題名  公開日   人数(男:女)  時間  こんな話  作者
誓いのピアス 2016/05/01  3(2:1) 25分 過去に囚われず、希望を忘れないで  りり~

♀:ナミエ:24歳:清楚な女性。美大出身。現職は外資系企業の受付嬢。
♂:ユウイチ:27歳:ナミエの3人目の現在の彼氏で、同僚。容姿とステータスに自信がある。器用貧乏。
♂:ヒロ:20歳:ナミエが大学時代1年間付き合っていた、2人目の元彼。見た目はチャラいが、中身は誠実。

♂:元彼:??歳:出番は無し。ナミエが高校時代付き合っていた、1人目の元彼。バスケ部のキャプテンで人気者。DVストーカー男。



『誓いのピアス』



ナミエ :別れましょ

ユウイチ:え? …今なんて?

ナミエ :私達、別れましょ。…部屋の荷物は全部、明日、処分業者に来てもらうようにするから。それじゃ

ユウイチ:ちょっと待って、急に、何言ってんの? 俺、今、お前に”結婚しよう”って言ったんだよ?

ナミエ :お前じゃない、私はナミエ

ユウイチ:そうだけど。いや重要なところはそこじゃないでしょ

ナミエ :ちゃんと聞いてたよ。1年間今までありがとうね

ユウイチ:もしかして浮気か!?

ナミエ :…なんで、そうなるのよ?

ユウイチ:それは……”これ”が、この前、部屋の隅に落ちてたから…

ナミエ :え、…それって…? 私、ずっと探してたの! 良かった! ユウイチ、ありがとう!

ユウイチ:誰からのプレゼントだ

ナミエ :…え?

ユウイチ:穴なんて、いつ開けたんだ? しかも高そうな”ダイヤのピアス”だこと

ナミエ :返して!

ユウイチ:まだ、話は終わってない

ナミエ :…それは……昔の彼氏に、もらったものだよ

ユウイチ:元彼と復縁したってことか

ナミエ :違うよ!

ユウイチ:じゃあさ。本当の理由聞かせてよ。このままだと俺、何も分かんないままだろ?

ナミエ :…分かった

ユウイチ:…

ナミエ :……私さ。昔高校の頃に付き合ってた彼氏のこと、ユウイチに話したことあったよね?

ユウイチ:うん。聞いたよ。そいつのせいで、俺、ナミエと手を繋ぐことすら、まだできてないからなー

ナミエ :ごめん

ユウイチ:分かってるよ。それを分かった上で、付き合ってたんだ

ナミエ :…このままの自分じゃダメだって、思って…大学の時に、友人に合コンに連れてってもらったんだ。
     でもね、やっぱり途中で気分が悪くなっちゃってね。こっそり抜け出そうとしたの。
     そしたら、隣に座ってた人が、それに気付いたみたいで追いかけてきちゃって。
     どうしようって思って、焦ってたらね…









ヒロ  :わぁっと! どうしたの! そんなに急いで

ナミエ :すみません! ちょっと今逃げてて!

ヒロ  :え? でもそっちトイレだよ? 行き止まりだよ?

ユウイチ:ナミエさーん? そっちにいるんですかー?

ナミエ :え? どうしよう…私

ヒロ  :こっち!

ナミエ :キャ!

ヒロ  :シッ! …静かに

ユウイチ:あれ…こっちに来たと思ったんだけどな? ナミエさんー? ナミエさーん

ナミエ :…

ヒロ  :…っと、行ったかな? ごめんね急に…ってあれ?

ナミエ :(泣き出す)

ヒロ  :え! ごめん! 驚かせちゃった? それか…怖がらせちゃったかな?
     あああ、涙拭いて、こんなティッシュしかないけど!

ナミエ :いいえ! 私が悪いんです! 気にしないでくださいっ

ヒロ  :俺が悪いに決まってるじゃん! 急に、こっちに抱き寄せちゃったりしたから…

ナミエ :もう大丈夫です…ほら! 涙止まりましたから! …ね?
     気を遣って下さって、ありがとうございます…(泣き止めていない)

ヒロ  :………俺、責任とるよ

ナミエ :…え?

ヒロ  :こんな風に泣かせたの、俺のせいだから。…最後までめんどうみるよ

ナミエ :ちょ! ちょっと待ってください! 何もそこまで!

ヒロ  :俺、ヒロって言います。これからよろしくおねがいします!

ナミエ :私はナミエ…じゃなくて。いやいや! 顔をあげて下さい! そして話を聞いてください!
     …私が、泣いちゃったのは! 別に、あなたのせいじゃないんです!

ヒロ  :…え?

ナミエ :私が元々、人に身体を触られるのが苦手で…勝手に涙が出ちゃうんです。
     すみません。だから、あなたは悪くありません。
     ……私、昔好きだった人にね。DVされてたことがあるんです。その時から、こんな風になっちゃって…。
     こんな自分、なおさなきゃって思って、合コンに来たのに、結局逃げちゃうし。
     しかも、赤の他人のあなたまで巻き込んでしまって…本当に、ごめんなさい

ヒロ  :…

ナミエ :…そろそろ、部屋に戻ります。友達に心配かけてると思うので…

ヒロ  :だめだよ、ナミエさん

ナミエ :え?

ヒロ  :俺、”責任とる”って言ったでしょ?
     それに、その場所から抜け出したくて、逃げたんでしょ?
     じゃあ、戻っても苦しいだけだろ? なら、一緒に逃げよ!

ナミエ :え、何言ってるんですか!

ヒロ  :俺も、そろそろ、ここのバイトやめたいって思ってたんだ。
     人使い荒いし、残業代でないし! 行くよ! ナミエさん

ナミエ :そんな…困ります!

ヒロ  :じゃあさ、これならどう?
     ……俺がナミエさんに一目ぼれした!

ナミエ :え…?

ヒロ  :だからさ、俺達付き合おう?

ナミエ :そ、そんな…急にそんなこと言われても…困ります

ヒロ  :やっぱ、俺チャラいし、難しいかー。
     んー? じゃあさ! 俺はナミエさんに、指1本触れない! 約束する!
     暴力なんて絶対しない! 怖い思いもさせない! えっと他には…

ナミエ :あの!

ヒロ  :ん?

ナミエ :どうして、見ず知らずの人に、そこまで気をかけてくれるんですか?

ヒロ  :だって…もったいないじゃん。こんな可愛い子放っておける訳ないでしょ!
     だから、そのための、丁度いい口実を作ってるってだけ…かな

ナミエ :…何ですか、それ

ヒロ  :人の出会いのきっかけなんて、そんなもんでしょ?
     こんな馬鹿な男だけど、利用したっていいからさ?
     好きにならなくてもいい…いや本当は好きになってほしいんだけど、でも…ってああそんなことは、この際どうでもいいの!
     これは勝手な俺の感情だから! 嫌になったらすぐポイしていいから!
     だからさ……何でもいいからさ? 頼ってよ

ナミエ :…ヒロさんって

ヒロ  :ん?

ナミエ :…ほんと、馬鹿ですね。 ほんと…笑っちゃうくらい大馬鹿だ

ヒロ  :…。馬鹿馬鹿言いながら、目に涙を浮かべて、喜んでくれるナミエさんも、相当大馬鹿だよ。
     ありがとな。…これからよろしく

ナミエ :うん…。うん









ナミエ :その後、着の身着のままに、私の家に上がりこんできて、びっくりしたけど。
     ほんとにヒロは、私に対してあれをしろ、これをしろとも言わないし。
     優しくて、家のこともしてくれて、自然と、そこにいてくれた…そばに居てくれたんだ

ユウイチ:へぇ…。でも、よくそんな変な人、ナミエもすぐに家に入れたね?
     なんか俺の時とは大違いだな。ちょっとショック

ナミエ :ごめんね

ユウイチ:いいよ。俺、ナミエにかなりしつこく迫ったからさ。
     嫌われなかっただけ、マシだと思っとく。
     …それで、ヒロさんとは何年の付き合いだったの?

ナミエ :ちょうど1年…かな

ユウイチ:俺と一緒か

ナミエ :その間にもね。また…元彼から連絡来るようになって、
     ”学校に来た”とか、”ナミエの絵見たよ”とかメールが徐々に増えてきてね。
     …ずっと無視してたんだけど、バイト先に直接来た時があって…

ユウイチ:それ怖! 本当にしつこい奴。
     …それで? 何か言われたの?

ナミエ :外で大声で叫ぶし、だんだんエスカレートしてきて。
     裏口から早退させてもらって、家には帰れたんだけど。
     でもね…後をつけられちゃってて、住んでる場所がばれちゃったんだ。
     家のドアをゴンゴン叩いて言うの。”俺が悪かったよ、怒らないからドアを開けてよ”って

ユウイチ:そんなの警察呼ばないと! ヒロさんは?

ナミエ :私もう怖くて、身体が震えて…気が動転しちゃってて、何も連絡できてなかったんだ。
     泣きそうになってたら、突然ドン、って大きな音が部屋中に響いたの。
     もう、終わりだなって思った。
     ドアを叩き割ろうとしてるんだって思った。…でも、その後から、声がしなくなってね。
     …しばらくしたら、ドアがゆっくり開く音がしたの。そしたら…









ヒロ  :どうしたの? そんな毛布にくるまって。今、季節、夏だよ

ナミエ :…ヒロ?

ヒロ  :ちょっと欲しいものがあったから、外出てた。
     あいつもタイミング悪い時にくるんだから。
     怖い思いさせないって言ってたのに…ごめんな

ナミエ :ヒロ…ヒロ…っ! ヒロ!

ヒロ  :おっと! よしよしよし…落ち着いて。
     俺はここにいるから

ナミエ :…ヒロ

ヒロ  :ナミエ、大丈夫だよ。もう、あいつはいないから

ナミエ :うん…うん

ヒロ  :そんなに顔寄せたら、俺の汗臭いの移っちまうぞ、ナミエ

ナミエ :…ヒロのだから、いい

ヒロ  :…はぁー、情けない

ナミエ :?

ヒロ  :ナミエがこんなに怖がって泣いてるのに…今、俺、キュンってしちゃった。
     …そんなタイミングじゃねぇだろって思ってさ

ナミエ :ヒロ…

ヒロ  :出会ってから…今日でちょうど1年だろ、俺達。
     こんなにも長い間一緒にいたのに、こうやって、近くにいるのは、はじめてだな

ナミエ :…そうだね

ヒロ  :怖くないか? 俺のこと

ナミエ :大丈夫だよ。…ヒロなら怖くないよ

ヒロ  :そっか。”指1本触れない”って約束、破ったって言って、追い出されなくてよかった

ナミエ :そんなことするわけないじゃん。もう、ヒロは私にとって、大切な人だよ

ヒロ  :俺もだよ。…あ、そうだ。忘れてた。
     さっきコンビニで、ハーゲン買ってきたんだよ。
     ナミエ、抹茶好きだろ? スプーン取ってくるから、ちょっと待って…

ナミエ :もう少しだけ

ヒロ  :え?

ナミエ :もう少しだけ…このままでいさせて

ヒロ  :…。うん、分かった

ナミエ :…

ヒロ  :こんな暑い日に、熱でも出たか? 神様の気まぐれか?
     いや、ナミエ様のまちがいか。珍しいこともあるもんだな

ナミエ :馬鹿

ヒロ  :俺が馬鹿なのは、もう十分知ってるだろ

ナミエ :そうだね。近くで見てきたからね

ヒロ  :早いもんだよな、ナミエも後1年くらいで大学卒業だし。あっという間だったな

ナミエ :そうだね…

ヒロ  :大学出たら、どうするの

ナミエ :え? …普通に…働く…かな

ヒロ  :どっかの会社に?

ナミエ :うん

ヒロ  :どんな会社?

ナミエ :それは…どこでもいいかな、って…

ヒロ  :嘘ついてるでしょ

ナミエ :え?

ヒロ  :本当はしたいこと、別にあるんでしょ? そのために、今の大学選んだんじゃないの?

ナミエ :それは…

ヒロ  :ナミエの絵、俺すごく好きだよ。
     そんなちっちゃな身体から、どうやったら出てくるんだってくらい力強い絵。
     好きなんでしょ、描くの

ナミエ :そうだけど…でも

ヒロ  :あの絵がさ。
     内側の方に隠れてる、本当のナミエだと思うんだよね

ナミエ :え?

ヒロ  :大胆で豪快で、それでいて繊細なタッチ…
     色も鮮やかで、ウサギからライオンが生まれた! みたいな、すごい絵だよね

ナミエ :それって…褒めてるの?

ヒロ  :もちろん! 俺は、絵に詳しくも何ともない素人だから、あてにはならないとは思うけど。
     でも、俺はね…ナミエが見ている世界を、もっともっと見てみたい。
     だからさ…我慢しないで、もっと自分の人生を楽しんでいいと思うよ。…ナミエ?

ナミエ :…そうなのかな…。私でも…楽しめる、かな…

ヒロ  :あ、そうだ。もう1つ、忘れてたこと、あった

ナミエ :…何?

ヒロ  :はい、これ。開けてみて

ナミエ :うん。…あ、これって…

ヒロ  :プレゼント。小さい石だけどね

ナミエ :これって…ダイヤ…モンド!? 高かったんじゃないの?

ヒロ  :いいのいいの、記念日だし

ナミエ :でもさ…

ヒロ  :うん? どうかした?

ナミエ :これ…”ピアス”だよね?

ヒロ  :うん。そうだよ

ナミエ :私、開ける予定ないよ?

ヒロ  :そうかもね。でもね、あえてこれにしたんだ

ナミエ :どうして?

ヒロ  :今は開けないって思ってても、明日変わるかもしれない。
     気持ちなんて、瞬間瞬間でパッと変化するときがあるから。ほら、今日だってそうでしょ?
     今まで遠くにいたナミエが、こんなに近くにいて、温もりまで感じる。
     俺、こんな未来があるなんて想像もしてなかったよ?
     ナミエが、変えたいって思った瞬間、全てが変わるんだよ。
     何がきっかけになるなんて、分かんないじゃん? だからね。これにしたの

ナミエ :今日は、偶然で…

ヒロ  :ナミエにとって偶然でも、ナミエが”そうしたい”って望んでくれたから、今ここにいる。
     最初、会ったときもそうだった。もしかしたら、俺が怖かっただけかもしれないけど、それでも、俺は、
     ”今”ここにいるナミエと話せて…嬉しいんだ

ナミエ :ヒロ…

ヒロ  :ナミエ…。
     俺達、結婚しよ?

ナミエ :そんな! 私…無理だよ

ヒロ  :俺のこと…嫌い?

ナミエ :嫌いじゃないよ。一緒にいて、楽しいよ。
     …でも私、弱いんだよ。もう、好きっていう感情がよくわかんないんだよ。
     怖いの。好きになったら、又同じことを繰り返すんじゃないかって。
     私が、”自分”を持ってないから、いけないんだけどね。
     こんな奴と一緒にいてもいいことなんてないよ。幸せになんか絶対になれない…

ヒロ  :ナミエ、そんなことない…そんなことはないよ

ナミエ :もう、私、自信がないの。
     ごめんね、こんなので

ヒロ  :…ナミエ

ナミエ :ごめんなさい

ヒロ  :………それ、返して

ナミエ :…うん

ヒロ  :……

ナミエ :………

ヒロ  :はい。これ

ナミエ :え?

ヒロ  :ナミエは右耳、俺は左耳。片方ずつね

ナミエ :え…? でも私、付けることなんて

ヒロ  :ナミエ? これ持ってたら、俺のパワー全部そっちにいくから。
     強くなるから、元気100倍だから!

ナミエ :え? ヒロ、何、それ

ヒロ  :だからさ。…一緒にがんばろうよ?
     これからも、2人でさ

ナミエ :…

ヒロ  :…さすがに、しつこいかな

ナミエ :ヒロ

ヒロ  :うん?

ナミエ :それ…ヒロが付けてみて

ヒロ  :…うん。ちょっと待っててね

ナミエ :こんなに…たくさん穴。
     …痛くないの?

ヒロ  :開ける時は一瞬だし、痛くないよ。
     俺ね。嫌なことがあったら、その度に開けてる時期があったから。
     …1つ増やす毎に、なんか自信がでるような気がしてさ

ナミエ :意外。ヒロ強そうなのに…

ヒロ  :そう? むしろ普通より少し弱いくらいかも。最初開ける時はビビッてたし、虚勢張ってるだけだよ。
     ……ほんとはさ…さっきのも、すっげー怖かったんだ。
     でも、ナミエを助けなきゃって、無我夢中で…気付いたら、あいつの襟首掴んでた。
     すぐ逃げていってくれたから、こっちも助かったけど。ガチり合ってたら、やばかったかもな俺

ナミエ :ヒロ…

ヒロ  :ほら。ナミエ? 付けたよ。どう?

ナミエ :キラキラしてて…すごく、きれい

ヒロ  :小さくてもダイヤだからな。きっと、ナミエにも似合うよ

ナミエ :私には…似合わないよ

ヒロ  :…今、髪長いからさ。
     バサッと切っちゃって、コレ付けたら…絶対きれいだよ。俺が保証する

ナミエ :ヒロ…

ヒロ  :あ! もちろん、そのままでも十分似合うよ?
     でも、変わったナミエも見てみたいな、っていう俺の欲なだけ

ナミエ :…そう

ヒロ  :好きだよ、ナミエ

ナミエ :…うん…うん。ありがと

ヒロ  :……。
     あ。ハーゲン溶けちゃったな。
     ちょっと、新しいの買ってくる

ナミエ :え…でも夜遅いし

ヒロ  :いいのいいの! 外の空気吸ってくる!
     俺もほら、ちょっと顔がのぼせてきちゃって…ははは。このままだと色んな意味でやばいなって

ナミエ :やばいの?

ヒロ  :…無自覚って奴は、ほんと怖いねー…

ナミエ :?

ヒロ  :……帰ってきたら覚悟しとけよ!
     …絶対いい返事させてやるからな!

ナミエ : ! …うん……。
     待ってるね









ナミエ :…私はヒロが帰ってくるのを1人で待ってた。
     何話そう、どうやって伝えよう…これからどうなっていくんだろうって、期待と不安が混じった想いで待ってた。
     過去のことばかりで、未来を見ようとしなかった私が…その時、いなくなったんだ。
     ドキドキして…待ってたんだ

ユウイチ:そう…

ナミエ :……………………

ユウイチ:え? それからは?

ナミエ :それからは………。
     この話のつづきは、もうないよ

ユウイチ:え?

ナミエ :この…片方のピアスだけが、私の手元に残った

ユウイチ:…どういうこと?

ナミエ :帰ってこなかったんだ。
     …家を出た後、バイクで、私の元彼に…轢かれて

ユウイチ:…え

ナミエ :私が、希望なんて持たなきゃ、ヒロは…あんなことには、ならなかったのに…

ユウイチ:ナミエ…

ナミエ :その時に、はじめて知ったよ。ヒロが、私より1つ年下だったってこと。
     てっきりもっと年上だと思ってた。
     警察の人から色々聞かれたけど、私は何1つヒロのことを知らないことに気付かされた。
     あんなにそばにいてくれてたのに、私は知ろうともしてなかったんだ。

     …しばらくしてから、元彼が刑務所に収容されたって、連絡を受けた。懲役22年だって。
     人1人殺したのに、また外に出てくるんだって思った。

     …何なんだろうね? どこで間違って、こうなっちゃったのか…。
     私がいなくなった方が、よかったのに…

ユウイチ:ナミエ

ナミエ :分かってる。そんな答えを選んじゃいけないって。
     だから、その後もちゃんと大学行って、がんばった。
     卒業して、就職して…ユウイチと出会って

ユウイチ:そうだね

ナミエ :変わろうって思った。
     いつまでも、泣いてたら、いけないって思って…ごめんね、ユウイチ

ユウイチ:どうして謝るの?

ナミエ :こんな重い奴だって、知ってたら、彼女になんかしなかったでしょ? 隠しててごめん

ユウイチ:…過去を全部話す必要は、ないさ。
     俺は、今のナミエが好きなんだ。それに…俺だってナミエに話してないことあるし…

ナミエ :…勝手に人の物、隠してたもんね?

ユウイチ:それは反省してる…。
     でも…どうしても、知りたかったから。…ごめん

ナミエ :いいよ。私も、こんな日に…こんなこと言って、ごめん。
     付き合って、ちょうど1年の今日…ヒロとユウイチが被って見えて…だめなの

ユウイチ:そっか…

ナミエ :…

ユウイチ:それでも…俺は、ナミエを手に入れたい。
     昔のことも聞いても、俺は変わらないよ?
     それに俺、しつこいの、知ってるだろ?

ナミエ :…知ってる。
     何度断っても、ユウイチきたもんね

ユウイチ:…そりゃ合コンの時に、逃げられたからね…。
     もう一度出会えたときは、神様に感謝したよ。
     だから…簡単にあきらめちゃだめだって思ってね

ナミエ :え…? それって…

ユウイチ:ナミエ! 話してくれてありがとな

ナミエ :……うん。
     …私の方こそ、聞いてくれてありがとう

ユウイチ:一応、確認しておくけど…今も、返事は変わらない?

ナミエ :…まだ、言葉が見つからないの

ユウイチ:…そう

ナミエ :私。まだ、ちゃんと前を向けていない…昔ヒロに言われたのに、変われてない。
     そのまま流され続けてただけ。ユウイチの言葉を聴いて、このままの私じゃ、きっとだめだって思ったの。
     だから…ごめんなさい

ユウイチ:そう。…そっか。
     ………辛いなあ

ナミエ :ごめん

ユウイチ:…

ナミエ :…

ユウイチ:このピアス…返す前に、ちょっといい?

ナミエ :え? …うん

ユウイチ:…ふう。んんっ!

ナミエ :!?

ユウイチ:…よし

ナミエ :え…え? 何、今の?

ユウイチ:俺のパワーも追加しておいた。
     …ヒロさんのパワーと俺のパワーで、これからナミエは自分の描いた未来を力強く生きていく!

ナミエ :ユウイチ…

ユウイチ:ここで終わりって訳じゃない。明日何か変わるかもしれない。
     又、ナミエが俺を…ちゃんと好きになってくれる日まで…俺もがんばるよ

ナミエ :…ほんと、ごめんね

ユウイチ:違うよ! ”これからも、よろしく”…だろ?
     関係は変わっても、俺は縁を切るつもりはないからな。覚悟しとけよー!
     …あ、でも本気で嫌になったら言ってくれたらいいから。無理強いはしないから!

ナミエ :ふふ…本当に…優しいね、ユウイチは

ユウイチ:いつでも甘えていいよ。
     彼氏じゃなくて、少し寂しいけど…友人として、いつでも頼ってくれていいから

ナミエ :うん…ありがとう。ユウイチ…









ユウイチN:こうして俺は、一世一代のプロポーズが見事に砕け散ったわけだが、今は妙にスッキリとした、不思議な気持ちなんだ。
     …どうしてかって? この後、ナミエは会社を辞めて、顔合わしたり連絡をとることは、なくなったんだけど。
     ある日、家に、差出人不明の1通の手紙が届いたんだ。
     そこにはね…”元気です”って1文と、1枚の写真が入ってた。
     大きなキャンパスの前で、赤色や青色、緑色…いろんな色に染まったエプロンをつけた小さな女性が写っててね。
     髪は、短めのショートカットで、明るい茶色。少しパーマもかかってて…
     そしてね…右耳には、あの”ピアス”がキラリと輝いてて…幸せそうに、笑ってたんだ…















































LOLチャンネル主催の「第二回 ニコ生声劇用台本コンテストに参加して、つくりました!!

テーマは「ピアス」で、21本もの作品が集結した、いいお祭りでした。

他の方の作品の色が素晴らしくて、同じ場に参加したのが少々申し訳なく感じてしまうくらいで…いい勉強になりました。

他の作品を応援できる機会もあり、台本を読んでも、自分で演じても、他の人が演じているのを聞いても、全部楽しい時間でした。

huxeiさんが描いてくださったピアスが頂けただけで、感無量です!



企画のお二方、レンガさん、huxeiさんに感謝です!

本当にありがとうございました。

2016/05/01 りり~
     
 
           
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