題名  公開日   人数(男:女)  時間  こんな話 テキスト   作者
 君に捧ぐ夢想曲(トロイメライ) 2013/08/31  2(1:1) 15分  ただ一途に、君だけを愛する    シン


登場人物 性別 その他
霧夜
研究者。クローン研究。実家は大病院。
夏芽
霧夜の妻。美人め。純粋強気。
雑賀
 大学生の時事故死。明るい元気。カッコいい系。
(注意※雑賀は台詞ありません)


  君に捧ぐ夢想曲(トロイメライ)


霧夜  身体、重くないか?あんまり無理してお腹の子に負担かけないようにな

夏芽  大丈夫よ、料理するくらい。第一、霧夜さんは料理なんてできないでしょ

霧夜  したことがないからな。…でも、これからは俺もできるようになるよ

夏芽  いいのよ、あなたは研究で忙しいんだもの

霧夜  いや、そろそろ区切りがついたから結構時間ができるんだ

夏芽  そうなの?じゃあこの子の出産も立ち会える?

霧夜  もちろん立ち会うよ。大切な子だからな

夏芽  嬉しい…

霧夜  予定日、いつだっけ?

夏芽  来月の10日

霧夜  もうすぐだな

夏芽  ええ、楽しみだわ

霧夜  来月…丁度あいつ、雑賀の命日、か

夏芽  …そうね

霧夜  何年前だっけ?

夏芽  もう8年前かしら…

霧夜  懐かしいな。あの頃はお前と結婚するなんて考えもしなかった

夏芽  私もよ

霧夜  あの頃のお前は雑賀が好きだったからな

夏芽  霧夜さんだって、私より雑賀さんの方がすきだったでしょ

霧夜  まぁな…

夏芽  ていうか、雑賀さんに言い寄る私のこと、うっとおしいと思ってたわよね

霧夜  そんなに露骨だったか?

夏芽  周りは気づいてなかったかもしれないけど、あんな目で睨まれたり話遮られたりしたらわかるわよ

霧夜  雑賀はそれ見て困ったみたいに笑ってたよな

夏芽  ええ、すごくあったかい顔してた。仕方ないなぁ、みたいな

霧夜  あったかい?呆れてただろ

夏芽  それもあったけど、でもやっぱりあったかい空気だったわ

霧夜  そうか…俺には分からなかったな。お前と話すの邪魔して困らせてると思ってた

夏芽  そんなことない。あなた達って私が入っていけない空気出してたもの

霧夜  まぁ付き合いが長かったから、言わなくても分かるところはあったけど

夏芽  そういうとこ、すごく羨ましかった

霧夜  それであんなに俺につっかかってきてたのか?

夏芽  ええ、あの頃私霧夜さんが一番のライバルだと思ってたもの

霧夜  そうか…俺も

夏芽  え?

霧夜  俺も、お前のことライバルだと思ってた

夏芽  親友に言い寄る邪魔な女?

霧夜  ああ

夏芽  そう…。雑賀さんのことすごく大切だったのね。彼が事故で亡くなった後のあなた、すごかったもの

霧夜  そうだな…あの時は食事も睡眠も、何もする気にならなかった

夏芽  あの時、放っておいたらあなたまで死んじゃうんじゃないかと思った

霧夜  そうだな。お前がなにかと世話を焼きに来なかったら、確実にあの世にいってたな

夏芽  あの時からあなたのことが気になって、気付いたら好きになってた

霧夜  …お前から告白された時は、驚いた

夏芽  そうなの?すごく冷静だったような気がするけど

霧夜  俺はあんまりそういうの表にでないからな

夏芽  表に出ないっていうレベルじゃないわよ。すごくあっさり頷くから逆に私が驚いたわ

霧夜  お前に告白されて、結婚するならお前とだなって思ったから

夏芽  …ありがとう。霧夜さん、あまりそういうこと言ってくれないから正直どう思ってるのか不安だったの

霧夜  そういうことは軽々しく言うもんじゃないだろ

夏芽  そうよね、黙して語らずって感じで男らしいわ

霧夜  俺は嘘とかつけないから

夏芽  知ってる。だから浮気とかの心配はなかったもの

霧夜  研究で忙しくてそれどころじゃなかったからな

夏芽  クローン研究か…区切りがついたっていうことは、クローンができそうってことよね

霧夜  あぁ。もうすぐ、もうすぐだ…

夏芽  倫理的な問題とか大丈夫なの?

霧夜  別に人間のクローンをつくるわけじゃないからな、絶滅危惧種とかを増やしたりするだけだ

夏芽  人間のクローンなんて夢物語よね

霧夜  ああ…表向きはな

夏芽  え?

霧夜  人間のクローン、実はもうすぐ完成するんだ

夏芽  …え?どういうこと…?

霧夜  俺がクローン研究始めたの、いつからか知ってるか?

夏芽  えっと、研究所に入ってからよね?

霧夜  それより前だ

夏芽  前?学生の頃から?

霧夜  ああ、ずっと一人でしてた

夏芽  …なんで?そんな頃からクローンなんて…

霧夜  …取り戻したかった、何をしてでも

夏芽  え?…あ、もしかして、雑賀さん…?

霧夜  それ以外に何がある?
     俺は雑賀が死んだなんて許せない。
     俺の傍に雑賀がいないのは許せない。
     雑賀のいない未来なんて許せない。
     雑賀のいない世界なんて許さない

夏芽  霧夜さん…?

霧夜  雑賀のいない世界になんの価値がある。
     倫理?道徳?そんなものどうでもいい。
     輪廻転生もあの世も魂も来世も信じない。
     そこに存在があって、それは意味を成す

夏芽  霧夜さん…

霧夜  …お前、気付いてたか?結婚してからも、する前も、俺がお前の名前を呼んだことがないこと

夏芽  …

霧夜  好きだとか、愛してるだとか、言ったことなんかないこと

夏芽  …気づかないはず、ないじゃない

霧夜  ほう?気付いてたのか。何故結婚した?

夏芽  …私が、霧夜さんを好きだから

霧夜  俺はお前が今も昔も大嫌いだ

夏芽  っ…!

霧夜  雑賀に言い寄る汚い女

夏芽  でも…でも!私のお腹には今、あなたの子がいるわ!霧夜さんと私の子が!
     嫌いだと言うなら、何故!?

霧夜  く…くく…あははははははははは!
     その子が、俺の精子とお前の卵子から成った子だと!?

夏芽  私は浮気なんてしていない!霧夜さんとの子以外はあり得ない!

霧夜  俺はお前を抱いたことなどない

夏芽  嘘よ!覚えているもの!優しい手で触ってくれた!

霧夜  確かに触った。嫌で嫌で仕方なかったがな。
     でも、最後までしたことはない

夏芽  嘘!だって…

霧夜  よく思い出してみろ、最後までした記憶がお前にあるか?

夏芽  え…それは……あっ

霧夜  いつも途中で意識を失くしていただろ

夏芽  あ…なんで…

霧夜  薬を盛っていた。まぁ意識を失う前に十分満足させてたんだからいいだろ

夏芽  そんな…じゃあ、なんで!?これは誰の子なの!!

霧夜  さっき言っただろう。もうすぐ完成する

夏芽  何が!

霧夜  雑賀だ

夏芽  …え?

霧夜  お前の腹の中にいるのは、雑賀だ

夏芽  え…?

霧夜  何度も何度も失敗した。命は形を成さず、成しても崩れ…何度も何度も雑賀を失った。
     環境に問題があるのだと、育つ環境を整えなければいけないのだと思ったとき、お前から告白された。
     お前の腹から生まれるかと思うと憎らしい。
     できるならすべて、一から俺の手で育てたかった

夏芽  この子は…雑賀さん…

霧夜  そうだ

夏芽  …なぜ…なんで、私なの!?あなたは私が嫌いなんでしょう!?なぜ私なの!

霧夜  お前が雑賀を好きだからだ

夏芽  え…

霧夜  お前の腹で雑賀が育つかと思うと憎らしい。
     しかし、何も知らない女を巻き込める程、俺は非情でも冷酷でもない

夏芽  私だって何も知らない!

霧夜  お前は雑賀を知っているだろう?言い寄っていただろう?雑賀が好きだっただろう?
     好きなら雑賀を宿すことに喜びを覚えるはずだ。
     好きな男が自分の腹で育つ。これ以上の喜びはないだろう

夏芽  私は今!あなたを愛してる!

霧夜  俺は雑賀を愛している。
     もうすぐ、もうすぐ会える…

夏芽  きりやさ…いや、こんなの…違う…

霧夜  お前は俺を愛しているのだろう?雑賀のことも好きだ。
     愛する俺のために、好きな雑賀を宿し育てる。最高の幸せだろう

夏芽  いや、違う…知らない…違う、いや!

霧夜  分からない女だ。
     …まぁいい…。もう雑賀は十分育った。お前はもういらない

夏芽  ぃや、来ないで…いや…

霧夜  愛する俺と雑賀のために生きれて嬉しかっただろう。
     …だから、死ね

夏芽  いや…いやあああああああああああああああああああああ!


 
 
   
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