題名  公開日   人数(男:女)  時間  こんな話  作者
 ガラスの靴は、もうはかない【前編】 2015/04/22 6(3:3) 70分 自分の道を切り開くために、運命に立ち向かうの  りり~

A 美里(ミサト)  : 女
B 和也(カズヤ)  : 男
C 沙絵(サエ)    : 女
D 芳照(ヨシテル) : 男
E 雪(ユキ)     : 女
F 健斗(ケント)  : 男


※読み方
剣は、「けん」でお願いします。
皆は、「みんな」でお願いします。




「ガラスの靴は、もうはかない」【前編】



A   お父様、お母様…聞こえていらっしゃいますか? …もう聞こえていませんかね。
    この平和で… 安定した世界に満足することができずに、この様な愚かな行為をすることを、どうかお許しください。
    私は、どうしても叶えたいことがあります。
    望みのない、未来なのかもしれません。世界の理に反することも十分承知しています。
    それでも…どうか私に力をお貸しください。
    …………剣よ、私の願いを叶えたまえ。
    あの人の心を私の元へ導くために、この閉ざされた世界を解放したまえ!!




E)  私の王子様は、あの人だけ… だったはずなのに、違う… どうしてだろう?

C)  あの子はお姫様… 私と同じところで生まれて、育ってきたのに…っ。
    どんどん遠い存在になっていってしまう。 …本当にそれでいいの?

B)  僕は… 何もできないんだ。今までも、これからも…。
    …自分に嘘をつき続けて… 本当の答えを覆い隠して… それで…何を得るんだ?

D)  できれば、そのままあきらめてほしい。欲望はいずれ己自身の崩壊を呼ぶことになる。
    …でもこの変化は、もう止められない

F)  この世界で、僕は、ずっと王子だ。
    王子と姫が対となり、この世界は永遠に続いていく。
    父上と母上もそうだった。でも… 僕は、姫にとっての本当の『王子』になれているんだろうか?

A)  皆の意思が少しずつ解放されていく。
    …与えられた役割なんかじゃない。ありのままの、本来の姿に、戻っていく。
    王子と姫に縛られた世界なんて、もういらない。
    私は… 手に入れたいの。
    この物語のお姫様になるためなら、どんな手段もいとわないわ

E)  そんな! この靴を、あなたにあげるから、それだけは止めてください!
    世界はこんなにも幸福だったのに、どうしてその様なことをするのです!

B)  その靴がこの世界にある限り、こんなことをしても、僕達は変わらない。
    世界の理によって綻びは修正され、またいつもの現実に舞い戻っていくに違いないんだ!

C)  …でもね、本当は期待してしまうの。私達には、違う未来があるんじゃないかって。
    私達が自由に生きることができる世界があるんじゃないかって。
    そんな感情がどんどん心の奥からあふれ出して… もう抑えることができない

D)  世界を壊して、傀儡の魂を解放して、俺達は何を得るんだ?

F)  分からない。
    …だが、剣の誓いによって、平和を約束された世界は、今なくなった。
    この物語は解放された

A)  さぁ、皆… いきましょう?
    今までとは全く違う、別の、新しい世界へ。
    私達の… 理想とする世界へ…


***


A   準備はいいですかー? はーい、皆緊張しないで下さいねー
    押しますよー? …はい! ……3・2・1!
    …………はーい! もう皆動いていいですよー。

C   ふぅ…ちゃんと撮れたかなぁ? どれどれ見せてー。
    おっ、二人共良い笑顔! いいねー! 皆もいい感じ!

B   忙しい中、ほんと皆、式に来てくれてありがとうな

C   なーにいってんの! 当たり前でしょ!
    私たちは、和也の数少ない友達だからね!
    それで来なきゃ、新郎側の友人席が寂しくなるでしょ?

D   全く、和也くーんはー幸せ者だよなー。
    あんな美人な嫁さん捕まえておいて、俺にずーっと教えてくれてなかったとか、ひどい話だぜ

B   お前に会わせたら、すぐに手を出すから…。
    絶対芳照には言わない様にして! って周りに釘刺してたからな

C   わー… 芳照って、ほんっと見た目どおり軽い男なんだね

A   男女関係なく手を出すってのも、聞いたことがありますよ?

D   おいおい… 何も俺もそこまではしないよ?
    特に、幸せそうにしてる奴らには、俺は、手は出さない主義なの

C   本当かしらねー?

D   ただし! ほぐれかけてる糸には、積極的にひっかけにいくけどな!

C   うっわーやっぱ最低

B   どうせ、ひっかかる方が悪いって、お前は言うんだろ?

D   その通り!
    さっすが俺のことよーく分かってるねー! 我が心の友、和也くんは!

B   そんなにひっつくな。気色悪い

D   照れんなって! かーずや!

C   はいはい、芳照! 新郎を横取りしないよーにね。
    新婦の雪さんが、やきもち妬いちゃうよー?

E   ふふふ。そんな… 大丈夫ですよ。
    皆さん、本日は私達の式に来て下さって、本当にありがとうございます

A   こちらこそありがとうございます。
    それにしても… あぁ間近でこんな風に見れるの初めてで… はぁ…。

E   どうかしましたか?

A   …はぁー… やっぱりきれいだなぁ。いやね、つい… その… ウェディングドレス姿に見惚れてしまって。
    純白の布地に包まれて、雪さんの美しさが尚更際立って… うらやましいなぁって、思って…。

C   なーにー? 美里でもそういうウェディングドレスとかに憧れちゃう派なんだ? ちょっと意外かも!
    恋バナは乗ってこないのに、結婚願望はあるんだねー?

A   …それは、もちろん、私にだってありますよ。

D   美里ちゃんなら、俺いつでも大歓迎なんだけどなー?

A   ふふふ、ほんと芳照は、口がお上手ですね

B   お前みたいな腹黒男は、美里はお断りだってさ。この前も、女の子泣かせてただろ。

D   泣かせてねーよ! 勝手に俺のこと好きだーって言い寄ってくるから、俺は好きじゃないって言っただけだ

B   うわ… それヒド…

D   嘘ついてねーのに、すげー言われ様だな、おい

C   芳照は、腹黒っていうよりも、常に醜態さらしつつ全裸で突っ走ってる様な、かわいそうな男だけど。
    外見は良く育った方なのにねー、黙ってればマシに見えるのにねー。

D   …てめえら好き勝手言いやがって。
    俺の… 今美里にやんわりふられて悲しんでる気持ちも分かんねぇくらい、薄情な奴らなんだな…

C   芳照? はい、ケーキ

D   あーん♪

B   どこが悲しんでるんだか… ん? あれ?

E   どうしたの? 和也?

B   いや、ちょっとね。さっきから、俺の方に視線を送ってくる人がいるなって思って …誰だろ、あれ。

E   和也の知り合いじゃないの? …じゃあ、私の方の知り合いかな? どこにいる?

B   それだったら、普通雪の方見るんじゃない? ほら、あの… 金髪の… 多分男の人…?

E   金髪の…って、 …え…? まさか

B   やっぱり、俺を見てる。仕事の取引先の誰かかな…? あ、こっちに来た

E   …あなたは…

F   …おめでとう、雪

E   ……健斗、くん?

B   雪の知り合い?

F   少し会わない間に… 本当に綺麗になったね

E   嘘 …何年ぶり、なのかしら? …本当に久しぶり!

F   会わない間も… ずっと君のことを見守っていたよ、雪

C   ……ちょっと、誰よ? あれ

B   いや… 俺も会ったことないんだ

D   あいつ… お前の嫁さんに、妙に馴れ馴れしいみたいだけど、大丈夫なの?

A   でも、かっこいい人ですよね

C   なんか… できた芳照って感じだね

D   …何だよ。まるで、俺ができてない奴みたいに言うなよ

A   まるで、王子様… みたいじゃないですか?

C   あ! そうそう!! そうなんだよ!! 美里、的確!! あの人、おとぎ話に出てくる王子様そっくり!!

D   おお! じゃあ、さっきの流れからいくと、俺も王子様ってことか!

C   何言ってんの? 頭おかしいんじゃないの?

D   ですよねー。はいはい、予想通りの答えありがとさん!

C   あ!! ねぇねぇ!! …も・し・か・し・て… 雪さんの… 昔の彼氏! だったりしてね?

D   うを!! 早くも夫婦に亀裂の危機か?!

B   絶対、この状況を、お前達楽しんでるだろ?

D   そーんなことある訳… あるだろ! にひひ!

B   はぁ…。あの、雪? 雪の知り合いだったんだね、その人

E   あ、つい話に夢中になっちゃって… ごめんなさい、和也。
    …皆さん、紹介が遅れました。
    私の幼馴染の健斗です

F   よろしく…

C   わぁーはじめまして。
    私は沙絵で、新郎の友人です! あ、新郎ってのは、もちろんこの今日だけ格好良く決めてる和也ね!
    他にも、大人しくて美人で大和撫子な美里に、女癖の悪い顔だけイケメン残念男の芳照。
    ここに集まってるのは、みーんな高校時代の同級生で、この式に呼ばれたんだ!

A   美里です。
    よろしくお願いします

D   ひっどい説明だけど… 芳照でーす。
    よーろー

B   はじめまして、健斗さん。この度は、私達の式に来て頂き、ありがとうございます

F   あなたが雪の花婿の、和也さん、ですか…

B   …?
    …ええ、そうですが…

F   …

B   …?

F   ………

B   …………え、えっと…

F   ………

B   …っ …

C   …………なんか、空気重くない?

A   あまり… いい雰囲気ではないのは、確かですね

D   宣戦布告? 婚前決闘か? お前にこの娘は渡さん!!的な?
    ひやー… 女を巡っての争いは、こわいねー

B   おい、お前ら、丸聞こえだぞ…。
    いや… 失礼な友人達で、本当にすみません

F   …いえ、大丈夫です。慣れてますから…。では失礼します

E   え? もう帰っちゃうの?

F   …少し席をはずすだけだよ。
    また戻ってくるから、そんな不安そうな顔しないで

E   健斗くん… 絶対だよ?

F   …分かってるよ、雪。
    じゃあ、また後でね…

D   ……あいつ、さりげなく雪さんの頭! ポンポンって!
    しかもサラーってしなやかな指使いで、しっかり髪先まで触りやがったよ!
    おいおい、甘いマスクだからって、何でもかんでもやっちゃってくれてるねー。
    …いいのかい? 旦那様!

C   そういえば…?
    この式が終わって、雪さんの20歳の誕生日に合わせて籍入れるから…。
    和也と雪さんって、まだ正式には夫婦になってないんだったよねー?

B   お前らなぁー…

A   完全に二人の良いおもちゃにされてるね、和也くん

B   …こういうモードになったこいつら見てると、友達の選び方間違えたんじゃないかって正直思うね…

A   まぁまぁ、抑えて抑えて

E   ん? 和也…? …どうかした?

B   いや… 何でもないよ。
    それにしても… 久しぶりの幼馴染の再会だったみたいで、よかったね

E   うん! …本当にびっくり!
    ずっと会いたいって思ってたんだけど…、すれ違いばかりで…。
    10年くらい会えてなかったんだ

B   …そうなんだ

E   一応昔の住所で招待状を送ったんだけど、宛先不明で帰ってきちゃって。
    もうあきらめてたんだけど… 嬉しいな

B   雪の幼馴染… 健斗くん… だっけ。
    …雪にとって大切な人なんだね

E   うん! すごく大切な人。
    健斗がいてくれたおかげで、私はこう… 今幸せな気持ちでいられるんだと思う

B   …そっか


***


F   ……美里に沙絵、芳照に… 和也。
    これで全員か

C   えい! なーにしてるの? 健斗王子様♪

F   !!…沙絵!…っ…さん、か

C   お、見た目は細身に見えたけど、背中はガッチリしてるんだね。
    にひひ、健斗王子様♪ びっくりした?

F   今、王子様って…

C   さっき、皆で話してた時にね、おとぎ話に出てくる王子様みたいな人だね! って話になってね。
    ちょっと、メイクを直しにこっちに来てみたら、健斗くんの姿が見えたので、思わず飛びついちゃいました!
    イケメンの背中安らぐー!

F   …そうか

C   あれ? 怒っちゃった?

F   いや。大丈夫だ…少し、思い違いをしただけだ。気にしないでくれ。

C   ふーん? よくわかんないけど、怒ってないならいいんだけど。 …あれ? 手に持ってるの。何、その紙?

F   これは… 今回の式の参列者が書かれたリストだよ

C   あぁ、式の最初に配られてた奴ね。
    もしかして、健斗くん、その中に、誰か会いたい人でもいるの?

F   …まぁね

C   ふーん? …ってか、これって地毛?

F   そうだよ

C   きれいな金髪だよねー、健斗くんってもしかして外人さん?

F   違うよ

C   えいえいっ。ほんと抜けないし。カツラじゃないんだ、信じられないなー

F   よく言われるけど、残念ながら生粋の日本…

C   ん? …どうかした? あ、もしかして痛かった? 引っ張り過ぎちゃったかな? ごめん(ねー)…

F   ここは… この場所は、今は、日本で合ってるのか?

C   ……え?
    ……………急に…どうしたの? 日本に決まってるじゃない!
    もしかして、時差ボケでもした? 今日飛行機で帰ってきたとか?
    やっぱり本当は外人さんなんじゃないのー?

F   すまない、少し頭がぼーっとしてるみたいだ。
    特に深い意味はない。気にしないでくれ

C   なんかまだ怪しーなー、ん?

D   あ、いたいた。沙絵! …と、健斗くんですかっと

C   なーに、芳照?
    私がいなくなったからって、心配で探しに来てくれたの?

D   沙絵のでっけえトイレにしては、長すぎるなーって思ったからな?

C   下品な奴…

D   ま、それは冗談として。
    式も終わったし、最後に、皆で集合写真撮ろうって和也の嫁さんが言ってるからさ。
    お前、呼びに来たってだけだよ

C   あー良いね! 撮ろう撮ろう! じゃあ行こ!

D   おい

F   ん?

D   お前も来いよ

F   …僕はいい

D   は? 何で?

F   理由はない

D   …じゃあすぐ来い

F   …

D   お前、雪さんの幼馴染なんだろ。
    だったら、一緒にこい。俺らのことは、わかんねーかもだけど、写真くらいいいだろ?

F   思い出は… もう、必要ないんだ

D   は?

F   過去の残影に僕は興味ない

D   ……過去の残影って。
    お前まさか厨二病か何かか? …ただの痛い発言にしか聞こえねーぞ、それ。
    ほんと意味わかんねーな… お前…

C   健斗くん… ほんとにそれでいいの?

F   何がだ?

C   君が興味ないんだとしても、雪さんの気持ちはどうなの?

F   それは…

C   結婚式は、一生に一度っきりの、大イベントだよ?
    自分のこれまでお世話になってきた人に感謝して、自分たちの新たな歩みを報告する大切な時間なんだよ…。
    雪さんは健斗くんが来てくれて、本当に喜んでたし。健斗くんも、雪さんを大事にしてるように見えた。
    この人生の要に… 健斗くんは、絶対必要な人だと、私は思うんだよね。
    雪さんは、健斗くんを含めた皆で撮りたいって、絶対思ってると思う!

F   …

B   一緒に写真に写ってくれませんか?

D   和也…

B   ごめんごめん。
    …二人共戻ってこなかったから、トイレに行くって言ってちょっと出てきた

C   今晩の主役が抜けてどうするのよ。
    雪さん一人にしちゃだめでしょ

B   分かってるよ。
    でも、少しだけ健斗さんと話したくてさ

F   …

B   健斗さん。俺は正直… 健斗さんが、その… 雪とどういう風に過ごしてきたか、全く知らない。
    今日会って初めて知ったくらいで、雪が俺に話してないことがあったってことに、驚いちゃって…。
    でも、だからといって、あなたのことを嫌いになる理由なんてないし…。
    健斗さんが、さっき俺のこと、じっと見てた… というより正直睨み付けられている様に見えたから、ちょっと戸惑ったけど…
    あ! これは俺の勘違いだと思うし! すみません!!
    …だから、これから少しずつ知っていきたいなって思ってるから… いや、その…… 来てくれませんか?

F   ……僕は ……

B   …駄目、ですか?

F   お前の…… そういうお人よしな性格は… いつになっても、変わらないんだな…

B   え?

D   …ったく。こっちも無理強いしたくはねーんだけども。
    時間もないし… よいしょっと!

F   っ!! …何をする

B   こら! 何やってんだ芳照、やめろ

D   早く元カノ取られたからって、拗ねてないで、行くぞ。
    …ってか、男なのに女みたいな華奢な体つきしてるから、やっぱ軽いなーお前
    ほんとについてんのか?

F   貴様っ…! いい加減に…

E   健斗?!

D   げ…!

F   雪…

E   芳照さんも何してるんですか、健斗を早く降ろして!

D   …っ

F   …

B   雪、芳照は悪くないんだ。
    俺のことを思って… こんなことをしてしまっただけで

E   だからって、健斗に、こんなに失礼なことをするなんてっ!
    ……大丈夫だった? …ごめんね健斗、ほんとごめん

F   ……また僕は…。
    謝らせてしまっている…

E   え?

F   …

A   ふう…。皆がいなくなったって思って、探しに来たら…。
    一体、何してるんですか…?

B   美里…。
    ちょっと色々あって…ごたついてたから

A   とりあえず、衣装の着替えを手伝いたいので… 一旦私と雪さんは戻りますね。
    さ、雪さん? 行きましょ?

E   …はい。
    ……ちょっと… 着替えてきます…

A   沙絵、この場お願いしますね

C   おっけー…。
    あー、和也も、服着替えておいでよ。
    後、会場の人への挨拶もあるんでしょ? 先に済ましてきちゃって。
    あ! 健斗君は逃げないように!

D   あー… 俺は?

C   芳照はどっちでもいいや

D   だよなー

F   僕は…

B   すみません、無理、言ってしまって

F   …

D   僕は、悪くないってっかー?

F   ?! 違う!

D   何だよ…? やるか? って痛ててててて!

C   あー、引っ張りやすいわねーこれ。
    こういう使い方なんだろなー

D   耳がもげる! やめてくれ!

C   仕方ないなー… はいっ!

D   ……っつー …

B   じゃあ… こんな雰囲気の中でごめんだけど、俺も着替えてくる…

C   いってらっしゃい

D   …

C   ふー

D   ちっ…

F   …すまない

C   え? 別に健斗くんは悪くないよ。
    芳照が、先に手出したんだから、こいつが全部悪いのよ

D   …そーだよ。
    俺が悪かったよ、少し派手にやりすぎた

C   …意外

D   なんだよ

C   やけに今日は素直じゃない

D   結局、俺が場を荒らしただけだからな、そいつは悪くない

C   そっか。少しは考える頭はあったのね

D   感心してもらえたようで何より

F   …あの

C   何?

F   君たちは、今は… 恋人同士なのか?

D   ………へ?

C   何でそう思ったの?

F   そう見えたからだ

D   …なんでこんな奴と

C   なんか言った?

D   別にー

F   僕もそうなりたかったんだ… そんな風に

C   あの、健斗くん… さっき一緒に話していた時も言ってたけど…。
    …『今は』って、どういう意味なの?

F   それは… 意味はない

D   『今は恋人同士ではなかった』
    なら…… 昔の俺達を知ってるってことか?
    それとも、未来の俺達はそうなってるってか?
    う… 想像しただけで気分が

C   芳照? …少し黙れ

D   …はい

C   …健斗くん。話してくれないと、私達何もわかんないよ?

F   どうして、沙絵は… 僕にそんなに興味を持つんだ?

C   うーん。かっこいいから? ミステリアスな感じがするから? とか?

D   何だよそれ

C   なんかね、健斗くんの… 金色の髪を見てたら、なんか… 見覚えがある様な、懐かしい感じがするのよね

D   昔の人形遊びの… 金髪の人形か何かと勘違いしてんじゃないの?

C   それもあるかなって思ったんだけど、そうじゃなくって…。
    さっき、話しかけた時も、私のこと… 『沙絵』って呼び捨てしかけたよね?

F   そうだったかな…

C   ついさっきも沙絵って呼んだ

F   …

C   私、こんな誰にでもどんどん押し寄って話していく性格だから、初対面の相手にもすぐ馴れ馴れしく呼び捨てされることが多くて。
    だけどね。本当はあんまり仲良くなっていない人に、沙絵って呼ばれると… 寒気がぶわってして、不快に感じるんだ。
    でもね… さっき健斗くんに呼ばれた時は、私そんな風に感じなかったの

D   いつもの『ただしイケメンに限る』が発動したんじゃないの?

C   そこは関係ないよー。
    見た目関係なく、聞きなれていない声で、自分の名前を呼び捨てされるのが嫌なの

D   へーへー。それで? そのお前の理屈でいくと… 沙絵と健斗は、以前から知り合いだったってことなのか?

C   絶対会ったことあると思うの!
    ね、ね? どうなの?

F   そんなの… ただの偶然だよ

D   そうそう、偶然だ。お前の勘違い

C   うーん。
    …じゃあ、さっき勝手に君のポケットから拝借しちゃったんだけど… これは何?

F   !! それは…!

C   すごい装飾がきれいだよね? 宝石がいっぱいで、綺麗ー!
    …ん? オトギノクニ? って書かれているの?これ

D   ふーむ、どれどれ?
    オトギノクニって、ここのオトギ町のことか?
    どっかの博物館から盗んできたのか?
    でも、これって… 鞘? だっけ、剣をしまう所だよな?
    肝心の本体はどこにあんの?

F   返してくれ

C   そりゃ、返すよ? はい、芳照返して、よいしょっと! はい、どうぞー

F   …

C   言っとくけど… 盗んだんじゃなくて、君が落としただけだよ?
    まぁ、私が飛びついた衝撃のせいだから、ほぼ私のせいだけど

F   そうなのか… すまない。助かった

C   …健斗くんが探してる人って、それと何か関係があるの?

D   ん? 誰か探してんのか?

C   さっきね、参列者のリスト見てたときに、誰かに会いたそうなこと言ってたから

F   それとこれは、別に関係ない

C   じゃあ誰に会いに来たの?

F   それは… 雪が元気かどうか、確認しにきただけだ

C   …健斗くん? もしかして、雪さんのことを…

D   やっぱ、元彼なのか?

F   …厳密には、そうといえるものではないかもな

C   どういうこと?

F   …………

D   何一人で耽ってるんだよ!
    あーもう! はっきり言えよ、めんどくせー

F   …頼む… 協力してほしい

C   え? いきなしどうしたの頭下げちゃって

D   は? は? は?? よくわかんねーけど、なんだ?

F   もう、失いたくないんだ。
    …だから、少しだけでいいから、聞いてくれ…

C   とりあえず… 話、聞くから、顔上げて?
    そんな状態じゃ聞くにも聞けないよ?

F   …分かった

D   失いたくない、って? 何をだ?
    唐突すぎて、さらによくわかんねーんだけど

F   …信じてくれないことは十分承知の上で話す。
    だが、どうか!! …聞いて欲しい

D   だから、いきなりそんなこと言われても

C   分かった。話してみて

D   っておい

F   芳照にも聞いて欲しいんだ

D   …いきなり呼び捨てとは、何様…?

F   …二人は覚えていないだろうけど… 僕は二人のことを知ってるんだ

D   …は?

F   雪も、美里も、新郎の和也も知ってる

C   …でも、私達、今日初めてさっき会って、初対面…のはずだよね?
    私、今日の今日まで健斗くんのこと、全然知らなかったし

F   確かに、『この世』では、さっき会ったのが初めてだ。
    でも… 僕は、もっと前の沙絵を知ってる

D   おいおい… 俺が神様だ!とか言い出す勢いだぞ、こいつ。
    頭本気でやばいんじゃないのか?

F   そう見えても仕方がないと思う。
    でも、今僕が話していることが、僕の中での真実なんだ。
    だから信じてくれとはいわない

C   …………それで、昔の私達を知ってるあなたが…。
    えっと… 何を失うの?

D   重要なのは、そこだよな!
    まぁ… 全然信じられないんだけど… とりあえず話、聞かせろよ

F   ………昔の話になる。
    僕達が、僕達として生まれた… おそらく、最初の時代の話…。
    今のオトギ町ではない。もっと… もっと昔の… オトギノ国の話…。
    僕が知っている、昔の僕達の話をしよう…


******




F   何年、何十年、何百年の時を彷徨う中で、僕は君を探していた。
    君を見つけるのは、いつも、この…… 桜の木の下。
    そして… 君は、僕に会って、こう言うんだ


E)  どこから来たの?
    …不思議… 初めて会ったはずなのに、あなたとは会ったことがある様な、そんな気がする…


F   嬉しかった。雪は、微かでも僕のことを、覚えていてくれたんだ。
    …でも同時に、全て覚えている自分とは違うことを知って、不安になった。
    そして僕は、君の記憶を繋ぎとめようとして、いつも話したんだ。
    …僕達が、物語の主人公だった… 王子と姫だった頃の話を…







B   …っ! はぁ…はぁ…はぁ……っ! …王子ー? ケント王子ーーー?
    どこにいらっしゃるんですか!!

F   騒々しい奴だな。
    …こんな朝っぱらからどうした?

B   大変です!
    …姫が… ユキ様が!

F   なんだ…

B   ユキ様が… お城の屋根の上にっ…!!

F   はぁ?!

D   あー… あの、お転婆姫さん、登っちゃったかー

F   あそこは封鎖してたはずだが…? どういうことだ

D   いやね…ほら? 俺一服しに行くときあそこ使ってたんですわ。
    いい眺めで、きもちよーく吸えるんだよなー

B   おい、ヨシテル。まさか…

D   その話、姫さんにも、しちゃってたしなー。
    あー…そういえば扉開けっ放しだった様な。ははは

F   ははは、じゃない!!

B   それが、あの… 先ほど民から… 『屋根に…何かピンクの物が引っかかっている』と連絡を受けまして…

C   あーらあら、お転婆なこと。
    一国を背負う姫様が、そんな状態とは聞いてあきれますわね

F   サエ

C   おはようございます、ケント王子。
    こうも騒がしいので、私も、目が覚めてしまいましたわ

B   王子! 早く姫を救出しに行きましょう!

D   今頃、ぴーぴー泣いてるかもな

C   まさか! もうすぐ20になるというのに、幼子の様に泣くのね。
    情けない話ですわ

B   姫に対して無礼であるぞ、サエ

C   ふっふふーん

F   ヨシテルは屋上から、カズヤは私と城の外から様子を見て救出するぞ!
    さぁ急げっ!!

B   ははぁっ!

D   りょーかい


***


E   ははは、風が気持ちいー! 鳥になった気分! ははは

B   ユキ様! うわあ、なんて所にいるんですか!!

F   大丈夫かー! ユキ!!

E   あ、ケント?見て見て! すごいよ!
    町がぜーんぶ見渡せるの! こんな場所があったなんて知らなかったー!

B   あああそんなにはしゃがないで! そんな風に動いたら、引っかかってる部分がはずれて…って!! 言ってるそばから!!!

E   え? あれ? 何か…音がする? え?

F   ユキ!! 危ない!!

E   え… きゃー!!

B   っユキィ!!!

E   ……? あれ? 私、落ちたはずじゃ…?

D   はぁ… はぁ… はぁ… っと… あっぶねーな! 間一髪じゃねーか。
    鳥じゃねーんだから、こんな高さから落ちてたら、終わりだぞ… ほんと。
    さすがに変な汗かいたわ。大丈夫か?ユキ?

E   あ、ヨシテル!
    ここ、ほんとヨシテルが言ったとおり良い場所ー!
    教えてくれてありがとー!

D   あ… あー…、うん。まぁ、その… 喜んでくれてるようで、良かったよ…。
    とりあえずこのままだと俺の腕も限界で、今にも落っことしちまいそうだから、こっちに… 引き上げるぞ、よいしょっと

E   んっしょっと!ありがとね!

D   ふー…

F   ヨーシーテール…?

D   あー… こりゃー… 減給かな? タバコ減らすかな… ははは、はは、はぁー…


***


A   お帰りー皆

E   ただいま! ミサトさん!
    あ、サエも来てる、おはよう!

C   姫とあろうお方が、そんな… 髪はボサボサ、服はボロボロのお姿で、よくおられますね

E   風と戯れてたら、こんな風になっちゃった。えへへ

C   それでしたら、ずっと、そのままの姿でいらっしゃった方が、ユキにはお似合いじゃなくて?

A   はいはい、そこまでー。
    サエも、そんな悪態ついてばかりだと、すぐに老けちゃうわよ?

C   っ! そ、それは…… そうならないように、善処だけ致しますわっ

D   あー、腕疲れた。ただいま。
    あ、サエ様? 顔に何かついてますよ?

C   え!! 何! どこ?どこ??

D   嘘です。
    …あー、俺も疲れた

C   …ヨーシーテール…

D   皺、増えるぞ

C   っ! あんたねー!

F   ヨシテル。よくやってくれた。感謝する

B   さぁ姫様、お洋服が破れています。
    着替えをご用意しました

E   あ、ほんとだ。
    着替えてくるねー

F   ユキ、無茶しちゃいけないよ?

E   ケント、ごめんね。
    じゃー、いってきます

D   王子は、本当にユキ様が好きですねー

F   ん! それは…一応、僕の婚約者だからな。
    …大切にしたいと思っている

D   王子は、一人の女に、こだわり過ぎですよ。
    世の中には、たーくさんいます、美人がね

B   こら! 王子に向かって無礼だぞ、ヨシテル

D   だってそうだろ?本当のこと言ってるだけだよ、カズヤ。お前にもな

B   !!

F   ん? なんだ? カズヤにも想い人ができたのか?

B   いえ… その様な、大層なものではありません

F   僕は、親が勝手に決めた婚約関係だからな。
    想いから生じたものではないのもあるせいか、どうもユキとはうまくいかない

A   あら… うまくいってないの? ケント?
    婚礼の儀はもう明日にも迫っているのよ?

F   姉上…

A   父も母も亡くなり、こんな急なものになってしまって申し訳ないけど。
    でも… 民は王を求めているの。
    ユキは、あなたにとって妹の様なものだったから、まだあなたの気持ちも、追いついていないのも… 分からなくもないわ。
    恋心や愛を育むには、まだ時間が足りていないんだもの

F   そうですね。それに… まだ夫婦になるという自覚も心構えも、僕には足りていないのかもしれません

C   ケント王子! 私なら、いつでも第一夫人になる覚悟はできていますわ。
    私は、ユキがこの城に来てから、ずっと側で彼女を見てきましたけども…。
    あの子には、このような大任は、ふさわしくないと思いますの

A   サエはユキと、本当の姉妹にように生活していたものね?

C   ええ。そうですわ。私から見るあの子はいつもふわふわしてて、マイペースで、しっかり考えれているようでどこか抜けてて…。
    そんな子が、国の中心人物たる姫様になるなんて…私は…今でも正直、想像がつきません。
    むしろ不安感しかないですわ。あの子がなるくらいなら、私がなった方が絶対的にこの国の力となると思いますの。
    ですから、ケント王子? 王子の一言で、全てを変えることができますのよ?
    さぁ、私をお選びになってください! 王子!

F   サエの気持ちは分かった。でも、僕達の婚姻の約束は、父上母上がユキの母上と行われていたものなんだ。
    昔からの慣わしで、これによりこのオトギ国は平和と安定が長年守られているんだ。
    この世界の… オトギノ国の理なんだよ。それを破るようなことは、決してあってはならないんだよ

C   そんな…

D   はぁ…。サエのいいところは、押し付けがましいほどの積極性と自信と… その無駄に大きい胸だけだな

C   なっ! どこ見てますの!!

D   にひひ、褒め言葉だろ?
    ないよりある方がいいじゃねーか

A   淑女に向かって失礼よ、ヨシテル。 …慎みなさい?

D   …あっ…。 そっか(ミサト様、胸が)…すみません

F   国王になり、ユキを娶り、この国の… オトギ国を再建…。
    こんなに小さい国だ。
    隣国との統合を行ったほうが、民のためになったのではないか…とね。未だに考えるよ。
    再建をあきらめて、全て委ねたほうが、国は繁栄するのではないかとな

B   王子…

F   できるのだろうか、僕に

B   私が…私たちが、尽力いたします。
    王子と姫様の幸せのために…。
    ………だから迷わないで下さい

D   俺もできる限りは、お供しますよ。
    王子様がぶっ倒れちゃ、おまんま食えなくなりますからね

A   頼りにしているわよ、貴方達。
    …いいお供達でよかったわね、ケント?

F   姉上。
    お供ではなく…彼らは、友です。
    かけがえのない唯一無二の友人です

B   勿体無き… お言葉………。
    っ… 私は…

F   ん?

B   王子…私は…っ!!

F   どうした?

B   …

D   あーカズヤ!
    ちょっとちょうど俺のタバコ切れたから一緒に店まで付き合ってくれよ

B   え?あ…

F   少し休んできてくれて構わない。
    先ほどは、二人には苦労をかけたからな

D   さっすが王子!
    では、ちょっくら行ってきまーす!

B   …失礼します

A   …………ふーん

F   どうしたんですか? 姉上

A   良き友ってのも……色々大変そうだなーって思ってね?

F   ん? どういうことですか…?

C   ミサト様!
    私はいい友としてではなく、王子とはそれ以上の関係でありたいと思っておりますの!

A   サエー… またその話?

C   …私は… ユキに負けたくないんです!
    私と一緒の年でここに来て、両親もいなくて、一緒に姉妹のように暮らしていましたもの。
    それなのに私は、侍女のままなんて、何でですの!おかしいですわ!

F   サエ…

C   昔の親同士の約束がなんです? オトギノ国の理なんて、どうだっていいですわ!
    私もユキから離れたくないのに… なぜ私だけ一人ぼっちになってしまわなければならないのですか!

A   …サエ、貴方は本当にケントのことが好きなの?

C   え…?
    もちろん…… 好き、ですわ

A   それは本当に恋心?

C   え?

A   私には… 貴方はケントが好きというより… ユキを、誰かに取られたくないだけの様にも見えるわ

C   それは…

A   自分の心に聞いてみて、何を大切に想っているのか。
    …きちんと… 考えてみて?

F   姉上…

A   別にサエの気持ちを反対したいわけじゃないの。
    ただ…他の何かに気をとられて、本当に大切なものをなくして欲しくないだけよ。
    …もちろん、それはケントにもいえることよ?

F   僕にも?

A   …迷ってるでしょ、貴方

C   …王子も… 私と同じ様に… 迷われるのですか?

F   …それは… その様な時もある。同じ人間だからな

A   ………私は、皆に幸せになってほしい。
    親同士のやり取りよりも、自分の本当の気持ちはどうなのか、ちゃんと見つめて、答えを出して欲しい。
    私達には…考える意思も力も、あるのだから…。
    意思のない人形じゃない。れっきとした人間としてね。
    だから… しっかり考えてみて


***


B   …おい…

D   ん? 何湿気た面してやがんだよ?

B   …わざと連れてきただろ

D   まーな。
    …今まさに王子に告白しようとして、カズヤが危ない関係に走り出そうとしたところを、ぎりぎり食い止めてやっただけだよ

B   な! 違っ

D   分かってるよー… んな訳ねーってな。
    何年の付き合いだと思ってんの?

B   …お前のそういうところが嫌いだ

D   そんなに褒めんなって

B   …いい性格してるよ、ほんと

D   で、本気で言う気なの?

B   ん?

D   ユキのこと。王子に告白する気なんだろ?

B   …っ?! …………知ってたのか

D   小さい頃からお前ら仲良かったからな。
    こんなお国事に巻き込まれる前まで、ふつーに付き合ってたんだろ?
    俺にしっかり、付き合うことになったってことを隠しながらな!

B   それは… きちんと話さず、悪かったと思う。
    俺が抜け駆けで、ユキに告白したような形になったから…言いづらくて

D   は? ……何が抜け駆けだって?

B   ヨシテルもユキのことが… その…。
    ……好きだったんじゃないのか?

D   は!! 誰が、あんなの趣味じゃねーよ

B   なんだその言い方

D   わ! 怒るなって!! これは趣向の問題なの!
    別にユキが悪いっていう訳じゃなくて、俺の好みじゃないってだけ? 分かる?

B   …分かるようで分かりたくもない

D   ひでぇなそれ。完全に拒否とか、おいおい… あんまりだろ?

B   自分の好いた人を貶されたら誰だってそうなる

D   あのなー貶しているわけじゃなくて、俺は、その… グラマラスな感じの人が好きなの! 分かる?

B   ぐ、グラマラス?

D   ぼんっきゅっぼんっ! これがないと、俺のアンテナに触れないってだけなの!
    だから、俺はユキを恋愛対象として感知したこともないから、お前も全然気にする必要なかったって訳。分かった?

B   …そう、だったのか

D   まぁ、俺達の友情関係を壊したくないというか… お前らが俺に気を遣ってくれてたんだろうけど。
    何も言ってくれなかった当時、結構傷ついたぜ?
    ま! 今は全く気にしてないから、いいけどね。

B   それは… ごめん

D   あやまんなって! 過ぎた話だろ?
    それにしても、あの時ふつーの庶民だった俺達3人組は、今や王宮の民になるとはな!
    ユキのかーちゃんと王様が昔約束してたとか? ユキが突然姫さんになるとかで… おっどろいたもんなー

B   俺も、王宮の人が来て、そのこと話しているのを間近で聞いていても、何言ってるのかさっぱりだったよ…
    現実感なさすぎて… その後どうなっていくのか、想像もしてなかった

D   でも、あの時ユキだけが、真面目に聞いてたんだよな。
    日頃ふわふわして話聞けてるんだか? って感じのユキがよ

B   でもあの時、突然泣き出して、ユキが俺達も一緒じゃないと嫌だって愚図ってくれたから… 今の俺達があるんだろな

D   だーな。あれがなきゃ、ユキと離れ離れになってただろーし。俺達はただの一般庶民のままだった

B   本当に… ユキに、感謝しなきゃな。多分、俺が同じ状況だったら、そんな抗うこともなくあきらめてたよ

D   王宮に入ってから、王様と会うことになって、ケントにも会ったんだよな。
    あの時は王子って知らなかったから、ふつーにケントケント! って言ってたけど、今や、王子、んで王様になっちゃったな

B   王宮中4人で走り回って、普通に遊んでて… 追いかけっこして物壊したりして怒られて、懐かしいな

D   それが、今や… カズヤにとっては、ケントは恋敵だけどな?

B   元々、そういう約束で、王宮に入れたってことを、忘れようとしてた… 俺は目を逸らしてたんだと思う

D   俺自身も、あ、そういえばそうだったなってくらいだったよ?
    あの1年前の…ミサトさんの言葉を聞くまではね。完全に頭から消え去ってた

B   『20歳になったら、ユキはケントの妃となる』ってね

D   んで… それが… もう明日で、1年経っちまうんだよな…早いもんだ。
    王国の婚礼の儀は、お互いの年が20歳を迎える時、剣による誓いを立て、執り行われる。
    だから、さっき、その前にって思って、王子に言おうとしたんだろ?お前

B   …ご明察

D   焦ってんの、丸分かりだよ

B   そりゃ… 焦りもするだろ?俺たちのこと… 言わなきゃいけないんだから

D   今でもちょこちょこユキと二人きりで、会ってるのも知ってるぞー?

B   …え?

D   ばれていないとでも思ってたのか?
    多分、王宮の侍女達みーんな知ってるぞ?
    お前達の引き裂かれた恋の話で、あいつら盛り上がってるくらいだからな!

B   そんな?皆知ってるのか? …じゃあ、もしかして… 王子の耳にも…

D   …かもな? 今はただの噂話ってことで聞き流してくれてるのかもしれないけど…
    馬鹿正直なカズヤのことだからな。
    今言ったら、お前、人生おしまいだぞ?
    分かってんのか?

B   それは… 覚悟している

D   ぜってーそんなことしたら、国に消されるぞ?
    それでも、それなのに、言う気なのかよ

B   このまま… 嘘つき続けることは… 良くないと思うから…

D   ……。馬鹿正直な性格は、お前のすごーい良い所だとは思うが。
    リスクしかねーじゃん、それ

B   リスクかどうかは、伝えてから分かることだろ

D   …止めても、無駄だな。そーんなにいいのか?
    あのおっちょこちょいの姫さんが

B   …ユキは僕の大切な人なんだ。
    でも、もう… 王子の妻となる人になってしまった。
    国を導く一国の姫様になる人だ

D   でも、その様子だと… あきらめることも、できねーんだろ?

B   …

D   あーあ… 本当に、馬鹿だな…お前

B   ………今晩の… ユキの誕生日の前に… 言うよ

D   …そっか

B   止めないのか?

D   止めても無駄だろ? だったら仕方ないだろー?
    だったらせめて… 最後までお前の行く末を、俺も見守ってやるよ

B   …そっか…………。ありがとな

D   …ばーか。骨ぐらいは拾ってやるさ。
    だから…お前の思う様にやれよ。…後悔のないようにな

B   ああ… そうするよ

A   ………。
    やっぱり、あの子の所へ行くのね。……カズヤ

E   あ! ミサトさん! こんな木の陰で何してるんですか? …ん? そっちに誰かいるんですか?

A   あら…ユキ。…さっきまではいたみたいだけど、もうどこか行ったみたいよ?

E   あ、そうなんですか。声が聞こえたから… てっきりカズヤたちがいたのかと…

A   …カズヤと会いたかったの?

E   え?! …いえ… その… ほら? さっきヨシテルに助けてもらったの、ちゃんとお礼とか言ってなかったなーって思って!
    カズヤがいたら、ヨシテルも絶対いるだろうし!…だから、その…

A   …そう…。残念だけど、あの二人ではなかったわ。
    城の者たちではあったけど… ね

E   そうですか…。 …あ。…そういえば、ミサトさんは、ここで何をしてたんですか?

A   それは…

E   …?

A   ………外の空気を吸おうと思って、外に出てみたら… 夕暮れの陽が眩しくてね。
    日影で少し休んでいただけよ。
    ……ユキの方は… もう着替えの支度は済んだの?

E   あ、はい。済んでます、服や靴…装飾品の準備はできてるので、後は着るだけっていう状態です

A   そう。なら良かったわ。
    まだ、時間はあるから、今晩のパーティーの準備が終わるまで、部屋でしばらく待っててくれるかしら?

E   そんな! 皆が準備してくれているのに、自分だけのんきに待ってるなんてできないです。
    私も何か手伝いにいきます!

A   …あなたは、この国の王女になるのだから。
    …そんなことは、しなくていいのよ

E   …その話なんだけど、ミサトさん…

A   どうかしたの?
    もしかして、不安になってきたかしら?
    急な話だったから、ユキもまだ、ケントのことそういう風には見れないわよね

E   それも、そうなんだけど…そうじゃなくて!

A   じゃあ… 何かしら?

E   …この… 婚約の話なのですが。
    ………なかったことには、できないのでしょうか?

A   …又、その話ですか。婚前だというのに、そんな戯言は控えなさい

E   私は、本気です

A   ……何度も申し上げている通り、それは無理よ

E   どうしてです?
    …ミサトさんの方が、この一国の王女にふさわしい、風格と知識を備えていらっしゃる。
    それなのに、なぜ私の様な下女に、突然王女になれと仰るのですか?!

A   そう…してくれないと、困るのよ

E   …オトギ国の、ためにですか?それとも…

A   ……とにかく、今晩、12時の鐘がなれば、貴方は20になり。
    この… 剣に誓いを立て、ケントとの婚礼の儀は果たされる

E   それが、婚礼の儀に用いる… 『誓いの剣』なのですか?
    どんな願いも… 叶えることができるという… オトギ国に伝わる伝説の剣…。

A   この剣に誓いを立て、純なる魂を持つ者、願いを望みし時、成就する

E   ですが、私は!!

A   王の姉としての命令です!
    …この様な言い方はしたくないけれども…利巧に生きる方が賢明よ?
    大切な、お友達を失いたくないのならばね

E   !!…私に、考える余地はないということですね。
    …………わかりました

A   …いい子。
    大丈夫、全てがうまくいくわ…。
    それじゃあ… 部屋に戻って、髪を結ってあげましょう。
    王子に、より美しく見て頂くために、ね…?

E   …


***


C   あら、ようやくお越しになったのね。
    姫様というご身分ですから、時間は無限にあるとお思いなのでしょうね?
    …それにしても、前夜祭にしては、衣装が地味じゃありませんこと、姫?

E   そうかしら…?
    私にとっては、十分すぎるほど豪華なものを着させて頂いているわ

A   前王女からの由緒正しき婚前衣装だけど、サエはお嫌いかしら?

C   !! 失礼いたしました!
    あの… っ… ユキの顔が地味だから、そう見えていただけですわ!ふんっ!

E   サエ…。
    以前は、仲良くしてくれていたのに。どうして…

A   気にしないでいいわ。
    貴方と離れるのが寂しいだけよ

E   寂しい…。
    そうだったのですか、道理で…

A   サエとも関係が変わるわけですから、毅然として接するのですよ。
    侍女風情に足元みられては、国を率いることはできませんからね

E   …それは…。
    サエとは、友人ではいられなくなる…という事、ですか?

A   主従関係を崩すと、全てが崩壊するの。
    貴方も、じきに分かっていくわ。
    …あら? カズヤに、ヨシテル。
    ちょうどいいわ、こちらへ

E   カズヤ…

B   姫様…お綺麗な姿で…。
    今宵のめでたき日に、僭越ながら祝辞をお持ちいたしました

E   …祝辞? …貴方…が?

A   私が頼んでおいたのよ。
    カズヤは、貴方の最も信頼していた人でしょ?
    これにふさわしき逸材だわ

E   …本当に?

B   …この様な采配に、恐悦至極に存じます

E   …そう

D   俺は王子様の護衛ですよ。さぁ、王子。こちらへどうぞ

E   ケント…

F   美しい… 桜の木の下で、さらに美しさが際立ち、真の輝きを魅せているようだ

E   …

A   あら、照れてるのかしら。
    これから夫婦となるわけですから、もう少し柔和な表情をなさい?ユキ

E   まだ、少し、時間はあるのかしら…?

D   後、数分ほどでしたら

E   少し、カズヤと話をさせて頂けませんか?

B   姫?!

A   婚礼の儀の前に、まだ貴方何を…言って…

F   良いだろう

A   ケント?

F   二人の好きにさせてやれ

A   ですが…!

E   それでは、少しお時間頂きます、カズヤ

B   あ、はい… 失礼します

C   …

A   ……何を考えてるの、貴方?
    あの二人の仲を存じているのでしょう?
    なぜ、この様な機会を与えるのです

F   王子と姫は、幸せに暮らすのでしょう?
    …今は亡き父上と母上から、何度も聞かされました。
    それが、この世界の…オトギノ国の理なのでしょう?
    僕とユキは、王と姫… 夫婦となる。
    ………だったら、何も心配すること、ないじゃないですか?

A   それは…

F   待ちます。
    姫が、ユキが僕を見てくれるまで… いつまでも待ち続けます

A   …そんなの、待ってられないのよ…。
    だから私は、お父様とお母様を…

F   ??
    何か言いましたか、姉上

A   いいえ…何でもないわよ…

F   …?


***


E   ……

B   …姫……、姫!
    なぜこの様な事をなさったのですか!

E   その呼び方やめて

B   っ… ですが!

E   私には名前があるわ。
    昔から貴方が呼んでくれていた大切な名前。
    …忘れてしまったの?

B   …忘れるわけないよ…… ユキ

E   カズヤは… 私のこと嫌い?

B   そんなこと! …あるわけないじゃないか!

E   だったら、どうして祝いの言葉なんて… 言うの、よ…

B   それは…

E   …

B   貴方の幸せを… 本当に願っているから、そうするしかないって…

E   カズヤの幸せは?

B   え?

E   カズヤは私がいなくても、平気なの?

B   それは…

E   私は、カズヤがいない世界なんて、嫌

B   私はお側にいます。
    今までとは関係は違えども、近くで姫としての貴方をお守りすることはできます

E   違う!! そうじゃない!
    そんな形を望んでるわけじゃないの!
    …私は、貴方と一緒に… 居たいだけなのに

B   私だって!! …私、だって…… 本当は伝えたい。
    でも、ここはオトギノ国、そんなこと…ありえないんです。
    私達は、決して一緒になることはない。
    世界の理どおり、王子と姫は…幸せに暮らさなければ、いけないんです…

E   そんな答えが聞きたいんじゃない!
    …私は、カズヤの、本当の気持ちが聞きたいの。
    カズヤが、私のことをどう思っているのかが、聞きたいの…!!

B   私は……

D   タイムアップ!
    …時間です、お二人さん

B   ヨシテル?
    聞いていたのか…

E   …私…先に行きます

B   っ姫!!
    ………姫、様…

D   ……そこは… ユキって呼んでやれよ…。
    まだ…今なら連れ戻せるぜ?

B   …………無理だ。情けないよな?
    あれだけ、決意したつもりだったのに…、奪い去るつもりだったのに… 足が震えて… 勇気が出ないんだ。
    王子にも… ユキにも、本当のこと話せないまま… 何も、できなかった。
    やっぱり俺には、無理なんだ… 俺なんかには…!

D   そっか…………… 残念だよ。カズヤ

B   ………

C   …あら。誰かと思えば… と言いたい所ですが。
    先ほどの二人の様子、失礼ながら… こちらから覗かせて頂いていましたわ。
    …カズヤさん、時間ですわよ?
    …その様な顔じゃ、見送れるものも見送れませんわ

B   サエ、か…

C   せっかくのチャンスでしたのに…。
    ユキはいつも、貴方に想いを伝えていたのに… 貴方は、最後まで、ユキの手を握らなかったんですね?

B   僕には、そんな権利なんて… ない

C   ………ふぅー……。私もね?
    私が、王子と一緒になれば…お二人は幸せになれると思って、がんばってみましたけれど、全然だめでしたわ。
    所詮、侍女風情には、王女の玉座は手が遠すぎたみたい

B   …え?

C   私は、あなた方二人の幸せそうに話す姿が好きだった。
    ユキが…貴方と一緒にいると、本当に嬉しそうに笑顔を見せるのだもの。
    城に連れて来られてからのユキしか、私は知らないけど…。血も繋がっていないのだけど…。
    私にとっては、ユキは…本当の妹の様に、大切に想ってた。
    いつもカズヤさんの話ばかりしてましたわ。でもね? 悩んで、泣いている姿も間近で何度も見てきました。
    あきらめなさいって私は何度も言ったわ。あなたは王女になるために連れてこられた身なんだって。
    …でもね、ユキは希望を捨てなかった。
    だから、私も、ユキの願いに…理想に近づけるよう…がんばってみようって思いましたの。
    それで、私がユキの代わりにお姫様…、王女になれればって思って… 必死にやってみましたけど。
    所詮小さな足掻きですわよね。何も変えることなんてできなかった。少しの波風も立ちませんでしたわ。
    ほんと情けない話ですわよね…?
    …私は、ユキに… ただ幸せになって欲しかっただけなのに。
    …でも、それも叶わないようね

B   サエ…。…ユキのために、そんな事を考えていたのか…?
    それなのに、僕という奴は…。
    どうして、あの手を握ってやれないんだ… 何もできないんだ

C   ただの泣き言なんて聞きたくもないですわ…。
    でも結局、私も、何もできなかった。…同情、なのかもしれません。
    …だから、今はほんの少しの間だけ… 側にいてあげる。
    涙を拭きなさい、そして、私達には何も変えることができなかった現実に、共に向き合いましょう?

B   せめて、最後、だけでも… 良い表情で見送らないと…

C   そうね…。良い心がけだと思うわ。
    …12時の鐘が鳴る前に行きましょう。
    …ミサトさん達も待ってるわ

B   はい… 分かりました


***


A   …良かった、皆戻ってきたわね。
    ……それじゃあ、式を始めるわよ

B   お待たせしてすみません

A   カズヤはここに。
    ケント、ユキはここで

E   …はい

F   ユキ

E   …何?

F   戻ってきてくれてありがとう

E   …

F   実は… 不安だったんだ。
    あのままカズヤの所に行ってしまうんじゃないかって…。
    試す様なことをしてすまないね

E   …ごめんなさい

F   いいんだよ

E   …本当に、ごめんなさい

F   ……ユキ?

E   …っ!!

A   え?

C   え! 何ですの… それ? その手に持ってるものは…

B   姫様! 一体何を…

E   動かないで!!

F   っ… その剣は!

A   婚礼の儀に用いる剣を… あなた… いつのまに?!

D   気は確かか…? ユキ?

E   いつも通りの私よ。
    何も問題ないわ

F   どうするんだ…? その剣を誰に向ける気なんだい?

C   あなた… 大事な婚前式なのよ?
    そんなものを手に持って、こちらへ向けて… 何をしてるのか分かって?!

E   大丈夫。…安心して。分かってるよ。サエ

C   ユキ…? あなた… どうして…?

E   分かっているから……… こうするの!!

A   !!

C   え?!

D   剣を自分に向けた?!

F   ユキ… どうして…

B   やめてください!

E   私は… 私はお姫様になんかなれない… 王女にはなれない!
    こんな所に、いたくない!!

F   …本気… なのか?

E   わがままでごめんなさい。
    でも、心が囚われたまま生きるなんて、私には無理なの

B   姫… お願いだ。
    その剣を… 僕に渡してくれ

E   それは、できないわ。
    ごめんね… カズヤ

A   おやめなさい!
    …落ち着いて、こちらへ戻ってきて? …そんなことをしたら、全てが台無しよ!

E   私は、オトギノ国のお姫様になれない。
    私は… 私は、ただの女の子になりたい。
    …カズヤのそばにいたいの

B   ユキ…

E   次、生まれ変わったら… 幸せに…なろうね?

B   !!
    やめろ…

F   やめろ!! ユキー!!!!

E   !! …っ ……

(鐘の音)







F)   雪は自らの胸に、剣を突き立て、命を絶った。
    …そうして、世界は幕を閉じた様に、暗くなり、深い闇に沈んでいった…



後編へつづく…
     
 
           
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