題名  公開日   人数(男: 女: 不問)  時間  こんな話  作者
 鴨侍~KAMOZAMURAI~ 2017/01/20  5(3:1:1) 40分 今日も鴨は元気です! りり~

◇キャラ紹介◇
● 山葱 鉄心 (やまねぎ てっしん)
道場の指南役。剣の腕が立つが、妻の尻に敷かれる。武士の忠義よりも家訓を重んじる異端児。

● 山葱 静 (やまねぎ しず)
鉄心の妻。最近鉄心が女遊びをしていないかと勘ぐっている(情緒不安定)

● 山葱 りん (やまねぎ りん)
鉄心の娘、母親似。

● 加茂川 光輝 (かもがわ みつてる)
鉄心の親友。腕は立つが、思い込みが激しく、鉄心に劣等感を抱いている(情緒不安定)

● 鵜甲斐 秀忠 (うかい ひでただ)
藩主。見かけは悪代官のようだが、何げにこの台本唯一の良心キャラ。思い込みが少々激しいことも多少あり。

● 鴨鍋 太郎 (かもなべ たろう)
鴨の中の鴨。鉄心の剣を見て、男気を感じ、それに惚れる。傍目には「くわあくわあ」だがその実は…?

● 影侍
突然、鉄心を襲ってきた刺客。その剣の太刀筋はどこか見覚えがあるような…?

◇配役◇
♂ 山葱
♂♀ 加茂川 +影侍
♂ 鵜甲斐 +N
♂ 鴨 +鴨M
♀ 静 +りん

※すべて、男女入れ替えOKです。



『鴨侍~KAMOZAMURAI~』



N: 鴨好きが鴨好きのために送る鴨台本! あ、間違えた。声劇台本。
    題して! 鴨侍!!
    はじまるよ!!



<夕暮れ時。道場にて>


山葱: いち! に! いち! に!!
    よおし! 今日はここまで!!


全員: ありがとうございました!!!






加茂川: 今日も、指導気合入っていたな。さすがは指南役に選ばれただけあるな。
     友人である俺も鼻が高いぜ。


山葱: おぉ、しかし、俺などが指南役など仰せつかって良いのだろうか…
     光輝の方が俺よりも剣に冴えがある思うのだが?


加茂川: ふふ、まあいいじゃないか鉄心。
     お上(かみ)の方々はお前のそのおごらない真面目さも買っているんだ。


山葱: そうだろうか?


加茂川: そうさ…。
     うん? おぉ… 今日も美しいな…


山葱: ああ、夕日が鮮やかだな…


加茂川: 夕日も良いが…
     俺が見ているのはあそこに居る鴨達だ。


山葱: 鴨?



加茂川: ああ、野生の中で見せるあのしなやかな美しさ…
     道場からあの美しい姿を見るたびに、
     俺は魅せられるのだ… 
     ああ…美しくも愛らしい… キューティパーフェクトザベスト鴨サンダーソン殿…(※つぶやくように)


山葱: ん? どうした? 何か言ったか?


加茂川: いや、なんでもない。
     それより良いのか?
     今日は早く静さんの所に帰るんじゃないのか?

山葱: おぉ、そうであったそうであった。
     早く帰らんと、また飯抜きにされてしまう!!

加茂川: ふふ、指南役殿は、
     相も変わらず尻に敷かれているようだな。


山葱: ああ、いつまでたっても立場が変わらん、
     友のお前と俺の関係と同じだな。

     よーし、準備完了だ。
     じゃあな、光輝! また明日!




加茂川: ……ああ、鉄心。
     また… 明日。





<山葱、場所移動、田んぼ沿いの道を歩いている。>


山葱: ふうー 今日も疲れたなぁ。


鴨: くわああ!!! くわくわくわくわ!!


山葱: ん? 鴨か? あれはまさか闘っておるのか!?
     しかも、3対1?! あの鴨… 3匹を前にして全く臆しておらん。

     そして、あの鴨の構え… 某の剣術とそっくりだ
     腰溜めに体勢を低くして…


鴨: くわああああああああああああああああああああああああああああああああああああ

山葱: っ! 動いた!!
     翼をまるで、刀のように扱うあの鴨…
     相対していた鴨を瞬時に黙らせた。

     というか… あれは、本当に鴨なのか?
     むむむ… あやつ… 気のせいか? こちらを… 見ておるのか?

鴨: くわくわくわくわくわ~ (訳:目と目が逢う…(※目が逢う瞬間、歌風に))

山葱: ん? どこか聞き覚えのあるような? 気のせいか?

鴨: くわ♪ くわっくわ~♪ くわくわくわ! (訳:わぁ!気付いてくれた♪一緒に歌おう!)

山葱: なんだ?

鴨: くわくわ~? くわっくわ~くわ~くわ!! (訳:いくよ~?いっせーのーで!!)

山葱: え?

鴨: くわくわくわくわくわ~♪ (訳:目と目が逢う~♪(目が逢う瞬間、歌風に))

山葱: 瞬間~♪?

鴨: くわくわくわくわくわ~♪♪ (訳:好きだと~♪)

山葱: 気付いた~♪?

鴨: くわああああああああああああああああ♪♪♪

山葱: うわあ?! こっちに来るっ!!


鴨: くわ!くわくわくわくわ~くっくわああああ♪ (侍の頭の上にがががと登っていき、ストンと座る)



山葱: く! この鴨ッ! 某の頭に何をするか!?
     ああっ! 髷がッ!! 武士の魂がぁぁあ!!!
     ええい! 降りよ! 降りぬか! 降りねば叩き切るぞ!!

鴨: くわあああああああああああああああああ

山葱: うう… 全くこの畜生は何を考えておるんだ!
     あー 早く家に帰って静に引き剥がしてもらわねば…。
     まったく… なぜ某がこんな目に合わねばならぬのだ!
     …よし、この門を抜ければ… 家までもう少し… ぬ?


影侍: ふんっ!!

山葱: ぐッ!!

影侍: ちッ、防いだか

山葱: く!! 何奴?!
     闇討ちとは… 武士の風上にも置けん!!


影侍: …

山葱: 何も語らぬか…

影侍: ふっ!!

山葱: なっ、刀をいなされた?

影侍: ……これで、終いだ…

山葱: まずいッ!



鴨: くわああああああああああああああああああ!!!

影侍: く! 前がッ見えッ!? 止めろ、止めんか!!

鴨: くわくわくわああああああああああ!!!

影侍: チっ…

鴨: くわくわぁああーーー!!!!!!

山葱: 鴨に啄ばまれて逃げていく…
     助かったか… しかし、あやつの太刀筋… どこかで


鴨: くわーくわっ! くわっ!! くわあああ!!!(ドヤ顔)


山葱: いやはや、先ほどは畜生などと無礼な事を申してしまいすまなかった。
     鴨に… いや、鴨殿に命を救われてしまったな。

     恩を受けてそれを返さぬでは武士の名折れじゃ、
     受けた恩は10倍返しが我が家の家訓でな。
     しかし、いや…はや困った、命を助けられた恩の10倍返しとなると
     どうやって返していいのものか見当もつかぬ。

     うーむ、そうじゃの~ 鴨殿の一族10世代まとめて面倒を我が家でみるとはどうだろうか!?
     あいや待てよ… それはやはり難しいだろうか…うーーーーーむ困った

鴨: くわー くわくわ! くわっくわっくわっくっくわ~♪

山葱: おお~~ また、某の頭に昇るのか!?

鴨: くわ!!


山葱: うむ、一先ず家に着いてから考えるとするかの



<山葱家、自宅>

静: おかえりなさい♪ 今日は遅かったわね、アナッナナナナ何んですかその鳥は!!?
     武士の頭に乗るとは!! このッ! このこのこのーーー!!!!!

鴨: くわぁ!! くわあくわあくわああああ!!!

山葱: おおい!! 待て待て待て待て待て!!
     命の恩人いや恩鳥になんてことをするか!

静: 命の… 恩鳥ですって?

山葱: そうじゃ、鴨殿は某の命を助けてくれたのじゃ。
     実は、先ほど…闇討ちにあってな。
     突然のことで、某も太刀打ちできなくて危うかったところを、
     この鴨殿がすばらしい翼捌きでの、その敵を追っ払ってくれたのじゃ

静: この… 害獣が?

鴨: くわぁ!!

山葱: 害獣などと申すではない。この方は、鴨殿じゃ。
     鴨殿がいなければ、某は今ここにはおらんかったやもしれぬ。

静: …そんなことが、あったのですか… それで帰りが、遅かった訳ですね…

山葱: あぁ。それで、何か礼をせねばならんと思っておるのだが、お前からも良い提案はないかの?

静: …

山葱: どうした?

静: …そんな、有りもしない嘘をついてまで、夜遅くまで何処で遊んでらっしゃったんですか!?
     言い訳の小道具にそんな害獣までご用意なさって、ああ、汚らわしい!

     私という妻がありながら、どうせ外で若いおなごとお戯れになっていたのでしょう?

     私がいぶかしんでいることを察しての工作でしたのでしょうけど、
     馬鹿になさらないでください!! 私だってその程度見抜けます。

山葱: へ? 何ッ、何を言っておるのだ!!?
     ここぞとばかりに日ごろの不満も噴出しておるようだが、
     某の言葉に嘘偽りは断じてない!! 真の事じゃ! もう、100%真実しかないぞ?!!

静: そうやって… まーた、私を騙すのですね!
     もう、いいです… そんな言い訳、私には通用しませぬ!!

山葱: 言い訳などでは…

静: 晩御飯抜き!

山葱: えっ?

静: もう! もーーう!! 怒りました!!!
     反省いただけるまで晩御飯は抜きです!!

山葱: そ、そんな理不尽なぁ…

鴨: くわぁ~…

静: 頭の上の鴨でもお食べになるか、
    外にいる女にでもだべさせていただけばよろしいのではないですか!?

山葱: だっ、だから誤解だ!!

静: ふんっ! お休みなさいませ。

山葱: しっ、静~~!! 話を聞いてくれぇーー!!!



<山葱、縁側に移動>


縁側に腰をかけると、鴨が頭から降りて、膝にシュタッと移動する。


山葱: はぁー…。ぬぉ…鴨殿どこにいく。

鴨: くわ! くわくわくわくわくっくわぁ~

山葱: …今度は膝か
     いやあ… 怒られてしまったなぁ。

鴨: くわあああああああああ

山葱: まぁ… あいつは後で説得するにしても…
     ふん。鴨殿の礼はどうしたものかのぉ。

鴨: くわぁ~…

鴨M: まだそんなことを考えていたのか

山葱: のぉ…なんだか、目がすごい語りかけてくる気がするぞ。
     鴨殿は名を何と申される?

鴨M: 俺の名は…… 鴨鍋太郎

山葱: むぅーん。なんかそう聞こえた気がするが… 随分自虐的な名前だな
     して…鴨殿? 先ほどの礼の件だが

鴨M: 礼なんかいらねぇよ。俺はあんたの剣をずっと見てきた… 男として憧れるほどにな。
     俺は、そんな俺が惚れた男をここで亡くす訳にはいかないと思った。だから、アンタを助けただけさ。

     だが、何か一つ望みがかなうのならば、俺はアンタと一緒に日々を過ごしてみてぇ。
     アンタは俺の見たことの無い景色を見せてくれる… そう確信している。

     相棒… 俺がアンタの頭の上に居ることを許しちゃくれねーか?


山葱: 某と共に?


鴨M: …やっぱだめかい

山葱: いや! 鴨殿が望まれるのであれば!

鴨M: そうかい、ありがとよ
     じゃあ、明日から、宜しくな…相棒。



鴨: くわあああああああああああああああああああああああああああ

山葱: は! 今のは… 一体?!

鴨: くわ?

山葱: 鴨殿、明日から… 宜しく頼む

鴨: くわくわくわああああああああああああああああああああああああああああ!



<翌朝>

朝ちゅんちゅん。

鴨: くわ!! くわっくわっくわああ!!!

静: こんのぉおお!! あほうどりが!! 魚返せ!! こんのおお!!

鴨: くわあああ!!!

山葱: ふぁああ~~ 静~~ 朝から何をやっておるのだ?

静: 貴方! 昨日連れてきた鴨が朝げの魚を咥えて走り回ってるのよ!
     早く捕まえてください!!

山葱: はははは鴨とな?
     某もその様な夢を見た気がするの~。
     まったく、自分でも笑ってしまうわ。
     鴨が頭の上に乗って、あまつさえしゃべるなど


ばりいい!!障子を突き破って鴨登場


鴨: くわわわわ!! くわあああああ!!!!!

山葱: ぬぉぉおお! かっ、鴨殿?!
     じゃあ、昨日の出来事はやはり現実であったか!!?
   

静: この~~~!! 観念しなさいよー!!
     今日は魚の予定だったけど、鴨料理も悪くないわね… 
     魚の代金はアンタの命よッ!! うりゃーーー!!!
  
鴨: くわ?! くわわわっわああ!!

山葱: うわっ、しっ、静! 落ち着け!!
     そんな包丁を振り回しながら走り回るもんではない!!
     鴨殿が怯えておるではないか!

鴨: くわ… くわくわくわ…

静: 鴨殿…? 鴨殿鴨殿鴨殿ぉぉおおお!!!
     昨夜から一段と仲良くなられたようでーー?

     とにかく、私は昨日から腹の虫が収まらないのです。

     さあ、あなた~~ その鴨を~~さ~し~~だ~~~し~~なさーーーい!!!

鴨: くわ~わわわわぁ~!!!!

山葱: うわぁあーー! おっ、落ち着け!
     先ずは話をだなー!!?


静: まーーたーーー ご飯抜きにされたいのぉぉぉおお!!!?


鴨: くわああああああああああ!!!?

静: ああ!! またそんなところ登って!!
     アナタが何も言わないからその鳥が調子に乗るんですよ!?
     あーーーーー 腹立たしぃぃいいいい!!!!


山葱: あーーー  鴨殿…

鴨M: おう、なんだよ相棒

山葱: ここは一旦… 逃げるでござる!!!

鴨: くわあああ!!!!!!!!!

静: あ、お待ちなさいよ! もう!!


<外へ>



鴨: くわっくわっくわくわあ♪

山葱: はっはっはっはっは!
     ふぅ~~~ 大通りまで来れば、静も世間体を気にして出てこれまい…

     は~~ 腹が減った…  しかし、武士はくわねど高楊枝。
     ちょうどいい。このまま道場に向かうとするでござるよ

鴨: くわああああああああああああああああああああああああ!



<山葱、道場へ>


加茂川: よお、鉄心ッて、それは… どうしたんだ?
     頭に鳥なんて乗せて、気でも触れたのか?

鴨: くわぁ…?

山葱: まぁ、色々事情があってな

加茂川: ……そうか

山葱: ん? なんだ? どうかしたのか?

加茂川: 何でもない。
     今日は少し外に出る用があるのでな、
     準備をしてくる。

山葱: ああ

鴨: くわ! くわあああああああああああ

山葱: 鴨殿いかがなされた? 突然そのように暴れて

鴨: くわ! くわ! くわくわあああああ

加茂川: おい、鉄心。
     鳥を連れて来るのはいいが、騒がしいぞ、早く黙らせろ。

山葱: あ、ああ。すまぬ



<鵜甲斐家にて>


鵜甲斐: おお!! 加茂川ではないか~ 元気にしておるか?

加茂川: はい、おかげさまで。
     鵜甲斐様もお元気そうで何よりです。

鵜甲斐: うん、うん。
     して、今日はどうした?

加茂川: はっ、鵜甲斐様に一つお耳に入れておきたいことが…

鵜甲斐: うん? 何じゃ、そんな深刻な顔をして、
     よいよい、何でも話してみよ

加茂川: それが… かくかくしかじか、うまうま、トラトラ、カモカモ

鵜甲斐: ふむふむ…何?! 山葱が狂った?!
     ええい、それは一体どういうことじゃ!
     詳しく説明せよ!

加茂川: 実は今朝方から、鳥を頭の上に乗せるなどといった奇行が目立ち、
     挙句の果てには 『鴨殿』 などと頭の上の鳥に話しかける始末。

     私を含め、道場の皆、困惑しています。
     友人として心配なのはもちろんですが、
     これでは… 我が藩の剣術… それだけに止まらず、
     鵜甲斐様のお顔に泥を塗る結果にもなりかねません。

鵜甲斐: うむ、そなたの心配はもっともじゃ、
     よくぞ知らせてくれた。

     しかし、あの実直な山葱がの…

加茂川: はい、私も信じられぬ気持ちでいっぱいです。

鵜甲斐: して、加茂川よ、それには、その~ 
     お主の言う 『鴨殿』 というのが関わっておるのか? そ奴はどういった鳥なんじゃ?

加茂川: はぁ… あの鴨は、それはそれは翼は艶やかで美しく晴れ着の絹のような繊細で柔らかな…… あんなものを頭の上に乗せたら
     それはもう!! もう、もう!!!! そうその鴨はまさしく!! 私が見初めた鴨!
     キューティパーフェクトザベスト鴨サンダーソン殿ッ!!
     ほんとにあの鴨はすばらしいんだ… さいこうなんだ!!
     なのに、なんであいつのあの頭の上に… 許せない、許せない… あいつはいつもそうだ、俺のほしいものを全部…

鵜甲斐: おい!! おい!!! 加茂川! かもがわ!! 
     今お主なんと申した? え、あ? なんかよく聞き取れなかったんだが?

     キューティパーフェクトザベスト鴨サンダーソンアルティメットエクストラエディションだと?



加茂川: …え? え??
     ……そんなことは申しておりませぬ
     私はただ、キューティパーフェクトザベスト鴨サンダーソン殿と…

鵜甲斐: (※前台詞のキューティパーフェクトに被せる勢いでお願いします。)
     じゃから!!
     キューティパーフェクトザベスト鴨サンダーソンアルティメットエクストラエディション
     グランドボンジョビエボリューションファイナルファンタスティックエレクトニカルカーネルサンダーソン3世
     であろう?


加茂川: ………

鵜甲斐: ………

加茂川: え…? え?! あ…? え? …ん? んん??

鵜甲斐: うんむ…。 お前の心配はもっともだ。

加茂川: ん?! え? え?? …あ、 あ…… はい

鵜甲斐: よし!分かった!わしも一度道場に見に行く!
     それで山葱と直接話をする!

加茂川: はっ… かしこまりました。その際は私もお供させて頂きます

鵜甲斐: うむ



加茂川: …それで先ほど申し上げたのは、キューティパーフェクトザベスト鴨サ…

鵜甲斐: その話はもうよい

加茂川: はっ…





<翌日、道場にて>


鵜甲斐: 山葱~ 山葱はおるか!?


山葱: はっ、これは鵜甲斐様。
     この様な場所にまでおいで下さったと言う事は、
     何か火急の用件でございましょうか?

鵜甲斐: うむ、この藩の代表たる道場の顔、
     そして、果ては儂の面子に関わる需要~~~な… 問題じゃ。


山葱: 何と!? そのような問題が!!?


鵜甲斐: うむ…  先ずは、山葱よ… 
     そなたに問おう。

山葱: はっ



鵜甲斐: その方の頭に乗っておるそ奴は… なんじゃ?

鴨: くわくわ?

山葱: はっ、これは私の命を救った恩鳥にございます。
     名を鴨鍋太郎と申します。


鵜甲斐: 恩鳥? その鳥がそなたの命を救ったと申すのか?

山葱: はっ、にわかには信じられぬこととは重々に承知しておりますが、
     事実にございます。

鵜甲斐: まあ、よい…  では、一先ずその鳥を頭よりどけよ。
     余に対するあいさつで頭を垂れようとしても、
     今のままでは不自由であろう?


山葱: いえ、このままでも鵜甲斐様への礼をしっする事はッ



加茂川: 良いから! その鴨を下ろせと言っているのだ鉄心!!


山葱: ッ!? 光輝?


加茂川: 早く下ろせ! 頭に鳥を乗せたままで礼を欠かぬだと!?
     笑わせるなッ!! 我らが藩主 鵜甲斐様に対して無礼であるぞ!!
     剣術指南役程度が分を弁えよ!!



山葱: 鵜甲斐様… 

     恐れながら申し上げさせていただきます。
     これは恩鳥であると同時に私の相棒。

     その相棒が、私の頭に自分の意志で居り続ける限りは、私はこ奴を頭から下ろすことはできませぬ。
     例え鵜甲斐様の命であってもです。

     たかが鳥ごときに何をそこまでと思われるかもしれませぬが、
     私は武士としての約束をしたのです…  ですから、それをたがえる事はできません。


加茂川: 鉄心! 正気か貴様ぁぁああーー!!?


鵜甲斐: お主…  本当に気でも狂ったのか…

     まさか、儂を前にしてその様な事を言うとは… 
     本来であれば、我が藩の剣術指南役としての分をわきまえぬ行動。

     切腹を命ずるところであるが…
     お前は本当に今まで尽くしてくれた。

     他藩との剣術大会でも、目覚しい活躍を見せておる。
     今までの功績に免じ、罪には問わぬ。

     代わりに我が藩の剣術指南役としての任を解くこととする。
     …よいな?


山葱: はっ、寛大なるお心遣い。
     真にありがとうございます。


鴨: くわくわくわくわくわくわあああああああああああああああ!!

鵜甲斐: うを! こやつ、突然なんだ!

山葱: 鴨殿?!

鴨M: おい。ケツの穴の小せぇこと言ってんじゃねぇぜ。
     ここは武を極めるところだろ?
     言ってみれば、男を極めるところだ!
     それなのに、おめぇら揃いも揃って…
     俺みたいな、ちっぽけな鳥の1匹や2匹頭の上にいるからって何だってぇんだ。


山葱: な! 鴨殿!! やめるんだ鴨殿


鴨: くわあああああくわあああああああああああ (はがいじめにされている)


加茂川: こっ、この鴨ぉぉおおお! 鵜甲斐様になんてことを!! 切って捨ててくれるわ!!!!


山葱: 相棒を切ろうとするのであれば、
     黙ってはおれぬ!


加茂川: ぐぅううう~~~ 相棒…だと? 鴨殿、鴨殿と… 何度も何度も… 調子にのるなよ?


山葱: 光輝…  なぜそのような形相を?



加茂川: ううう…  もう、我慢の限界だっ! てっしーーん!!

     貴様はいつも見せつける!!
     剣術の修練でもいつも俺よりも評価され、
     周りからの信頼も厚く、美しい女子とも結ばれてぇえええーー!?

     あまつさえ! 俺のキューティパーフェクトザベスト鴨サンダーソン殿を頭に乗せおって!
     某が… 鳥ッいや! 鴨好きと知ってのことかぁぁぁあ!!?


山葱: 俺の…?

     光輝、この鴨殿… 
     いや、キューティパーフェクトザベスト鴨サンダーソン殿は、お前が飼っていたのか?


加茂川: ちがぁぁああーーう!!!


山葱: うん?

加茂川: あーーー だまれだまれだまれ!!
     貴様はいつもそうだ!! 俺の欲しかったものを全て奪って…。
     キューティパーフェクトザベスト鴨サンダーソン殿も某が想いを寄せておったものも、道場も、その指南役という座も!
     全て奪いおって!! キエエエエエエエエエエ!!!!

山葱: そんな物、完全な逆恨みではないか!

加茂川: 黙れ!! 黙れ黙れ黙れ黙れ!!!!

鴨: くわ!! くわっくわっくわ?!

山葱: 光輝落ち着け! お主が先刻好きだと言った鴨殿は…。
     今も某の頭の上におる。

     このままでは、主の好きな鴨殿も傷つけてしまうぞ!!

加茂川;はぁはぁはぁ… ふふふふ… ははははは!!
     手に入らぬものならば… 切って捨ててくれるぅうう!!
     俺は知ってるぞ… お前の苦手な太刀筋をおおおお!! もらったああああああああ!!


山葱: はっ! …この軌道…いかん!!
     鴨どのぉおおおおおおお!!

鴨: くわああああああああああああああああああ!!!!


シャキーン、カランカラン、と加茂川の手から剣が地面に落ちる。


加茂川: ごふっ… ばかな… なぜ?  お前の剣が俺に届いている?
     打ち込む位置も速度も完全にお前を倒しうるものだったはず… 


山葱: …光輝。
     お主の剣を見切ったのは某ではない…  某の頭の上にいる
     こやつが見切ったのだ。

鴨: くわ…

加茂川: そんな馬鹿な!
     鴨にそんな芸当が!!?


鴨M: ……ふぅ、ガキが。
     そんな駄々っ子みたいな剣じゃ、お前の欲しいものは何一つ手に入らないぜ。

加茂川: はっ、くちばしにヒビ?!
     そんな… 俺の渾身の一撃が、鴨のくちばしで止められたって言うのか?

鴨M: 貴様が俺のことを見ていたのは知ってたさ。俺に心を寄せていることもな。
     でも、お前は… ただ見ているだけだった。 待ってるだけじゃ、世界は変わらないぜ?

加茂川: この声は… まさか… キューティパーフェクトザベスト鴨サンダーソン殿?
     そんなこと… そんなことがあるはずは

鴨M: 俺に対してのひた向きな姿勢を、どうして剣に向けなかったんだろうな。
     田んぼの端からでも見えるほどの、貴様の居合いは、俺の鴨ハートを震わしたぜ?
     なのに、こんな姑息な手段を取っちまうなんてな、失望したぜ?


山葱: お主は、剣の腕では、某を超えておった。 だが、一つだけ、足りてなかったんだよ。
     たった一つだけな


加茂川: それは…一体?

鴨M: 自分自身の、弱さに向き合うこと… それからずっと逃げ続けてたんだよ。


加茂川: !! …そうか…。 そういうことだったのか…。
     ふふふ… 俺は… ずっと必死に、隠し続けてきたからな… 自分の心を…。
     誰にも悟られなくなかったから、抑えていたのに…、あの晩…お前が、そのモフモフを乗せた姿を見てしまって…!!

     俺の中で何かが弾けちまったんだ。
     俺があんなに封じ込めようとした、鴨好きの心を… 自分の弱みを、あんなに堂々として、
     ふわふわ鴨がすっぽり頭にフィットしている佇まいを見てしまったら!!
     気が狂っちまって… 愛が、憎しみに変わっちまったんだろうな。
     俺は… 本当にどうしようもない男だよ…鴨が大好きなのに、こんなにも愛しているのに…っ!!
     剣を向けてしまった…愚かな男だよ!!


鴨M: …だが、この剣も… お前の出した愛の形… そうなんだろ?

加茂川: …え?



鴨M: …重かったぜ …良い重さだった…。 俺の鴨ハートに、ズシンと響くくらいな


加茂川: !!


鴨M: このくちばしの傷も、勲章として受け取っておくよ。ありがとな…


加茂川: 俺は… 俺は!! なんてことを… う、うううううううあああああ

鴨M: 俺はもう… 相棒の頭の上で、一緒に日々を過ごすって決めた身だから、側にはいれねぇが…。
     せめて、この高い場所から、お前を見守っておいてやるよ。 これからお前がどうやって羽ばたいていくかを、ずっとな

加茂川: …ありがとう。それだけでも… その言葉だけで、俺は… 俺はっ… う、うう…



山葱: 光輝…

加茂川: 鉄心にも、随分迷惑をかけたな。後日改めて… 侘びを入れに伺う…

山葱: 無理をするな… もう、話すのも、限界なのであろう?

鴨: くわぁ…

加茂川: …ばれておったか …ふっ…
     なぁ… 最後に聞いていいか?


鴨M: 何だ?

加茂川: そなたの本当の名前を… 教えてくれ

鴨M: 俺の名は… 鴨鍋太郎だ




加茂川: そうか… フフフ… それはそれは… 実に… 美味そうな… 名、だ… な





山葱: 気を失ったか…


鵜甲斐: ふぅ…。…あやつら… さっきから、あの鴨に向かって、何を話しておるんじゃ?
     何がなにやら、わしには全くわからんが…そこまでじゃ!!
     皆の者! そやつらと鴨1匹捕縛せよ!!

     や~れやれ、二人共、随分と遠回りな仲直りじゃったの… はぁ…




<とある場所>

鴨: くわっくわぁ~…?

山葱: 拙者は…… まちがっていたんでござろうかな…。
     あやつの気持ちなんて、考えておらんかった。
     まぁ、失ってから気付いたって、もう遅いのかもしれんがな…

鴨をひざに抱える、鴨もじっと見つめ返す。

鴨: くわああ…?

山葱: 鴨殿は何も悪くないさ。
     某の未熟さ故に、多くの者を巻き込んだのだ。
     それは今露わになっただけのこと

鴨M: 俺には分からんが、相棒のお前がコレと決めたのであれば…
     俺が言うことは… 何もない

山葱: 鴨殿… そうであるな! もう迷わぬ! 拙者胸を張って、己の道を貫き通すでござるよ!!
     よおし、そうと決まれば、まずは家に帰るとするかの!

鴨: く…く…く…

山葱: どうした鴨殿? うん? お? くんくんくん… この匂いは… 今日は蕎麦でござるか…

鴨: くわああああああああああああああああああ!!!!

りん: あらあら、いい勘してるわね! この鳥野郎!
     あんたのせいで、山の猟師に弟子入りするって言って、母さん出て行っちゃったんだからね!!
     今日中に本ッ当に出て行かなければね! この鴨蕎麦にしてやるんだから!!!

鴨: くわああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!

山葱: 鴨蕎麦でござったか… 鴨殿っ… 申し訳ない!!

鴨: くわ! くわくわ! くわあっああああああああああああああ!!!!

りん: ちょっと! こら逃げるな!! 今日の食材! 待てぇええええ!!!!!!




N: 元・蘇州藩剣術指南役鴨侍!
     一人と一羽。
     渡世の波にゆらりゆられて今日も気ままに街を行く。
     気分は、さながら田を泳ぐ鴨と同じ。



りん: ってこら! お父さんまで、どこ行くのよ! どっちも逃がさないからね!!!

鴨: くわ! くわくわ! くわあああああああああああああ!!!!

山葱: 拙者にもお前の気持ちが分かってきたあああ!!! ふいいい退散退散!!

りん: ちょっとお父さん! 待ちなさい!!!
     もう!! いい加減その鴨を降ろして、早く定職に就いてよねぇええええ!!!!!



N: 剣術指南役あらため、鴨侍!
     明日はどこへと向かうのか… つづく!!

鴨: くわっくわっくわあああああああああああ!!!!




     
 
           
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