|
題名 |
公開日 |
人数(男 女 不問) |
時間 |
こんな話 |
作者 |
修理工とまじない屋の平凡な一日(リサが見た夢編) |
2016/06/04 |
5(1:2:2)or4(1:2:1) |
40分 |
そうか…これは、夢…昔の…私達 |
りり~ |
ダグラス : 男(台詞少なめ) …リサの父親。サダルスウド国の国王。娘のことをいつも気にかけており心配性。
ケイ : 不問 …リサが、サダクビア国に侵入した際に、初めて会った人間。
リサ : 女 …サダルスウド国の姫。隣国のサダクビア国の生活に興味を示し、不法侵入を繰り返していた。
モコ : 不問(台詞少なめ) …リサにより、サダクビア国に連れて来られた。リサのことをなんだかんだ大切に想っている。
キャシー : 女 …リサの母親。サダルスウド国の王女。おっとりしているが、娘の考えていることはお見通し。
※ダグラスとモコは、兼役できます(男性の場合)。
その場合は4人(1:2:1)です。
『修理工とまじない屋の平凡な一日(リサが見た夢編)』
ケイ: リサさんー入るね?
リサ: どうぞー
ケイ: 顔色大分良くなったね。
モコさんの薬のおかげで、早く治りそうで良かった。
これなら、今晩ぐっすり眠れば、明日には大丈夫そうだ
リサ: よかった…。
あ、午後から、お店どうだった?
ケイ: んーっとね…自転車のブレーキを直しにきた人と、革靴のゴム底の張替えと…。
ネックレスのチェーンの修理に来た人を合わせて、三人かな。
後、明日の予約で…えっと、名前忘れたけど、午後に一人お客さんくるって…電話がきたかな
リサ: 名前忘れちゃったの?
ケイ: 作業中にかかってきたから…メモを取るのを、つい忘れて…ははは
まぁ、直接この店に来てくれるって言ってたし、多分問題ないはず!
リサ: たまーにうっかりしてる所あるよね?
ほとんど一人で何でもこなしちゃうくらい、日頃は器用なのに
ケイ: そんなことないよー?
僕にもできないことはたくさんあるし、特別秀でて何が得意ということもないから…まだまだだよ
リサ: 自己評価低いんだねー?
私から見たら、十分すごいのになー
ケイ: リサさんは、ほんと褒め上手だね
リサ: だって本当のことだもん
ケイ: …ありがとう。
はい、これ。お粥と今晩の薬。これ飲んだら、すぐ休むんだよ
リサ: うん、分かった
ケイ: 食器は、明日取りに来るから、そのままにしておいてね
リサ: はーい、何から何までご面倒おかけいたします
ケイ: それじゃあ、おやすみ。リサさん
リサ: おやすみなさい
モコ: リサさん?リサさーん?
リサ: え?
モコ: どうしたんですか?ボーっとしちゃって?
リサ: え…あれ?
モコ: 立ったまま寝るなんて、さすがお姫様は常人ではできないことを、ちょちょいっとやってのけますね!
リサ: 違うわよ!!…で、何だっけ?
モコ: …さっき、壁をドカン!!って壊した人と同一人物と思えないような反応してますね?
どこか頭でもぶつけちゃいました?
サダクビア国を抜けて、サダルスウド国に到着して、これからどうするんですか?って聞いてたんですけど?
リサ:)そうか…これは、夢…昔の…私達
リサ: あ、あぁ。これから、ケイさんの店に連れて行くから、変なことするんじゃないわよ?
モコ: ケイさん?…ですか?
その方も、僕達と同じようにこっちの国に抜けてきた人なんですか?
リサ: ケイさんは違うわよ。
元々、サダルスウド国にいる人よ
モコ: え?そうなんですか…
リサ: ちょうど、店の人手不足ってケイさんが言っててねー。
あ。着いた着いた!ここよ!
モコ: 人手不足…?何のことか分からないですけど。僕が…開けていいんですか?
リサ: どうぞ?
モコ: お邪魔します…
ケイ: いらっしゃいませ…。ってあれ?リサさんじゃないですか?
そして…そのお方は?
モコ: どうもー…
リサ: ただいまーケイさん。
拾ってきたよー?お手伝いさん
モコ: え?
ケイ: …リサさん?『人』は拾うものではありませんよ?
それとも、リサさんの国では、そういうものなんでしょうか…?
モコ: そんな訳ある訳ないじゃないですか!!
そんな野蛮な国じゃありませんよ!僕達の国は!!
こんな事をするのは、リサさんだけです!!
リサ: いいじゃない?こっちの国に来たかったんでしょ?
だから、私が手助けしてあげたんじゃない
モコ: …う。確かに、そうなんですけどー
リサ: だ・か・ら、今度はお返しに私達に手助け、お願いね?
モコ: え…?
リサ: ケイさん!今日から、この店を手伝ってくれる、魔術師のモコよ。
何でも気軽に使ってやって!
モコ: え……えーーーー!!!!
ケイ: モコさん、ですか。
魔術師ということは、リサさんと同じ様に魔法が使えるんですね
リサ: そうよ!あ、でもモコー?
こっちの世界では、あまり人目に触れる場所では、魔法は使わないことっ。
皆、びっくりして怖がっちゃうからね。
ちゃんと私が、ここなら使っていいよーって場所、指定するから、ちゃんと覚えるように!
ケイ: あ、自己紹介が遅れましたね。
僕、ここの店主をやっています『ケイ』と申します。
こちらに来て、分からないことは、いつでも相談して下さいね
モコ: あ、ご親切にどうも…って…ちっがーう!!そうじゃなくて!!
リサ: 何よ?
モコ: …どうして、ここに、もういるって決まったことになってるんですか?!
どこから、ツッコミ入れだしたらいいんですか!
リサさん、僕、何にも話聞いてないですよ?!
リサ: いいじゃない?そんな細かいこと
モコ: いやいや!僕分かんないことだらけですよ?!
さっき、数分前に!ここの国に来たばっかりなんですよ?!
なのに、勝手に知らない間に話が進んでいって、僕!思考が追いつかないんですけど?!
リサ: あらそうなの?頭の回転遅いんじゃない?
モコ: そういう問題じゃないと思うんですけど…
ケイ: すみません、モコさん。
僕が、「もう一人くらい一緒に店やれる人、いたらいいんだけどなー」とか、言っちゃったから…。
それで、リサさんが、探してきてくれたんでしょうけど…嫌なら、断って頂いても大丈夫ですよ?
モコ: 嫌というか…何も、まだ全然、何がなんだか、何にも教えてもらってないんで…。
何とも言い様がないというか…。
ケイ: 僕はこの店で修理工をやってまして、リサさんは助手さんをやってくれてるんです
モコ: 修理、ですか?
それなら、リサさんが魔法で簡単に直せちゃうんじゃ…?
リサ: それじゃ意味ないのよーモコ?
分かってないわねー
モコ: え?だって、魔法なら媒介物さえあれば、元の形に直せるじゃないですか?
リサ: きれいに、新品な状態に、戻すなら、意味ないのよ
モコ: んんん?どうしてです?
ケイ: ちょっと前までのリサさんと同じことを仰ってますね?
リサ: 私達の国では、修理するイコール新品の状態にする、ってのが当たり前だからね。
それが私も当たり前だと思ってたもの
リサ:)そうそれが当然だと思ってたの…。
だって、そういうものでしょ?
私達の国は…そういう国だったんだもの…。
そう、サダクビア王国は…
ダグラス:リサー…リサ!!どこだい?またかくれんぼかい?
早く出てこないと、また、先生が何にもしないまま、帰っちゃうぞ?
せっかくお呼びしてるんだから、ちゃんと授業を受けなさーい
キャシー:あら、あなた。また、リサがいなくなっちゃったの?
ダグラス:そうなんだよ、キャシー…。
屋敷中探しても、見つからなくて…先生にも待たせっぱなしでね…
キャシー:ふふふ
ダグラス:ん?どうしたんだい?
キャシー:焦ってるなーって思って
ダグラス:そりゃ焦りもするさ!予定の時刻より、もう30分も過ぎてるからね
キャシー:残念だけど…今日はあきらめた方がいいんじゃないかしら?
ダグラス:どうしてだい?
キャシー:多分リサは、もうこの国にはいないと思うわよ?
ダグラス:え?…それは、えっと…どういうことだい?
キャシー:魔法の勉強はもう飽きたーって言って、さっき消えちゃったもの
ダグラス:消えちゃった…って、キャシー止めなかったのかい?!
キャシー:あっという間だったからね
ダグラス:…はぁ…。先生に謝らなきゃな…もう
キャシー:あの子は、勉強もできて、魔法の能力も申し分ないのに…どうして、この国を嫌がるのかしらね…?
ダグラス:僕が聞きたいくらいだよ。
小さい頃から、どんな本でも一度読めば、すいすい吸い込んで、応用も利いて、すごい子だったのに…。
屋敷中の本を全て読み漁って、ニコニコして、魔法を紡いでくれてたのに…はぁ…
キャシー:王である貴方をこんなに悩ませる相手は、あの子しかいないわね
ダグラス:そうだろうね。他の子たちは聞き分けいい子ばかりだったから…。
女の子だから、やっぱり僕と距離を取りたがってるのかな…はぁ
キャシー:ため息ばかりつかないの。もっとシャキッとして、背筋伸ばして
ダグラス:う、うん
キャシー:先生には私から、お詫びしておくから、安心して
ダグラス:そんな!キャシーにそんなことさせられないよ!
キャシー:あら?あなただってサダクビア王国の王様、ダグラス王でしょ?
ダグラス:いいや!それでも、僕が謝りに行くから、君はここで待ってて。
あ、後!リサがまだゲートを越えていなかったら、こっちに連れ戻す様、手配しておいて!
じゃあ、行ってくるよ!
キャシー:はいはい…分かりました。
まぁ、その手配はおそらくしても無駄でしょうけど。
あの子にかかれば、二国間のゲートを通り抜けることなんて、容易いことですもの。
…リサは本当に能力が長けすぎてて…親の私でさえも、少し恐ろしくなる程だもの。
一人で何でもできちゃうから…授業もきっとつまらないんでしょうね。
だから、家庭教師を雇ったのに…これも難しそうね…。
…リサなら、何にでもなれると思うけれど…。
…………リサ?…貴方は一体何になりたいのかしらね?
リサ: ふー。40秒っと…。
ゲート解除の最短記録更新!
二国間のゲートなのに、私みたいな小娘に解除されてて大丈夫なのかしら?
まぁ、どうでもいいけど…。
…にしても、この国に来るのは、3回目だっけ?
こっそり最初に来たときは…空が青くて、風が吹いてて、鳥の鳴き声が聞こえて、蝶が花を探して舞っていて…。
こんなに素敵な世界が本当にあるんだって…すごくびっくりしたな…。
そして、2回目は…人と会わない様に隠れてたのに、あの人と会っちゃって…
ケイ: あ、リサさん。また来たんですね
リサ: …少しは驚かないの?
ケイ: え?どうしてですか?
リサ: あっちの国から、ゲートを越えて、又、来たのよ、私?
別に通報してもいいのよ?
ケイ: どうしてそんなことしなきゃいけないんです?
リサさんは何も僕に悪いことしてないじゃないですか?
それに、僕はリサさんと又会えて、嬉しいですから
リサ: ……
ケイ: ん?どうかしました?
リサ: …別に
ケイ: ??
リサ: 今日は、ここに何しにきたの?
ケイ: リサさんに挨拶しにきました
リサ: …いつ来るか分かりもしないのに、そんな訳ないでしょ?
ケイ: でも来てくれましたよ?
リサ: …まぁ、今日はたまたまよ
ケイ: なら、いいじゃないですか。
あ、これ、持ってください、家まで運ぶので、手伝ってもらっていいですか?
リサ: え?こんな鉄くず…持って行ってどうするの?
ケイ: お店を開くことにしたんです
リサ: …何のお店?
ケイ: この前、リサさん、僕に手先が器用って言ってくれたでしょ?
リサ: うん…ネックレス…はずれて千切れてるの、直してたから…
ケイ: 僕から見たら、リサさんの方が器用ですけどね?
きれいに新品みたいに直しちゃうの、ほんとすごいですよー
リサ: それは…魔法があるから…私の力じゃないよ
ケイ: それでも、リサさんの力ですよ、それは
リサ: …
ケイ: ほら、日が暮れる前に行きましょう?
日が落ちると、外は寒くなりますからね。急ぎましょう
ケイ: 着きましたよ。さぁ、どうぞ入ってください
リサ: ここが…お店なの?
それにしては…物が…たくさん散らかってるような
ケイ: まだ散らかってて、すみません。
この場所を借りたのはいいんですけど…まだきちんと整理できてなくて、店開けれてないんです。
あ、ちょっと待ってて下さい。今、何か飲み物入れますね
リサ: 一人で店、やるの?
ケイ: はい。あ、リサさん?辛いのって大丈夫ですか?
リサ: 辛い…って?
ケイ: あ、ほら…舌が熱くなってピリピリするような…感覚のことです
リサ: 多分…大丈夫
ケイ: …それにしても、リサさん?
今日はどうして、こっちに来たんですか?
リサ: それは…暇だったから、たまたま来ただけよ
ケイ: 前回初めて会った時は…確か、試験が終わってから…なんとなく来たって言ってましたよね?
あの時の結果はどうだったんです?
もしかして、その点数が悪かったから、やけくそでこっちに来たとか?
リサ: 違う。あの時のは、全部満点だった
ケイ: 満点…?間違いなしの?
リサ: うん
ケイ: すごいじゃないですか!
リサ: なんで?当たり前のことでしょ?
ケイ: いやいや、少なくとも、僕は人生でそんな経験ありません
リサ: …そういうものなの?
ケイ: 万が一そんな人がいても、ごく一部の天才だけだと思いますよ?
リサ: …天才…ねぇ?
ケイ: 将来はどんな風になりたいとか、決まってるんですか?
リサ: それは…
ケイ: ?
リサ: 私の国では、知的レベルに応じて、自動的に職業が振り分けられるから、特に希望はないわ
ケイ: …じゃあ、どんな職業を振られるんですか?
リサ: …呪術師よ
ケイ: それって…?どういう
リサ: 私が魔法を使えるのは、もう知ってるよね?
その魔法を使って、呪いを構築するの
ケイ: 呪い…ですか
リサ: 高レベルの魔法を扱い、魔術を自分で組成できる人間のみで構成される国家認定の素晴らしい仕事。
依頼があれば…何だってする。断ることなんてできない。
人が人の道を外そうとした際に、魔術が発動し、息を絶えさせる呪いだって普通に組むのよ?
善悪は国が決めて、個人で判断はできない。ただの国家の歯車の一部になるの
ケイ: そんな仕事が…あるんですね
リサ: …ごめんなさい。重たい話、しちゃって
ケイ: 大丈夫ですよ。話してくださってありがとうございます。
…はい。できましたよ。どうぞ
リサ: …いい香り
ケイ: ジンジャーティーです。生姜という植物が入っていて、疲労回復効果もあります、飲んでみてください
リサ: ……おいしい
ケイ: 良かった。ちょっと辛いでしょ?でもね。この辛いのが、身体の奥に染みて、ぽかぽかと温めてくれるんですよ
リサ: このピリピリする感覚が、『からい』なんだね
ケイ: 色んな辛さがあるから、また今度作りますね。
あ。今晩は泊まっていってください。もう夜も遅いですし、夜道は危険なので。
後、上の階にベッドありますから、そこを使ってください
リサ: でも…あなたは
ケイ: 僕は、このソファがありますから。
お風呂もありますから、あ。タオルは、これで
リサ: …あの…。どうしてそんなに優しくしてくれるの?
その…私、まだあなたと会うの2回目なのに
ケイ: それでも、僕にとってはお客様ですからね。
もてなすのは当然のことでしょ?
リサ: …変わった人
ケイ: そうかもしれませんね。
…それじゃ、おやすみなさい
リサ:)あの人のリズムにいつも流されて…、別に何も不満もなかったから、そのままそこに居たんだけど。
温かいお風呂も好きだったし、自分の国では、殺菌する光線を全身で浴びることくらいしかしなかったし。
布団も柔らかくって…なんとなく居心地が良かったんだと思う。
…そして、次の日
ケイ: リサさん…入りますよー…
リサ: …んん
ケイ: まだ寝てますよね?すみません。朝食ここに置いておきますね。
僕は下にいますので、何かあったら言ってくださいね
リサ: うん…分かった
ケイ: むむむ………。
んーっと……この布地でいいかな…。
色合いと模様はそっくりだけど…ちょっと違うかな…んー迷うなぁ
リサ: …おはよう
ケイ: あ。おはようございます、リサさん
リサ: …仕事してるの?
ケイ: あ、はい。まだ、片付いてないんですけど、噂を耳にした人がちょこちょこくるんですよね。
開店してないから、断りますっていうのも、悪いんで、臨時オープンしちゃってるんですよ
リサ: その手に持ってる布きれは何?
ケイ: あぁ、これはですね、エプロンですよ
リサ: エプロン?
ケイ: 料理とか、家事をする時に、腰に巻いて付けるんです。
リサさんも付けたことないですか?
リサ: 防護服みたいなもの…?
ケイ: 防護服…とは、ちょっと違いますが、まぁ似たようなものですかね
リサ: 色も汚れて…布も大分痛んでるみたいだけど…私が直そうか?
ケイ: ダメです!
リサ: え?
ケイ: あ、いや、リサさんの手を煩わせるほどじゃないんで。
すぐ直せるので大丈夫ですよ
リサ: でも…その大きい穴が空いてるのを…直そうとしてるんだよね?
ケイ: はい、そうですよ
リサ: やっぱり私が直すよ。他にもツギハギだらけみたいだし…汚れも目立つし。私ならきれいに直せる
ケイ: 確かに、リサさんなら直せそうですね
リサ: 昨晩泊めてもらったし、貸して下さい
ケイ: リサさんの気持ちだけで結構ですよ
リサ: …私の腕を信用できないから、なの?
ケイ: 違いますよ!
リサ: じゃあ、どうして?私なら、新品の状態にできるのに?
ケイ: だから、ダメなんです!!
リサ: ??どういうこと?
ケイ: このエプロンは、もともと今使ってる依頼人のお母さんから貰ったそうなんです。
そしてお母さんは、お母さんのお母さん…からもらって代々受け継がれてるんです
リサ: それで、こんなにツギハギだらけなんだ…
ケイ: このツギハギは、修理を繰り返してできたものですね。
ここの赤い丸は、娘さんが2歳の頃に落書きしたって話していました。
イチゴが好きで、初めて描いたってね。
あ、こっちの黄色いのは、流れ星を見た次の日に、描いたそうですよ
リサ: そうなんだ…
ケイ: 娘さんも、今年で23になって、来月結婚するんです。
その娘さんに、今度渡すために、今回修理に出したそうです
リサ: ただの布なのに、そんなに大切にしてるんだ
ケイ: 傷には、それぞれ思い出があるんです。
その思い出を消さないまま、これからも受け継いでいけるよう、修復を繰り返してるんですよ
リサ: …私には汚れにしか見えなかったものが、この持ち主さんには、そんなに大切なものに見えるのね
ケイ: そうです。そして、また娘さんが、台所で使っていく内に、いろんな思い出が、このエプロンに込められていくんですよ
リサ: そっか…。こっちの国の人の感覚が、少しだけ分かった気がするわ。きれいにするだけでは、ダメなんだね
ケイ: 依頼される方のそれぞれの想いを大切にして、これからも思い出を積み重ねる様に修理しようと、僕は心がけてます。
できるだけ長く使って頂きたいですからね
リサ: 修理って…奥が深いんだね
ケイ: 僕もまだまだなので、これからも精進です
リサ: それぞれの想い…か
ケイ: …リサさん?
リサ: 私ね。最近、勉強が嫌なの。将来がもう見えてて、それに向かって自動的に進んでるだけ。
人を呪って、世界の統制をとって…醜い仕事を毎日こなす。
そんな自分になりたくないから…今日だって、サボっちゃった
ケイ: そうだったんですか…
リサ: それでも、皆は素晴らしい仕事だ!なんて言うし。
父様も母様も私の将来に期待してるみたいだし…皆の想いが…正直辛い。
結局私には何もできないし、こうやって子供みたいに逃げることくらいしかできない。
…情けないよね
ケイ: 情けないなんて、思いませんよ
リサ: どうして?
ケイ: 将来に対して不安や迷いを感じることは、誰にだってありますからね。
リサさんの世界みたいに、振り分けをしてくれた方が、僕にとっては楽だなぁって思うくらいです。
僕、昔から、苦手なことはないんですけど、際立って得意なこともないんですよ。
別になりたいものがあったわけでもないし、リサさんみたいに真剣に考えているわけでもない。
だから、リサさんはすごいなーって思ってるんですよ
リサ: でも、もう依頼も実際受けてるし、店も開くんだよね?
ケイ: はい、なんでも頼まれたら、修理できるお店をね
リサ: 十分将来考えてるじゃん…
ケイ: リサさんのおかげですよ
リサ: …え?私?
ケイ: リサさん、僕に手先が器用って言ってくれたから…この仕事やろうって思ったんです
リサ: え…それだけで…?
ケイ: 嬉しかったんですよ
リサ: 魔法の力もないのに、元通りにしちゃったから、すごいって思ったから、言っただけなのに…
ケイ: リサさんの言葉はね。僕に勇気とやる気を与えてくれるんです
リサ: なんですか、それ
ケイ: リサさんが驚いたり、喜んでくれたりすると、僕も嬉しいってだけですよ
リサ: …そういうこと、誰にでも言ってるの?
ケイ: え?
リサ: いや、別にいいんだけど…。あ、そういえば…
ケイ: どうかしましたか?リサさん?
リサ: 今更な話なんだけど、あなたの名前、聞いていい…?
ケイ: …ほんと今更ですね。とっくに言ったと思ってましたよ。僕の名前は…
キャシー:…おかえり、リサ
リサ: ただいま…ママ。あの…
キャシー:あなたの家出癖は、もう私は十分あきらめてるけど。お父さんは心配してたわよ?
昨日あまり眠れてなかったみたいだから、後で起きたら、謝っておきなさいね
リサ: ごめんなさい
キャシー:…何か収穫は得れたかしら?
リサ: え?
キャシー:いい顔になったわね、リサ。迷いが取れたのね
リサ: そんな顔してる…?私?
キャシー:ふふふ…リサ?あなたは私が言うのもなんだけど、すごく優秀な子よ。
王の娘として、色んなものを強いてきて、その要求に全て応えて、非が見当たらなかったくらいよ?
だからね…ここ最近の家出が嬉しかったのよ?
ようやく年齢層相応の子供らしいところ見せてくれるようになったんだなってね
リサ: ママ…
キャシー:まぁお父さんの方は、変化についていけてなくて戸惑ってるみたいだけど。
大丈夫だから…リサがしたい様に、生きていいんだからね?
私達の思う様な生き方じゃない、貴方らしい生き方があるんだからね
リサ: ありがとう…ママ
キャシー:…でも体調悪い時は、ちゃんと無理せずに言うのよ?
貴方は本当に頑張り屋さん過ぎるんだから、我慢はしないよーに
ダグラス:そうだぞ!無理はするなよ!
リサ: パパ?
キャシー:さっきからそこに居るのは分かってたけど、なんでこそこそしてるの貴方?
ダグラス:だって…心配で…
キャシー:それは分かるけど、堂々とそこから出てこればいいでしょ?
ダグラス:…リサ、ちゃんとご飯食べてるか?あいつになんか嫌なことされてないか?
リサ: あいつって?
ダグラス:あいつは…あぁ、名前も口に出したくない
キャシー:あいつなんて呼ばないでください、貴方。リサが今一番お世話になってる人なんですからね
ダグラス:それは分かってるけども。一人娘をよく分からない男に預ける、俺の気持ちも分かってくれよ!
キャシー:はいはい、分かってますよ。毎日聞かされてますからね?本人には言わないくせに
リサ: ちょっと待って!あれ?…パパとママが話してる人って…もしかして
キャシー:知らないはずなのにどうして?って思ってるでしょ。
親の力は偉大なのよー、娘のことなら何でも分かっちゃうものなの!
ダグラス:熱を出して苦しんでるリサのことが、どうしても心配でな…私が頼んだんだ。
すまないな、休んでる最中なのに…
リサ: …そうだ。私熱を出して、寝てたんだった…。モコに薬をもらって、それで…
ダグラス:もう、顔色は大丈夫そうだ…良かった
キャシー:そうね。これもあの子のおかげね?
ダグラス:うう…こればっかりは、あいつのおかげか
キャシー:もう!そんな呼び方しないの!
リサ: 私、いつも助けられてばっかりで…。
こんな風邪なんてひいちゃうし、迷惑かけてないかなって…心配になるんだ
キャシー:リサ…
リサ: あの人は、そのままの私を受け止めてくれる。
でも、こんな私一緒に居てて、いいのかな…
ダグラス:当たり前だ。良いに決まってるだろう
リサ: え?
ダグラス:お前は私の一人娘だ。かわいいかわいい娘だ。弱気になるな、リサ。
風邪の一つがなんだ!少しぐらい人に甘えろ!特に私に!
キャシー:あなた…
ダグラス:だから、何も心配しないで、あいつをこき使ってやれ。
何か言われたら、すぐ私が駆けつけてやるからな!
リサ: パパ…
キャシー:ふふふ…あら?そろそろ時間かしら…あの子がくるみたいね
リサ: え?あの子って…
ダグラス:こんな形でしか会えないのは、非常に寂しいが…元気でやるんだぞ
リサ: どういうこと?
キャシー:私達はいつでもリサを見守ってるからね…。あの子にも、よろしくね
ダグラス:じゃあな、リサ
リサ: パパ…ママ…
ケイ: 目が覚めた?リサさん
リサ: …ケイさん
ケイ: 何か夢でも見てた?さっき珍しく寝言を言ってたよ
リサ: パパとママが…私のこと心配してたみたい
ケイ: え?それ、本当に夢?
リサ: どうだろう…あ、でもあいつによろしくって言ってた
ケイ: あいつって…僕のこと?
リサ: …妙にリアルだったから…あ、でも!夢の中での話だけどね!
ケイ: あはは…あ。でもリサさん顔色よくなったね。もう大丈夫そうだ、よかった
リサ: ほんとだ…身体がすごく楽になったみたい
ケイ: もしかして…リサさんのお父さんとお母さんのおかげかな?
リサ: とりあえず、明日からは働けそうだよ。何日もご心配をおかけしました
ケイ: いいよ。誰でも体調が崩れるときがあるんだから、無理はしないでね
リサ: はい…
モコ: こんにちはー。リサさん具合の方はどうですかー
ケイ: 順調ですよ
モコ: わ。ほんとだ、憎らしいほど顔色がよくなってる
リサ: 何よそれ。良くなってほしくなかったの?
モコ: いえいえ、そんなことはありませんよー?愚痴愚痴言って、僕をコキ使うリサさんは怖いけど。
元気なくなって、急にしおらしくなるリサさん見てるほうが、僕気分悪くなっちゃうので!
だから、治ってよかったなーって思ってます!
リサ: ひどい言い様ね。でも、今回は許してあげる。
あの薬よく効いたわ。ありがとね
モコ: よかったよかったー。
あ…でも、よく見ると、僕だけの力じゃなかったみたいですね?
リサ: どういうこと?
モコ: ケイさんの力と…このまじないの跡は…そうかそうか、うんうん
リサ: 何一人で納得してるのよ
モコ: いやいや!リサさんは愛されてるなぁって思っただけですよ!
リサ: はっきり言いなさいよ!もう!
ケイ: はいはい、お二人とも。おいしいココアを用意しましたから、喧嘩はしないでね
モコ: わーい待ってました!!この一杯のためだけに僕は生きてるって言っても過言じゃないね!!
リサ: 大げさな…ありがとうケイさん
ケイ: いいんですよー。僕は、リサさんが喜んでくれるだけで幸せだから
モコ: …僕お邪魔かなー?
リサ: 何?モコ殴られたいの?
ケイ: もちろんモコさんが喜んでくれるのも、僕は嬉しいです
モコ: やったー!僕もなっかまー!一応ここの従業員だしー
リサ: はいはい、モコいてくれて助かってますよー。ありがとねー
モコ: 気持ちがこもってなーい!もう一回!
リサ: もう二度と言ってやりませんよーっだ!!
キャシー:リサ元気そうでよかったわね
ダグラス:無理言ってすまないねキャシー疲れてないかい?
キャシー:大丈夫よ。それに久しぶりの親子団欒だったから、私も嬉しかったわ。
それにしても、リサが風邪を引いただなんて…よく気が付いたわね?
ダグラス:…それは…。あいつが…モコくんを通じて連絡してきたから…
キャシー:あらあら、それで知ってたの?心配して連絡をくれたのね。ほんといい子ねー
ダグラス:だが私は認めん
キャシー:強情なんだから…一番リサのことを心配してくれてたのは、きっとあの子よ?
ダグラス:だが認めーん。今すぐにでも、リサをこっちに帰したい気持ちはおさまらなーい
キャシー:ふふふ、そう。でもリサがあんなに熱心に人を想ったり考えたりできるようになったのは、あの子のおかげよ?
ダグラス:それは…否定できない
キャシー:私達にはできないことだわ。だからね、もう少し見守ってあげましょうよ?
ダグラス:…そうだな…仕方がない。かわいいリサをあいつの手元に置いておくのは、心苦しいが…。
もうしばらく私も我慢してあげようじゃないか…ケイくん…?
|