいな、美しい妹なら歓迎よ?

E   そんな!! 美しいなんて言葉は、美里さん、鏡に映る自分の姿を見てから言って下さい!

A   口がお上手ね

E   和也も『美里に彼氏がいないのは不思議だ』っていつも言ってました。
    美人美人って言いまくるので、私美里さんに嫉妬したこともあったんですよ!

A   和也くんが… そんなことを…?

E   『美人で賢くて性格も良い! 唯一自慢の友達だ!』って何度聞かされたことか、ほんと

A   …友達

E   …? 美里さん?

A   あ、いえ。……髪、このくらいの高さで良い?

E   はい。お願いします。

A   …後少しで終わるので、もうちょっと我慢してくださいね

E   はい

A   ……雪さん

E   どうしました?

A   ……和也と結婚して、幸せ?

E   …はい。もちろん幸せです

A   ……そう

E   あの

A   ん?

E   さっき、美里さん、『和也』って…言いましたよね?

A   …そんなこと言いましたかね?

E   それ、和也に言ってあげて下さい

A   え?

E   和也ね。いつも言ってたんです。
    『美里はいっつも俺にだけ距離を取ってる感じがするんだよなぁ』って。
    なんかね、寂しがってたみたいですよ?

A   寂しがってるって? どうして…?

E   ほら、沙絵さんと芳照さんは呼び捨てで呼ぶのに、和也だけ『くん』付けじゃないですか

A   あ

E   さっき呼び捨てしてたから… きっと和也、それ聞いたら喜ぶと思いますよ

A   そうなんですかね…。
    そんな… そんな小さなことで… 喜んでくれるなら… こんな事になる前に、私もいっぱい呼びたかった…

E   え?

B   雪ー? 美里ー? 終わったかー? 入るぞー。
    お、さっすが美里! ヘアセットばっちり終わってる

A   え? あぁ… ちょうど終わったところですよ

E   さすが美里さん。和也の言ってた通り、サササってこなしちゃったよ
    本当にありがとうございます

B   ありがとな。美里

A   いえ、お役に立てて何よりです… 和也………、くん

E   …惜しい!

B   え? 何惜しいって?

A   ……

E   ふふふ、こっちの話-

B   何だよ、聞かせろよ?

E   内緒!

B   えー? 気になるなー…

E   ふふふ

A   ……。あの… 先に、私、皆の所戻りますね

B   あ、美里。ついでに、まだ会場の人にお礼とか時間掛かるから、皆に遅くなるって言っておいてくれるかな?

E   あ! 後、終わってから、皆で写真撮るから、健斗にも帰らないようにと伝えておいてくれますか?

A   分かりました。まだ… 12時まで… 時間はありますね…。では、また後で

B   …しっかし、ほんとプロだよな。素人がやったって絶対分からないよ、これ。
    美里、こっち方面の仕事につけばいいのに… もったいないよなぁ

E   …

B   …あれ? …どうかした?雪

E   ………ねぇ? 和也、12時までまだまだ… 時間あるよね? 何かあるの? 二次会?

B   いや、ないよ? どうして?

E   なんか… 美里さんの… さっきね? 言ってたことがちょっと引っかかって… 12時に何かあるのかなって…

B   え? そうかな? 俺は何にも感じなかったよ?

E   うーん… そっか。じゃあ、私の考えすぎかな

B   それに、夜の12時の鐘が鳴ったら、明日になるだろ?
    そして、……雪が20歳の誕生日を迎えて… ようやく、俺達は夫婦になる

E   そうね。それで、美里さん… そのことを気にしてくれて、言ってたのかな…?

B   きっとそうだよ。明日は、俺たち二人にとっての門出の日になるし。
    ほら、籍、入れるしさ… 美里のことだし、色々時間遅くならないように、とか考えてくれてるのかもな

E   うーん… そうなの… かな?
    でも、…なんでだろ? さっきの美里さんの言葉聞いた時にね? …なぜか… 胸がざわついて… 不安になったんだ

B   え? ……大丈夫? 体調でも悪くなった?

E   ……あ、気にしないで! 体調は全然問題ないから!
    じゃあ、お礼まわりの方、パパっと終わらせて、皆と早く合流するためにも…行きましょっか!

B   …ん?? うん… って!! そんなに慌ててこけないようになー!
    …ほんとどうしたんだか、全く。…時間はまだまだあるっていうのに… 何をそんなに焦ってんだか…


***


F   あの日、20歳の誕生日を向かえることなく、雪は自ら命を絶った。
    …そうして、世界は幕を閉じた様に、真っ暗闇に染まったんだ

C   まるで、絵本の中の世界みたいな話ね。
    王子様に、お姫様!
    私がお姫様じゃない所は、残念だけど、皆それぞれキャラが振られてるのね

D   王子が、お前… 健斗で?
    姫が、雪さんで… 和也は、召使みたいなもんで、俺もそれで…。
    沙絵は、娼婦ってとこか?

C   違うわよ!
    私は『雪』の友達!

D   あれ? 美里は、何だっけ?

F   僕の姉だ

C   王子の姉ってことは…… 権力ありそーだなー

D   今のイメージでは、あいつの性格、ふわふわした感じなのに、意外だな?

C   人は変わるってことだね!

D   で?俺達が… えーっと…。
    …記憶はねーけど… 昔から知り合いだったっていうこと?

C   …確かに… こんなにイケメンな健斗くんが、実際に王子様なら、私アタックしちゃいそうだなー

D   え…? まさか信じてんのお前?
    こんなおとぎ話みたいな話

C   ここは、オトギ町って名前だし… なんかそれっぽいじゃん?
    正直、全然、実感も信憑性もないけど… 信じない理由もないかなって感じ?

D   ほんと… お気楽な頭してんのな、お前

F   信じてくれといっても、難しいことは十分承知の上だ

C   じゃあ、健斗くんは、雪を強奪しちゃうの?
    わー! 本当に、お姫様はさらわれてしまうのね

D   花嫁、さらってどうすんだよ?
    今は、王子とか関係ないんだから、昔のことなんか忘れて、普通に生きればいいじゃん

F   普通になんか… 生きられるものか。こうしている間にも、時間が迫っている

C   じゃあ… 私は昔と同じように。
    健斗くんに『雪のところなんかに行かないで!』とか言って、抵抗すればいいのかな?

D   …お前なー

C   嘘々ー、過去の気持ちなんて何にも残ってないし。
    それに、気持ちなんてすぐに移り変わるもんでしょ?

F   …僕は、そんな風には考えれない

C   頭、固いんじゃない?
    そんなんじゃ嫌われるわよ?

F   僕が何もしなくても、姫は… いや雪は。
    いつも20歳になる誕生日の前の晩に…事故で亡くなってしまうんだ

D   マジかよ?
    …冗談話も大概にしてくれよ

C   死んじゃうってこと?! まさか…

F   亡くなった後は、世界は真っ暗になって、その後は…。
    僕も、はっきりとは覚えていない

D   そんな… 悪夢みたいな話、信じられるわけねーだろ?

F   …もう僕にも分からないんだ。
    どうすれば、雪と… 幸せになれるのか…… 分からない

C   それで… 私達に助けを求めてきたってこと?

F   …こんなにも、皆がそろっていて、幸せそうな世界は初めてなんだ。
    いつも皆は、世界のどこかにはいたのだけれど、こうやって… 同じ世代の、同じ空間で出会えることなんてなかった。
    …だから、この世界は壊したくないんだ

D   そんなこといっても…。
    今日お前と初めて会って、そんな… 非現実的な話、信じられるかってんだよ…。
    いこーぜ? 沙絵

C   え! でも…

D   …何だよ?
    まさか、こいつのこと、好きなの思い出したのか?

C   !!
    違うわよ! …ってまさか。
    …芳照、妬いてんの?

D   ばっか! んな訳ねーだろ

C   …ははは、照れるなってー

F   二人共、変わらないな。
    昔も、お互い口げんかしつつも、何だかんだ… 仲は良かったからな

D   …過去を懐かしむのは勝手だが…。
    残念ながら、今の俺は、お前の知ってる家来でもないから、助ける義理なんてない

C   芳照!

F   …そうか……。
    そうだな。
    …………無理言って、すまなかった

D   …ただ

F   ?

D   俺の… 大切な、親友の未来がピンチっていうなら… 話は別だ。
    なんかよくわかんねー… その呪いみたいなの、どーすれば解けんのかわかんねーけど…。
    俺ができることは、何でもする

F   芳照……… 感謝する

D   って、おいおい!
    そう、跪くとか、その… やめてくれよ!
    今はな? お前の住んでいた時代とは違うんだ!だからな? おい… 少しは周りの目を気にしてくれ!

F   …ありがとう

D   っ!! わかったから、顔上げてくれ!

C   ふふふーん。
    良かったわね! 仲直りできてー…って! っ!! 痛いー!やめてよ!

D   さっきの仕返しー。
    そのにたにたした顔のほっぺたを、無性につねりたくなっただけだ。
    悪く思うな

C   なによそれー、もうー

D   とにかく… 助ける方法が、見つかってないんだよな。
    しかも最悪なことに、雪さんの誕生日に合わせての結婚式だから…。
    その話が本当なら… 後、数時間で終わりだな

C   うーん、昔話みたいに『お姫様と王子は二人で幸せに暮らしましたとさ』っていう状態になれば、
    きっと、呪いなんて、ぜーんぶ消えちゃうんじゃないかな!

D   そんな方法、あるのか?

C   ……雪と健斗くんが、付き合えばいいんじゃないの?

D   おいおい、お前まじめに考えてるんだろうな?

C   何よ! あんた家来なんだから、早くいい案を出しなさいよ

A   ふふふ。
    …ほんとにお二人は仲良しですね

D   !! って美里? いつからそこに

A   すこし前から… かしらね?
    随分大きな声で騒いでらっしゃいましたし…。
    芳照が沙絵のほっぺをつねったりしてなんだか楽しそうでしたね?
    でも… 皆さん何やら難しそうな表情している時もありましたし、…なかなか言い出せなくって

C   そうだったんだ…。あっ… 雪は?

A   着替えも済んで、和也くんと一緒に最後の挨拶まわりに行くみたいでしたよ?
    後で合流して、写真を、皆と撮りたいから、待っててって言ってました

D   そっか…… 当人達に話して、相談するべきなのか… 迷うな。
    自分が死ぬかもしれないって知ったら、雪さんだって驚くだろうし…。
    和也はどうすればいいのかって言って、悩みまくりそうだし。
    …第一、本当に起きることとは、俺はまだ… 信じられないし

C   信じるって決めたんでしょ! もー、ぐだぐだ悩まないの!

D   んー… とりあえず、まだ時間は… 大丈夫だな。
    あー… あいつら二人だけにしておくの… 不安になってきた。
    もう、事故ってないだろうな?

C   本当に心配症だねー。
    雪と和也だけで荷物をまとめるの大変だろうし、一旦部屋へ戻ろっか?

D   …そうだな。
    お前らは、どうする?

A   私は、ここで待ってます。
    『健斗』にちょっと聞きたいこともありますし

C   そう? じゃあ美里、健斗くんの見張り、よろしく!

D   じゃあ、また後でな!

A   はい、いってらっしゃい

F   …………見張りって。
    ……本当に信用されていないな。僕は

A   …そりゃ、まだ会って少ししか経ってないでしょ?
    これでも、彼らは短時間で気を許している方じゃない?
    …………さすが… これが、絆というものなのかしらね

F   …その口調? さっきと全然

A   違う? そりゃ、猫被ってたからね。
    時代と、年齢相応の反応をしないと、この世界に馴染めないから、これまでそうしていただけよ

F   ……。それで… 美里さんは、僕に、何を聞きたいんだ

A   美里さんって… なーに?
    そ・こ・は… 『姉上』って言うところでしょ?
    忘れちゃったの? ふふふ

F   やはり… さっきの話を聞いていたんですね。
    でも、そういう風に、低俗で趣味が悪いなりふりは、できればやめていただきたい

A   なりふり、ね…?
    ……そういえば… お父様とお母様があの日、隣国へ行こうとしたわよね?
    あんなことをしようとしなければ、死ぬことはなかったのに…運がない人達だこと

F   …何?

A   私のお相手を出迎えにいくーとかで?
    お父様が国同士の協定を結んで、政略結婚の駒にされそうになってた私。
    …結局、そのお相手の顔も見ることはなかったけどね

F   まさか…

A   まさか、自分以外の人間が覚えているなんて、って思ったでしょ?

F   …

A   仮にも、元姉さんに向かって、その目は良くないと思うわよ。
    まあ、今は血も繋がっていないから関係ないけどね

F   …どこまで、覚えているんだ

A   どこまで… って?全部よ

F   …馬鹿な

A   ……まだ疑っているようね。
    …じゃあ、これを見ても…… 同じ考えでいられるかしらね?

F   …!! それは… っ…… その剣は…!!

A   あなたが探していたものでしょ?
    鞘を失くしたせいで、この様に雑多な布地に巻かれてはいるけれど…ほら、確かめてみて?

F   !! …これは… オトギノ国の紋章…

A   これで、信じてもらえたかしら?
    …あなたが雪に出会って、亡くなる所に直面し、気がおかしくなって、自暴自棄になっているところを私は何度も見てきた

F   …さっき、芳照たちに話していたのを… 盗み聞きしてたから…。
    話を合わせようとしてるだけなんだろっ…?

A   そう思うなら、そう思いなさいな。
    …私は、どっちだって構わないんだから

F   …なぜ、今まで隠していた

A   隠すも何も… 最初は皆覚えてたじゃない?
    少し話せば、過去と現在を結びつけることは、容易くできていたのに。
    だんだんと… その作業をしなくなったのは、あなたの方でしょ?

F   それは…

A   何度も… 雪を失うのが、怖くなったの?

F   結局、何度やっても同じだった。
    雪が僕の方に来ることは、一度たりともなかったよ。
    …何も、変えることはできなかった

A   あなた、雪のこと好きなの?

F   何をいまさら…

A   本当に?

F   …何が言いたい

A   あなたの口から、雪を好きという言葉、聞いたことないんだもの

F   え…

A   健斗にとって、雪は… どういう存在なの?

F   姫だから… 大切にしなければいけない存在だ

A   そーじゃなくて…

F   なんだごちゃごちゃと… はっきり言ってくれ

A   ……姫だから、じゃなくて…。
    ………雪じゃなきゃいけない理由、全くないのね

F   !!
    …それは…

A   あなたは、王子という枠組におさまったまま… 全く変わらない。
    何にも分かってない。
    そんなんじゃ何も変われないし、無駄ね

F   貴様…

A   何?
    今度は、私を殺すの?

F   !!

A   自分の思い通りにならないからって、好きな人を殺すのは、愛なのかしら?
    私には、ただの狂った殺人鬼にしか見えないわね

F   違う

A   ……和也に嫉妬して、何回その手を汚したのかしら?
    もう、昔のこと過ぎて、覚えてないかな?

F   …全て、見てきたのか… 本当に

A   さっき言ったでしょ……… 全部よ

F   ………どうして、今更言う気になったんだ

A   ……私の責任でもあるから、かな

F   ? どういう意味だ

A   私は… 健斗が雪と結ばれればいいと思っていた。
    そうすれば、私はきっと、幸せになれるって考えていたからね。
    雪がいなくなれば、和也くんは私の方に向いてくれる。
    私が… 物語の主人公になれるって

F   物語の主人公…?

A   あなたに与えられたのは、王子。物語の中枢を担う大事な役割。
    一方私は、王子の姉。完全に、サブキャラ。
    王子の幸せを願う姉… なんてつつましい姿。
    でも…… それでおしまい。用無し

F   あなたがその気になれば、和也と婚姻関係を持つことは、可能だったのではないのですか?
    …王族の命令は絶対的なもので、拒否する権利はないはず…

A   それじゃ… 意味がないのよ。
    和也くんが雪への想いを持ったままでは… 私は幸せにはなれない。
    実際… 和也くんの雪へ気持ちは、時が何度巡っても、色褪せることはなかったわ

F   …それなのに、僕が、二人を真正面から見ようともせず…。
    むしろ自分の欲望のために、仲を引き裂こうとして…。
    この負の連鎖の世界が、何度も繰り返すことになってしまった

A   あなただって、雪のことを好きだったのでしょう?
    …いつも和也、芳照、雪たちを見てたじゃない?
    私は、その手助けをしてあげようとしただけよ?

F   それは… 見ていたのは、確かだけど

A   それを、利用できなかったのはあなたでしょ?




D)  お前は、俺達をどうしたかったんだ?
    関係を壊したかっただけなのか?

B)  姫を好きだと、王子は言った。
    王子なら、僕以上に雪を幸せにしてくれる…だから僕は、このままでいいと。
    僕は二人をお守りするだけで幸せだと。
    そう思う様にしたのに…

E)  私は、王子が好きだった。
    でも… それは友達として好きというだけで、親同士の約束で婚姻を結んでいるなんて、想像もしていなかった。
    だから、突然王様達が亡くなって、私が、そんな位が高い立場にいくことは、美里さんの口から聞いても、理解できなかった

B)  姫になっても、雪は、雪のままだった。
    何も変わりなく接っせられて…… 僕は正直、どうすれば良いか戸惑った

E)  私にとって、幼い頃からの王子… それは健斗じゃない。和也だった。
    いつも暖かい視線で見守って、支えてくれていたのは、和也だった

D)  姫から、和也のことを相談しにきた時は、やめとけと言った。
    和也の人生をめちゃくちゃにする気かって言って、説得しようとした。
    …でも、あのお転婆姫は、自分の気持ちを曲げようとはしなかったんだよ

C)  雪は和也、健斗に愛されて、芳照にも心配されていて…。
    それなのに… あの満足してなさげな、憂いを帯びた表情をなさる。
    私は、あんなにも満ち足りている状況に、尚満足しきっていないあの子の態度が、どうしても許せなかった。
    皆の気持ちを引き寄せるだけ引き寄せて、前に進もうとするあの野心。
    大嫌いなのに… なぜか彼女の生き方に惹かれてしまっている自分が居て…。
    自分に一切嘘をつかない、真っ直ぐな雪に、届かない夢を追いかける。
    その姿に… 本当は… 憧れていた。
    だから… 二人には、何としてでも、幸せでいてほしかった

E)  私は自分に嘘をつきたくないだけ。
    心から一緒にいたいと願う人がいるなら、それを為すべきでしょう?
    だから私は、迷わない

B)  雪のまっすぐな気持ちが僕に突き刺さり、隠してた想いは、すぐ露わになってしまい…とても幸せで、嬉しくて…。
    …でも同時に、王子に対する反逆行為をしているのだという、自分への畏怖の念が生まれて…
    首を締め付けられる様な、息苦しさを感じた

D)  二人の想いを公にだせば、自分の身を滅ぼすということは、本人達も十分、分かっていた。
    俺としては、二人を引き裂いてでも、やめてほしかったさ。
    …でも無理だった

E)  私は、姫なんかじゃない。
    ただの一人の人間として、自分の道を切り開くために、運命に立ち向かうの

B)  王子…? いや…健斗… 聞いてほしい。
    僕は… 雪を、一人の女性として、愛しているんだ…




F   ………知ってたさ… それくらい

A   え?

F   三人共… 太陽みたいに眩しくて… そんな三人が、僕のことを、友と呼んでくれて、すごく嬉しかった。
    …でも、僕が王子だから、優しくしてくれているだけなんだろ?
    ……こんな役割いらないのに…望んで生まれてきた訳じゃないのに。
    雪が、和也に対して特別な感情を抱いていたのは分かっていた。
    でも…… だからこそ、雪を奪ってやりたいって思ったんだよ

A   …どうして?

F   壊してやりたかったっ!
    …偽物の友情ごっこに、嫌気がさしたんだ。
    今までの僕が… どうかしてたんだ。おかしいってことに気づいてなかったんだ…。
    姫って何だよ…? 王子って何だよ?
    それが当たり前だったんだ…。それで世界が回ってたんだっ!!
    それなのに… この感情、どうすればいいんだよ? 醜い感情が、心の底からどんどん湧き上がってくる…。
    こんな事、絶対考えなかったのに… どんどん、どんどん僕が… 僕でなくなってしまうみたいに…。
    苦しい……辛い…。
    でも、止まらないんだっ… 止められないんだっ!!!
    だから… どうせ壊すなら、皆ずたずたに引き裂いてやろうと思ってね。
    父上達には悪いけど… 良い機会をありがとう… と感謝したいくらいだよ!

A   あなた…… そこまで歪んでしまっていたの…

F   和也と結ばれないとなると、その身を投げてでも、僕と結ばれようとしない雪には…ほんと憎しみと愛しさが入り混じって…。
    時に、殺意を抱くこともあって…。
    いつだって雪は、和也のことしか見てなくて…!
    僕は… 僕はっ!!

A   健斗…

F   どうして、こんなことになってしまったんだろう…?
    …僕は、王子のまま普通に一生を終えたかった。
    たとえ、姫が他の男に気持ちを奪われようとも…。
    姫の幸せが、自分の幸せと感じれる様な心を持ち合わせていたはずの僕はっ…。
    …どこへ、置いていってしまったんだろうか?
    ………僕は… もう、王子なんかじゃない… ただの悪魔だ!!

A   ……

F   ……

A   ………悪魔は……私よ

F   …

A   ごめんね、健斗。
    辛い思いばかりさせて…私が、あなたに…とんでもないことを、してしまったばかりに…

F   どうして… 姉上が泣くの?

A   ………私が… 父上達を殺したの。
    父上達の命と… 誓いの剣を使って、私達が記憶を受け継ぐ呪いを紡いだの

F   ………姉上が… 殺した…?そんな馬鹿げた… 話っ…。
    誓いの剣で… そのような私欲にまみれた… 行為を… まさか、そんな…

A   あなたにとって良策…。
    そして、うまくいけば私にとっても喜ばしい結果となる。
    何度も自分の理想に近づくチャンスが生まれるって思った。
    そんな風な… 気軽な気持ちで、私は皆に呪いをかけたの。
    私は… 幸せになりたかった。世界の理なんて壊したかった!
    誰かが誰かを好きになって、一緒になれる…そんな自然な世界を望んで…頑張っていたのに!!
    …でも。そう、うまく事は進まなかった。
    …もし、父上と母上が私を嫁がせようとしなければ、話は変わったかもしれないのにね…。
    私は自分の欲望のままに、誓いの剣に手を出してしまった。
    父上と母上の命を使って、聖なる剣に悪しき願いを祈り… 儀式を行ってしまった。
    全て私が悪いの

F   姉さん…

A   ずっと、真実を話すことができなくて、ごめんなさい。
    あなたが、もがきつつも… 必死に、この世界を変えようとしている様を見ることさえ、私は苦痛になっていたこともあった。
    記憶を引き継いでも、結局…私は何も変えることができなかった。
    皆に、より苦しい思いを味あわせることになってしまって… 責め立てられることも何度もあったわ。
    自由が… こんなにも思い通りにうまくいかなくって、窮屈に感じるとも考えていなかった。
    何も分かっていなかったのは、私だけだったみたい。
    無力感と後悔の念が、私の中に色濃く、重く、広がっていて…。
    もう現実を直視するのが怖くて、目をそらしてばかりだった。…本当に、ごめんなさい



D   あれ… 美里、どうしたん…

F   ……姉さん。この呪いを解く方法は、ないの?

D   …(美里が、姉… さん?どういうことだ?)

A   それは…

F   あるなら、教えてくれ。
    もう… 雪が亡くなるのは、見たくないんだ。
    …何か、あるんだろ?

A   ……この世の王子は、本来は健斗一人だけのはずだった。
    …姫は王子を愛する存在。姫が愛する存在は王子となる。
    それなのに、雪は異なる行動を取った。和也を愛してしまった… 世界全体に歪みを生むきっかけを作った。
    物語の中で、同じ世界に… 王子は二人存在してはいけない。
    だから…

F   もう一人の王子を…

A   そう。
    和也を殺せば、この呪いはなくなる。
    王子と姫は、一対でバランスを保っている。物語の平衡を元に戻すことができる

F   …和也がいなくなっても、影響は出ないのか?

A   王子と姫さえいれば、何も問題はないわ

F   …姫とか、王子とか…。
    そんな… 役割というものが重要で… 世界を動かす主軸だとは… 未だに想像もできないよ

A   私達は、閉ざされた世界の中で生まれて、決まった役割を果たす人形みたいなものだったのよ。
    …でも、自我が芽生えてしまった
    一度目が覚めてしまったら… もう人形では、いられないもの…

F   …和也を失うことになってもいいのか?

A   …私に振り向かないなら…。
    …消えてもらって結構よ。清々するわ

F   好きだったんじゃ、なかったのか?

A   ………もう終わりでいいかなって思ってるの。
    今日の結婚式で、二人の幸せそうな所を間近で見て… ようやくあきらめがついたわ

F   …人の人生めちゃくちゃにしておいて吐ける台詞じゃないな

A   お互い様でしょ?
    …とにかく、もう… 疲れちゃったのよ…。
    別の身体で、別の生き方をそろそろ進みたいの。
    だから…… 和也を殺して

F   ……和也を殺したら、雪は… 後を追うぞ?必ず

A   そうかもね… でも、その時は、その時

F   姫が… せめて生きてくれれば…

A   和也が死んで、呪いが消えても… 皆大騒ぎでしょうね

F   ……雪が死ぬ時、宙に消えるようにいつもいなくなるが… 和也の場合もそうなるのか?

A   私たちは、物語のピースに過ぎないだろうから、そうなる可能性が高いわ。
    ピースを本来あった場所に、きちんとした位置に戻して…
    王子と姫が幸せに暮らしましたとさ、ってエンディングをしめくくれる様な物語にすれば、こんな負の連鎖はなくなる
    和也には悪いけど… 私たちも、きちんと人生の終末を迎えることができるようになるわけね

F   そうか…

A   チャンスは… 皆で写真撮影後、背後から狙いなさい。
    …この剣、あなたにプレゼントするわ

F   こんな物…

A   どうせ時間までに、王子が一人にならないと… 雪は、また死ぬわよ

F   でも!! 今回の世界は…いつもより穏やかで、雪も幸せそうにしている。
    …何も危険がないように見える。
    ……それなのに… 壊さなければいけないのか?!

A   あなた、幸せになりたいんでしょ?

F   皆、温かくて… 同世代の友達同士、二人の幸せを願ってる。
    …この世界では、僕は異物だ

A   異物だと感じている貴方が、この物語の主人公だなんて…。
    馬鹿げた話ね… ほんと

F   …姉上は…… 和也がいなくなっても…悲しくないのか?

A   …悲しいに決まってるわよ!!
    …っ… でも、どうしようも… ないのよ…

F   …

A   もう疲れちゃった… こんな記憶がなければ、二人の式を純粋に祝えたのになあ。
    全部… 消えればいいのに… 皆みたいに忘れてしまえれば、楽になるのに。
    私が… 世界の理を壊そうとしたから… 私が、あんなことをしなければ…

F   過去を悔やんでも仕方がない。
    …だから…… だから…

A   …健、斗?

F   一つの世界に、王子は二人存在してはいけない。
    だから… 終わらせる

D   …何を終わらせるんだ?

F   芳照…

A   …

D   つい話、立ち聞きしちゃったんだけど…王子と姫って、童話の話だろ?
    …お前、そんな話、本気で信じるのかよ

F   どこから…聞いてたんだ?

D   呪いを解く方法が何とか? って所から…盗み聞きした感じになっちまったけど… そのナイフ… 何に使うんだよ

F   これは…

A   …盗み聞きしていたなら、分かってるんでしょ?

D   おーおーまるで、別人だな? 美里様って感じ。…そのキャラ、受けわるいからやめておいた方がいいぜ?

A   おあいにくさま。こっちが、本当のあたしなの

D   これがお前の姉貴で、全部覚えてて? …そんで、この世界を壊そうとしてるってか?
    というか… 勝手に嫉妬して、自分の方を振り向かなきゃ殺すとか… どんだけ自分勝手なんだよ

A   それを言うなら、このオトギノ国を作った神様にでも言ってよ

D   オトギノ国?
    オトギ町の間違いだろ?

F   オトギノ国は、平和を約束された世界。
    皆に役割が決まっていて、その通りに生きれば、皆が幸せに死ねる

D   …?
    どっかの頭いかれた連中か?

A   ある意味、頭がおかしいのかもね。
    同じ人間が、毎回同じ顔して、同じ様に生まれてくるんだからね

D   …どういうことだ?

A   私は、王子の姉。何回生まれ変わっても、私は、この役割から抜けることはできなかった。
    抜け出そうとも考えなかったんだけど… ある日、少しずつだけど…何か違和感を、感じる様になったのよ

D   そのまま幸せに暮らしておけばいいのによー。
    今じゃ、就職とか将来とかいちいち考えて。
    めんどくさいことばっかだから… 俺はオトギノ国の方がうらやましく見えるぜ

A   それが、自由ってことよ。
    私が、世界の理を壊したんだから、ありがたく思ってほしいくらいなのに、贅沢な悩みね

D   はぁー… その世界の理を壊した美里さんが、一人の男に酔狂した結果… 『雪』がよくわからない理由で毎回死ぬんだろ?
    なんか… 少しだけ、その片鱗が見えていた様な…。
    そーいや、和也との仲を取り持つように頼まれたことがあったな。
    結局悪天候で合コンお流れになったけど

A   …姫である雪は、本来王子である健斗を愛さずに、実際は結ばれるはずのない和也と結ばれる。
    …理を侵しているのに…。
    自由を作ったのは、この私なのよ?
    本当は、私がその役割を担うはず、だったのに…

D   そんなの負け犬の戯言だな。
    自由な世界で、美里は戦いに負けたんだよ。
    …っつかよー? 役割が嫌で、そのかたっくるしい世界壊したのに…何言ってやがんだ?
    …役割なんてねーんだよ。
    雪より魅力がなかった。女として負けただけだ

A   ふー…。
    …ただのサブキャラの芳照くんに、こんなに馬鹿にされる日がくるとは、思いもしなかったわ?

D   お褒めに頂き、光栄。
    …あーあ、こんな性悪女、合コン誘わなくって正解だったわ。
    俺の勘、超冴えてるー

A   は…?

D   …世界を変えたからって、いい気になるなよ?
    お前が、皆の意思を解放したからって、誰もお前の望み通りに動きやしないぜ?

A   貴様…

D   鬼の形相。
    そうやって… そのまんま自然体で接したら良かったのに、なんで猫かぶっちゃったのかねー。
    最初から、胡散くさかったよ、お前は

A   何を…。
    お前…お前に、お前なんかに…私の何が分かる!

F   芳照… 言葉が過ぎるぞ

D   美里! 美里は… お前は、和也に告白したのか?

A   は…?

D   一度だって、したって噂聞いたことないぞ?
    色んな人が美里に告白して、めちゃくちゃ言われて断られたって聞いて…。
    振られてくやしくて軽い嫌がらせで、そんなこと言う奴らもいるかなって思ってたんだけど…。
    今日で事実だって、ようやく分かったわ

A   和也以外… 興味なんてなかった

D   でも… しなかったんだろ?

F   …そうなのか?

A   ……事実だわ。私は一度も伝えたことない

D   待っていれば、いつか王子様は振り向いてくれるはず…なんて、思ってたのか?
    そんな単純な行為をすっ飛ばして、お前は自分がずっと好きだった奴を、弟に殺せって言ってる!
    全部他人にまかせて、押し付けて、超お姫様気分でな!

A   私は…

D   お前らの国の約束事なんて、よくわからねー、俺は、和也と雪は理なんて関係なしに、幸せになってほしいって思うから…。
    お前らが、和也を殺すって言うなら、俺は全力で阻止する。雪が死ぬなんて、信じない。
    そんな同じ人間が何度も生まれ変わって、又時を巡るなんて有り得ないね!
    …俺は…、俺はあの二人を守るだけだ

F   芳照…

A   ……こんな奴と話しても、話にならないわ。
    雪が死んで、世界が終わる事実を知っているのは…覚えているのは私たち姉弟だけよ。
    ……無駄な時間を過ごしただけだったみたいね

D   無駄なこの世だって、本気で思ってんなら…… 本気でそう思ってんならさ?
    …一回くらい告ってみろよ?

A   !! 馬鹿みたいなこと言わないで!!

D   馬鹿げたこと… なんだろ?
    どうせ、雪が死んだら、この世が終わって、お前ら以外忘れるんなら…?
    ばーんと一発挑んで散ってこいよ、案外スッキリするかもよ?

A   ほんと… いつの世に生まれても軽薄な男ね

D   俺はぜーんぜん、こんな性悪女は覚えてないだろうけど…もしな? 覚えてたら、次の世に、散った感想聞いてやるわ。
    美里。美里のその黒いとこ、別に嫌いじゃないぜ。
    毒でもいーんだよ、自分のはっきりした考えをぶつけることができる奴なんだから。
    我慢して、自分の気持ち覆い隠してうじうじしている奴なんかより、そっちの方が絶対良いんだ

A   ………バカ

D   …とりあえず、そのナイフ使う気なら、俺は止めるから。
    止めたことによって、例えこの世が終わるとしても…絶対させないからな

F   …そうか

D   あー…美里?

A   …何よ?

D   …俺も告ったことないから、もしこの世が続くようだったら…。
    この? 自由な世界を生み出してくれたという? 美里様に感謝しつつー…… お前と同じように、俺もチャレンジしてみるわ

A   な…! あんな偉そうなこと言ってて…

D   本命の前では臆病になるもんさ。
    ま、お互い健闘な。
    そんじゃ、俺は先に皆の所戻るわ。じゃーな

A   …………はぁー…。ほんとマイペースな奴、好き勝手言って…

F   皆、根本は変わってないんだよ。
    時代と風景が変わっても、魂が変わるわけじゃないからね

A   …そうね。
    …とにかく、芳照は邪魔をしてくるだろうから、隙ができるチャンス…。
    二人きりになれる時を狙うのよ

F   …本当に

A   ん?

F   変えることができるんだろうか。
    理は、剣の誓いによって壊され、この様な… 不安定で、不完全な世界になっている。
    二人の王子の存在が、世界に与える影響は大きくて…その代償が、今、姫である雪にかかっていて…。
    それで、もうひとりの王子である和也の命を消すことで、本当に… 平和になるのだろうか…?

A   私が、和也を消してもいいのだけれど…

F   無理ですよ、分かっています。
    …和也に、まだ想いが残っているあなたには、できない

A   …健斗

F   僕は… 雪を助ける方法があるなら、それを実行するだけです。
    もっと頭がいい答えが見つかれば良かったんですけどね…。
    ただの王子という役割に甘えてきた僕には、何も見つけれませんでした。
    …だから、せめてこの世は、何もせずに終わらせることは、しない様にします。
    ………待っていては、何も変わらない… ですからね



***




F   皆… 待たせてすまない

B   こちらこそ、会場の人に最後に挨拶回るのが、予想以上に時間掛かっちゃって… すみません。
    今、雪が最後に忘れ物ないかを沙絵と一緒にチェックしに行っているので、もう少しだけ待ってもらっていいですか?

F   何か… 芳照たちから聞いたか?

B   ん?何か、急がなきゃって言われて急かされた… くらいですけど?

F   そうか… ならいいんだが

B   健斗さん? 何かありましたか…? 顔色が少し悪い様に見えますよ

F   別に何もない

B   ……何かあったら、いつでも言ってください。
    僕は健斗さんのこと、まだ知らない所ばかりだけど… 助けになります

F   …見ず知らずの人間に、どうしてそんなに気をかけることができるんだ?
    …僕の素性も知らないで… 不安にはならないのか?

B   もちろん… 不安がない、といえば嘘になります。…ただ

F   …

B   雪が信頼している人だから、僕も信じようって決めたんです

F   ……馬鹿だな…

B   よく言われます

F   ………お前は、雪のことが… 好きか?

B   ……はい。
    彼女のことを愛しています。そして… これからも… 愛し続けます

F   そうか。……時を巡っても変わらぬ愛、か…

B   …なんか… こういう事言うの…… 緊張しますね!
    どうしてだろ…? 式の本番より、心臓がドキドキ激しく鳴っちゃいました、ははは…

F   まるで… 王子様の様な、立派な佇まいでしたよ

B   王子様…? ははっ、そんなの僕には不似合いな言葉ですよ。
    それは、健斗さんに向けて言うべき台詞です!

F   …ありがとう、和也

B   え…
    今… なんて…

C   お待たせー! まもなく花嫁ご帰還だよ!

D   …和也、健斗と話してたのか?!

B   ん? ああ…そうだけど?

D   じゃあ、これからどうするか一緒に考えて…

A   っその前に!

C   何! いきなりびっくりするじゃない!

A   びっくりしてもらって結構! さあ健斗、言っちゃって!

F   …写真、僕も一緒に入れてくれ

C   ほんと?!

A   ほんとにほーんと

D   マジかよ

A   私がしっかり説得しておきました… あ、お姫様いらしたのね?

E   ……本当に? 健斗?

F   ああ、一緒に撮ろう

B   ありがとうございます

C   やったね! よーし! じゃあ、どこで撮ろっか?

A   あの… 木の所がいいな

B   小学校の裏に1本だけ生えてあったやつか? まだあんのかー?

C   あるある! ここからなら、徒歩で行けるね、行ってみよ!


***

D   …あったぞー! この木でいいんだよな?

C   そーだよ! …って、あれー? まだ、花咲いていないんだ。なーんだ残念

F   これは…桜の木…

E   覚えてる? 私たちが初めて会った場所だよ

F   …もちろん。忘れるはずないよ

E   ここで、あなたから遠い昔のお伽話を聞いて、私はまるでお姫様になった気分だった。…もちろん健斗が王子様。
    健斗のキラキラした髪を見ていたら、本当にそんな感じがしてきて… すごく毎日ワクワクしてたわ。
    そしていつか…… 二人一緒に、なれるんだって思ってた

F   でも… 実際は違った

E   そうね。突然、健斗がいなくなってからの私は… 正直、寂しかったよ?

F   …

E   …でもね?
    何故だかわかんないけど… 不思議とね、自由になれた気がしたの

F   …自由… か。
    そうか…。
    ………雪は、和也のことがが好きか?

E   え… うーん… どうなんだろ。
    いつも側にいてくれて… 安心できて、一緒にいて落ち着くの

F   …そうか


A   三脚この辺りでいいかな?

B   僕が立てるよ

A   ありがとう


E   …健斗

F   どうした?

E   私のこと、桜みたいって言ったくれたよね。
    …あの時うれしかったなぁ、私自分の名前、好きじゃなかったからさ

F   きれいな名前なのにね

E   冷たそうじゃない、雪って。
    心が冷たいとかで、小さい頃からかわれて…、泣きそうになったとき…よく、この場所に来たんだ。
    そうしたら…


***


F   どうして泣いてるの?

E   !! …誰…?

F   悲しいことがあったの?

E   ……うん

F   話してみて

E   …私、冷たいって… 見てると、寒くなってくるって、言われたの

F   どうして?

E   私…雪っていう名前だから、皆を… 嫌な気分にさせちゃうみたい

F   …そんなことないよ

E   なぐさめてくれてるのね… でも… 姿も見えない相手の言葉なんて、信じられないよ

F   そんなことない

E   え? …どこから出てきたの?

F   ……いつも、君のことを見守っていたよ、雪

E   あなたは…?

F   君は、この… 花と同じだ

E   え? …桜のこと?

F   空から落ちてきて、すぐに消えてしまう…。雪は掴むと、すぐ溶けてしまう。
    一瞬の冷たさと同時に、温かさを知る。儚くて… とてもきれいだ

E   そんなこと… 言われたの、生まれて初めて…えへへ

F   良かった

E   え?

F   笑ってくれた

E   …。……どこから来たの?
    …不思議… 初めて会ったはずなのに、あなたとは会ったことがある様な、そんな気がする…

F   それは…初めてじゃないからだよ。
    僕の名前は… 健斗。
    君が何度僕を忘れても、僕はいつまでも君のことを覚えているよ。
    又会えて嬉しいよ… 雪


***


E   …本当に健斗は、不思議な人。
    いつも私を助けてくれて、私は、何も返せていないのに。
    …本当に感謝してるの

F   …僕は… 君に出会えて、本当に良かった。
    今も、笑顔なままで… 本当に、良かった

E   ありがとう… 健斗

C   …じゃー 主役の二人は中心ね。
    和也の横は芳照、雪の横は私ね!

A   じゃあ私は、雪の後ろに立とうかな。
    健斗… さんは…  和也の後ろへどうぞ

D   おいおいちょっと! …そこはだめだろ!

C   え? いきなり、何よ?

D   健斗は… んっと… そうだ、雪の後ろに行け。
    そこなら、何もできないから安全だろ

C   …どういうこと?

F   いいだろう

C   …よく分かんないけど? じゃー雪の後ろへ、どーぞ。
    美里は交代で、和也の後ろに行ってー

A   分かりました

F   あぁ… 分かった

E   健斗… 一緒に写真、写ってくれてありがとね

F   …ごめん、雪

E   …え? 健斗?

D   よしいくぞー? 皆ー?

C   ! はいはい、急いで戻ってきてー!

D   点滅しだしたぞ! 3・2・1…

B   ………撮れたかな?

E   私、チェックしてくるね

C   私も見るー!
    うわー…… 芳照、変な顔ー

D   え?! マジかよ?
    見せて見せて!


A   …健斗

F   …あぁ… 分かっているさ

B   ? どうかしましたか

F   いや… この木を見ているとね、昔を思い出すんです

B   昔?

F   桜が満開で、月が満ちていてね… 辺りはいつもより明るかった。月光に照らされて、全てが美しく見えた夜だった。
    皆から祝福されて、僕も幸せな未来を今から築いていけるって…思っていた。
    そう。今日の二人の式みたいにね…?

B   健斗さん…

F   …でもね?
    突然、そこで… 僕の大切な人が、目の前で赤に… 染まっていって…。
    何が起きたのか、分からなかった

B   …え

F   …皆が駆け寄る中、僕は呆然と立ち尽くしていたよ。…皆、泣いていた。
    次第に顔に赤みがなくなっていって、冷たくなってしまっても… できなかったんだ。
    駆け寄ることもできなかった… その肌に触れることもできなかった。
    泣くことも… 涙すらも流せなかった… 何もできなかったんだ

B   …

F   桜の花びらが舞い落ちた赤い血溜まりを見つめながら、僕はどうすべきだったのかを、何度も悔やんだ…。
    そしたら、真っ暗になって…何も見えなくなって…、気づいたら、この木の側にいたんだ。
    そして、小さな彼女が泣いていた。温かい彼女がそこにいたんだ。
    何度も… 何度だって… 彼女は… 僕に…。それなのに僕は… 自分のことばかりで…。
    そして… 今も、同じことを繰り返そうとしているだけなのかもしれない

B   え…っと… それは… あの。どういう意味で…?

F   大切な人を… これ以上悲しませたくない… 失いたくないんだ。
    ……悪く、思わないでくれ…

B   え…?! それは…? 健斗さん? 一体何を…

F   これで… おしまいだっ!!

D   …和也!!

F   …芳照

D   俺としたことが、油断する所だったぜ。…させないって、言っただろ?
    それ、しまえよ

B   それは… ナイフ?ですか?
    そんなものを、どうして…

C   …何騒いでんの? って…え? それってもしかして…さっきの、鞘の… 中身なの?
    それ… ナイフだよね? そんな危ないもの手に持って…え? この状況なんなの? よく分かんない…どうしたっていうの?

D   結局、和也殺して、お前だけ幸せになろうって決めたってことか?

C   え? ちょっと待ってよ? 芳照… どういうこと?

D   なんかさー王子様は一人じゃないといけないんだってさ?
    んで、和也を殺したら、この世界はなくならずに済むんだとさ

B   …全く話が、見えないんだが…

D   俺もさ? 全然信じたくねーんだけど…実際に健斗はお前の命を狙ってる

B   芳照… 何そんな… 笑えない冗談言ってんだよ?
    まさか… そんな事ないですよね? 健斗さんも黙ってないで何か言って下さい

A   …残念だけど、そうしてもらわないと困るの

B   美里?

A   何も知らないまま、消えて欲しかったけど。
    どうやらそれも叶わなさそうね

E   何なの? …健斗も、美里さんも… 何かおかしいよ!
    いきなり皆どうしちゃったんですか?

A   黙って!!

E   っ?!
    …美、里?

B   雪!!
    美里まで、一体何してるんだよ!

A   貴方も動かないで!! それ以上近づいたら… この子の腕、どうなってもしらないわよ?

E   …っ!!

C   やめて!!美里までなにやってんのよ! 雪、痛がってるじゃない!

A   大事な友人を傷つけたくないなら… 沙絵も黙りなさい?

C   …美里… 本気なの?

D   沙絵。美里も昔のこと覚えてたんだとよ。
    健斗と同じで、全部記憶があるんだとさ。
    全然… 一つも、ミリ単位も俺は信じられねーけど、こいつらは本気だ

B   ち、ちょっと待ってくれ! さっぱり分からないんだけど…。
    どうして、こんなことになってるのか説明してくれ…

F   雪を… 守るためだ

B   え?

A   この世界はね? 後、数時間で終わるの。
    オトギノ国… 今はオトギ町と呼ばれたこの世界には、王子が二人いてはいけない。
    本来王子だった健斗が、雪のせいで、もう一人の王子を生むことになってしまった。
    それが和也、貴方よ

B   王子…? 俺が? …う、頭が

A   少しは思い出してきた?
    早くしないと、貴方の愛しい彼女は、この世から消えてしまって、また初めからやり直しよ?

F   王子と姫の均衡を保たなければ、この連鎖は止められない

B   ちょ、ちょっと待ってくれ!
    理解が追いつかない、どういうことなんだ…芳照…!
    王子は…何を言って……っ?! えっ…??

C   今…王子って…?

D   こいつらは、お前をその剣で殺せば、この世界の変な連鎖は食い止めれるって本気で思ってる

A   何もしなくても、この雪が死んで、世界は暗闇に包まれるわ。
    …だったら、試してもいいでしょ?どうせ消えるんだから!!

B   雪が死ぬ… って?
    本当なのか?

F   20歳になると、雪は死ぬ

B   そんな…

A   王子は健斗だけなの。
    和也…? あなたが、世界の歪みを生んだのよ?

D   それはお前らが、よくわからねー呪いをかけたからなんだろ!
    自分勝手な欲望だけでな!

E   その剣… どこかで…?
    あっ…! あぁ………っ

B   雪…?

E   私、昔、健斗が何度も、私のために泣いて…。
    悲しんでいる所を、見てた。
    こんな大切なことっ… 私… どうしてっ。
    今まで……… 忘れてて、ごめんなさい

A   あなたも… ようやく思い出したのね

F   雪のせいじゃない

D   全ておかしくした原因は、こいつらだ、雪は何も気に…

E   違うの! …私も…あの時、オトギノ国で、最後に… 私、剣に願ったの。
    姫としてではなく、普通に一人の人間として… 和也と一緒に幸せになりたいって…。
    でも、それがきっと、世界の歪みを生むきっかけになったに違いないわ…。
    私のせいだわ…

F   姫が… 剣に誓いを立てていたのか?

C   雪のせいじゃないわよ!
    …誰でも、自分の幸せは願うわ!
    雪は何も悪くない!!

E   沙絵…

C   せっかく和也と雪が幸せになれる日が来たっていうのに、こんなよくわかんないことで揉めて…。
    意味わかんない…!!
    ………皆冷静になってよ?!

B   …雪は… 本当に死んでしまうのか?

D   和也…? どうした

B   俺は… 正直、過去に何があって、どうしてこうなってるのか、意味が分からないんだ。
    雪みたいに、そんな記憶…全然何も思い出せない。
    俺を殺す、って言われても、現実感がなさ過ぎて…何も実感が湧かないんだ

D   そらそうだ。
    自分が死んだら、世界は良くなりますとか言われても、何馬鹿言ってんだって思うってな

B   でも…

A   ?

B   雪と健斗さんが、過去に何か関係があって…。
    それで俺達の関係を裂こうとしていて、こんな大層な嘘ついてるなら…怒る…
    でも、雪が死んでしまうっていうなら話は別だ

F   …嘘じゃない。何度もこんな辛い思い、誰が好んでするものか。
    僕は… 雪を… 失いたくないだけなんだ

B   健斗さんは… 雪が、好きなんですね

F   …

D   和也、敵に同情してる場合じゃないぞ

B   敵じゃないよ。俺達はきっと… 同じなんだよ。姫様が大切なんだ

E   和也…? 今、姫様って…?

B   あれ… 口が勝手に動いたみたいだ。何も思い出せてないのにね、ははは…

C   笑ってる場合じゃないんだよ? 美里! いい加減、雪を離しなさい!

A   無理よ。何度も言ってるでしょ

B   大丈夫、美里は雪を傷つけないよ

C   和也は心配じゃないの?

B   美里は、そんなことする子じゃないよ

A   …貴方は… 私が、こんなことしてるのに… まだそんなこと言ってられるの? …貴方は…

B   …健斗、さん

F   …何だ

B   俺を…、殺してください

F   !!

D   和也!! 突然何言ってやがんだ!

F   本気なのか?

B   そりゃ… こんなこと軽く言えませんよ。自分の命がかかってるんですから…。
    だけど、雪が死んでしまうなら、話は別です。
    それだけは… 俺は、絶対にさせることはできない

E   何言ってるの… そんな… 和也がいなくなったら!私… 生きていけないよ

B   大丈夫だよ

E   …大丈夫、じゃないよ…?

A   どこまで…どうして… 貴方はっ…

E   美里さん…?

F   雪を一人置いて… それでもいいのか?

B   …大丈夫です。だって… 貴方が… 健斗さんがいますからね

F   僕は…

B   貴方なら… 大丈夫だ

F   …!! ……………………分かった

D   は! ちょっと二人で何決めてんだよ!

C   そうよ! ちょっと何言ってんの?

A   二人共黙りなさい

C   和也がいなくなって、世界が良くなったとしても… 和也の代わりになれる人なんて、誰もいないんだから!

E   和…也

B   ごめんな、雪…

F   …いくぞ

B   !!

E   和也、だめ!!

D   ちっ! マジかよ!!

C   え、え! きゃーーー!!!

(ナイフ音)

F   っ…!!

E   っ!! ………………え?

B   え………

A   ……どうして…… あなたが? え……?

F   …

D   一体… 何が、どうなってるっていうんだよ? え?
    …おい! 和也! 無事か?!

C   和也、大丈夫?!

B   …俺は… 何も

E   健斗? ……何を…

F   …心臓、刺したのに、痛くない。…おかしいな?

B   健斗… さん? …どうして?

C   血が… 何これ? …消えて… なくなってるの?

D   ははは… 冗談だろ? 何だよこれ? おいおい、ふざけんなよ。
    意味わかんねーこと続きで、とうとう俺ら幻覚まで見えちまってるんじゃねーだろな?

C   こんなリアルな幻覚見たらやだよ! これは… れっきとした、今! 現実で起こってることだよ。
    健斗くん… どうして

E   どうして… こんな事を…

F   君に、どうしても死んでほしくなかったんだ、雪

E   何を… 言って

A   …まさか… 自分を… 刺すとはね。
    …っ!!

E   離して!! …健斗… 健斗っ!!

F   物語に… 王子は二人もいてはいけない。
    …美里が言ったんじゃないか。なら… 僕がこうしても問題ないってことだろ?

E   それより… 早く止血をしないと!

F   …ありがとう、姫

E   …姫とかもう関係ない! 誰か! 救急車を呼ん…

F   そんなの呼んでも、僕の心は救われない。それよりも、話を…

E   無理だよ! 痛くないなんて片意地張らないで!!
    こんなに震えて冷たくなってるのに、痛くないはずないじゃない?!
    …嘘つかないで…

F   ……また… 僕は君を泣かせてしまっているね。
    僕のせいで…。
    でも… 温かくて… 優しい涙だ…

B   健斗さん…

E   和也…! 和也…? なんとかして…!! 健斗が… 健斗が死んじゃうよ…

B   ………健斗さん。
    僕を……刺す気、だったんじゃなかったんですか?

F   …そうだよ

E   …それなのに、なぜ?

F   でも、できなかった。
    僕は…… もう、誰も殺したくないんだ…っ。
    皆には生きていてほしいんだ。
    何度も皆を殺めてしまった… そんなの、もう嫌なんだっ!
    ……臆病者は、自らの命の終幕をもって… 罪を償うよ

D   こんな終わり方しか、ないのか?

F   …すまないな… 皆

E   それで、こんなことを… 健…が

F   …雪?

E   あれ? 健…! 健…!! け…

A   …始まったわね

B   健…斗さん? 健…何だこれは。
    言葉が喉に引っかかって、うまく出てこない

C   ちょっと待ってよ! まさか… 私達も、同じように消えちゃうっていうの?!

A   わからない…。
    変わるかもしれない、でも…… 変わらないかもしれない

D   そんなの、け… ん… ああ! こんだけ足掻いてきたってのに…、あんまりだろ!

F   …僕は、違うよ。
    …こんな風にしかできなかったけど… 僕は、王子という役割でなく…。
    はじめて… 自分自身で導き出した答えだから… 今はすごく、満足してるんだ。
    ずっと、何もできなかった。見ているだけだった。
    でも、こうやって、何かを、変えることが… 変えようとすることが、僕にも…できたんだ。
    それが… すごく嬉しいんだ

E   健、斗…

F   雪は…消えないよ。
    僕の心にいつも春のような温もりをくれた。儚くて… とてもきれいな存在。
    もっと… もっと幸せになって…。
    …………これは?
    今なら見える。そうか… こんな物が、これが、僕達を締め付けていたのか。
    この世界… オトギノ国が始まるきっかけになった、皆が代々守ってきたもの。姫である証。
    でも… オトギノ国は、もうおしまい。雪には、こんな物、もう必要ないっ!!

(割れる音)

C   今の… 音は?

D   何かが… 割れた音? それになんだ… 急に眠気が…

E   あれ? …なんか… 足が、軽くなったような…?

F   こんなに近くに世界の理はあったんだね…。もう見えなくなっていたけど、確かにそこにあったんだ。
    平和を約束されていたものだった。幸せは続いていた… でも、変わりたいんだ… 変わらなきゃいけないんだ。
    …ごめんね

A   あなた… 世界の理を見つけたの? さっきの音… は、まさか?! 本当に…… あなた!! 身体が… 消えていって…

F   姉さん! あなたの望んだ形ではなかったかもしれないけど… 僕なりの答え、見つかったよ

A   だめ… だめ!

F   世界の理に直接触れたんだ。覚悟はできている

(鐘の音)

B   これは… 鐘の音?

F   …良かった…。
    ………雪? ………誕生日おめでとう。
    これで、もう、本当に、僕の不安は全部消えた。思い残すことは… 何もない

E   …っ!!

F   …雪?

E   もう、あなたのこと、どう呼んでいいのか、誰なのか… わからないけど…… すごく… すごく悲しいの

F   …そう

B   …あなたは、一体…

D   瞼が… もう限界だ… どうなっちまうんだよ… くそっ!

C   私も… もう… だ、め…

F   おやすみ… 皆。今までは… 全て悪い夢だったんだ…。だから…、大丈夫だよ

B   っ!! 王、子… っ!! 僕は…僕は…っ!

F   もう、王子じゃないよ。
    ………………今まで… 本当にありがとう。
    ……………っ。
    …雪、…和也?
    二人とも…… どうか………………… 幸せに…

E   っ!! 待って!! けん、と… っ健斗ーーー!!




***



D   ……ん、んん… あれ?
    …ここは?

B   …俺達… 何してた… んだっけ? あれ?
    あ… 雪… 大丈夫か?

E   う… うん。
    皆で木にもたれかかって、少し眠っちゃってた… のかな?

A   ………みんな… 大丈夫?

C   …んん… ふぁー大丈夫だよー… でも、まだ頭がぼんやりするなぁ……。
    えっと……、皆で写真撮ったん… だったっけ? あ、ほら三脚もそのまんまだよ

E   本当だ…。そう… でした、ね。私のわがままで… 確か… そうだったはず。
    皆、付き合わせてごめんね

C   なーに言ってんの!
    今日の主役は雪なんだから、もっとわがままでも何でも言いなさい!
    …そこの王子様に

B   王子様ってなんだよ

C   ゆーきー!!

B   あれ…?
    …お前らって… そんなに仲良かったっけ…?

D   仲良いに決まってんだろ!

B   お前に聞いてない

E   あ…

B   ん?
    あ… こんな季節なのに、一輪だけ咲いてるなんて… 珍しいな

A   …綺麗ね

E   本当、綺麗…

A   ……あなた? …泣いてるの…?

E   ……あ、れ? なんでだろ…?

A   …………………ねぇ

E   ん?

A   どうして… ここで撮ろうって、思ったの?

E   それは…… うまく思い出せないんだけど。
    …大切な思い出の場所なの。
    ………ここにいれば、会えるって… あっ…

A   …どうしたの?

E   ……誰と、会えるんだろ…?

A   そうね………。
    例えば… ほら王子様、とかね…

E   え?

B   雪!!

E   どうかした?

B   …誕生日おめでとう

E   あ…

C   もうこんな時間になってたんだね。
    雪! 誕生日おめでとう!

D   ほーら和也? なんか気の利いたプレゼントは?

B   え!!

D   ほらほら!!

B   ……僕は、あなたと一生、添い遂げることを誓います。
    ……ずっと… 側にいさせてください… 雪

E   っ!! 和也…っ。
    ………よろこんで。よろしくお願いします…っ

C   わーお! 愛の告白!
    跪いて… 本当の王子様みたい!!
    ほんと…… やっと夢が… 叶って……、良かったね… 雪

D   ん? 沙絵? 何、泣いてんの?

C   ん? …あれ?? やだ!! なんか私もつられて… 感動しちゃったのかも…。
    あれれ??? おっかしーな、涙が止まんないや、ははは…

D   …あー… もう!! ちくしょー!! んにしても、見せ付けてくれるぜ。
    ここいらで、男の本気見せ付けますかっと、よいしょっと!

C   って! あんたも何…… え? きゃっ!!

D   …俺達も一緒になりますか? …お姫様?

C   へ?! ち、ちょっと!! 芳照?! 急に何言ってんのよ?!

D   …おっもいなー これを支えるとなると… 俺、相当頑張らなきゃいけないなー、色んな意味で

C   失礼ね! これでもドレス着るために痩せた方… ってもう!! 恥ずかしいから、下ろしてよー!!

D   返事くれるまで下ろさないー

C   えー!! ちょっと!! それって卑怯じゃない?!



A   …きれいに忘れて… まだ覚えているのは、私だけみたいね。
    まさか、王子である自分自身を消して、世界の理自体なくしてしまうなんて… どこまであなたは…。
    今までずっと頼ってきた、願いを叶える誓いの剣も、跡形もなく消えてしまって…。
    私にはとうとう、何もなくなってしまった。
    この記憶を私だけに残したのも、全て私の欲深い心が発端になった者への、罰というものなのかしら…。
    王子は姫と幸せに暮らしましたとさ…。
    自分ではない、姫の… 皆の幸せを守った貴方は… 私にとって、本当に王子様だよ。健斗?




***


C   あ! 写真、出来上がったのー? 見せて見せて

D   そう、がっつくなって! 皆に配るんだから、ちょっと待てよ

B   きれいに撮れてるなあ。この… ほら? 皆で撮ったやつとかさ? いい顔してるな皆

A   本当… でも桜の花が満開なら、もっときれいに撮れただろうね

E   ……あれ? この写真、何だろ? …何か違和感が…

B   ん? これか? んー… そうか?

C   どれどれー… 言われてみれば…。
    皆で並んでるのに、雪の後ろだけ空間が… 空きすぎている気もする様な…?

D   幽霊なんじゃねー?

C   ちょっと! やめてよ!! 怖くなるじゃない

E   そんなんじゃないと思うけど…あれ? 誰…か? いなかったっけ?

B   …そう言われると… いた様な…?

C   なによー… 皆して、私を怖がらせないでよね!!

A   ……

D   …あ! そーいえば美里、今度合コンするんだって?俺も誘ってよ

A   あ、いいわよ? 今度呼ぶね

C   今度呼ぶね、じゃなーい! ……芳照くーん?

D   あーあ。首輪付きは、どこにも行けねーぜ

C   そんなこと言ってたら…。その首輪で…吊るよ?

D   ひい!!

E   …それにしても、美里さんが合コンなんて、今でも信じられないなー

B   どんな誘いも断ってきて、清楚系だったのに、今は大違いというか、なんか別人だよ

A   フラれて… すっきりしたから… かな?

E   え? 美里さん…が?

D   マジかよ! そりゃ、どこの勇者だ、すげー!!

A   実は、告白は結局… 最後まで、できなかったんだけど。
    自分の中で、ようやく… 区切りがついてね… やっと前に進めるかなって感じ

D   ……そっか。…うん。よくがんばったな、美里?

A   え? …私、何も頑張ってなんか…ないよ?

D   頑張ったさ。
    ちゃんと、もやもやしてたことを、自分の中で整理がつけられたってだけで、終止符打てたってだけでさ…?
    それで… 十分なんだよ。……お疲れさん、美里

A   芳照……。うん、……うん! ………ありがとうっ……

C   そーんじゃあ、どんどんこれからは合コン行っちゃおー!!
    いい男、めいいっぱい紹介するよー。
    美里なら、皆来たがるから、毎週末覚悟しといてね!

D   俺も参加する!

C   んー首輪、放してもいいの?

D   …おとなしく、留守番しておきます

B   …芳照と沙絵は、すっかり、主従関係付いちゃったみたいだな

E   それでも、芳照さん、幸せそうですよ

B   確かにな。でもあいつは、あー言ってても、絶対合コン付いていくよ

E   でも、それじゃ沙絵さんに怒られるんじゃ…?

B   沙・絵・と、離れたくないから付いていくって言うよ。
    あーみえて、本当は変に世話焼きで、すごい心配性な奴だからな

E   ふふふ、芳照さんらしいですね

A   そうね。沙絵… じゃあ… 今週末、よろしく

C   よっしゃ! そうこなくっちゃ! よーし、善は急げだ。
    こりゃ、桜なんて見てる場合じゃないやっ! イケメン、たっくさん呼ぶぞー!!

D   ばっ! さては、そっちが、お前の主目的なんだろ!! って、おい! 走って転ぶなよ?

C   ふふふふーん、分かってるわよー!

E   ………それでは… 私達も、行きましょうか?

B   桜… もういいの?

E   はい。……また会いたくなったら……… ここに来ますから

B   ……そうだね

A   私は… もう少し、この桜を見てから行くから、先に行っておいてくれる? 雪… 和也?

B   え……

A   ん…? どうかした?

B   今… 俺のこと… 『和也』… って…

A   ふふふ

E   …ふふふ。分かりました。美里さん!また後で

B   ………じゃあな!美里!!




A   ねぇ…… 見えてる?感じてる? この世界は良い方向に向かっているのかしら?
    …少なくとも、あの4人はうまくいっていると思うわ。…皆、本当に幸せそうに日々を送ってる。
    ……私もね? 実は…… 徐々にだけど… 昔のことを… オトギノ国のことを、忘れてしまってるの。
    自分の罪悪感さえも消えてしまうだなんて… 本当に罪深いわよね。
    ……もう、名前も思い出せない貴方は…… この写真に確かにいた。
    忘れてしまって…ごめんね?
    でも、私は歩き出そうと思うの。
    …ようやく、過去から解き放たれて、私らしく生きたいと、生きていきたいと、心から願えるようになったから…
    どうか、見守っていて…。
    許してほしい訳じゃないの。ただ… 消える前の、私の想いを、聞いて欲しかった。
    私は! …前を向いてっ… これからもずっと… 生きていくから…





A   本当に今までありがとう。
    …………さようなら。……いってきます







F)  ………………………(いってらっしゃい)



     
 
           
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