題名  公開日   人数(男:女:不問)  時間  こんな話 テキスト   作者
 縁切り屋 ~望まぬ絆、戻らぬ縁~ 2014/05/16  6(0:3:3) 20分  一度絶たれた絆は、決して繋がることはない  シン


登場人物 性別 その他
エン 不問
ユカリ かわいい女の子。明るめな子。エニシの対。
エニシ かわいい女の子。大人しめな子。ユカリの対。
辻美依愛(つじ みいあ)
子供 不問
園長 不問  


「縁切り屋 ~望まぬ絆、戻らぬ縁~」


喫茶店のようだが、何だかよく分からないものがたくさん溢れている室内。
その中にあるソファーに座って、ひとり紅茶のカップを傾けるエン。
ゆっくりとして空気が流れる中、表に繋がる扉が無遠慮に開き、そこに付けてあるベルがチリリンと鳴る。

入ってきたのは派手目な恰好の若い女。
室内をぐるっと見回してエンに目を止めて口を開く。


みいあ  ここが縁切り屋?

エン    こんにちは。

みいあ  なんか古臭くて暗くて地味なところ。

エン    それはすいません。

みいあ  こんなとこ来なきゃいけないなんて最悪。


女は無遠慮にエンの向かいのソファに勝手に腰を下ろす。
エンの後ろからユカリとエニシがひょっこりと顔を出す。


ユカリ  こんにちは!

エニシ  こんにちは。

みいあ  何でこんなとこにガキがいるのよ。

ユカリ  こんにちは!

エニシ  こんにちは。

みいあ  何よ、うざいわね。

ユカリ  こんにちは!

エニシ  こんにちは。

みいあ  うるさいわよ!

ユカリ  この人こわーい!

エニシ  この人こわい。

二人   この人きらーい!

みいあ  ちょっと!何なのよ、このガキ!

エン    すいません。二人とも素直なので、嘘を言えないんです。

みいあ  それフォローになってないわよ!なんなのよ、この店。

エン    気にいらないようなら、お帰り頂いて結構ですよ。

みいあ  私だって帰りたいわよ!

エン    お帰りはあちらの扉です。

みいあ  この私がわざわざこんなとこに来てやってるのよ!

エン    私が来店をお願いしたわけではありません。

ユカリ  勝手にきたー!

エニシ  勝手に入った。

ユカリ  来なくていいのに!

エニシ  来ない方がいいのに。

エン    二人もこう言ってることですし、どうぞご自由にお帰りください。

みいあ  むっかつく!

エン    そうですか。

みいあ  私は客よ!

エン    客、ですか。

みいあ  ここでしょ、縁切り屋って。

エン    はい。

みいあ  だったら私はお客様よ!

エン    つまり、貴女には切りたい縁がある、ということですか。

みいあ  当然でしょ。じゃなきゃ、こんなとこまでわざわざ来ないわよ。

ユカリ  えー!

エニシ  えー。

ユカリ  この人お客さん?

エニシ  こんな人なのに?

ユカリ  お茶出すの?

エニシ  用意するの?

エン    したくないなら、しなくていいですよ。

ユカリ  そっか!

エニシ  よかった。

みいあ  何それ!この店はお客様に対してお茶も出さないわけ!?

エン    貴女は、ここのことをどのようにして知ったのですか。

みいあ  噂よ。知り合いから聞いたの。

エン    どのような噂ですか。

みいあ  どんな縁でもタダで切ってくれる店があるって言ってたわ。

エン    タダ。無料。つまり、私は貴女相手に商売をするわけではありません。
      ですから、お茶を出すのも出さないのも自由。縁を切るも切らないも、私の自由です。

みいあ  この私が、わざわざ訪ねてきてるのに何なのその態度!

エン    先ほども言いましたが、私が来てくださいと言った覚えはありません。

みいあ  もういい!

エン    お帰りになりますか。

みいあ  だから用事があるって言ってるでしょ!お茶はもういいって言ってあげてるの!

エン    そうですか。

ユカリ  帰らないんだ!

エニシ  帰らないんだ。

二人   残念!

みいあ  さっきからあのガキ共なんなのよ!

エン    二人は素直ですから。

みいあ  あーもう!とりあえずさっさと縁ってのを切ってよ。

エン    どなたとの縁でしょうか。

みいあ  ガキよ、ガキ。

エン    ガキ。

みいあ  子供がいるのよ、お腹の中に。

エン    妊娠されているのですか。

みいあ  私まだ若いし、綺麗だし、ガキなんていても邪魔なだけよ。

エン    産みたくないということですか。

みいあ  当然でしょ。お腹がでかくなるのもイヤ。

エン    わざわざこんな所に来なくても、病院に行けば治療してもらえるのではないですか。

みいあ  病院行って中絶して、誰かに見られたらどうするのよ。イメージ崩れるでしょ。
      それにここならタダでしょ。ガキのためなんかに無駄なお金使いたくないのよ。

女はおもむろにタバコとライターを取り出す。
タバコを口に咥えて火をつけようとする。

エン    妊娠されているのに、タバコを吸うのですね。

みいあ  なんで私がガキの為なんかに、私のしたいこと我慢しなきゃいけないのよ。

エン    それも産む気のない子供の為に、ですか。

みいあ  そうよ。(なかなか火がつかない)…チッ、オイル切れ?ライター頂戴よ。

エン    ここは火気厳禁ですので、火が付かないようになっています。ライターもありません。

みいあ  なにそれ。付かないようにって、どういうことよ。

エン    火との縁を切った空間だということです。

みいあ  そんなこともできるの?

エン    縁切り屋ですから。

みいあ  じゃあ、私と子供の縁も切れるってことよね。

エン    できます。

みいあ  それなら、さっさとやってよ。

エン    切らないと帰って頂けないようですね。

みいあ  当然でしょ。その為に来たんだから。

エン    そうですか。分かりました。ただし、縁は想い。

ユカリ  想いは念。

エニシ  念は力。

エン    力は絆。一度絶たれた絆は、決して繋がることはない。

ユカリ  想いは途切れる。

エニシ  力は途絶える。

エン    切ったものを繋ぐことは出来ません。貴女は本当に、子供との縁を切ることを望みますか。

みいあ  当たり前でしょ。その為に来たって言ってんでしょ。ぐだぐだ言ってないで早くしてよ。

エン    わかりました。では、こちらへどうぞ。


エンが立ち上がり、入り口のドアとは反対側へ歩いて行く。
みいあも面倒くさそうにそれに付いて行く。


エン    こちらへお入りください。

みいあ  ここで切るの?

エン    はい。ここへ入ったら、もう後戻りはできません。本当に入りますか。

みいあ  しつこいわね。そのために来たって言ってるでしょ。


遠慮なくドアを開けて中に入る女。
中は上も下も、どこまで続いているのか分からない不思議な空間になっている。


みいあ  何、ここ。気持ち悪い色。変なところ。壁見えないし…。

子供   殺すんだね。

みいあ  え?

子供   あたし、死ぬんだ。

みいあ  誰?

子供   あたし、誰?

みいあ  何よソレ。ていうか、アンタいつからいたのよ。

子供   ずっといる。ずっといた。

みいあ  私が入った時には居なかった。

子供   ママとずっと一緒だった。

みいあ  ママ?アンタ以外誰もいないじゃない。

子供   いる。

みいあ  私?私がママ?はぁ?私に子供なんていないわよ。

子供   いる。

みいあ  は?お腹?コレは今からいなくなるのよ。

子供   そう。あたしはママの中からいなくなる。

みいあ  はぁ?…なに、アンタがこのお腹の中にいるガキだっていうわけ?

子供   うん。

みいあ  なにソレ、意味わかんない。産まれてもいないのに、何でここにいるのよ。

子供   ここはそういう所だから。

みいあ  ファンタジー?…まぁそもそも、何とでも縁切るとかそもそもファンタジーよね。

子供   あたしは、ママの中にいるの。

みいあ  …ふーん、あっそ。でも私はいらないから。

子供   いらないの。

エン    随分はっきりと言いますね。

みいあ  っ!いきなり後ろから声掛けないでよ!びっくりしたじゃない!

エン    実際に産まれる筈の子供を前にして、随分と冷たい言葉を言いますね。

みいあ  いらないものをいらないって言って何が悪いのよ。

エン    いいえ、悪くありません。むしろ、産まれない方がこの子にとってはいい事でしょう。

みいあ  コレがどういう仕組みか知らないけど、さっさと縁、切ってよ。

エン    ソレ。貴女の腕の紐。

みいあ  え?…なにコレ!いつの間にこんなだったい紐つけたのよ!しかもこんなにいっぱい!

エン    ソレは縁の紐。それの反対は子供へと繋がっています。それを切ることによって縁は切れます。

みいあ  よく分かんないけど、これ切れば、ガキいなくなるんでしょ。だったら早く切ってよ。

エン    本当にいいんですか。

みいあ  あんたってほんっとにしつこいわね!いいって言ってるでしょ。

エン    何故そんなにたくさんの紐が付いているのでしょうね。

みいあ  そんなの知らないわよ。

エン    意味を考えようとは、思わないですか?

みいあ  そんなめんどくさい事どうでもいいから、早く切ってよ!

エン    わかりました。では、この鎌で切ります。

子供   バイバイ、人殺し。


エンが鎌を振り上げて、たくさんの紐の間に振り下ろすと、先ほどまでいた子供がいつの間にか消えた。


みいあ  気持ち悪いガキ。自分が人間なつもりな訳?まだ出てきてもないモノ殺したって人殺しにならないわよ。
      これで、アレと縁が切れたのね?

エン    はい。

みいあ  あっそ。じゃあ私帰るから。

エン    そうですか。


今回は消えていなかったドアから、先ほどの部屋へ戻る。
すると、同時に携帯の着信音が鳴る。


ユカリ  鳴ってる!

エニシ  鳴ってる。

ユカリ  何か鳴ってる!

エニシ  何か呼んでる。

みいあ  うるさいわね!私のケータイよ!…ったく誰よ。
      …園長?休みの日まで何なのよ。…(急に大人しくかわいい声色になって)はい、辻です。

園長   『辻さん?お休みの日にごめんなさいね』

みいあ  いいえ、大丈夫ですよ。何かありましたか?

園長   『ちょっと急なんだけど、辻さん来週からもう来なくていいから』

みいあ  …え?

園長   『本当に急なんだけど、ちょっと辻さんにいてもらう訳にはいかなくなっちゃって』

みいあ  え?それってクビっていうことですか。

園長   『まぁそういうことになるわね』

みいあ  は!?え、何で急に…。

園長   『辻さん、うちの保育園の子のお父さんと不倫してるでしょう』

みいあ  はぁ!?

園長   『辻さんと、ゆいちゃんのお父さんが一緒に歩いているの見たっていう人がいるのよ。
      それだけじゃなくて、まさと君のお母さんも、ご自分の旦那さんが貴女と不倫している証拠を持っているって言ってるの』

みいあ  ちょ、意味わかんないんですけど!

園長   『それで結構苦情が来ているの』

みいあ  何それ!私悪くない!自分の旦那を捕まえとくことも出来ない女の方が悪いのよ!

園長   『…そう、それが辻さんの本当の顔なのね』

みいあ  あっ、え、これは…。

園長   『子供たちも、あまり辻さんのこと好きじゃなかったみたいだし、もう辞めてもらう事は決まったことだから』

みいあ  はぁ!?好きでもないのに我慢して相手してやってたのに!

園長   『子供たちは我慢してまで遊んでほしいと思っていないわ。
      子供は敏感よ。自分のこと好きじゃない人のことくらい、分かるわ』

みいあ  そんなのどうでもいいのよ!急にクビって、私どうすればいいのよ!

園長   『がんばって、としか言えないわ。まぁどちらにしても決まっていることなの。じゃあ、今週いっぱいで荷物の整理お願いね』

みいあ  そんな…っ!ちょっと園長!園長!勝手に切ってんじゃないわよ!

エン    帰らないのですか。

みいあ  こっちはそれどころじゃないのよ!何でこんな時にクビになるのよ!

エン    だから、切っていいですか、とお聞きしたでしょう。

みいあ  何がよ!

ユカリ  縁を。

エニシ  絆を。

ユカリ  切ったから。

エニシ  なくなったから。

みいあ  うざいしゃべり方してるんじゃないわよ!

エン    子供と関わる仕事をしているのですね。

みいあ  そうよ!保育園!
      そこそこ安定してるし、子供相手にする仕事ってモテるから、ガキの相手だって我慢してたのに!

エン    子供との縁を切ることを望まれたのは貴女ですから。

みいあ  はぁ!?

エン    意味を考えていれば少しは変わったかもしれませんね。

みいあ  何がよ!はっきり言いなさいよ!

エン    現在、過去、未来、すべての時の中で、貴女とすべての子供との縁を切りました。
      ですから、今後子供と関わることは一切ないです。

みいあ  ……は?

エン    私は何度か確認したのですが、貴女が切ると言いましたから。

みいあ  はぁ?

ユカリ  縁は絶たれた!

エニシ  絆はもうない。

エン    絶たれたモノは戻らない。

みいあ  私は、このお腹の中の子供との縁を切りたかっただけよ!全部の子供との縁を切ってなんて言ってないじゃない!

エン    貴女は『子供との縁を切ってほしい』とおっしゃっただけです。お腹の中の、とは言っていません。

みいあ  はっきり言ってなくても、私の話を聞いてたらわかるでしょ!

エン    確証はないですから。大は小を兼ねると言いますので、最大数を採用させて頂きました。

みいあ  ふざけんじゃないわよ!何で私が仕事辞めなきゃいけないのよ!
      あんたがバカなせいじゃない!元に戻しなさいよ!

エン    先ほどから何度も言っています。もう、元には戻らない。

ユカリ  戻らない!

エニシ  切れたから。

ユカリ  終わったから!

エニシ  もうバイバイ。

エン    二人もこう言っています。

みいあ  戻して!戻してよ!戻しなさいよおおおおおおお!!!

エン    それでは、さようなら。




何事もなかったかのような室内。
ティーカップを傾けるエン。

ユカリ  しつこかった!

エニシ  うるさかった。

エン    そうですね、本当にしつこかったですね。だから、あれだけ確認したんですが、あまり意味はなかったですね。

ユカリ  もう来ない?

エニシ  また来ちゃう?

ユカリ  それはイヤ!

エニシ  あの人キライ。

エン    大丈夫ですよ。『縁切り屋』への用事でないと、ここには来れませんから。

ユカリ  よかった!

エニシ  よかった。

ユカリ  あの人、これから楽しくない!

エニシ  あの人、これからずっと幸せじゃない。

エン    そうですね。あの人は、これから子供が出来ることは一生ありません。
      それが原因で、本当に好きになる方とは結ばれなくなります。
      切らなければ、違った未来もあったかもしれないですけど。

ユカリ  でも、望んだから!

エニシ  うるさかったから。

エン    切らなければ帰らないと言っていましたからね。

ユカリ  だからいいの!

エニシ  だから仕方ないの。

エン    望まれなければ、私には縁を切れない。これがあの人の望んだ未来だった。

ユカリ  あの子もよかった!

エニシ  あの子は幸せ。

エン    幸せかどうかは分かりませんが、あの人の元に産まれて幸せになるのは難しかったでしょう。
      あの子はそのうち、他の方と縁が生まれると思いますよ。

ユカリ  よかった!

エニシ  よかった。

エン    さて、今日はもう休みましょうか。

ユカリ  はーい!

エニシ  はい。

ユカリ  おやすみなさーい!

エニシ  おやすみなさい。

エン    おやすみなさい。
      では、またご縁があれば、お会いしましょう。







 
 
   
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