題名  公開日   人数(男:女:不問)  時間  こんな話  作者
 修理工とまじない屋の平凡な一日(モコとリサの契約編) 2015/11/20  5(1:2:2)or4(1:2:1) 80分 こんな所で死ぬくらいなら、私のために生きなさい!  りり~

 ミキ :  女 …モコのかわいい妹。破天荒な兄をいつも心配している。
 ケイ・ピヨの助(兼役): 不問(台詞少なめ) …修理工。今回は兼役でモコのペットのピヨの助もおねがいします。
 リサ   :  女 …ケイの助手。何もできなさそうで、実は一番強い。
 モコ    : 不問 …まじない師。魔術の知識と技術は幼い頃に独学で会得出来るほど、優秀だった。
 クロマ  :  男 …モコの友人。父親が警察官のため、幼い頃から養成教育を受けた。普段は陽気だが…。

※ケイとクロマは、兼役できます(男性の場合)。
その場合は4人(1:2:1)です。



『修理工とまじない屋の平凡な一日(モコとリサの契約編)』


ケイ: 熱はない…みたいだね。大丈夫?リサさん?

リサ: 大丈夫だよー。ちょっと身体がだるく感じるだけ…。
    あ、ほら、早く店開けましょ?

ケイ: だーめーだーよ

リサ: えー?こんなに元気なのに、寝とけって言う方がおかしいよー

ケイ: 熱が出た方が、外から悪い菌が入ってきて、身体がやっつけようとしてるって分かるから良いんだけど…。
    リサさん?熱が出ない病気の方が怖いんだよ?

リサ: まぁ、その通りなんだけど…ケイさんは心配しすぎー

ケイ: いつもより顔赤いから、すぐ体調悪いの、分かったよ?
    最近寒いし、寝冷えでもしちゃったのかな?

リサ: 毛布ちゃんと被って、寝てたんだけどなぁ…

ケイ: 風邪の引き始めを侮ってたら、後で大変だよ。
    早期治療が大事なんです

リサ: …そうだね

ケイ: とりあえず、今日は店、午前中クローズにする。
    後、今お医者さんを呼んでるから、リサさんはしばらく安静にしててね

リサ: え?そこまでしなくていいのに…

ケイ: そうやって!リサさんは、すぐ無理しちゃって頑張っちゃうから、体調悪い時くらい少しは休むのっ

リサ: 無理なんか…して…あっ!

ケイ: っと!危ないなー…ほーら、いつもならこんな所でつまづいたりしないだろ?
    はい、足元気をつけて移動するよ?
    1、2!1、2!よし。
    このベッドで少し寝ててね。今何か温かいものを用意するねー?

リサ: …ごめんなさい。分かりました、大人しく寝て待ってます…。
    ………。
    はぁー…風邪なんかに負けるとは…なんか情けないや

モコ: あーらあらあら?ほんとに情けないですね?

リサ: …モコ…?転移のまじないは、あまり指定外区域では使わないように…って…前にも言ったはずよ?

モコ: そんなこと言ってましたっけ?僕すーぐ忘れちゃうからわかーんなーい

リサ: …だからといって、女性の部屋に突然入ってくる変態趣味でもあったの、モコ?

モコ: そっれは普通の女性の部屋だったら?の話でしょ?
    リサさんは僕にとって特別な人ですからねー。だから問題ないんですよ?知らなかったんですかー?

リサ: …なんか…あんたの話、聞いてたら、頭、痛くなってきたわ

モコ: わぁ!それはいけませんね?一応病人なんですからーちゃんとしないと!
    も-、そんなことまで言わないといけないんですか?リサさんはお子ちゃまですねー
    ネズちゃんも、そう思うよねー?ね?ね?ねー?

リサ: もう、分かったから、静かにして

モコ: …で?珍しいですね。体調を崩すなんて?
    もしかして、夜更かしして、変な動画でも見すぎちゃいました?

リサ: そんな訳ないでしょ!ちゃんと昨日も普通に、しっかり寝たわよ

モコ: そうですか。はい。お口あーんってしてください

リサ: …あーん

モコ: あー結構のど、腫れてるみたいですね?
    はい、口閉じてもらっていいですよ。
    咳は出てます?

リサ: 咳は、起きたとき少しだけ…

モコ: ふんふん。関節は痛みますか?

リサ: 手足がだるい感じはするけど、痛むってほどではないかな?

モコ: ふんふんふん

リサ: 今日は店片付けて、ケイさんへの依頼書を全部整理しようと思ってたのに…とんだ災難だわ

モコ: 大抵体調を壊す原因は自分にありますから、自己管理不足ですよー?
    第一、こっちの世界は、菌やウイルスだらけなんですから、ちゃんとしないと僕達はすぐ病気にかかってしまいますよ?

リサ: 分かってるわよー。あっちの世界とは違うってことくらい私も分かってる。
    それを承知で、私もここで暮らしてるんだから

モコ: あっちは、無菌ですからねー。こっちも同じようにすればいいのになー

リサ: 何言ってんの。あっちが異常な世界なのよ。何でも簡単に人間の都合でなくしちゃいけないと思う…
    確かに人の身体に悪いもの全部排除すれば、健康で安全な生活は保障されるだろうけど…。
    なんかそれって…違う気がするのよね

モコ: 風邪もひかない、病気なんてない!食料もたーくさんあって、飢える事もない、安定した世界ですよ?
    ま。それでも人同士の争いがなくならないのだけが不思議なもんですけど

リサ: 私は…。
    こうやって空が青くて、風が吹いてて、鳥の鳴き声が聞こえて、蝶が花を探して舞っている…。
    こんな世界の方が、いいと思うんだけどな。

モコ: 僕はどちらもいい世界だと思いますよ?病気なんてかかりたくないし、無菌生活ラブです。
    あーでも味噌とか納豆とか規制されてるのが、嫌ですけどねー

リサ: モコも、少しはそうやって思う様になったのねー。
    最初とは大違いね?

モコ: そりゃもうこっちにきて3年経ちましたから、多少は変わりましたとも?

リサ: もう3年か…モコはたまには、あっちにも顔出しに行ってるの?

モコ: たまーにね。まじないの材料で必要なものがある時だけ、こっそり出向いていますよ。
    リサさんは、どうなんです?

リサ: 私は全然だなー

モコ: 心配されてるんじゃないんですか?こっちに来る時、家出同然だったんでしょ?

リサ: まぁね。でももう3年も経ってるし、そろそろ忘れてるんじゃない?

モコ: そんな訳ないでしょー?だってリサさんは…

ケイ: リサさん入るよー…?あ!モコさん、もう来てくれてたんですね!

モコ: こんにちは、ケイさん。あ!いい香りがするー。そのココア僕の?

ケイ: はい。僕を含めモコさんとリサさんの分、3人分ちゃんとありますよー。
    はい、どうぞモコさん。
    あ、リサさんのだけ、ちょっと違うけど、はい。リサさん、どうぞ

リサ: ん?これは?

ケイ: はちみつ大根です。喉の腫れによく効くよー

リサ: え?どうしてケイさん、私の喉のこと…

ケイ: 声聞いてたら調子悪いことくらい分かるよ。
    何年一緒にいると思ってるの?

モコ: さっすがケイさん!何も見なくても、分かるなんて、愛だね!愛!

リサ: モーコー…?

モコ: あーもう、体調悪いときくらい怒んないの。
    少し茶化しただけでしょっ。そんな顔してたら体調もっと悪くなりますよー?

リサ: …頂きます

ケイ: 大根のエキス毎、全部飲んじゃってね。
    あ、あとこれお粥、甘めの梅と一緒に入ってるんでリサさん好きだと思うよ?

リサ: …おいしい

ケイ: モコさん。リサさんの体調の方、どうですか?

モコ: んー?ただの風邪だね。
    熱はこれから出てくると思うから、出てくる前に、これ飲ませてあげて

ケイ: はい、分かりました。ありがとうございます

リサ: それ…苦い奴だよね?

ケイ: え?

モコ: そうですよー。激ニガニガ丸です。
    僕が丹精込めて調合したお手製ですよ?

リサ: 飲みたくないなー…

モコ: 何又お子ちゃま発言してるんですかー!
    リサさんが苦しんでるの助けてあげようと思って、ちゃーんと作ってきたのに!

リサ: 苦いのきらいなんだもん

ケイ: 良薬口に苦し、だよ。リサさん

リサ: うう…

モコ: もう!しっかりしてくださいよー?
    弱気になってるリサさんなんて、リサさんじゃありませんよ?

ケイ: モコさんはリサさんを、なんだかんだ気にかけてくれるもんね?

モコ: まぁ、僕はリサさんと契約していますからね?
    仕方がなく、気にかけてるだけですよー

ケイ: 契約、ですか?

モコ: 『リサさんのために生きる』ってね?だから、リサさんに何かあったら、僕が助けに来なきゃでしょー?
    昔、半強制的に契約させられたんですよー?脅迫ですよー?ひどいですよね?

リサ: …モコ?私が元気になったら、あんた覚えておきなさいよ…?

モコ: はいはい、じゃあ、早く元気になってくださいね?

ケイ: そういえば、モコさんって、リサさんと出会ってから、こっちの国に来たんですよね?

モコ: はい、そうですよ。
    でも、確かケイさんの方が、リサさんと僕より早く会ってるんじゃないですかね?

ケイ: そうなんですか?てっきり、昔からモコさんとリサさんは仲良しだと思ってました

モコ: 全然そんなことないですよー?
    昔の僕は、結構めんどくさい奴だったんで、ケイさんも多分その頃の僕に会ってたら、こうやって話せてないかもですねー

ケイ: へえ…意外ですね?
    どんなだったんですか?もし良かったら、聞かせてくれませんか?

モコ: え?興味あるんですか?特になんにもおもしろい話はないですよー?

ケイ: モコさんが、あっちの世界でどんな風に生きてきたのか、聞いてみたいんです

モコ: んー。そんな純粋な瞳で見つめられたら、無碍にはできないねっ!
    リサさんー?話してもいいですか?

リサ: 好きにしていいわよー。私は少し眠るから、静かにね

モコ: はーい。んじゃ、昔っていっても、ちょっと前の話ですけどね…。
    僕がまだ…あっちの世界…サダクビア国にいた時の話だね

ケイ: サダクビア国ですか…。
    僕達が住んでいるサダルスウド国の隣にあるのに、ほとんど国交がされていないから、僕にとっては未知の国ですね。
    本やうわさでしか聞いたことがないです

モコ: だよねー。こんなに近くにあるのに、何にも知らないとか不思議なもんだよねー?
    まぁ技術力の進歩の具合が両国とも差がありすぎだから、無理もないんだろうけど…。
    二国間で国交を停止する条約を結んじゃってるからね。
    知らないのも無理ないよー

ケイ: でも、その関門を突破して…モコさんはここにいらっしゃるんですよね?
    大変だったんじゃないんですか?

モコ: ま、色々あったよー?
    そうそう、あれはここにくる3年前の話なんだけど…






クロマ:おいおい。何だよこれ?又、誰かが燃やしたってのか?ひっでぇな

ミキ: あれ?クロマさん?どうかしたんですか?

クロマ:あ。ミキちゃん!これこれ見てよ、今日のサダクビア通信。
    『連続爆破魔、又しても、現れる』って!

ミキ: え…これ、ここの近所じゃないですか?やだ…怖い

クロマ:ミキちゃん、通信毎日見ないとダメだよー?
    ここ最近、毎日この話題ばっかりだよ?
    被害にあってる家、これで何件目だっけな?6件目じゃないかな確か

ミキ: そんなに?!私、知らなかったです…

クロマ:幸い死人は出てないけど、被害にあった家は…もう見るも無残に燃えちゃっててー、修復不可能だって話だぜ?
    やだやだ!こんな平和が保証されているサダクビアで、なんでこんな物騒なことをする奴が現れるのかねー?

ミキ: そうですね…

クロマ:そういや、最近ミキちゃん見かけなかったけど、またお兄さんの所でなんかやってんの?

ミキ: あ、はい。ちょっと今手が足りないらしくて…実験の手伝いをしてるんです

クロマ:煙突から気持ち悪い色の煙が出てるの、俺も見たよー?
    何作ってんのあれ?近所の人も、みんな気味悪がってるよ?
    ずっと一人で篭って実験…だっけ?してるの?

ミキ: はい、そうです。私が兄の必要なものを集めてきて、それを使ってしてますね

クロマ:…ねー?ミキちゃん。嫌じゃないの?
    いくらおにーさんって言ってもさ?なんか不自由じゃない?それ?

ミキ: え?別に、私は特には何も感じてませんけど?

クロマ:家の外に出てこない。出てきたら出てきたで、何かしでかす。
    あれでしょ?前、あのガミガミおじさん家のペットの超貴重な鳥、勝手に掻っ攫って、連れて帰っちゃったんでしょ?
    ガミガミおじさん超怒ってたよ?

ミキ: あれは…私があの後、おじさんの家に謝りにいきましたから…知ってます

クロマ:あ、そうなんだー。大変だねー。
    おにーさんの尻拭い、全部ミキちゃんがしてるんじゃない?
    他にも、金持ちおばさんの自慢の幸運の黄色い家を真っ黒にしちゃったり。
    街からお兄さんの家まで明るくするために新しくつけた街灯を、全部消しちゃったり。
    小さい子供を追っかけまわして、泣かしてたーってのも聞くよ?
    …もう、ここら辺りの人は…言い方悪いけど、変わり者だって思ってると思う

ミキ: そうですか…

クロマ:大丈夫、ミキちゃん?
    おにーさん嫌だったら、うちに来てもいいんだからね?

ミキ: そんな。嫌だなんて思ってません

クロマ:ミキちゃんなら、おじさん、いつでも歓迎だから!

ミキ: …クロマさん、おじさんなんて年じゃないでしょ?
    この街を守る『新人』警察官さんなんですからね?

クロマ:新人なんて言葉は、すぐに取り去ってみせるよー?
    早くパパっといい手柄あげて、昇進して、立派になるからね!

ミキ: でもこの国では、そんな大きな事件もありませんし…

クロマ:…でも!ほら、さっきの連続爆破魔!
    あの犯人を捕まえたらきっと、昇進間違いなしだと思うんだ!

ミキ: それは…そうかもしれませんが、なんだか危ない気がします…

クロマ:危ない?危なくなんてないさ!だって俺には、この力がありますから!
    ふん!これくらいの石なら…ほら?見てみて?

ミキ: わぁ…石が浮いてる。触れないまま、自由に動かせるんですね。
    クロマさんの念力については、兄からもよく聞いてます。
    小さい頃から優秀だったんですよね?

クロマ:あいつがそんなこと言ってたんだ?
    そうだよー。だけど…あいつが言うと、ちょっと皮肉にも聞こえるな、ちぇっ

ミキ: 兄は…知識も技術も長けてますからね…

クロマ:なーんで、あの力を出し惜しみせずに、国のために使わないのかねー?
    誘いはいっぱい来てたはずなのに、あいつはぜーんぶ断りやがって…
    …ま。ともかく、あいつにだ…『モコ』に、「たまには外に出ろ」って伝えといて!

ミキ: はい、伝えておきます。
    では、そろそろ…兄が待ってると思いますので、行きます。それでは、また

クロマ:じゃーね!あ、ミキちゃん!今度は、俺とデートしよーね!

ミキ: それは、保証できませんね

クロマ:ちぇっ!のってくれないかー。しゃーね!何度だって俺はあきらめないよー?
    じゃ、また!!






ミキ: ただいまー

モコ: おかえりー。随分遅かったね

ミキ: 帰りに、クロマさんに会ってね。話、してたんだ

モコ: あぁ、クロマか?元気にしてた?

ミキ: 元気元気。いつもどーりだったよ。
    あ、そうそう。私ほとんど通信見ないから、知らなかったんだけど、モコ知ってる?

モコ: ミーキー?『モコ』じゃない。『お兄さん』とお呼び

ミキ: いいじゃない。そんな細かいこと。
    クロマさんから聞いたんだけど…最近ね、ここの近所で連続爆破魔が現れてるんだって。
    家が爆破されて木っ端微塵にされてるみたいなんだけど、幸い死人は出てないみたいなんだ

モコ: へぇ…

ミキ: 全部管理されてて、平和で何も事件なんかないこの国に、こんなことする人いるんだね?
    そんな変なことする人が近所にいるなんて思ったら、なんかこわいなーって思って

モコ: この国は、晴れにするか雨にするか、天気だって自由自在だしなー。
    働かなくても、機械が全部してくれるし、食べ物だって野菜は、ちょいっ!てやったら、育つし、無駄もない

ミキ: ほんと…魔法の力は偉大だねー?

モコ: サダクビア人に生まれた特権だ、っていうけど。
    ということは、この力がない人間も、いるってこと。
    …ミキ、知ってるか?隣の国にはな、この魔法の力を持っている人間は全くいないんだってさ?

ミキ: 隣の国ってことは…授業で習ったことあるんだけど…えっと。
    サダルスウド国だよね?

モコ: そうそう。国交ないせいで、授業では、ちらっとしか習わないけど、
    …こーれ。大学校の図書館の宝物庫で見つけたんだ

ミキ: え?何これ?資料の山…?
    って、どうしてそんな場所に入れたの?
    モコ、大学校に誘われてたけど…進学しなかったでしょ?

モコ: 誘われた時に、学内を案内してもらったんだ。
    その時に、図書館の中も案内してもらってね。
    さすがに宝物庫の中にまでは、入れてもらえなかったんだけど。
    案内してくれた人がね。「ここには国家の大事なものも入ってるんだー」って言うから…。
    遠回しに「僕に開けてもいいよ」って言ってるのかなって思ってね?

ミキ: そんな訳ないでしょ!
    それって…じゃあこの山は、国家機密レベルの資料ってことなの?

モコ: 結界がすごく複雑に組まれてて、感知されないように、新しい結界を組み直しつつ進むのに苦労したよー?
    どんな宝の山が入ってるのかなって思ったら、この紙切れの山じゃん?
    最初は無駄骨だったかなって思ったんだけどさー。よく見たら、隣の国ことがよく書かれてあって。
    ちょっと拝借してきちゃったってわけさ

ミキ: こんなもの盗ってきたって、ばれちゃったら、モコ、重大犯罪人だよ!!
    ダメだよ!こんなことしちゃ!!

モコ: のんのん!僕がそんな足跡残すようなことしないよー?
    ぜーんぶ、転写したよー?この水晶玉にね。
    だから、原本はそのまま、宝物庫に置いてきたよ。
    あ、ちなみに図書館内の本の内容も全部記録済みだよ!

ミキ: おにーちゃん……。
    はぁ。相変わらずというか、ちゃっかりしてるなぁ…

モコ: この資料全部読んだらさ、あっちは全然こっちの世界とは違うんだよ!
    空が青くて、風が吹いてて、鳥の鳴き声が聞こえて、蝶が花を探して舞っている…そんな世界が広がってるんだって!

ミキ: 『空』って…何?

モコ: ああ、そこから説明しなきゃ分からないよなー。
    僕達が見える世界は、あの金属のドームの天井しか見えないけど。
    それよりも、もっともっと遠くにあって、青色以外にもオレンジ色や赤色、真っ白にもなるし、真っ黒にもなる。
    それで、真っ黒の時はキラキラした宝石のような、『星』ってのも見えるんだって!!

ミキ: ちょっと…想像できないな。
    天井を青く照らしてる時があるけど、あんな感じなのかな?

モコ: いやいや!それよりも、多分もっともーーーっと!綺麗な世界だよ!
    後、暑かったり、寒かったり…温度も、年月によって変わるんだってさ!
    暑かったら、氷を砕いたものを甘い…色がついたブドウ糖みたいなものを…『シロップ』ってのをかけて、食べるんだって!
    味が色んな種類のものがあって美味しいから、あっちでは大人気なんだってさ!
    後寒かったら、セルロースとリグニンの塊…『木』って奴を燃やして、暖を取るんだってさ

ミキ: …そんなに温度が変わるなんて、想像できないんだけど…本当にそんな世界があるの?
    食べ物は、配合食糧食べれば栄養は十分なのに…氷なんか食べて、エネルギーにもならないのに、不思議ね?

モコ: でしょ?不思議だらけで、読んでたら夢中になっちゃって、昨日はあまりよく寝れなかったよ

ミキ: 最近は、「新しいことがないからつまんない」って言ってたから、そうやって楽しそうにしてるモコ見るの、久しぶりね

モコ: まーね!おかげで実験もはかどるーはかどる!

ミキ: そういえば、今の実験ってどういうことしてるの?
    材料集めてはいるけど、何してるか聞いてなかったよね

モコ: あー!今はね。この資料を元に、あっちの国に行く準備してるんだ

ミキ: …え?

モコ: 二国間の所にある結界の解除方法が、魔法の技術だけでは難しくって、物理的手法も必要みたいなんだよね。
    だから、火薬の調合方法を変えて、爆発の威力が調整ができる様に色々試してるんだ

ミキ: え?そんな危ないこと、あの密室でしてたの?!

モコ: 外でやってたら音が響いちゃうから、あの中で隔離空間作ってやってるんだよー。
    たまに威力強すぎて、自分の身体ごとぶっ飛んじゃう時もあるんだけどね!

ミキ: 気をつけてよー?
    あ…

モコ: ん?どうしたの?

ミキ: 連続爆破魔って…モコのことじゃないよね?

モコ: …え?

ミキ: いやそんな訳ないよね!!ごめん!!
    ちょうど実験内容がそれっぽかったからさ…つい。
    あ、これ、頼まれてたもの買ってきた分、はい!

モコ: あ…あぁ、ありがと

ミキ: おつりは…えっと…あれ?
    おじさんから受け取り忘れたのかも!ちょっともういっぺん行ってくるね!

モコ: え?もう外も、天井の照明、そろそろ暗くされてく時間だよ?明日でもいいんじゃない?

ミキ: いやいや!今日じゃないと、忘れられちゃうかもだし!
    いってきまーす!

モコ: お、おー…いってらっしゃいー…あんなに慌てて、大丈夫かなぁ?
    それにしても、ミキに疑われるとはなぁ。
    僕の日頃の行いの悪さのせいなのかな?はぁ…おにーさましょぼん…






ミキ: 暗くなっちゃったのは、誰かさんが街灯を壊したせいなんだけどなー…。
    よし。後少しだ…。おじさんの店は、あっち側だから、えっと…って…あれ?
    今なんか人影が見えたような…?おじさんかな?
    …って!!何?!店が…燃えてる?!
    ち、ちょっとどうしよ!!水を精製する魔法陣を組んでる場合じゃないよ!早く消さなきゃ!!
    でも、先に…おじさん中にいるかもしれないし!助けに行かないと!!
    水の守護をかけて…行くしかない…!怖いけど…よし!!って、何?!キャ!!!

クロマ:おおっと!!ストップストップ!!落ち着いて!!
    俺だよ!俺!!

ミキ: …え?クロマさん?

クロマ:何、店の中に突っ込もうとしてんだよ!
    こんなに燃えてるのに、何考えてんだ!危ないだろ?!

ミキ: だって!おじさん中にいるかもしれないでしょ?!
    早く中に助けに行かなきゃ…おじさん死んじゃう!!

クロマ:ちょっと!!ミキちゃん!!落ち着けって!!
    中には誰もいないから!!そう暴れんな!!

ミキ: そんなのクロマさんには分かんないでしょ?!
    離してよ!!

クロマ:ちっ!…

モコ: 何してんの、二人共

クロマ:!!……モコか?なんでここに…

ミキ: モコ?助けて!中におじさんがいるかもしれないの!!

クロマ:中には人はいないって何度言っても、聞いてくれないんだ!どーにかしてくれ!

モコ: ミキ。下がってて。僕が炎を消す

ミキ: え…モコ。できるの?

クロマ:…だから!中に人はいないから、そんなことしなくても…

モコ: どうして…そう言い切れるんだ?

クロマ:それは…こんな時間だし…

モコ: 分からないんだろ?だったら急いで、どーにかしないとね。
    いっくよー!!ふんっ!!音の波動よ!!響けぇええ!!!えええええいっ!!

ミキ: え?!何?!何なのこの音?

モコ: とぉりゃあああ!!建物中、響き渡れえええええ!!!!

クロマ:火が次々に…消えていく…信じられない。
    水もかけてないってのに…?どうなってんだよこれ!

モコ: よし特攻ーそおおれ!

ミキ: え?!ちょっとモコ!!

クロマ:おいモコ!!…って入っちまった…

ミキ: でも…ほんとに全部、火が次々に消えていってるみたい…すごい

クロマ:さっきのよくわかんない音が、火を消したっていうのかよ…?

モコ: はぁ!ただいま!

ミキ: モコ?!大丈夫?火傷とかしてない?

モコ: 水の守護かけてたから、ぜーんぜん平気。
    あっちの世界に行った時に、暑かったらやだなーって思って、遊びで紡いだ魔法だったけど…。
    こんな所で、役に立って良かったよー

ミキ: それで…おじさんは?

モコ: いなかったよ

クロマ:やっぱり…

ミキ: 良かった…

クロマ:さっき…ここが燃える前、巡回した時に、窓から電気が灯ってなかったから、そうだと思ったんだ。
    被害がなくて良かった…

モコ: でも、あのまま燃え続けてたら、危なかったよ?

クロマ:え?

モコ: ほら

ミキ: わっ!何?!…って、おじさんのペットの…ピヨの助?!

モコ: まだ、建物の裏側が燃えてなかったから良かったけど。
    …後数分遅かったら、こんがり香ばしい焼き鳥になってただろうね。
    鳥かごの中に入ったまんまだったし、ほんと危機一髪だね!
    これで!またガミガミ言われずに済んでよかったよかった

ミキ: ほんと…良かった…

クロマ:…

モコ: クロマ

クロマ:…!!なんだ?

モコ: 今は、火は消えてるけど、又条件次第では再度火がつきそうな所もあるから。
    後はそっちでどうにかしといてー

クロマ:え?

モコ: 後は警察のお仕事、でしょ?おじさんもどこに行ったのか、ちゃんと探しといてー?
    じゃないと、ミキがまたこの家の中に入りそうだからね

クロマ:あ、あぁ…分かった

ミキ: ピヨの助、怖かっただろうね。もう大丈夫だからね…?

モコ: ミキ、そろそろ帰るぞ?後はクロマがどうにかしてくれるってさ

ミキ: うん。
    …ねぇモコ

モコ: 何?

ミキ: さっき火を消した時なんだけど…。すごい音が鳴り響いて…そしたら火が消えて…どうやったの?

モコ: ああ?あれねー。
    低ーい音だして、空気振動させて、炎の周りの空気を混ぜ混ぜ、するとね?
    酸素が、燃えてる物に行き渡らなくなるようにしたんだ。
    実験してた時に、ボーンって爆発して、消火する時にやってたんだけど。今回はその応用だねー。
    音系の魔法を組める人なら低周波数の音を出せれば、誰でもできそうだし。
    今度からこんな火事の時には、音楽隊を呼んだらいいかもね!

ミキ: そっか…。…やっぱりすごいな…おにいちゃん

モコ: そうだよー?当ったり前でしょー?ふふふふーん

クロマ:やっぱり…モコ…。お前は天才だな…

モコ: んじゃ、クロマ。僕達は帰るね。後はよろしくー

クロマ:ちょっと待て

モコ: ん?何、まだなんか用事あるの?

クロマ:用事…といえばそうかな?お前を一時…警察で拘束させてもらう

モコ: ………へ?

ミキ: 何言ってるの?クロマさん?

モコ: …どーゆーことなの?

クロマ:…お前は、あの火事が起きた時、なぜここにいたんだ?

モコ: へ?それは、ミキが心配で…

クロマ:本当にそうか?あまりにもタイミングが良過ぎやしないか?

ミキ: クロマさん!!

モコ: ミキ

ミキ: …モコ?

モコ: …クロマは、僕を疑ってるってことでいいのかな?

クロマ:さすが。頭の回転が早くて助かる

ミキ: …そんな訳ないでしょ!!なんでモコがそんなことしなきゃいけないのよ!!

クロマ:モコは、以前あの店のおじさんの所の鳥…ピヨの助?だっけ?
    盗んで、きつーく怒られたんだろ?その報復でこんなことしたんじゃないのか?

ミキ: はぁ?ふざけないで!!クロマさんは…モコがそんなことをする人間だって、本気で思ってるの?

クロマ:ごめんね、ミキちゃん。警察はね、疑うのが仕事なんだよ。
    だから、全部の可能性を考えなければいけない

ミキ: だからって…

モコ: まぁまぁミキ。落ち着いて

ミキ: モコも何落ち着いてるのよ?自分の身が疑われてるってのに!

モコ: いやー?クロマの言ってることも一理あるからね。
    別に、僕はクロマの言うとおり…拘束だっけ?ついてくよ?

ミキ: え…?

クロマ:…抗わないんだな?

モコ: まーねー?あ、でも痛いのは勘弁ね?

クロマ:それは、これからの話、次第かな…

ミキ: モコ…ほんとに行くの?

モコ: …なぁんて顔してんの?心配しないで。
    僕は大丈夫だから

ミキ: …うん

モコ: あ、そうそう…おじさん見つかるまで、ピヨの助の世話ちゃんとしてやってね。
    こいつ、新鮮なミミズが好きだから…そうだ、僕の実験用の植物育ててる花壇のとこにいる奴。
    掘って食べさせてやって!金色の極太のが特に喜ぶから…絶対、あげてやってね!

ミキ: 分かった…

モコ: じゃあ行ってくる

クロマ:…

ミキ: うん。行ってらっしゃい…待ってるからね…

クロマ:……かわいい妹を持って、うらやましいな、お前

モコ: そーかな?
    …で。
    クロマ、僕をどこに連れて行く気なの?

クロマ:…何って、そりゃ…お前みたいな、何でも魔法で抜け出せる奴専用の牢に、今晩は入ってもらうよ

モコ: へー?そんな所あるんだ?

クロマ:国家の重大犯罪者を閉じ込めるために特殊な結界が張られた牢でね?
    城の地下にある。奥の方にね

モコ: お城の地下なんだー?光栄だなーそんな所に入れるなんて!

クロマ:…あいにく、警察は今連続爆破事件の検証で立て込んでてね?
    …いつ、お前の番になるか分からないから、しばらくはそこに入ってもらうことになるかな…

モコ: じゃあ、一時のバカンスって所かな?あ。でも!食事は3食付いてるといいな!
    お腹が減ったら、楽しめるもんも楽しめなくなっちゃうからね!

クロマ:そうだな…。まぁ、どうなるかは、行ってから次第かな

モコ: そっかー。じゃあ、早く行こー!ごー!

クロマ:あぁ…そうしよう






ミキ: モコ…ほんとに大丈夫なのかな…?
    まさか、犯人って疑われるなんて…思ってもみなかった。
    否定すればいいのに…何も言わないし…
    …ピヨの助…私…心配だよ?
    …う…うぅ……っ…おにいちゃん…早く、帰ってきて…






モコ: んんんんん!…えいっ!!!やぁ!!とぉお!!
    クロマの言ってた通りだなー。びくともしないぞこりゃー?
    警察管轄の牢獄って、やっぱ頑丈だなー。
    ……。
    さぁて…どうしたらいいかなぁ…ちょっと甘く見すぎた…かな?

クロマ:よぉ、何が甘く見すぎたって?モコ?

モコ: …クロマ、なのか?いつからそこに?

クロマ:あぁ?そっちからは見えてなかったのか?
    3分ほど前から、いたぞ?気がつかなかったのか?

モコ: あぁ、全然気付かなかったよ

クロマ:さすが国随一の結界だな?お前でも、解けないとはな?
    上には上がいるもんだぜ

モコ: 見てたの?

クロマ:あぁ。お前が必死にこっちに向かって、色んな魔法をぶつけて、結界を解こうとしてる姿、ちゃんと見てたぜ?

モコ: 意外と悪趣味なんだね?
    それより…おじさんは、見つかったの?

クロマ:ガミガミおじさんのこと言ってんのか?

モコ: うん

クロマ:…まだ見つかってないよ

モコ: …今までの連続爆破魔の被害にあった家の住人は、見つかってるの?

クロマ:あぁ、皆無事だよ

モコ: それじゃ、今回だけが見つかってないんだね

クロマ:あぁ。それとな…あれから、事件がぴったりと止んでる

モコ: …そう

クロマ:………じゃ。また、暇が出来たらくるよ?
    ほんじゃな

モコ: ………






クロマ:ミキちゃーん!久しぶり!

ミキ: あ、クロマさん!!モコは?!

クロマ:…俺のことより、モコかよー。ちょっとは俺のことも気にかけてよー!

ミキ: クロマさんは…連続爆破魔の件で忙しくて、大変だってのは、聞いてます。
    でも…私は、やっぱり…モコのことが心配なんです。
    ごめんなさい

クロマ:…まぁ、兄妹だもんね?仕方ないけど…。
    でも残念だけど、まだモコが出てこれるって話は出てないんだ。
    あの時事件現場にいたし、まだ容疑が晴れてないから…、晴れるまでは、まだ時間がかかりそうかな。
    俺も!あいつの疑いが晴れる様、色々頑張ってるんだけど…力及ばずなんだ。
    ごめんね、ミキちゃん。俺のせいで、あいつがこんなことになっちゃって

ミキ: いいんです。モコは絶対、そんなことする人じゃないって…私、知ってますから。
    だから、被疑が晴れるなら…徹底的にやって下さい。
    兄もきっと、そう望んでると思います

クロマ:……信じてるんだねー…ミキちゃんは。ほんとおにーさんのことを

ミキ: はい。もちろん。
    だから、クロマさんも…しっかりがんばってください

クロマ:……そうだね。
    はいはい、がんばりますよ!
    んじゃ、また来るね!むしろ寂しかったら、俺の家に来てね!待ってるよー?

ミキ: 大丈夫です。私には今、ピヨの助がいますから

ピヨの助:ピヨ!ピヨ!!ピヨヨーヨー!!!!

クロマ:俺はその鳥以下ってか、悲しー!
    はいはい、んじゃ俺からまた押しかけますよー。じゃあね!!

ミキ: …………がんばれ、おにいちゃん






モコ: あー………暇だな?
    どんくらい経ったんだ?…というか…絶対この中、時魔法使われてるよねー…?
    外の空間との時差がどれくらいなのか、わかんないけど…はぁー。
    ……最近、クロマもこないし。
    …………。
    やっぱりちゃんと、あの時、自分の口から…言うべきだったかな?
    あー今頃後悔しても、遅いか!
    でも…僕がいなくなれば…クロマは幸せなのかな?
    こんなに魔法の力が使えても…これじゃ…何にも役に立たないな…

リサ: …ねぇ?

モコ: …とうとう、ミキの幻聴まで聞こえてきたのかな?
    精神的にもやばくなってきてるのかー…こりゃやばいなぁ

リサ: おーい?そこの人ー?

モコ: はい。なんですか?僕の幻聴…いや幻覚さん?!
    何これ、ミキじゃないし、女の子いるし!
    とうとうやばいなー…僕とあろうものが…こんなことで負けてしまうのか!!

リサ: なーに勝手に騒いでるの?
    話聞いてる?言葉通じますかー?

モコ: …ってほんとに人間?

リサ: そりゃそうよ?それ以外に何に見えるの

モコ: だって、ここすっごい強い結界が張られてたはずだよ?

リサ: そうね。ここは、国家最大の魔法技術の粋を集めて作られた牢獄だもんね?

モコ: それなのに…

リサ: なのに?

モコ: なんで普通に入ってこれてるんですか?!あなたは?!

リサ: そんなに驚かないでよ、逆にこっちがびっくりするでしょ!

モコ: びっくりするよ!そりゃ!

リサ: 私もびっくりしたわよ。
    自分家の下でギャーギャー騒いで、魔法ばんばんでっかいの使ってるの聞こえて。
    ずぅっと何なんだろって思ってたわよ

モコ: 聞こえてたって…そんな馬鹿なー。
    空間が遮断されてるレベルの結界だよ?

リサ: 私、耳いいのよ

モコ: そんな理由…?

リサ: 勝手に私ん家の地下に篭って、あなたは何してるの?

モコ: 僕は、警察に閉じ込められて、今拘留中の身ですよ

リサ: は?警察??

モコ: 連続爆破魔の犯人だって思われてるとかでー

リサ: 何?あなた爆破魔なの?!

モコ: 違いますよー!僕は、潔白を証明するためにも、拘留に応じただけです!

リサ: 『も』?『も』、ってことは、他には…何があるの?

モコ: それは…あなたには関係ないことだよ

リサ: 聞かせてよ

モコ: …なんで、見ず知らずのあなたに話さなきゃいけないんですか…

リサ: じゃあ、聞かせてくれたら、ここから出してあげる

モコ: …は?そんなことできる訳ないでしょ?

リサ: できるよ

モコ: ここは結界が何重にも張られているんです。
    僕が何度解除したって、数ミリも前に進めないようなものなんですよ?

リサ: できるって

モコ: …どこから出てくるんだか、その自信は

リサ: だって、この結界つくったの、私だもん

モコ: ……は?冗談だよね?

リサ: 冗談じゃないよ?これ、私のお手製の結界だもん。証拠に…ほらここ、よく見てみて?

モコ: …これは…魔法を組んだ際のログ…ですか?

リサ: そう、作った人の刻印は残るからね

モコ: …『リサ』と、書かれてありますね

リサ: 私の名前だよ

モコ: ……えっと…

リサ: 何?まだ何かある?

モコ: 君が…『リサ』っていう証拠もないし、やっぱり信じられないよ

リサ: 疑い深いのね?

モコ: そりゃそうさ!君みたいな女の子が、こんな大層な結界を組めるなんて聞いたことないもの!
    並大抵の魔術を嗜んでないと、こんなの作れないよ。
    おそらく国家直属の魔術師レベルじゃないと…難しいと思うし…君みたいな若い子には…有り得ないでしょ?

リサ: そういう君も随分若いんじゃないの?

モコ: 僕は、皆とは違うから、年とか関係ないよ

リサ: 随分自信があるのね

モコ: …とにかく。僕は君を信じられない。
    突然、こんな所に現れて、何をするつもりなんですか?
    もしかして、僕を戸惑わせようとでもしてるの?
    クロマに頼まれて、こんな所に現れたんですか?

リサ: クロマ…?そのクロマって人が、ここにあなたを連れてきたの?

モコ: ?だったら、何なんです?

リサ: だって、ここ、普通は閉鎖されてるんだもん。
    誰も入っちゃいけない場所なんだよ?

モコ: え…ここは、警察の…牢獄なんでしょ?

リサ: ???何言ってるの?

モコ: え?

リサ: …さっきも、言ったけど、ここは普通は使われてないの。
    城の地下にある、国家最大の魔法の知識の粋を集めた牢獄。
    …『死の牢獄』と呼ばれる場所よ?

モコ: 『死の牢獄』…

リサ: 普通の人が、こんな所に入れられたら、3日ももたないのに…。
    よく、あなた、耐えられたわね

モコ: …違うんですか?

リサ: …え?

モコ: ここは、警察の…ものじゃないんですか?

リサ: …そうね

モコ: だったら…ここは、何なんですか?

リサ: ここは…今は使われていない…場所。
    昔の処刑所よ

モコ: …そう

リサ: ここに入れられた人間は、出ることは許されない。ただただ死を待つしかない。
    重罪人が入れられていた…とだけ聞いているわ

モコ: …出ることは許されない…、か

リサ: ここの存在は、限られた人しか知らないはずなのに…。
    そのクロマって人があなたを閉じ込めたってことか…

モコ: クロマは…僕と話し合うつもりは、なかったってことなのかな?

リサ: そうなんじゃない?ここは絶対隔離空間だし、放っておかれてたなら、尚更ね?

モコ: そうですか…

リサ: んー…!!何よ!さっきからうじうじうじうじ!!
    いい加減理由聞かせなさいよ!!見ている私がイライラしてくる!!

モコ: …僕、昔ね?あいつと一緒だったんですよ

リサ: あいつって?さっきのクロマって人のこと?

モコ: そう。クロマとは小さい頃から幼馴染でね?
    いつも僕と妹のミキとクロマの三人で遊んでた。
    僕は生まれたときから、魔術が得意で、どんなものでも、本を読めば、すぐに具現化できたんだ

リサ: 優秀だったのね?

モコ: そうだよ。
    そして、クロマも念で物を飛ばしたり動かしたり、自由自在で。能力に長けていたんだ。
    周りにも将来を期待されていたんだけど、クロマの父親がいつも僕達を見て苦い顔をしてたんだ。
    「どうして、あいつより優秀じゃないんだ?」ってね。
    僕とクロマは力比べをすると、どうしても、僕の方が少し上で、いつもクロマは後一歩だった。
    それが…プライドの高い父親には、気に食わなかったんだろうね。
    クロマは十分優秀なのに、今以上にもっと優秀になれ、将来父親と同じような立派な警察官になるんだって教育されて。
    …いつしか、僕達兄妹とも会わなくなっていった

リサ: 期待という名の重圧ね

モコ: 僕は、どうすればいいか、分からなかったんだ。
    クロマが苦しんでる状況を、どうにかしてやりたかった。
    でも…何を言っても、聞いてくれなかった。
    「同情ならやめてくれ」ってね?

リサ: 同情…ねぇ?

モコ: それから、何も言えなくなったんだ。
    こうした方がいいんじゃないか、とか。
    そうじゃない、とか。
    すごくできてるね、とか。
    全部同情だろ?って思われたら、どうしようかって思って…。
    不安になった。
    ミキは、そんなこと絶対ないから、ちゃんと言うべきだっていうけど…怖くなったんだ。
    だから…今回の事件のことも、問いただせなかった

リサ: …事件って…?最初言ってた連続爆破魔のこと?

モコ: そう。
    クロマは…おじさんの家が燃えた時、誰よりも早く、あの場にいた。
    『中に人はいない』って断言した…そんなこと分かるはずないのに。
    そして…ピヨの助を、あえて放置した

リサ: ピヨの助って?

モコ: おじさんが飼っている、鳥の名前だよ。
    この世界では珍しい、生きているペットだよ。
    金属製ではない、生身のね。
    見た目より賢くて、よく考えていて、そして…人をよく見ているんだ

リサ: …じゃあ、その子が、犯人を見ているのね?

モコ: …よく分かったね?

リサ: 金属で作ったペットだと、記憶はあるけど、全てデータ化されていて消去は容易だけど…。
    生身の動物の記憶は、そう簡単に消すことはできないもの。
    目から入った信号が、神経を伝達し、脳内の記憶の中枢に焼きつくからね。
    …しかもそれが強烈な記憶であればあるほど…ね

モコ: …その記憶を視覚化させ、皆に披露する術は、僕の技術なら1日あれば組める

リサ: 証拠として立件は十分可能ということね?
    それじゃ…あなたは、どうして、そんな所にいるの?

モコ: 僕は…クロマに嫌われてるんだ。
    僕にこんな嘘をついて、ここに閉じ込めたってことは…目の前から消え去って欲しいということだよね?
    何をしても、クロマの役に立てない。何も響かない。
    だったら…彼の望み通り、ここで僕は死んじゃった方が…いいのかなって思ってさ

リサ: ほんとに死にたいの?

モコ: 分からないんだ。
    でも、あいつに「お前がやったんだろ」って言うくらいなら、このままでもいいかなって思ってるのは事実だよ。
    あいつに辛い想いをさせちゃったのは、全部俺がいるせいなんだから…。
    ミキも、いい年齢になったし、クロマがいれば、生きていけるだろうし…もういいかなって…思ってる

リサ: …馬鹿じゃないの?あんた?

モコ: え?

リサ: 死んだほうがいい?冗談じゃないわ!
    あんた、そのクロマって人の何様のつもりなのよ?
    辛い想いをさせたって言うけど、そんなの何だってそうでしょ?
    全部全てが自分の思い通りになる訳ないじゃない!!

モコ: そう…だけど

リサ: 悪いことをしたら、それをダメだって言ってあげるのが、本当の友達じゃないの?
    何も言わないっていうのが、逆に相手が傷つくに決まってる!
    争うことを恐れていては何も前に進めないわよ。衝突してもいいじゃない?
    大事なのは、衝突だけで終わらず、最後まで納得いくまで話し合うこと!
    根気よく!いいことも悪いことも言い合えなきゃ、本当の友達なんか到底程遠いわよ!!
    嫌われることを怖がってたら、今のその結界の中みたいに、何も前に進めないわよ!

モコ: …確かに、君の言う通りだね。
    でも…僕は…

リサ: ……こんな所で死ぬくらいなら、私のために生きなさい!

モコ: え?

リサ: 契約よ!!その甘垂れた根性、こんな生ぬるい空間で生きているからできちゃうのよ!
    もっと広い世界があることを、私が見せてあげるから、もう一度立ち上がりなさい!

モコ: 契約って…もう何でもいいですよ…。どうせ…ここから、出られないんだ。
    クロマも、二度とここには来ないよ。
    もう、幻覚でもなんでもいいから、君も僕の前からいなくなっていいよ…

リサ: じゃあ、契約成立ね!
    というか、まだ私のこと幻覚だと思ってんの?!ふざけんな!!

モコ: 痛!!

リサ: あんたの頭!叩いたの!これでも信じられないの?!

モコ: 嘘…

リサ: ええい!いい加減、これも、もう邪魔ね。
    いくわよー?
    …えぇええええいいいい!!!!!!とりゃあああ!!!!!

モコ: ?!
    …え?!

リサ: …約束どおり、話、してくれたから…開けたわよ?

モコ: あの結界を…?君は一体…何者なの?

リサ: 私は『リサ』。
    さっきの結界を、遊びで作ってここに放置してた張本人よ。
    あなたは?

モコ: え?

リサ: あなたの、なーまーえ?

モコ: 僕は…モコ、です

リサ: じゃあ早速、モコ?
    これから、クロマって奴に会いに行きましょ

モコ: …え?

リサ: 悪いことしてるんでしょ?その人。
    じゃあ、ちゃんと、それ言ってやんなきゃ、きっとその人、自分が悪いことしたって分かんないよ?

モコ: あなたは…一体…?

リサ: あなたじゃない。『リサ』よ!!
    さぁ!!飛ぶわよ!!

モコ: え?ちょ?!リサさん?!
    これって…!!

リサ: 転移の術式!しかもかなり高難易度のね!
    身体持ってかれないように気をつけて!

モコ: わ!!早っ!!息ができない…ってどこに向かってるんですか!!

リサ: モコが強く思い浮かべる所なら、どこへでも!!
    さぁ、願いなさい!!

モコ: 願いなさいって?!…急に言われても、どうすればいいのか分かりませんよー!!

リサ: あんた賢いんでしょ?頭動かせるんでしょ?!
    あんな中に居たから、脳味噌固まっちゃった?!
    んなわけないでしょ?!
    ぐだぐだしてるのは、嫌いなの!とっとと、頭、働かせなっさっいっ!!!!!

モコ: !!痛っ!!
    わかりましたよー!!わかりましたから!!リサさん!もう叩くのやめてください!!

リサ: さぁ行くわよ!そぉおおれ!!!!!






ミキ: よいしょ…よいしょ…。
    今日はこれくらいで、足りるかな…?
    ピヨの助、いっつも食べすぎなのよ、そろそろここら辺りのミミズいなくなりそうだな?
    モコが作った土があるの、ここしかないし…ミミズもここにしかいないよね、きっと?
    …おじさんも帰ってこないし。
    クロマさんまだ、連続爆破魔の犯人捕まえてくんないのかなー?
    モコも…まだ事情聴取されてるし…遅いなぁ…。
    あれから、事件はなくなってるみたいだから、少しだけ安心してるけど…まだ犯人いるんだよね…。
    怖いなぁ…。
    あ、そういえば…モコが実験用の花壇に…大きなミミズがいるって言ってたな…。
    ちょっと探してみようかな…

クロマ:やぁミキちゃん、元気?

ミキ: あ、クロマさん。いらっしゃい

クロマ:今日もピヨの助のエサ探し?

ミキ: そうなんです。
    おじさん戻ってこないし、鳥用のフード取り扱ってるの、おじさんの店しかなかったので…

クロマ:大変だねー?俺も何か手伝おうか?

ミキ: いいんですか?

クロマ:もっちろん!俺はミキちゃんの味方だからね!

ミキ: それじゃあ…ここの辺りの、土の中に、大きいミミズがいると思うので、一緒に探してもらっていいですか?

クロマ:おっけー。
    じゃあ、俺の念力でちょちょいのちょいっと…

ミキ: ダメです

クロマ:え?なんで?

ミキ: 魔法の力を、この土に与えないで下さい。
    強いエネルギーで、大事な菌や虫達が死んじゃうから、ダメなんです

クロマ:『土』って、この茶色いこの、砂だよね?
    …ふーん。これも、モコが作ったの?

ミキ: そうです

クロマ:変なものばっかり作るんだな。
    ってか、菌とか入ってるって言った?
    ヤバイじゃんこれ!手大丈夫かな…?

ミキ: 菌っていっても、良い菌、悪い菌、様々にあるんですよ。
    この土の中にいる菌は、安全な菌です

クロマ:そう、なんだ…

ミキ: あ、ただし、傷口があると、病気になる菌も…

クロマ:全然安全じゃないじゃん!!

ミキ: でも傷口がなければ、全然問題ないですよ?

クロマ:怖いなー…なんてものを作ってやがるんだ…全く

ミキ: クロマさんは、モコのこと、まだ嫌いですか?

クロマ:…どうして?

ミキ: 昔はあんなに仲良かったのに、大きくなっていくにつれて、どんどん、距離が離れていくように見えたから…

クロマ:そうだね。少なくとも、好意は持っていなかったかな

ミキ: それは…兄が、優秀だから、ですか?

クロマ:それも…あったけど、それだけではないかな?

ミキ: 私から見れば、二人共すごく賢くて、勉強熱心で、真面目で…自慢の二人だったのに…。
    私は二人のこと…すごく大好きだったのに…

クロマ:…二人…ね。
    能力は人一倍…というか、桁外れにモコの方が優秀なのに、同列の表現を用いなくてもいいんだよ?

ミキ: そんなことっ…私はそんな風に考えてなんていません!!

クロマ:どうだかね…?

ミキ: …クロマさんは、私を信じてくれないんですか?

クロマ:ミキちゃんの言うことは信じるさ?
    でも、モコのことは信じきれないな

ミキ: どうして?あんなに親友だった二人がなぜなんですか?

クロマ:親友?どこ見て言ってるの?ミキちゃん?
    そうだ…ミキちゃん?
    俺のこと好き?

ミキ: …いきなり、何ですか?

クロマ:さっき二人のこと好きって言ってたでしょ?
    僕も、ミキちゃんのこと大好きなんだ

ミキ: …冗談

クロマ:冗談でこんなこと言わないよ?
    本気で、今、俺、ミキちゃんに言ってる

ミキ: クロマさん…

クロマ:何度も言って、聞き飽きたかもしれないけど…。
    俺の家、来ない?
    こんな、モコがいない時期に、こんな風なこと言ったらダメなのかもしれないけど…。
    今しかないかな、って思ってさ。
    …どう?ミキちゃん?考えてくれる?

ミキ: …えっと…私は

クロマ:そんないきなり返事をくれなんて言わないから、安心して!
    そりゃ早く返事がほしくない…なんて嘘は言えないけど、急がなくていいから…

ミキ: そうですか…?

ピヨの助:ピヨ!ピヨ!!ピヨヨーヨー!!!!

ミキ:  あ、ピヨの助…お腹空かせて鳴いてる。
    先に、これ、あげにいっていいですか?

クロマ:もちろん

ミキ: あ

クロマ:どうしたの?

ミキ: ミミズが、下に。
    …これがモコが言ってたミミズ…

クロマ:ん?金色の極太…のミミズ?
    気色悪いな…

ミキ: そうです?これも…よいしょ。
    それじゃ、ピヨの助にあげてきますね

クロマ:うん。あげ終わったら…さっきの返事聞いていいかな?

ミキ: …分かりました

クロマ:…

ミキ: ピヨの助ー。今日のご飯だよ。
    今日は、これ。モコから貰ったことあるんじゃないかな?
    金色の極太ミミズもいるよ?

ピヨの助:ピヨ…?ピヨヨ?!ピーヨ!!!ピヨヨヨヨヨヨヨーーー!!!!!!!!

ミキ:  わ、いきなし何?!…すっごいこんなに喜んで!…ほんとに、好物なんだねー。
    美味しそうに食べてー…良かったね

クロマ:ほんとに美味しそうに食べてるね。
    そんなに急いで食べたら、喉つっかえちゃうよ?ピヨの助?

ミキ: クロマさん…

クロマ:ごめん。やっぱちょっとの時間も待てなかった。
    俺我慢できなかったわ。
    だから、来ちゃった

ミキ:  そう、ですか…

クロマ: ……

ミキ: 私は…クロマさんのこと

クロマ:うん

ミキ: あの…好きなのは好きでも…そういう好きではない、です

クロマ:…

ミキ: 嫌いじゃないです。でも、クロマさんの家に行く事は…できないです

クロマ:…

ミキ: ……すみません

クロマ:…

ミキ: …

クロマ:…モコのせいか?

ミキ: え?

クロマ:モコがいるせいで…俺のこと、好きになれないんだな?

ミキ: …何を…言って

クロマ:モコが俺よりも賢くて、手先が器用で、テストの点もよくて…優秀だから、俺はダメなんだな?

ミキ: そんなんじゃないです

クロマ:…そうやって、嘘つかなくていいんだよ?
    モコと比べて、クロマさんは魅力がないですってはっきり言えよ!!
    何にもないって言えばいいだろ!!

ミキ: そんな…こと…っ

ピヨの助:ピヨ!ピヨ…マ、ピヨマ…ピロマ…ッ!……クロマ!!!

ミキ: え…?

ピヨの助:クロマ、モヤシタ!クロマ!!モヤシタ!!!

ミキ: !!…え?!ピヨの助?

クロマ:…お前

ピヨの助:クロマ!モヤシタ!!ミタ!チカラ!!ツカッタ!!

ミキ: ピヨの助…?なんで、しゃべれるの?

ピヨの助:モコ!モコ!!モコ!!!

ミキ: モコが…?

ピヨの助:モコ!クル!イマ!!クル!!!ミキ!!モコ、クル!!!!!

クロマ:来れる訳ないだろ…。
    だって今あいつは…閉じ込めて

ピヨの助:クル!!!モコ!!!!キタ…キター!!!!!!!

クロマ:!!

ミキ: !!

モコ: 痛てててて…ほんとに、着いたし…。
    どんな仕組みなんだよ、あれ。…いてて…

ミキ: モコ!!

モコ: ミキ…?ミキ!!!

ピヨの助:モコ!キタ!!クロマ、モヤシタ!オヤジ、カクシタ!!!

クロマ:おい、いい加減に、このアホ鳥の口黙らせてやろうか…

リサ: そうはさせられないわね

クロマ:…誰だ?

リサ: あなたが、クロマさんなのね?

クロマ:…あぁそうだが?

リサ: 数ヶ月前までは新人だった警察の方ね?
    噂では…。今や…この地域を管轄する警吏部長にまで、異常な昇進を遂げているって聞いたわ

クロマ:…そうだけど。『異常な』っていうのが、一言余計かな?
    俺は、連続爆破事件の犯人を予測し、隔離することで、事件の早期解決に貢献した実績があるからこその、今の地位だ。
    何も異常なものではない、正常なものだと思うよ?

リサ: それで?その犯人を『モコ』と仕立て上げたつもり…だったって訳ね?

モコ: つもり…?って?どういうことなの?

リサ: 今実際、警察で上げられてる事件の犯人は、別の人なのよ

ミキ: え?

クロマ:そこの女の言うことは…でたらめだ。
    何の根拠もない、どこからきたかも分からない女の意見と。
    今や警吏部長の俺の意見、どっちを信じる?
    もちろん、俺の方だと思うけどなー普通は

リサ: そいつの言うことを信じても構わないけど?
    でも、私が知りうる情報では、今犯人として、警察署内で拘束されているのは…。
    最後の爆破が行われた店の店主さん…。
    近所では…ガミガミおじさん…って呼ばれてたらしいわね?

ミキ: …おじさんが…?
    そんなこと、一言も…クロマさん言ってなかった

リサ: そうね?あなた達兄妹は、少しこの世界の文明社会からかけ離れたところに住んでるって有名だもの。
    最新で、正確な情報は、電子情報網では公開されていても、見てなきゃ意味ないものね?
    家と、あの店との往復で、ほぼ生活のサイクルが成り立っているあなた達だと、気づかないのも無理ないわね

ピヨの助:クロマ、ワルイ!クロマ!!モヤシタ!!

モコ: ミキ…金色の極太ミミズ、見つけてくれたんだな?

ミキ: …うん。さっきあげたら、突然ピヨの助がしゃべりだすようになって…

ピヨの助:モコ!オソイ!!クロマ!モヤシタ!!オヤジ!!カクシタ!!!

モコ: はいはい、分かった分かった。
    ピヨの助は…見たんだな?

ピヨの助:ミタ!!ゼンブ!ミテタ!!クロマ、モヤシタ!!!オヤジ、カクシタ!!!

クロマ:まさか…そんな鳥の戯言を信じる気なのか?
    どうせ、モコのお得意の魔法で言わせてるんだろ?

ミキ: モコ…これは一体…

モコ: 動物が人と同じように話すことができる様になる物質を、魔法で封じ込めて、このミミズに仕込んでおいたんだよ

クロマ:まさか…

モコ: 別にこんなことを暴こうとしていて、準備していた訳ではないよ?
    前に、このピヨの助が、おじさんの所でギャーギャー鳴いてて、僕に訴えかけてきてさ。
    何か伝えたいことがあるのかなって、思って、家に連れ帰って、これを作ったってわけ。
    …まぁ、伝えたかったことは些細なことだったけどね?

ミキ: ピヨの助の伝えたかったことって何だったの?

モコ: 「ご飯がフードばかりでおいしくないから、新鮮なミミズをくれ!!」ってさ?
    それで、『ミミズ』が、まず何なのか分からなかったから、本で調べて、隣の国の資料まで調べだしてさ。
    まず、この国には『土』というものが存在しないんだからねー。もう作るの大変だったよ

リサ: よくそんな資料を手に入れることができたわね

モコ: それはねー?夜にちょちょいと国立図書館の方に進入させてもらってね?

リサ: あの結界網を突破できたってことは、一応口だけではないってことか

モコ: とにかく。
    クロマ…なぜこんなことをしたんだい?

ミキ: クロマさん…本当に、あなたが全部やったんですか?

クロマ:…そんな目で、見ないでくれよ。ミキちゃん

ミキ: …

リサ: 警察官の身である、あなたが、なぜこんなことしたのか。
    私としても興味あるわ。話しなさいよ

クロマ:よく分からない女の子にまで、俺に興味を持ってもらえるなんてねー。
    光栄光栄。

モコ: クロマ…

クロマ:どうして、俺が犯人だと思ったんだ?
    何か証拠でもあったのか?
    警察が調べに調べても、何にも証拠は上がってこなかった

モコ: それは…おじさんの家が燃えた時…クロマが「中に誰もいない」って言ってたから…

クロマ:は?そんなんじゃ証拠にもならないな?
    俺が、あの家を燃やしたって言ってるのは、そこの鳥が「俺を見た」っていう証言だけだな?
    それじゃ、誰も信じないぜ?

モコ: そうだな…お前が犯人だっていう証拠は…ないよ

ミキ: モコ…

クロマ:だったら…

モコ: でも

クロマ:?

モコ: お前が犯人じゃなかったなら…なぜ僕をあの牢屋に閉じ込めたんだ?
    なんで、こんな嘘をついて、この状況があるんだ?

クロマ:…

モコ: 黙ってちゃ、わかんないよ

クロマ:邪魔だったんだよ…

モコ: え

クロマ:俺より、力がある癖に、そうやってのうのうと暮らしやがって…。
    俺がどんだけ、お前に落胆したのか、知ってるのか?
    いつも父さんに「お前を超えろ」って腐るほど言われ続けて!!
    お前の背中を追っかけ続けた俺の気持ちを!!

ミキ: クロマさん…

クロマ:ミキちゃんにも迷惑かけて、お前兄貴の癖になにやってんだよ!!
    近所で変人扱いされてんだぞ!!全部、それをミキちゃんが庇ってんだぞ?

リサ: 全部、モコのばかりね?あなた

クロマ:え?

リサ: 他人を言い訳ばかりに使って、自分のことには、全然反省がないの?

クロマ:そんなこと…ない。
    俺は、警察で必死にやってきた…。必死なんだ!!
    早く昇進して、立派になって、父さんを納得させて…っ!!

リサ: それで必死になって、他の人の家を燃やしたって?

クロマ:貴様…

モコ: ちょっと!煽ってどうするんですか!

リサ: だって事実よ?
    家燃やして、その人の人生狂わせておいて、言い訳だらけ過ぎて反吐が出るわ。
    人を殺さなかったら、何でも良いって思ってんの?
    馬鹿言うんじゃないわよ!!
    自分よがりな勝手な言い分で、あんたはどんだけの関係ない人を巻き込んでんのよ?!

クロマ:それは…全部、モコのせいで…。
    俺の人生を狂わせたのは、全部こいつの…

リサ: 違うでしょ?そうじゃないでしょ?
    わざと事件作って、あんたはそれを取り調べて、結果作って昇進しようと考えたんだったら…。
    分かるでしょ?…分かんないんだったら…あんた、頭湧いてるんじゃない?

クロマ:俺は…俺は悪くないっ

モコ: っ!!

ミキ: モコ?!

クロマ:…お前?

モコ: …もっと早く、こうやって殴っとくべきだったんだ。
    でも、また…友達じゃないとか、同情なんだろって言われるのが、怖くて…。
    お前が悪いことをしてても、見てみぬ振りしてた。
    それが優しさなんだって…勘違いしてた

ミキ: おにいちゃん…

クロマ:いつだって…お前は、俺が悪いことしてても、何も言わないで…。
   その 余裕ぶってる態度が…余計に俺を苛立たせて…っ!!
    イライラすんだよ!そういうの!!
    何一つ悩んでないで、平凡に暮らしやがって…!!

ミキ: そんなことないよ、クロマさん

クロマ:ミキちゃん…?

ミキ: おにいちゃんだって悩んでた。
    クロマさんは十分立派な魔術師なのに、僕と比較され続けて、かわいそうだって。
    でも、だからといって、手を抜くわけにはいかないって。
    手加減しても、クロマはそんなことしても喜ばないし、何より、『友達』にそんな手加減なんかする訳ないって

クロマ:友達…

ミキ: 余裕なんかじゃなかったよ?
    クロマさんに負けないように、毎日勉強してた。
    クロマさんの真似だってしてた。どうやったら、あんな風になれるんだろって?
    クロマさんに見せてないだけで、おにいちゃんは、いっぱい努力してた

クロマ:嘘だ…。
    モコはいつも完璧で、天才で…

ミキ: 残念。
    おにいちゃんは、ごく平凡だったけど、いいライバルがいたおかげで、こうなっただけですよ?

クロマ:ライバル…

リサ: それが…あなたって訳ね?

クロマ:…俺は…

モコ: クロマ…。
    全部、お前がやったんだろ?

クロマ:………俺の………負けだよ

リサ: …連続爆破魔事件。犯人、確保ね。クロマ・クデス?

ミキ: クロマさん…本当にあなたが…?

クロマ:ごめんね、ミキちゃん

ミキ: もっと…相談してくれれば良かったのに。
    そんな不安抱えてるなんて、私、気付けなかったっ…

クロマ:ミキちゃんが、悩む必要なんてないよ。
    俺が…焦って…、一人で馬鹿しただけなんだから

モコ: クロマ…僕は…

クロマ:そんな顔すんなよ?
    俺、なんも分かってなかったわ…。
    ほんとに自分勝手で…いろんな奴に迷惑かけた。
    こんなことのために、力使ってるようじゃ…ダメだな

モコ: …あの時

クロマ:ん?

モコ: おじさんの家が燃えてた時。
    ミキが入るの止めてくれて、ありがとな

クロマ:…

モコ: あの時、もしクロマに会わなかったら…。
    犯人だとは思わなかったと思う。
    ミキが、あの日おつりをちゃんとおじさんから受け取っていたら…。
    僕達は何も気付かないままだったと思う。
    そっちの方が…良かったのかもしれない。
    でも、僕は、今の方が良かったなって思うんだ。
    悪いことをしたらダメだろって言うのは、『友達』の役目だと思うから…

クロマ:…モコ。
    こんなことをしても、まだ俺のこと『友達』って呼んでくれるのか?

モコ: ……あったりまえでしょ!
    そのかわり、家燃やしちゃった人には、ちゃんと謝って、きちんと直すこと!
    家ってすごい値段するんだからね!返すためには、これからもっと必死に働かないとだよ!
    後!ピヨの助は死ぬかもしれなかったんだから、もぉぉっと詫びいれないと!!

ピヨの助:ホント!!ワビ!!イレロ!!ワビ!!ミミズ!!ミミズ!!!

モコ: そうだね?毎日、ミミズを献上しに行ってあげな。
    ミミズの増やし方、教えてあげるから…。
    それでいいよね?ピヨの助?

ピヨの助:ミミズ!!イイ!!スゴクイイ!ユルス!!

クロマ:ありがとう

リサ: そんじゃ。…クロマさんを、国立警察所に引き渡してくるね。
    それと、今捕まってるおじさんも解放してもらうように、私から話をしてくるよ?

モコ: いやいや、リサさん!そこまではさすがに、手を煩わせませんよ!
    ここまで、送ってもらいましたし…色々後押ししてもらい、本当にありがとうございます

リサ: なーに言ってんの、気にしないで。
    それに…早く解決して、隣の国行きましょ

モコ: え?いきなり何言ってるんですか?

リサ: 「もっと広い世界があることを、私が見せてあげる」って…言ったでしょ?
    何?もう忘れてるの?忘れたとは言わせないんだから、早く用意しておきなさいよ!

ミキ: おにいちゃん…このリサさんって一体何者なの?

モコ: それは、僕が一番知りたいくらいで…!
    結界簡単に解除しちゃうし、こんな空間転移の仕方なんて聞いたことないし!
    もう、全部がはちゃめちゃなんだよ!

リサ: はちゃめちゃとは、酷い言われようね。
    ちゃんと、魔術の規則に従って、正確に配列したやつを、ちょっと自分なりにアレンジしてるだけなのに

クロマ:リサ…?リサってまさか。
    この魔法大国サダクビア国の…国家魔術連盟No.1と言われている…魔法の使い手の…リサ・サダクビア?

ミキ: 有名人、なんですか?

クロマ:有名っていうレベルじゃないよ!!
    だって…この国のお姫様だよ!!

ミキ: え…

モコ: お姫…さま?!!!
    まっさかー冗談でしょ?!

クロマ:王様のご子息の中で、一番魔術に長けてて、王様を超える力もあるって噂されてるくらいで…。
    容姿端麗、唯一の女性!って、聞いてたけど…、まさか本物を見るなんて…信じられない

リサ: そんな噂があるんだー。知らなかったわ

モコ: ほんとにほんとの本物…なの?

リサ: そうよ?私はリサ・サダクビア。
    最初に会ったとき、自己紹介してなかったっけ?

モコ: そんな詳しいこと、聞いてませーん!!

リサ: 地下で騒がしいから、見に来たって言ってたじゃない。
    私の家の下で何してんだろ?って思うでしょ?普通?

モコ: 家の下って…城…。ほんとに、正真正銘のお姫様なんですか…?!

リサ: とにかく!そんなこと、今はどうでもいいの!
    じゃ!今から30分したら、戻るから!準備しとくこと!
    じゃあね!ミキちゃんも、お兄さんの尻叩いといてね!

ミキ: あ、はい…

モコ: え?ええええ30分って、ちょっとリサさん?!

リサ: 私のために生きてくれるって契約…したでしょ?
    んじゃ、よろしく!とぉっ!!!

ミキ: わ…一瞬で…消えちゃった…

モコ: 契約は…しちゃったけど…確かにしちゃったんだけど!
    30分って…ええぇ、ちょっと色んなことにびっくりして頭整理追いつかないよ…

ミキ: おにーちゃん

モコ: サダルスウド国には行きたいって…確かに、この間言ってたけど…まさかこんな形で…行くことになるなんて…。
    いやいや本当に行けるのか?壁壊さないと行けないんだよ?!
    でも、あの人の力なら、何でもできる気がするな…どうしよう…何持ってこ…ええと…

ミキ: おにーちゃん!!!

モコ: ふぇ!!…あ、ミキ、どうしたんだい?

ミキ: ………おかえりなさい…お兄ちゃん

モコ: …!!
    ………ただいま、ミキ






ケイ: そんなことが、あったんですね…

モコ: そうそう!それで、本当に30分後にリサさんが現れて、ほんとに壁あっさり壊しちゃうし!
    んで、こっちの世界、サダルスウド国に僕は来たんですよ

ケイ: リサさんが「拾ってきたよー」って言って、家に帰ってきた時は、僕もびっくりしましたよ。
    まさか『人間』を拾ってくるとは、考えもしませんでした

モコ: それからー僕は、リサさんの小間使いのように扱われて…!
    散々でしたよ!

ケイ: でも、僕には楽しそうに見えましたよ?

モコ: まぁ、こっちの世界は新しいことばかりでしたから!
    空がこんなに高い所にあるものだなんて知らなかったし、ピヨの助の仲間はそこらじゅうに普通に飛んでるし。
    暑かったり、寒かったり、大変だけど、色んな花が、その時期によって色んな顔を見せるし。
    僕の世界には、なかったことだらけで、驚きの連続でしたよ!!

ケイ: 僕たちの仕事もいっぱい手伝ってもらって、ほんと、モコさんのおかげで色々助かってます

モコ: 僕も、ケイさんに色んな美味しい料理ごちそうしてもらって、感謝感謝ですよ?
    そういえば…リサさんはこっちの世界に、僕が来る前に来てたんですよね?
    リサさんは、なんでこっちに来ようって思ったんだろ…?

ケイ: それは、僕も…詳しいことは知らないんです。
    自分の国ではお姫様をやってて、魔術が使えるって聞いただけで…

モコ: 最初、『お姫様』って言われて、驚かなかったの?

ケイ: んー?魔術は初めて見たときは感動しましたけど、リサさん自体には、別に驚かなかったですね。
    どこからどうみても、普通のかわいい女の子でしたから

モコ: かわいいって?こんなにも乱暴なのに?

ケイ: それはモコさんにだけですよ、きっと

モコ: よーろーこーべーなーいー

ケイ: ふふふ……あ、話聞いてたら、もうこんな時間ですね?

モコ: あれ?もうお昼になっちゃったんだ。
    話、してたら、全然気付かなかったー。
    それじゃ、今日のとこはここらへんでおいとましますよ

ケイ: はい。今日は、本当にありがとうございました

モコ: はいはーい。こちらこそ!
    こんなに弱ってるリサさん見れて、にやにやできたので非常に満足です!
    また、何か変化あったら、いつでも呼んでくれたら、ぴゅーんっと契約どおり参上しますので、よろしくおねがいしまーす

ケイ: 分かりました。では

モコ: ではでは!えいっ!!

ケイ: ……

リサ: …モコ、行ったの?

ケイ: 今帰ったよ。
    ちょっと起きて、薬飲もっか?

リサ: 激ニガニガ丸…だよね?
    飲まなきゃダメ?

ケイ: そうだねー?
    飲んで早く良くなってもらわないと、お仕事の助手さんがいなくて、僕たいへんだなー?

リサ: …う…分かりましたよ!!
    ケイさん。水ください

ケイ: はい、どうぞ

リサ: …いきます。
    ごくん………。
    !!

ケイ: 大丈夫?

リサ: …甘い?

ケイ: 苦くないの?

リサ: 甘くて、おいしい…

ケイ: もしかして…モコさん…リサさんのために、改良してくれてたのかな?

リサ: モコのやつ…

ケイ: 激アマアマ丸で良かったね。
    早く元気になって、お礼しにいこうね?

リサ: …そうですね


モコ: ふふふ~ん。苦い薬も、周りに甘ーい砂糖をコーティングすれば、おいしくなるよね?
    今頃、リサさんも飲んでくれてるかなぁ…?
    あ。これなら薬嫌いなミキでも、飲めるようになるかな!
    今度行くときに、加工の仕方教えてあげよっと!!
    ネズちゃんも、今度あっちに行く時は連れて行ってあげるね!
    ピヨの助とも、きっと仲良くなって、たくさんつついてもらえるよー?
    あー大丈夫だって、ちょっと痛いだけだから!
    もしつつかれて怪我したら、クロマが治してくれるから大丈夫だって!
    良いお医者さんになったんだよー?
    お父さんの跡継いで警察官になった時より、今のお医者さんの方がいっぱい笑うようになってね!
    まさに天職って感じで!僕も鼻が高いよー!
    二人共、次、会える日が楽しみっだなー!!ふふふ~ん



     
 
           
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