題名  公開日   人数(男:女)  時間  こんな話 テキスト   作者
 永遠の檻 2013/08/31  2(0:2) 15分  永遠に私だけのもの    シン


登場人物 性別 その他
中島
刑事。
高坂 渚
矢内飛鳥の恋人。恋人殺人の容疑をかけられている。
矢内 飛鳥
今回の事件の犠牲者。
(注意※矢内飛鳥は台詞ありません)


「永遠の檻」


中島  はじめまして、今回取り調べを担当します中島です

高坂  はじめまして

中島  緊張なさらずに、お茶でも飲んでください

高坂  緊張はしていないです。でもお茶はいただきます、ありがとうございます

中島  どういたしまして。
     では始めます。高坂渚さんでお間違えないですね

高坂  はい

中島  よろしくお願いします

高坂  よろしくお願い致します

中島  何故こちらにお越しいただいているかはお分かりですね?

高坂  …さぁ?

中島  …え?

高坂  私、警察で取り調べを受けるようなことをしたでしょうか

中島  …矢内飛鳥さんをご存じですね

高坂  はい

中島  どのようなご関係ですか

高坂  恋人です

中島  それでは、矢内さんが亡くなられたのはご存じですね

高坂  はい

中島  二日前にこの近くのホテルで亡くなっているのを、従業員の方が発見しました

高坂  そうなんですか

中島  …高坂さん、矢内さんと最後に会われたのはいつですか?

高坂  二日前です

中島  どこで

高坂  ホテルです

中島  何を、されていたんですか

高坂  恋人同士がホテルにいてやることなんて、わかりますよね

中島  …何故、高坂さんは矢内さんと一緒にホテルを出なかったのですか?

高坂  飛鳥さんは動けない状態でしたから

中島  動けない状態とは

高坂  息絶えていました

中島  …あなたがホテルを出る時には既に亡くなっていた、ということですか

高坂  はい

中島  何故、亡くなられたんですか

高坂  出血が多かったからではないですか

中島  …何故、そんなに出血されたのですか

高坂  私がナイフで刺したからです

中島  っ…それは、あなたが、矢内さんを殺した、ということですか

高坂  そう…ですね。そういうことになりますね

中島  何故、矢内さんを殺したのですか。恋人だったのでしょう

高坂  違います

中島  え?

高坂  恋人だったのではありません

中島  でも先ほどご自身で恋人だったと…

高坂  恋人だったのではありません。飛鳥さんと私は、恋人なのです

中島  …そうですか。では、何故恋人を殺したのですか

高坂  何故…

中島  …

高坂  ……

中島  …高坂さん…?

高坂  ……何故…。あの人は、赤く、赤く、綺麗。動かなくなった。
     動かなくて、でもずっと一緒にいたくて。
     ただ、ずっとずっと一緒にいたい。
     好きで好きで、大切で大好きで、愛しくて。
     …飛鳥さんは、どこ?

中島  高坂さん?

高坂  ……あら、何の話でしたっけ?

中島  …矢内さんは、どのような方でした?

高坂  飛鳥さんは、強くて綺麗で大きくて、そして弱い人です

中島  お二人はとても仲がよろしかったみたいですね

高坂  飛鳥さんは、私をとても大切にしてくれました。私も飛鳥さんが大切です。
     好きなものを大切にして、いつくしむのは当たり前のことです。
     お互い大切にしていることで、人からは仲が良く見えたのでしょうね

中島  それはとても素敵な関係ですね。
     私も、とても好きで大切な方がいるんです。
     その方とお二人みたいな関係になれたら素敵なことでしょうね

高坂  はい、とても幸せです

中島  高坂さんは、ホテルから出た時のことは覚えていらっしゃいますか?

高坂  はい

中島  何時ごろ出て、どこをどのように通って帰ったのかわかりますか?

高坂  はい。あの日は、夜9時頃にホテルを…いえ、違う

中島  違うとは?

高坂  …私、一人じゃなかった…?

中島  どなたかと一緒にホテルから出たのですか?

高坂  …違う。ホテルは、一人で出た。それまで、誰かと…

中島  矢内さんと一緒にいらっしゃったのですよね

高坂  そう、飛鳥さんと…。飛鳥さんと、私と…誰か…

中島  他にも誰かいたのですか?矢内さんを刺した時にその方はいたんですか?

高坂  刺した…飛鳥さん、赤くて、綺麗。
     飛び散る赤に、倒れて眠る。
     飛鳥さんはいつも暖かかったの。
     赤に眠る飛鳥さんは冷たかった。人形みたい。綺麗…。
     私が、飛鳥さんを人形に…私が…?

中島  先ほど、高坂さんが矢内さんを刺したとおっしゃいましたが

高坂  そう、私が…私?
   ち、がう…飛鳥さんは、他の、誰かが…

中島  矢内さんは他の方に殺されたのですか?

高坂  そう、誰かが…いえ、私が、刺した…

中島  高坂さん?

高坂  私が、刺した。違う、私じゃない。
     わたし…そう、私が…私じゃない…。
     私じゃ、ない。飛鳥さんは、殺された…

中島  矢内さんを殺したのは、あなたではないのですか

高坂  私が…私は…違う、私だ。
     いいえ、私じゃない…。いいえ、いいえ…。
     違う、私が…私じゃ…あ、あぁ…

中島  高坂さん!しっかりしてください!

高坂  あ、あ…いやあああああああああ!

中島  高坂さん!どうされたんですか!?

高坂  …そう、私じゃない。私は飛鳥さんを殺したりなんてしていない。
     飛鳥さんを刺したのは…

中島  貴方が殺したのではないのですか

高坂  私じゃない!飛鳥さんを刺したのは……あなた

中島  …え?

高坂  私は飛鳥さんを殺してなんていない。
     あの日、私が待ち合わせしたホテルに着いたら飛鳥さんと貴方がいた。
     赤い、血の海に沈む飛鳥さんを貴方が見下ろしていた

中島  突然何を言い出すんですか

高坂  飛鳥さんは、まだ息があった。悲鳴を上げた私を安心させるように微笑んでくれた。
     でも、それが最期。それですべての力を使ったのか、あの人は、本当に息絶えてしまった。
     少しずつ冷たくなっていって…。その飛鳥さんを見て、貴方は笑った

中島  記憶が混乱しているのですか?

高坂  いいえ、はっきり覚えている。
     どうすることもできなかった私に貴方は無理やり何かを…薬のようなものを飲ませた

中島  薬、ですか

高坂  それを飲んだら頭がぼーっとして、霧がかかったようになった。
     そして、ゆらゆらと、何かが…あれは、火?

中島  ひ?炎ですか?

高坂  そう、多分、ライター。ゆらゆら揺れて…。
     声が、聞こえた

中島  声?どのような声が?

高坂  『ここには、あなた以外誰もいない。矢内飛鳥を殺したのはあなた。
     あなたが殺した。ナイフと血の付いたシャツを持って帰る。
     何事もなかったように生活しなさい。矢内飛鳥を殺したのは当然のこと。何もおかしいことではない。
     あなたは、これを持って帰って、普通に生活をしなさい』

中島  …暗示、ということですか

高坂  そう。顔も、声も、間違いない。
     飛鳥さんを殺して、私に暗示をかけたのは貴方だわ

中島  …確信をもっているようですね

高坂  はい。間違いない。たった数日前のことを、そんなに簡単に忘れたりしない。
     ましてや貴方は飛鳥さんを殺した人だもの

中島  そうですか。そんなことしていない、と言っても無駄なようですね

高坂  何故、殺したの

中島  そう言われても…

高坂  今更シラを切るつもりですか

中島  …あーあ、やっぱりあの一回で完全に掛けるのは無理かぁ

高坂  …認めるんですね

中島  はい。矢内飛鳥さんを殺したのは、私ですよ

高坂  なんで飛鳥さんを殺したの!

中島  それを聞いてどうするんですか?

高坂  …そうね、理由に意味はない。
     どんな理由でも飛鳥さんは戻ってこない。
     どんな理由でも、私は貴方を憎む

中島  そうでしょうね

高坂  私がここにいる理由はない。こちらに座るべきは貴方

中島  でも、凶器や返り血の付いたシャツは貴方の家から発見されている。
     今更貴方が何を喚いても通らない

高坂  それでもどうにかする!貴方をこのままには…っ!

中島  あ、やっと効いてきましたか

高坂  な、に…

中島  この前の薬の効果の強いものです

高坂  え…

中島  前のものは速攻性だけど効果が少し弱い。
     今回のものは遅行性だけど、効果が強い

高坂  いつ…

中島  そこのお茶に入れておきました。無味無臭って助かりますよね

高坂  ぁ…

中島  物的証拠は何もない。貴方は一度罪を認めている。
     今更覆らないなら、自分が殺したと思っていた方がいいでしょう

高坂  …

中島  もう聞こえてないみたいですね。
     では、この火を見てください。ゆらゆら揺れる。
     ゆっくり呼吸をして、ゆっくり、ゆっくり……




中島  では、矢内さんを殺したのはあなたで間違いありませんね?

高坂  はい

中島  何故殺したのですか?

高坂  飛鳥さんが大好きで、大切で愛しくて…。
     私の手で殺してしまえば、飛鳥さんのすべては私のもの。
     二人だけの世界で、ただ私だけのものになる。
     私の手で奪うことで、飛鳥さんは永遠に私だけのもの。
     私だけの…ふふふふふ




中島  自分の手で奪うことで愛おしいあの人は、私だけの永遠となった。
     矢内さんを好きだったのは、大切に思っていたのは高坂渚なんかじゃない。
     矢内さんを一番大切に思い、矢内さんのことを一番よく知っていたのは私。
     たまたま出会うのが早かったから、あいつは彼の恋人になれただけ。
     矢内さんの恋人に本当にふさわしいのは私。
     通勤の時は必ず目が合う。毎日電話をする。   
     照れ屋なあの人は出てもすぐに切ってしまう事も多かったけど、毎日言葉を交わした。
     でも、あの人は高坂渚につながれていた。
     あんな奴となんてさっさと別れてしまえばいいのに、同情なのかなんなのか、あの人は別れない。
     あんな女につながれて生きるくらいならば、私のところへ来れないくらいならば、私の手で解放してあげた。
     あの人もきっと幸せだったに違いない。
     だからあの人は最期にあんなに幸せそう微笑んだ。
   
     高坂渚は、もう檻の中。
     あの人をしばった罰を受ける。
     邪魔をする奴はもういない。

     永遠に、あなたは私だけのモノ…


 
 
   
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