題名  公開日   人数(男 :女:不問)  時間  こんな話  作者
リカちゃん人形 2016/09/19  3(0:3)or5(0:4:1) 25分 ずっと、ずっと一緒だよ  りり~

※文章の部分は、最後の部分を除いて、すべて『ゆき役』の方が演じてください。年齢の経過を意識してくれると幸いです。
ストーリーテラーは、最後の部分のみ台詞あります。


<登場人物>
♀:ゆき
♀:リカ
♀:ママ
♀:レイナ
不問:ストーリーテラー


<配役>(女3~4不問0~1)
ゆき
リカ+レイナ(兼任でなくても可)
ママ+ストーリーテラー(兼任でなくても可)


<必要なSE>
・携帯音


********




『リカちゃん人形』



私は小さい頃から、この子と一緒にいる。
ママから貰った、かわいい子。
名前はリカ。淡い栗色の髪に、瞳はきれいな青色。
洋服はいつもこの小さな衣装ケースに入れて持ち歩いているの。
今日も、私の家に遊びにきてくれた。



リカ「ゆきちゃん、今日は何して遊ぶ?」

ゆき「そうね、私、ケーキ作りしたいな」

リカ「じゃあ、まずは材料をそろえなきゃね」



一緒に二人で、小さな卵と牛乳、それから小麦粉を用意する。
ママにばれないよう、イチゴは5粒だけ使うことにしよっと。



ゆき「私ね、ママにこの前作り方教えてもらったんだ」

リカ「いいなー、私もママに教えてもらいたいなー」

ゆき「私が代わりに教えてあげる!」

リカ「いいのー?わーい!」



材料をかき混ぜて、フライパンをガスコンロの上に置く。
火を着けるときは、ママと一緒にって言われてたけど…ちょっとぐらいならいいよね?



リカ「すごいーリカにも見せてー」

ゆき「そっか見えないよね。よいしょっと…ほら、これで見えるでしょ?」

リカ「わーゆきちゃんすごーい!プクプクしてきてるよ」

ゆき「すごいでしょー!ここで立って、見てていいよ」



フライ返しを持って、そっとひっくり返す。
あ、ちょっと形崩れちゃったや…でも良い色してる。



リカ「美味しそうー早く食べたいなー」

ゆき「ちょっと待って、一人一枚食べるんだから、後もう一枚焼くよ。だからもう少し我慢っ」



2枚をそれぞれのお皿に乗せて、はちみつとマーガリンをきれいに並べる。
両手にフォークとナイフを持って、一緒に手を合わせて言う。



リカ・ゆき「いただきまーす!」



私たちは本当の姉妹みたいに仲が良かった。
最近見たアニメのこと、美味しいおかしのこと、好きなお花のこと、ぜーんぶ知ってる。
ママがいない時は、いつも二人で色んな話をした。
パパは家に帰ってこないけど、それでも平気。
パパは…遠いところにいるの…会えなくても平気。




リカ「パパ帰ってこないんだね、ゆきちゃんち」

ゆき「パパはね、昔どこか遠いとこに行っちゃったから、会えないってママに言われたんだ。
会いたいけど、会えないんだって」

リカ「そっか…そうだ。会えないんなら、私がゆきちゃんのパパになってあげる!」

ゆき「え?パパ?リカちゃんが私のパパになるの?」

リカ「うん!パパって呼んでいいよ。ほらおいでーゆきちゃーん」

ゆき「パパって何してくれるの?」

リカ「んー?んーっとね…パパはね、お仕事いくよー」

ゆき「それは、ママもしてるよ」

リカ「えー、えー…うーん。高い高いしてあげるよ?」

ゆき「もう私子供じゃないもん」

リカ「えー!うーん…あー!パパ何すればいいのかわかんなーいー」

ゆき「あはは!パパって男の子がなるものなんでしょ?リカちゃんにはパパ無理だよー」

リカ「えーそうなの?!知らなかったー…うー」

ゆき「…ありがとね、リカちゃん」

リカ「ゆきちゃん?」

ゆき「リカちゃん優しいから、私、好き」

リカ「…私もゆきちゃんのこと、大好きだよ」


二人はいつも一緒。
どこに行くのも一緒。
だから、絶対寂しくなんかなったりしない。


ママ「あら?ゆき、今日もこの子と一緒に行くの?」

ゆき「うん!だって友達だもん!」



私たちは外行くときも、手をつないで出かける。
そっちの方が、一緒に同じものが見れて、たくさんの風景が見れるからいいんだ。
ママはそんな私たちを笑顔で見てくれてる。
私たちは、このままずっとそうなんだと…この時まで、信じてた。



ママ「ゆき。出かけるわよ」

ゆき「うん。お母さん。あ、ちょっと待って」

ママ「ちょっと待ちなさい」

ゆき「何?お母さん」

ママ「あれ、持って来る気じゃないんでしょうね?」

ゆき「そうだよ?」

ママ「…貴方もういい年なんだから、もうよしなさい」

ゆき「どうして?大切な友達だよ」

ママ「大切な友達は他にもいるでしょ。隣のショウくんにアイちゃんに…」

ゆき「分かってるよ。でもリカちゃんが一番の友達だもの」

ママ「いい加減にしなさい!」



母さんが、私の右手から彼女を奪い取ろうとすると……片腕がもげてしまいました。

地面に力なく倒れた彼女に近寄ろうとすると、血相を変えた母さんが私に言いました。



ママ「もう貴方には必要ないでしょ!高校生にもなって…いい加減、早く大人になりなさい!」











…私はリカと離れ離れになりました。

どうしてこんなことをするんだろう。
私の大切な妹を、こんな風な形で、なくしちゃうなんて…考えたこともありませんでした。
涙が止まりませんでした。

それから母さんとは口を聞かないようになりました。
嫌な気持ちでいっぱいだったんです。
母さんがしたことを許せないまま、すれ違いの日々が続きました。

いなくなればいいとさえ、思いました。





そして、しばらくしてから、突然、母さんはいなくなりました。
私が望んだ通りになってしまったんです。

交通事故だったそうです。
見通しのいい交差点で、ガードレールに激突し、亡くなっていたと、後で警察の人から聞きました。
あまりにも強い衝撃でぶつかってしまったようで、母さんは見るも無残な姿だったそうです。
警察の人に「まだ見つからないものがあるから、ゆきさんには詳しく話すことができない」といわれました。
でも、一つだけ私に教えてくれたことがありました。
車内には、私に贈る予定だった新品のくまのぬいぐるみがあり、メッセージが添えられていたそうです。



『ごめんね』と一言だけ書かれたメッセージカードが、母の最期の言葉になってしまいました。




私は、本当に一人ぼっちになってしまいました。

母の荷物の整理をしても、リカは見つかりませんでした。
母が最期にくれたくまのぬいぐるみだけが、私の心の拠り所になりました。


その後、私は大学に行き、卒業して、すぐに就職先もみつかり、ごく平凡な日常を過ごしました。
会社でお世話になった3つ年上の男性と仲良くなり、2年の交際期間を経て、結婚することになりました。

そして、今私には3歳になった娘レイナがいます。



レイナ「ママー、ごはんまだー?」

ゆき「はいはい、レイナちゃん。もうちょっとしたらできるからねー」

レイナ「ママ、これ何?」

ゆき「これはね、私が昔…お母さんにもらったくまさんよ」

レイナ「ふーん、だからかー」

ゆき「だからって?」

レイナ「見たことあるなーって」

ゆき「そんな訳ないでしょ?今日まで、ずっと押入れにしまってあったんだから」

レイナ「えーそうなのー?だから初めて見るのかー」

ゆき「やっぱり初めてなんじゃない。もう、レイナったら」

レイナ「あははは」


言葉も流暢に話すようになってきており、子供の成長を日々感じていたのですが。
ある日の夜、娘が変なことを言い出しました。



<携帯音>


ゆき「もしもし、あなた?お疲れ様。どれくらいで家に着きそう?
えぇ。えぇ…そう。…ううん、大丈夫よ。レイナと待ってるから、気をつけて帰ってきてね。それじゃあ、また後でね」

レイナ「…パパ…まだ、帰ってこないの?」

ゆき「うん…会社の付き合いで遅くなるって…ごめんね。今日は、レイナの誕生日なのに」

レイナ「そんなことは、いいの。それよりも、ママが悲しそうだから、私も悲しい…」

ゆき「レイナ…。優しいね、レイナは」

レイナ「……ママは、パパがいて…嬉しい?」

ゆき「え…うん?嬉しいよ」

レイナ「パパずるいなー、私がパパになりたかったのにー」

ゆき「ははは、レイナちゃんがパパだったら、レイナちゃんは生まれてこれないよー」

レイナ「えーそれはやだ」

ゆき「レイナちゃんがいてくれて、ママすごく嬉しいよ」

レイナ「ほんと?ほんとに嬉しいの?ママ」

ゆき「当たり前じゃない!レイナちゃんがいてくれて毎日が楽しいよ」

レイナ「私、家族になれてるかな?」

ゆき「もちろんじゃない!私たち三人で家族だよ。でも、どうしていきなりそんなこと言うの?」

レイナ「ずっと前からそうなりたかったから……ずっと…待ってたんだよ」

ゆき「そっか、待ってくれてたんだ。レイナちゃん待っててくれてたんだね」

レイナ「うん!」


子供のよくあるファンタジーのような話をしてくれる娘を見て、ほほえましく感じていました。
それで私は、娘を抱きしめて、生まれてきてくれたことに対しての感謝の言葉を伝えました。


ゆき「レイナ…生まれてきてくれてありがとう。
レイナちゃんが幸せだとママはすごく幸せな気持ちになるから、これからもよろしくね」

レイナ「私も!ゆきちゃんが幸せな気持ちでいてくれるよう、ずっとそばにいるね!」

ゆき「『ゆきちゃん』って、パパと同じような呼び方真似しないの」

レイナ「えー真似してないよー。これがふつうだもん。だから、私も同じように呼んでほしいな」

ゆき「んー?レイナちゃんはレイナちゃんのままがかわいいと思うけどなー」

レイナ「うーん、そうじゃなくてー!!」

ゆき「はいはい、どうしたの?そんなに怒って。ほらぎゅーってしてあげるから、仲直りしよ?」

レイナ「むーわかったよーぎゅー」

ゆき「ぎゅー」

レイナ「……あ、そだゆきちゃん」

ゆき「何?まだパパの真似っこ?」

レイナ「今度はママみたいに捨てないでね」

ゆき「……?…何を言ってるの?レイナ?レイナを捨てるわけないじゃない?」

レイナ「あ、そうだゆきちゃん。これ、見つかったんだよ!ずっと私が探してたもの!」

ゆき「え?何かなくしものでもしてたの?」

レイナ「そうなの!私ね!ママに取られちゃってたの!」

ゆき「え?私、レイナちゃんから何か取っちゃってたかしら?」

レイナ「ゆきちゃんじゃないよー」

ゆき「え?…でも、ママに取られたって」

レイナ「それでね!ママに返してって引っ張ったらね!すぐ取れたの!
ほら!こんな風に!えい!!」


レイナは、私のくまのぬいぐるみをつかんで、腕を引きちぎりました。
小さな細い腕のどこからそんな力が出たんでしょうか。
突然の出来事に、私は驚きを隠せませんでした。


ゆき「何してるの!!それは私の大事な人形よ!返して!」

レイナ「私よりも大事なものなの?ママ?」

ゆき「…レイナ?」

レイナ「ほら…見てみて。あの時、この中に急いで隠してたんだよ!ゆきちゃんも探してくれてたでしょ?」

ゆき「ちょっと待って、言ってる意味が全然分からな……え?…これって………血?
何これ…それに…この手は…………え、え?…何なのこれ?
あれ?ママ混乱してきちゃった…。いやレイナ、ママを驚かせようとしてるのね?!
こんなの偽者に決まってるのに、私ったらどうかしてるのかしら…」

レイナ「昔はママも、私に優しくしてくれたのにー。
パパが現れてから、私…に全然見向きもしなくなっちゃってねー。ひどいよねー?」

ゆき「…レイナ…何を言ってるの?」

レイナ「だから…私………パパは嫌い…」

ゆき「レイナ?!」


<携帯音>


ゆき「もしもし、あなた?え……あ、えっと…会社の方ですか?
あ、もしかして、主人がお酒で酔っ払ったから、代わりに連絡してきてくれたんですか?…すみませ………え?
主人の………腕が…?それって…どういうことですか…?」

レイナ「ねーぇーパパなのー?」

ゆき「レイナ、ちょっと静かにして…はい、はい…分かりました。すぐに向かいます、はい。失礼します
………あぁ…嗚呼…。私……私……っ……」

レイナ「…ゆきちゃん?」

ゆき「………どうしよう、私…また、一人ぼっちに…うぅ…うぅ…うぅぅ」

レイナ「ははは…ハハハハハ!!!」

ゆき「!!」

レイナ「ゆきちゃんー?高い高いー!!」

ゆき「こんな時に何してるの、レイナ?!
さっきから…様子がおかしいわ…一体…どうしちゃったの?」

レイナ「これで、また一緒だね」

ゆき「………え?」

レイナ「どうして、そんな顔するの?もっと嬉しがってよ、ゆきちゃん!」

ゆき「…レイナ…あなた、どうしちゃったのよ…なんなの?一体なんだっていうのよ!!
っ!!……あなた…あなたっ…まさかっ!!!」

レイナ「アハハハハハハハハハハ!!!!
私は今でも…ゆきちゃんのことが、だーいすき。
ママもパパも、もういない…これからはずっと、ずっと一緒だよ…ははは…キャハハハハハハハハハァ!!!」

ゆき「嫌…ぃゃ、イヤァあああああああああああーーー!!!!!!」







<ストーリーテラー>
子供のお人形遊びは、周りから見ると大変ほほえましいものですが、
時に、その対話は、物に魂を宿らせる行為になるのかもしれません。
それが、友情、愛情の関係で済めば良いのですが…もし、嫉妬や憎悪を相手が抱くようになってしまっていたとしたら…?

それは、果たして、『人形』と…呼べるのでしょうかね?

…ほら、あなたもどこからか視線を感じませんか?
寂しそうに、あなたを、じっと…見ていますよ…?



サジッタさんの企画「世にも奇妙な声劇台本 残暑の特別編」参加台本。
     
 
           
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